ずいぶん前、たぶん5~6年前だと思うが、Y君に借りたマンガがある。
 辛気くさいおっさんが、一人で飯を食うだけのマンガで、心の中の声だったり、実際のつぶやきやぼやきだったりを発しながら、まあとにかく、一人で飯を食う、それだけのマンガ。それが、今やすっかり人気マンガとなった『孤独のグルメ』だ。2012年にテレ東で映像化され、主人公・井之頭五郎を松重 豊が絶妙に演じたことで、一気に人気も上がり、ドラマは既に4クール放送されて、さらに今年も10月から、Season5が始まるそうである。も一つおまけに言うと、ドラマ(の大筋というかフォーマット)は中国に輸出されているそうで、中国版もあるそうな。
 まあドラマについては、公式Webサイトでも見てもらうとして、やっぱり本筋は、原作のマンガである。もともと、「SPA!」を出版していることでおなじみの扶桑社の雑誌(と言ってもとっくに休刊)、「月刊PANJA」に1994年から1996年にかけて連載されていた作品なので、もう、20年前の作品である。その、まあ普通の人なら絶対知らないようなマンガだったのが、2009年あたりから「SPA!」でたまーに新作が載るようになり、なんとこのたび、18年ぶりに単行本の第2巻が発売になった。既に、このマンガのファンとなっていた私としては、もはや買わない理由はなく、おとといの発売日に購入した。Y君は電子待ちとのことで、先にわたしが紙の本を買う事にした。
孤独のグルメ2
久住 昌之
扶桑社
2015-09-27

 この「孤独のグルメ」は、何とも説明しにくいので、まずは読んでもらった方がいいと思う。今、2巻の最初の1話が無料公開されているので、こちらをまずは読んでみてほしい
 このマンガ、女子が読んで面白いのかさっぱりわからないが、わたしのようなおっさんや、Y君のようなおっさん予備軍――特に一人飯が普通の男ならばなおさら――には、ジャストミートである。
 たいてい、ひと仕事区切りがついて、お昼に(たまに夕方)「小腹がすいたな」みたいなつぶやきから話は始まる。個人貿易商として営業に回っている主人公が街をうろつき、店を見つけ、入ってみる。そして、店に入ると、次々とオーダーして、結果的にすごい量を食べる。そして、毎回ではないが、かなり頻繁に、食いすぎてしまい、若干後悔する。読者としては、思わず「そりゃあんた食いすぎだよ!」と突っ込みたくなり、つい、クスッと笑ってしまう。それだけの話なのに、こんなに人気になるほど面白いのはなぜか?
 それはやはり、ひとえに主人公・井之頭五郎のキャラクターにあると言ってよいだろうと思う。主人公の五郎について読者が分かっていることは、
 ■個人で貿易商を営み、たまに海外に行く。店はなく事務所のみ。
 ■下戸。酒は飲まない(飲めない?)。
 ■タバコは吸う。
 ■結婚歴はない模様。ただし、昔の恋人(?)は回想でたまに出てくる。
 ■行列は嫌。2巻によれば「食べている時、後ろで誰かが待っているという状態が嫌」
 ■食べたいときに食べる。
 ■姉がいて、その息子「太」は高校球児
 ■たまに喧嘩をする。強い。
 とまあ、こんな人物なのだが、基本的に毎回腹ペコである。まあそうでないと話が始まらないので、そりゃ当たり前だが、その腹ペコ具合がハンパない。ちっとも、「小腹がすいたな……」で済むレベルじゃない。また、「食べる」ことへのエネルギーのかけ方も、またハンパない。彼は、腹が減ると、食べる、という動詞を使わず、何か腹に「入れとくか」みたいなことをつぶやく。料理を腹に「入れる」。こういう、言葉遣いが毎回面白い。しかも、食べながらずっと、考えていることが文字化されるので、その頭の中のつぶやきも毎回見逃せない。どんどん一人で盛り上がっていく様は、誰しもがあるあると思うものだろうし、何言ってんだこのおっさん、と突っ込みたくなるものもある(もちろん頭の中で考えているので「言って」はいないけど)。また、絶妙なオヤジギャグも飛び交い、完全に滑っているのに、読みながら読者たる自分もにやけてしまう時点で、完全に作品の虜である。

 今回の2巻では、またも名言がかなり多く飛び出している。てゆうか、全部の話で名言があって、全部を取り上げると大変な量になってしまうが、わたしが今回気に入ったのは、「孤独のグルメ」というタイトルを若干否定しつつも、まさしくタイトル通りの一言だ。
 主人公は、下北沢の路地裏で、やや古めかしいピザ屋を発見し、さっそく入ってみる。その独特の注文方法に戸惑いながらも、ピザを完食。コカ・コーラも2本飲む。と、カップルがピザとパスタを頼んで、半分ずつ分け合っている。満足して店を出た後、主人公はこう心の中でつぶやく。

 (こんな若者だらけの街なのに ナイスな店見つけた。でもピザ 外食独り食いにはやっぱり少々サビシイかな……)

 この最後の変な余韻が、この作品の一番のポイントだろうと思う。
 また、別の話では、主人公は鳥取に出張で来ていて、現地の人にお勧めしてもらった素ラーメンを食べに行く。そこで、素ラーメンを食べた後、さらにカレーも注文しする。そのカレーを食べながらの心中を表す一言がこれ。

 (なんだかちょっぴりさびしんぼ)

 料理には満足したし、腹も膨れた。
 しかし、こころは、若干満たされていない。
 そんな「孤独のグルメ」を表現した名言とわたしは感じだ。

 そして今回、わたしが一番笑ったのは最終話の、パリでの風景だ。
 たぶん買い付けかなんかだろうと思うが、主人公はパリに出張中。そこで、かつて行ったことのあるアルジェリア料理屋に入る。そして、またいつもの通り、次々にオーダーして、もりもり食べる。が、「クスクスって歯ごたえが乏しすぎる」ため、どうしても、最後に米が食いたい。そこでサフランライスをオーダーする。そこからのセリフと心のつぶやきが最高だ。

 「やっほーーーっ 飯だ 米だ!!」
 (うん、黄色いけど飯だライスだ とどのつまり米ですよ我々 主食に菜、そこにおかずと、汁! この三本柱があればどこでもニッポン ここ……どこだっけ パリだったよな)

 どこだっけって忘れるほど、主人公の頭には飯のことしか頭にない。このとぼけた様子がとてもおかしい。非常にいいオチだと思った。

 というわけで、結論。
 まあとにかく、わたしがいくら言葉を費やしても、このマンガのよさは伝わらないと思うので、是非読んでみていただきたい。たぶん、外食独り食いが多い人には、なにか心に残るマンガとなるのではないかと思う。わたしはこのマンガが、好きです。

 ↓ 主人公が訪れた店を「巡礼」する本まで出てるんですな。ちなみに、「ガイド1」の方は、TVのSeason1~3で取り上げたお店、「ガイド2」の方は、TVのSeason4と、今回の単行本2巻に出てきたお店、だそうですよ。
孤独のグルメ 巡礼ガイド (扶桑社ムック)
週刊SPA!『孤独のグルメ』取材班
扶桑社
2014-07-24

孤独のグルメ 巡礼ガイド2 (扶桑社ムック)
週刊SPA!『孤独のグルメ』取材班
扶桑社
2015-09-27