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 昨日は昼から映画を観てきたのだが、わたしはいつも、映画を観る時はほぼ常に開場時間のちょっと前には劇場について、開場となればさっさと入場することにしている。それは、まあ、特に理由はないけれど、映画を観る前にほっと一息つくというか、とにかく時間的ゆとりが心のゆとりという信条を持つわたしとしては、まあ当然のことなのである。
 しかし、昨日はあえて、劇場が暗くなって本予告が始まるチョイ前、を狙って入場してみた。その理由は、ズバリ、客層を見てみたかったからだ。あらかたお客さんが入ってから、どんな客層なんじゃろか、と席についている人々を観察するために、そういう行動をとってみたのである。
 結果、わたしが昨日観た映画は、地元シネコンの2番目の大きい箱での上映で、そのキャパ315人。そしてパッと見た感じでは全然半分も入っていないぐらいで、まあ100~120人程度であったと思う。そして客層はというと……ズバリ、わたしと同じ40代以下と思われる人は、わたし以外いなかった。要するに、99%以上が明らかに「シニア」層であったのである。すごかったなあ、あの絵面は。
 そんな、シニア率99%超の作品を観てきたのだが、そのタイトルは『妻よ薔薇のように』といい、実は『家族はつらいよ』シリーズの第3弾である。思いっきりサブタイトルに(家族はつらいよIII)と書いてあるので、実は、というほどじゃないんですけど。まあ、『家族はつらいよ』『家族はつらいよ2』と観てきたわたしとしては、この3作目もやっぱ観とくか、という気になったのである。結論から言うと、わたしは大変楽しめた。前作『2』よりずっと面白かったと思う。

