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 この年末、わたしはせっせとHDDにたまっている未視聴の映画(主にWOWOWで録画)を観ていたわけだが、まあ、残念ながらハズレが多くこのBlogに書くネタとしてはちょっとなあ……と思うような作品が多かったのだが、読書の方は、結局1冊しか読まなかった。
 その1冊とは、買ったのは2週間ぐらい前なのだが、発売をずっと楽しみにしていたコイツであります。なお、紙の本ではもう数年前にとっくに出ていた作品なので、正確に言うと、電子化されるのを待ってたわけです。

 去年2016年に、わたしをとても楽しませてくれた上橋菜穂子先生による「守り人」シリーズの番外編第2巻、『炎路を行く者』である。本編は既にちょっと前にこのBlogで書いた『天と地の守り人』で美しく完結しているが、この番外編は2つの中編から成っていて、一つはタルシュ帝国の密偵であり、元ヨゴ皇国民であったヒュウゴの幼き頃のお話であり、もう一つは、シリーズの主人公バルサの15歳当時のお話であった。
 まず、ヒュウゴを主人公とした中編「炎路の旅人」は、なぜヒュウゴが自らの故国を攻め滅ぼしたタルシュ帝国の密偵となる道を選んだのか、が語られる、なかなか泣かせるお話でありました。このお話によると、ヒュウゴは元々ヨゴ皇国内における帝の親衛隊「帝の盾」の家系であり、いわば裕福層の武人家庭に育ったお坊ちゃんだったのだが、タルシュ帝国の侵略により、ヨゴ皇国は吸収併合され、枝国となる。その際、タルシュ帝国は、一般のヨゴ皇国民の生命は保証する代わり、後の復讐を抑えるため、軍人(=武人)階級のみ、一切の例外なく粛清する。その粛清の嵐の中、ヒュウゴは母と妹とともに逃げる際、自分一人だけ助かってしまい、落ち伸びると。で、瀕死のところをとある少女に助けられ、なんとか少年時代を過ごすのだが、その少年時代は常に虚しさを抱えたものであり、街の悪ガキとなってヤクザ予備軍として顔役的な存在までのし上がっていた頃に、自らも別の枝国出身であるタルシュの密偵と出会い、その男の話を聞いて心が揺らぐという展開である。
 曰く、彼もまたタルシュに征服された国の出身なので、ヒュウゴから見たら卑怯な男に見えるかもしれない。しかし「<帝の盾>の息子殿にはとうてい許せぬ、やわな忠誠心だろう。え? 卑劣な風見鶏に見えるか? いいや、おれは石よりも硬い忠誠心を持っているよ。仕えているいる相手への忠誠心じゃないがな。おれは、自分に忠誠を誓っている。――それは決して揺るがぬ。殺されてもな。」
 いやはや、大変カッコイイセリフだと思う。
 つまりこの密偵は、「自分の目で世界を見極めろ」という話をしているわけで、彼の言葉をきっかけに、ヒュウゴは自らの狭い視野に映っていた小さな世界からの脱出を決意するわけだ。それは、それまでヒュウゴがまったく考えていなかったものであり、たとえばタルシュに併合されたことで、逆にヨゴ枝国の生活インフラがどんどん整っていったり、武人は殺されたのに帝本人はどうやら生きているらしい、といった現実など、様々な思惑の結果としての現在を改めて見つめ直すきっかけとなるわけで、この後のヒュウゴの活躍の基礎となる話なので、シリーズとしては結構重要なお話だと思いました。ヒュウゴがいなかったら、チャグムは故国を救えなかったし、そんな重要キャラの行動の動機を知ることができて、わたしは大満足です。ズバリ、面白かった。

 そしてもう一本収録されているバルサの話「十五の我には」は、『天と地の守り人』でチャグムと別れる直前の夜に交わした会話をバルサが思い出し、もっと気の利いたことを言ってやればよかったと思いながら、自分がチャグムぐらいの時なんて、もっともっと幼かった……と回想するお話である。
 『天と地の守り人』で、バルサとチャグムが別れる時に話していたのは、殺人を経験してしまったチャグムが、この苦しみはいつか心の折り合いをつけられるのか、それとも永劫に続くのか、と問うものであった。その時バルサは、その苦しみはなくならない、というよりもなくしちゃいけない、と答えた。その答えに自信のないバルサが、かつて自分にはジグロという素晴らしい先生がいたことを想い、自分はチャグムの心を支えてあげられたのだろうか……と想いながらかつての少女時代を思い出すという展開である。バルサの過去話というと、番外編第1巻『流れ行く者』でも語られたバルサの少女時代と重なっているお話で、当時、いかにジグロに守られていたか、そして厳しいながらもなんと幸せだったか、という感謝となつかしさ、そして、それをまるっきりわかってなかった自分に対する自嘲めいた痛み、が語られる。
 いまや30歳を超え、15歳の時に見えなかったものがたくさん見えるようになった。けれど、それでもまだまだ分からないことが多い今。あの日のジグロのように、わたしはチャグムにとって良き先達となっているのだろうか、と述懐するバルサは、やっぱりとてつもなく優しく、まっとうな女だと思う。
 用心棒稼業で、身を守るためとはいえ、人を傷つけあまつさえ命を奪うことすらある毎日を、バルサは悩みながらも、「仕方なかった」と心を麻痺させることなく、常に痛みを忘れずにいるという覚悟をバルサは持っている。やっぱり、カッコいいですな。カッコいいってのは違うか、なんだろうこれは。バルサに対するわたしの敬意、なのかな。まあ、現代日本に平和に生きる我々には持ちようのない、想像を絶する境地だろうと思う。しかし、想像を絶するけれど、想像してみることに意味があるんだろうな、きっと。ホント、わたしは上橋先生による「守り人シリーズ」に出会えて良かったと思います。ちょっと大げさか、な。バルサやタンダ、そしてチャグムに幸あれ、と心から願いたいですね。素晴らしい物語でした。

 というわけで、結論。
 上橋菜穂子先生による「守り人シリーズ」の、最後の物語『炎路を行く者』を読み終わってしまい、本当に、これでもうお別れとなってしまった。とても淋しく思う一方で、読者としてとても幸せな余韻がまだわたしの心の中に漂っている。いやあ、本当に面白かった。いよいよ今月から始まるNHKの実写ドラマ第2シーズンも楽しみですね。成長したチャグムに早く会いたいですな。そしてもちろん、綾瀬バルサにも、また会いたいです。以上。

↓ しかし第1シーズンのバルサとチャグムの別れのシーンは泣けたっすね……あそこのシーンは原作を超えたといっても過言、じゃないと思うな。
精霊の守り人 シーズン1 Blu-ray BOX
綾瀬はるか
ポニーキャニオン
2016-08-17


 

 いやー。マジで泣けたというか、これは「感動」だろうな。
 悲しいのではなくて、何か熱いものがこみ上げるというか、……何かとてつもなく大切なものを感じ、心が動かされたわけで、わたしはこの作品が大好きだと全世界に宣言したい気分である。本当にラストは泣けました。最高です。


