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 はーー……ヤバいす。前巻の時も書きましたが、今回も、結論をのっけから言ってしまうと、「高田先生!! 次の(9)巻はいつですか!! 今すぐ読みたいんすけど!!」であります。なんのことかって!? キミィ! わたしが毎度新刊を楽しみにしている『あきない世傳』の最新(8)巻のことに決まってるでしょうが!! いやー、マジ面白かったし、今すぐ続きが読みたいす!

 しっかし今回のお話はヤバかったすね……今回は、ズバリ主人公「幸」ちゃんの妹である「結」ちゃん主役回だったように思う。今までの流れはもうまとめないので、過去記事をご覧ください。
 この(8)巻冒頭の段階では、五鈴屋のビジネスの面では2つの大きな問題解決が急務となっている。
 1つは、ずっと先送りになっていた「女名前禁止」に対する回答だ。これは、大坂においては女性は商家の店主になることができない、というお上の定めたルールがあって、主人公幸ちゃんは9歳で五鈴屋に奉公に上がってから、4代目(クソ野郎・死亡)、5代目(冷酷野郎・失踪)、6代目(優しいけどだめんず野郎・死亡)の妻として五鈴屋を支えてきたわけだが、6代目の死亡によって五鈴屋は後継ぎがおらず、実際存亡の危機に陥っている。現状では猶予をもらっているところで、その猶予期間もいよいよ期限切れが迫っているわけだ。幸ちゃんとしては、この問題はとにかく何とかしないといけない。
 そしてもう1つは、新規商材の開発だ。前巻で、「江戸紫」カラーの「鈴の小紋」という商材開発に成功し、大ヒット!になるものの……江戸において「小紋」は武士が着るものあるいは女子向け、ということで、まだまだ普通に市中の一般男性が着られるものではない。鈴(や今巻で開発したコウモリ)の柄が可愛すぎるのだ。老若男女が普通に着てくれないと、五鈴屋のビジネスとしては脆弱だし、そもそも既に「小紋」をパクったライバル店もすでに出現しつつある。五鈴屋ならではの、オリジナル小紋がどうしても必要な状態である。
 こんな状況なので、幸ちゃんはじめ、五鈴屋江戸店のみんなはいろんな努力をするのだが……今回、そんな五鈴屋に二人の男がかかわってくる。
 まず一人は、大阪五鈴屋時代にあまりに冷酷なビジネスで信頼を損ねてしまい、失踪していた5代目だ。彼は、前巻だったかな(前々巻だったかも)、ふらりと江戸、浅草で目撃情報がもたらされていたのだが、今回とうとうその姿を幸ちゃんの前に現す。ただ、5代目は、確かにちょっと問題アリではあったけれど、実際、ビジネス面では極めて有能な男であり、幸ちゃんのこともマジで好きだったんだと思うし、要するに、悪党では決してない、とわたしは思っている。
 実は、五鈴屋のみんなは、5代目が現れて、ワイこそ正当な店主じゃい!と主張されたら困るな……と戦々恐々に思っていたんだけど、今回、その心配は明確に否定される。この5代目の動向は今後も要チェックだけど、わたしとしては、結構味方になてくれるんじゃないか、そして正々堂々と戦う最終ラスボスにもなり得るかも、と思います。楽しみですな。
 そしてもう一人が、今回の超問題キャラ、音羽屋だ。音羽屋は日本橋の両替商で、もう50近い(?)おっさんなのだが……なんと、27歳の結ちゃん(幸ちゃんの妹)に一目ぼれ?してしまう。しかしその様がですね……どう考えても単にヤリたいだけのスケベ野郎で、完全に性的な目で結ちゃんを見ていて、ズバリ、気持ち悪いんだな。さらに、どうやらこのゲス野郎は、五鈴屋のビジネスにも実は背後でいろいろ妨害工作をしているようで……まあ、とんでもないクソ野郎であることはもう確定です。
 そしてその様子を幸ちゃんは目撃していて、うわあ、コイツ最低!と思っているのだが、当の結ちゃんがですね……これまた途方もなくゆとりあふれた恋愛脳で、もちろん結ちゃん自身も音羽屋にはまったく気がないのに……余計なことばっかりしてしまって幸ちゃん激怒!という展開になってしまうのだ。そして、こういう時、ダメ人間にはありがちなことに、ダメな結ちゃんはどんどんダメな方向に行ってしまい……今巻ラストは、結ちゃんのとんでもない行動で幕が下りることになる。もう、なにやってんだよ結ちゃん!! つうか続きが今すぐ読みたい!! と思ったのはわたしだけではないだろう。恐らく、本作を読んだ読者全員が思ったはずだ。
 わたしとしては、結ちゃんの行動に対しては、姉たる幸ちゃん同様に、もう、何やってんの! という気持ちが大きい。今回の結ちゃんは、とにかくネガティブ方面に気持ちが行ってしまっているし、「デキる姉」と比べてなんて自分はダメなのかしら、的な気持ちが強いし、さらに言うと、恋愛脳で、大好きな賢輔くん(年下のデキるイケメン君)に対しても、余裕でフラれかけてしまっていて、もう精神的にヤバい状態だ。恐らく賢輔くんも結ちゃん大好きなんだろうけど、ド真面目過ぎて、いや、オレは今は仕事が大事で恋愛してる場合じゃないんすよ……的な対応で、結ちゃんはますますしょんぼりが募る。
 言ってみれば、そういう精神的な隙に音羽屋はお恐らく「悪意を持って」つけ込んでくるわけなんすけど……ま、音羽屋が最低なのは間違いないとしても、結ちゃんはもうチョイしっかりしてほしいし、一方で幸ちゃんも、仕事第一過ぎて、妹ケアがが若干甘かったんだろうな、と思った。結ちゃんだけをダメ人間と断罪するのは、やっぱりちょっと気の毒ではあると思う。結ちゃんは江戸に出て、帯締め教室だったり店頭だったりで、モデルとして活躍して、自分の居場所を自分できちんと見つけていた、と思っていたのに、なんつうか、ままならないですなあ、ホント。
 というわけで、本作は冒頭時点での2つの大問題である、跡目問題及び新規商材開発問題は、何とかクリアできそう、だが、新たに結ちゃん問題が勃発してしまい、それが新規商材開発に大きく影響してしまいそうで、わたしとしては、もう何度も書いて恐縮ですが、「今すぐ続きが読みたい!!」であります。
 最後に、本作で沸き上がった(けど解決の見込みの付いた)大問題である、お上からの「上納金」納付命令についてメモしておこう。どうやら、当時の江戸(作品時間としては18世紀末かな?)では、「運上金」という名の、今でいう法人所得税的なものがあるのだが、今回、幸ちゃんが代表取締役を務める五鈴屋江戸店は、その運上金とは別に「上納金」を納めよ、というお上からの命令を受けてしまう。しかもその額1500両! ときたもんだ。この問題に対して、幸ちゃんは、姿を現した5代目のちょっとしたアドバイスで知恵を絞り、見事クリアするんだけど、わたしがへええ、と思ったのは、この上納金納付命令の理由だ。五鈴屋さんは前巻で一躍江戸アパレル界に名を成したわけだけど、それがお上まで届いてしまい、儲かってるならもっと金をよこせ、と、それだけの理由で、かなり理不尽というか、もう言い分が完璧にヤクザなんすよね。。
 わたしは去年、久しぶりに会社の税務調査に立ち会ったのだが、税務署の言い分はまさにこれで、もう、ホントヤクザと変わらない言いがかりばっかりで、ホント腹が立ったすわ。しかも税務署は全く法的根拠は示さないし、担当が変われば言い分も変わるし、ありゃホントに合法ヤクザそのものだね。木っ端役人のくせにムカつくほど態度デカいし。
 まあ、五鈴屋さんに降りかかった上納金問題は、どうやらクソ野郎の音羽屋の陰謀っぽいし、実際何とかクリアできそうだけど、わたしとしてはもう、幸ちゃんには、そういう「お上というヤクザ」には負けないでほしいと心から応援したくなるっすな。わたしも税務署の木っ端役人どもには負けん!

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。

 わたしが毎回新刊を楽しみにしている、高田郁先生による『あきない世傳 金と銀』の半年ぶりの新刊(8)巻「瀑布篇」が発売となったので、さっそく読みました。今回も大変面白く、興味深く、とても満足であります。そしてラストは非常にヤバいところで終わっており、マジで今すぐ続きが読みたい! が結論であります。そのサブタイトル通り、まさしく「瀑布」のような怒涛の展開でありました。つうか、ハルキ文庫も電子書籍を出してくれないかなあ……。すっかり電子野郎になってしまったわたしとしては、電子で出してくれるととても助かるのだが……今回も、この人誰だっけ? とかアホな疑問も、電子ならその場で前の巻とか参照出来ていいんだけどな……。もし電子で出し始めたら、ちゃんと最初から買い直すので、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。以上。

↓ こういうの、眺めるだけでも楽しいすな。小紋の型職人は切り絵作家みたいすね。

 わたしがシリーズをずっと読んでいて、新刊が出るのを楽しみにしている小説に高田郁先生の『あきない世傳』というシリーズがある。これは、時代的には18世紀中ごろの大坂商人のお話を描いた作品なのだが、実にその「あきない」が、現代ビジネスに置き換えられるような、現代の会社員が読んでも示唆に溢れた(?)いわゆる「お仕事モノ」としての側面もあって、読んでいて大変面白いのであります。
 というわけで、その最新刊である第7巻が発売になったので、わたしもすぐ買った……のはいいとして、ちょっと他の小説をいくつか読んでいたので若干後回しになっていたのだが、いざ読みだすと、いつも通り2日で読み終わってしまった。実に読みやすく、そして内容的にも大変面白く、わたしとしては非常にお勧めしたいシリーズであると思っております。

 もう、これまでのシリーズの流れを詳しく解説しません。詳しくは、過去の記事をご覧いただくとして、本作第7巻がどんなお話だったかというと、まあ一言で言うと、いよいよ念願の江戸に店を開いた主人公・幸(さち)ちゃんが、江戸に来て1年がたつまでに過ごした奮闘の日々、が描かれています。
 まあ、本作に限らず、小説を読んでいるといろいろな、知らないことを知ることが出来て、「へええ~?」な体験こそ読書の醍醐味の一つだと思うけれど、例えば、「呉服」と「太物」ってわかりますか? これはわたしは前の巻だったかな、初めて知ったのですが(単にわたしが無知だっただけだけど)、「呉服=絹100%」「太物=綿製品」なわけで、大坂では明確に扱う店舗が違っているけど、江戸では両方扱ってもOK、と商慣行が違っていたりするわけです。おまけに、大坂では「女名前禁止」というお上の決めたルールがあって、女性は店主になれない=代表取締役の登記が出来ないんだな。ま、それ故、幸ちゃんはそのルールのない江戸に支店を出すことを決めたわけですが。
 で、幸ちゃん率いる「五鈴屋江戸支店」は、要するにアパレル小売店なのだが、当然幸ちゃんたちは大坂人故に、江戸のさまざまな生活カルチャーや、江戸人の考え方自体にも不慣れだし、いきなり店を出店しても商売がうまくいくわけないので、いろいろな工夫を凝らすわけです。その工夫が、現代ビジネスに通じるモノが多くて、大変面白いわけですよ。
 要するに、まず新店OPENにあたっては、いかにしてお店のことを告知していくか、という宣伝広告戦略が重要になるし、いざ知ってもらっても、「五鈴屋」で反物を買ってもらうためには、どうしても「五鈴屋オリジナル」商品が必要になるわけです。いわゆる「差別化戦略」ですな。
 ちょっと五鈴屋のビジネスモデルというかバリューチェーンをまとめると……
 ◆生産者:養蚕家(絹の生糸の生産)、綿農家(木綿糸生産)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(1):織職人(布に織る人、模様を入れて布に仕立てる人)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(2):染付職人(模様や柄を染め付ける人)
  →NOT YET。本作冒頭ではまだ不在
 ◆卸売事業者:製品を仕入れて小売りに卸す人
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み。一部は五鈴屋が自ら仕入れ
 ◆小売事業者=五鈴屋=お客さんに売る人
  →江戸店は開店した。が、どうお客を集めよう?
 ◆顧客=お客さん=武家から市井の人々まで様々
  →どういう嗜好を持った人? どんなものを求めている? か研究中。
 ◆加工者(3):仕立て屋さん(布を裁ち、縫製する人)
  →基本的に五鈴屋さんは反物を売っておしまいで、反物を買ったお客さんが、どこかの仕立て屋さんに頼むか、あるいは自分で「服」に加工するので、五鈴屋は現代的な意味でのアパレルショップではない。けど、頼まれれば五鈴屋さんは仕立て屋さんを紹介したり自ら縫製もします。ちなみに、そのため、最初から「服」になっている既製服屋さんとしての古着屋さんもいっぱいあるのです。
 てな感じに、18世紀半ばの時点で、既にこういう分業がキッチリなされているわけですが、五鈴屋の「あきない」のモットー=企業理念は明確で、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指しているわけで、つまり上記の関係者全員=ステークホルダーがHAPPY!であることを目指しているのです。
 どうですか。いいお話じゃあありませんか。
 で。今回の第7巻では、主にオリジナル商品開発がメインとなっています。もちろん、宣伝広告も頑張るんだけど、それはもう前巻までにやってきたことなので、説明は割愛します。お店を知らしめるために、神社仏閣の手水場に、五鈴屋のコーポレートロゴである「鈴」の絵柄付き手ぬぐいを寄進しまくったり、来てくれたお客さんのカスタマーロイヤリティ向上のために、無料の「帯の巻き方教室」を開催したりと引き続き頑張り、そこで得たお客さんとの縁が、今回鍵になるわけです。いい展開ですなあ! わたし、これも知らなかったけれど、大坂と江戸では、帯を巻く方向が逆なんすね。そんなことも、幸ちゃんたちとともに読者は「へええ~?」と学んでいくわけです。おもろいすなあ。
 そして今回メインとなるオリジナル商品開発のカギとなるのが、上記ビジネスモデル(バリューチェーン)の中で、唯一まだ縁のなかった「染付」でありました。
 これも大坂と江戸の違いなんだけど、大坂は商人の街であり、江戸は武士の町なわけですよ。で、大坂では普通で誰もが当たり前に着る「小紋」というものが、江戸では基本的に武士のためのもので、あまり町人の着るモノじゃないらしいんですな(※絶対NGではないみたい)。そしてその「小紋」の柄も、どうやら武家のオリジナル模様があって、それはその家中の人間以外は着てはならんというルールもあるらしい。
 だけど、江戸人は「粋」を愛する人種なので、遠目には無地かな? と思わせて、よーく見ると模様が「染められている」小紋はOKなのです。めんどくせえけど、そういうことらしい。なので、売れるのは無地や縞(ストライプ柄ですな)ばっかりだけど、実は「小紋」もいけるんじゃね? つうか、江戸人好みの小紋をつくったらヒット間違いなしじゃね? とひらめくわけです。
 そして、どんな柄にしよう? と考えた時、当然もう、全員が「鈴」の模様で異議ナシ、なわけですよ。だけど、それってどうやって作ればいいの? というのが今回のメインでありました。
 染付職人をどうしよう? つうかその前に、染付の「型」って、誰がどんな風にして作ってるんだろう? というのが段階を経て実を結んでいき、さらに、完成した「五鈴屋オリジナル小紋」を、どうやって世に知らしめよう? と考えた時、思わぬ縁が繋がってーーーという流れはとても美しく、もう読者たるわたしは、正直できすぎだよ、とか思いつつも、良かったねえ、ホント良かった、と完全に親戚のおじさん風にジーンと来てしまうわけで、もうさすがの高田先生の手腕には惜しみない称賛を送りたく存じます。ホント面白かったす!
 そして今回は、重要な未解決案件である「女名前禁止」に関する進展も少しあり、さらには妹の結ちゃんが満を持して江戸へやってきたり、さらには、失踪した5代目がついに姿を現し……といった、今後の引きになる事柄もチョイチョイ触れられていて、結論としては、高田先生! 次はいつですか!! というのが今回のわたしの感想であります。はーー面白かった。

 というわけで、結論。

 わたしが新刊が出るとすぐに買う、高田郁先生による小説シリーズ『あきない世傳 金と銀』の最新7巻が発売になったのでさっそく楽しませていただきました。結論としては今回もとても面白かったです。なんつうか、やっぱり人の「縁」というものは、大事にしないとイカンのでしょうなあ……一人では出来ないことばかりだもんね……そこに感謝をもって、日々暮らすのが美しいんでしょうな……わたしも真面目に生きたいと存じます。そして、5代目の動向が大変気になるっすねえ……! まず間違いなく、次の巻では五鈴屋の存在が江戸に知れ渡ることになり、5代目が「幸が江戸にいる!」ことに気が付くことになるような気がしますね。どこまでシリーズが続くか分からないけど、全10巻だとしたら5代目とのあきないバトルがクライマックスなんすかねえ……! 早く続きが読みたいっす! 以上。

↓ そういや映画になるらしいすね。キャストはNHK版からまたチェンジしたみたいですな。この特別巻が出てもう1年か……あ!映画の監督があの人じゃないか!マジかよ!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 数日前、このBlogのログを見ていたとき、わたしが新刊が出ると毎回せっせと感想を書いている『あきない世傳』シリーズの記事のPVがやけに上がっていることに気が付いた。そして電撃的に、これって、まさか……? と思い、すぐさま版元たる角川春樹事務所のWebサイトをチェックしてみると、まさしくその予感は当たっていることが判明して愕然としたのである。そう、2月に、新刊第(6)巻が発売になっていたのだ。

 うおお、まじかよ! 超抜かってた!! と思い、すぐさま本屋さんへ向かって確保し、帰りの電車から読みはじめ、翌朝、翌夕、そしてその次の朝、と、わたしの通勤電車2往復分で読み終わってしまった。わたしが電車に乗っているのは片道30分ほどなので、2時間ほどで読み終わったということだ。たぶんこれは、わたしがとりわけ早いわけではなく、おそらく誰でもそのぐらいで読めると思う。実にすらすらと読みやすいのが高田先生の作品の特徴だ。
 で。わたしは読み始めて、冒頭で、えっ!? と思った。そう、ズバリ言うと前巻のラストを完璧に忘れていたのである。そうでした。前巻は、非常にヤバいところで終わったのでありました。
 それを説明する前に、このシリーズのおさらいをざっとしておこう。
 本作は、現在の兵庫県西宮市あたりの村から、大坂は天満橋近くの呉服屋さん「五鈴屋」に下働きの下女として奉公に出た少女が、その持ち前の頭の良さと心の真っ直ぐさで成り上がってゆく物語で、実に現代ビジネスマンが読んでも面白いような、現代ビジネスに通じる様々な「あきない」ネタが大変痛快な物語なのであります。
 そして主人公・幸ちゃんは、まあとにかく凄い激動の人生を送っているわけですが、下女だったのに五鈴屋4代目と結婚し、「ご寮さん(=大坂商人の店主の奥方)」にクラスチェンジし、次に5代目、そして6代目とも結婚してようやく幸せになったかと思いきや……というところで、前巻(5)巻ラストで大変な悲劇に幸ちゃんは見舞われてしまったのでした。
 どうして結婚相手がころころ変わったかと言うと……
 ◆4代目:長男で放蕩野郎。店の金を使い込むクソ野郎。死亡
 ◆5代目:次男で商才はあるが人の気持ちを読まない残念系社長。取引先を激怒させ失踪。
 ◆6代目:三男。作家を夢見るだめんず野郎だけど人としては超イイ奴。
 という感じで、商才盛んな幸ちゃんが自らもう、女社長としてバリバリやればいいんだけど、それが出来ない理由があって、結婚せざるを得なかったわけです。それは、大坂には「女名前禁止」という謎ルールがあって、大坂においては「女は店主になれない」というもので、現代風に言うと男しか代表取締役の登記が出来ない、のです。だから、どうしても男の社長を立てる必要があるわけですな(一応その理由は、女に財産分与して資産隠しや税逃れをする奴がいたから禁止になったらしい)。
 時代背景としては、1731年だったかな、そのぐらいから始まって、最新刊である本書(6)巻では1751年ぐらいまで経過していて、幸ちゃんも少女から現在28歳まで成長している。これは、高田先生の『みをつくし料理帖』が最終巻の段階で1818年ぐらいだったはずだから、それよりも70年近く話で、ついでに言うと『出世花』の2巻目が1808年ぐらいの話だから、やっぱりそれより50年以上前ってことになる。ちなみに、『みをつくし』は1802年ぐらいから始まるので、主人公・澪ちゃんと『出世花』の主人公・正縁ちゃんは江戸の町ですれ違っててもおかしくないぐらいの時代設定だ。
 なんでこんなことを書いたかと言うとですね、そうなのです。ついに! 幸ちゃんが江戸に進出することになったのです!! この、江戸進出はもう既に前から野望として描かれてきたのですが、この、大坂の女名前禁止をどうしても打ち破ることが出来ないなら、江戸進出を急ごう!ってなことで、急がなくてはならない理由、それは前巻ラストでブッ倒れた6代目が逝ってしまったからなのです。
 というわけで、本作(6)巻は、いきなり6代目の初七日の模様から始まります。わたしは6代目がブッ倒れたことを完璧忘れたので、最初のページを読んで、えっ!? と思ったのでした。まあ、すぐ思い出したけど。
 で、今回の物語は、江戸店のオープンまでの様子が描かれるわけですが、今回は、現代ビジネス的な面白エピソードは1つだけかな。それは、江戸店オープン前の宣伝告知活動だ。
 幸ちゃんはバリバリ関西人で、もちろんお店の仲間たちも同じ関西人。当然、江戸の町ににも商慣習にも不案内で、だんだん理解していくことになるわけだが、「引き札(=現代で言うチラシ)」はやらず、彼女の取った方法とは――てのが今回一番面白かったすね。幸ちゃんは今までも、宣伝告知活動には色々な策をとって来て、それがいちいち現代風で面白かったけれど、今回の策も、大変良かったと思います。もちろん、その作戦は大成功で、オープン当日から江戸店にはお客さんがいっぱい来てくれて、ホント良かったね、と思いました。
 あと、今回から、幸ちゃんは本格的に「太物(ふともの=木綿製品)」も扱いを始めようとする。これは常識かも知れないけど、わたしは愚かなことに本作シリーズを読むまで知らなかったのだが、いわゆる「呉服」ってのは、「絹100%製品」のみを指す言葉なんすね。大坂の五鈴屋本店が加盟しているアパレル業界団体は、あくまで呉服屋組合であるため、木綿製品は扱うことが出来ないこともポイントで、江戸の組合にはそんな縛りはない、ってのも、江戸店出店の動機の一つもでもあるわけです。
 さらに言うと、幸ちゃんの出身地では、綿花の栽培が特産でもあって、木綿は絹よりも圧倒的に安いし、洗えるし軽いし、と使い勝手がいい、要するにコストパフォーマンスに優れているわけで、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指す幸ちゃんは、木綿に大変思い入れがあるわけですな。
 あ、あと、今回幸ちゃんが江戸店の、商品ディスプレイに工夫する話も面白かったすね。まあ、やっぱり、こうすりゃいいんじゃね!? とひらめく瞬間はとても気持ちいけれど、普通のサラリーマンにはそれを実行するにはいろんな邪魔が入るわけで、上司に恵まれないと、毎日毎日同じ作業を繰り返すことを仕事と勘違いすることになるわけだが、ま、お店を出すことの面白みの一つでしょうな、そういうひらめきの快感は。大変今回の(6)巻も楽しめました。