 わたしが「やっぱ観とくか」と偉そうに思ったのは、実はわたしは『2』で、もうあまりのお父さんのダメ親父ぶりにうんざりしていたためである。わざわざ映画を観に行って、ダメ親父にイライラしたくねえ、とか思っていたのだ。
 わたしがいう「ダメ親父」とは、この映画には二人いて、平田家の元祖お父さんである平田周造(演じているのは橋爪功氏)と、その長男であり2代目お父さんの平田幸之助(演じているのは西村まさ彦氏)の二人である。この二人は、引退してゴルフ三昧&居酒屋通いでべろんべろんに酔っぱらう周造と、サラリーマンとして会社では優秀なのかもしれないが、男としてはかなり問題のある幸之助の親子で、2世帯同居しているのだが、まあ、基本的に仲は悪い。
 わたしを含め、世のお父さんたちには大変残念なことに、そもそも、息子というものは、基本的に父親を嫌うものだと思う。同じ男として、やけにダメな点やイヤな点ばっかりに目が行ってしまうからだと思うけれど、とにかく、親父のようにはなりたくねえ、と思う息子が普通というか多いと思う。しかし、さらに残念なことに、息子というものは、40代ぐらいになると、あれほど親父が嫌いだった自分が、いろいろな点において、容貌や言動など、まさしく親父に似ていることを発見してしまうのである。そして絶望的な気分になりながら、この時になって初めて、徐々に親父のことを許せてきてしまうのだ。例えば、サラリーマンの悲哀が分かって来る40代になると、その年齢の頃の親父(つまり自分がガキだった頃の大嫌いだった親父)の気持ちがわかってきちゃうんだな。恐らくこれは、全ての息子が感じるものだと思う。
 というわけで、この『家族はつらいよ』というシリーズには、まあとにかく厄介でダメな親父が二人も出てくるため、わたしはちょっともう、胸焼けするというか、イライラすること甚だしかったわけだが、このシリーズで恐らく一番の常識人であり、一番まともな人が、幸之助の奥さんの史枝さん(演じているのは夏川結衣さん)だ。
 厄介な舅、厄介な旦那、イイ人だけど何も家事をしない姑の富子お母さん(演じたのは吉行和子さん)、そして育ちざかりの二人の息子。彼らの面倒を一手に引き受けるお嫁さんでありお母さんな彼女。とにかく彼女は、常に手を止めることなく動かし続け、毎日一生懸命「主婦業」をこなすわけだが、誰一人省みることなく、ある意味当然と思われている。また、平田家から既に独立している長女一家や、次男&そのお嫁さんといった「家族」全体からさえも、「やって当たり前」と思われているかもしれない。
 そんな常識人の史枝お母さん。これはもう、いつか爆発するぞ……とわたしは思っていたところで、本作の登場だ。本作は、まさしくお母さん爆発の巻で、その爆発をメインに据えた物語ということを知って、わたしは「やっぱ観とくか」と思ったのである。そして観終わった今、わたしとしてはもう、全国の「お父さん」どもに観ていただきたい傑作であったように思う。
 物語は、前作『2』からちょっと時間が経っているようで、平田家の車はプリウスに代わっているし、周造お父さんも『2』でもめた結果、無事に免許を返納したようだ。なので、周造は大好きなゴルフには友達の軽自動車で行っている。そして史枝お母さんは、毎朝、会社に出勤する幸之助お父さんと学校へ登校する子供たち、そしてゴルフに出かける周造お父さんやカルチャースクールに出かける富子お母さんを見送った後、一人で掃除洗濯とせっせに働きまくる毎日だが、ある日、掃除が終わってヤレヤレ、と一息ついた時、ついうとうとと居眠りをしてしまう。そんな時を見計らって平田家には泥棒がやってきて、まんまと史枝お母さんがぜっぜと溜めたへそくりを盗まれてしまうのだ。そのことでしょんぼりな史枝お母さんに、ひどい暴言を吐く幸之助お父さん。ついに史枝お母さんは悲しみと怒りで、家出してしまうのだった……てな展開となる。