  わたしは、この上橋菜穂子先生による『守り人』シリーズと呼ばれる一連の作品を、存在は知っていたが、実際に読んだのは今年の春である。紙の本は、もう10年?近く前に刊行されている作品なので、もはや世の中的にはお馴染みだろうし、アニメにもなった作品なので、大勢のファンがいるだろうと思う。だから、わたしがこうして感動に打ち震えているのも、実のところ、超いまさら、な話ではあろう。わたしはこの『守り人』シリーズを読むよりだいぶ前に、『獣の奏者』や『鹿の王』などを読んで、これまたいたく感動していたので、上橋先生の作品が素晴らしいことはもちろん分かっていたつもりだが、この『守り人』シリーズも、ホントにまあ、素晴らしく、心に残る作品であった。
 わたしが読み始めたきっかけは、実のところNHKの実写ドラマ化だ。そのドラマ化に合わせて、電子書籍化もなされたため、それじゃ読んでみるか、と今年の春に買ってみたわけである。
 しかし、春の段階では、まだ電子書籍では全巻発売になっておらず、最後の完結編である『天と地の守り人』の3部作だけはおあずけ状態となっていたのだ。なので、早く出ないかなー、つかもう紙の本で買っちまおうかしら、と何度も悩んでいたところ、ようやく先週、わたしが愛用する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERから、「新刊が出ましたよ~」とお知らせが来たのである。このときは、わたしはものすごくうれしくて、すぐさま購入し、読み始めたわけである。
 一応、この完結篇たる三部作以外は、このBlogでもいちいち記事を書いたので、ちょっと自分用にまとめてリンクを貼っておくとしよう。
 1作目の『精霊の守り人』の記事はこちら
 2作目の『闇の守り人』の記事はこちら
 3作目の『夢の守り人』の記事はこちら
 4作目の『虚空の旅人』んぼ記事はこちら
 5作目の『神の守り人<来訪編><帰還編>』の記事はこちら
 6作目の『蒼路の旅人』の記事はこちら

 というわけで、今回の『天と地の守り人』は、シリーズ7作目にあたる。そして3分冊になっていて、ボリュームとしてはシリーズ最大の読みごたえがあり、物語としても非常に濃厚かつ劇的で、そして結末としては(ほぼ)すべてに明確な回答が描かれ、完結編として完璧な完成度であるといってよいのではないかと思う。
 シリーズを読み続けてきた人(そうじゃない人でいきなりこの7作目を読む人はいないよね?)であれば、間違いなく喜び、悲しみ、怒り、楽しんで、そしてラストは非常にすがすがしいものを感じるだろうと思う。これまで出てきたほぼ全てのキャラが今回総出演だし、何といっても、チャグムのまっすぐでりりしい成長には、誰しも目を細めることだろうと思う。
 そもそも、本作は、明確に前作『蒼路の旅人』のラストシーンからの続きである。1作目でまだ幼かったチャグム、バルサと出会い、成長し、バルサとの別れにしょんぼりするチャグム。あの少年がすっかり成長し、外交官的な役割をもって周辺諸国に赴き、世界を知っていく過程は、読者も一緒にこの物語世界を体験していくことにシンクロするわけだが、前作でとうとう戦争が起こり、囚われの身として南の大陸にあるタルシュ帝国の帝都に連行され、その後、海に一人飛び込み、行方不明になったわけで、もう読者としては心配で心配でならなかったわけだ。本書はそこからのスタートである。
 ここで、関係各国の思惑を簡単にまとめておこう。
 ◆タルシュ帝国
 領土拡大でどんどん栄えている新興軍事国家。南の大陸はほぼ手中にしており、侵略した国々を「枝国」として併合し、現地人を徴兵し、税を徴収することで国家を運営している。ただし、とりわけひどい圧政というわけではなく、有能な人間なら枝国出身者でも重要ポストに出世できる柔軟性を持っている(実際、皇帝の右腕である宰相や兄王子の右腕も被侵略国出身)。そして現在はもう拡大の余地は北の大陸しかない、という状況でもある。なんとなく、豊臣家的な、家臣に与える土地がなく朝鮮出兵するしかない的な状況だったり、M&Aで外見的には成長を続けているように見える(けど実際の本丸は何も変わらずシナジーとやらもまるで生み出していない)、よくある大企業のパターンと少しだけ似ているかもしれない。そしてこの国の皇帝は、もはや余命いくばくもなく、二人の王子が手柄を競って次期皇帝の座を狙っていて、実は一枚岩ではないという状況にある。
 前作で、チャグムが出会ったのは、「南翼」と呼ばれる弟王子の方で、北の大陸侵攻軍の総司令官的な立場にあるが、本作では「北翼」の兄王子も登場。その関係性が結構大きなポイントでもある。あ、各キャラクターにつていは、上記の過去の記事を参照してください。
 ◆ロタ王国
 第5作目の舞台となった国。騎馬民族。聡明な王がいるが病弱で、王弟が政務を任されている。国は実際のところ南部の富裕層と、北部の貧困層に分かれていて、その溝は深い。王弟は悪い奴ではないし、話の分かる男だけれど、北部に肩入れをしているため、南部では人気がない。タルシュ帝国の北の大陸侵攻に際しても、意見が分かれたままであり、あまつさえ、南部の富裕層は密かに「北翼」側のスパイたちと共謀していて……という状況。そんなことは知らないチャグムは、まずはロタ王国へ向かい、同盟を求めるが……。
 ◆サンガル王国
 第4作目の舞台となった国。すでにタルシュに下っている。海洋国家で、王はあくまで最も強く影響力のある人間=その人間について行けば利益がある、というような存在とみなされていて、悪い言葉で言えば日和見な国民性があり、この国も一枚岩ではない。ある意味ビジネスライクな国民性のため、利に聡いし、交渉力も強くしたたか。今のところ、おとなしくタルシュに従う体ではあるが、内心では、従うつもりはない。本作ではほとんど出てこない。
 ◆カンバル王国
 第2作目の舞台となった国。バルサの故国。高地民族。北の山の向こう側の痩せた地に住み、豊かではない。現王はまだ若く経験不足であり、王としての器も若干問題アリ。「王の槍」と呼ばれる屈強な男たちがいる。その「王の槍」の筆頭であるカームは、もはやタルシュに隷属するしかないと考えていたが、彼もまた「北翼」側のスパイにいい話しか聞かされておらず、チャグムとバルサの到来で、事件の背景を知るに至り――てな展開。
 ◆新ヨゴ皇国
 シャグムの故国。元々は200年前に南の大陸から侵攻・移住してきた人たちの国。設定として、帝=神の子であるとされていて、実に古めかしい政治体系を採っている。この国では、皇太子チャグムを追い落とそうとする勢力があって、そいつらは、基本的に戦争さえも神の力で何とかなると考えており、そんなのんきな連中が牛耳っている。もはや征服される一歩手前で状況は極めて切迫しているが、愚かなことばかりしていて、さっさとチャグムは死んだものとして盛大な葬式までやっちゃった。戦争に対しては、民間人を徴用して場当たり的にしのごうとしていて、タンダも草兵として徴兵されてしまうが――と、超ハラハラする展開が待ってます。
 