 というわけで、さっさと結論。
 大変抜かっていたことに、わたしがシリーズをずっと読んできた『あきない世傳』の新刊が、なんと1カ月以上前に発売になっていたことにハタと気が付き、慌てて買ってきて読んだわけですが、まあ、今回も大変面白かったと思う。これからは江戸を舞台に、またいろんなビジネスプランが展開されるんでしょうな。そしてわたしとしては、主人公幸ちゃんに幸あれと思うわけです。ところで、今後の展開としては、確実に妹の結ちゃんも江戸にやってくることになるだろうし、おそらくは、失踪した5代目と江戸で再会することになるんじゃないすかねえ……。そもそも江戸進出は5代目の夢でもあったわけだし。5代目が現れた時、幸ちゃんはどうするんすかねえ……今さら元サヤはないよ……ね……? どうなるんだろうなあ。そのあたりは、これからもシリーズを読み続けて、楽しみにしたいと思います。つうか、ハルキ文庫も電子で出してくんねーかなあ……。そうすりゃ100%買い逃すことないのに……。以上。

↓ 五鈴屋江戸店は、浅草の近くの「田原町」にオープンです。現代の今は仏具屋さんがいっぱい並ぶあの街っすね。銀座線で浅草の隣す。


 わたしが新刊を待ちわびる小説は数多いが、その中でも、日本の小説で、ここ数年毎年8月と2月に新刊が発売さてわたしを楽しませてくれているのが、高田郁先生による時代小説である。しかし今年の8月は、一向に新刊発売のニュースが聞こえてこず、おかしいな……と思って、かなりの頻度で版元たる角川春樹事務所のWebサイトを観に行ったりしていたのだが、いよいよ、今年は9月に新刊発売! というお知らせを観た時のわたしの喜びは、結構大きかった。そして、おっと、来たぜ! とよく見ると、なんとその新刊は、現在シリーズが続く『あきない世傳』の新刊ではなく、何と驚きの『みをつくし料理帖』の新刊であったのである。この嬉しい予期しなかったお知らせに、わたしはさらに喜び、9月2日の発売日をずっと待っていたのである。
 しかし―――愚かなわたしは8月末から別の、大好きな海外翻訳小説を読んでいて、すっかりその発売を忘れており、おととい、うおお! 忘れてた!!! と焦って本屋さんに向かったのであった。角川春樹事務所は電子書籍を出してくれないので、ホント困るわ……こういう時、電子書籍なら確実に、新刊出ましたよ~のお知らせが届くのにね。
 というわけで、昨日と今日でわたしがあっさり読み終わってしまった本はこちらであります!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 そのタイトルは、『花だより』。紛れもなく、高田郁先生による「みをつくし料理帖」の正統なる続編であり、本編の「その後」が描かれた物語である。あの澪ちゃんや種市爺ちゃんたち、みんなにまた会えるとは! という喜びに、わたしはもう大感激ですよ。そして読み終わった今、ズバリ申し上げますが、超面白かったすね。間違いなく、既に完結済の『みをつくし料理帖』が好きな人なら、今回の「特別巻」も楽しく読めるはずだ。それはもう、100%間違いないす。いやあ……なんつうか……最高っすわ!
 というわけで――今回の『花だより』は、シリーズが完結した4年後の1822年から、その翌年1823年が舞台となっている。軽くシリーズのラストを復習しておくと、主人公の澪ちゃんは宿願であった、幼馴染の野江ちゃんことあさひ大夫の身請けに成功し、超お世話になった大金持ちの摂津屋さんの助力を得て、夫となった源斉先生と、自由の身となった野江ちゃんとともに大坂に旅立ったわけである。もちろんそこに至るまでの道のりが、まさしく艱難辛苦の連続で、数々の超ピンチを乗り越えての幸せGETだったわけで、読者としてはもう、本当に良かったね、幸せになるんだぞ……と種市爺ちゃんのように涙したわけです。
 あれから4年が過ぎ、はたして澪ちゃん去りし後のつる家は、繁盛しているだろうか? 澪ちゃん&源斉先生夫婦は大坂で元気にやってるだろうか? そんな、読者が知りたいことが知れる、まさしく高田先生から読者への「お便り」が本作であります。
 本作は、これまでのシリーズ同様、短編4本立てで構成されていて、それぞれがそれぞれの人々を描く形で、それぞれの「その後」を教えてくれるものだ。というわけで、まあ、ネタバレになってしまうかもしれないけれど、簡単にエピソードガイドをまとめておこう。ネタバレが困る方はここらで退場してください。つうか、こんな文章を読んでいる暇があったら、今すぐ本屋さんへ行って、買って読むことをお勧めします。絶対に期待を裏切らない内容ですので。
 ◆花だより――愛し浅蜊佃煮>1月~2月のお話
 主人公は種市爺ちゃん。もう74歳となって、体もきかねえや、てな爺ちゃんだが、とある事が起きて、もうおらぁダメだと超ヘコむ事態に。すっかり気落ちした爺ちゃんは、年に1回は必ず届いていた澪ちゃんからのお手紙も届かず、いよいよ心はふさぐばかり。しかし、そんな爺ちゃんに、恩師を喪って同じく気落ちしていた清右衛門先生が大激怒!! 「この戯け者どもが! 真実会いたいのなら、さっさと会いに行けば良いのだ! それを遠いだの店がどうだ、と見苦しい言い訳をするな!」 というわけで、清右衛門先生、坂村堂さん、種市爺ちゃん&ちゃっかり(小田原まで)同行するりう婆ちゃんの、東海道五十三次珍道中の始まり始まり~!!!  つうか、やっぱり清右衛門先生の言う通りですなあ……会いたい人には会っとくべきですし、行きたいところには行っとくべきですよ。人間、いつどうなるかわからないものね……。
 ◆涼風あり――その名は岡太夫>5月~6月ごろ(梅雨時)のお話
 主人公は、かつての想い人、小松原さま、こと小野寺数馬、の奥さんである乙緒(いつを)さん。17歳で数馬のお嫁さんとなって早6年だそうです。この乙緒さんは、侍女たちからは「能面」と呼ばれるような、超クールで感情を表に表さないお方だそうで、別に冷たい人では決してなく、まあそういう教育を受けてきたからなんだけど、きっちりと真面目にコツコツやるタイプのようで、亡くなった小松原さまのお母さん(里津さん)が、亡くなる前に「小野寺家の掟」のようなものをきっちり伝授し、里津さんからも、この娘なら大丈夫と思われていたようなお方。そんな乙緒奥さんが、夫の「かつての想い人」である「女料理人」のことを聞いてしまい、おまけに2人目の子供の妊娠が発覚し、身も心もつらい状況になってしまう。しかし、そんな時にふと思い出したのは、里津お母さんから聞いた、とあるお話だった――てなお話です。まったく、不器用な夫婦ですよ……!
 ◆秋燕――明日の唐汁>8月のお話
 主人公はかつてあさひ大夫だった野江ちゃん。野江ちゃんは、摂津屋さんの助力で大坂で商売を始めていたのだが、これは高田先生の『あきない世傳』でも何度も出てきた通り、大坂商人には、「女主人はNG」というルールが当時あったわけで、摂津屋さんが業界組合を説得して3年の猶予をもらっていたけれど、その3年が過ぎようとしているという状態。要するにその3年間で、結婚して旦那を主として据えろ、というわけだ。しかし、野江ちゃんの心には当然、野江ちゃんをその命と引き換えに火事から救った又次兄貴がいまだいるわけでですよ。というわけで、又次兄貴との出会いの回想を含んだ、野江ちゃんの心の旅路の物語であります。泣ける……!
 ◆月の船を漕ぐ――病知らず>9月ごろから翌年の初午(2月)までのお話
 お待たせいたしました。主人公は澪ちゃんです。大坂へ移って料理屋「みをつくし」(命名:清右衛門先生)をオープンさせて早4年。大坂には死亡率の極端に高い流行病(コレラ?)が蔓延していた。源斉先生をもってしても、治療法が見つからず、数多くの人々が亡くなっていたのだが、「みをつくし」がテナント入居していた長屋のオーナーお爺ちゃんも亡くなり、後を継いだ息子から、つらい思い出は捨て去りたいと、長屋を売りに出すことになり、「みをつくし」も立ち退きを要求されてしまう。さらに追い打ちをかけるように、日夜患者の元を駆け回っていた源斉先生も体力的にも限界、おまけに医者である自分の無力さにハートもズタボロ、その結果、愛しい源斉先生もブッ倒れて寝込んでしまう。こんな艱難辛苦に再び見舞われた我らがヒロイン澪ちゃん。何とか料理で源斉先生を元気にさせようと頑張るも、まったくもって空回り。下がり眉も下がりっぱなしな状況だ。そんな時、とあることがきっかけで、澪ちゃんは忘れていた大切なことを思い出すのだが―――てなお話であります。
 というわけで、まあ、なんつうか……まったく澪ちゃんの人生はこれでもかというぐらいの艱難辛苦が訪れるわけですが、それを乗り越えるガッツあふれるハートと、とにかくキャラクターたちみんなが超いい人という気持ちよさが、やっぱり本作の最大の魅力だろうと思います。やっぱり、頑張ったら報われてほしいし、そういう報われている姿を読むことは、とても気持ちのいい、読書体験ですな。わたしとしては、久しぶりに会うみんなの、「その後」を知ることが出来て大変うれしかったです。まあ、控えめに言って最高すね。高田先生、素敵な「お便り」を有難うございました!

 というわけで、さっさと結論。
 高田郁先生による人気シリーズ『みをつくし料理帖』。既に物語は美しく完結していたわけだが、この度、各キャラクターの「その後」を描いた最新作『花だより~みをつくし料理帖 特別巻』が発売になったので、さっそく読んで味わわせていただいたわたしである。読後感としては、大変好ましく、実に面白かったというのが結論であります。我々読者の心の中に、キャラクター達は生きているわけで、既に完結した物語の「その後」が読めるというのは、やっぱり本当にうれしいものですね。高田先生、ありがとうございました! そして、次の『あきない世傳』の新刊もお待ち申し上げております! 以上。

↓ ドラマは結局あまり見なかったす。澪ちゃんを演じた黒木華ちゃんは最高だったんすけど、又次兄貴と種市爺ちゃんのイメージが、あっしが妄想していたのと違い過ぎて……。。。

 わたしが今、日本の小説で一番新刊を待ち望んでいる作品、それが高田郁先生による『あきない世傳』というシリーズである。そして、この度最新の(4)巻が発売になったので、やったー! とさっそく買い求め、一気に読み終わってしまった。というわけで、さっそくネタバレ満載で感想をつづってみたい。本当にネタバレまで書いてしまうと思うので、気になる方は読まない方がいいと思います。

 さてと。一応、発売日は昨日なのかな。わたしはおとといの帰りに本屋さんで売っているのを見かけて、おおっと!新刊キター!とさっそくレジに向かったのだが、おそらくは日本全国でわたし同様に喜んだ方々はきっと70,000人ぐらい存在しているのではなかろうか。何しろ売れている。高田先生の前シリーズ『みをつくし料理帖』はちょっと前にNHKドラマ化も果たしたばかりだし、その知名度も上がっていようことは想像に難くない。しかもそのドラマでの主演は、わたしが高田先生の作品を読むようお勧めしてくれた、当時わたしが大変お世話になっていた美人お姉さまが、映像化するならきっとあの女優がいいわね、と言っていた通りの黒木華ちゃんがヒロインを演じ、わたしもせっせと見ていたが、華ちゃん=澪ちゃんは極めて役柄にぴったりで、大変楽しませてもらったところである(ただしNHKドラマは、え、ここで終わるんだ、という変なところで最終回的な空気もなく結構バッサリ終わっちゃった。まあ、きっと続編が作られるんだろうと勝手に予想している)。

 で。この『あきない世傳』であるが、(1)~(3)巻までの詳しいことは、過去の記事を読んでもらうとして、ざっくり話をまとめると、ヒロインである幸(さち)ちゃんは、現在の西宮あたりの村に住む少女だったが、父を亡くし兄を亡くし、と、立て続けに一家の働き手を失ったため、母と妹を故郷に残し、大坂は天満橋の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公に出る。その時9歳。時代は1733年、かな。その後、幸ちゃんは持ち前の賢さから熱心に商売の勉強をし、皆に可愛がられるのだが、(2)巻で大変な事件が起こり、なんと、その五鈴屋の4代目となったバカ男(長男)の嫁になる。しかしその4代目がとんでもないクズ野郎で、幸ちゃんはどうなっちゃうのよ……とハラハラしていたらそのクズは死亡、そして(2)巻ラストで、その弟(次男)が5代目を襲名してもいいけど、幸ちゃんを嫁としてもらうぜ!宣言が起こる。この時点での幸ちゃんは17歳まで成長している。
 続く(3)巻では、5代目の次男は、冷酷で意地悪なやな奴、かと思いきや、商売には超有能で、売掛金の回収サイトの変更や在庫処分セールの実施など、様々なビジネス構造改革を断行し、いろいろな反発は食らうものの、きちんと成功はするのだが、その成功の要因として、なにかと幸ちゃんの提案する事業計画というか販促宣伝プランがうまくいったこともあって、夫として若干面白くない、と思っていたところに、先行投資として出資していた生糸の生産地の村へ貸し付けが、両替商の倒産でデフォルトとなってしまい(わかりやすく言うと、五鈴屋は生糸の生産地の村に、増産のための設備投資に必要な資金を両替商の発行する約束手形で貸し付けたが、その両替商が倒産したために、村に貸し付けた事実だけが残って、手形は紙くずになり、村は借金だけを背負うことに)、その結果ステークホルダーから、あんたのせいだ、とある意味逆ギレされてしまって5代目は大ピンチに陥ってしまう。この時点で幸ちゃんは21歳まで成長、もちろん、すっかり大変な別嬪さんである。
 で、今回の(4)巻は、その続きである。
 経営企画として長い経験があるわたしにとっては、今回の(4)巻も、ビジネスの観点から見て大変に興味深く、実に面白いという感想を得た。
 まず、メインストーリーをズバリ書いてしまうが、やらかしてしまった次男こと5代目は、この(4)巻冒頭で失踪してしまう。ただし、無責任に姿を消すのではなく、きちんと地元呉服屋協会に「隠居」届を提出し、妻たる幸ちゃんにも離縁状的なものを提出し、まあ、一応きちんと(?)辞任届を提出して筋は通すという次男のキャラらしい失踪の仕方である。しかし、これはわたしは知らなかったが、当時の大坂商人の常識として、女子は店主=代表取締役になれないらしいんだな。というわけで、五鈴屋は存亡の危機に陥るのだが、ここでも次男はちゃんと手を打っていて、弟である三男に、おまえが店を継いで6代目になるんだよバカヤロー! と一発ぶんなぐっていたのであった。
 しかしこの三男が、これまた問題のある野郎で、大変心の優しいイイ奴で、実際、幸ちゃんのことはその少女時代(自分も少年だった時代)から大好きだったのだが、これがまたとんでもなく夢追い人のだめんず野郎で、おれは作家になるんだ!と9年前に実家たる五鈴屋を出て行ったというか追い出された野郎だったわけです。イイ奴なんだけどね。で、散々説得されて、お前ももういい年なんだから、夢見てんじゃねえよ、という趣旨のことを元営業本部長(番頭さん)で現在は引退していた社外顧問的なやさしいおじさんにやんわり諭され、また2代目の女房たる祖母の健康状態も良くないこともあって、ようやく、よし、オレにはビジネスの才はないけれど、大好きな幸ちゃんと一緒になれるなら6代目を就任してもいい、そしてオレは完全にお飾りの、対外的には店主を演じるけれど、実質的には幸ちゃんを代表取締役として、人形のように幸ちゃんに操ってもらうよ! と、こう書くと果てしなく情けないダメ男だけれど、まあ、そういうわけで、なんと(4)巻冒頭で幸ちゃんは3人目の旦那と結婚することになるのであった。
 これは何というか……まあ、わたしとしては、きっと幸ちゃんは将来的にはやさしい三男と結ばれて、幸せになるんだろう、と想像していたので、驚愕はしなかったけれど、まさかこんな早いタイミングで!? というのは驚いた。幸ちゃん、3回目の結婚である。
 そして、まあ二人は仲良く、五鈴屋を大きく成長させていくわけだが、今回の(4)巻でのお話を現代ビジネス風にまとめると、以下の4つのビジネスプランが実行される。これが非常に面白い!
 1)販路の拡大
 これまで五鈴屋は、基本的に大坂内だけの、こちらから品物を持っていって買ってもらうという訪問販売と、お店に来られる常連客への販売が基本ビジネスだったが、それだと当然顧客も限られ、売上拡大にも限界があり、どうしても販路の拡大が必要なわけだ。要するに、こちらから行けない、お店にも来られない、お店を知らないような、遠く離れた人にも売りたい、ってことですな。これは、今で言えば、たとえばWeb通販のようなものと言っていいだろう。お取り寄せ、あるいは移動販売、的な感じかな。まあ、当時は当然Webなんぞあるわけもなく、幸ちゃんが採用した販路拡大作戦は、「行商人への卸売り」だ。つまり、主に東北地方を行脚している近江商人=行商人に、五鈴屋の取り扱う反物も一緒に持って行ってもらって、地方の人々に売ってきてもらう、という手である。競合と戦わない市場開拓、という意味ではブルーオーシャン戦略ですな。確かに、上物の反物は高価なので実際に購入してくれるお客さんは限られているかもしれないけれど、間違いなく日本全国で需要があり、行商人も結構あっさり取り扱いを決めてくれる。しかも委託販売でもなく、回収サイトの長い掛け売りでもなく、現金即金払いと破格の条件で買い取ってくれたのだから凄い。しかし行商人に関しても、わたしの常識? とは違って、天秤棒で担いで売るんじゃなくて、商品を前もって拠点となる宿に先に船便で送って、そこをベースに得意客を回るものなんだそうだ。へえ~~である。まあ、正直出来すぎな展開だが、結果的にこの策は当たり、行商人に卸した商品もきっちり売り切れ、追加発注までもらって五鈴屋は大儲けであった。おもしろいすねえ!
 2)フランチャイズ展開による在庫処分
 行商人がうまくいった幸ちゃんの元に、かつて五鈴屋で頑張っていた、けど、(3)巻だったかな、5代目と衝突して(いや、(2)巻で4代目のクソ野郎と衝突したんだっけ?)、五鈴屋を退職していた二人の手代が、再就職先が倒産して困っているという話が伝わる。彼らを再雇用するというのもアリだが、それよりも、彼らが独立して商売ができるような手はないかしら、と思った幸ちゃんがひらめいたのは、五鈴屋で在庫となってしまった反物を彼らに預け、行商してもらえばいいんじゃね? というアイディアだった。その際、彼らには五鈴屋のロゴ入り風呂敷に荷物を包んでもらって、運んでもらえばブランド戦略にもなるし! みたいな展開である。ここでは、売った分だけでいい、という「委託販売」の方法にを採っている。そうすれば彼らも元手はかからないし、というわけで、これは現代的に言うと、わたしには「フランチャイズ展開」に近いだろうな、と思えた。いわばロイヤリティを取るけど、商品仕入れはこちらでやるし、ブランドロゴも用意し、あとはあなたたちの努力次第、みたいな感じである。ちなみにこの時、大きな助けとなったのが、(1)巻で4代目のクソ野郎に最初に嫁いで後に離婚した菊栄さんで、彼女は現在実家に戻ってお店を弟(兄だっけ?)とやっているのだが、お鉄漿で大ヒットを飛ばし、人気店として頑張っている。そして、そのお鉄漿の生産地には、もうかっているけど田舎なので金を使う道がなくて、きっと五鈴屋の反物を求めている人がいっぱいいるわよ、と紹介状を書いてくれて、それがあって元手代たちは最初の在庫を見事売り切り、みんながハッピー、Win-Win-Winぐらいの大成功となる。まあ、これも正直出来すぎ、ではあるけれど、いいの! 読んでいて楽しいから!
 3)プロダクトプレイスメント
 そして3つ目が、これはビジネス改革というより宣伝プランなのだが、なんと幸ちゃんは、現代で言うところの「プロダクトプレイスメント」までひらめき、実行し、大成功してしまうのである。えーと、まず「プロダクトプレイスメント」ってのは何か説明すると、ごく簡単に言うと、ドラマや映画などで、主人公が何気なく使う品、を提供して、劇中で使ってもらい、さりげなく広告する手法だ。まあ、普通はスポンサーだとかの商品が不自然に置いてあるとか、やけにロゴがアップで写るとか、そういう形で行われるので、下手にやると下品極まりないけれど、幸ちゃんの実行したやり方は実に面白かった。現在の夫は、元作家志望のだめんず野郎だけあって、浄瑠璃の世界にも知り合いがいるわけですよ。その、浄瑠璃の人形に、五鈴屋の「桑の実色」の反物を無償提供するんだな。もちろん、一切、五鈴屋の宣伝をしてくれとかお願いせず、ただ、無料提供するだけである。そして、幸ちゃんが、同じ反物から作った着物を着て、その浄瑠璃を観に行くわけですよ。ここでポイントなのは、そもそも幸ちゃんが超美人で目立つ、ってことですな。お客さんは、おお、あの人形の着物はきれいな色でいいねえ! と思う→ふとみると、おっと!なんだあの別嬪さんは!人形と同じ着物着てるぞ!?まるで人形のような美しさじゃないか!!とざわつく→幸ちゃんは一切しゃべらず、にっこりするだけで去る→これを10日連続で行い、現代的に言うと、完全にBuzzるわけですな。結果、五鈴屋さんには「あの桑の実色の反物をくださいな!」とお客さん殺到。しかも周到なことに、幸ちゃんはあらかじめ「桑の実色」の反物を買い集めておいて、在庫もしっかり確保してるわけですよ。えーと、しつこいですが、やっぱり出来すぎ、ではあると思う。けど、痛快ですなあ! わたしは大変楽しめました。
 4)M&Aによる事業規模の拡大
 そして今回、最大のポイントがラストに待っていました。いままで、かなり五鈴屋の味方になってくれていた同業の桔梗屋さんが、後継ぎもいないし、もう歳だし、ということで、お店を売りに出すことになる。その時、よし、じゃあわたしが桔梗屋さんを買い取りましょう、ちゃんと従業員は継続雇用するし、お店の名前も桔梗屋さんのままでいいですよ、といいことづくめのように見えたが……まあ、実は全然いい話じゃなく、買い手はクソ野郎だった、ということで、桔梗屋さんは激怒&手付をもらっていたために大ピンチに陥る。そこで幸ちゃんが下した決断はーーー! というのが最後のお話で、これは実際に今までさんざんM&Aをやってきたわたしには、超何度も見かけたお話で、とても面白かった。わたしの経験では、M&Aはたいてい失敗しますよ。これは経験上、わたしは断言してもいいと思っている。お互いがお互いを尊敬し思いやるような、心の美しさがM&A成功のカギで、結局のところ、人、がすべてなのだが、最初に言っていたことを反故にするのなんて、もう何度も目にしてきたし、上手くいったのはほんの一握り、なのが現実だ。買収前後のゴタゴタは本当につらいことなのだが、幸ちゃんの決断は実に胸のすくもので、今回はここで終わりか! というエンディングだったので、次の(5)巻が今からもう楽しみでたまらないのであります。次はまた、年明けあたりだろうな……とてもとても、楽しみです!

