昨日は昼から映画を観てきたのだが、わたしはいつも、映画を観る時はほぼ常に開場時間のちょっと前には劇場について、開場となればさっさと入場することにしている。それは、まあ、特に理由はないけれど、映画を観る前にほっと一息つくというか、とにかく時間的ゆとりが心のゆとりという信条を持つわたしとしては、まあ当然のことなのである。
 しかし、昨日はあえて、劇場が暗くなって本予告が始まるチョイ前、を狙って入場してみた。その理由は、ズバリ、客層を見てみたかったからだ。あらかたお客さんが入ってから、どんな客層なんじゃろか、と席についている人々を観察するために、そういう行動をとってみたのである。
 結果、わたしが昨日観た映画は、地元シネコンの2番目の大きい箱での上映で、そのキャパ315人。そしてパッと見た感じでは全然半分も入っていないぐらいで、まあ100~120人程度であったと思う。そして客層はというと……ズバリ、わたしと同じ40代以下と思われる人は、わたし以外いなかった。要するに、99%以上が明らかに「シニア」層であったのである。すごかったなあ、あの絵面は。
 そんな、シニア率99%超の作品を観てきたのだが、そのタイトルは『妻よ薔薇のように』といい、実は『家族はつらいよ』シリーズの第3弾である。思いっきりサブタイトルに(家族はつらいよIII)と書いてあるので、実は、というほどじゃないんですけど。まあ、『家族はつらいよ』『家族はつらいよ2』と観てきたわたしとしては、この3作目もやっぱ観とくか、という気になったのである。結論から言うと、わたしは大変楽しめた。前作『2』よりずっと面白かったと思う。