 というわけで、物語は、まず、バルサはチャグムと無事に再会できるのか(そりゃできるに決まってる)、そして北の大陸の各国は同盟が組めるのか(そりゃ組めるに決まってる)、そして、タルシュとの戦いの趨勢は――という点が重要なのだが、結論が分かっていても、その過程は非常に読みごたえがある。とにかくですね、チャグムはかなり傷だらけ&血まみれになるし、バルサももちろんいつも通り全身傷だらけ&血まみれだし、もうとにかく一瞬たりとも飽きさせないペースで、読者としてはもうずっとハラハラドキドキであった。
 今回、わたしが一番素晴らしいと感じたのは、やっぱり故国に凱旋したチャグムと、父である帝とのやり取りであろうと思う。このやり取りで、本作のタイトル「天と地の守り人」の意味もはっきり分かる仕掛けになっていて、わたしはいたく感動した。チャグムは、まったく現実を直視しようとしない父=帝に対して、もはや弑するしかないのか、と悩むわけですが、この葛藤はとでもグッときましたね。この国の現実的な人々はみな、もう帝をぶっ殺すしかない、と思っている中での、チャグムと帝のそれぞれの決断は、実にまっすぐで美しく、これしかない、と納得の結末であった。
 また、バルサとタンダの関係も、非常に良かったすねえ……。一兵卒として戦場に駆り出されたタンダ、そしてチャグムを見送った後に、戦場に消えたタンダを探すバルサ。この二人の最終的な結末も、読者として本当に良かったね、と心から安心したし、二人に幸あれと心からの祝福を贈りたいと思った。
 上橋先生の作品は、常に「まっとうに」生きる主人公が、時にひどい目に遭ったり、あるいは過去に苦しむことがあっても、真正面からそういった苦難に向き合い、逃げることなく、最後にはその「心にやましさのない、まっとうさ」故に救われるお話だと思う。そういう意味では、チャグムやバルサは、上橋作品の主人公たる資質を最後まで失うことなく、読者としては共感してしまうわけで、実に読後感も心地よいと思う。
 それから、サブキャラでは、やっぱりヒュウゴが光ってますね。命を懸けて、タルシュ帝国を変えようとするヒュウゴも、今回大活躍だったし、ヒュウゴがいなければ、この物語は成立しなかった大功績者ですよ。
 チラッとしか出てこなくて、若干残念だったのは、第5作目で出てきてバルサと戦ったシハナと、同じく5作目のキーキャラであるチキサとアスラの兄妹かな。シハナは、ロタ王国内でバルサとチャグムを助けてくれるけれど、あまり活躍の場はなかったし、結局どういう立場にいるのか、の明確な説明はなかったかも。チキサとアスラは、冒頭でタンダのところにやって来るけれど、物語的な役割としては特に重要ではなかったかな。どうせなら、サンガルのタルサンや、女海賊のセナも出てきてくれたら嬉しかったのだが、まあそれは贅沢というものかな。

 つーかですね、わたしは読み終わって、ますます来春放送予定のNHKでの映像化セカンドシーズンが楽しみになってきました。シハナを真木よう子さんが演じることが発表されているけれど、綾瀬バルサVS真木シハナは相当かっこいいでしょうな。大人になったチャグムにも、早く会いたいと思います。詳しいキャストは、NHKのWebサイトに載ってます。超期待すね。

 探したけれど、セカンドシーズンの予告動画はyoutubeにはアップされてないな……なのでDVD&Blu-rayセールス用の予告でも貼っとくか。NHKの公式Webサイトhttp://www.nhk.or.jp/moribito/には、一つだけ、30秒の短い動画が置いてあります。そちらでは、ちらっとだけ、綾瀬バルサVS真木シハナが収録されてますので、それを観てテンションを上げておくのが良いと思います。また、上橋先生のセカンドシーズンへ向けたお言葉なども掲載されているので、必見かと存じます。うおー、楽しみだ!

 というわけで、なんかまるで取り留めないけれど結論。
 上橋菜緒子先生による「守り人」シリーズは最高である! そしてその完結編、『天と地の守り人』三部作は感動のフィナーレであり、物語はすべて収まるところに収まり、美しくて心にグッとくる見事な作品であった。わたし的には、『守り人』『獣の奏者』『鹿の王』は甲乙つけがたく、どれも最高だと思います。読んだこののない人は、ぜひ一度読んでもらいたいものです。マジ最高です。以上。

↓ 後はこれだけ、外伝が1冊残ってますが、勿論すでに購入済み。正月ゆっくり読むんだ……

 

 というわけで、このところずっと読んでいる、上橋菜穂子先生による「守り人シリーズ」。
 その第7作目『蒼路の旅人』を読み終わったので、その感想を書き連ねてみたい。
 結論から言うと、これまた超・面白かった。ひょっとしたら、今のところナンバーワンに好きかも。

 しかし自分で言っておいてナンですが、あくまでこの作品を一番面白いと思うのは、今までのシリーズを読んで来て、皇子チャグムのこれまでの人生を知っているから、そう思えるのであって、まあ、なんというか、シリーズ全体として物語を理解しないと意味がないので、シリーズの中で一番面白いのはどれか、と問うのも実に野暮な話のような気もする。
 いずれにせよ、今回は「守り人」ではなく「旅人」ということで、第4作の『虚空の旅人』同様に、今回はチャグムの冒険のお話であった。現在この作品世界では、『虚空の旅人』で示された通り、南の強大な「タルシュ帝国」が北の大陸への侵攻を意図していて、一番南に突き出している半島と島々からなる海洋国家「サンガル王国」が、「タルシュ帝国」と戦火を交えつつある状況にあり、本作では、既に「サンガル王国」が、「タルシュ帝国」に屈したところから物語は始まる。
 一方そのころ、「新ヨゴ皇国」の皇子、我らがチャグム君は、父である帝から疎まれている状況にある。その理由はいくつかあって、まず、チャグムを一度殺そうとした帝としては、チャグムのことは実際のところ嫌いだし、近年ますます、帝の血族に対する嫌悪を隠さないチャグムを憎んでいること、そして、第三の妃に男児が生まれ、チャグムが死んでも代わりが出来たこと、そして、まだ幼いその子を帝位に付けたがっている勢力があること、といった事情が絡み合っているためである。
 チャグムとしては帝位に何の興味もなく、譲れるものなら皇太子の地位なんて譲りたいのだが、死去した場合以外は帝位継承権を譲ることができない掟があるため、チャグムも日々、フラストレーションがたまっている状態にある。
 そんな中、「タルシュ帝国」による北の大陸侵攻作戦が始まり、南で国境を接する「サンガル王国」より、「新ヨゴ皇国」に援軍要請が来る。「新ヨゴ皇国」は、帝=神という設定の国であり、おまけに帝も祈ってれば大丈夫と本気で思っている愚かなかつのんきな国なので、もう完全に罠だとわかっているのに、チャグムは少ない艦艇で出陣する。そして予想通り捕らえられて、チャグムは「タルシュ帝国」の帝都へ連行されることに。そこで侵攻軍総帥であるタルシュ帝国の皇帝の次男・ラウル王子に謁見するのだが――というのが話の大筋。ええ、今回も相当はしょりました。

 今回、鍵になる人物はやはり2人かな。
 ■ヒュウゴ
 わたしの頭の中のイメージは、超イケメン。言動がなんとなくシャアっぽくて、とにかくカッコイイ。南の大陸にある、ヨゴ王国出身。ヨゴ王国は、チャグムの「新ヨゴ皇国」の祖先の国だが、現在はタルシュ帝国に征服・併合されているため、「ヨゴ枝国」と呼ばれる属州扱い。で、ヒュウゴはヨゴ出身だけれど、極めて有能で、タルシュ帝国でも出世していて、密偵として活動している。彼は、祖国の悲劇を「新ヨゴ」で繰り返させたくないと考えており、捕らえたチャグムを帝都に連行する旅の中で、チャグムに対して「いさぎよく、賢くて……心がやさしい。平時であれば名君と呼ばれるような、すばらしい為政者になっただろうに」と好意を抱く。今のところ、まだ帝国内での地位がそれほど高くないので、出来ることは少ないけれど、何かと助けてくれたりする人物。今後のキーキャラになる可能性大。※追記:おっと!! TV版では、このヒュウゴを鈴木亮平君が演じるらしいですな。楽しみだ!!
 ■ラウル王子
 タルシュ帝国の王子。帝国の「北翼」を治める。「南翼」を治める兄王子とはライバル関係にあり、 手柄を争う仲。北の大陸への侵攻軍総司令官。性格は傲慢で冷酷、のように今のところ描写されているが、今後どういうキャラになるか分からない。現状ではチャグムを子ども扱いし、さっさと降伏しろと迫る。タルシュに下れば、チャグムも民も命は保障すると言っている。ただし、現在の帝には死んでもらうと明言。チャグムと対面した時、ラウルはチャグムに世界地図を見せる。このときの二人の会話は非常に対照的だ。
 ラウル「このような地図を、見たことがあったか」
 チャグム「ありません――はじめて見ました」
 ラウル「これを見て、なにを思った」
 チャグム「世界は広いと思いました。――すべての国を、見てみたい」
 ラウル「十歳で、はじめてこの地図を見たとき。おれは、それとは逆のことを思った。世界は狭すぎる。――これからおれが手に入れられる国は、もうわずかしか残っていないと思った。そのとき胸に宿ったあせりにも似た気持ちは、いまもおれの中にある」
 そして、新ヨゴ皇国やロタ王国のある北の大陸を指して言う。
 ラウル「あそこは、おれに残されている獲物だ。」
 こんな男なので、もう話し合いの余地はない。戦いは不可避だ。