 というわけで、もう長すぎなので、ここで結論。
 高田郁先生による最新刊『あきない世傳 金と銀(4)貫流編』が発売になったので、すぐさま買い、すぐさま読んだわたしだが、今回も非常に面白かった。高田先生の作品は、おそらく主に女性読者に人気なのだと思うけれど、この『あきない世傳』シリーズは、世のビジネスマンが読んでも大変面白い作品だとわたしは確信している。とりわけ今回のビジネスプランは実に面白かった。そしてとうとうM&Aまでがテーマとなり、これは全国の経営企画室の人々にぜひ読んでもらいたいと思う。そして、自らが手掛ける案件を想い、真面目に、誠実に、まっとうに、嘘をつくことなく、職務を全うしてもらいたいな、と思った。現代ビジネスの世界は、ほとんど契約に縛られているので「情」の出る幕は実はほとんどないのが現実だけど、やっぱり、「情」のない奴との仕事はつまらんというか……そういうやつとは付き合いたくないですな。幸ちゃん……あなた、生まれるのが250年早かったかもね……部下に欲しかったよ、君のような女子が……以上。

↓ お、DVDは発売されてますね。華ちゃん=澪ちゃんはいいすねえ! 華ちゃんは大阪人だから、澪ちゃんにぴったりでおますなあ! 女子のしょんぼりフェイス愛好家のわたしには、華ちゃんの「下がり眉」は最高でした。
みをつくし料理帖 DVD-BOX
黒木華
ポニーキャニオン
2017-11-15

 おととい土曜日にこのBlogで感想を書いた、高田郁先生による『出世花』という作品だが、すでに書いた通りわたしは痛く感動し、大変楽しめたわけだが、昨日の日曜日、その続きとなる『蓮花の契り 出世花』という作品をすぐに読み出して、実は140分ほどで読み終わってしまった。そして、まあある意味当然だが、今回もまた、大変心にしみる泣けるお話であったのである。以上。
 で、終わらせてもいいのだが、近年とみに記憶力の低下しているわたしであるので、いつも通り、いつかの備忘録のため、エピソードガイドを簡単にまとめておこうと思う。今回もネタバレ満載なので、以下を読む場合は自己責任でお願いします。かなりクリティカルなネタバレも含んでいると思いますので。※昨日の記事にキャラ紹介まとめてあります。
蓮花の契り 出世花 (ハルキ文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2015-06-13

 というわけで、本作は、『出世花』の直接の続編であり、完結編である。前作同様4話構成で、1806年から1808年の2年間のお話であった。それすなわち、主人公のお縁ちゃんは22歳から24歳、ということになるみたい。初登場時が9歳で、15歳で「三味聖」となり、それから7年の時が経ってるわけですな。たしか前作のエンディング時は19歳ぐらいじゃなかったっけ? それからも少し時が経っているということになりますね。ちなみに言うと、この時代背景は『みをつくし料理帖』にとても近くて、たしか『みをつくし』の冒頭が1812年ぐらいで、その時主人公の澪ちゃんが18歳ぐらいだったので、本作の主人公お縁ちゃんは澪ちゃんより10歳ぐらい年上ってことになりますな。きっと江戸ですれ違ってるかもしれないすね。お縁ちゃんは世俗と離れてるから「つる屋」のことは知らないかもしれないけど、澪ちゃんは「三味聖」のうわさを聞いたことがあるかもしれないですな。
 さて、どうでもいい前降りはいい加減にして、さっさとまとめるか。
 ◆第1話:「ふたり静」
 前作でお縁が出会った神田明神の近くの岡場所所属の遊女「てまり」さんのお話。半年前江戸を襲った大火で、神田明神の近くも焼け野原になり、以来ずっと、4年前、お縁ちゃんが18歳の時に出会ったてまりさんは無事かしら、と大変心配していたが、ある日、ばったりと四谷の近くで、てまりさんそっくりな女子に出会う。しかしその日はあっさり見失うものの、翌日(だっけ?)、お縁ちゃん愛用の数珠のひもが切れてしまい、佛具師に紹介してもらった四谷の数珠職人の元へ行くと、なんとそこには、まさしくてまりさんが! しかし、完全に記憶を失っていて、数珠職人の元武士の男と暮らしていたのだった。聞けば、男の母(若干ボケ気味)が、亡くした男の妻と勘違いして疑似家族的に暮らしているとか。そしてその母がとうとう亡くなり、お縁ちゃんによる湯煎を見て、てまりちゃんはすべてを思い出し――てなお話。男の過去の話も泣けるし、てまりちゃんがなんとも泣かせる……!
 ◆第2話:「青葉風」 
 お縁ちゃんが15歳の時、養女にしたいと言っていた「桜花堂」の若旦那、仙太郎さんが青泉寺にやってくる。……もう、皆さん前作を読んでいると思うので、スーパーネタバレだけどいいすよね? そう、この桜花堂のおかみさん、お香さんこそ、まさしくお縁ちゃんを幼少期に捨てて別の男と逃げた実の母なわけですな。で、お香さんは結局その一緒に逃げた男とも死別し(だっけ?)、桜花堂の旦那さんの後添えとして迎えられ、さらにその旦那さんを前作で亡くしているわけです。つまり、わかりにくいと思うけれど、若旦那の仙太郎さんは、血のつながらない息子なわけだ。その仙太郎さんが、お縁ちゃんを桜花堂で預かりたい、という話を持ってくる。その理由は、どうもお香さんと仙太郎さんの嫁のお染さんが、とにかく折り合いが悪く、嫁姑バトルが激しくて奉公人たちも参っており、その険悪な空気の中に、お縁ちゃんを投入することでちょっとは改善されるんじゃねえか、と思ったかららしい。お縁ちゃんとしては、正直、実の母とはいえ、若干お香さんに対してわだかまりがあり、全く気が進まないものの、和尚さんである正真さんに、「行ってきなさい」と言われて、半年間桜花堂で過ごすことに。そして、桜花堂で大変な事件が起こる。桜花堂の名物、桜最中を食べたお得意様が急死し、毒物混入疑惑が持ち上がって仙太郎さんが番屋にしょっ引かれてしまうのだった―――。
 このお話では、定回り同心の新藤さまが再び登場し、またも検視官ミステリーめいた展開で大変興味深く面白かったすね。そして実家に戻ってしまうお嫁さんのお染さんがなんかとても可哀想というか……なんか仙太郎さんが女心を分かってなさ過ぎてつらい……。
 ◆第3話:「夢の浮橋」
 桜花堂のピンチを救ったお縁ちゃんは、ますます桜花堂での存在感を増し、お香さん、仙太郎さん、そして奉公人のみんながお縁ちゃん大好きになっていく。そんな中、実家に戻ってしまったお染さんとばったり出会ったお縁ちゃんは、仙太郎さんとお縁ちゃんの関係修復のために、富岡八幡へのお祭りに連れて行ってくれという口実で、仙太郎さんをお染さんの実家のある深川へ連れていくことに成功するが、大川(隅田川)にかかる「永代橋」で、とんでもない大事故が発生してしまう。九死に一生を得たお縁ちゃんだったが、千人を超える死者を出した事故現場で、お縁ちゃんは三味聖として死者の悼むのだった。そして約束の半年が過ぎたとき、お縁ちゃんは一つの決断を下す――てなお話。ここで描かれる永代橋崩落事故は、どうやらWikiによると本当に起きた大惨事らしいですな。何とも痛ましい事故で、読んでいてつらい……。
  ◆最終話:「蓮花の契り」
 大事故から2か月後。青泉寺に戻ったお縁ちゃん。しかしある日、いつも青泉寺へやってきてはお菓子ばっかり食って帰る臨時回り同心の窪田さまが、どうやらお縁ちゃんの、三味聖としての死者を悼む姿が江戸市中では読売で評判となり、その神々しさに、あれぞまさしく「生き菩薩」だ、と大感動の渦だという知らせを持ってくる。そして窪田さまは、それはそれでいい話だけれど、あまりに目立った存在は、幕府に目をつけられて、「人心を掴むもの=幕府の敵」として何かよからぬことが起きねばよいが……と不吉な予感を告げる。そしてまさに寺社奉行の役人がやってきて、青泉寺を閉門せよと言ってくる。 あまつさえ、正真さま、正念さまが番所に連れていかれてしまう。青泉寺最大のピンチ。寺社奉行管轄外の「墓寺」であっても、僧籍を持つ正真さま・正念さまは僧侶として寺社奉行の支配下にあり、その決定は逆らえない。おまけに正念さまの実家からも、還俗のお願いが来て――と非常にピンチが重なるお話で、そんな大ピンチに、お縁ちゃんが最終的に下す決断がとてもすがすがしく素晴らしい。完結編にふさわしい、とてもいいお話でありました。まさか三味聖引退か!? とはわたしは一瞬も思わなかったすね。もう、前話でお縁ちゃんの心は決まってたもんな。実母であるお香さんとのわだかまりも、きちんと解くことができたし、ホントにすべてがきっちり収まるところに収まってホッとしましたよ。正念さんもまったく素晴らしい男ですな。

 とまあ、こういう展開で、わたしは大変楽しめました。
 しかし、わたしもまったく世俗にどっぷり浸かっている男なので、定回り同心の新藤さまがお縁ちゃんに言うセリフが、わたしとしては非常に心に残りました。新藤さまは、利発でまじめなお縁ちゃんをいたく気に入って、ホントにお前はイイ女だよ、と大絶賛するのだが、一方で、その思いつめたような、ある意味かたくなな心に、こういってあげるわけです。
 「 お縁、ひとに惚れる、ってのも良いもんだぞ。物言わぬ骸ではなく、血の通った相手に目を向けることも忘れるなよ」
 このシーンはとてもイイすねえ。わたしは非常にグッと来た。お縁ちゃん、三味聖として生涯をささげることに、何も異を唱えるつもりはないけれど、この新藤さまの言葉は忘れない方がいいぜ。そして君は君のしあわせを、三味聖としてつかんでおくれ。とまあ、そう願わずにはいられないすね。

 というわけで、結論。
 高田先生による『出世花』第2巻にして完結巻、『蓮花の契り 出世花』をかなりあっという間に読み終わった。そして今回も大変泣けるお話で、大変心にしみました。いいすねえ……お縁ちゃん、あんた、ホント、幸せにおなりなさいな。君に幸あれ――そう願っております。やっぱり、真面目にまっすぐに生きる人間が報われるお話は、ほっとしますね。ほんと、現実の世もそうあってほしいものですよ。まあ、報いを求めるつもりはないけれど、いつかイイことがあるさ、と思うことぐらい許してほしいす。ちゃんと真面目に生きますので。高田先生の作品は、なんか勇気をくれますね。そこが高田作品の魅力なんでしょうな。まあ、要するにですね、最高です。以上。

↓  高田先生の作品で読んでないのは、あとこれだけかな。すでに購入済み。母曰く、これも大変イイお話とのこと。ちょっとインターバルを置いて、そのうち読もうと思います。
あい―永遠に在り (時代小説文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2015-02-14

 湯灌、という言葉を現代の若者が知っているのかどうか、相当怪しいような気がする。実際わたしも、その場に居合わせるまで知らなかったし、そもそもそのようなことを知りもしなかった。
 わたしはちょうど20年前に父を亡くしているのだが、わたしはまさしくその時、初めて知った。湯灌とは、遺体を棺に納める前に、湯で洗うこと、要するに最後の風呂に浸からせることだ。今から考えると、結構珍しいことのような気がするが、わたしの父の場合は自宅で葬儀を執り行ったのだが、今はもう都市部においては、自宅での葬儀というのはほとんど見かけないすね。いつからそうなったのか……さっぱりわからないが、現在では葬儀はほとんどが●●会館のような専用施設で行うのがほぼ一般化されているといってよいだろう。そういう場合は、湯灌も専用設備があるのだと思うが、わたしの経験した父の葬儀の場合は、まさしく自宅で、葬儀社が持ってきた専用の、ちょっと特殊というか見慣れない、そうだなあ……深さ50㎝ぐらいだったかなあ? やけに浅い湯船のようなもので湯灌が執り行われたのである。その光景は、極めて厳粛なものとして、いまだに忘れられない。
 というわけで、わたしが昨日の帰りの電車内で読み終わったのが、高田郁先生による『出世花』という小説である。すでにこのBlogでも散々書いている通り、『みをつくし料理帖』や『あきない世傳』シリーズでおなじみの高田先生の小説デビュー作である。もう最初に書いちゃいますが、まあ泣けましたなあ……泣ける度合いとしては、わたしとしてはこれまでの高田先生の作品の中では随一ではなかろうかと思う。まあほんとに超いいお話でありました。

 物語は、江戸時代中~後期にかけて、江戸は内藤新宿の先の下落合の「墓寺」を舞台に、湯灌師として働くことを決めた一人の少女の目を通して語られる人情話である。いつもの高田先生の作品のように、本書は4つのエピソードからなる短編連作と言っていいだろう。今回は、キャラ紹介、エピソードガイド、そしてこの作品を読んでわたしが初めて知ったこと、をまとめてみようと思う。いつも通りネタバレ満載ですのでご注意を。
【キャラ紹介】
 ◆お艶(→お縁→正縁):主人公の女子。初登場時は9歳。下級武士の娘。母が不義密通で駆け落ちし、父とともに妻敵討ち(めがたきうち)の旅に出るも、江戸で野垂れ死に一歩手前で行き倒れているところを、下落合の墓寺「青泉寺」の住職に助けられる。父はそのまま死亡。父は死の間際、住職に、この子の名を新たに与えてほしい……と頼んで、艶から「縁」に名が変わる。その後お縁と名を変えて青泉寺で養育されるが、湯灌された父の、すべての苦悩から解き放たれた安らかな死に顔をみて、湯灌師になりたいという希望を持ち、15歳の時に「正縁」という名を得る。なお、僧籍にない、湯灌の手伝いをする人々を「毛坊主」(剃髪してない坊主もどき的な蔑称)と呼ぶのだが、上方では「三昧聖(さんまいひじり)」と呼ぶそうで、以後、正縁は、人々の間では三昧聖と呼ばれ、「三昧聖の手にかかると、病みやつれた死人は元気なころの姿を取り戻し、若い女の死人は化粧を施され美しく輝くようになる。三昧聖の湯灌を受けた者は、皆、安らかに浄土へ旅立ってゆくのだ」という評判が立つようになる。現代で言うところの納棺師というものですな。まあ、とにかくいい子ですよ。大変けなげで大変泣かせてくれます。当然美少女です。
 ◆正真:青泉寺の住職さん。いい人。年齢表記があったか覚えてないけどイメージ的に50代ぐらいか?
 ◆正念:青泉寺の若いお坊さん。超いい人。実は僧籍に入る際に深い事情があって……それは第4話で明かされます。その話がまた泣けるんすよ……。
 ◆市次:青泉寺の下働きの男の一人で最年長。正縁の先輩。これまたいい人。
 ◆仁平:青泉寺の下働きの男の一人で真面目な人。正縁の先輩。もちろんいい人。
 ◆三太:青泉寺の下働きの男の一人で最年少。正縁の先輩。まだ若干俗世間的な執着はあるけどなんだかんだ言って正縁の味方のいい人。
 ◆お香:内藤新宿の(今でいう四谷三丁目あたりか?)菓子司「桜花堂」のおかみさん。幼いお縁を養子にもらおうと思うが、お香本人も知らなかった驚愕の事実が……! 
【エピソードガイド】
 ◆第1話:出世花
 物語の始まりから、三味聖として生きる決意をするまで。成長のたびに、「お艶」→「お縁」→「正縁」と名前が変わるのを、出世魚じゃねえんだからよ、おれたちにとっちゃお縁坊はお縁坊だぜ、と市次兄さんがいうのを聞いていた正念さんが、「正縁は魚ではない。さしずめ「出世花」というところかな。仏教で言うところの「出世」とは、世を捨てて仏道に入ることだ。正縁は名を変えるたびに御仏の御心に近づいていく。まことに見事な「出世花」だ」と泣かせることを言って幕が閉じる。なぜ泣けるかは、ぜひ自分で読んで感じてください。わたしは、「出世」という言葉は、「世に出る」ことかと思ってたけれど、仏教的には「世を出る」ことだったんすねえ。逆だったのか……なるほど、てことは、現代の出世した、と言われる人々は、ほとんど出世してねえってことなんだなあ。むしろ逆に、より一層世に縛り付けられることが現代の出世なわけで、なんか感じるものがあるすね……かつて社会的に結構出世したわたしも、今は本当の意味での出世に近いのかもなあ……。いや、まだまだか。どっぷり世に浸かってるし。
 ◆第2話:落合蛍
 いつも青泉寺に棺を納品に来る龕師(=棺職人)岩吉さんの泣けるエピソード。岩吉は無口で容貌が超おっかない鬼の形相だし、おまけに棺職人なので、残念ながら人々に避けられている孤独な男なのだが、これまた超イイ奴で、その儚くも報われぬ恋の顛末を描く物語であった。残念ながら、ただしイケメンに限る、のは今も昔も変わらないようで……岩吉さんの優しさが心にしみますなあ……。そしてこの話から、若干犯罪捜査ミステリー的な面も出てくる。大変面白い。
 ◆第3話:偽り時雨
 この話は、神田明神そばの幕府非公認岡場所の遊女が、はるばる下落合の青泉寺にやってくるところから始まる。容態が悪く、死に瀕した先輩遊女が、どうしても最後は三味聖に湯灌してほしいと言っているとか。そこでお縁は、その遊女の案内で、初めて江戸を横断して神田明神界隈へ。そこで、それまで全然世間を知らなかったお縁は、江戸市井の人々の生き方を知る。そしてこの話は、検視官的犯罪ミステリーでもあって、かなり面白かった。この話で定回り同心の新藤さまと知り合う。
 ◆第4話:見返り坂暮色
 最終話。正念さんの超泣けるエピソード。ある日、立派な身なりの武家が青泉寺へやってくる。聞けば危篤の奥方がいて、どうしても正念さんに会わせたいのだとか。しかし正念さんは、もはや出家の身、それすなわち俗世との縁はすべて断ち切った身であり、行くことはできないときっぱり断るのだが、どうやらその危篤の奥方とは、正念さんのお母さんであるようで――てなお話。ここで語られる正念さん出家の理由がまあ泣けますよ。そしてやっぱりお縁の湯灌の様子も、ホント心にグッときますなあ……。
【初めて知ったへぇ~な事実】
 ◆「墓寺」ってなんぞ?
 江戸時代、寺社仏閣は、もちろん「寺社奉行」の管轄であり、町奉行の手の及ばないところというようなふわっとした知識は、まあ誰でもお持ちだろうと思う。時代劇なんかでもおなじみですな。寺社奉行の歴史は古くて一休さん(※時代的に室町時代の足利将軍時代)に出てることででおなじみの新右衛門さんも、寺社奉行のお人でしたね。
 で、墓寺というのは、どうやら寺社奉行の管轄外=幕府非公認のお寺だそうで、お葬式専門のお寺のことなんだそうだ。へえ~。そんなお寺があったんすね。それは、背景としては、江戸市中ではすでに火葬が一般的ではあったんだけど、火葬場施設を持っていない幕府公認の普通のお寺もまだ多かったし、幕府公認の公設火葬場も5か所しかなく、どうやら簡単に言うと、全然足りない状況だったらしい。ゆえに、葬儀専門寺としての「墓寺」というものの需要が高かった、ということだそうだ。へえ~。全然知らなかった。
 ◆「湯灌」の作法
 ・逆さ水:ふつうのお風呂は、沸かした熱い状態に水を入れてちょうどいい温度にしますわな。しかし、湯灌の場合は、先に水を入れて、湯を注いでちょうどいい温度にするんだそうだ。へえ~。
 ・「使用後の湯」の捨て方:これはあらかじめ定められた「日の当たらぬ場所」に捨てることが決められているらしい。まあ、湯灌師は「屍洗い」という蔑称で呼ばれていた時代(ま、現代でも湯灌を見聞したことのない人はきっと、その仕事の尊さは全く理解できないだろう。本作でも、「見ず知らずの死人を洗う、などと、考えただけでも身の毛がよだちます」なんていわれてしまう)、その湯灌に使ったお湯をそこらに無造作に捨てていたら、そりゃちょっとアレですわな。だからきちんと、ひょっとしたら仏教的な意味も明確にあると思うけれど、捨てる場所が決まっていたんだそうだ。へえ~。
 ・「湯灌」時の服装:これもきっちりルール化されていて、「縄帯に縄襷を身に着けるべし」と決まっているそうだ。なるほど。へえ~。
 ・場所について:家持でない者の自宅での湯灌は許されない。よって当時はたいてい、寺院の一角に設けられた湯灌場にて僧侶立会いの下に行われるのが常であったそうです。へえ~。わたしの家は持ち家だったから許されたのかな。あの時お坊さんは来てたっけ……ああ、確かに来てたような気がするな。でも、納棺師の方は、縄帯・縄襷ではなく普通にスーツにネクタイだったかな。
 ◆ところで……このお話って、あの映画に似てるよな……
 わたしは本書を読み始めて、真っ先に思い出したのが、第81回アカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』だ。あの映画はわたしも公開初日に観に行って深く心にグッと来た作品であったが、本作も、同じ納棺師を主役としている点で共通している。ただ、まあ好みとしては本作の方が味わいは深いかな……いや、どうだろう、比べることに意味はないか。どちらも素晴らしいと思う。わたしが興味深いと思ったのは、本作『出世花』は2008年6月刊行、そして映画『おくりびと』が2008年9月公開であったという、非常に近い時期に世に出た作品であるという共通点である。ま、どっちが先かなんてことはどうでもいいけれど、ここまで似た作品がこんなに近いタイミングなんで不思議すね。偶然?なんだろうな。他に何か理由があるのかな。あ、元々は祥伝社の小説公募で2007年に奨励賞を受賞した作品なんすね。へえ~。知らんかったわ。

