現状、世界のエンタメ業界はDISNEYが支配していると言っても過言ではあるまい。
 Marvelコミックを手に入れ、あまつさえSTAR WARSまでも傘下に従えたDISNEY帝国は、もはやダントツの強さを誇り、映画界に限定しなくとも、その強大さはもう例えようがない。FCバルサやNYヤンキースなんてレベルじゃない。強いてスポーツに例えるとすれば、オリンピックの全種目で全勝、オール金メダルの勢いである。 なので、WarnerやFOX、SONYといったメジャースタジオは「ぐぬぬ……!! またしても!! おのれDISNEYめ!!」と、憤死者続出の事態であろう。ちなみに、日本においても、東宝の圧倒的強さは際立っており、ちょっとだけ似ている状況かもしれないが、はっきり言うとまったく規模が違う。Navy-SEALsの隊員と、日本の家庭で平和に暮らす小学生ぐらい違うので、比較にはなるまい。
 まあ、そんなDISNEYなので、性格の捻じ曲がっているわたしは、チッ!! と舌打ちをしたくなり、「どうせお子様向けだろ!? なめんなよコラァッ!!」と言いたくなるのだが、残念ながらDISNEY作品を味わうと、これがまた「うんまーーーい!! 」となってしまうのだから本当に恐ろしくなる。悔しい、というか、くっそう、うめえ!! と、素直に、いや、まったく素直じゃないか、とにかくやっぱり、作品を賞賛せざるを得ないのだ。
 というわけで、昨日観てきた『ZOOTOPIA』。明らかにお子様向けである。が、今回もまた、うんまーーい!! お代わり!! と目をキラキラさせて言いたくなるような素晴らしい映画であったわけである。ホントすげえなあ、DISNEYは。

 この物語は、大人が観ると、恐らくはいろいろな暗喩や主張のようなものを感じることだろうと思う。それに、明確にお子様向けであり、大人が観たら、チョイとご都合主義が過ぎませんか? と思うような展開であるのも事実だ。だが、ズバリ言うと、そんなことはどうでもいいのである。キャラクターは魅力的だし、実際可愛らしく、しかもCGのクオリティは最高峰で、おもわず頬ずりしたくなるような毛皮のモフモフな質感は本当にすごい。この映画を観て何を思おうと、それは観た人それぞれの自由であるので、そりゃまあ勝手にどうぞなのだが、この映画をつまらない、と言う人は、普通に考えてひねくれ者であり、善良な皆さんは、そういう人間とは距離を置き、付き合わない方が賢明であろうと思う。せっかくの楽しい気分を台無しにされかねないし。ひねくれ者のわたしが言うのもアレですが。
 さてと。今回は、物語の簡単な流れと、わたしが非常に感心というか、ああ、すげえなあ、と思った点を、自分用備忘録としていくつかまとめておこうと思う。もちろんいつも通り、ネタバレ全開です。
 まず、基本的に物語は上に貼った予告の通りである。動物が「進化」して、2足歩行で言葉をしゃべる世界。その首都(?)「ズートピア」は、肉食動物が10%、残り90%は草食動物だそうだが、この世界ではもう肉食獣が草食獣を襲うことはなく、それぞれの生態に合わせたエリア(熱帯雨林エリアとかツンドラエリアとか)に分かれて平和に暮らしている。そして主人公のウサギのジュディは、8歳(?)ころから警察官に憧れるも、「いやー、ウサギに警官は無理ッショ」と言われながら、それでも不断の努力を重ね、冒頭の子供のころから15年後に、ついに警察学校を首席で卒業するにいたり、ズートピア警察(=Zootopia Police Department=ZPD)に配属されることになる。夢を叶えたわけだ。
 しかしそこは、みな水牛やサイや虎といったゴッツイ男たちの世界であり、主席卒業でもジュディはミニパトで駐車違反でも取り締まってろ、と冷遇される。折しも、ZPDは、ズートピア住民の謎の連続失踪事件を捜査しており、ジュディもその捜査に加わりたいのだが、まったくの仲間はずれ。しょんぼりしながらも、健気に元気に駐禁取り締まりにいそしむジュディは、キツネの詐欺師・ニックと出会い、軽く騙されてまたもしょんぼり&ぷんぷん激おこになるわけだが、とあるきっかけで失踪事件の手がかりを見つけ、腹立たしいけれど頭の回るキツネのニックを無理矢理相棒として捜査を開始する。そして、事件は思わぬ事態に――てなお話である。
