以前、ここで、わたしがいつもチェックしている映画予告編を集めたポータルサイト「Traileraddict」のことを紹介したことがあったような気がするが、2014年の初めのころ、このサイトで見たとある映画の予告編がちょっと気になっていたものの、一向に日本公開される気配がなく、完全に記憶から消滅していた映画があった。まあ、そんな風に、Traileraddictで観て、うお、なんか面白そうと思っても日本公開されない映画は山ほどあるのが現実である。
 しかし、その映画は、去年2015年の5月に、ぽつんと日本公開されるに至り、わたしも日本版予告編を見て、あれっ!? これ知ってるような……ああ、あれだ!! と思い出した。なので、さっそく観に行くか、と思ったのだがいかんせん公開スクリーン数が少なく、東京ではあっさり劇場公開が終わってしまって、まあしょうがない、WOWOWで放送されるのを期待しようと思っていたところ、去年の9月に鹿児島を旅した時に、夜予定が狂ってヒマになってしまい、じゃあ映画でも観るかと天文館に行ってみたのだが、そこでこの映画が上映されているのを発見して、おお、マジか!! と思ったものの……結局その夜は、これまた東京で見逃していた『CHILD 44』も上映していたので、結局そちらを観ることにして、結局、今日これからレビューを書く映画は見逃していたわけであります。
 はー……我ながら長い文章。こういうのを駄文と言いますね、おそらく。 
 で。その映画のタイトルは『THE SIGNAL』。邦題はそのまま『シグナル』である。先日やっとWOWOWでの放送があったので、おお、やっと来たか、とさっそく観てみたのだが、観終わって言えることは、お話的にはちょっとこれはアカン奴や、という程度のものであったものの、かなり映像のセンスは良い、と思える作品であった。

 まずは予告編を観ていただきたい。どうだろう、結構面白そうに観えませんか?
 物語は、まあほぼ、上記の予告編で語りつくされていると言っていい。ニックとジョナという二人の男子大学生。彼らはMITの学生らしく、かなりITスキルが高く、なかなか頭がいい。そんな彼らの通うMITのサーバーに、NOMADと名乗るハッカーがMITのサーバーに侵入してきて、何かと挑発的な言葉を残す事件が起こったらしい。二人は、ニックの彼女のヘイリーが西海岸に引っ越しをすることになったため、彼女の車を運転して引っ越しを手伝い、見送りながら、ついでにNOMADを追跡してみようと車を走らせる。そして西海岸へ向かう道中、あまり気が進まない彼女とともに、ここがIPアドレスの示す土地か? と思われるネバダ州のとある廃屋までやって来る。どう見ても完全に廃屋で、人が住んでいる気配はない。彼女を車に待たせて、廃屋の中を捜索する男子二人。その時、彼女の悲鳴が!? なんだなんだ!? と慌てて外に出る二人。しかしそこで二人の記憶は途切れる。――はっ!? と気づくと、ニックはなにやら謎の施設? 病院? で車椅子に座らされていた。ここは一体? ジョナは? ヘイリーは? そして、なんでオレ、車椅子? 全然足の感覚がないんだけど? とまどうニックの前に、全身防護スーツを着込んだ怪しいおっさんが現れる。そのおっさんから語られたのは、「キミは地球外生命体と接触し、感染している」という衝撃の事実だった。そしてニックの足は、既に――とまあこんなお話です。