 というわけで、もう長いので結論。
 高田郁先生による『出世花』という作品を読み終わった私であるが、またしてもわたしは高田先生の作品にいたく感動してしまったのである。大変グッときましたよ。素晴らしいお話でありました。実は本作『出世花』には、第2巻があって、それで完結しているらしいので、早速そちらも読み始めようと思っております。しかしなんというか、現代人が忘れちまったことを、いろいろ思い出させてくれますね。そういう作品ばっかり読んでいると、ホント、現世が嫌になってしょうがないす。あーあ……いったいいつまで生きねばならんのだろうか……いつあの世へ行けるのか、正確にわかっていれば、相当いろんな悩みから解放されるというか、きっちり計画的に生きられるんだけどなあ……まあ、明日突然でもいいように、毎日真面目に、清く正しく美しく生きたいと思います。以上。

↓ この作品も漫画化されてるんすね。ちょっと気になるわ……。全4巻みたいすね。ああそうか、各話ごとってことか。なるほど。電子化されてればすぐ買うのに……。
 

 わたしが高田郁先生の作品と出会ったのは、去年の春である。当時大変お世話になっていた美人お姉さまのHさんに、これを読んでみろ、と教えてもらったのが『みをつくし料理帖』というシリーズで、教えてもらってすぐに本屋で1巻2巻を買い、その後読み終わってすぐに全10巻まで買いそろえて毎日せっせと読んだ。そしてさらに、高田先生の新シリーズである『あきない世傳』シリーズも読み始め、現在もなお続くシリーズの新刊をまだかなーと待ちわびている状態である。それらの感想は散々このBlogでも書いたので、再び詳しくは触れないが、まあ実に面白い。その面白さの源は、わたしとしてはキャラクターの心根のまっすぐさ、すなわち、まっとうに生きる登場人物たちが真面目にコツコツと生きる姿であり、お天道様に顔向けできないようなことは決してしない、誠実さに、とても心惹かれるのだと思う。
 わたしは生きる指針として、自分で「そりゃあ違うなあ……」と思ったことは、もうしたくないと思っている。遠回りであれ、めんどくさく、つらく厳しい道であろうとも、自らが正しいいと思う、やましさのない道を生きていこう、とおととし決意し、今に至っているわけだが、まあ、実際なかなか難しい生き方であり、損か得かで言うと、経済的にはまったく損な道ではあるが、精神的にはまったくストレスのない、どうやら人間にとって大変好ましい道なんじゃないかしら、と思いつつある。おととし決意していなかったら、まあ確実に経済的には現在の3倍以上稼げていたが、金は勿論この現代社会においてほぼ一番重要であるとわかってはいるものの、まあ、年収が1/3になっても、金じゃねえさ、と若干の強がりを抱きながら日々暮らすわたしである。 カッコつけ、と思われるかもしれないが、そう、まさしくわたしは、心のありようとして、カッコ良く生きたいと思っているのだ。真面目に、誠実に生きること。それをわたしはカッコいいと思っているのである。
 で。わたしは高田先生の作品を読み続けていて、実は読み終わった後に、わたしの年老いた母に、これ、なかなか面白かったぜ、読んでみたら? と渡していたのだが、どうやら母のハートにも大変響くものがあったようで、『みをつくし』も『あきない世傳』も母は読破し、最近よく「次の新刊はまだかしらねえ」と言うので、まあ次の新刊は夏か秋じゃねえの? と答えていたところ、「ところで高田先生のほかの作品はないのかしら?」と母がつぶやくので、ああ、そりゃあるわな、と当たり前のことに気が付き、現在発売されている高田先生の他の作品を買って来て、先に母に読ませることにした。わたしはわたしで他に読む本が待機中なので、お先にどうぞ、ということである。
 というわけで、わたしは現在電子書籍でとある翻訳小説を読んでいるのだが、これがまたひじょーに時間がかかっており、ふと、母が読み終わった高田先生の作品を読んでみよう、という気になった。そんなわたしが、真っ先に手にしたのが、『銀二貫』という作品である。ちなみに、我が母絶賛のお墨付きである。

 何故この作品にしようとしたかというと、この作品は、2015年にわたしが愛する宝塚歌劇にて上演されたことがあるからだ。残念ながらわたしはその公演を観られなかったが、大変泣けるお話だということは聞いていたので、原作小説を読んでみたいと思っていたのだ。ちなみに2014年かな、NHKドラマにもなっているし、漫画化もなされているようだ。
銀二貫 (A.L.C. DX)
黒沢明世
秋田書店
2014-02-28

 おっと、おまけにどうやら今年の6月から、大阪松竹座でお芝居としても公演があるみたいだな。すげえ、大人気じゃん。わたしはそれらの二次創作を一切味わっていないので、実は物語もよく知らない、ほぼまっさらな状態で読み始めたのである。そして、結論をズバリ言ってしまうと、またもや非常にイイお話で、真面目に生きることを信条とするわたしとしては大変楽しめたのである。これは泣けたわ……。
 
 さてと。まずは簡単に物語をまとめておこう。以下、ネタバレもかなりあると思いますので、読む読まないの判断は自己責任でお願いします。
 時代は1776年から22年にわたる長い物語で、江戸中~後期の大坂を舞台としている。主人公・鶴之輔は、とある藩士の長男だったが、その父は藩で刃傷沙汰(?)を起こして逃亡していた、が、京・伏見で仇討の追っ手と出会い、斬られる。そしてその場に居合わせた、寒天問屋を商う和助は、思わずその場に割って入り、鶴之輔をも斬ろうとした侍に、「その仇討、銀二貫で買わせてもらいます!」と、伏見の寒天製造者から取り立てたばかりの全財産を差し出すのであった。その「銀二貫」は、金に直せばざっと33両。大火が続いて焼けてしまった大阪の天満宮へ寄進するために工面した大金であったが、何とかその金で矛を収めたお侍から、生き残った鶴之輔を連れて大阪へ戻り、鶴之輔を「松吉」という名で丁稚として雇用するに至る。そしてその「銀二貫」を再び貯めるべく、松吉としての第2の人生を歩むことになった鶴之輔の、苦労の多い、そして幸福な人生を描く――という物語であった。サーセン。かなり端折りました。
 物語としては、これでもかと言うぐらい艱難辛苦が降りかかるが、やっぱりキャラクターなんすよね。グッとくるのは。辛いことばかりでも、人は生きていくしかないわけで、迷わずにまっすぐ進むのは難しいわけだけれど、この物語に出てくるキャラは、みな、真面目に頑張るわけで、この物語を読んで、味わって、つまらんという人とは、まあ友達にはなれないすなあ。というわけで、主なキャラ紹介をしておこう。
 ◆鶴之輔改め松吉
 登場時10歳。寒天問屋の丁稚として真面目に働く。結構あっという間に大人になる印象。もと士分ということでやたらと姿勢がいいが、それは商人の丁稚スタイルじゃないと怒られることも。あきないは信用第一であり、その信用とは、自分個人が他人に信頼してもらうことではなく、暖簾に対する信頼が最重要だと教わる。初恋の相手、真帆ちゃんの父(料理人)から、もうちょっと硬い寒天があれば料理に幅が出るのだが……という話を聞いて、当時存在しなかった硬めの寒天づくりに奔走し、とうとう成功、それを用いた「練り羊羹」(=我々現代人が羊羹と聞いて思い浮かべるアレ。どうやら当時は「蒸し羊羹」しか存在せず、寒天を混ぜた練り羊羹は超画期的発明、らしい)の開発に成功する。大変真面目で不器用な好青年。NHKドラマ版では林遣都くんが演じたそうです。そりゃちょっとイケメン過ぎのような気が……。
 ◆和助&善次郎
 寒天問屋「井川屋」の店主&番頭。二人ともとてもいい人。松吉を救うために和助が「銀二貫」を手放してしまい、天満宮に寄進できなくなってしまったことを善次郎はずっと根に持っている。それは善次郎がかつて火事で奉公先を焼け出されたことがあって、天満宮への信仰が篤いためで、松吉としても大変心苦しく思っている。なお、作中で2回かな、あとチョイで銀二貫が貯まる、というタイミングで悪いことが起こり、その度に二人はせっかく貯めたなけなしの金を別のことに使ってしまうことになるが、まったく気にしないというか、また貯めるしかないね、と納得して金を手放すことに。なんていい人たちなんでしょう、この主従は。もちろん奉公人も大切に扱う善人。
 ◆真帆
 初登場時は10歳、かな。その時松吉は15歳。歳の差5歳すね。彼女の父、嘉平は、もともと井川屋が寒天を卸していたとある有名料亭の料理人だったが、その料亭が井川屋から仕入れた寒天の産地偽装をしていて、井川屋としてはもう付き合えまへん、と取引中止したことがあり、嘉平はそんなインチキ料亭を退職し独立していた。真帆は独立後の忙しい父のもとに寒天を配達に来る松吉と仲良くなり、まあ、はた目から見ればお互い完璧ぞっこんじゃん、という状態だったけれど、真帆も松吉もそれを表に出さず、あくまで発注元・発注先の関係だったが、火災によって嘉平死亡、真帆も顔の半分をやけどに覆われてしまう。その後、数年生死不明であったが、ある日松吉は美しく成長した真帆らしき女性にばったり出会い、再会を果たす。のだが、顔のやけどや命の恩人である女性への思いから、なかなか二人の想いは交差せず、読者としては大変いじらしく、またじれったく、ああ、この二人に幸せが来ると良いのだが……と見守るモードで物語を追うことになる。ま、当然最後はハッピーエンドでしょ、という期待は裏切られません。まったく……不器用な二人ですよ。だがそれがいい!のであります。ははあ、NHKドラマ版では、幼少期を芦田愛菜ちゃん、大人期を松岡茉優ちゃんが演じたんだ。そりゃあ可愛かっただろうな。
 ◆梅吉
 活躍するのは後半、井川屋の商売が厳しくなって奉公人が皆いなくなったときに、松吉と梅吉だけが残るのだが、松吉の同年代の同僚として結構心の支えになってくれるナイスガイ。君も最終的にはとても幸せになれて、ホント良かったな。
 ◆お広
 真帆が目の前で父を亡くした時、その場で同じく子を亡くした女性。気がふれて(?)、真帆を我が子「おてつ」だと思い込み、以降ずっと真帆をおてつと呼んでともに暮らす。団子屋を営み、味の評判は上々。真帆はどうしても彼女を放っておけなかったわけで、それが松吉との恋の障害になるわけです。しかし、お広も、亡くなる前には真帆と松吉との幸せを願っていたわけで、そのくだりは大変泣けます。
 ◆半兵衛
 もともとは、井川屋の仕入れ先である伏見の寒天製造業者の職人であり、松吉が鶴之輔として父の死後直後に伏見の業者に一瞬預けられていた時に出会っている。その後、故郷で独立し、伏見を襲った大火で仕入れ先を失った井川屋の、第2の仕入れ先になる。そして、松吉が追い求める従来品よりも硬めの寒天を製造するのに尽力する。まあ、彼も大変善人で、義理堅い男。ほんと、世の中こういう善人ばかりだと、生きるのも悪くないと思えるんだけど……悪い奴ばっかりだからなあ……やれやれっすわ。

 とまあ、こんなお話&登場人物で、しつこいけれど、大変イイお話である。この物語を読んで、出来すぎてるよ、とか思う人とは近づきたくないなあ。出来すぎてたっていいの! 真面目に生きる人が報われるお話なんだから、読んだら、自分もやっぱ真面目に生きていきたいもんだぜ、と思ってほしいのです、わたしは。しかしまあ、高田先生の作品はこのような、艱難辛苦にめげない、清く正しく美しい人々が描かれていて、大変読後感は爽やかですな。人気があるのもうなづけますね。わたしは今回も、たいへん楽しませていただきました。

 というわけで、結論。
 母のために買った高田郁先生の『銀二貫』という小説を読んでみたところ、まあ、いつも通りの面白さで大変気持ちの良い物語であった。やっぱり、高田先生の作品の魅力の根源は、キャラクターにあるんでしょうな。そして、きっちりと綿密に取材された時代考証は、わたしとしてはいつも、へえ~と思うような知らなかったことが多く、そういう点でも読みごたえは十分だと思う。わたしの母はもう80近い婆さまだが、どうやら高田先生のお話が大好きなようだ。女性向け、って訳ではないと思うが、やっぱり読者層としては女性層がメインなのかな。それでも、おっさんのわたしでも、毎作品楽しめる安定のクオリティだと思います。以上。

↓ 次はこれを読む予定。母曰く、こちらも大変面白かったとのことです。
あい―永遠に在り (時代小説文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2015-02-14





 

 去年の3月頃、わたしはその時大変お世話になっていた美人のお姉さまに教えてもらった小説、高田郁先生の『みをつくし料理帖』というシリーズをせっせと読んでいて、これがまたとても面白く、最後まで楽しませてもらったわけだが、『みをつくし』は全10巻で完結していて、一気に全巻を読破してしまったわたしとしては、主人公の澪ちゃんにもう会えないのか……と一抹の淋しさを感じていたのであります。しかし、既に高田先生による『あきない世傳』という新シリーズの刊行が始まっていて、じゃあそっちも読んでみよう、というわけで、夏ごろにその新シリーズの2巻が出るころのタイミングで1巻・2巻を読んでみたところ、こちらもやはり面白く、これはしばらくこのシリーズを楽しんでいけそうだ、という確かな手ごたえを感じたわけである。そして先日、『あきない世傳』の3巻目が発売になったので、待ってたぜ!と早速買い求め、読み出したところ、2日で読み終わってしまった。今巻でも、またもや、なかなかのピンチに陥る主人公「幸(さち)」ちゃん。果たしてこの女子に幸せはやって来るのだろうかと大変心配だが、結論から言うと今巻もとても面白かった。

 ハルキ文庫は、どうも電子書籍には興味がないようで、まだ紙の本しか買えない。版元である角川春樹事務所の作品で電子書籍化されているのは、どうやらごくわずかなようだ。たしか、社長たる角川春樹氏は、どっかで本屋さんの味方です的なことをしゃべっていたと思うが、まあ、電子で出ないなら出ないでそれでも構わない。いっそ、電子では出さない、という方針を明確にしてくれた方が、電子版が出るまで待つか……とイラつくこともないので、わたしとしてはその判断はアリ、だと思う。
 しかし、紙の本の場合は、発売日が非常にあいまいで、これは流通上やむを得ないというか業界的な慣習なので仕方ないのだが、版元のWebサイトでの発売日の告知は昨日だったと思うが、おとといには書店店頭に並んでいて、わたしもおととい買い、昨日読み終わってしまった。ま、そんなことはどうでもいいけど。
 さて。まずはおさらいと行こうか。本作『あきない世傳』シリーズは、舞台を大坂のとある呉服屋さんに据え、そこへ女衆として働きに出た当時9歳の少女「幸(さち)」ちゃんが、その賢い頭脳を駆使して、成り上がるサクセスストーリーである(たぶん)。現在はまだ序章的な始まったばかりなので、全然サクセスしてませんが。時代と時間軸をまとめると、こんな感じ。
 【1巻】:冒頭は1731年。幸は7歳。武庫川のほとりの今でいう西宮あたりの農村在住。学者だった父や、優しく賢く大好きだった兄を亡くし、大坂の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公にあがることになる。その時9歳(1733年夏)。1巻ラストでは13歳まで成長。五鈴屋の三兄弟が非常に対称的で、今気が付いたけれど、そういえばカラマーゾフの兄弟の三兄弟に、キャラ的に結構似ているような気がするな。長男は荒くれ者で色里通いのクソ野郎だし、次男は冷徹な商売のことしか考えない野郎、そして三男は心優しい、的な。それぞれのキャラ紹介は、1巻を読んだときの記事を参照してください。
 【2巻】:長男のクソ野郎が、とてもいい人だったお嫁さんと離縁し、幸ちゃんを嫁に迎えることになり、幸ちゃんは女衆から一気に「ご寮さん」(大坂商人の旦那の奥方)にクラスチェンジ。ただし長男がとことんクソ野郎でえらい目に遭う。が、ラストで長男死亡、そして次男が、じゃあ幸ちゃんを嫁にもらっていいなら、後を継いでもいいぜ、と衝撃の展開に。このラストの時点で幸ちゃんは17歳まで成長。長男のクソ野郎の唯一褒められる点は、幸ちゃんを力づくでモノにしようとはしなかった点で、まあ、幸ちゃんもまだ子供だったので助かった、という展開。
 で、今回の【3巻】ですが、今回もまたかなり大変な展開が待っていました。時間軸的には、主人公幸ちゃんは、ラストでは21歳かな? だいぶ成長しました。そしてすっかり別嬪さんにおなりで、大変よろしいかと存じます。
 そして今回、商売部分のポイントは、現代ビジネス視点からも非常に面白く、長男のクソ野郎が毀損してしまった五鈴屋の信用をどう回復するか、そして次男のビジネス改革を店員たちや顧客にどう受け入れてもらうか、という点にあった。
 次男のビジネス改革は、主に3つのポイントにまとめることができる。
 ◆売掛金の回収サイトの変更
 これは、当時は年末一括払いというのが当たり前(?)だったのを、年5回の売掛回収とするという方針で、さらに、店員たちに毎月の販売ノルマを課すというおまけ付きであり、当然みんな、え―――っ!? と困ることになる。現代ビジネス感覚から言えば、回収サイトが早まればもちろんキャッシュフローも良くなり、経営にとってはいい話だけれど、長年の付き合いのある顧客からすれば、ちょっと待ってよ、と反発を喰らうのは当然だろう。しかし、次男は、「ガタガタいう顧客は切っていい」と強気で一歩も譲らない。まあ、わたしとしては、この改革は実際アリ、だとは思う。従来は年1回の回収ということで、ちゃんと利息も取ってたそうで、その利息分、安く提供できるじゃん、というのが次男の理論らしいが、それはアリとしても、社長たる自分は何もせず、従業員に押し付けるのはちょっとどうかな、と言う気もしなくもない。が、とにかくこの改革は成功する。
 ◆宣伝広告をするのだ!
 この、売掛回収期間の変更を周知させるにはどうしたらいいか。どうやら当時も、現代で言うチラシ的なものはあったそうだ。しかし、幸ちゃんのアイディアで、貸本の草紙本の空きスペースに広告を出すことを思いつく。そしてそれはまんまと成功。また、かつて2代目五鈴屋時代に、傘に店名を入れたものをレンタルしていたことがあった、という話を聞いた幸ちゃんは、そ、それだ――!! と喰いつき、五鈴屋オリジナル傘を販促のために配布するアイディアをひらめく。そして次男もその策を採用し、瞬く間に評判になる。この宣伝広告、あるいは販促施策は非常に現代的で読んでいて面白かった。ま、雑誌広告みたいものだし、販促アイテムの配布も、まさしく現代でもやってることですわな。ここは大変面白かった。
 ◆仕入先の変更
 従来、五鈴屋は、京の問屋から仕入れた反物を販売する小売店なわけだが、それではどうしても、五鈴屋オリジナルの商品がなく、競合店との差別化ができないわけです。どこかいい織物を織っている産地はないものかと次男は悩んでいたのだが、幸ちゃんのひらめきで、有名な生糸の産地に、糸だけじゃなくて織物も生産してもらえばいいじゃね?ということに気づき、生糸の産地へ交渉に向かう次男。ついでに設備投資の資金を貸し付けて、独占契約を結べば、小売りだけではなく卸もできるじゃん、とイイこと尽くしのように見えたが……ラストに大問題が発生してしまう。
 この大問題は、次男の性格に由来するもので、読んでいる読者から見れば、まあ、そうなるわな、と非常に残念なお知らせだ。こと、ここに至るまでの間に、幸ちゃんと次男の間の関係性が丁寧に語られていて、大変分かりやすい物語だと思った。
 次男は、とにかく商売優先で、あきないに情けは不要、というポリシーを貫いている。幸ちゃんとしては、そういう次男の態度にはいちいちイラッとしてしまうわけだけれど、あきないに対する情熱は本物だと思ったから、嫁になることも承諾したわけで、そういう次男のポリシーが産む軋轢(対店員、対顧客、対仕入れ先、対同業者組合、とステークホルダーをことごとく怒らせる困った社長)を、少しでも解消してあげようと思っていたわけです。しかし、宣伝広告や仕入れ先など、ことごとく幸ちゃんのアイディアが生きてしまって、社長としては面白くないわけですよ。つまらん男のプライドですな。その果ての暴走が、ラストの大問題を引き起こしてしまうわけで、こういった点も、現代ビジネスマンが読んでも非常に面白いと思う。
 わたしも営業経験があるし、経営の根幹にも携わってきたので、今回の話は大変興味深かった。まあ、次男は残念ながら社長の器にあらず、でしょうな。有能なプレイヤーが有能なマネージャーになれるかという問題は、現代でも難しいわけで、有能な人間は自分で何でもできてしまうから、人の使い方が下手、ってのは非常に良くあるパターンであろう。わたしは、商売、というより、ビジネス全体に対して常に思っている鉄則がある。それは、目上であれ目下であれ(買う側であれ売る側であれ)、「相手を怒らせたら負け」という鉄則だ。常に、相手を笑わせ、気持ちよくさせるのが勝利の鍵だとわたしは信じているので、心の中では「ちくしょうこのクソ野郎お前との取引はこれが最後だ死ねバカ」と思っていても、満面の笑顔で商談できるし、何かお願い事がある時は、全身で「お願いしますアナタが頼りなんです」的オーラを醸し出して、何気にこちらに有利な条件で相手を説得することも得意技だ。勿論、感謝も全身で伝えるし、仕事に関係ないようなどうでもいいアホ話だけしかしないで帰ることもある。極論すればそれらのわたしのテクは、まさしく情に訴えかける方向性であり、相手を怒らせることは、一番やってはいけないことだと思っている。何しろそこですべて終わってしまうし、相手の怒りを鎮める手間も時間ももったいない。
 現代社会のビジネスは、ほぼ契約に縛られているので、実際のところあまり情に訴える必要はなく、クールに淡々とこなせる部分も多いかもしれないが、次男の態度では、いずれ破たんが起きるんだろうな、というのは読みながらずっと思っていたことなので、ラストの大問題発生も、残念ながら自業自得としか言いようがない。
 今回、その大問題発生で物語は終了したのだが、はたして今後、どう続くのだろうか?
 わたしは、実は最初から、きっと幸ちゃんは心優しい三男と結ばれるんでしょうな、と思っているので、長男死亡、そして次男がこのまま立ち直れなかったら、いよいよ三男の出番か? と短絡的に考えてしまうが、次男は次男で、5年以内に江戸進出を果たす!など、経営者としてのビジョンはしっかりしているので、ここで退場させてしまうのは実にもったいないような気がする。しかし一方で、幸ちゃんは、商売における戦国武将になる!的な野望があるので、実際のところ次男とは恐らく今後も折り合うことはないような気もする。ということはあれか、幸ちゃんは江戸支店長に抜擢、単身江戸に向かう、そして三男も作家として江戸でデビュー、とかいう展開はアリかもなあ。