 こんなお話なので、まあ見どころとしては幸之助お父さんがどう謝るか、にかかっているわけだが、その顛末はなかなかグッとくるものがあって、幸之助の弟たる庄太が幸之助を説得するのである。庄太は、このシリーズでは基本的に心優しい末っ子的な描かれ方をしているのだが、彼は嫂たる史枝お母さんには特別な想いがあって、高校生の時やってきた兄のお嫁さんに、こう思ったそうだ。
「匂い立つような美しさだった。僕は、この人には幸せになってほしい。心からそう思ったんだ」
 だからそんな史枝さんを泣かせるようなことはしないでくれ、と兄に話すのである。なんかこの言葉だけ抜き出すと、大きなお世話だと兄は余計怒るようなセリフだし、実際幸之助も怒って帰っちゃうんだけど、ここでは庄太を演じた妻夫木くんの芝居が非常に素晴らしいのです。そんなわけで、最終的には幸之助は史枝さんを迎えに行って、ちゃんと謝り、めでたしめでたしとなって物語は終わる。幸之助の謝罪シーンも大変良かったすね。西村まさ彦氏の芝居ぶりも大変良かったと思う。
 というわけで、最後に平田家の皆さんを一覧にまとめて終わりにしよう。
 ◆平田周造(演/橋爪功氏):平田家のお父さん。基本どうしようもないダメ親父。相当性格は悪い。今回はその毒はこれまでより薄め。ゴルフ大好き。駅前?の居酒屋のおかみさん、かよ(演/風吹ジュンさん)が大好きで、スケベな昭和じじいぶりを発揮。また、シリーズには必ず周造の親友として登場するキャラがいて、いつも小林稔侍氏が演じている。けど同一キャラではなく、今回はお医者さんキャラでした。
 ◆平田富子(演/吉行和子さん):平田家のお母さん。亡き兄(だったっけ?)が作家で、その著作権継承者として印税がいまだ毎月振り込まれてくるため金に困っていない。小説執筆のカルチャースクール通いののんきな母さん。家事はお嫁さん任せでほとんどしていない模様。今回、お嫁さんの家出に、わたしが家事をするわ!と張り切るが腰をやっちまって何もできない状況に。
 ◆平田幸之助(演/西村まさ彦氏):平田家長男。サラリーマン。営業部長。それなりに有能?なのか、今回は香港への出張から帰ってきたところで泥棒騒ぎの顛末を聞き、ひどい言葉を吐いてしまう。二人の息子からはそれなりに慕われている模様。
 ◆平田史枝(演/夏川結衣さん):幸之助の妻。しっかり者で常識人で働き者。今は空き家になっている実家へ家出してしまう。家に残した子供たちがどうしているかと考えると、悲しくて泣いちゃうよね、そりゃ。幸之助とは、独身時代の通勤の中央線で出会って、さわやか笑顔に惚れちゃったんだそうな。学生時代はダンス部でフラメンコダンサーだったらしく、輝いていたあの日を思うと今の主婦の自分にしょんぼりな日々を送っている。
 ◆金井成子(しげこ:演/中嶋朋子さん):平田家長女。税理士として自らの会計事務所経営。基本的にキツイ性格。夫に対してもかなりキツイお方。
 ◆金井泰蔵(演/林家正蔵氏):成子の夫。基本的にすっとぼけ野郎。成子の会計事務所の事務員。空気を読まない余計な一言が多い。
 ◆平田庄太(演/妻夫木聡くん):平田家次男。ピアノ調律師。成子の娘や幸之助の息子たちからも慕われている、やさしい叔父さんとしてお馴染み。一家の中では常識人だが、若干頼りないような……。幸之助と史枝さんが結婚したのは庄太が高校生の時だそうで、大学生のころは史枝さんに大変お世話になったのだとか(想像するに親父や兄貴と衝突した際に間に入ってくれたのでしょう、きっと)。
 ◆平田憲子(演/蒼井優さん):庄太の恋人で『2』からは奥さんに。看護師。常識人。今回はあまり見せ場ナシだが、本作ラストで庄太&憲子さんにうれしいサプライズが!
 そして監督はもちろん山田洋次氏。まあ、お見事ですよ。今回主人公を平田家のお嫁さんである史枝さんとしたのも、できそうでできない発想の転換だったのではなかろうか。それにしても、場内の99%超のシニアの皆さんは、もう遠慮なく爆笑の渦だったすね。わたしも笑わせていただきました。先週観た『のみとり侍』も、シニア率90%以上だったけれど、場内の笑い声は圧倒的に本作の方が多かったすね。あと、本作上映前に『終わった人』の予告が流れていたのだが、その予告でも場内大爆笑で、わたしとしてはかなりびっくりしたっす。