 そして、本作でチャグムは、タルシュ帝国の強大さを身を持って実感し、また、タルシュに下り、「枝国」となったらどうなるのかをその目で見る。この国にはかなわない、という絶望に近い思いを抱きつつも、チャグムはラストで、二つの大きな決断をする。その内容はもはや書かないほうがいいだろう。これはぜひ読んで確かめて欲しい。そしてわたしは、これまでの物語を思いながら、チャグムの成長に本当に胸が熱くなった。たいした男に成長したよ。どうやら本作は、第1作目から4年程が経過している時間設定になっているが、チャグムの決断は実に立派で、物語の主人公にふさわしい、魅力的なキャラクターに成長したものだと思う。実にいい。本作は、ラスト、チャグムが決断を下し、大きな一歩を踏み出すところで終わるのだが、わたしとしてはもう、先が気になって仕方ない展開だ。
 この先は、3部作の『天と地の守人』で、物語は完結を迎えるが、早く読みたい!!! と思っているものの、残念ながらまだ、電子書籍版が発売になっていないため、わたしとしては大変困っている。早く出してくれないかなー。どうやら、次の巻では、まずは「ロタ王国」が舞台となるようだが、チャグムの決断をバルサはどう受け止めるか。そもそも二人は再び出会えるのか。とにかくもう、期待でいっぱいである。そうだなあ、もし6月中に電子版が出なかったら、もうリアル本を買ってでも読みたいぐらいだ。というわけで、偕成社の電子化作業を心待ちにしていようと思います。

 というわけで、結論。
 「守り人シリーズ」第7作、『蒼路の旅人』は大変面白かった。今回は非常に現代的? というかファンタジー色は薄く、とうとうこの物語世界にも本格的な戦争が舞台となるが、実に読みごたえがあり、シリーズを読んできた人なら、皇子チャグムの成長に胸が熱くなること請け合いであろう。次巻は再びバルサが登場するはずで、最終エピソードに入るわけで、バルサとチャグムの活躍を心待ちにしたい。以上。

↓ こっちを買わずに、電子が出るのを我慢できるか自信なし……。もう、紙も電子も両方買っちゃえばいいしじゃん!!>オレ!! あ、でも買うなら偕成社版だぜ!!

 



 

 というわけで、今日も昨日に引き続き、上橋菜穂子先生による「守り人シリーズ」です。第5作目・6作目となる『神の守り人<来訪編>』と『神の守り人<帰還編>』を読み終わったので、その感想を書き連ねてみたい。
 昨日、シリーズ4作目の『虚空の旅人』について結構詳しく書いてしまったので、今日はあまり書くことがないのだが、 昨日書いた通り、本作『神の守り人』は、バルサとタンダが大活躍のお話であった。


 昨日書いた通り、本作は、時系列的には、ほぼ、前作『虚空の旅人』と同時期で、『虚空の旅人』でサンガル王国に赴いたチャグムが活躍している頃、バルサとタンダは本作において、ロタ王国で別の事件に巻き込まれていた、という事になっているのだと思う。
 おおよその話の筋は、次のような感じである。
 タンダとともに、薬草の大きな市へ出かけたバルサは、幼い兄チキサとその妹アスラが人買いに連れられているのを見て、つい助けてしまう。何やら追われている二人だが、妹のアスラは、実は身に謎の存在を宿していて、バルサは妹アスラを助け、タンダは兄チキサを助けながら逃走を手助けする。しかし、アスラの身に宿る力を求めるロタ王国の勢力が迫り――てなお話である。サーセン。超はしょりました。
 ポイントとなるのは、ロタ王国国内の複雑な情勢だ。登場人物も多く、それぞれの思惑が微妙に違っているので、読んでいて混乱するレベルではないけれど、改めてまとめてみようとすると結構難しい。よし、ちょっとやってみるか。
 ■ロタ王国・国王ヨーサム
 国民の信頼の厚い善人。本作ではすぐに「サンガル王国」の「新王即位ノ儀」に出かけてしまうため(→それが4作目の『虚空の旅人』で描かれた話)、不在。体が弱い。弟を信頼しているが、弟は伝統を無視するところがあるため、万一自分のあとを弟が継ぐことになったら大丈夫か心配している。
 ■ロタ王国・王弟イーハン
 兄を敬愛する善き弟。ただし、かつて「タルの民」というロタ王国では虐げられ差別されている民族の女性に惚れてしまい、以来、なにかと伝統を無視するような言動を取っており、南部の裕福な豪族からは嫌われている。なお、イーハンが惚れてしまった女性は、自らの存在がイーハンに迷惑をかけることを憂い、自ら姿を消した。※追記:マジか!! TV版では、このイーハンをディーン・フジオカ君が演じるらしいですな。
 ■スファル
 カシャル<猟犬>という、王の密偵的な役割を果たす呪術師のリーダー的存在。王に忠誠を誓っていて、歴史も重んじる男。王(というより王国)にとって危険な存在であるアスラを狙う。
 ■シハナ
 スファルの娘でカシャル随一の使い手。バルサともいい勝負をするほどの腕前。歴史的な伝統よりも、イーハンの思想を支持しており、父さえも欺こうとする。アスラを手中にして、その身に宿る力を利用しようとする。※追記:うおー!! こっちもマジか!! TV版では、このシハナを真木よう子様が演じるらしい。コイツは超アリっすね!!
 ■南部の豪族たち
 ロタ王国の南部は肥沃な土地で、経済的に豊か。既得権益を守るため、イーハンの改革が気に入らない人々。ただし、とりわけ特別な行動を取ろうとはしていない。生粋のロタ人のため、タルの民を忌み嫌っている。
 ■北部の氏族たち
 一方でロタ王国の北部山岳地帯は、非常に厳しい気候風土で作物も生らず、経済的に貧しい。そのため、イーハンの改革を歓迎しているが、若干考えが甘く、彼らもまたロタ人のため、タルの民に対する同情はとくにない。
 ■タルの民
 何故「タルの民」が差別を受けているかというと、それは建国の歴史までさかのぼる話になるのだが、要するに、かつて、「ノユーク」(=新ヨゴ皇国で言うところの「ナユグ」)の神的存在を武器として用いて残虐なことをしたためで、以来、「タルの民」は、終生影の存在として生きることをロタ建国の祖に誓っているわけで、要するに、自ら謹慎してるようなものだと言える。だが、一部の人々はもはやそんな昔のことで今でも差別を受けるのはいやだと思っており、アスラの身に宿った力=ノユークの神の力を欲している。
 ■アスラ
 幼い少女。本作の鍵を握る存在。タルの民。母の処刑の場に立ち会った際に、ノユークの神の力を身に宿す。母から聞かされたタルの民の歴史とその雪辱のために、その力を行使することに喜びを見出してしまうが、バルサはその危険性を憂いている。特に、バルサは人を殺すことに対して身を持って知り尽くしているため、なんとかアスラに人殺しはさせたくないと思っている。※追記:な、なんだってーーー!? TV版では、母のトリーシアをみっちゃんこと壇蜜様が演じる!!。やっばい!!
 ■チキサ
 アスラの変容を心から心配しているが、なかなか再会できないかわいそうなお兄ちゃん。アスラに妙な信仰を植え付けた母に、内心腹を立てている。とてもけなげないい子です。