 というわけで、結論。
 高田郁先生による『あきない世傳 金と銀(3)奔流篇』を読み終わったわけだが、今回は非常にビジネス面でも興味深く、また各キャラクター達の動向も大変面白かった。つーかですね、公式発売日の翌日なのに、大変恐縮なのですが……高田先生! 次の4巻はいつですか!!! 超楽しみに待ってます!!! あ、あと、『みをつくし料理帖』がNHKドラマになるそうで、しかも主人公の「澪」ちゃんを演じるのが黒木華ちゃんであることが発表されました!! わたしに『みをつくし』を進めてくれた美人お姉さまが言った通りのキャスティングで驚きです。さすがHさん、お元気にしてますか!? たまにはご連絡くださいませ! 以上。

↓ わたしの愛する宝塚歌劇で舞台化された、高田先生のこの作品、そろそろ読んでおくかな……。
※2017/4/12追記:やっと読みました。大変面白かったです。記事はこちらへ

 というわけで、昨日書いた高田郁先生による『あきない世傳』シリーズの(2)巻を帰りに買い、電車の中で読み始め、ちょっと切りが悪かったので駅ナカのカフェで小一時間読み、家に帰って34.0℃のクソ暑い部屋でじっとり汗をかきながら読んでいたらあっという間に残り50ページぐらいになってしまい、やっべえ、もう寝よっと、と寝苦しい夜をグースカ眠り、今朝、通勤電車の中で読み終わってしまった。

 結論から言うと、今回、主人公「幸」の運命はかなり大きな変転を迎え、この(2)巻ラストでも、な、なんだってーーー!? という事態が勃発し、もう、高田先生、次の3巻はまだっすか!! と大変続きが気になる終わり方で終了した。そして、やっぱり次男の惣次が意外とイイ奴であることも判明し、しかしこのラストは……ええい!! 続きが気になるわ!! という感じでありました。以上。

 と、終わらせてしまうとアレなので、いくつか、へえ~と思ったことを書き連ねようと思います。
 物語の内容に触れることは今回は避けようと思いますが、物語の背景にある時代性? に関連することでいくつかあげつらっておこう。
 ◆1730年代の女性の地位について
 まず、時代として18世紀初頭、江戸中期という事で、元禄を経て質素倹約の時代である。そんな時代の女性はどう生きていたのかについて、いくつかの視点がある。それは、場所的な違いと身分的な違いによってかなり差があると想像できるが、まず第一に、(1)巻で描かれた主人公・幸の故郷での、母親のセリフを引用すると――
 「女子に学は要らん。お尻が重うなるだけやわ。先生(=夫)も何で、女子にまで読み書きを教えはるようになったんか。ほんに余計なことやわ」
 「母さんを見なはれ。読み書きは出来んけど、よう働いて先生を支え、あんたらを産んで丈夫に育て、きちんと家を守ってますやろ。女はそれで十分やわ」
 ――とまあ、こんな感じ。恐らくこういう価値観は、下手をすれば戦前・戦後の都会ではない地方ではずっと変わりなく存在していたかもしれない。つまり、この幸の時代の後の200年間、ずっと変わってなかったという事だ。しかし、先生(=幸の父)が、賢く知識欲の強い幸に対して、「お前が男だったら」と嘆くのも、現代人の我々からすれば、なんとも嘆く方向性が違うような気もする。まあ、仕方ないけれど、そんな時代だ。そして、奉公に出た先の、ある種の都会であり、商人の家である「五鈴屋」では、女中というか「女衆」の先輩のお姉さんたちは幸に対してこう告げる――
 「あのなあ。丁稚は半人前でも『ひと』なんや。しっかり仕事を覚えて、手代から番頭へと、店を背負って立つ大事な『ひと』なんだす」
 「(女衆は)ひとのはずないやろ。出世も暖簾分けも関係あらへん。ずーっと鍋の底みがいて、土間掃いて、ご飯炊いて、洗い物して……ここから嫁に行くか、お松どんみたいに年取って辞めるか、どっちかやわ」
 ――というわけである。一応、女衆は月給制のようだが、幸のような幼い場合は、最初の5年間は無給で、そのかわり、住む場所と食事や衣服、つまり衣食住は保証されるという事で、父が亡くなったとこで収入の途絶えた幸の母としては、幸を奉公にやるしかなかったわけだ。厳しい時代だけど、これもきっと、戦前・戦後辺りまでは普通だったのかもしれない。
 ◆幸と商(あきない)と、知恵。
 こういう女性に対する価値観が時代背景としてある中で、女性はどう生きるかとなると、一つは、従来通りの価値観に身をゆだねて、『ひと』でない生き方をするという方法もあるが、もう一つは、テキトーな言い方だが「手に職をつける」という事だろうと思う。まあ、それは男女関係ないし、現代でも変わりないか。例えば、高田先生の『みをつくし料理帖』で言えば、主人公の澪ちゃんは、女性の料理人なんていなかった時代に、料理人として生きる道を選んだ。これは、時代的に本作より80~90年後の世であり、江戸という大都会であり、経済的な安定もあった時代だからできたことかもしれないが(たぶん、そもそも幸の時代には料理屋はまだほとんどなかったと思う)、何か「モノ」を作って売る、なんらかの「価値」を創って提供する、という経済活動がどうしても必要になる。
 どうやら、幸の父は、「モノ」を作って売る方を「職人」と呼び、「価値」を創造して提供する方を「商人」と呼んで、モノを右から左に渡すだけで手の綺麗な人々=商人を蔑んでいたように感じるが、今のところ、技能のない(=職人にはなれない)幸は、「商(あきない)」に非常に関心を持っている。
 というのも、幸が欲しいものは「知恵」である。それは、大好きだった亡き兄が「知恵は、生きる力になる」と教えてくれたこともあるが、七夕の短冊に知恵が欲しいと書くぐらい、知識欲旺盛な娘だ。そんな幸は、様々な素朴な疑問をぶつけて、その回答を得ると、へえ~、なるほど、と納得して、父が蔑んだ「商=あきない」に興味津々なわけだが、その過程が読んでいてとても楽しめる部分だ。
 例えば、(1)巻で、幸は優しい三男の智蔵にズバリ聞いてみる。どうして、反物は問屋から五鈴屋、五鈴屋からお客さん、の順に移っていくのか、どうして問屋はじかにお客さんに売らないのか、と。それを智蔵や大番頭の治兵衛さんから、直接的な回答でなく幸が考えてゴールに行けるように優しく誘導されて答えに至るわけで、周りの人に恵まれていたことも大きいし、幸の向学心も、大変読んでいて心地よい作品だと思う。
 また、この(2)巻では、(1)巻の段階では商才はあるけど意地悪というか嫌な奴だった次男の惣次も、営業周りに幸を同行させることで幸の魅力に気付き、少しずつ、商売の面白さを伝えたり、惣次自身の、店内では決して見せない、お客さん向けの営業フェイスを見せることで、幸に影響を与えていくわけで、この次男とのエピソードも、実に現代的な営業センスが問われる話で大変面白かった。
 全然物語には関係ないけれど、この惣次が売り出したいと思っている「石畳の柄」の反物がなかなか売れなかったのに、江戸で、歌舞伎役者の佐野川市松が同じ柄の反物で衣装を作って「市松模様」として江戸で大流行になった、という話を聞いて悔しがるというエピソードは、ちょっと、へえ~と思った。つまり惣次は、美的センスというか目利きとしての嗅覚も非常に優れた商人というわけですな。
 ◆「商売往来」
 幸が奉公に来たばかりの時に、番頭の治兵衛さんが丁稚たち相手に読み書きを教えるために使っていた教材が「商売往来」という本で、内容的にも商売の心得的なものが書かれた書物だそうで、これは実在する本なんだそうだ。(2)巻の巻末の企画ページによれば、1694年に刊行され、明治期まで増補改訂がなされたものだそうで、大変な人気のある本だったそうですよ。内容がとてもいいんすよね。曰く、
 「挨拶、應答(あしらい)、饗應(もてなし)、柔和たるべし。大いに高利を貪り、ひとの目を掠め、天の罪を蒙らば、重ねて問い来るひと稀なるべし。天道の動きを恐る輩は、終に富貴、繁昌、子孫栄花の瑞相なり。倍々利潤、疑い無し。よって件の如し」
 もう、これは現代サラリーマンにも心に刻んでおいてほしい言葉ですな。映画の『殿、利息でござる!』に出てきた「冥加訓」にも似てますね。「善を行えば天道にかなって冥加(=神仏の助け・加護)があり、悪を行えば天に見放されて罰が与えられる」。まったくですよ。そういう世の中であってほしいものです。今も昔も、いやな野郎ばっかりですからね、少なくとも自分は、まともでありたいですな。この(2)巻では、とにかくどうしようもないクソ野郎の長男。徳兵衛に重大なことが起こるが、まあ、天に見做されたという事なんでしょうな。おっと、これ以上はネタバレだから書かないぜ!!

 というわけで、結論。
 いや、もう結論は上の方に書いてしまいましたが、とにかく、(1)巻を読んで、まあ、面白いんじゃね? と思った方は今すぐこの(2)巻を買いに、本屋さんへ直行していただきたいと思います。正直、この(2)巻でもまだ序盤、という感じかも。どうも、大きく物語が展開されるのは次以降なのかもしれないです。つーかですね、早く次の(3)巻が読みたいのですが、また半年後かな……楽しみにしておりますので、高田先生、よろしくお願いいたします!! 以上。

↓ コイツもやっぱり、宝塚歌劇を愛する身としては読んておくか……。

 今年の春ごろ、わたしがせっせと読んでいた『みをつくし料理帖』という時代小説がある。とある美人お姉さまに、面白いから読んでみたら? とオススメされて読み始めたわけだが、わたしとしては、その主人公「澪」ちゃんのけなげさが非常に気に入り、全10巻を読破し、このBlogにもせっせと感想を綴ったわけで、とても面白かった作品である。
 著者は、高田郁先生という方で、元々は漫画の原作を書かれていた方らしいが、件の『みをつくし料理帖』はドラマ化もされたし漫画化もされ、ほかの作品、『銀二貫』という作品は、わたしの愛する宝塚歌劇で舞台化もされているという、大変人気のある先生である。ちなみに、さっき初めて知ったが、先生は兵庫県宝塚市のご出身だそうで、自らの作品が宝塚歌劇で演じられたことは、ものすごく嬉しかっただろうな、と思う。
 そんな高田先生の、新シリーズが今年の初めに発売されていたわけだが、わたしはなんとなく手に取る機会がなくて、読んでいなかったのだが、そのシリーズの2巻目が発売になっていて、少し大きめの展開がなされていたので、それじゃ読んでみるか、と、まずは1巻を買って今日の朝読み終わった。それが、『あきない正傳 金と銀 源流編』と言う作品である。

 結論から言うと、本作はシリーズ第1巻という事で、まずはキャラクター紹介的な面が大きいのかもしれない。やや、本筋の物語の始まる前段階、いわばBigins的な位置づけだとわたしは勝手に解釈した。主人公「幸(さち)」の生い立ちとバックグラウンドとなる幼少期から大阪へ奉公に出て、様々な人々と出会うまで、であった。
 なので、面白かったかと言われると、正直まあこれからっすね、というのが偽らざる感想だが、やはり、高田先生の描く主人公は、健気でかわいいし頭もいい、ということで、わたしとしてはとりあえず続きは読みたいと思っているので、今日の帰りにでも、新刊の第2巻を買って帰ろうと思う。
 というわけで、今回は各キャラクター紹介を短くまとめて終わりにしたい。いや、短くなるか分かんねえな、わたしのことなので、また無駄に長くなることは確定的に明らかなような気がしますな。そしてやっぱりどうしても、ある程度のネタバレに触れざるを得ないと思うので、お許しください。さて、行ってみようか。

 ◆舞台:時代としては、享保16年(1731年)から始まる。要するに、我々に分かりやすく言うと、江戸では大岡越前が活躍していた時代であり、経済政策の真っただ中で、将軍様はもちろん、暴れん坊でお馴染みの徳川吉宗である。ただし、この作品の舞台は大坂であり、主人公の「幸」は、今で言うまさしく兵庫県宝塚市あたりの、武庫川の西側の「津門」出身だ。いや、海にもほど近いようだから、もっと南の西宮か。まあ、そんなあたりの生まれである。時代背景としては、作中の言葉によると「元禄時代の華やかなりしバブル崩壊後の倹約が旨とされる時代」である。つまり、商売人には厳しい時代、というわけである。
 ◆幸:さち、と読む。本作の主人公。この冒頭の段階で幸は7歳。なので、1723~1724年生まれぐらい(※どうも11月~12月生まれっぽいので、たぶん1723年生まれかな?)。父は学者で村の私塾の先生。読書や勉強が大好きで、母からは女が学問をしても意味がないと言われ続けながらも、10歳年上の賢く心優しい兄、雅由に見守られながらすくすくと育つ。七夕の短冊に書いた欲しいものは「知恵」。知恵が欲しいって、凄いよな。しかし、大好きだった兄を病で亡くし、翌年に父を喪いという事件が起こり、父を支援していた村の豪農と付き合いのあった、大坂の呉服屋「五鈴屋」へ、奥向き女中として奉公に出される。母と妹「結(ゆい)」を郷里に残し、一人旅立つ幸はその時9歳(1733年の夏)。そして1巻の終わりでは1737年11月、幸は13(~14?)歳までが描かれる。
 ◆富久:通称「お家さん(おえさん)」。幸の奉公先である大坂の呉服商「五鈴屋」2代目の妻。すなわち3代目の母であり、4代目の祖母。1巻ラストの段階(1737年)で58歳。基本的にとてもいい人。
 ◆治兵衛:「五鈴屋」の要の大番頭。初代2代目の頃から勤務している。20歳年下の奥さんとまだ2歳の息子がいる。かなりいい人。どうやら40代っぽい。
 ◆徳兵衛:4代目の現店主。3代目の長男。1733年時点で20歳。両親とも(=3代目夫婦)に15年前に死去。色里通いのダメ人間。弟が嫌い。嫁をもらうが、毎夜、超・激しいらしくて(笑)、お嫁さんはくたくた。基本的にどうしようもないクソ野郎。
 ◆惣次:3代目の次男。1733年時点で19歳。商才のある男でいつもカリカリしている。兄が大嫌い。コイツも基本的にクソ野郎(今のところ)。ひょっとしたら、後にイイ奴に……ならないだろうな……。※追記:2巻読書中。イイ奴になりそうな予感!!
 ◆智蔵:3代目の三男。1733年時点で16歳。商売に興味なし。いつも本を読んでいるやさしい文学青年。幸の向学心に感心していて、いろいろ目をかけてくれる。いがみ合う二人の兄の間を取り持つ的な存在でもあったのだが、幸の奉公3年目に起こる、とある出来事が智蔵の運命を(ある意味、いい方向に)変えてしまう。
 ◆お梅どん:20年来のベテラン女中。良く喋り良く笑う人。笑うとえくぼができる。悪い人ではない。
 ◆お竹どん:同じくベテラン。いつもイライラ。40代。チーフ女中的な人。赤ん坊のころから世話をしてきた智蔵の優しい人柄を見守っている。悪い人ではない。最初はおっかないけど。
 ◆チーム「手代」の5人:鉄七、伝七、佐七、留七、末七。名前に「七」をつけるものらしい。へえ~。
 ◆チーム「丁稚」の3人:広吉、安吉、辰吉。名前に「吉」をつけるらしい。へえ~。
 ◆菊栄:徳兵衛の嫁として、幸の奉公2年目(1735年の夏)に嫁いで来る。この時17歳(なので旦那の5つ年下、幸の6歳年上)。明るく元気なお嬢さん。幸を気に入り、いろいろと優しくしてくれる。浄瑠璃好きで、智蔵とも仲良し。「五鈴屋」の奉公人たちからも好かれていたのだが、肝心の夫の徳兵衛がいかんせんクソ野郎で……。

 とまあ、こんなキャラクター達の間で展開される、大坂商人の日常的な物語である。上記のリストに入れなかったけれど、幸の父は、あまり出てこない。冒頭の故郷での生活の際に出てくるけれど、どうやら元・士分だったようで、妙にプライド高いのか、商人=汗水たらして働かないインチキ野郎、と決めつけていて、わたしから見れば、お前も世間を何も知らない学者野郎じゃん、という気もする。なので、父は幸に、「手の綺麗な(畑仕事で手があれていない)人間は信用するな」と言い聞かせ、「商(あきない)とは、即ち詐(いつわり)なのだ」という自説を幸やお兄ちゃんに押し付けていた。しかし、お兄ちゃんは父よりももっと聡明で、世の中のことを洞察していて、商を貶めて良いものではない、ときちんと分かっていた。そんな環境で育った幸なわけで、非常に賢く、奉公に上がってからも、何度もお家さんや智蔵、治兵衛に鋭い質問を投げかけることで、おっと、この娘は只者じゃない、かも、と認められていくわけだが、いかんせん、最初に書いた通り、この1巻の段階ではまだまだ、幸が中心の話ではないので、この作品世界のメインストーリーではないのだろうと思う。

 というわけで、もう結論。
 高田郁先生の『あきない正傳 金と銀 源流編』は、どうも物語の始まりのための、バックグラウンドを描くお話で、本格的に物語が動くのは、次巻以降なんだろうと思う。わたしとしては、今回だけではまだ物足りないというか先が気になるので、まあ、とにかく今後、幸がどんな人生を歩んでいくのか、大変楽しみにしながら、シリーズを追っかけて行こうかな、と思います。以上。

↓ というわけで、2巻が出たばかりっすね。帰りに買うの忘れんなよ……!!