 というわけで、本作『ズートピア』は、わたし的にはDISNEY作品初めての、「警察ミステリー」とカテゴライズできる作品であった。そしてそのような作品の王道を行く「バディ」モノであり、実によく脚本が練られており、マジでわたしも、こりゃあ面白い、と完全に物語にのめり込んでいったのである。
 伏線も見事に効いていて、大人レベルでは、「きっとこれはアレだろうな」とか、先読み可能なレベルではあるけれれど、その観客の期待は裏切られることがなく、実に気持ちよく明かされる展開も、非常に好ましい。おそらくは、ちびっ子だって、そういうものだと思う。ちびっ子レベルでも、観ながら自分で推理し、考え、そしてそれが的中したら、ものすごく気持ちいいものだと思う。そういった、極めて上質な物語体験をちびっ子時代に味わうことは、とても大切な、貴重なことで、そういう優良コンテンツであることこそが、DISNEYのすごい点あろう。
 また、今回の主役のジュディのキャラ造形も、わたしとしてはちょっと珍しいのかも、と感じられた。冒頭、子ども時代のジュディに、両親は言う(ちなみにウサギなので、子どもが210匹いると言ってたような?)。
 「幸せだな~。なぜって? それは夢をあきらめたからさ!!」
 わたしはこの冒頭のお父さんのセリフに、えええっ!? あ、あんた、今なんつった!? と椅子から転げ落ちそうなぐらい驚いた。お父さんの理論は、夢をかなえるにはとてつもない努力が必要で、その苦労・辛さを味わうことなく、つつがなくニンジン農家として暮らしている今が幸せ、という事だったのだと思う。もう全否定じゃん!! ゆとり教育もここに極まれりかよ、とわたしは心の中で突っ込んだわけだが、我らが主人公、ジュディは、そんなお父さんを持つ身にもかかわらず、夢にまい進しようとする。そこには、ガキ大将的な存在のキツネに対する怒りもあっただろうし、なにより、弱い者をほっとけないという正義感があるのだろう。その努力の過程は、実際のところさーーっと流されるが、彼女が明確に主人公の資格を持つキャラクターであることを観客に印象付けることに成功している。こういった、DISNEY主人公が努力する様子は、わたし的にはかなり珍しいような気がする。どうだろう、そんなことないかな? 『ベイマックス』『アナ』『シュガーラッシュ』『ラプンツェル』、ここ数年のキャラクターを思い浮かべると、なんかいつも、自分に備わった能力やスーパー前向きパワーで周りの人に支えられることで、何とかしているような気がするのだが、どうだろう? まあとにかく、ジュディの努力と根性は、意外と日本の漫画的で、我々としては非常になじみがある。そりゃもう、善良な人間なら誰だって、ジュディの味方となってこの映画を観るに違いなかろう。
 しかし、そんなジュディも、やっぱり間違いを犯す。ジュディですら、無意識な差別意識を持っていたし、そのことで、せっかく芽生えた友情も失いかける。こういう展開は、ベタではあっても、やはり観客として、あちゃー、やってもうた、とハラハラだ。しかも、相手のキツネのニックが、態度こそふてぶてしくとも、実にいい奴だし。実のところ、わたしはジュディよりもニックの方が非常に気に入った。ビジュアル的にも、実に、小憎らしいというか、ニヒルな口元や目つきが、とても良くキャラクターを表している。観ながら、このニックは誰かに似てる……ああ、そうだ、これは、ガンダムのカイさんに似てるんだと気が付いた。そして、バディものでは、実直な女主人公&曲者の男の相棒というのは、もう黄金タッグであろう。ジュディの真っ直ぐさはニックがいるからこそ輝くし、ニックもまた、そんな真っ直ぐなジュディを、ああもう、しょうがねえなあ!! と放っておけないイイ奴であることが示されていて、言ってみれば相互補完の関係にあるのだ。このキャラ造形は、もう王道だしそこら中で描かれている使い古されたものかもしれないけれど、やっぱり王道とは「王の道」ですよ。誰がどう見たって、好ましいよね。さすがDISNEY。さすがっすわ。