 まあ、お話的にはいわゆる「アプダクション(=第4種接近遭遇)」モノとしてありがちだし、正直オチもイマイチなので、もはやその辺は触れないけれど、この映画の最大の見所は、その映像であろうと思う。ただ、演出が若干素人っぽいので、やや飽きてしまうのだが、シーンごとの「画」のセンスは非常に観るものがあると思った。CGの質感も極めて高い。上記予告でも、それっぽいシーンが結構あるでしょ? 大変良いと思います。
 公式Webサイトには、<『第9地区』『クロニクル』を凌ぐ、SFスリラーの傑作>なる惹句が誇らしげに掲載されているが、まあ、凌いではいないと思うな。ただし、同等(あるいはもうチョイで同等)、ぐらいのCG力はある。確かにわたしも、観ながらこのCGの質感は『第9地区』のCGに近いな、と思っていたので、まさか公式サイトで「凌ぐ」とまで謳っているとは思わなかった。非常に本物っぽい、レベルの高いCGだと思う。この監督は、演出はともかくとしても、画はセンスアリ、だと感じた。
 なので大変気になって、この監督は何者なんだ!? と調べてみた。
 監督はWilliam Eubankという1982年生まれの現在33歳の小僧らしい。うーん、知らん。英語版Wikiによると、どうやら撮影が専門のようで、まだ監督はそれほど経験がないようだ。なるほどね、「画」のこだわりはそういうことかと納得である。全然関係ないけど、日本のMIKASA(=知ってるかな? バレーボールの球を作ってことでお馴染みの会社。世界的に有名)のCMを18歳の時に撮ってるらしい。へえ~。まあ、いずれにせよ、やっぱり「画」には大変こだわりのある小僧なのだろう。ちょっと名前を覚えておくことにしたい。
 役者は、主人公ニックを演じたのがBrenton Thwaites君26歳、その友達で眼鏡のGeek青年ジョナをBeau Knapp君26歳、そしてニックの彼女ヘイリーをOlivia Cooke嬢22歳がそれぞれ演じている。が、残念ながらみな知らない若者たちだ。それぞれも調べてみると、そうやらまずBrenton君は、かの『Maleficent』で全く役に立たなくて空気だったフィリップ王子を演じていた彼だそうで、全然そんなこと忘れていたというか分からなかった。彼は、どうやら次の『Piretes of the Caribbean』にジャック・スパロウ船長に次ぐ主役級で出演するみたいですね。意外と期待の若者なのかもしれない。で、次にBeau君は、かのJJ.Abrams監督作品『SUPER 8』に出演していたらしいが、サーセン、もう、どの役だったのか、さっぱりわからないです。そして最後、ヒロインのOlivia嬢は、今までどこでも出会ってないようですな。それなりに出演しているようだが知らない作品ばかりだ。
 こんな若者ぞろいの中にあって、一人、異彩を放つ怪しい防護服のおっさんを演じたのが、Matrixシリーズのモーフィアス役でお馴染みのLaurence Fishburne氏である。最近ではBatman v Supermanにも、クラーク・ケントが勤務するデーリー・プラネットの編集長でもお馴染みですな。相変わらずの怪しさと雰囲気は大変貫禄がありました。正直いつも通りの芝居ぶりであったが、彼の芝居ぶりはこの映画の質をちょっとだけ高めることに貢献していると思う。悪くないですね。
 まあ、この作品は、予算400万ドルの低予算作品である。しかし、だ。日本で予算約4億円でここまでの映像を撮れる才能は存在しているのだろうか? この予算で、このCGの質感を日本で出せる人はいるのか? と考えると、この映画をそう簡単につまらんと切り捨てるわけにもいかないような気がします。まあ無理だろうな、日本では。物語がもう少ししっかりしていれば良かったのだが、まあ、物語としてのこの作品にキャッチコピーを付けるとしたら、「ぼくは戦う――きみを守るために。」みたいな、ラノベ中2的なものの方がいいと思いますね。そういう意味では、物語力は日本は決してUS作品に引けはとっていないと信じています。

 というわけで、結論。
 監督も役者も、全然知らない若者たちで作られた本作は、とにかく物語的にかなり物足りないというか、もう少し中2成分を増量して、ドラマチックに展開できたのではないかと思うものの、その芝居ぶりは決して悪くないし、映像的には非常にクオリティは高いと思う。悪くないじゃん、と言うのがわたしの感想であります。ただまあ、映画オタク向けで、普通の人が見たら、たぶん、ポカーン……となることだと思います。以上。

↓ MIKASAと言えば、これっすね。