 たしかに。確かに面白そうだけど……これを笑えるのはシニアだけでしょうな。みんな、もう通り過ぎた話で、経験した後だから笑えるんだろうと思う。なんつうか、今の日本の映画産業は、ホントにシニアの皆さんが支えてるんじゃなかろうかと思います。

 というわけで、もう無駄に長いので結論。
 山田洋次監督によるシリーズ第三弾、『妻よ薔薇のように/家族はつらいよIII』を観てきたのだが、まずその客層は99%以上がシニアであり、監督の年齢を考えると、シニアのシニアによるシニアのための作品であったことは間違いないだろう。しかし、まだシニア予備軍のわたしが観てもちょっとグッとくるようなところもあって、十分楽しめるお話であった。主婦はそりゃあ大変ですよ。この映画は、全お父さん必見だと思います。面白かった。以上。

↓ まあ、やっぱりシリーズ全部観て予習しておいた方がいいと思います。そういや幸之助夫婦の息子二人はかなり成長して、役者が変わったような? 人んちのガキはあっという間にデカくなりますなあ。

 かつての寅さんでおなじみの『男はつらいよ』という作品は、年に1本~2本公開されることが当たり前だったわけで、いわゆる「プログラム・ピクチャー」というものだが、本作もそのような人気シリーズになるのだろうか。
 去年3月に公開された山田洋次監督作品『家族はつらいよ』を観て、大変笑わせていただいたわたしとしては、今日から公開になった、続編たる「2」も当然早く観たいぜと思っていたわけで、今朝8時50分の回で、早速観てきた。結論から言うと、お父さんのクソ親父ぶりは増すまず磨きがかかっており、おそらくは日本全国に生息するおっさんたちは、笑いながらも感情移入し、そして日本全国のお母さんや子供たちは、ああ、ほんとウチの親父そっくりだ、とイラつきながら笑い転げることになろうと思う。ただし、笑えるのはおそらく40代以上限定であろう。今日、わたしが観た回は、わたしを除いてほぼ100%が60代以上のベテラン親父&お母さんたちであり、映画館では珍しく、場内爆笑の渦であった。まあ、若者には、平田家のお父さんはクソ親父過ぎてもはや笑えないだろうな。