 というような人物関係で、少し複雑(?)なのだが、端的に言うと、抗いがたい波に飲み込まれようとしている幼い少女にかつての自分を見て、自分と同じような凄惨な人生を送らせてはならないということだけがバルサのモチベーションで、ロタ王国がどうなろうと、タルの民がどうなろうと関係ない。だから、まったく迷いはない。そして、今回も何度かひどい重傷を負ってしまう。そんなバルサと、そっと寄り添い癒そうとするタンダの姿に、我々読者はやっぱりグッと来てしまうし、もちろんそれは、きちんとアスラの胸にも届き、事件は何とか終結に至るというわけだが、今回のエンディングは、今までよりも若干、完全なハッピーエンドには至っていないので、まあ、続きがあるんでしょうな、とわたしとしては先の物語が大変楽しみであった。とはいえ、この先、アスラやシハナがまた登場してくるかどうかは微妙かな……わからん。
 とにかく、やっぱりバルサという女用心棒は大変共感できるというか、素晴らしいキャラクターだと思う。このお話が映像化されるのかわからないけれど、綾瀬はるか嬢が演じたら相当イイだろうな……という予感はする。タンダもなあ……とてもいい奴なんだが、バルサよ、タンダの想いも受け止めて、あんた自身が幸せになっておくれ……とおっさん読者としては思うのでありました。
 いずれにせよ、まだまだバルサの旅は続きそうだし、一方では今回一切登場しなかったチャグムも、どうやら次のお話では主人公として活躍するようだし、もう残ったお話は少ないけれど、楽しみに先を読み続けようと思います。

 というわけで、結論。
 今回のお話は、「ロタ王国」が舞台となって、幼い兄妹を助けるバルサとタンダの冒険であった。また、持たざる者、虐げられていた者が、思わぬ力を手にしたとき、その力を行使して、自分がやられていたことを相手に返そうとするお話なわけで、なんとなくテーマ的には、先日の『ズートピア』に繋がる話だと思いました。要するにですね、「論語」的に言えば「己の欲せざる所は人に施す勿れ 」ってことですよ。それはずっと心に刻んで生きていきたいですな。以上。

↓ 今回のお話読み終わって、ふと、改めて読んでみたくなってきたっす。

 というわけで、このところずっと読んでいる上橋菜穂子先生による「守り人シリーズ」第4巻、『虚空の旅人』について、読み終わったのはちょっと前だけど書こうと思います。

 最初に告白しておくと、愚かなわたしは4作目を勘違いして、先にシリーズ5作目の『神の守り人<来訪編>』を読んでしまったのであります。バカだよなあ……わたし、電子書籍で購入して読んでいるわけですが、 電子書籍だとですね、表紙が小っちゃくて、タイトルがもはや見えないわけですよ。で、買った時に電子の本棚に並べる際に、順番間違っちゃってたんだなあ、これが。何の疑いもなく『神の守り人<来訪編>』を読んで、よーし、次は『神の守り人<帰還編>』だ、と表紙をタップしたら『虚空の旅人』が立ちあがり、アレッ!? 並べ間違えてら、と気づき、さらには作品の順番も間違っていたことに気付いたわけです。アホでした。
 というわけで、5作目の『神の守り人<来訪編>』は読んでしまったものの、とりあえず前に戻って4作目の『虚空の旅人』を改めて読んだわけですが、どうやら実は、このわたしのうっかりミスは、結果的に一つだけ役立つことになったのであります。というのも、どうも時系列的には、『神の守り人<来訪編>』の冒頭部分というのは『虚空の旅人』よりちょっと前っぽいのです。なので、4作目『虚空の旅人』で舞台となる、「サンガル王国」の王の即位式には、5作目『神の守り人<来訪編>』で舞台となる「ロタ王国」の王も出席していて、しかも先に5作目を読んでしまっているわたしには、4作目を『虚空の旅人』を読み始めてすぐに、ああ、これがロタ王が(5作目で)言っていた即位式か、と分かったわけです。
 むむ……説明が難しいな。ま、とにかく、時系列的に偶然正しかったという事が言いたかっただけです、はい。まあ、正確に言うと、4作目と5・6作目は、ほぼ同時に起こっている出来事、という事かな。4作目では、「サンガル王国」における事件に巻き込まれたチャグムを描き、一方同じころ「ロタ王国」ではバルサとタンダがとある事件に巻き込まれていた、みたいな感じだと思う。でも、読む順番はやっぱり、先に『虚空の旅人』を読んでおいて間違いないと思います。 

