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 かつての寅さんでおなじみの『男はつらいよ』という作品は、年に1本~2本公開されることが当たり前だったわけで、いわゆる「プログラム・ピクチャー」というものだが、本作もそのような人気シリーズになるのだろうか。
 去年3月に公開された山田洋次監督作品『家族はつらいよ』を観て、大変笑わせていただいたわたしとしては、今日から公開になった、続編たる「2」も当然早く観たいぜと思っていたわけで、今朝8時50分の回で、早速観てきた。結論から言うと、お父さんのクソ親父ぶりは増すまず磨きがかかっており、おそらくは日本全国に生息するおっさんたちは、笑いながらも感情移入し、そして日本全国のお母さんや子供たちは、ああ、ほんとウチの親父そっくりだ、とイラつきながら笑い転げることになろうと思う。ただし、笑えるのはおそらく40代以上限定であろう。今日、わたしが観た回は、わたしを除いてほぼ100%が60代以上のベテラン親父&お母さんたちであり、映画館では珍しく、場内爆笑の渦であった。まあ、若者には、平田家のお父さんはクソ親父過ぎてもはや笑えないだろうな。

 というわけで、あの平田家の皆さんが1年2か月ぶりにスクリーンに帰ってきた! 詳しい家族の皆さんについては、前作を観た時の記事をチェックしてください。もう一人一人紹介しません。
 今回のお話の基本ラインは、73歳(だったかな?)のお父さんの免許をそろそろ返納すべきなんじゃねえの? という家族たちの思惑と、ふざけんなコノヤロー!と憤るお父さんの家庭内バトルである。そしてそこに加えて、お父さんがばったり出会った旧友と飲み明かし、べろべろになって家に連れ帰り、なんと翌朝、その旧友が冷たくなっていて―――という、とても笑えない状況の2本立てである。
 まず、免許証の返納だが、正直これはわたし個人も、老いた母の運転が心配であり、実に切実な問題だ。なにしろ本作で描かれる平田家のお父さんは、ぶつける・こする・追突する、と愛車のTOYOTA MarkIIはもうボロボロである。10数年乗っているという設定だったと思うが、劇中使用車はおそらく7代目のX100型だと思うので、2000年に生産終了しているはずだから、もう17年物である。そんなぼろぼろのMark IIでは、そりゃあ家族も心配だろう。幸いわが母はまだぶつけたりしていないが、たまに母運転の助手席に座ると、実は結構怖いというかドキドキする。母の場合、ブレーキングやアクセルワークよりも、車幅感覚が危なっかしいように感じてしまうが、まあ、平田家のお父さんはよそ見運転で追突したりと、要するに完全に不注意であり、これはきっと性格の問題だろう。
 平田家のお父さんは、とにかく観ていてイラつくクソ親父だ。それはまず間違いなく誰しもそう思うと思う。何といえばいいのかな、日本全国のクソ親父のすべての成分を凝縮させているというか、まったく同情の余地がなく、若者が観て共感できるわけがない。早く死ねよとすら思う若者だっているだろうと思う。なにしろ、わたし自身がそうだったのだから。
 しかし、そんなクソ親父でも、死んでしまった後になると、結構許せてしまうのだと思う。それは理由が二つあって、一つは、単純に時が過ぎて思い出に代わるから。そしてもう一つは、あんなに嫌いだったクソ親父に、自分自身も似てきてしまうからだ。そう、男の場合は、おそらく誰もが、大嫌いだった親父に似ている自分をある日ふと発見し、その時初めて、クソ親父を許せるようになってしまうのである。その時、許すとともに、自分を後悔するのが人間の残念な性だ。もうチョイ、やさしくしてやればよかったかもな、いやいや、クソ親父はひどかったし! いやでも……それでももうチョイ言い方はあったかもな……なんて思えるようになるには40歳以上じゃないと無理だと思う。なのでわたしはこの映画は、若者が観てもまったく笑えない、むしろイライラし腹を立てることになるのではないかと思うのである。まだ親父を許せていないから。
 本作では、西村雅彦氏演じる長男が、もう完全にお父さんそっくりになりつつあり、かつまた、現役サラリーマンという社畜のおっさんで、実にコイツもクソ親父である。まったくこの長男にも共感のしようがなく、きっと夏川結衣さん演じる奥さんもあと15年後には大変な苦労をすることが確実だ。今回、免許返納にあたって、まずこの長男が、奥さんに対して「親父にきつく言っとけよ!」と命令し、いやよそんなのできないわ、そうだ、じゃあ成子さん(長女で税理士のしっかり者。演じるのは中嶋朋子さん)にお願いしましょう、となり、成子もいやよ、わたしの言うことなんて聞きやしないわ、じゃあ、庄太(次男。やさしい。ピアノ調律師。演じるのは妻夫木聡くん)に言わせましょう、お父さん末っ子には甘いんだから、というように、見事なたらい回しで、お父さん説得役が回されていく。この様子はもう爆笑必至なわけだが、前作ではまだ付き合っているだけだった庄太の彼女、憲子さん(演じるのは蒼井優ちゃん。かわいい!)が、本作ではもう結婚して奥さんになっていて、しかたなく庄太と憲子さんが平田家を訪れる、という展開である。
 この流れの中に、一人足りない、とお気づきだろうか? そう、お母さんですね。でも、お母さんは最初からあきらめているし、今回は前半でお友達と北欧へ旅行に行ってしまうので、不在なのです。そんな中、もうしょうがないなあ……と全く乗り気のしない庄太は憲子ちゃんを伴い平田家にやってくる。そして、話をしようとした矢先、お父さんから、庄太、お前にオレの愛車をやるよ、とお父さんの方から話が始まる。おおっと、お父さん!自分で決断して車を手放す決心をしてくれたんだね!と感激の庄太&憲子ちゃん。
 父「(真面目な顔でしんみりと)オレもなあ……大切に乗った愛車だし、愛着あるんだけどなあ、しょうがないよ」
 庄太「お父さん! 大切に乗らせていただきます!」
 父「お前が乗ってくれるなら安心だよ」
 庄太「お父さん、ありがとう!」
 父「オレもとうとうハイブリットだぜ!(じゃーん!と超嬉しそうにカタログを開いて) TOYOTAプリウス! こいつに乗り換えだ!」
 一同「ズコーーーッ!!」
 わたしはこのやり取りが一番笑ったかな。
 そして後半の、旧友とのエピソードは、何気に重くズッシリ来るお話なので、これは劇場で観ていただいた方がいいだろう。まあとにかく、最後までお父さんはトンチキな行動でどうしようもないクソ親父なのだが、一人、憲子ちゃんだけが「人として当然」という行動をとるわけで、それが本作ではほとんど唯一の救いになっている。ほんと、憲子ちゃんはいい子ですなあ……。
 というわけで、わたしは大変楽しめ、実際うっかり爆笑してしまったわけだが、前作が最終的な興行として13.8億しか稼げなかったことから考えると、本作もそれほど大きくは稼げないだろうな、という気がする。なにしろ観客のほとんどがシニア割引きで単価も安いしね……それに、前作を観てなくて、いきなりこの「2」を観て楽しめるのかも、わたしには良く分からない。最近だと、きちんとこの「2」の公開前に、前作をTV放送したりするけれど、そういった配慮は全くナシ。大丈夫なのかな……本作が10億以上売れて、シリーズ化がきちんと進行することを祈りたい。
 