 というわけで、あの平田家の皆さんが1年2か月ぶりにスクリーンに帰ってきた! 詳しい家族の皆さんについては、前作を観た時の記事をチェックしてください。もう一人一人紹介しません。
 今回のお話の基本ラインは、73歳(だったかな?)のお父さんの免許をそろそろ返納すべきなんじゃねえの? という家族たちの思惑と、ふざけんなコノヤロー!と憤るお父さんの家庭内バトルである。そしてそこに加えて、お父さんがばったり出会った旧友と飲み明かし、べろべろになって家に連れ帰り、なんと翌朝、その旧友が冷たくなっていて―――という、とても笑えない状況の2本立てである。
 まず、免許証の返納だが、正直これはわたし個人も、老いた母の運転が心配であり、実に切実な問題だ。なにしろ本作で描かれる平田家のお父さんは、ぶつける・こする・追突する、と愛車のTOYOTA MarkIIはもうボロボロである。10数年乗っているという設定だったと思うが、劇中使用車はおそらく7代目のX100型だと思うので、2000年に生産終了しているはずだから、もう17年物である。そんなぼろぼろのMark IIでは、そりゃあ家族も心配だろう。幸いわが母はまだぶつけたりしていないが、たまに母運転の助手席に座ると、実は結構怖いというかドキドキする。母の場合、ブレーキングやアクセルワークよりも、車幅感覚が危なっかしいように感じてしまうが、まあ、平田家のお父さんはよそ見運転で追突したりと、要するに完全に不注意であり、これはきっと性格の問題だろう。
 平田家のお父さんは、とにかく観ていてイラつくクソ親父だ。それはまず間違いなく誰しもそう思うと思う。何といえばいいのかな、日本全国のクソ親父のすべての成分を凝縮させているというか、まったく同情の余地がなく、若者が観て共感できるわけがない。早く死ねよとすら思う若者だっているだろうと思う。なにしろ、わたし自身がそうだったのだから。
 しかし、そんなクソ親父でも、死んでしまった後になると、結構許せてしまうのだと思う。それは理由が二つあって、一つは、単純に時が過ぎて思い出に代わるから。そしてもう一つは、あんなに嫌いだったクソ親父に、自分自身も似てきてしまうからだ。そう、男の場合は、おそらく誰もが、大嫌いだった親父に似ている自分をある日ふと発見し、その時初めて、クソ親父を許せるようになってしまうのである。その時、許すとともに、自分を後悔するのが人間の残念な性だ。もうチョイ、やさしくしてやればよかったかもな、いやいや、クソ親父はひどかったし! いやでも……それでももうチョイ言い方はあったかもな……なんて思えるようになるには40歳以上じゃないと無理だと思う。なのでわたしはこの映画は、若者が観てもまったく笑えない、むしろイライラし腹を立てることになるのではないかと思うのである。まだ親父を許せていないから。
 本作では、西村雅彦氏演じる長男が、もう完全にお父さんそっくりになりつつあり、かつまた、現役サラリーマンという社畜のおっさんで、実にコイツもクソ親父である。まったくこの長男にも共感のしようがなく、きっと夏川結衣さん演じる奥さんもあと15年後には大変な苦労をすることが確実だ。今回、免許返納にあたって、まずこの長男が、奥さんに対して「親父にきつく言っとけよ!」と命令し、いやよそんなのできないわ、そうだ、じゃあ成子さん(長女で税理士のしっかり者。演じるのは中嶋朋子さん)にお願いしましょう、となり、成子もいやよ、わたしの言うことなんて聞きやしないわ、じゃあ、庄太(次男。やさしい。ピアノ調律師。演じるのは妻夫木聡くん)に言わせましょう、お父さん末っ子には甘いんだから、というように、見事なたらい回しで、お父さん説得役が回されていく。この様子はもう爆笑必至なわけだが、前作ではまだ付き合っているだけだった庄太の彼女、憲子さん(演じるのは蒼井優ちゃん。かわいい!)が、本作ではもう結婚して奥さんになっていて、しかたなく庄太と憲子さんが平田家を訪れる、という展開である。
 この流れの中に、一人足りない、とお気づきだろうか? そう、お母さんですね。でも、お母さんは最初からあきらめているし、今回は前半でお友達と北欧へ旅行に行ってしまうので、不在なのです。そんな中、もうしょうがないなあ……と全く乗り気のしない庄太は憲子ちゃんを伴い平田家にやってくる。そして、話をしようとした矢先、お父さんから、庄太、お前にオレの愛車をやるよ、とお父さんの方から話が始まる。おおっと、お父さん!自分で決断して車を手放す決心をしてくれたんだね!と感激の庄太&憲子ちゃん。
 父「(真面目な顔でしんみりと)オレもなあ……大切に乗った愛車だし、愛着あるんだけどなあ、しょうがないよ」
 庄太「お父さん! 大切に乗らせていただきます!」
 父「お前が乗ってくれるなら安心だよ」
 庄太「お父さん、ありがとう!」
 父「オレもとうとうハイブリットだぜ!(じゃーん!と超嬉しそうにカタログを開いて) TOYOTAプリウス! こいつに乗り換えだ!」
 一同「ズコーーーッ!!」
 わたしはこのやり取りが一番笑ったかな。
 そして後半の、旧友とのエピソードは、何気に重くズッシリ来るお話なので、これは劇場で観ていただいた方がいいだろう。まあとにかく、最後までお父さんはトンチキな行動でどうしようもないクソ親父なのだが、一人、憲子ちゃんだけが「人として当然」という行動をとるわけで、それが本作ではほとんど唯一の救いになっている。ほんと、憲子ちゃんはいい子ですなあ……。
 というわけで、わたしは大変楽しめ、実際うっかり爆笑してしまったわけだが、前作が最終的な興行として13.8億しか稼げなかったことから考えると、本作もそれほど大きくは稼げないだろうな、という気がする。なにしろ観客のほとんどがシニア割引きで単価も安いしね……それに、前作を観てなくて、いきなりこの「2」を観て楽しめるのかも、わたしには良く分からない。最近だと、きちんとこの「2」の公開前に、前作をTV放送したりするけれど、そういった配慮は全くナシ。大丈夫なのかな……本作が10億以上売れて、シリーズ化がきちんと進行することを祈りたい。
 
