Robert Downey Jr.といえば、今や「主演興行成績による俳優ランキング」において3年連続でNo.1に輝くハリウッドきっての大スターである。が、その栄光を得る前は麻薬依存で極めて深刻な問題を抱えていたこともまたよく知られている。10代でキャリアをスタートし、27歳で主演した『Chaplin』でアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた演技派ではあったが、その後、コンスタントに映画やTVドラマに出演するものの、薬物問題で騒ぎを起こし、90年代後半から2000年代前半は、「終わった男」として見なされていたはずだ。その彼が今やハリウッドNo.1俳優としてあるのは、2008年『IRONMAN』のトニー・スターク役で大成功したことによるものと言っていいだろう。まあ、その副作用として、その後の彼の映画を観ると、何を観てもトニー・スタークに見えてしまうほどではあるけれど。もちろん現在は、薬物依存からは完全に立ち直り、クリーン宣言している。
 わたしが昨日の夜観た映画は、そんなRobert Downey Jr.が、トニー・スタークのような、うわべは軽薄な感じをまといつつも、心優しい(?)弁護士を演じた『THE JUDGE』(邦題:ジャッジ 裁かれる判事)である。結構ジンと来る印象深い芝居振りであった。 
 
 物語としては、まあ、ありがちといえばありがちで、正直なところ、どうやらこの映画の世の評価は高くないようだ。しかし、非常に演技の質は高く、わたしはとてもグッと来た。この映画は、やはり男が観るとグッと来るのではないかと思う。とくに、40代後半以上の、とりわけ、老いて衰えつつある父親を目の当たりにしているおっさんには、ホントに心に刺さると思う。
 主人公は、シカゴで敏腕弁護士としてバリバリに活動しているが、母がある日亡くなった。すぐに故郷のインディアナに向かう主人公だが、故郷には、一番苦手な父親がいる。兄と弟は歓迎してくれるが、父は握手だけでハグはしようとしない。判事として42年間、地元の信頼を得てきた父。母の葬式が終わったらさっさとシカゴに戻るつもりの主人公。だが、葬儀の翌日、シカゴへ発とうとする主人公は、ガレージにある父親の車に事故の跡を見つける。この車は、父が非常に大切にしている車で、誰にも運転させないはず。この傷は一体……? というわけで、物語は動き出す。すぐに、どうやら父が人を撥ね、しかも死亡事故を起こしてしまったらしいことがわかる。しかし、それが事故ではなく、殺人事件として起訴されることになって……という展開である。

 この映画で描かれる、父と息子の関係は、形は違っても、男なら誰しもが自分の父親との関係に置き換えられるのではないかと思う。わたしももちろん、親父が嫌いだったわけで、主人公と判事の父の仲の悪さは、観ていて全く心当たりのある場面ばかりである。ちょっとこちらから折れて、「こうしたら?」と言っても、聞きやしない。ああそうですか、勝手にどうぞ。全くもってどこの息子・父親間でも見られる光景ではなかろうか。そもそも、父親と仲の良い息子っているのかな? とさえ思う。しかし、それでも、「勝手にどうぞ!!」と切り捨ててしまうと、確実に後で後悔することになる。なぜなら、父親が先に死ぬこともまた確実だからだ。父の死に臨んで、あの時ああしておけば良かった、と後悔することは非常に辛いことだ。それは父のために、ではなく、自分自身の問題である。
 この、家族というものに対する問題は、以前、山田洋次監督作品『東京家族』でも触れたが、親孝行は、親のためというよりも、自分のためだというのがわたしの持論である。この映画の主人公と父親は、長年の確執を解消し、最後は美しく物語を終えることができた。それができたのは、最後の法廷シーンで、弁護士と被告という形での会話で本音をぶつけ合ったからであるが、ここでのRobert Downey Jr.と、父親を演じたDobert Duvallの芝居は非常に良かった。実際、父・Robert Duvallはこの作品で去年のアカデミー助演男優賞にノミネートされたのだが、受賞を逃したのは非常に残念だったものの、この映画のラストシーンの父と息子の語らいは、わたしのハートに非常に深く響き、確かな感動をもたらしてくれるものであった。
 役者陣としては、Robert Downey Jr.やRobert Duvallの素晴らしさはもちろんのこと、脇を固める役者の芝居も非常に印象深くお見事である。主人公の兄を演じたのは、Vincent D'Onofrio。この役者は、あれっ!? この人絶対どこかで観たことある、だけど誰だっけ? 絶対知ってる人だ、と思って調べてみたら、なんとあのスーパー名作『FULL METAL JACKET』で散々いじめられて教官をぶっ殺して自殺したあの「ほほえみデブ」じゃないか!! 最近では『Jurassic World』にも出ていたけど、すっかり渋い男になりましたな。演技ぶりも非常に良かった。とてもやさしい、いい兄貴を見事に演じておりました。また、対決する検事を演じたのは、Billy Bob Thornton。脚本家としてアカデミー賞を受賞している男で、Angelina Jolieの元夫としてもお馴染みだが、彼の演じた検事が、判決後に見せる表情が凄くいい。また、本作のヒロインとも呼べる女性を、Vera Farmigaさんが明るくキュートな中にも芯の強さを持つ女性を印象的に演じている。この人は、『Source Code』(邦題:ミッション:8ミニッツ)のグッドウィン大尉でお馴染みで、妹は『記憶探偵と鍵のかかった少女』のTaissa Farmigaちゃんですな。あと、監督のDavid Dobkinという男は、わたしは知らない監督だが、結構上手だと思う。画作りがオーソドックスだけど極めて丁寧で、また時に映されるアメリカの田舎の自然の様相も悪くない。全体を通して非常に美しいというか、とても綺麗に撮られていると思いました。いいと思います。

 しかしつくづく思うのは、こういう映画こそちゃんと劇場に行くべきだよなあという後悔である。わたしは基本的に家の近くのTOHOシネマズか、仕事場に近いTOHOシネマズで映画を観る。たまにIMAXのために109シネマズに行くぐらいだ。しかし、TOHOシネマズですべての映画が上映されるわけでは決してなく、こういう公開規模の小さい映画は、つい見逃してしまう。不精はイカンですな。まあ、その見逃した映画のためにWOWOWに加入しているわけだけど、やっぱり劇場で観たかったと思う。日本公開が2015年1月だから、WOWOWで放送されるのもだいぶ早くなって来ましたな。1年も待たずに放送してくれるWOWOWは、なにげに偉いと思うが、あの「W座への招待」という放送枠は勘弁して欲しい。あの小山薫堂氏の解説というか話は、いつもイラッとするので、たいてい見ません。

 というわけで、結論。
 『THE JUDGE』は、世間的な評価は低くても、わたしは観て良かったと思っている。大変心に染みました。この作品は男に、とりわけ40代以上のおっさんに超おススメです。Robert Downey Jr.のカッコ良さは、やっぱり本物ですな。以上。

↓ この映画でのRobert Downey Jr.も強烈です。クッソコメディですが、まあ凄いことになってますw 正直イマイチですが、彼の演技だけは必見、かも。
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2014-09-10