わたしが世界で最も好きな小説家は、ダントツにStephen King大先生である。
 このことはおそらくこのBlogでもう10回以上書いているような気がするけれど、King先生の作品はとにかく面白くてわたしは大好きである。そして、King大先生の『ダーク・タワー』と言えば、書き始めから20年の時を経てようやく完結した長大な物語(最新の角川文庫版では外伝込みで全14冊、しかもそれぞれ分厚い)としても有名なわけだが、誰が何を思ったのか知らないけれど、今般、映画となって公開される日がやってきたのである。しかも、上映時間は95分と短く、一体全体、どんな映画になり果てたんじゃろうか? とわたしは全く想像がつかないまま、今日は劇場へ足を運んだわけである。実のところ、US本国の評判はかなりよろしくなく興行成績もイマイチであったことは既に報じられていたので、わたしもかなり猜疑心に溢れ、またどうしようもないクソ映画なんじゃあないのか……という嫌な予感をひしひしと抱いていたのは事実だ。
 そして実際に観てきた今、結論を先に言うと、まあ、ズバリ言えば「別物」であった、と思う。そもそもあの長大な物語を95分で描けるわけないし。しかし、だ。様々に描かれる、『ダーク・タワー』テイストは観ていて大変好ましく、おまけにKing大先生のファンならばニヤリとできるような、ちょっとした描写も数多くあって、本作は、相当な玄人Kingファン向けの、ファンムービーだったかもな、という気もした。つまり、King大先生のファンで、オレはそこらの素人じゃあなく黒帯ファンですよ、という自覚がある人なら非常に楽しめる、けれど、そうでない人にとっては、普通?なデキ、な映画であったように思う。
 というわけで、以下、そもそもの「ダーク・タワー用語」を解説なしで書いてしまうと思うので、「ダーク・タワー」を読んだことのない人は完全に意味不明だと思います。