 というわけで、ぶった切りで結論。
 山田洋次監督作品『家族はつらいよ2』を早速観てきたわけだが、劇場はおじいちゃんおばあちゃんレベルのシニアで満たされており、若者お断りな雰囲気であったが、内容的にも実際若者お断りな映画なのではないかと思う。無理だよ、だって。この話を若者が観て笑うのは。お父さんがクソ親父過ぎるもの。誰しもが観て笑うと思っているとしたら、そりゃあちょっと年寄りの甘えというか、ある種の傲慢じゃないかなあ。でも、一方で、わたしのような40代後半のおっさんより年齢が上ならば、間違いなく爆笑できる大変楽しい映画だと思います。それはそれで大変よろしいかと存じます。が、なんというか……日本の映画の未来はあまり明るくねえな、とつくづく思いました。アニメが売れることはいいことだし、一方でこういうシニア向けがあってもいい、けど……なんかもっと、全年齢が楽しめるすげえ作品が生まれないもんすかねえ……。無理かなあ……。タイトルデザインは、かの横尾忠則氏だそうですが、ズバリ古臭い。そりゃそうだよ。もう80才だもの。若者には通用しねえなあ……。以上。

↓やっぱり前作を観ていることが必須なのではなかろうか……。

 去年の12月に、『母と暮らせば』を観て大いに感動し、立て続けにWOWOWで録画して観もせずに放置していた『小さいおうち』『東京家族』を観て、ああ、やはり山田洋次監督は偉大なるFILM MAKERだと今更ながら認識するに至ったわたしだが、1月に、舞台『書く女』を観に行った際に、山田監督のトークショーで直接の生の発言を聞く機会があった。曰く、「喜劇が一番難しい。そして劇場でお客さんが笑っている姿を観るのが一番うれしい」と、山田監督は仰っていた。かつて、『男はつらいよ』のシリーズで日本に笑いをもたらしていた山田監督。日本人に愛され続けた寅さんシリーズの監督がそういうんだから、「喜劇が一番難しい」というのはきっと真実なのだろう。
 以前も書いた通り、山田監督は一貫して「家族」をテーマとした作品を作り続けている。人間社会の基本単位である家族。それは、人間にとって一番のよりどころとなるものであり、また一方では一番厄介な、生まれてから死ぬまで、決して「なかったこと」にはできない繋がりであろう。だからそこには、喜びも怒りも悲しみも、すべての人間の感情が詰まっているはずだ。
 というわけで、山田監督最新作は、タイトルもズバリ『家族はつらいよ』である。これがもう、めっぽう面白かったのである。