 というわけで、ぶった切りで結論。
 山田洋次監督作品『家族はつらいよ2』を早速観てきたわけだが、劇場はおじいちゃんおばあちゃんレベルのシニアで満たされており、若者お断りな雰囲気であったが、内容的にも実際若者お断りな映画なのではないかと思う。無理だよ、だって。この話を若者が観て笑うのは。お父さんがクソ親父過ぎるもの。誰しもが観て笑うと思っているとしたら、そりゃあちょっと年寄りの甘えというか、ある種の傲慢じゃないかなあ。でも、一方で、わたしのような40代後半のおっさんより年齢が上ならば、間違いなく爆笑できる大変楽しい映画だと思います。それはそれで大変よろしいかと存じます。が、なんというか……日本の映画の未来はあまり明るくねえな、とつくづく思いました。アニメが売れることはいいことだし、一方でこういうシニア向けがあってもいい、けど……なんかもっと、全年齢が楽しめるすげえ作品が生まれないもんすかねえ……。無理かなあ……。タイトルデザインは、かの横尾忠則氏だそうですが、ズバリ古臭い。そりゃそうだよ。もう80才だもの。若者には通用しねえなあ……。以上。

↓やっぱり前作を観ていることが必須なのではなかろうか……。

 去年の12月に、『母と暮らせば』を観て大いに感動し、立て続けにWOWOWで録画して観もせずに放置していた『小さいおうち』『東京家族』を観て、ああ、やはり山田洋次監督は偉大なるFILM MAKERだと今更ながら認識するに至ったわたしだが、1月に、舞台『書く女』を観に行った際に、山田監督のトークショーで直接の生の発言を聞く機会があった。曰く、「喜劇が一番難しい。そして劇場でお客さんが笑っている姿を観るのが一番うれしい」と、山田監督は仰っていた。かつて、『男はつらいよ』のシリーズで日本に笑いをもたらしていた山田監督。日本人に愛され続けた寅さんシリーズの監督がそういうんだから、「喜劇が一番難しい」というのはきっと真実なのだろう。
 以前も書いた通り、山田監督は一貫して「家族」をテーマとした作品を作り続けている。人間社会の基本単位である家族。それは、人間にとって一番のよりどころとなるものであり、また一方では一番厄介な、生まれてから死ぬまで、決して「なかったこと」にはできない繋がりであろう。だからそこには、喜びも怒りも悲しみも、すべての人間の感情が詰まっているはずだ。
 というわけで、山田監督最新作は、タイトルもズバリ『家族はつらいよ』である。これがもう、めっぽう面白かったのである。