 というわけで、全10巻読み終わった『みをつくし料理帖』。
 大変面白く楽しませてもらったわけで、昨日、あの話は何巻だっけな、と後で振り返れるように、各巻エピソードガイドを自分用記録として書いてみた、のだが、これがかなり労力の要るもので、(3)巻~(6)巻を書いたら力尽きた。ので、今日は続きです。基本ネタバレ全開ですので、ネタバレが困る人は読まないでいただければと存じます。
 それでは、行ってみよう。

<7巻『夏天の虹』>

 ◆冬の雲雀――滋味重湯
 霜月から師走(11月~12月)の話。(6)巻ラストでの澪ちゃんの決断がまだつる屋のみんなには伝わっておらず、話はそこから始まる。皆になんと言えばいいのか。既につる屋には、美緒ちゃんに代わる料理人を雇う話も進んでいて、ますます澪ちゃんの下がり眉は下がりっぱなし。そして、なにより小松原様に対して申し訳ない気持ちでいっぱいの澪ちゃんはもう食欲もなく、追い討ちをかけるように、年末恒例の料理番付からもつる屋の名前は消えてしまい、萎れていくばかり……。そんな澪ちゃんのために、御寮さんが作ってくれた重湯が澪ちゃんの心と体に染みるのだった……。
 ◆忘れ貝――牡蠣の宝船
 文化13年睦月から如月(1816年1月~2月)の話。三方よしの日に又次兄貴が助っ人にまた来てくれることになり、喜ぶふきちゃん。おまけに薮入りで健坊もやってきた。ふきちゃんが健坊に作ってあげた、紙の宝船。ふきちゃんの弟への想い乗せた紙の船をヒントに、澪ちゃんはようやく新たな料理を思いつく。心配してくれたみんな、そして澪ちゃんを思って決断してくれた小松原様、そして、つる屋へ来てくれるお客さん、皆への幸せの祈りがこもった料理を……。
 ◆一陽来復――鯛の福探し
 弥生(3月)の話。突然、澪ちゃんの嗅覚がなくなってしまってさあ大変。何を食べても味がしない。味が分からないのは料理人として致命的。澪ちゃんは料理が作れなくなってしまう。完全にストレス性のもので、源済先生に診てもらっても治す方法はなく、絶望的な気持ちの澪ちゃん。そこで、種市爺ちゃんが吉原に出向き、扇屋さんに直談判し、又次兄貴を2ヶ月間レンタル移籍してもらうことになる。そんな中、何も出来ずしょんぼりな澪ちゃんは、かつてキツイ一言をいただいてしまった一柳へ。器の見方など、鼻と舌が休んでいるときでも出来ることはあるはずだと叱咤激励される。また、おりょうさんが長らく看護していた親方のために、食べる愉しみを思い出してもらおうと、献立に工夫を始める澪ちゃんであった……。
 ◆夏天の虹――哀し柚べし
 卯月の話。シリーズ最大の哀しい出来事が起きてしまう。すっかりつる屋の主要メンバーとなった又次兄貴。ふきちゃんも又次兄貴に懐き、料理の手ほどきを受けるほどに。またお客からも覚えられ、又次兄貴は人生で最も楽しい日々を過ごすが、扇屋との約束は二月、今月末には吉原に帰らなくてはならない。あっという間にその日はやってきて、吉原に帰る又次兄貴。そして吉原では、火災が発生し――。まさかここでこんな悲劇が起こるとは、まったく予想外で驚きの展開でした。大変悲しいお話です。

<8巻『残月』>
残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2013-06-15

 ◆残月――かのひとの面影膳
 皐月から水無月・文月(5月~7月)の話。(7)巻ラストでの悲劇を引きずるつる屋メンバー。澪ちゃんの鼻と舌が元に戻ったのは吉報だが、喪失感がみんなの心に居座っている。しかし、お客さんには料理を楽しんでもらいたい気持ちは皆一致していて、頑張ってお店を回すみんな。そんな時、つる屋にどこぞのお大尽らしきお客が現れる。それは、吉原・扇屋で出会った、摂津屋の主人だった。摂津屋さんから、幼馴染の野江ちゃんことあさひ太夫の消息を聞く澪ちゃん。火事があっても、又次兄貴が命を賭けて守り抜いた太夫。しかし摂津屋さんは、太夫と澪ちゃんの関係を知りたがり――みたいなお話。折りしも江戸では疫痢が流行していて、源済先生も忙しい。源済先生は、澪ちゃんに「食は、人の天なり」という言葉を教える。この言葉が、ずっと澪ちゃんを支えていくことになる。
 ◆彼岸まで――慰め海苔巻
 処暑の頃から彼岸の話だから、まあ8月~9月かな。ようやく長らくつる屋を留守にしていたおりょうさんもウェイトレスとして復帰。りう婆ちゃんもそのまま継続。干瓢を店先に干していたつる屋に、戯作者の清右衛門先生が、絵師の辰政先生を連れてくる。店先で絵を描いていた太一くんの才能に感心する辰政先生。そして久しぶりにつる屋を訪れた元・花魁菊乃ことしのぶさんから、失踪中の元・若旦那、佐兵衛の消息らしき情報が寄せられる。どうやら、現在は捨吉を名乗っているらしい。そしてある日、とうとう佐兵衛と母である御寮さんは対面するのだが……。
 ◆みくじは吉――麗し鼈甲珠
 彼岸過ぎから長月(8月~9月)の話。伊佐三さんとおりょうさん夫婦が、神田金沢町の裏店から引越しをするという話から始まる。澪ちゃんと御寮さんの、知り合いのいない江戸暮らしを支えてくれた夫婦が、引っ越してしまうことに寂しく思う澪ちゃん。そして、大嫌いな登龍楼から呼び出しがかかる。火事で焼けてしまった、登龍楼吉原店を新装開店するに当たってチーフシェフとして雇いたいという引き抜きのオファーだった。澪ちゃんはついカッとして、4000両出せば考えると吹っかける。すると店主の采女は、上等だ、ならばこれなら確かにその価値があると思える料理をもってこい、と返答、思わぬ料理バトルが始まってしまう。予想外の展開に困った澪ちゃんは、帰りにいつもの化け物稲荷をお参りし、ふとおみくじを引いてみる。そんな中、仮営業中の扇屋に招かれた澪ちゃんは、野江ちゃんことあさひ太夫と面会、又次兄貴の言葉を伝える。そして決意を新たに、新作メニューに取り掛かり……という話。ここで出来た新作「鼈甲珠」が、後々澪ちゃんの運命を変えていくことになる。
 ◆寒中の麦――心ゆるす葛湯
 神無月(10月)の話。つる屋店主の種市爺ちゃんが、戯作者の清右衛門先生から、澪ちゃんとあさひ太夫の関係や又次兄貴の思いをすべて聞かされ、澪ちゃん応援のために、つる屋を退職させ、あさひ太夫身請けのための大金を稼げる環境を無理やりにも整える決心をする。つる屋に縛り付けてはそれが出来ない、と。そんな中、以前、御寮さんが気に入ってべたべたしてきたうざい房八さんが結婚するので、その宴の料理を作って欲しいというオファーが来て、それを快諾する澪ちゃん。無事に料理は好評を得るが、その場で一柳の柳吾さんと息子の坂村堂さんが口論、柳吾さんは高血圧か? ぶっ倒れてしまい、すぐさま源済先生が呼ばれる。命に別状はないが、御寮さんに看護を依頼する坂村堂さん。そして御寮さんの看護で、柳吾さんと坂村堂さんの関係も修復でき、柳吾さんは澪ちゃんに「寒中の麦」の話を聞かせる。そして、柳吾さんは御寮さんにまさかのプロポーズを行うのだった――。

<9巻『美雪晴れ』>

 ◆神帰月――味わい焼き蒲鉾
 霜月(11月)の話。澪ちゃんを一人にして、自分だけ幸せをつかむわけには……と悩める御寮さん。つる屋では寒くなってきた季節に入麺を出しで好評を得る。昆布のご隠居にも好評だが、ご隠居曰く、蒲鉾が死ぬほど食いたいという。当時値段の高い蒲鉾。大坂人の澪ちゃんも江戸の焼き蒲鉾は馴染みがなかったが、歯ごたえといいこれは素晴らしいと思っていたので、いっちょ蒲鉾を自作してみようと思い立つ。そんな中、元・若旦那の佐兵衛が妻子を連れてつる屋を訪れる。自分の初孫と始めて対面する御寮さん。息子・佐兵衛に、柳吾さんからプロポーズされたことも打ち明け、ひと時の幸せな時間が流れる。そしてつる屋を訪れた柳吾さんに、プロポーズ受諾の返事をする御寮さん。翌年の初午(2月の最初の午の日)に結婚が決まる。御寮さんの寿退社によって、ウェイトレス班の人手が足りなくなり、柳吾さんから一柳勤務のお臼さんがつる屋に異動となってやってきた。でっかい女性でまさに臼のよう。これまた明るくいいキャラでみんな一安心。そして完成した蒲鉾は好評を得て、人を笑顔にする料理を作る、という心星は間違いないのだと確信する澪ちゃんだった……。 
 ◆美雪晴れ――立春大吉もち
 師走(12月)から文化14年睦月(1817年1月)の話。師走と言えば料理番付発表だが、種市爺ちゃんは、前話の焼き蒲鉾を番付に合わせて発売しようとしていたところ、「お前は番付のために料理屋やってんのか!!」と清右衛門先生に激怒されたこともあって、今年もまた番付入りを逃しちゃったなー、と思っていたら、まさかの関脇入り。何だと!? と見ると、番付に載ったのは(7)巻の冒頭で作った「面影膳」だった。番付発表後から、つる屋には「面影膳を食わせろー!!」とお客が殺到。困るつる屋メンバー。あれはあくまで、又次兄貴の追悼のために作ったもので、「あれは三日精進の文月13日~15日のみ」と張り紙をすることで対応。新メンバーのお臼さんは、今出せばバカ売れなのに、儲けじゃない、というその対応に深く感心する。また、柳吾さんも同様に、つる屋は素晴らしい店だと改めて感心する。そして、柳吾さんは、澪ちゃんこそ、跡取りのいない一柳の後継にふさわしいとスカウト。そして澪ちゃんは、前巻で対登龍楼用に開発した鼈甲珠を柳吾さんに味見してもらう。折りしも、登龍楼はこの鼈甲珠をパクッた商品を売り出し、料理番付で大関位を射止めていた。しかし決定的に味は澪ちゃんの鼈甲珠のほうが上で、柳吾さんも間違いないと太鼓判。しかし、澪ちゃんはこの鼈甲珠を武器に、あさひ太夫の身請けという成し遂げたい野望があり、スカウトを辞退。そして年が空け、御寮さんは一柳へ引越し、澪ちゃんも、神田金沢町の思い出の詰まった裏店から引越し、しばらくはつる屋で暮らすことに。ラスト、摂津屋さんが大坂での調査から帰ってきて、つる屋にやってきた。過去の事情を、澪ちゃんがしゃべらないために、自分で調査していた摂津屋さん。ほぼ事情がバレ、澪ちゃんもすべてを打ち明けることに。
 ◆華燭――宝尽くし
 睦月から如月(1月~2月)の話。いよいよ御寮さん&柳吾さんの結婚式。そしてつる屋を出る澪ちゃんの後釜となる料理人、政吉が登場。彼は(6)巻で一瞬出てきたあの時の料理人で、実はお臼さんの旦那だった。元々、お臼さんと共に一柳に勤務していたが、一柳のような一流店よりも、つる屋のような庶民派の店の方が好きだし、自分で店を持つ野望もなく、雇われ料理人希望の男で、さすがに一柳で鍛えられただけあって腕は確か。(6)巻に登場したときは、ちょっとやな奴だったが、お臼さんにぞっこんで、お臼さんの言うことは聞くし、実際話をしてみると意外といい奴だったため、澪ちゃんは淋しいながらも安心する。御寮さんの結婚前夜、つる屋の皆はささやかなパーティーを開催。息子の佐兵衛もやってきて、得意だった包丁細工で、大根を剥いて鶴を仕上げる。佐兵衛はもう料理はしないと言っているが、その技はまださび付いていないのだった……。
 ◆ひと筋の道――昔ながら
 桃の節句の頃の話。桜が近づき、仮営業中の扇屋が新装オープンするタイミングで、鼈甲珠を売り出すためにつる屋を離れる、と皆に宣言していた澪ちゃんだが、久しぶりにやってきた辰政先生の話では、まだオープンは先かも知れないが、毎年恒例の桜の移植と一般客開放の桜まつりは今年も開催するし、どうも思ったよりも早く新装開店するかもしれないという。いよいよその時がやってきたかと決意すると共に、淋しさが募る澪ちゃん。鼈甲珠の原料の仕入先は確保したものの、卵料理なので夏場は厳しい。だが今なら大丈夫だし、おまけにこの、桜まつりという絶好のタイミングで売り出さずしてどうする、と悩める澪ちゃん。ついにつる屋退職日を如月晦日(2月末日)と決め、吉原桜まつり期間中に一人で棒手振りで売り出す決心を固める。しかし、吉原のルールを何も知らない澪ちゃんは初日惨敗。扇屋さんに相談し、普請中の現場軒先で売ることを許してもらうが、やはり苦戦。そして、売り出すためのいろいろなアイディアを形にしてとうとう大成功となり、扇屋新装オープンの際には、扇屋さんへの卸売りの約束も得ることに成功するのだった。

<10巻『天の梯』>
天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2014-08-09

 ◆結び草――葛尽し
 葉月(8月)の話。雨が少ない梅雨が過ぎ、日照り続きの江戸は青物の質が落ち、水不足もあって、つる屋では6月以来、三方よしの日が開催できないでいた。そんな中、扇屋の主人、伝右衛門さんがつる屋を訪れ、新生扇屋を長月九日(9月9日)、重陽に合わせて新装オープンすると知らせるとともに、その際に是非とも鼈甲珠を商いたいと申し入れに来る。まだ原料仕入れ先の都合もあるので、そちらを確認しないと返事ができない澪ちゃん。親友美緒さんが子供を抱えているところにバッタリ遭遇。日本橋で火事を出してしまった美緒さん一家は、飯田町近くに家を構え、どうやら商いを小規模ながら再開させてもらえそうだという。そんな中、無事に久しぶりに再会した三方よしの日も無事に終え、とうとう澪ちゃんがつる屋を離れて近所に一人暮らしを始める日が来る。鼈甲珠に必須の「流山の味醂の搾りかす(=こぼれ梅)」も無事ゲット。鼈甲珠の初出荷も無事に果たす。菊の花が敷かれた吉原で、新装なった扇屋へあさひ太夫が入る時、こっそり入ろうとしたのに思いっきり姿が周りに見られてしまう。その時、あさひ太夫は澪ちゃん謹製の鼈甲珠を手にし、天に翳した姿が超絶に美しく、後々錦絵となって有名になってしまうが、それは最終話の話。それを知らない澪ちゃんは、親友・美緒さんを元気づけるために、葛を使った料理で友の心を癒すのであった……。
 ◆張出大関――親父泣かせ
 長月から神無月、霜月、師走の(9月~12月)の話。すっかり有名になった鼈甲珠。伝右衛門さんはバンバン大量に売りさばきたいのだが、作っている澪ちゃんはかたくなに一日30個を守って増産してくれない。見れば、澪ちゃんは一人暮らしの自宅の軒先で、御総菜屋さんを開いている。そんなのじゃなくて、鼈甲珠を作れば儲かるだろ、と言っても聞いてくれない。澪ちゃんはクオリティ重視で質を落としたくないのだ。そんな時、つる屋さんに、とあるお侍がやって来て、江戸城勤務の同僚たちにお弁当を毎日10個作ってくれないかというオファーが来る。以前、つる屋がお弁当を販売していた時の評判を聞いてのオファーだった。澪ちゃんはそのオファーを快諾。また、つる屋では、新シェフの政吉さんから、自然薯の料理を教わり、澪ちゃんは自分がいなくなってもつる屋はもう大丈夫だと心から安心する。その自然薯料理はお客にも大好評で、「親父泣かせ」とみんなが呼ぶようになる。また、澪ちゃん謹製のお弁当も好評で、発注したお侍は江戸城内で、それどこの弁当だよ、と聞かれまくるほどに。どうやら、かつての想い人、小松原様こと小野寺様にもその評判は伝わっているらしいことを知る。そんな中、澪ちゃんの一人暮らしの自宅に、源斉先生のお母さんが来店。御典医である源斉先生のお父さん経由で、小野寺様が澪ちゃん謹製弁当を食べたいと言ってるらしい。翌日、澪ちゃんがちょっとした用で留守をふきちゃんに頼んでいる間に、お弁当を取りに来たお母さん。しかし、うっかりふきちゃんがお母さんにお弁当のおかずの酢の物を出してしまったからさあ大変。よそった器の釉薬が酢で溶け出し、食あたりが発生するという大事件が勃発してしまう。源斉先生のとりなしで何とかなったものの、大いに反省する澪ちゃんであった。そして早くも師走。師走と言えば料理番付。何と今年は、新シェフ政吉さん考案の「親父泣かせ」が張出大関に!! 喜ぶつる屋メンバーの眼には涙が……。
 ◆明日香風――心許り
 文化15年正月(1818年1月)の話。一柳へ年始の挨拶に行った澪ちゃん。なにやらお客の忘れ物があったらしく、みんなで、こりゃなんだと頭をひねる。澪ちゃんはつい、粉を舐めてみると、ほのかに甘い。ここから物語は怒涛の展開へ。どうやらそれは、幕府御禁制の「酪」らしいことが判明。なんと一柳の主人、柳吾さんが逮捕・連行されてしまう。そして、この「酪」の密造には、どうやら憎き登龍楼が関係しているらしく、おまけに佐兵衛さんが失踪した時の原因でもあったらしく――、というわけで、ここから物語はラストまでかなり激動があります。ここから先は、もう読んでもらった方がいいです。
 ◆天の梯――恋し栗おこし 
 弥生(3月)の話。「酪」の騒動も終結し、再び日常が返ってきた。が、摂津屋さんが訪れ、あさひ太夫がヤバいことになっていると知らされる。というのも、鼈甲珠を手にした大夫の錦絵が出回り、これまで伝説の存在としてその存在が隠されてきた大夫が、皆に知られてしまったのだ。こうなってはもういわゆる「年季明け(27歳になって引退すること)」まで、大夫を留めておくことはできない。身請けするにはもう結論を出さないとマズイ、と言う展開に。ここで澪ちゃんは摂津屋さんの助けを借り、一世一代の勝負に出る――!! 果たして澪ちゃんは宿願の野絵ちゃん身請け作戦を成功させられるのか、そして、澪ちゃんを常に優しく見守ってきた源斉先生と澪ちゃんはどうなるのか!! という最後のお話です。

 はーーーーー。超疲れた。
 改めて、全巻をパラパラ読みながら書いたけれど、とにかくまあ、美しいエンディングを迎えられたことは、とても嬉しかったですなあ。本当にいろいろなことが起きて、艱難辛苦が続いたけれど、最後には蒼天を拝めることができて、心から良かったと思います。
 なんというか、冷静に考えると、結構、澪ちゃんの決断は、ええっ!? と思うようなものだったり、なかなか決断できない様には、イラッとすることもあるにはあるとは思う。とりわけ、小松原さまとの件は、やっぱり全部小松原さまに任せてしまったのは、当然仕方ないけれど、ちょっとどうかと思わなくはないし、かと言って他にどうともできなかっただろうというのが分かるだけに、小松原さまの男らしさがわたしとしてはかなり印象に残った。源斉先生も、ちょっと優しすぎで、最終的な結末へ至る部分は、若干駆け足かなあとは思う。けど、源斉先生が澪ちゃん大好きだってのは、最初から分かってたし、まあ、これでいいんでしょうな。

 というわけで、もういい加減長いのでぶった切りで結論。
 澪ちゃんは結局、納得できる自分の生き方を曲げなかったところが凄いわけで、それは現代でも難しいことだし、ましてや19世紀初頭の江戸では、想像を絶する困難だったろうと思う。やはり、澪ちゃんを支える周りの人に恵まれたってことだろうな。そして、その周りの人と言うのは、全部、澪ちゃんの作る料理に込められた想いに引き寄せられたんだろうと思う。なので、結論としては、何事も真面目に心を込めて、生きていきましょうってことでしょうな。わたしも見習いたいと思います。ホント、素晴らしかった。以上。

↓高田先生の、新シリーズ。こいつぁ……読まねぇと、いけねぇでしょうなあ……。

 

 いやー……読み終わってしまった。
 何がって、そりゃあなた、『みをつくし料理帖』ですよ。約一ヶ月かけて、全10巻読了いたしました。非常に面白く、とても楽しませていただきました。はあ……もう、最後はわたしも種市じいちゃん同様、これでお澪坊ともお別れだよぅ……的に悲しくもあり、幸せに旅立つ澪ちゃんを祝福したくもあり、もうほんと、娘を嫁に出す気分ですわ。はあ……読み終わってしまって、すげえ淋しいっす……。
 ま、実は読み終わったのはもう2週間ぐらい前なんですが、1巻と2巻のときと同様に、各巻のエピソードガイドをまとめて、記録として残しておきたいと存じます。いやー、ほんと思いは尽きないところではあるが、いいお話でした。高田先生、あざっした!!
 ところで、2週間前に行ってきた、渋谷Bunkamuraでの浮世絵展の記事なんですが、先ほど、1巻目をぱらぱらチェックしてたら、物語の舞台となる年を間違えてたことに気が付きました。1802年は、澪ちゃんの両親が水害で亡くなった年で、江戸に出てきたのはその10年後、みたいです。なので、1812年ぐらい、が正しいようですので、浮世絵の記事も修正入れました。
 なお、渋谷Bunkamuraで開催中の『俺たちの国芳わたしの国貞』は、この『みをつくし料理帖』を読んだ方なら超おススメです。ちょうど同年代の作品ばかりで、非常に興味深いですよ。
 というわけで、各巻エピソードガイド、行ってみよう。長くなるので、2回か3回に分けます。
<3巻『想い雲』>

 ◆豊年星――「う」尽くし
 3年目の水無月(6月)の話。にっくき富三の話で、せっかく種市じいちゃんが取り戻した珊瑚のかんざしを再び富三に奪われてしまう、ご寮さんが可哀相な物語。又次兄貴大激怒でカッコイイ。料理のほうは、土用ということで、うなぎではなく、卯の花、瓜、豆腐を使った「う」尽くしで。一応、富三から、若旦那・佐兵衛が釣り忍売りをしてるという情報を得る。
 ◆想い雲――ふっくら鱧の葛叩き
 立秋が過ぎた頃の話。源済先生のお母さんがうなぎを差し入れに来たり、薮入りで健坊が来たりのつる屋さん。そこに、指を怪我した又次兄貴登場。どうやら、又次兄貴勤務の吉原・翁屋で鱧をさばこうとて噛み付かれたらしい。鱧といえば上方育ちの澪ちゃんの出番となるが、何かと厳しい吉原では、女料理人なんて認めないぜ的空気で……もちろん、ラストは、主の伝右衛門さんも、う、うめえ!? で一件落着。そして、後に何度か出てくる菊乃ちゃんと知り合い、ついに野江ちゃんことあさひ太夫と再会か――!?
 ◆花一輪――ふわり菊花雪
 十五夜の頃の話。家事で焼けてしまった、神田御台所町の旧つる屋跡に、偽つる屋出現!! しかも経営者はにっくき登龍楼の板長、末松だ!! 久々の小松原様も、味で勝る本家つる屋は大丈夫、と言ってくれるのだが、めっきりお客さんが減ってしまう。おまけに、なんと偽つる屋は食中毒を起こしてしまい、本家つる屋もその風評被害で大ピンチに。ここで、今まで酒を出さないつる屋で、月に3回、3の付く日(3日、13日、23日)を「三方よしの日(三方よし=近江商人の心得、売り手よし・買い手よし・世間よし)」として営業時間を延長し、夕方からは酒を出すことを思いつく。さらに、前話で、吉原の伝右衛門さんに貸しの出来た澪ちゃんは、「三方よしの日」は又次兄貴をつる屋の助っ人に来てもらう交渉に成功する。元々、夜は物騒で帰り道が怖いから早仕舞いしていたという理由もあったのだが、又次兄貴が帰りも送ってくれるので一安心。つる屋の行き届いた料理に、お客さんたちの誤解も解けてゆくのだった……的なお話です。
 ◆初雁――こんがり焼き柿
 神無月(10月)の話。すっかり秋めいた江戸。「三方よしの日」企画は大成功で、その日だけ吉原から来てくれる又次兄貴も生き生きと仕事をしてくれている。ふきちゃんは飯田川の土手の柿が気になるようだ。そんな時、ふきちゃんの弟の健坊が、つる屋の店先に現れる。なんでも、奉公先の登龍楼から無断で出てきてしまったと。そしてもう帰りたくないと。お姉ちゃんと一緒にいたいと。何とか説得して返すことが出来たものの、翌日、健坊が行方不明になったという知らせが――という話。久しぶりのりう婆さんもつる屋の助っ人にやってきてくれて、まあ最終的にはめでたしめでたしで終わる。いい話っす。

