もう何度も何度もこのBlogに書いていることだが、わたしがこの世で最も好きな小説家は、ダントツでStephen King氏である。そしてこれも何度も書いているが、そりゃあ、たまに、「これは……ちょっとなあ……」と思う作品もなくはない。が、それでもダントツに、わたしはStephen King氏の作品が大好きである。
 というわけで、先日、朝、新聞を読んでいたところ、わたしの嫌いな出版社のTOPクラスである文藝春秋より、いきなり文庫で新刊が出ることを発見した時のわたしの喜びは極めて大きく、くっそう、文春め、誉めてやってもいいぞ、と極めて上から目線で思い、発売日に即、本屋さんへ出向いて買って来たのである。
 その新刊のタイトルは『JOYLAND』。日本語タイトルもそのまま「ジョイランド」である。わたしはこのタイトルを見て、おっと、こっちが先に出るんだ、と大変うれしくなった。
ジョイランド (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
2016-07-08

  というのも、この作品がUS本国で刊行されたのは結構前で、2013年のことである(執筆されたのは2012年らしい)。しかも、珍しく「ペーパーバック」描き下ろしであり、ハードカバーは後に出るという珍しい展開であったし、この作品の後に出た(と思われる)『Dr. Sleep』の方がもう日本語訳が発売になっていたので、次に日本語で読めるのは、『Dr. Sleep』の次に書いた『Mr.Mercedes』の方かと思っていたからだ。まあ、ペーパーバック書き下ろし作品だから、文春も気を利かせて文庫で発売したのではないかと思うが、大変分かっている配慮であり、これは悔しいが誉めてしかるべきだろう。文春よ、お前、分かってるじゃあないか、と。しかも、帯の表4(背中側)には、「近刊予告」として、『Mr. Mercedes』も「2016年晩夏に日本上陸!」とあり、実にファンを喜ばせる、大変うれしいお知らせ付きである。つか、「晩夏」っていつなんだよ!? と担当編集を軽く問い詰めたい気分だ。9月まで出なかったら許したくないですな。
 ま、『Mr. Mercedes』に関しては、King氏初の3部作シリーズであり(USではもう3部作全部刊行済み)、初のハードボイルド・探偵モノであり、期待は高まるばかりであるが、詳しくはその「晩夏」以降語ることとしよう。まずは、本作『JOYLAND』である。

 ところで。実はちょっと前、たしか6月の終わりごろ、わたしの愛する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERで、なんか面白そうなのねえかなあ……と探している時に、文藝春秋からKing氏の作品が結構な数で電子書籍化され販売が始まったことを知った。わたしはそれを発見した時、うぉっと!! マジかよ!! と、とりあえず全てカートにブチ込んでやったのだが、実はまだ買っていない。まあ、50%コインバックとか大きなフェアの時にでも買うか、と保留してしまったわけだが、今回の新刊が出るという告知を新聞で見て、すぐさま、電子でも買えるのかしら? と思ってチェックしたところ、影も形もない。なーんだ、新刊はお預けかよ!! と若干イラッとしたが、ことKing氏の作品ならば、電子での発売まで待てるわけがない。すぐさま、紙の本で購入である。
 そして読んだ。一気に読むのがもったいなくて、ちょっとずつ、と思っても、3日で読んでしまった。そしていつも通り、大変面白く、やっぱKingは最高だぜ、というのが本作の結論である。非常にいいすね、本作も。
 お、King氏が本書について語っている動画があったから、とりあえず貼っとくか。