 散々報道されていることだが、まずは客観的事実を先にいくつか書いておくと、実はこの作品、「山田監督最新作」と言っていいのかちょっと微妙である。というのも、去年の春にはとっくに完成していたそうで、制作の順番的には『母と暮らせば』の方が後であるが、公開順が入れ替わったのである。その理由は、去年2015年が戦後70年の節目の年であり、その年に『母を暮らせば』を公開したかったことが一つ。そして今年、2016年が松竹の創業120周年だそうで、本作『家族はつらいよ』はその記念作品という位置づけにされているためだ。まあ、これは別に、ああ、そうなんすか、で流してもらっていい情報で、正直どうでもいい。
 もう一つこの作品について言っておかなければならないのは、2013年に公開された『東京家族』と全く同じキャストであり、また役柄も全く同じという点だ。人名もほぼ同じで、『東京家族』が平井家、『家族はつらいよ』が平田家とちょっと違うだけで、下の名前も漢字が違ってたりするけれど、ほぼ同じである。これは非常に面白い取組である。なので、出来れば、本作を観る前に『東京家族』を観ておいた方が一層楽しめると思う。本作を観てから『東京家族』を観る、という逆もアリだと思いますが、何しろ『東京家族』はしんみり系のドシリアスなので、先に観ておいた方がいいような気がするな……どうでしょう。
 さて。で、今回の『家族はつらいよ』である。
 物語は、もう予告の通りだ。ある日、母が誕生日のお祝いに、父に欲しいものがある、と言う。父は、いいよ、何でも言ってみ? と聞く。母が差し出したのは離婚届。これに署名捺印が欲しいな、というところから物語は始まる。
 舞台となる平田家をちょっと紹介しておこう。
 【父】:演じるのは橋爪功氏。作中では70代と言ってたかな。定年後、ゴルフをしたり呑みに行ったり気ままなおとっつあん。はっきり言って、部外者のわたしから見ると、自分の親父を思い起こさせるクソ親父成分が濃厚で、あまり同情の余地なし、とわたしの目には映った。
 【母】:演じるのは吉行和子さん。お父さんにずっと耐えてきた昭和の母。亡くなった妹が著名な作家だったと言う設定で、その印税が入るのでお金にあまり困らない事情アリ。現在、カルチャースクールに通って創作の勉強中。なお、吉行和子さん本人も、故・吉行淳之介先生の妹であることはご存知の通り。もちろん、その事実を受けての役柄設定でしょうな。
 【長男】:演じるのは西村雅彦氏。サラリーマン。40代の設定(だったと思う)。上に部長がいるようなので、課長クラス。二人の子供アリ(小学生&中学生)。父が苦手なくせに、父の性格をそのまま受け継いでいそうな感じがするので、将来が心配だw うっかり者っぽい。両親と二世帯住宅に住む。今回かなりズッコケ演技を見せてくれる。
 【長男の嫁】:演じるのは夏川結衣さん。非常に常識人(?)。旦那の両親に対してきちんと気を遣い、旦那に対してもそれなりに立てている風。ただし子供にはきっちりと厳しく、しっかり者のお母さん。夏川さん本人は、若いころは美しいモデルさんだったが、すっかり演技派の素晴らしい女優ですね。
  【長女】:演じるのは中嶋朋子さん。税理士として事務所を運営。恐ろしく外面はいいが、キツイ性格。顧客に対しては超・猫なで声(ここの芝居は超笑える)。両親は兄が面倒を見るものと決めつけている。仕事バリバリ系。かつての蛍ちゃんも、すっかり歳を取りましたなあ。お綺麗だと思います。
 【長女の旦那】:演じるのは林家正蔵氏。うだつの上がらないダメ人間。嫁の事務所で助手として働く。お父さんに、「髪結いの亭主の癖に生意気言うな!!」と言われてブチ切れる。いや、お前……事実じゃんか……。持ちネタ「どーもすいません」を炸裂させたのは余計だったと思いますw
 【次男】:演じるのは妻夫木聡くん。 心優しい青年で、両親と兄夫婦家族と同居。仕事はピアノ調律師。折り合い悪い父親と兄の間に入って、家族をとりなす、本人曰く「接着剤」の役割を果たす。そのため、本当は一人暮らしをしたかったが実家住まいをしており、兄嫁は彼を非常に頼りにしている。しかし、そろそろ結婚を意識し、家を出ようとしている。今回もお見事な演技ぶりだったと思う。