<4巻『今朝の春』>

 ◆花嫁御寮――ははぎき飯
 神無月(10月)中旬の話。日本橋両替商のお嬢様、美緒ちゃんが嫁入り修行を始める。大好きな源済先生と結婚したい美緒ちゃんだが、源済先生は御典医の息子で士分。武家作法を学ぶために大奥奉公をするのだとか。その入試に料理があると言うので、澪ちゃんに基礎を習いにやってくる。一方、つる屋には謎のお侍や武家の奥方様がお客としてやってくる。澪ちゃんがちょっとお話した奥方様は、どうやら腎臓が悪いらしく、源済先生に相談して「ははがき(ほうき草)」の実を料理に取り入れようとする。そして、なんとその奥方様が、常連の小松原様のお母さんで、小松原様は実は御膳奉行の小野寺様であることを知る澪ちゃんであった――てなお話。このお話でお母さんはすっかり澪ちゃんを気に入ってしまい、今後の物語の大きなポイントになる。
 ◆友待つ雪――里の白雪
 霜月(11月)の話。版元の坂村堂さんと戯作者の清右衛門さんがつる屋で飯を食いながら、なにやら新刊の打ち合わせをしている。聞いてびっくり、どうも、清右衛門先生は版元の金で吉原を取材して、謎の「あさひ太夫」を主人公とした物語を書こうとしているのである。いろいろ探られては困る存在のあさひ太夫こと澪ゃんの幼馴染・野江ちゃん。しかし、清右衛門先生の取材能力は高く、野江ちゃんを吉原に売り飛ばした女衒の卯吉を発見するにいたり――という話。吉原を身請けされた元・菊乃ちゃんがしのぶさんとして再登場したり、怒り狂う又次兄貴の立ち回りがあったり、澪ちゃんもとうとう清右衛門先生に野江ちゃんとの関係をすべて告白して、ならば自分が身請けするというアイディアをもらったりと何かと動きのあるお話でした。
 ◆寒椿――ひょっとこ温寿司
 冬至の頃の話。仲の良い夫婦のおりょうさんと伊佐三だが、なんと伊佐三さんに浮気疑惑が発生。おりょうさんは日に日に元気がなくなる。年末と言うことで、去年の料理番付で関脇になったつる屋だが、小松原様の話によると、今年は番付が出ないらしい。なぜなら、評判料理を多く作りすぎて、票が割れてしまったためだと言う。一方のおりょうさんと伊佐三さん夫婦は、太一君の教育方針を巡っても若干もめている様子。しかし、伊佐三さんは、太一君のために密かにあることをやっていたのだということが判明し、めでたしめでたしとなる。
 ◆今朝の春――寒鰆の昆布締め
 年末が近づく頃の話。料理番付を発行している版元の男がつる屋を訪れる。なんでも、番付は出せなかったが、それでは年が越せない、いっそ、つる屋と登龍楼で、料理バトルを行ってくれないか、とのオファーであった。つる屋チームは、バカ言うな、そんな番付のために料理を作ってのではないと断るが、既に登龍楼はノリノリだと。しかし、清右衛門先生や坂村堂の話を聞いているうちに、有名になれば失踪した佐兵衛の耳にも届くかも、ということで、オファーを受諾、料理バトルが始まる。献立のアイディアに悩む澪ちゃん。またも助っ人のりう婆ちゃんが来てくれたり、昆布のご隠居が差し入れくれたり、何とかこれで行こうと思ったところで、「御膳奉行」切腹の噂を耳にし、動揺する澪ちゃん。結果、左手中指と人差し指をザックリやってしまい……という話。このお話のラストの澪ちゃんと小松原様のやり取りが大変良いと思います。シリーズ屈指のいいシーンかも。

<5巻『小夜しぐれ』>
小夜しぐれ (みをつくし料理帖)
高田 郁
角川春樹事務所
2011-03-15

 ◆迷い蟹――浅蜊の御神酒蒸し
 文化12年睦月(1815年1月)の話。薮入りで健坊が来たり、種市爺ちゃんの元妻が現れたりと正月早々ばたばたなつる屋メンバー。元妻のせいで愛する娘が死んでしまった種市爺ちゃんの怒りと恨みが爆発するが、それをぶつける相手(元妻の浮気相手)にもつらい現実があって……シリーズ随一の悲しいお話。タイトルの迷い蟹とは、浅蜊の中にいた小さい蟹のことで、それを見て種市爺ちゃんが、ちゃんと家に帰ってれば……と亡き娘に想いを馳せるしんみりした話です。
 ◆夢宵桜――菜の花尽くし
 如月(2月)の頃の話。普段から患者のために奔走して大忙しの源済先生がぶっ倒れた!! というところから始まる。症状は重くなく、澪ちゃんは滋養になる料理で源済先生を見舞う。一方、つる屋には吉原・扇屋の楼主、伝右衛門さんがやってきて、弥生(3月)の花見の宴の料理を澪ちゃんに依頼。幼馴染の野江ちゃんことあさひ太夫に会えなくても近くにいけるのなら、と澪ちゃんは快諾。献立に悩む中、久しぶりにやってきた小松原様に相談すると「料理でひとを喜ばせる、とはどういうことか。それを考えることだ」と言われ、さらに悩むことに。そんな澪ちゃんに、優しい源済先生は「あさひ太夫に食べてもらいたいものを作ってみては?」とアドバイスをもらい、見事菜の花を使った料理と桜酒で客からの満足を受ける。帰りしな、伝右衛門さんから「世費わらに店を出さないか」というオファーを受け、悩む澪ちゃんであった……
 ◆小夜しぐれ――寿ぎ膳
 弥生(3月)の末から卯月、皐月の初めまでの話。友達のお嬢様、美緒ちゃんが嫁入り確定!! しかし源済先生が大好きな美緒ちゃんはまったく乗り気じゃない模様。最終的には、源済先生が実は澪ちゃんがすきということに気づいた美緒ちゃんは、「あなたのことが嫌いになれればよかったのに」と涙を流す。ちなみに澪ちゃんは、この段階ではまったく、源済先生の気持ちに気づいておらず、小松原様が大好き状態です。そしてこの話で、みんなで浅草に遊びに行った際、失踪中の佐兵衛さんを見かけ、取り乱す御寮さんのエピソードも。最後は澪ちゃんによる心をこめたお祝いの膳で締めくくり。
 ◆嘉祥――ひとくち宝珠
 唯一の、澪ちゃんが出演しない話で、小松原様こと、御膳奉行・小野寺数馬のお話。水無月(6月)に行われる「嘉祥」という将軍家主催のイベントに出す菓子を何にするか悩む数馬が、澪ちゃんのことを思いながらいろいろ試行錯誤する話で、妹の早帆さんやその夫で竹馬の友の駒沢弥三郎が出演。前の話で、澪ちゃんが、好きなお菓子は「(大好きなあなたと食べた)炒り豆です」と答えたことがちょっとしたヒントになる。

<6巻『心星ひとつ』>

 シリーズの中で極めて大きな出来事が起きる、重要な(6)巻。
 ◆青葉闇――しくじり生麩
 梅雨が明けた頃の話。坂村堂さんがつる屋に房八という恰幅のいい脂ぎったご隠居を連れてくる。なんでも坂村堂さんのお父さんの親友だとか。なんと坂村堂さんは、もともと「一柳」という江戸最強料亭の息子なんだとか。房八爺さんは御寮さんに惚れてしまい、実にうざい客でみんな大迷惑。空梅雨で青物の出来が悪く、献立に困った澪ちゃんは、七夕の夜、久しぶりの大雨でびしょぬれでやってきた小松原様と話した翌日、ふと、大坂では普通にある「生麩」が江戸にないことに気づき、自分で生麩を作ってみようと奮戦するのだが……初めて澪ちゃんが料理に失敗し、おまけに「一柳」の店主・柳吾さんからもキッツイことを言われてしょんぼりする話。
 ◆天つ瑞風――賄い三方よし
 葉月(8月)の話。小松原様の妹、早帆さまと澪ちゃんが知り合う話。再び吉原・扇屋の伝右衛門さんがつる屋訪問。吉原に店を出さないかというオファーの返事を求める。悩む澪ちゃん。そして同時に、ライバルで大嫌いな登龍楼の店主からも、2号店をたたむので、格安で買わないか、とのオファーが舞い込む。柳吾さんには、ずっとつる屋にいたら、成長できないと断言されてしまったし、さらに悩む澪ちゃん。そんな折、チーフウェイトレスのおりょうさんが、世話になった方の手伝いで長期離脱することになり、代わって再びりう婆ちゃんが登板。人生経験豊富なりう婆ちゃんに相談すると、澪ちゃん、あんた人のこと考えすぎ、自分のやりたいことを見極めて自分で決断すべし、とアドバイスする。そして出した決断とは――。ラスト、澪ちゃんはとうとう野江ちゃんと話をすることが出来、更なる決意に身を引き締めるのであった……。
 ◆時ならぬ花――お手軽割籠
 重陽の節句の頃(=9月)の話。なんとご近所での火事発生の影響で、飯田町では炊事の火を使う時間が制限されてしまう。料理屋に火を使うなと言うのは死活問題。困った澪ちゃんが編み出した秘策は、「そうだ、お弁当作ろう!!」であった。この作戦が大成功し、飛ぶように売れるお弁当。そんな中、先日知り合った早帆さまが澪ちゃんに料理を習いに通ってくることに。そして火の取り扱いの制限も撤廃され、元に戻るつる屋。そして早帆さまの最終日、早帆さまが自宅に来て欲しいと依頼。そこで出会った大奥様は、なんと(4)巻で知り合った小松原様のお母様!! つまり早帆さまは、小松原様の妹君であった。そして、澪ちゃんの将来を決する重大なオファーがもたらされる――!! という話。
 ◆心星ひとつ――あたり苧環
 神無月(10月)の話。前話のオファーがつる屋の皆にも知らされて一堂驚愕。どうする澪ちゃん!? と揺れまくる澪ちゃんが見つけた、揺るがない「心星」とは。源済先生も小松原様もカッコイイ男ぶりを見せてくれる、シリーズ最大の衝撃!! というわけで、詳しくは自ら読むことをおススメします。

 はーーーーーー。これまた疲れた。残る(7)巻~(10)巻は明日以降にしよっと。

 というわけで、結論。
 『みをつくし料理帖』シリーズは大変面白いです。まずはこの(6)巻までで、澪ちゃんの大きな転機が訪れますが、この先もまた大事件が発生して、本当に澪ちゃんは艱難辛苦に苛まれます。でも、本当に真面目に生きるのが一番ですなあ。わたしとしては、非常に励まされると言うか、ホント、読んでよかったと感じております。続きはまた明日!! 以上。 

↓今はせっせと、こちらのシリーズを読んでおります。3巻目まではもう読み終わりました。うん、やっぱり非常に面白いです。

 今、わたしはほぼ毎日せっせと『みをつくし料理帖』を読んでいて、全10巻のうち、現在9巻が終わりそうで、あとチョイで全部読み終わるところまで来ている。舞台は、このBlogで1巻2巻を紹介した時にも書いたが、1802年1812年から6年間ほどのお話で、要するに江戸後期、第11代将軍・徳川家斉の時代である。元号で言うと享和から文化から文政のころであり、時代劇で言えば田沼意次が失脚したのちの松平定信による寛政の改革の緊縮財政や風紀取締り、思想統制といった抑圧から開放され、江戸市民がやれやれ、と一息ついて元気を取り戻しているような、そんな時代であろう。
 この、19世紀初頭というのは、日本の文学や美術といった芸術史上「化政期」と呼ばれる 重要な頃合いで、今現在我々が知っている有名人が、まさに活躍していた時期である。ちょっと、1802年において、誰が何歳だったか、ちょっと調べてみた。面白いから芸術家以外の有名人も載せてみよう。
<※2016/04/25追記修正:間違えた!!! 澪ちゃんが淀川の氾濫で両親を亡くすのが1802年で、物語はその10年後だ!!! なので、澪ちゃんが江戸に来たのは1812年のようで、以下の有名人の年齢は10歳プラスしてください。どうも馬琴(=清右衛門先生)が若すぎると思った……なので、澪ちゃんは1794年生まれっすね>
 ■葛飾北斎:42歳(1760年生→1849年没)浮世絵師
 ■喜多川歌麿:49歳(1753年生→1806年没)浮世絵師
 ■歌川広重:  5歳(1797年生→1858年没)浮世絵師
 ■歌川豊国:33歳(1769年生→1825年没)浮世絵師
 ■歌川国貞:16歳(1786年生→1865年没)浮世絵師
 ■歌川国芳:  5歳(1797年生→1861年没)浮世絵師
 ■上田秋成:68歳(1734年生→1809年没)読本作家・俳人・歌人
 ■山東京伝:41歳(1761年生→1816年没)浮世絵師&戯作者(作家)
 ■十返舎一九:37歳(1765年生→1831年没)戯作者(作家)
 ■曲亭馬琴:35歳(1767年生→1848年没)戯作者(作家)
 ■為永春水:12歳(1790年生→1844年没)戯作者(作家)
 ■小林一茶:39歳(1763年生→1828年没)俳人
 ■渡辺崋山:  9歳(1793年生→1841年没)画家(文人画)
 ■酒井抱一:41歳(1761年生→1829年没)画家(琳派)
 ■杉田玄白:69歳(1733年生→1817年没)医者 
 ■前野良沢:79歳(1723年生→1803年没)医者
 ■桂川甫周:51歳(1751年生→1809年没)医者
 ■平田篤胤:26歳(1776年生→1843年没)医者・国学者
※この頃はもう亡くなっていたけど、時代的に近い有名人
 ■東洲斎写楽(1820年没らしいが、1794年~1795年の10カ月しか活動してない)
 ■平賀源内(1728年生→1780年没)何でも屋の天才
 ■中川淳庵(1739年生→1786年没)医者・玄白の後輩
 ■本居宣長(1730年生→1801年没)国学者
 ■伊藤若冲(1716年生→1800年没)画家
 ■円山応挙(1733年生→1795年没)画家

 ああ、いかん。面白くなってきて収拾つかなくなって来たので、この辺でやめとこう。
 もう、ある意味GOLDEN AGEの凄いメンバーだと思う。
 で、この中で言うと、『みをつくし料理帖』に出てくる戯作者の清右衛門先生は、明らかに馬琴のことであろうと思うわけで(りう婆ちゃんが語る清右衛門先生の作品内容は明らかに『南総里見八犬伝』)、その友達の絵師、辰政先生は、どうも北斎っぽい(同じく、初登場時にりう婆ちゃんが興奮して説明した内容は馬琴作・北斎画の『椿説弓張月』のことだろう)。そして医者の源斉先生も、まさに上記の偉人たちの活躍期ということで、蘭学が発達して近代医学が芽生え始めていたことが分かると思う。桂川甫周先生は、『居眠り磐音』シリーズでもお馴染みですな。時代的に、『磐音』の物語のちょっと後で、澪ちゃんは坂崎空也くんの5~7歳年下になるのではないかと思う。<※2016/04/25追記:そうか、10年ずれると言うことは、ラスト近くで亡くなったという源済先生の恩師って、杉田玄白のことなんだな、きっと>
 こういう時代背景なので、わたしは近頃この19世紀初頭という時代に大変興味があるわけだが、今日、わたしが朝イチに一人で観に行ったのが、渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞』という浮世絵の展覧会である。これが非常に痛快というか、実に楽しく面白い作品ぞろいで、また、まさしく『みをつくし料理帖』とほぼ同時代で当時の風俗や人々の姿を観ることができて、極めて興味深い展覧会であったのである。
kuniyosikunisada
 ↑チラシです。 ↓お、プロモーション動画もあったので貼っとくか。

 上記の動画でも分かる通り、そして、『俺たちの国芳わたしの国貞』というタイトルからも分かると思うが、この展覧会は、歌川国芳と歌川国貞の浮世絵を、当時のPOPカルチャーとして捉え、そこに現代性を観ることをコンセプトとして企画されている。非常に面白い取り組みだが、正直、シャレオツ感を盛りすぎていて(髑髏彫物伊達男=スカル&タトゥー・クールガイと読ませたりとかw)、性格のねじ曲がっているわたしとしては、若干鼻につくというか、敬遠したくなるのだが、企画意図は非常に興味深いと思う。実際、この企画通り、明らかに浮世絵は現在で言うところの小説挿絵だし、ズバリ言ってしまえば、ライトノベルのイラストそのものだ。また、美人画や役者絵は、もう現代のアイドルグラビアそのものであろう。
 そういう視点は、実際以前からもあったとは思うが、ここまでPOPカルチャーとして明確に振り切った企画展示は初めてのような気がする。これが、単に「歌川国芳・歌川国貞展」では、来場者はおっさんおばちゃんばかりになってしまうだろうが、実際のBunkamura展示会場内は非常に若者たちも多く来場していて、この企画が実に成功していることが良く分かる風景となっていた。何となく悔しい気分がしてならないが、これはもう、お見事、である。むしろ、とことんPOP色に染めているので、定番のお客さんであるおっさんおばちゃんに敬遠されてしまうのでは? と要らぬ心配もしたのだが、全然そんなこともなく、老いも若きも熱心に展示を観て、そして結構うるさく喋りまくっているような、ちょっとあまり例のない展示会だったように思う。うるさい、とは言いすぎか、みんな気を遣って超小声なんだけど、とにかくそのぶつぶついう声は明らかに普通の美術展よりも大きく聞こえてました。でも、まあ、去年の『春画展』の時も書いたけれど、観て、一緒に行った人としゃべりたくなる気持ちは十分わかる。おそらくは、春画も含めて浮世絵というものには、明確にストーリー、物語が存在しているのだ。だから、観て、そういった物語に触れると、どうしても人と語り合いたくなってしまうのではないかと思う。ま、あっしはいつも通り一人なんで、しゃべる相手はいねえってこってす。はい。やれやれ。
 
 で。今回、わたしがハッとした作品を二つだけ紹介しよう。共に国貞の作品だ。
KUNISADA_OUGIYA
 まずは↑これ。詳しくは、Museam of Fine Art BOSTONのWebサイトにあるのでそっちに任せます。なんと、藍色の単色刷りと見せて、唇だけ赤を使っているのがなんともイイ!!! 藍の濃淡も非常にBeautiful。これはシリーズもので、5人の大夫を描いたものの中の1枚です。実物はすごい綺麗です。そしてもう一枚がこちら↓
KUNISADA_OUGIYA02
 こちらの作品のBOSTONのWebサイトはこちら。これは、上の大夫をカラーで描いたもので、3枚組の中の1枚。両方とも、「江戸町壱丁目(=吉原の一等地)」にあった、「扇屋」という楼閣のTOP大夫「花扇」さんを描いたものです。なんでわたしがこの絵に深く感じるものがあったか、知りたい人は『みをつくし料理帖』を全巻読んで下さい。そして、読んだ人ならわかりますよね。これは、まちがいなく、作中に出てくる「翁屋」のことですよ。どちらも1830年頃に描かれた作品だそうで、186年前のこういった作品を観られるって、やはりわたしはとても感動してしまう。実に素晴らしい。
 国貞が1786年生まれだから、当時44歳。そしてそのころ、『みをつくし料理帖』の主人公、澪ちゃんは46歳36歳だね。あと少しで読み終わるけれど、澪ちゃんが幸せになることを祈ってやみません。そんなことを思いながら、今回の『俺たちの国芳 わたしの国貞』をわたしは堪能させてもらった。大変、楽しくて興味深い美術展でありました。ちなみに、Museam of Fine Art BOSTONのWebサイトでは、たぶんほとんどのコレクションを検索で探せて、今回日本に来ていない作品もいっぱい観ることができた。こういうサービスは、日本でももっともっと充実してほしいですな。
 最後に、きっと検索でこのBLOGにたどり着いた人が一番知りたがることを書いておこう。ズバリ、土日は混んでます。なので、朝イチに行かないとダメです。昼に行っても、人の頭しか見えないと思います。浮世絵って、とにかく線がとてもとても細かくて、サイズ的にも画自体大きくないので、朝イチに行かないと魅力の半分も味わえないと思いますよ。わたしは当然、いつも通り朝イチ&前売券購入済みで楽々入場して存分に鑑賞できました。あと、図録は2500円と、まあ標準的なお値段でしたが、かなり論文や読む部分が多くて、少なくともわたしは満足です。装丁も、やけに手触りがいいのが気に入りました。

 というわけで、結論。
 何でもそうだと思うけれど、やはり、ある程度、何事も準備して損はないと思う。突然行って何の知識もなくぼんやり見るのも、別にそれはそれでアリだけど、背景をある程度知ってからの方が、その面白さや感動はもっともっと深く、豊かになると思いますよ。『俺たちの国芳 わたしの国貞』展は、ちょうど最近私が興味のある時代と一致していて、大変楽しゅうございました。以上。

↓ あとは10巻だけ。澪ちゃん……幸せになっておくれよ……。
天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2014-08-09

 