 散々報道されていることだが、まずは客観的事実を先にいくつか書いておくと、実はこの作品、「山田監督最新作」と言っていいのかちょっと微妙である。というのも、去年の春にはとっくに完成していたそうで、制作の順番的には『母と暮らせば』の方が後であるが、公開順が入れ替わったのである。その理由は、去年2015年が戦後70年の節目の年であり、その年に『母を暮らせば』を公開したかったことが一つ。そして今年、2016年が松竹の創業120周年だそうで、本作『家族はつらいよ』はその記念作品という位置づけにされているためだ。まあ、これは別に、ああ、そうなんすか、で流してもらっていい情報で、正直どうでもいい。
 もう一つこの作品について言っておかなければならないのは、2013年に公開された『東京家族』と全く同じキャストであり、また役柄も全く同じという点だ。人名もほぼ同じで、『東京家族』が平井家、『家族はつらいよ』が平田家とちょっと違うだけで、下の名前も漢字が違ってたりするけれど、ほぼ同じである。これは非常に面白い取組である。なので、出来れば、本作を観る前に『東京家族』を観ておいた方が一層楽しめると思う。本作を観てから『東京家族』を観る、という逆もアリだと思いますが、何しろ『東京家族』はしんみり系のドシリアスなので、先に観ておいた方がいいような気がするな……どうでしょう。
 さて。で、今回の『家族はつらいよ』である。
 物語は、もう予告の通りだ。ある日、母が誕生日のお祝いに、父に欲しいものがある、と言う。父は、いいよ、何でも言ってみ? と聞く。母が差し出したのは離婚届。これに署名捺印が欲しいな、というところから物語は始まる。
 舞台となる平田家をちょっと紹介しておこう。
 【父】:演じるのは橋爪功氏。作中では70代と言ってたかな。定年後、ゴルフをしたり呑みに行ったり気ままなおとっつあん。はっきり言って、部外者のわたしから見ると、自分の親父を思い起こさせるクソ親父成分が濃厚で、あまり同情の余地なし、とわたしの目には映った。
 【母】:演じるのは吉行和子さん。お父さんにずっと耐えてきた昭和の母。亡くなった妹が著名な作家だったと言う設定で、その印税が入るのでお金にあまり困らない事情アリ。現在、カルチャースクールに通って創作の勉強中。なお、吉行和子さん本人も、故・吉行淳之介先生の妹であることはご存知の通り。もちろん、その事実を受けての役柄設定でしょうな。
 【長男】:演じるのは西村雅彦氏。サラリーマン。40代の設定(だったと思う)。上に部長がいるようなので、課長クラス。二人の子供アリ(小学生&中学生)。父が苦手なくせに、父の性格をそのまま受け継いでいそうな感じがするので、将来が心配だw うっかり者っぽい。両親と二世帯住宅に住む。今回かなりズッコケ演技を見せてくれる。
 【長男の嫁】:演じるのは夏川結衣さん。非常に常識人(?)。旦那の両親に対してきちんと気を遣い、旦那に対してもそれなりに立てている風。ただし子供にはきっちりと厳しく、しっかり者のお母さん。夏川さん本人は、若いころは美しいモデルさんだったが、すっかり演技派の素晴らしい女優ですね。
  【長女】:演じるのは中嶋朋子さん。税理士として事務所を運営。恐ろしく外面はいいが、キツイ性格。顧客に対しては超・猫なで声(ここの芝居は超笑える)。両親は兄が面倒を見るものと決めつけている。仕事バリバリ系。かつての蛍ちゃんも、すっかり歳を取りましたなあ。お綺麗だと思います。
 【長女の旦那】:演じるのは林家正蔵氏。うだつの上がらないダメ人間。嫁の事務所で助手として働く。お父さんに、「髪結いの亭主の癖に生意気言うな!!」と言われてブチ切れる。いや、お前……事実じゃんか……。持ちネタ「どーもすいません」を炸裂させたのは余計だったと思いますw
 【次男】:演じるのは妻夫木聡くん。 心優しい青年で、両親と兄夫婦家族と同居。仕事はピアノ調律師。折り合い悪い父親と兄の間に入って、家族をとりなす、本人曰く「接着剤」の役割を果たす。そのため、本当は一人暮らしをしたかったが実家住まいをしており、兄嫁は彼を非常に頼りにしている。しかし、そろそろ結婚を意識し、家を出ようとしている。今回もお見事な演技ぶりだったと思う。
 【次男の彼女】:演じるのは蒼井優ちゃん。 看護師さん。いい人。初めて連れてこられた平田家はとんでもない修羅場の最中で……という展開。相変わらず可愛い別嬪さんでした。この人が、さっそうとチャリンコを漕いでいる姿がわたしは非常に好き。
 とまあ、こんな平田家の皆さんが、お母さんの離婚届けによって大騒ぎ、というお話である。非常に分かりやすく、わたしはずっと笑って観ていた。
 しかし、である。
 残念ながら、この映画を楽しめるのは、おそらくは40代後半以上のおっさん・おばさんだろうと思う。ひょっとすると30代以下は、観ていてイライラするのではなかろうか。それは何故かと言うと、やはり、30代ではまだ、自分の親父を許せていないからだ。橋爪氏の演じるお父さんは、日本全国に生息する「お父さん」そのもので、酔っ払って帰って来て大声で喚くし、服は脱いだらほっぽり投げたままだし、しかも裏返しのままだし、靴下なんかも、ポイッとそのままで平気な、「昭和のお父さん」だ。そういう父親の姿は、息子や娘からしたら、実にウザい、最悪の存在である。お母さん可哀想……と、きっと誰でも思うことだろう。
 しかし、わたしのように、「絶対ああはなりたくない、ならない!!」と固く心に誓っている男でさえ、きわめて残念ながら、自分が嫌いでたまらなかった親父に、どんどん似てきてしまうのだ。そしてそのことを自覚した時初めて、若干の絶望とともに、父親を少し許せるようになるのだとわたしは思う。わたしの場合は、わたしが30になるチョイ前に亡くなってしまったので、少し早めに親父のことを許せるようになったが、おそらく普通の人は40代に入らないとそれが分からないと思う。もちろん、許すと言っても、否定はしたい。なので、許すというより「理解する」と言うべきかもしれない。いずれにせよ、親父の気持ちが分かってくるのは、40代後半以降であろうと思う。なので、おそらくこの作品は、30代以下には全く通じないのではないかとわたしは思うわけである。
 ところで、観に行って非常に興味深かったのは、観客の反応だ。
 わたしが観に行った時の客層は、60代以上と思われるおじさん一人客&老夫婦&おばさんのグループというように、おっそろしく年齢層は高かった。まあ、そりゃそうだとは思うが、注目すべきはその反応である。
 わたしの隣には、70代と思われる老夫婦が座っていて、時間ぎりぎりによっこらせと入ってくるし、始まってるのに服はガサゴソ脱ぐし、あまつさえ缶コーヒーをギリギリプシュウと開けるし、上映中に良くしゃべるし、正直イラッとするどころか、いい加減にしてくんねーかなーとさえ思ったのだが、お母さんは良く笑って楽しそうに観ているし、チラチラ観察したところ、お父さんも、声には出さないけれど、ずっとにニヤニヤと笑顔なのだ。もう、わたしはそのお父さんの笑顔で、全部許してもいいやと思った。
 おそらく、そのお父さんも、家族から煙たがられている存在なのではないかと勝手に想像するが、同じ様を映画で見せつけられて、あまつさえお母さんは爆笑していて、気分良くないのでは? と思ったのだが、なんだ、ちゃんと笑ってるじゃん。なるほど、きっとこのお父さんは、もうそういう段階は既に通過しているんだろうな、と想像すると、なんというか、もう、そういう人生の先輩に対しては怒りの感情は持てないというか、終わったところで「面白かったっすね」と声をかけたくなるほどだった。全く見知らぬ老夫婦は、どこから来たのか知らないし、どんな家族を持つのか想像もつかないけれど、きっと、お幸せなんでしょうな。この映画を夫婦で観て笑えるなんて、正直うらやましいよ。