 【次男の彼女】:演じるのは蒼井優ちゃん。 看護師さん。いい人。初めて連れてこられた平田家はとんでもない修羅場の最中で……という展開。相変わらず可愛い別嬪さんでした。この人が、さっそうとチャリンコを漕いでいる姿がわたしは非常に好き。
 とまあ、こんな平田家の皆さんが、お母さんの離婚届けによって大騒ぎ、というお話である。非常に分かりやすく、わたしはずっと笑って観ていた。
 しかし、である。
 残念ながら、この映画を楽しめるのは、おそらくは40代後半以上のおっさん・おばさんだろうと思う。ひょっとすると30代以下は、観ていてイライラするのではなかろうか。それは何故かと言うと、やはり、30代ではまだ、自分の親父を許せていないからだ。橋爪氏の演じるお父さんは、日本全国に生息する「お父さん」そのもので、酔っ払って帰って来て大声で喚くし、服は脱いだらほっぽり投げたままだし、しかも裏返しのままだし、靴下なんかも、ポイッとそのままで平気な、「昭和のお父さん」だ。そういう父親の姿は、息子や娘からしたら、実にウザい、最悪の存在である。お母さん可哀想……と、きっと誰でも思うことだろう。
 しかし、わたしのように、「絶対ああはなりたくない、ならない!!」と固く心に誓っている男でさえ、きわめて残念ながら、自分が嫌いでたまらなかった親父に、どんどん似てきてしまうのだ。そしてそのことを自覚した時初めて、若干の絶望とともに、父親を少し許せるようになるのだとわたしは思う。わたしの場合は、わたしが30になるチョイ前に亡くなってしまったので、少し早めに親父のことを許せるようになったが、おそらく普通の人は40代に入らないとそれが分からないと思う。もちろん、許すと言っても、否定はしたい。なので、許すというより「理解する」と言うべきかもしれない。いずれにせよ、親父の気持ちが分かってくるのは、40代後半以降であろうと思う。なので、おそらくこの作品は、30代以下には全く通じないのではないかとわたしは思うわけである。
 ところで、観に行って非常に興味深かったのは、観客の反応だ。
 わたしが観に行った時の客層は、60代以上と思われるおじさん一人客&老夫婦&おばさんのグループというように、おっそろしく年齢層は高かった。まあ、そりゃそうだとは思うが、注目すべきはその反応である。
 わたしの隣には、70代と思われる老夫婦が座っていて、時間ぎりぎりによっこらせと入ってくるし、始まってるのに服はガサゴソ脱ぐし、あまつさえ缶コーヒーをギリギリプシュウと開けるし、上映中に良くしゃべるし、正直イラッとするどころか、いい加減にしてくんねーかなーとさえ思ったのだが、お母さんは良く笑って楽しそうに観ているし、チラチラ観察したところ、お父さんも、声には出さないけれど、ずっとにニヤニヤと笑顔なのだ。もう、わたしはそのお父さんの笑顔で、全部許してもいいやと思った。
 おそらく、そのお父さんも、家族から煙たがられている存在なのではないかと勝手に想像するが、同じ様を映画で見せつけられて、あまつさえお母さんは爆笑していて、気分良くないのでは? と思ったのだが、なんだ、ちゃんと笑ってるじゃん。なるほど、きっとこのお父さんは、もうそういう段階は既に通過しているんだろうな、と想像すると、なんというか、もう、そういう人生の先輩に対しては怒りの感情は持てないというか、終わったところで「面白かったっすね」と声をかけたくなるほどだった。全く見知らぬ老夫婦は、どこから来たのか知らないし、どんな家族を持つのか想像もつかないけれど、きっと、お幸せなんでしょうな。この映画を夫婦で観て笑えるなんて、正直うらやましいよ。

 というわけで、結論。
 山田監督は、「喜劇が一番難しい」と仰っていたが、ご報告があります。わたくし、『家族はつらいよ』を拝見させていただきましたが、場内大爆笑でしたよ!! 勿論わたしも、笑わせていただきました。さすがっす。以上。

↓ あれっ!? 小説が出てたんですな。しかし、小説で読んで面白い話なのかな……。そして音楽は、名匠・久石譲先生です。
家族はつらいよ (講談社文庫)
小路 幸也
講談社
2015-12-15

「家族はつらいよ」オリジナル・サウンドトラック
久石譲
ユニバーサル ミュージック
2016-03-09

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