 さて。というわけで、今回の4作目『虚空の旅人』である。
 今回の主人公は1作目で「精霊の守り人」にされた「新ヨゴ皇国」の皇太子、チャグム君と言っていいような気がします。今回、バルサやタンダは一切登場しません(=しつこいですが同時期にロタ王国で起こった事件に巻き込まれているバルサたちの活躍は5巻6巻で描かれる)。ともあれ、1巻目の事件から4年(3年?)経過していて、チャグム君もかなり立派にすくすく育っており、おっさんファンはもう胸が熱くなります。
 物語としては、チャグムの住む国「新ヨゴ皇国」と南で国境を接しているお隣の「サンガル王国」のお話で、サンガルでの新王即位式と、そこに出席するためにやってきたチャグムが、サンガル内部の陰謀とその背後に隠された、海を隔てた南の大国「タルシュ帝国」の陰謀に巻き込まれるお話でありました。
 わたし的に、一番興味深いと思ったのは、第1作目でチャグムが憑依(とは違うか?)された、「ナユグ」という異世界が、この物語のそれぞれの国で、同じように伝承されていることである。
 ちょっと、各国の情報を、今後のためにまとめておこうか。
 ■新ヨゴ皇国
 →チャグムの国。この国は、もともと南の海の先にあった「ヨゴ国」の人々が戦争から逃げて海を渡って渡来し、先住民族の「ヤクー」を制圧し建国した国。まだ250年程度の歴史しかないが、現在はもう、かなり混血化も進んでいる。で、建国の祖の直系の子孫が「帝」であり、高貴なる神のような存在として君臨している国。先住民ヤクーの間では、現世と同時に存在している「ナユグ」という異世界があることが認識されている(が、もうそれを伝承する人はかなり減ってしまっている)。なお、もともと南の大陸にあった「ヨゴ国」は、現在では新興国家「タルシュ帝国」に侵略・併合されて国としては消滅している(が、「枝国」と呼ばれる属州としては存在していて、チャグムの先祖たるヨゴ人たちはその帝国内で現在も生き延びている)。
 ■カンバル王国
 →バルサの故国。第2作目『闇の守り人』の舞台。王族と氏族がいて支配。新ヨゴ皇国の北の青霧山脈を超えた先にあり、峻厳な高山地帯であるため、基本的に貧しい国。この国には「ナユグ」に相当する異世界はどうも伝承されていないようだが、この国には独特の「山の王」という信仰(?)対象があって、ほかにも「ティティ・ラン(=オコジョを駆る狩人)」という小人がいたり、カンバル人を密かに監視する「牧童」と呼ばれる先住民もいる。なお、王を守る軍事組織の「王の槍」と呼ばれる男たちがいて、相当強い。バルサを鍛えたジグロは「王の槍」のいわば隊長だった最強の槍の使い手で、第2作目終了時はカームという男が最強の座に。ちなみにカームは第4作目にチラッとだけ登場する。
 ■サンガル王国
 →新ヨゴ皇国と南で国境を接していて、海に突き出た半島と島々からなる海洋国家。第4作目『虚空の旅人』の舞台。ここも王族がいるが、元々は海賊の出で、一番強いものが王となった経緯があり、有力氏族たちは単に、王についていれば利益があるという思いから従っているため、結束力は微妙。なお、王の長男に二人目の男児が誕生すると、王はその長男に王位を移譲するしきたりがあって、その際「新王即位ノ儀」が行われ、隣国の王族も招かれる。4巻の『虚空の旅人』は、まさにそれが舞台になっている。で、この海洋国家「サンガル王国」では、「ナユグ」に相当する「ナユーグル」という異世界があることが認識されている。サンガルでは、王族の女子たちが大きな力を持っていて、有力氏族へ嫁ぐことで王家の監視役にもなっている。また、海上生活を営む自由な民もいて、かなり緩やかな統治(それゆえ、海を隔てた大国・タルシュ帝国の陰謀に巻き込まれる)。土地は豊かで海産物もあり、富める国。
 ■ロタ王国
 →新ヨゴ皇国の西で国境を接している国。第5・6作目『神の守り人<来訪編><帰還編>』の舞台。ここも王族がいる。この国は、南部の肥沃な地に住む豪族と、北部山岳地方の痩せた地に住む氏族の対立があり、さらに人種間でも、多数を占めるロタ人の他に、「タルの民」という少数民族がいて、「タルの民」は虐げられた民族として不満を抱えている。また王家に代々仕える「カシャル(=猟犬)」と呼ばれる密偵的な「川の民」と呼ばれる民族もいる。この国では、「ナユグ」に相当する「ノユーク」という異世界が認識されていて、神々の世界と崇められている。王と王弟がいて、王はサンガルの「新王即位ノ儀」に出席するため、冒頭で旅立ってしまうので、5・6作目の事件の際には不在。
  
 はー、長くなってしまった。
 話を今回の4作目『虚空の旅人』に戻そう。
 お話的には、サンガル王国の「新王即位ノ儀」を舞台に、南の大陸にある強大な「タルシュ帝国」の陰謀が進められるわけだが、そのカギとして、現在はそのタルシュ帝国に侵略・併合された「ヨゴ」出身の術者が暗躍していて、その呪術に、 いち早く気づくのが「新ヨゴ皇国」の代表として訪問していたチャグムとシュガの二人で、何とかサンガル王国を助けるために奮闘するのだが――てなお話。
 しかしまあ、チャグムは本当にしっかりとした、利発な青年に成長しつつあって、外交にもきちんと頭が回るし、もちろん自分の立場もしっかり弁えているし、何気に、かつてバルサに特訓してもらった格闘術も使えて、大変素晴らしい若者として描かれている。もう、おっさんファンとしてはそのまっすぐな成長ぶりがまぶしくて、嬉しくてたまらないですな。今回、とにかくチャグムがカッコ良くてですね、わたしは次のセリフに大変グッときました。
 「シュガ。ひとつだけ、約束してほしいことがある。これからも、おまえがなにかの陰謀に気づいたとき、わたしを守るためにその真相を隠すようなことは、決してせぬと約束してくれ。……陰謀の存在を知りながら、だれかを見殺しにするようなことを、けっして、わたしにさせるな」
 このセリフを聞いては、思わずシュガも、「……誓います、殿下」と約束せざるを得ない。シュガは、今までは散々そういった謀略を目にしてきたけれど、チャグムは「自らの、かがやく玉のような清いものを汚して、何を守るって言うんだ!!」と、本気で言っていることに気づくわけで、甘い考えであろうと、その清らかなハートは守るべき尊いものだと思うわけです。この二人の主従関係は読んでいて非常に心地いいですな。

 結局のところ、この一連の「守り人シリーズ」という作品群の素晴らしさは、そういう、「人としての正しさ」というような、「まっとうさ」が事件を解決させるカギになるわけで、読んでいてわたしは大変気持ちがいい。真面目に生きることを旨とするわたしとしては、上橋先生の作品は万人にお勧めできる極めて質の高い物語だと思います。今回も大変楽しめました。

 というわけで、結論。
 チャグム君、本当に君は、いろいろつらい目に遭ったけれど、バルサと出会えて大きく成長したね。読者としては大変うれしい思いであります。そして、次の『神の守り人』も読み終わったので、明日レビューを書きます。以上。

↓ コミックもチェックしといた方がいいんすかね……どうしようかな。



 

 昨日に引き続き、NHKのTVドラマ版からすっかり気に入ってしまった上橋菜穂子先生による「守り人シリーズ」第3巻、『夢の守り人』について、読み終わったのはちょっと前だけど書こうと思います。本作では、舞台を再び第1作目『精霊の守り人』で描かれた「新ヨゴ皇国」に戻し、成長したチャグムや、タンダ、トロガイ、シュガといった人々が登場するお話で、第2作目『闇の守り人』が主人公バルサの過去の清算だったのに対して、今回は偉大なる呪術師トロガイの過去の清算がメインテーマとなる話であった。いや、どうだろう、それは違うか? トロガイの過去というより、第1作『精霊の守り人』の事件の後始末的な話と言うべきか? うーーん、ちょっと難しいな。まあいいや、ちょっとまとめてみよう。