 わたしが「やっぱ観とくか」と偉そうに思ったのは、実はわたしは『2』で、もうあまりのお父さんのダメ親父ぶりにうんざりしていたためである。わざわざ映画を観に行って、ダメ親父にイライラしたくねえ、とか思っていたのだ。
 わたしがいう「ダメ親父」とは、この映画には二人いて、平田家の元祖お父さんである平田周造(演じているのは橋爪功氏)と、その長男であり2代目お父さんの平田幸之助(演じているのは西村まさ彦氏)の二人である。この二人は、引退してゴルフ三昧&居酒屋通いでべろんべろんに酔っぱらう周造と、サラリーマンとして会社では優秀なのかもしれないが、男としてはかなり問題のある幸之助の親子で、2世帯同居しているのだが、まあ、基本的に仲は悪い。
 わたしを含め、世のお父さんたちには大変残念なことに、そもそも、息子というものは、基本的に父親を嫌うものだと思う。同じ男として、やけにダメな点やイヤな点ばっかりに目が行ってしまうからだと思うけれど、とにかく、親父のようにはなりたくねえ、と思う息子が普通というか多いと思う。しかし、さらに残念なことに、息子というものは、40代ぐらいになると、あれほど親父が嫌いだった自分が、いろいろな点において、容貌や言動など、まさしく親父に似ていることを発見してしまうのである。そして絶望的な気分になりながら、この時になって初めて、徐々に親父のことを許せてきてしまうのだ。例えば、サラリーマンの悲哀が分かって来る40代になると、その年齢の頃の親父(つまり自分がガキだった頃の大嫌いだった親父)の気持ちがわかってきちゃうんだな。恐らくこれは、全ての息子が感じるものだと思う。
 というわけで、この『家族はつらいよ』というシリーズには、まあとにかく厄介でダメな親父が二人も出てくるため、わたしはちょっともう、胸焼けするというか、イライラすること甚だしかったわけだが、このシリーズで恐らく一番の常識人であり、一番まともな人が、幸之助の奥さんの史枝さん(演じているのは夏川結衣さん)だ。
 厄介な舅、厄介な旦那、イイ人だけど何も家事をしない姑の富子お母さん(演じたのは吉行和子さん)、そして育ちざかりの二人の息子。彼らの面倒を一手に引き受けるお嫁さんでありお母さんな彼女。とにかく彼女は、常に手を止めることなく動かし続け、毎日一生懸命「主婦業」をこなすわけだが、誰一人省みることなく、ある意味当然と思われている。また、平田家から既に独立している長女一家や、次男&そのお嫁さんといった「家族」全体からさえも、「やって当たり前」と思われているかもしれない。
 そんな常識人の史枝お母さん。これはもう、いつか爆発するぞ……とわたしは思っていたところで、本作の登場だ。本作は、まさしくお母さん爆発の巻で、その爆発をメインに据えた物語ということを知って、わたしは「やっぱ観とくか」と思ったのである。そして観終わった今、わたしとしてはもう、全国の「お父さん」どもに観ていただきたい傑作であったように思う。
 物語は、前作『2』からちょっと時間が経っているようで、平田家の車はプリウスに代わっているし、周造お父さんも『2』でもめた結果、無事に免許を返納したようだ。なので、周造は大好きなゴルフには友達の軽自動車で行っている。そして史枝お母さんは、毎朝、会社に出勤する幸之助お父さんと学校へ登校する子供たち、そしてゴルフに出かける周造お父さんやカルチャースクールに出かける富子お母さんを見送った後、一人で掃除洗濯とせっせに働きまくる毎日だが、ある日、掃除が終わってヤレヤレ、と一息ついた時、ついうとうとと居眠りをしてしまう。そんな時を見計らって平田家には泥棒がやってきて、まんまと史枝お母さんがぜっぜと溜めたへそくりを盗まれてしまうのだ。そのことでしょんぼりな史枝お母さんに、ひどい暴言を吐く幸之助お父さん。ついに史枝お母さんは悲しみと怒りで、家出してしまうのだった……てな展開となる。
 こんなお話なので、まあ見どころとしては幸之助お父さんがどう謝るか、にかかっているわけだが、その顛末はなかなかグッとくるものがあって、幸之助の弟たる庄太が幸之助を説得するのである。庄太は、このシリーズでは基本的に心優しい末っ子的な描かれ方をしているのだが、彼は嫂たる史枝お母さんには特別な想いがあって、高校生の時やってきた兄のお嫁さんに、こう思ったそうだ。
「匂い立つような美しさだった。僕は、この人には幸せになってほしい。心からそう思ったんだ」
 だからそんな史枝さんを泣かせるようなことはしないでくれ、と兄に話すのである。なんかこの言葉だけ抜き出すと、大きなお世話だと兄は余計怒るようなセリフだし、実際幸之助も怒って帰っちゃうんだけど、ここでは庄太を演じた妻夫木くんの芝居が非常に素晴らしいのです。そんなわけで、最終的には幸之助は史枝さんを迎えに行って、ちゃんと謝り、めでたしめでたしとなって物語は終わる。幸之助の謝罪シーンも大変良かったすね。西村まさ彦氏の芝居ぶりも大変良かったと思う。
 というわけで、最後に平田家の皆さんを一覧にまとめて終わりにしよう。
 ◆平田周造(演/橋爪功氏):平田家のお父さん。基本どうしようもないダメ親父。相当性格は悪い。今回はその毒はこれまでより薄め。ゴルフ大好き。駅前?の居酒屋のおかみさん、かよ(演/風吹ジュンさん)が大好きで、スケベな昭和じじいぶりを発揮。また、シリーズには必ず周造の親友として登場するキャラがいて、いつも小林稔侍氏が演じている。けど同一キャラではなく、今回はお医者さんキャラでした。
 ◆平田富子(演/吉行和子さん):平田家のお母さん。亡き兄(だったっけ?)が作家で、その著作権継承者として印税がいまだ毎月振り込まれてくるため金に困っていない。小説執筆のカルチャースクール通いののんきな母さん。家事はお嫁さん任せでほとんどしていない模様。今回、お嫁さんの家出に、わたしが家事をするわ!と張り切るが腰をやっちまって何もできない状況に。
 ◆平田幸之助(演/西村まさ彦氏):平田家長男。サラリーマン。営業部長。それなりに有能?なのか、今回は香港への出張から帰ってきたところで泥棒騒ぎの顛末を聞き、ひどい言葉を吐いてしまう。二人の息子からはそれなりに慕われている模様。
 ◆平田史枝(演/夏川結衣さん):幸之助の妻。しっかり者で常識人で働き者。今は空き家になっている実家へ家出してしまう。家に残した子供たちがどうしているかと考えると、悲しくて泣いちゃうよね、そりゃ。幸之助とは、独身時代の通勤の中央線で出会って、さわやか笑顔に惚れちゃったんだそうな。学生時代はダンス部でフラメンコダンサーだったらしく、輝いていたあの日を思うと今の主婦の自分にしょんぼりな日々を送っている。
 ◆金井成子(しげこ:演/中嶋朋子さん):平田家長女。税理士として自らの会計事務所経営。基本的にキツイ性格。夫に対してもかなりキツイお方。
 ◆金井泰蔵(演/林家正蔵氏):成子の夫。基本的にすっとぼけ野郎。成子の会計事務所の事務員。空気を読まない余計な一言が多い。
 ◆平田庄太(演/妻夫木聡くん):平田家次男。ピアノ調律師。成子の娘や幸之助の息子たちからも慕われている、やさしい叔父さんとしてお馴染み。一家の中では常識人だが、若干頼りないような……。幸之助と史枝さんが結婚したのは庄太が高校生の時だそうで、大学生のころは史枝さんに大変お世話になったのだとか(想像するに親父や兄貴と衝突した際に間に入ってくれたのでしょう、きっと)。
 ◆平田憲子(演/蒼井優さん):庄太の恋人で『2』からは奥さんに。看護師。常識人。今回はあまり見せ場ナシだが、本作ラストで庄太&憲子さんにうれしいサプライズが!
 そして監督はもちろん山田洋次氏。まあ、お見事ですよ。今回主人公を平田家のお嫁さんである史枝さんとしたのも、できそうでできない発想の転換だったのではなかろうか。それにしても、場内の99%超のシニアの皆さんは、もう遠慮なく爆笑の渦だったすね。わたしも笑わせていただきました。先週観た『のみとり侍』も、シニア率90%以上だったけれど、場内の笑い声は圧倒的に本作の方が多かったすね。あと、本作上映前に『終わった人』の予告が流れていたのだが、その予告でも場内大爆笑で、わたしとしてはかなりびっくりしたっす。

 たしかに。確かに面白そうだけど……これを笑えるのはシニアだけでしょうな。みんな、もう通り過ぎた話で、経験した後だから笑えるんだろうと思う。なんつうか、今の日本の映画産業は、ホントにシニアの皆さんが支えてるんじゃなかろうかと思います。

 というわけで、もう無駄に長いので結論。
 山田洋次監督によるシリーズ第三弾、『妻よ薔薇のように/家族はつらいよIII』を観てきたのだが、まずその客層は99%以上がシニアであり、監督の年齢を考えると、シニアのシニアによるシニアのための作品であったことは間違いないだろう。しかし、まだシニア予備軍のわたしが観てもちょっとグッとくるようなところもあって、十分楽しめるお話であった。主婦はそりゃあ大変ですよ。この映画は、全お父さん必見だと思います。面白かった。以上。

↓ まあ、やっぱりシリーズ全部観て予習しておいた方がいいと思います。そういや幸之助夫婦の息子二人はかなり成長して、役者が変わったような? 人んちのガキはあっという間にデカくなりますなあ。