 昨日は4月1日。新年度の始まりである。
 わたしは昨日の朝、市ヶ谷と靖国神社の真ん中あたりにあるとある役所へ会社の手続きの用事があったので、8時半開庁に間に合うように、朝っぱらから 、靖国神社と武道館周辺の桜を愛でながら歩いていくか、と思い立った。ちなみになんでそんな朝行くの? と思う方もいるだろう。あのですね、4月1日は超激混み必死なわけですよ。ならば朝イチがわたしにとっては当然なのである。
 普通に歩けば、わたしの足なら30分かからない。なので、8時前に出れば十分なのだが、ふと、ああ、そういやきっと、わたしがこのところ楽しく読んでいる『みをつくし料理帖』の主人公、「澪ちゃん」もきっと同じような道のりを毎日歩いてたんだろうな、と気が付いた。澪ちゃんが住んでいるのが、たしか神田金沢町。神田明神に程近いところだったはずだ。そして「昌平橋」を渡って、それから半時(=1時間)ほどかけて、「俎橋」を 渡って、勤務場所「つる屋」のある元飯田町に至ると。そんな経路なので、恐らくはこんな感じだろう、と見当をつけた。
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 これは現代の地図だけど、分かるかな? 今でも「神田明神」「昌平橋」「俎橋」は上記のように存在している。東京の地理に明るい人なら、ああ、要するに「靖国通りを真っ直ぐ行くだけね」と分かると思う。古地図を確認したわけではないので、全然適当な予想だが、上記の地図で言うと、おそらく、昌平橋からすぐに左に曲がってショートカットすることはなかったと思う。なぜなら、昌平橋から現在の御茶ノ水駅方面へは、上り坂なのだ、「駿河台」という小高い丘になってるのです。なので、おそらくは昌平橋を渡って、そのまま駿河台を迂回する形で、現在の靖国通りあたりまで南下してから、西へ向かったはずだと思う。もちろん、靖国通りはたぶん当時はなかったと思うので、そのものズバリではないと思うが、まあ、方向は間違いなかろう。
 というわけで、30分でいける道のり+澪ちゃん通勤経路探索&桜見物30分を含めて、昨日は朝の7時半から、スーツ姿でLet's Walk と洒落込んでみた訳である。まさか澪ちゃんも、210年後の未来にこんなストーカーじみた目に遭うとは思ってもいなかっただろうな。そう考えると、わたしもまあ物好きと言うか、もはや変態である。
 いいの!! 面白いから。
 
 で。まずは、「神田明神」と澪ちゃんが毎朝渡り、夜くたびれて帰ってくる「昌平橋」からスタートだ。現在の様子はこんな感じ。
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 神田明神は今現在でも大変多くの参拝者の集う、将門公を祀る江戸の総鎮守様だ。最近ではすっかり「ラブライブ」の聖地にもなっていて、昨日のアキバはラブライバーがいっぱいいましたね。朝はガラガラで大変気持ちがいい。
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 で、これが現在の昌平橋。上を走っている緑の鉄橋が、JR総武線ですな。これは、上で貼った地図で言うと、南から北の方向で撮影している。澪ちゃん的には、帰りの景色ですね。このあたりを歩いていたら、この写真で言うところの、橋を渡って向こう側へ行き、右に曲がった反対側へ行ったところに小さな公園があって、桜が1本佇み、綺麗な花を咲かせていたのだが、そこにはこんな、案内板があった。
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 おっと、古地図があるじゃないですか。なるほど、神田旅籠町、か。いやいや、ちょっと待って、神田旅籠町って、「源斉先生」が住んでるところじゃん!? と気が付いて、若干のテンション上昇である。ほほう、やっぱこの辺か。なるほど。で、古地図の部分を拡大すると……
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 おっと!! あった!! あるじゃん、「神田金沢町」。神田明神のちょっと北(左下にある神田明神のちょっと上)。おお、しかも旧つる屋のあった「神田御台所町」や源斉先生の住んでいる「神田旅籠町」もすぐそばだ。なるほど、まさしくここだ。そして、昨日はぜんぜん気が付かず、今さっき写真を加工してて発見したのだが、この地図の右上の端っこの方に、「稲荷社」ってのがありますね。これが澪ちゃんが通う、「化け物稲荷様」かな? どうだろう? もう一度読み直して描写をチェックして見ないと分からないな。現地は今度またチェックしておきますわ。
 てな感じで、完全にもうストーカーなわたしであるが、なんだか朝から気分がアガッて来ましたぜ。こいつぁ、たまらねぇ。である。※一応解説しておきますが、種市おじいちゃんの真似です。
 というわけで、ここから澪ちゃんは歩いてんだなーと、Walking開始である。その道筋は、別に面白くないので割愛します。最初に貼った地図の通り、ツカツカと靖国通りを西へ向かうだけなので。
 で、わたしの足ではやはり、30分もかからず、ごくあっさり「俎橋」まで来た。以下が現在の俎橋であります。
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 九段下の、ちょっと手前に「俎橋」の交差点の看板アリ。で、もちろん「橋」としても残っていて、
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 ずどーんと、立派にネームプレートが設置されてます。
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 が、ご覧の通り、この日本橋川の上には首都高が通っているため、暗~い感じになってます。
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 この写真の、左岸が、新しい「つる屋」のある元飯田町ですな。今はすっかり面影なし。土手もなく、コンクリート製だし。この川辺で、澪ちゃんやふきちゃんは、何度泣いたことでしょう。200年、人類は進歩したんだか、変わってないんだか、分からんですな。
 なんてことを思いながら、わたしはまだ『みをつくし料理帖』の3巻までしか読んでいないけれど、続きを読むのがもっと楽しみになって来ました。男の、たぶん常人よりはるかに勝る脚力を持つわたしがツカツカ歩いて30分かからないほどの距離だが、女子であり、着物であり、草履であり、また道も悪い状況で……と考えると、やっぱり澪ちゃんの足では小1時間はかかるかもな、というのは納得できた。これを毎日通っていたわけで、そりゃ遠いとは思わないけど、楽ではないわな。澪ちゃん、4巻以降どんな艱難辛苦に苛まれるか、まだわたしは知らないけど、幸せになっておくれ。と願わずにはいられないわたしであった。
 以下、おまけ。
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 靖国神社や武道館周辺は、もう満開でした。人出も多く、昼以降はもう、歩くのも大変な混雑だと思う。ま、夜桜を観て酔っ払うのも、それはどうぞご自由に、だが、やっぱり朝、少し肌寒いくらいの澄んだ空気の中、ぼんやり過ごすほうが、粋だと思いますよ。大変綺麗で、昨日一日、とても気持ちよく過ごせましたとさ。おしまい。

 というわけで、結論。
 現在の秋葉原と御茶ノ水の間にある「昌平橋」から、現在の九段下にある「俎橋」まで、1.9Kmほどである。1802年当時の女子の足では、まあ小一時間はかかるだろうなと言うのは良くわかった。江戸中期に生きた澪ちゃんと、平成の世に生きるわたしとでは210年ほどの時の隔たりがあるが、まあ、きっと、人間としての中身はそれほど変わらんのだろうと思う。澪ちゃん、毎日の通勤も大変だろうけど、幸せになっておくれ。オレも真面目に生きてみます。以上。

↓ こういうの買って、ちょっと思いを馳せてみるのも乙ですね。つーか、もう完全にオレの趣味、老人レベルなんじゃないかと心配です。

 先日読んだ、『みをつくし料理帖』が大変面白かったので、とりあえず2巻目を買ってきた。で、これまた非常に気に入ったので、もう、オラァッ!! と全10巻買って読み始めています。
 毎回読み終わるたびに、ここに書いていくと10回にもなるので、今後は数巻ずつまとめて感想を書こうと思います。今日は2巻だけですが。
花散らしの雨 みをつくし料理帖
高田 郁
角川春樹事務所
2009-10-15

 ええと、……どうすべか。ま、エピソードガイドにしておこうか。
 まずは復習。『みをつくし料理帖』はこんなお話です。
 主人公、「澪」ちゃんは18歳。舞台は1802年の江戸。半年前に大坂から出てきたばかり。澪ちゃんは当時珍しいはずの女性料理人として大坂のとある有名料亭「天満一兆庵」に勤務していたのだが、火災に遭って焼け出されてしまう。やむなく、その江戸店に移ってきたところ、江戸店を任せていた経営者夫婦の息子が、なんと吉原通いに熱を上げてしまっていて、店もすでになく行方知れずになっていたのです。散々行方を探すも見つからず、経営者の旦那さんは亡くなってしまい、奥様(=「ご寮さん」と呼ばれている。本名は「芳」さん)も心労でぶっ倒れてしまったため、困っていたところ、とある縁で、神田明神下で「つる屋」という蕎麦屋を経営する「種市」おじいちゃんと知り合い、その「つる屋」で料理人として雇用されるに至ると。物語は、既に大坂からやって来てから半年後(?)の、つる屋で毎日元気に働く澪ちゃんの姿から始まる。
 で、問題は澪ちゃんの味覚なわけだが、料理は上手でも、完全に大坂テイストが身に付いていて、時には江戸っ子のお客さんたちから、なんじゃこりゃ、と言われてしまうこともあり、江戸の味を覚えるのに必死なのが最初のころ。で、何かと親切にしてくれる医者の「源斉」先生や、謎の浪人風のお侍「小松原さま」と知り合って、いろいろ味を進化させていくという展開。
 1巻は、江戸の高級料亭「登龍楼」というライバルの嫌がらせにより、つる屋に大変なことが起きて、それでも何とか頑張っていくところまでが描かれた。なお、これは有名な話だが、当時、江戸のレストランランキング的な「料理番付」というものが実在していて、この1巻では登龍楼は大関にランクされていて、つる屋は澪ちゃん考案のメニューによって小結にランクされるなど注目を浴びる(その結果、嫌がらせを受けちゃったけど)。
 そして、これは前回も書いた通り、この物語にはもう一つの軸がある。澪ちゃんは幼少期に淀川の氾濫によって両親を亡くしているのだが、同時に一番の親友だった幼馴染の消息も失ってしまっている。そして、かつて、少女の頃に占ってもらったところによると、澪ちゃんは、「雲外蒼天」の運命にあり、またその消息が分からなくなってしまった親友の「野江」ちゃんは、「旭日天女」の運命にあると言われたことがある。
 澪ちゃんの「雲外蒼天」というのは、辛いことや艱難辛苦がいっぱいあるけれど、その雲を抜ければ、誰も観たことがないような蒼天を観ることができる、つまり超・大器晩成ですよ、ということで、一方の野江ちゃんの「旭日天女」というのは、天に昇る朝日のような勢いで天下を取れる器ですよ、というものだが、1巻では、子どものころに被災した水害で行方が分からなかった野江ちゃんが、どうも現在は吉原のTOP大夫の「あさひ大夫」その人なんじゃないか、ということが明らかになる。それは1巻の最後に、大変な目に遭った澪ちゃんに届けられた現金に添えられていた手紙で「ま、まさか!!」となるわけだが、まあ、読者的にはもうまさかじゃなくて、あさひ大夫=野絵ちゃんと言うことは確定してます。
 はーーー。まーた長く書いちゃった……。とまあ、こんな感じの1巻であったのだが、2巻は以下のようなお話でした。大変面白かったです。前回も書いたように、基本的に短編連作の形で、どうやら毎巻4話収録っぽいですな。
 ■俎橋から~ほろにが蕗ご飯
 前巻ラストで大変な目にあった「つる屋」は、神田明神下から俎橋へ引っ越し、リニューアルオープンを果たすところから始まる。「俎橋」は今でも交差点で名前が残ってますね。九段下のチョイ秋葉原寄りの、ちょうど首都高が靖国通りの上を通るところですな。
 このお話で、「ふき」ちゃんという新キャラ登場です。彼女の行動は微妙に怪しくて……またも大変な事態が発生するのだが、それでもふきちゃんを信じる澪ちゃん。そして登龍楼に乗り込んでタンカを切る澪ちゃん、頑張ったね。キミは本当にいい娘さんですよ……。そしてもう一人、戯作者(=今で言う作家)の「清右衛門」先生もここから登場。この人は、とにかく毎回、澪ちゃんの料理に難癖をつける嫌なおっさんなのだが、言う事はまともで実際のところ、つる屋が気に入って何気に応援もしてくれている人で、この後レギュラー出演します。
 ■花散らしの雨~こぼれ梅
 季節はひな祭りの時分。新キャラとして、流山から「白味醂」を売りに来た留吉くんが登場。そしてなにやら吉原で事件があったようで、あさひ大夫に何かが起こったらしく、あさひ大夫専属料理人兼ボディガードの又次さんがやって来る。この又次さんは1巻にも出てきた人で、相当おっかない筋のヤバい人なのだが、澪ちゃんにはつっけんどんながらも何かと良くしてくれるいい人で、今回も澪ちゃんに、とある料理をお願いするのだが……みたいなお話。章タイトルの「こぼれ梅」は、大坂時代によく澪ちゃんと野絵ちゃんが好きで食べていた味醂の搾り粕のこと。
 ■一粒符~なめらか葛まんじゅう
 このお話では、澪ちゃんとご寮さんが暮らす長屋のお向さんである、「おりょうさん」一家が麻疹にかかってしまうお話。医者の源斉先生も大活躍。小松原さまもちらっと俎橋に引っ越してから初めて登場するも、澪ちゃんはすれ違いで会えず。また、つる屋で接客を手伝ってくれていたおりょうさんが倒れてしまったので、ピンチヒッターとして70過ぎの「りう」おばあちゃんという新キャラも登場。超有能で、なくてはならない存在に。
 ■銀菊~忍び瓜
 季節は皐月のころ。かなり暑くなってきた江戸市中。涼やかな蛸と胡瓜の酢の物をメニューに入れた澪ちゃんだったが、蛸は冬の食い物だぜ、という江戸っ子のお客さんたち。まあ、一口食って、みなさん、うんまーーい!! となるので一件落着かと思いきや、日に日にお侍のお客さんが減ってしまい、ついにお客さんは町人だけになってしまった。困った澪ちゃんだが理由がさっぱりわからない。そんな折、澪ちゃんが実はもう好きで好きでたまらない小松原さまが久しぶりのご来店だ!! 素直に喜べず、ちょっと怒ったりなんかもして、まったく澪ちゃんは可愛ええですのう。で、小松原さまの話によって、武士が胡瓜を食わない理由も判明し、澪ちゃんの工夫が始まる――みたいなお話。今回も、新キャラの「美緒」さんというお金持ちの両替商の別嬪さんが登場。この人も、この後ちょくちょく出てきますね。源斉先生に惚れている娘さんです。

 とまあ、こんな感じで2巻は構成されていて、今回も大変楽しめた。
 しかし、どうも最初のあたりでは、小松原さまは中年のくたびれた浪人風な男をイメージしていたのだが、どんどんとカッコ良くなってきたような気がする。そして澪ちゃんも、いろいろな艱難辛苦に苛まれる気の毒な女子だ。しかし、それでも健気に、そして真面目に生きていくことで、周りの人も明るくして、様々な縁を引き寄せるんだから、ホント、頑張って生きるのが一番だな、と改めて教えてくれますね。オレも真面目に生きよっと。そんなことを思いましたとさ。

 というわけで、結論。
 『花散らしの雨 みをつくし料理帖~2巻』もまた大変楽しめました。
 真面目に生きているわたしにも、こういう縁がいろいろ訪れてくれるといいのだが……まだまだ精進が足りないっすな。頑張ります。以上。

↓これはレシピ集みたいっすね。はあ……料理の上手な健気な女子と出会いたい……。

 先日、わたしが大変お世話になっている美人のお姉さまに、「あなた、そういえばこれをお読みなさいな」と勧められた小説がある。へえ、面白いんすか? と聞いてみると、既にシリーズは全10巻で完結しており、また以前TVドラマにもなっていて、ヒロインをDAIGO氏と結婚したことでおなじみの北川景子嬢が演じたそうで、その美人お姉さま曰く、「面白いわよ。でも、わたしは、TV版の北川景子さんではちょっと小説でのイメージよりも美人過ぎるというか、彼女よりも、あなたが最近イイってうるさく言ってる、黒木華さんなんががイメージに合うような気がするわ」とのことであった。
 ええと、それはオレの華ちゃんが美人じゃあないとでもおっしゃるんですか? と思いつつも、「まじすか、じゃ、読んでみるっす」と興味津々の体で、すぐさま、その場で調べてみるも、どうも電子書籍版はないようなので、その後すぐに本屋さんへ行き、まずはシリーズ第1巻を買ってみた。それが、高田郁先生による『八朔の雪 みをつくし料理帖』という作品である。

 なお、インターネッツという銀河を検索すれば、TV版の映像も出てくるが、どれも違法動画っぽいので、ここに貼るのはやめておきます。小説を読み終わったばかりのわたしとしては、ははあ、なるほど、お姉さまの言う通り、北川景子嬢ではちょいと感じが違うかもね、というのはうなづけた。もちろんそれは北川景子嬢が悪いと言う話ではなくて、美人過ぎる、からなのであって、北川景子嬢のファンの皆さまにはお許し願いたい。そもそもわたし、ドラマ版を観てないので、とやかく言う資格もないし。俄然見たくなってきたけれど。
 で。この作品は、主人公「澪」ちゃん18歳が、「牡蠣の土手鍋」を店で出して、客から、なんじゃいこりゃあ? と言われてしまうところから始まる。どうやら澪ちゃんは大坂出身であり、江戸っ子たちには牡蠣の土手鍋は未知の料理であると。そして、どうやら「種市」さんというおじいちゃん経営の蕎麦屋「つる屋」の料理人として雇われていて、「お寮さん」と呼ぶ奥様と一緒に、神田明神の近くに住んでいるらしいことがすぐわかる。その後、料理の話を中心に、澪ちゃんとお寮さんの関係や、江戸に来たいきさつなどが判明してくると。で、現在の蕎麦屋に雇われるきっかけとなった出来事も語られたり、何かと澪ちゃんや種市爺さんを気に掛けてくれるお医者さんの「源斉先生」や、謎の常連客の浪人風なお侍「小松原さま」と知り合って、話が進んでいく。
 基本的には、いわゆる短編連作という形式で、1話につき一つの料理を巡って話が進む。その時、必ずカギとなるのが、江戸と大坂の味覚・料理法の違いだ。大坂人の澪ちゃんにとっての常識は江戸では非常識であり、当然逆に、江戸での常識は澪ちゃんにとって、「ええっ!?」と驚くべきものなのだ。このカルチャーギャップが本作の基本で、毎回読んでいて非常に興味深い。例えば、冒頭の「牡蠣の土手鍋」は、関西以西では普通でも、江戸っ子にとって牡蠣は、焼いて食うものであって、「せっかくの深川牡蠣を」「こんな酷いことしやがって、食えたもんじゃねえ」とお客に怒られてしまう始末なのである。こういったカルチャーギャップは、現代の世の中でも話のネタとしては鉄板だ。わたしの周りにも大阪人や名古屋人などが存在していて、よくそういう食べ物系カルチャーギャップの話をする。江戸人に限らず、我々現代人の場合においても、自らのソウルテイストに固執して、違うものを拒絶する傾向が多いと思うが(かく言うわたしも関東人の味付けじゃないと嫌だし)、澪ちゃんはプロ料理人として、江戸風味を理解し、生かしながら、自らの大坂テイストとの融合を模索する。その工夫は特に後半で問題となる、「出汁」の話が非常に面白い。昆布出汁で育った澪ちゃんが、江戸の鰹出汁とどう折り合いをつけ、澪ちゃんオリジナルとして昇華させるか。おそらく読者たる我々も、なんだか作中に出てくる料理を味わいたくなるのが、この作品の最大の魅力の一つであろうと思う。なお、文庫巻末には、作中料理のレシピが付いてますので、誰かわたしに作っていただけないでしょうか。
 ところで、澪ちゃんの最大のビジュアル的特徴は、「眉」である。澪ちゃんは数多くのピンチに苛まれるわけだが、その度に、「地面にくっついちまうぜ」と小松原さまにからかわれる通り、「下がり眉」なのだ。わたしは、しょんぼりと困った顔をして眉が下がっている様の女子が大好きなので、もうのっけから澪ちゃん応援団になってしまった。「下がり眉」愛好家のわたしとしては、現在の芸能界で最強に可愛い下がり眉と言えば、元AKB48の大島優子様だが、澪ちゃんのイメージとしては、優子様ではちょっと美人過ぎるか。もうチョイあか抜けない素朴系……と考えたら、確かに、この作品をわたしに教えてくれたお姉さまの言う通り、愛する黒木華ちゃんが候補に挙がるような気がする。ただ、澪ちゃんはまだ18歳なので、もうチョイ若い方がいいのかな。ま、そんなことはどうでもいいか。
 いずれにせよ、澪ちゃんは非常な困難に何度も直面し、しょんぼりとよく泣く、気の毒な娘さんだが、彼女は一度泣いたあと、きっちりと気持ちを立て直し、常に努力を続ける。じゃあ、これはどうだろうと考えるし、周りの人々のちょっとした話からも、解決の糸口を見つけ出す。その「常に前向き」な姿勢が非常に健気で、わたしとしては彼女を嫌いになれるわけがない。とても良いし、応援したくなる。まさしく彼女は、物語の主人公たる資質をきっちりと備えているわけだ。もちろん、周りのキャラクター達も、そんな澪ちゃんを放っておけない。いわゆる江戸小説らしい人情が溢れており、とても読後感はさわやかである。これは売れますよ。人気が出るのもうなずける作品であるとわたしは受け取った。
 この作品を貫いている一つの大きな柱として、「雲外蒼天」という言葉がある。これは、澪ちゃんが子供のころに占い師に言われた言葉で、曰く、「頭上に雲が垂れ込めて真っ暗に見える。けんど、それを抜けたところには青い空が広がっている。――可哀そうやがお前はんの人生には苦労が絶えんやろ。これから先、艱難辛苦が降り注ぐ。その運命は避けられん。けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほど澄んだ綺麗な空を。ええか、よう覚えときや」という意味である。
 まさしく澪ちゃんは、「雲外蒼天」の言葉通り、艱難辛苦に遭う。そして、それでも頑張り通して、最後には笑顔になることができる。それは澪ちゃんだけでなく、周りの人々をも笑顔にするもので、当然、読者たる我々にも、笑顔を届けてくれるものだ。こういう作品を、傑作と呼ばずして何と呼ぶ? わたしはこの作品が大変に気に入りました。
 
 というわけで、結論。
 『八朔の雪 みをつくし料理帖』は大変面白かった。澪ちゃんにまた会いたいわたしとしては、もはやシリーズ全10巻を買うことは確定である。これはいい。最後どうなるのか、楽しみにしながら、せっせと読み続けようと思います。幸せになっておくれよ……澪ちゃん……。そしてこの作品をわたしに教えてくれた美しいお姉さま、有難うございました!! 以上。
 
↓漫画にもなってるんですな。ドラマ版は、探したのだけれどどうもDVD化されていないっぽいです。

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