 お話としては、第2巻の後、バルサが新ヨゴ皇国に戻ってからのお話である。
 タンダの姪っ子が謎の「眠り病」にかかり、昏睡してしまう事件が発生する。なんでも、王宮においても、第1皇女もまた同様に、眠りから目覚めないらしい。そして謎の病は、チャグムにも感染してしまう。そんな中、タンダは危険を承知で<魂呼ばい>の儀式を行い、姪の魂の糸をたどって追跡を開始するが――という話。
 本作では、ポイントが2つあって、まず1つは、「眠り病にかかった人々は、現世がいやで、夢の世界に逃避し、目覚めたくない」と思わされているということであろうか。タンダの姪は、勧められている結婚話が嫌でしょうがないと思っていたり、第1皇女は、第1作で息子を亡くした痛みから現実逃避し、チャグムもまた、本当は自分は皇太子になりたくなかった、バルサと旅を続けたかった、というように、各人がそれぞれ、現世でのつらい出来事から目をそらしたいという願望を、心の底で持っている。こういった思いをどう断ち切るか、が、第1のポイントであろう。
 そしてもう1つは、タンダの身に起きる出来事である。タンダは、背景としては親族からは白い目で見られているちょっとかわいそうな境遇にあると。それは、普通の農耕作業をするわけでもなく、トロガイに弟子入りして良くわからない呪術を勉強しているからであって、もちろん、一面では地域の医者的役割も果たしているため、一定の尊敬を受けてはいるものの、親族的には、あいつは変わりモンだ的な評価をされていると。そしてタンダは、ほんの少し、それを残念に思い、ちょっとだけ傷ついている状態にある。だから、自分に懐いてくれている可愛い姪っ子は、どうしても助けたいというモチベーションがあって、危険を承知で<魂呼ばい>の儀式を行い、いわば幽体離脱状態になって、霊体となって姪っ子を助けに行くと。しかし、まんまと人の魂を縛る<花>に捕まり、現世の肉体に戻れなくなってしまう。あまつさえ、現世の肉体は乗っ取られ、儀式を邪魔しようとするバルサに襲いかかり――、と、実に気の毒なことになってしまう。この状態で、タンダは夢に囚われた人々を救えるのか、そしてバルサはタンダの魂を取り戻せるのか、というように、2つの方向での戦いが繰り広げられ、さらにそこに、トロガイの若き頃のお話が関係してきて……というのが、シリーズ第3作『夢の守り人』のお話である。
 結論から言うと、実はわたしは、結局<花>と呼ばれるモノの目的というか、バルサやタンダと敵対する相手の勝利条件が良くわからなかった。これは、わたしがこの本を3時間ぐらいで読んでしまった付けであろうという気がしている。うーーむ……ちゃんと読んだはずなのだが、この部分がはっきり理解できなかったのはわたしの落ち度だろうと思う。トロガイの過去の部分も、ちょっと分かりにくく、夢の世界なのか現実なのか、その境界線が非常に付けにくいように感じた。なので、正直に告白すると、実はわたしは、キーになる<歌い手>のことが良くわからなかったのであります。ええと、あいつは別に、意図を持って人々に歌を聞かせ、人々を夢に誘い込んだわけじゃないんだよね? だとすると偶然ってこと?? 花に意識はなく、種に込められた生存・自己増殖のDNAプログラムに従ったまで、ってことだろうか? うーーむ……。サーセン。また今度、ちゃんと読み直してみようと思います。
 ただ、物語として、心地いい場所に浸っていたい、いやなことばかりの現実に戻りたくない、という本作のテーマは、誰しもが誘惑される、甘い蜜であり、その点はとても面白かった。そして真っ先に夢の世界から帰って来るチャグムの成長ぶりに、おっさんとしてはもう本当に嬉しくなりますな。1巻ラストで、強く成長したチャグム。TV版で、「逃げない」とバルサに誓ったチャグム。よく頑張ったな、とわたしはチャグムの成長が本当に嬉しく思った。
 まあ、別に、逃げたっていいんだけれど、気持ちのいいぬるま湯にずっと浸かって、逃げっぱなしじゃあダメだ。そんなことをこの物語は教えてくれたと思います。ぬるま湯は気持ちいからなあ、ずっと浸かっていたいと、誰だって思うよなあ……でもそれじゃあ、風邪ひいちまうし、体も弱っちまうし、エイヤッと気合入れて、ぬるま湯から出る必要がどうしてもあるんでしょうな。わたしもだいぶ長いことぬるま湯につかってたような気がするけど(いや、そんなことないか、むしろ熱湯風呂だったかもw)、オラァッと気合入れてぬるま湯から出たものの、まあ世の風は冷たいすな。超・孤独だし。さっさと体拭いて服を着て、冷たい風の吹く厳しい世界で頑張ろっと。上橋先生による「守り人シリーズ」第3作『夢の守り人』は、そんなことを思わせてくれる大変素晴らしいお話でした。

 というわけで、結論。
 まあ、もう結論は上記の通りですが、気持ちのいい、甘い蜜を吸いながらぬるま湯に浸かってたら、魂が死んじまうわけで、いつまでも寝ぼけてるんじゃねえ!! ってお話ですな。わたしとしては、『夢の守り人』という作品も大変楽しめたし、やっぱり心に響きました。引き続き、シリーズを読み続ける所存であります。以上。

↓ 4作目はこれか。もう買ってあるんだけれど、「暗殺者グレイマン」シリーズを先に読み終えたいので、ちょっとだけ、読み始めるのは待ちです。

 現在、わたしはNHKのTVドラマ版からすっかり気に入ってしまった上橋菜穂子先生による『守り人シリーズ』をせっせと読み続けているわけだが、第2巻の『闇の守り人』と、第3巻の『夢の守り人』を読み終わったので、まずは『闇の守り人』のレビューを書いておこうと思う。ズバリ、非常に面白かった。 
 この第2巻は、1巻目の『精霊の守り人』のちょっと後から始まる物語で、前巻で新ヨゴ皇国の皇太子となったチャグムとの旅を経て、自らの養父であるジグロの気持ちを実体験として理解した主人公バルサが、自分とジグロの故国であるカンバル王国へ赴く話である。
 その目的は、ジグロの弔いのためであり、ジグロの親族に会ってその最期を伝えたい、というものだった。 バルサは、自分とジグロに追っ手をかけたログサム王が10年前に既に亡くなっていて、もうほとぼりが冷めていると思っての里帰りだったのだが、現在のカンバル王国では、ジグロの弟が「天下の大罪人ジグロを討ち取った英雄」として、若き王の後見役に座り、実質的な実権を握っていた……という展開である。
 本作で重要なキーとなるのは、ジグロの過去と、カンバル王国の秘密である。ジグロが務めていた「王の槍」。そしてその中で最強の者が<舞い手>となり、<闇の守り人>と技を競う儀式おこなうこと。さらに、そこで勝者となって初めて、カンバル王国は貴重な鉱石である<青光石>を<山の王>から贈られること。その財をもって、カンバル王国のやせた地では収穫できない穀物を買い付けるのがこれまでのカンバル王国の在り方で、<山の王>から贈られる<青光石>がなければ民が飢えに苦しむことをはじめてバルサは知る。そして、かつてバルサやジグロを追ってきた刺客が全て<王の槍>と呼ばれる男たちであり、カンバル王国の秘密を知る人間がもうごくわずかになってしまったことや、現在実権を握っているジグロの弟が、でたらめを吹聴して、<山の王>の宝を奪おうとしている陰謀などを知って、バルサは少ない味方の人々の力を借りて、陰謀を阻止しようとする。
 非常に綱渡りな作戦で、読んでいてかなりドキドキするし、その最中で、今回もまた、バルサはジグロの想いを知ることになる。かつての友だった<王の槍>の男たちと戦わなければならなくなったこと、戦いの後に常に悲しみを背負っていたこと、そして、すべてはバルサのためだったこと。
 そのすべてに決着をつけ、バルサはジグロの遺した心をを弔い、自分もまた、解放された思いを得ることができるわけだが、ラストで、タンダの待つ新ヨゴ皇国へ帰るバルサの心はとても晴れやかだっただろうと読者としても納得のできるお話だった。
 亡くなった人に対して、出来ることとはなにか。これが本作の大きなテーマの一つだと思う。
 まあ、普通の物語では、恨みを晴らすとか、汚名を雪ぐとか、そういうことを描く場合が多いと思うけれど、そんなことじゃなくて、生き残った者が一番目指すべきこと、そして亡くなった人が、恐らくは一番喜ぶこと、それは、「自分が幸せになること」に他ならないんだということを、本作は教えてくれるものだと思う。もうね、どうでもいいんだよ、過去は。そんな過ぎ去ったことはどうでもいいから、幸せになっておくれ。それが、一番目指すべきことなんだ、ということを、わたしははっきり理解できた。そりゃそうだよ。人が死ぬとき、一番気がかりなのは、残された愛する人には幸せになって欲しいってこと以外に、ないもんね。そういう意味では、幸せを求めて生きることは、我々生者の義務なのかもしれないなあ。まあ、それが難しいわけだけれど。
 本当に面白く、グッときましたよ。非常に心に響きました。このお話を、綾瀬はるかちゃんが演じるのをぜひ見たいですな。