 まずは最初に、主人公であるローランドについて書いておこう。わたしは10年以上前に、『THE DARK TOWER』のグラフィックノベルを買って読んだことがある。↓これ。
 このグラフィックノベルは、とにかくやけにかっこよく、大満足の一品だった。そして、主人公ローランドの風貌に関しては、わたしとしてはこのグラフィックノベルで描かれるローランドよりも、やっぱりKing先生がイメージしたという、Clint Eastwood氏的な面差しをずっと脳裏に描いていたのだが(とりわけ名作『Pale Rider』でのEastwood氏をわたしは妄想していた)、上記に貼りつけた予告の通り、今回の映画版のローランドを演じるのは、MCUでの門番ヘイムダルでお馴染みのIdris Elba氏だ。ズバリ言うと黒人、である。その点について、一部では文句を言う人もいるらしいが、まあそんな人とは友達にならない方がいいでしょうな。はっきり言って、わたしはもう最初に登場したシーンから、ローランド=Idris氏のイメージが出来ちゃったほど、画面のIdris氏はローランドそのものにしか見えなかった。いやあ、本当にかっこよくて、わたしとしてはこのキャスティングは、超アリ、である。
 で、次に本作、映画版の物語を簡単にまとめておこう。
 舞台は現代NYC。一人の少年ジェイク・チェンバース君は、何やらこのところ、妙な悪夢を見るようになった。それはどうも消防士だった父が亡くなって以降のことらしいが、その悪夢の内容は、「ここではないどこか」の世界で、何やら少年少女が謎の装置に拘束されて、その謎装置から発射されるビームによって「天まで届く暗黒の塔」が破壊されようとしている様子だった。折しも、その夢で「塔」が攻撃されて衝撃が走ると、現世のNYCにも地震が起こり、おまけにどうやら東海岸西海岸とも、そして世界各地、東京などでも地震が相次いでいるらしい。しかし、大好きなお母さんはジェイクの夢を信じてくれないし、クソ野郎の継父は、邪魔なジェイクを追い出そうと施設に入れようと画策している。
 そんなしょんぼりなジェイクの元に、施設の職員を名乗る男女がやって来る。しかしその職員は、ジェイクで夢で見た「人の皮をかぶって偽装している化け物」であるしるしが! 逃げるジェイク。そして夢で見た家がブルックリンに存在していることを知り、その家に行ってみると、謎の装置があった。ジェイクは恐る恐る、その謎装置に夢で見た座標「19-19」を入力。すると起動した装置によって「中間世界」へのゲートが開き、ジェイクは「中間世界」へ。砂漠を彷徨ううちに、これまた夢でみたガンスリンガー、ローランドと出会うのであった……てな展開です。
 そしてローランドが倒そうとする「黒衣の男」ウォルターは、力を持つ少年少女を狙っており、なんとジェイクにはKingファンならおなじみの、強力な「輝き=Shine」能力が備わっており、ウォルターの第1目標となって追われることに……というわけで今、「ガンスリンガー」ローランドと「黒衣の男」ウォルターの熾烈な戦いが中間世界と現世を行き来しながら繰り広げられる! 的なお話です。いかん、ぜんぜんうまくまとめられないわ。
 というわけで、本作、映画版は、小説原作と全く違うと言っていい物語だ。ただ、最初に言った通り、雰囲気は非常によく、たぶん、原作ファンならそれなりに楽しめると思う。
 小道具というかちょっとしたことなのだが、例えば、ジェイクが中間世界へ行く「ポータル」という謎装置なのだが、やけにハイテク装置で驚きだったけれど、わたしが一番うれしくなってしまったのは、座標入力の液晶画面に、「NCP」という会社のロゴが映っているわけですよ。これはもう、ファンなら一発で分かるもので、「ノース・セントラル・ポジトロニクス社」のことだ!とか、わたしはもう、そういうちょっとしたことにいちいち興奮してしまった。
 そして、一番わたしがわくわくしたのは、やっぱり、数々の「知ってる」台詞が登場することだろう。「サンキー・サイ」とか「Long days, Pleasant Nights(=長き昼と快適な夜を) 」といった有名なフレーズを生きたキャラが言うシーンを観られただけでも、わたしとしてはもう大満足である。まあ、エディやスザンナ、オイなどの原作での「カ・テット」が出てこないのはもうしょうがないよね。一応、ちゃんと「ダーク・タワー」だったのは間違いないと思う。なお、パンフレットには、本作の中でチョイチョイ出てくる、King先生ワールドの小ネタが結構詳しく載っているので、ファンは買った方がいいかもしれない。わたしは1/3ぐらいは気が付かなかったので。クリスティーンとか14-08は気づけたけど、まさかリタ・ヘイワースのポスターまで映ってたとは気が付かなかったわ。これで意味が通じない人は、もうこの映画観てもあまり意味がないと思います。そういう人は、ラストで再びジェイクとローランドが入っていった建物のシャッターに描かれた「薔薇の絵」にも、全く何も感じないだろうな。わたしは結構、ここで薔薇が来た!とうれしくなったすね。
 では最後に、各キャラと演じた役者を紹介して終わろう。
 ◆ローランド・デスチェイン:最後のガンスリンガーと呼ばれる物語の主人公。演じたのは前述の通りIdris Elba氏。いやあ、かっこよかったすね。わたしは、さんざん偉そうに書いている割に、実はもう原作の詳細は覚えていないのだが、確か原作でも、ローランドが現世の薬を飲んで、コイツは良く効くな、的なことを言う場面はあったような気もする。今回はばっちりありました。そして、本作では毒?に侵されたローランドがふらふらになって右手が使えなくなるシーンがあるけど、あれは原作2巻の殺人毒毒ロブスターのシーンのオマージュかな? 原作では2巻でもうローランドは殺人毒毒ロブスターとの戦いで指を失っちゃうけど、今回の映画版では、指を失わずに済んでよかったね。それにしても雰囲気はバッチリで、わたしとしてはIdrisローランドはアリ、です。
 ◆ジェイク・チェンバーズ:ローランドと出会って後に「カ・テット」の一員として旅を共にするNYCの少年。演じたのはTom Taylor君16歳。おっと、なんか今はずいぶん成長しちゃってるっぽいな。ジェイクは、原作では一度ローランドに見捨てられるという悲しい出来事があるけれど、映画版ではその辺りはバッサリとカットでした。なので、ジェイクというとわたしはとても悲しい顔をしているイメージがあったけれど、今回は結構アクティブな元気な少年でしたな。なお、ジェイクは原作でも、「タッチ」という人の思考に触れる能力を持っているけれど、今回の映画版では、King用語では有名な「輝き(Shine)」と変更されていた。これはまあアリなんじゃなかろうか。何のことかわからない? 要するに「シャイニング」のことです。King世界では有名な超能力の一種ですな。
 ◆黒衣の男=ウォルター:「塔」を破壊しようとする「クリムゾン・キング」の手下として有名な男で、King世界では様々な形で登場する。原作的には、ローランドが最も許せない不倶戴天の敵。今回の映画版で演じたのはMatthew McConaughey氏で、非常に雰囲気のあるウォルターぶりだったように思う。ただちょっとあっけなかったかな……。今回、恐らく原作と一番違うのが、この闇の勢力の描かれ方で、中間世界と現世を結ぶポータルの謎装置の描写は、わたしは結構気に入った。あんなに自由に行き来するとは、大変興味深いすね。
 と、もう一人わたしの知っている役者が出演していたのでメモしておくか。なんと、ウォルターの手下でNYCのポータルの管理人?をJackey Earle Haley氏が演じていた。彼は、わたしのオールタイムベストに入る大好きな映画『WATCHMEN』の主人公ロールシャッハを演じたお方ですな。
 
 というわけで、なんかもう取り留めないのでさっさと結論。
 わたしが世界一大好きな小説家Stephen King大先生の長大な叙事詩『THE DARK TOWER』が映画化された。それだけでもうわたしには大ニュースなのだが、残念ながらUS本国では散々な評判と興行になってしまい、わたしも、こりゃあ地雷かもな……という危惧を抱いて、劇場へ足を運んでみたところ……確かに、確かにこれは全くの別物だと言わざるを得ない、とは思った。何しろあの長大な作品を95分にまとめられるわけないし。しかし、随所に漂う雰囲気や、そこかしこにちりばめられたKing世界の小道具にはいちいち興奮してしまったのは確かだし、キャラクターたちが話す「知っている台詞」の数々には、もう大興奮であった。要するに、結論としては、わたしはかなり楽しめたのである。ただし、それはわたしがKing大先生の大ファンであるからであって、そうでない人がこの映画を見て楽しめるのか、それは全くわからない。たぶんダメなんじゃないかな……。そういう意味では、本作は完全にKing先生ファン黒帯以上を対象とした、ファンムービーだったように思う。しかし、やっぱりあれだな、もう一度、最初から全巻読み直さないとダメだな。すでに電子書籍では全巻買い直してあるので、よし、今夜から読み始めよっと! 以上。

↓ King先生の作品を映画化したもので、一番好きなのは? というのはKingファンなら一度は議論したことがあると思いますが……わたしは、やっぱりこれかなあ……そういえば、黒衣の男・ウォルターは、小説を読んでいるときのわたしの脳裏にあったのは、この映画の頃の若きChristopher Walken氏でした。この映画はもうホント大好きっす。結末が超悲しい!