もはやお約束だが、わたしの記憶力は年々低下の一途をたどり、本当にこれはもう病気なんじゃねえだろうか、と大変自分が心配でならないのが、40代後半となってしまったわたしの現状である。なので、なるべくせっせと記録を残そう、というつもりでこのBlogも存在しているわけだが、昨日の夜、これまた例によって例のごとく、何もすることがなくもう寝るしかねえな、という想いを抱いたのが20時半ごろで、この時間に寝てしまうのも老人めいているし、じゃ、映画でも見よう、とHDD内の一覧を見てみたところ、つい数日前に、『MAGGIE』(邦題はそのまま「マギー」)なる映画が録画されているのを発見した。全く記憶にないそのタイトルに、わたしは冒頭に記したように、オレはもう病気なんじゃねえかと深刻に疑ったわけだが、ま、とりあえず再生を開始してみた。
 すると、再生2分で、あ、これか、そうか、やっとWOWOWで放送されたんだ、と、この映画のことを思い出した。
 というわけで、『MAGGIE』という作品は、↓こんな映画である。

 わたしはこの映画の予告をだいぶ前にUS版で観て、これはまた、なかなかすげえというかシブイのが来たな、と思っていたのだが、そのまま忘却の彼方に埋もれ、日本で公開されたことすら気が付かなかった。どうやらUS公開が2015年の5月で、おそらくその前後にわたしはUS版予告を観たのだと思う。そして日本では2016年2月にごく小規模ながら劇場公開されていたらしい。へえ~。全然知らんかった。
 で。物語は、ほぼ上記予告から想像できる通りである。以下結末まで書くのでネタバレが困る人は読まないでください。
 THE NECROAMBULIST VIRUS(字幕では「腐歩病ウィルス」と訳されてた)なるものが蔓延し、感染者を隔離することで、かろうじて文明は保たれているが、街中には感染者として末期症状のゾンビが徘徊しており、極めて危険な状況に陥っている。そんな中、娘のマギーが感染してしまった主人公は、果たしてマギーを隔離所へ引き渡すことができるのか、あるいは、自らの手でゾンビと化したマギーを殺すことができるのか? そんなある意味究極の選択に立たされた男のお話である。
 この物語において、わたしが面白いと思ったのは、感染者が「徐々に」ゾンビ化していくという点であろう。どうやらゾンビに噛みつかれるとそこから「腐歩病ウィルス」に感染するようだが、噛まれて即座にゾンビになるわけではなく、実にゆっくりと、少しずつゾンビになっていくのだ。
 そのゆっくりぶりが、主人公にとっては非常につらいわけで、治療の可能性がなく、噛まれた時点でもうアウトなのに、まだ意思疎通もできるしまったく人間性を失っていないマギーを、放っておけるわけがない。しかし、「その時」は確実に近づいているわけでーーーてなお話である。
 どうやらこの映画、RottenTomatoesでもMetacriticでも、評価としては残念ながら低い。また興行面でもどうやらUS国内ではごく小規模上映しかなされず、まったく売れなかったようだなのだが、わたしの結論をズバリ言うと、結構面白かったと思う。そして、やっぱり見どころは、やけにくたびれたおっさんを演じたArnold Schwarzenegger氏と、ゾンビ化してしまう娘を演じたAbigail Breslin嬢の魂のこもった熱演であろう。いいじゃないの、とわたしは大層気に入ったのである。
 まず、悩めるお父さんを好演したSchwarzenegger氏は、現在もうすでに69歳という年齢になってしまったわけだけど、まあ、苦悩が顔ににじみ出ているというか、とても味がありますよ。また、娘マギーを演じたAbigail嬢も、複雑な役を見事に演じきったと思う。
 ただ、本作は、いわゆる「THE BLACK LIST」(=ハリウッドが注目するまだ製作の決まっていない脚本のランキング)の2011年版に載った脚本なのだが、わたしとしては以下の2点において、若干微妙だなあ……と思った点がある。
 1)マギーよ、お前なんで感染したんだ……
 マギーは、どうやら一時家出していたらしく、危ないと外出禁止令も出されているのに、のこのこ街へ出かけて噛まれてしまったようなのだが、その家出の理由は、明確には示されない。どうやら母は既に(ウィルス拡散以前に)亡くなっていて、継母と父との間にできた二人の幼い弟と妹がいるのだが、その関係は表面上は全く問題ないけれど、どうも、マギーの心中は、思春期の少女にありがちな複雑なもので、家出の背景にはそういう感情があるようだ。ーーてなことを感じさせるのだが、それを感じさせるのはあくまでAbigail嬢の演技が素晴らしいからであって、脚本的には非常にあいまいというか、明確ではなく、なんとも雰囲気重視で微妙であった。