 で、ついうっかりニックを傷つけてしまったジュディは、もうしょんぼりと、思わず実家に帰ってしまう。そして、実家で平和に、そして失意のままに、ニンジンや作物を販売するジュディは、子どものころのガキ大将だった、あのキツネに出会うのだが、大人になった彼は、今やすっかりいい奴になり、実はずっとあの頃のことを謝りたかった、とジュディに謝罪する。あのシーンは実に美しく、わたし的には極めて重要だと思った。この謝罪を受け入れ、ジュディは気づく。このガキ大将にいじめられたことで、自分は肉食獣に無意識に偏見を持っていた。それでニックを傷つけてしまった。つまり、たとえ嫌なことをされても、同じことを返してしまってはダメなんだ。これが今回の作品の大きなテーマだったんだろうとわたしは感じた。
 そして、実家の畑での出来事で、事件解決の謎が解かれ、あわててズートピアに戻るジュディ。もちろん、真っ先に向かったのはニックの元だ。きちんと謝罪し、一緒にまた捜査をしようと願うジュディ。ここでのニックは、実にカッコ良くて、きっと嬉しいくせに、「しょうがねえなあ」的な感じで仲直りする二人は、もう観客からしたらほっと一安心だ。
 そして事件は、最終的には虐げられていた側が虐げていた側への復讐であることが判明するが、そこにはほぼ、真犯人に対する同情は描かれない。真犯人もまた、かつてのジュディ同様に、やられていたことをやり返していたわけで、わたしはまた、真犯人に対しても何らかの救済や戒め的なものあるのかな、と思ったら、特にフォローなく、逮捕されて事件解決めでたしめでたしとなった。ここは、正直、アレッ!? とは思った。だけど、まあ、やっぱり悪いことをしたら罰せられるということを明確にする必要もあろうし、まあ、それほど深刻ではなく事件も解決するからいいのかな、ととりあえず納得することにした。
 しかし、やっぱり思うのは、DISNEYの物語力とキャラ造形力は、王道であり、直球であるけれど、ど真ん中ストライクを投げて、観客にカキーンとホームランをかっ飛ばしてもらい、すっきりした気持ち、いわゆるカタルシスを与えてくれるのは、本当にすげえなあ、と思った次第である。ホント、DISNEY作品を味わって、文句を言う人とは付き合わないほうがいいですよ。気分悪くなるだけですから。

 というわけで、結論。
 DISNEYアニメ第55作目となる『ズートピア』は、大変面白かった。『アナ』は若干変化球だったけれど、今回はド直球だと思います。非常に楽しめました。ただ……わたしは地元劇場で日本語吹き替えしかやっていなかったので、まあ日本語版を観たわけですが、大人はやっぱり字幕の方ががいいと思います。主人公ジュディを演じたのは上戸彩ちゃん。可愛かったけれど、まあお子様向け演技かな。あとそうだ、一つ忘れてた。日本語吹き替えだと、オープニングタイトルはもちろん、劇中の書類とかの文字まで日本語になるんすね。ここ数作のDISNEYアニメは、そんなとこまできっちり「一番のお客であるちびっ子」への対応をしていて、ローカライズは完璧だ。そんなところも、やっぱりDISNEYは王者ですな。もうホント、すげえっす。以上。

↓ 字幕版の本来のUSキャストでは、ゴッツイ水牛のZPD署長の声はIdris Elba氏だったそうです。彼と言えば、わたし的にはやっぱり『Thor』のヘイムダルですな。

↓ そして同じく、ライオンのズートピア市長を演じたのは、 かのJ.K.Simons氏。なお吹き替えでは玄田哲章氏で、カッコ良かったっす。