1年ちょっと前に、少しだけ話題になったけれど日本公開時はごく小規模の公開で、それなりにロングランまで引っ張れたものの、日本ではそれほど話題にならずに埋もれてしまった映画がある。まあ、そんな映画は洋画が全く売れない日本では星の数ほどあるわけだが、わたしも公開時に見逃してしまって、WOWOWで放送される日を待っていたのだが、先日やっと放送があり、昨日の夜、ぼんやりと観てみることにした。結果、非常に面白く、役者陣も魅力的で、いつもの通り、ああ、やっぱり劇場に行くべきだったと後悔するに至ったのである。
 その映画は、『Love, Rosie』。日本公開タイトルは『あと1センチの恋』という、ラブストーリーだ。

 物語は、上記の予告でほぼ語り尽くされている。家が通りをはさんだ向かい側、というご近所さんの幼馴染として一緒に育ってきた男女。高校卒業のプロムで、素直に一緒にダンスを踊っていれば良かったのに、お互い言い出せずに別々のパートナーを選んでしまった二人。その結果が10年以上にわたってのすれ違いをもたらしてしまった、という、まあ、ありがちな話である。なので、脚本的な見所は、別々の生活を送る二人の様子と、近づいてはすれ違うもどかしさになるわけだが、これも、実際のところ、ありがちな展開ではあった。
 こういう話だと、わたしがいつも思い出すのは、吉川英治の『宮本武蔵』だ。初めて読んだのはもう大昔だが、あの作品での武蔵とお通さんの、スーパーすれ違いぶりには、読んだ誰しもが、ギリギリとじれったさを感じるだろう。最初の姫路から武蔵とお通さんは一緒に旅に出るはずだったのに、「ゆるしてたもれ」と橋に刻んで一人旅立ってしまった武蔵。そして武蔵を追う旅に出るお通さん。吉川英治『武蔵』は、この二人のラブストーリーが軸にあるから面白いとわたしは思っているが、まあ、現代人感覚で読むと、武蔵の理屈がたまに意味不明というかちょっと笑えて、お通さんが気の毒なこと甚だしい。「ゆるしてたもれ」じゃねえっつーの。
 そして映画で言うと、最近ではAnne Hathaway嬢主演の『One Day』(邦題:ワン・デイ 23年のラブストーリー)なんかが思い出されるが、あの映画はもっと長い期間だし、確か二人は幼馴染ではなくて、大学の卒業直前に出会うんじゃなかったかな。そして、観た人はご存知だと思うが、かなりハードな展開が待っていて、結構哀しいお話であった。『Love, Rosie』と『One Day』のどちらが好きと聞かれたら、わたしとしては非常に悩むが、どちらも甲乙つけがたく、まあ、観たばかりで記憶がフレッシュな『Love, Rosie』を推すかもしれない。
 たぶん、わたしが『LOVE、Rosie』を推すのは、主役二人が非常に魅力的に映ったからというのが一つ、もうひとつは、物語の結末の幸福度合いのわかりやすさ、ではなかろうかと思う。まず女子の主人公、Rosieを演じたのが、Lily Collins嬢。1989年生まれだから今年の誕生日で27歳か。彼女は、かの有名ミュージシャンPhill Collinsの娘さんである。非常に可愛い。10代の素朴な少女から30代近い(?)姿までを演じきっていて、可憐でいてかつ美しく、表情も豊かでとても良かった。特にいいのが、きりっとした太い眉であろう。それなりに今までいろいろな作品に出ているのだが、わたし、ほとんど観たことがないんだよな……なので、名前と親のことは知っていたけど、初めてちゃんと演技している様を観たような気がする。非常に美人で大変気に入った。この映画のプロモーションで、来日もしてるんですな。
 そして相手の男主人公を演じたのが、Sam Claflin君29歳。この彼の印象的な、イケメン笑顔は絶対にどこかで観たことがある、誰だっけ、と思ったら、『Hunger Games』の2作目以降に出てくるフィニック役のあいつだ、と思い出した。口の形に特徴があって、この人の笑顔はかなり印象に残る、大変なイケメン野郎だと思う。まあ、キミもせっかく勇気を出したのに、Rosieはテキーラがぶ飲みして記憶をなくすほど酔っ払って、ぶっ倒れちゃってたからな……もうちょっとだけ、早く男を見せるべきだったけれど、なかなか君は男らしくてカッコよかったと思います。

 しかし、わたしは多くの映画や漫画や小説を読んだり観たりしているわけなのだが、「幼馴染」ってのは現実世界において実在するものなのだろうか? フィクションの中にしか存在しない、空想上の存在、いわゆるUMA的な未確認生命体ではないかとわたしはにらんでいるのだが、もし、本当に、「幼馴染」というものを持つ人がいるなら、わたしは声を大にして申し上げたい。さっさと告白して、幸せにおなりなさい、と。絶対に、相手もそれを望んでいるから、あとはキミのちょっとした勇気だけだぜ、と、おっさんとしてはアドバイスさせていただくッ!

 というわけで、結論。
 『Love, Rosie』という映画は、わたしとしては非常に楽しめた。そのすれ違いの様相は観ていてとてもじれったいけれど、だが、それがいい、のであろう。また、『あと1センチの恋』という邦題も、非常に良いと思った。観ればその意味が分かります。わたしはいつも邦題に難癖をつけるクソオタ野郎ですが、今回の邦題はとってもいいと思う。まあ、ありがちなお話だが、わたしは大変気に入りました。以上。

↓原作小説。小説のタイトルは「Where Rainbows End」っていうんですな。この著者Cecelia Ahernさんは『P.S. I Love You』でデビューしたアイルランド人です。
愛は虹の向こうに (小学館文庫)
セシリア アハーン
小学館
2008-12-05