 さて。
 本作『JOYLAND』は、久しぶりにKing作品としては短めだと思う。そして、久しぶりに「スタンド・バイ・ミー」的な、70年代を舞台にした昔の回想録である。もちろん、King氏特有のSuper-Natural要素もあって、ラストではきっちりそれが効いてくるが、基本的には穏やかな、そして珍しくミステリー要素も持った作品で、なんとなく新鮮に感じられた。へえ、こういう作品もアリなんだなあ、とKing氏の脳みそにはまったくもって脱帽である。なお、今回は、わたしが大好きなDirty Wordはほとんど出てこない、大変「優しい」お話であった。
 物語は、1973年のノースカロライナの海辺(要するに東海岸で、フロリダより全然北でDCやリッチモンドより南)が舞台で、主人公は(King作品なら当然のことながら)メイン州出身で、21歳、ニューハンプシャー大学の学生さん(3年生か?)であり、ちなみに童貞である。彼は、彼女と早く「あれ」をしたくてたまらないのだが(※作中で「あれ」と表現されている。さっき、英語Kindle版のプレビューを観たら、「It」と表現されていた。「IT」はKingファンには特別な意味がありすぎますな!!)、ずっとじらされていて、未だ童貞であると。そんな彼が、大学の食堂でバイトしている時に、ひょんなことから「JOYLAND」というノースカロライナの海辺にあるちょっと古くてボロイ遊園地の夏のバイト募集告知を見かけ、応募するところから物語は始まる。
 曰く、
 ――1行めにボールド書体で、天国の近くで働く!とある。これを読んで釣られない英文専攻の学生がいるだろうか。彼女を失うかもしれない恐怖に苛まれた暗い21歳が、歓喜の国(ジョイランド)という名の職場で働くことに魅力を感じないものだろうか――
 というわけで、主人公は、最近どうもつれない彼女がボストンでバイトをするといっているので、じゃあどうせ夏を一緒に過ごせないなら、オレはコイツに行ってみよう、と思うわけである。なお、物語は現在60歳を超えた主人公が、21歳の忘れられないあの1973年の日々、を回想している形式になっている。2013年の刊行だから、40年前、ってことですな。
 で、主人公は、「JOYLAND」で生涯の友を得たり、離れている彼女にはあっさり振られたり、青春の思い出を過ごすわけだが、その描写が非常に美しく(?)、面白く、実に痛くて(何しろ童貞なので、振り返ると大変痛くてほろ苦い)、大変好ましい空気に包まれている。また、「JOYLAND」も非常に雰囲気が良く、おそらくアメリカ人が読めば誰しも子供時代の原風景として感じられるような、うらびれた遊園地だ。そんな職場で、主人公は、友と毎日を忙しく過ごし、ベテランのおっさんたちとも仲良くやり、そして「JOYLAND」のマスコットキャラの着ぐるみを着て場内を練り歩く仕事で暑くて死にそうになりながらも、子どもたちの心からの笑顔で癒されながら、生涯忘れなられないバイト生活を楽しむ。とあるおっさんが、「オレたちの売り物は、喜びさ!」的なセリフを言うのだが、主人公はその言葉を実感として理解するわけで、毎日何のために働いているのか分からないリーマンには実に心躍るセリフだと思う。そういう仕事が一番ですよね。また、主人公が、着ぐるみのまま、そのキャラに大興奮しちゃったせいでホットドックのソーセージを喉に詰まらせてしまった少女を救うシーンなんて、非常にKing作品ぽくて最高である。スポーーーン!! と抜けるソーセージにわたしは非常に笑ってしまった。
 そして物語は後半、夏が過ぎ、バイト仲間たちも学校に戻り、「JOYLAND」もすっかり客足が途絶えた季節に移る。主人公は彼女に振られ、その傷心を引きずっていて、「JOYLAND」に留まって機械類のメンテナンス要員となる。そして、毎日通う道すがらで出会う、豪邸に住む男の子とその母親と知り合う。男の子はとても人懐っこいが、筋ジストロフィーで車椅子生活であり、母親はどうやら地元では「氷の女王」と呼ばれているような人を寄せ付けない人物だ。そして愛犬のジャックラッセル・テリア。この二人と1匹と徐々に心を通わせる主人公、という展開なのだが、とにかく主人公は、いい奴で、とても気持ちがいい。童貞だけど。
 で、問題はその車椅子の男の子である。ネタバレかもしれないが結論から言うと、彼はどうやら、King用語でいうところの「The Shining」=「輝き」能力があるようで、「JOYLAND」で噂になっている、かつて「JOYLAND」で発生した殺人事件とその被害者の幽霊が出るというお化け屋敷について、何かを感じているらしいことが描かれる。このお化け屋敷に出るという噂の幽霊話は、実は冒頭からずっと語られているのだが、主人公は観ることができない。が、友達は目撃してしまい、だからこそさっさと学校へ戻ってしまったのだが、後半から、学校へ戻った友達にその殺人事件をいろいろ調べるようにお願いしたり、ちょっとしたミステリー風味も加わって来る。
 全然調べていないけれど、この「輝き」能力を持った少年は、ひょっとしたら『Dr.Sleep』にもちらっと出てきてたりするのかな? あり得るけど、ま、調べるのがめんどくさいのでべつにどうでもいいや。大変賢く、非常に気の毒な少年でした。また、母親も、ツンが解かれてややデレになっていく展開もとても良かった。童貞野郎としては、年上の美しい女性、なんてもう最高でしょうな。非常に各キャラクターも良くて、大変楽しめた。まあ、殺人事件の犯人捜しの展開は、若干想像できるしやや急ではあるけれど、わたしは十分アリだと思います。
 というわけで、最終的に殺人事件の謎は解かれ、また、主人公を少年の能力が救い、万事 収まるところに話は収まる。少年を「JOYLAND」に連れていくシーンや、ラストのエピローグは、大変ジーンとくる感動というか、グッとくるものがあって、わたしはとにかく大満足で本書を読み終わりました。いやー、やっぱりStephen Kingはいいですね。最高です。

 というわけで、結論。
 わたしがこの世で最も好きな小説家は、ダントツでStephenKing氏である。そして日本語で読める最新刊『JOYLAND』は、いつも通り大変楽しめた。ただまあ、いつもの激しいというか、すっげえ展開のKingではなく、『スタンド・バイ・ミー』的な優しい白King作品なので、黒King好きには物足りないかもしれない。そういう方は、もう永遠に『The Stand』辺りを読んでいればいいと思います。そしてこの作品は、King初心者にも十分楽しめる作品であり、万人にお勧めできると思います。最高です。以上。

↓ 早く日本語で読みたいですなあ。文春が気合を入れて8月中に出版することを祈ります。「晩夏」じゃねえっつーの。
Mr Mercedes
Stephen King
Hodder & Stoughton Ltd
2014-06-03

↓ そして文春よ、こっちの日本語出版権も取得するんだ!! 小学館じゃダメだよもう……