 というわけで、短いけれど結論。
 シリーズ第2作、『闇の守り人』も大変面白かった。前回も書いた通り、どうやらこの『闇の守り人』は、TVでは一番最後に描かれるらしいが、その意図が非常に良くわかる。このラストを迎えることで、バルサは本当に自由になるのだから、TV的に最後に回したのは実に物語を分かっている配慮なのではなかろうか。3年後だか2年後?の放送となるらしいが、心から楽しみに待っていたい。以上。

↓ 次はこちら、『夢の守り人』です。

 

 

 先日、第1シーズン全4話の放送が無事に終了した、NHK放送90周年記念の大河ファンタジー『精霊の守り人』だが、わたしも全話見て、大変楽しませてもらったわけで、ラストのチャグムとバルサの別れのシーンに、実にグッと来てしまったのだが、放送後、とりあえずすぐに読み始めた原作も、読み終わった。勢いですぐに第2巻となる『闇の守り人』、そして第3巻の『夢の守り人』まで現在み終わってしまった。
 というわけで、今回はまずは第1巻の『精霊の守り人』について書こうと思います。

 わたしが読んでいるのは上記の偕成社版の電子書籍版です。イラスト付き。新潮社版なんて読みたくないので。ま、比べていないので、偕成社版と新潮社版が同じなのか違うのかわからないけれど、少なくともオリジナル版ではあると思う。
 この、第1巻である『精霊の守り人』は、主人公である女用心棒、バルサと、水の精霊の卵を産み付けられてしまった「新ヨゴ皇国」の第2皇子チャグムのお話だ。ただ、読み終わって、だいぶTV版とお話の印象が違うなとは思った。とはいえ、大きく印象が違うのが、新ヨゴ皇国の帝と聖導師の二人なので、はっきり言って物語上はどうでも良い存在(そんなことないか)で、面白さを損ねているという事は全くなく、TV版も大変良かった。特に、バルサを演じた綾瀬はるかちゃんの熱演は素晴らしかったし、少年チャグムを演じた小林 颯くんも非常に良かったと思います。バルサの師匠・養父のジグロを演じた吉川晃司兄貴も抜群にカッコ良かった。
 TV版で、これは……? と思った改変は、第4話の一番ラストであろう。原作上、第2巻『闇の守り人』の舞台となる、バルサの故郷・カンバル王国の王様が、原作と別人なのだ。これって……大丈夫かな、と心配だが、まあ余計なお世話であろう。実際のところ、一番の悪党なので、この王様が今も生きている設定(原作ではバルサの悲劇の大元の悪党で、10年前にすでに死んでる設定)の方が、ドラマチックに描きうるとも思えるので、来年の放送を楽しみに待っていようと思う。
 おっと、NHKの公式Webサイトに、上橋先生が直接お話されている記事が載ってますな、ははあ、なるほど、TV版の第2シーズンは『神の守り人』『蒼路の旅人』『天と地の守り人』になるんだな……そうか、まだ読んでないけど、第2巻の『闇の守り人』は最後に映像化されるわけか。なるほど、これは既に第2巻を読んだわたしには何となくうなづけるところだ。第2巻でバルサは、過去の因縁ときっちり決着をつけるのだから、その話を最後に持ってくるのはアリかもしれない。そういうことですか。
 ま、いいや。原作第1巻『精霊の守り人』の話に戻ろう。
 上橋菜穂子先生は、以前書いた通り、文化人類学の博士号を持つ学者でもある。その作品群は異世界ファンタジーと分類されるもので、異民族や異種間の交流を描く場合が多く、常に、異文化に対する相互理解がテーマとして内包されているように思う。本作も、一つは舞台となる「新ヨゴ皇国」の文化、そして先住民である「ヤクーの文化」がそれぞれ存在し、謎を双方から解こうとする流れがあって、それぞれを代表する、星読博士のシュガ、呪術師のトロガイが「精霊の卵の謎」に迫る。ただ、それはあくまで物語の本流ではなく、あくまで、本作は、元・カンバ王国民であり現在は国を追われ、用心棒として生きているバルサという31歳の女性と、新ヨゴ皇国の第2皇子として生まれ、「卵」を産み付けられてしまったチャグムのお話と言っていいだろう。
 本作で、バルサの背景はあらかた語られ、これまでの生涯がおおよそ説明される。その説明を読んだ読者としては、バルサがチャグムに抱く母性は非常に分かりやすい。説得力は十分だろう。バルサは、チャグムを守り、鍛えることで、初めて、ジグロが自分に向けてくれた愛情を実感として理解するのだ。恐らくは、この点が本作で一番重要なポイントだろうと思う。最初は皇子として、高飛車な態度だったチャグムが、徐々に心を開き、バルサを頼っていく様は読んでいてとても心に響くし、強くあれとチャグムを見守るバルサも、大変カッコ良く、同時に、バルサの慈愛に満ちた母性も強く感じられた。
 これは、TV版でもそうなのだが、事件が終わり、二人が別れるシーンは非常にグッとくる。泣きはしなかったけれど、泣きそうになりましたね。
 迎えが来て、王宮に戻りたくない、バルサと一緒に旅を続けたいと言うチャグム。そんなチャグムを抱きしめ、耳元で「ひと暴れしてやろうか?」と囁くバルサ。チャグムは、バルサがここで暴れれば、逃げることはできるかもしれないけれど、その後ずっと追われる立場になってしまう事が分かっている。非常に甘く、心が望む誘いであっても、キッパリと断り、世話になったタンダやトロガイに抱きつき、それぞれへ「ありがとう」と明確な感謝を告げ、別れを告げるあのシーンだ。バルサも、チャグムと別れたくないし、「暴れてほしい」と言われること本心では期待しながらも、チャグムの決断の正しさを理解し、抱きしめてチャグムの感謝を受け入れる。ここは、TV版の役者の演技でグッと来たし、原作ではちょっとだけ違う、「いいよ。暴れなくていいよ。……暴れるのは、別の子のために取っておいてあげて」というチャグムのセリフにも、とても心に響いた。
 ホントに、このラストのチャグムの涙はTV版の映像ならではというか、ホントにもう、泣かされそうになりましたなあ。子役の小林くんは本当にお見事でした。一度迎えの輿に向かって歩いて行き、やっぱりもう一度、とバルサに駆け寄って抱きつきくあのシーンは、もう大感動ですよ。
 「ありがとう……バルサ、ありがとう……」
 「礼など必要ない……。わたしは……金で雇われただけだ」
 このバルサのセリフは、そしてそれを演じた綾瀬はるかちゃんは最高にカッコ良かった。わたしも、今後、いろんな場面でパクらせてもらうと思います。「礼はいらない……わたしは、金で雇われただけだ」。もう使いまくると思うな、きっと。この別れのシーンは、わたしにとってはここ数年でナンバーワンに完璧で、美しいものだったと思う。本当にお見事でした。今後のチャグムの成長を、心から楽しみに、シリーズを読み続けていきたいと思う。

 というわけで、結論。
 わたしは上橋菜穂子先生の作品を読むのは、『獣の奏者』『鹿の王』に続いて3作(3シリーズ)目だが、やっぱり、非常に好きです。この先の作品も順次読んでいますが、もう完全に、頭の中では、バルサ=綾瀬はるかちゃんです。やっぱりはるかちゃんは、あまり笑わない、寂しげな笑顔がとってもいいですな。小説もTVも、たいへん楽しませていただきました。これは読んでいない方には超おススメです。以上。

↓ 実はもう2作目も3作目も読み終わったので、明日レビューを書こうかな。



  

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