 2)最終的な結末の微妙さ
 本作のエンディングをズバリ書いてしまうと、父はどうしてもマギーを殺すことはできず、自らマギーに殺されることを願う、が、わずかに残った人間の心で、マギーは父の額にそっとキスし、一人、自ら命を絶つ、という実に悲しいエンディングであった。しかし、このエンディングも、あくまでSchwarzenegger氏とAbigail嬢の演技が大変すばらしいからこそ美しいのだが、物語としてはかなり微妙なエンディングだ。お父さんよ、あんたは食べられちゃえば済む話かもしれないけど、その後凶暴なゾンビになっちゃったマギーをほっといていいのかという気がするし、一方でマギーの自殺の方法も、映像として美しいけれど、微妙に説得力がない。ゾンビなんだから、あれで死ぬとは思えないというか……うーん……とにかく、脚本がちょっとアレですよ、これは。
 おそらくはそういった微妙な点が、US国内での低評価に影響しているのだと思うが、何度も言う通り、二人の演技ぶりは大変すばらしかった。ま、Schwarzenegger氏はもういまさら説明する必要はないと思うので、Abigail嬢に関してだけ、少しメモを残しておこう。この方は、若干10歳でアカデミー助演女優賞にノミネートされた実力派である。わたしはその作品『Little Miss Sunshine』は見てないんだよなあ……ま、写真を探してみると、大変かわいいちびっこである。しかし、それからこの映画が作られるまでに9年が経過しているわけだが、現在のAbigail嬢は……ええ、ズバリ言おう、全く可愛くない。強いて言うならブサカワであろう。なので、わたしは全く彼女が何者か気が付かなかったのだが、実はAbigail嬢は、結構多くの作品に出演していて、わたしが驚いたのは、かの珍作で名高いM・Night Shyamalan監督の『SIGNS』に出てきたあのちびっこですよ。当時5歳か。そして、先日アカデミー主演女優賞を受賞したわたしの大好きなEmma Stoneちゃんと共演した『ZOMBIELAND』のあのおませなチビ、リトルロックを演じたのもAbigail嬢であった。当時11歳か? 全然気が付かなかったわ……。まあ、すっかり成長して、残念ながら美女?にはならなかったAbigail嬢だが、演技は本当にしっかりしていて、ラスト、父の額にキスするシーンはかなりグッときましたね。素晴らしい演技だったとわたしとしては称賛したいと思う。
 最後。監督について。監督は、Henry Hobson氏という男で、年齢はわからないけれどまだ若いみたいですな。ほぼ長編映画の経験はないようだが、グラフィックデザイナーとしてのキャリアの方が多いみたいですな。映画やゲームのタイトルデザイナーとしての仕事が結構多いみたい。本作の演出ぶりは、若干微妙だとわたしは判定した。妙なピンボケショットや顔や手など一部分のクローズアップが多い印象で、正直、シャレオツ系・雰囲気系な演出家とお見受けした。だからダメとは言わないが、もうちょっとシャープな方がわたしの好みであると思うけれど、ややぼんやりとした映像は、本作をなんとなくファンタジックな世界観に仕立てあげているとも言えそうな気がしますね。
 しかし……愛する人が死の運命にとらわれてしまったら……おまけに正気をなくしたゾンビになっちゃったら……まあつらいお話ですよ。わたしも引き金を引けたかどうか、相当怪しいわけで、そう共感させてくれたのも、Schwarzenegger氏とAbigail嬢の演技の素晴らしさゆえ、というわけであろうと思うことにします。

 というわけで、結論。
 WOWOWを録画してみた『MAGGIE』という作品は、確かに総合的には微妙作と言わざるを得ないけれど、主演の二人の演技は実に素晴らしく確かなもので、そこまで酷評しなくてもいいじゃん、とわたしには思える作品であった。わるくないじゃん。それがわたしの結論である。以上。

↓ この時のAbigail嬢は大変可愛かった……という記憶があるので、また見てみようかな。確かBlu-rayに焼いて保存してたはず……。
ゾンビランド (字幕版)
ウディ・ハレルソン
2013-11-26