 というわけで、結論。
 山田監督は、「喜劇が一番難しい」と仰っていたが、ご報告があります。わたくし、『家族はつらいよ』を拝見させていただきましたが、場内大爆笑でしたよ!! 勿論わたしも、笑わせていただきました。さすがっす。以上。

↓ あれっ!? 小説が出てたんですな。しかし、小説で読んで面白い話なのかな……。そして音楽は、名匠・久石譲先生です。
家族はつらいよ (講談社文庫)
小路 幸也
講談社
2015-12-15

「家族はつらいよ」オリジナル・サウンドトラック
久石譲
ユニバーサル ミュージック
2016-03-09

 というわけで。
 現在公開中の『母と暮らせば』を観て、大いに感動してしまい、黒木華ちゃんという女優や吉永小百合さんや二宮くんはホントに素晴らしい、と、そこら中で事あるごとに話しているわたしだが、やっぱり山田洋次監督というのはすげえ、ということを今さら認識し、その後、WOWOWで録っておいて観ていなかった『小さいおうち』も観て、これまた感動し、ちょっとこりゃあ、山田洋次監督の作品は全部見ないと、映画オタクとして大変恥ずかしいのであろうということを、まったくもって今さらながら、明確にな事実として了解したわけである。
 と、Wikipediaで、山田洋次監督のフィルモグラフィーをチェックしてみたところ、意外と平成に入ってからの作品は既に観ていて、あとは『東京家族』を観れば、全部観てるかも、という事実が発覚した。なのでさっそく、『東京家族』をどこかのネット配信で観るか、と思ったのだが、いやまてよ、ひょっとしたら……と録りためてあるBlu-rayを漁ってみたところ、ちゃんとWOWOWで放送したのを録画してBlu-rayに焼いてあるのを発見した。さすがオレ。万事抜かりない男である。
 と、自画自賛する人間には、おおよそ、ろくな人間がいないと思います。

 この映画は、実のところ、小津安二郎監督による『東京物語』の平成リメイクである。ほぼ筋書きは同じ。なので、きっと自称・映画通の方々は、本作を小津作品と比較して、どうでもいいことを抜かす場合が多いのではないかと思うが、そんな比較は、わたしにはまったくどうでもいい。そんな1953年(昭和28年)の作品と比べて何か意味があるとでもいうのかね……? 家族の在り方なんて、まったくもって変わってしまっているというのに。
 それと、実はわたしは、黒澤明監督は大ファンで、生前一度だけお目にかかったことがあるし、全作品とも何度も観ている。ので、黒澤映画を語りだすと、おそらくは127時間ほどしゃべり続ける自信はあるのだが……小津安二郎監督の作品は、実はあまり好きではないのです。なんというか、あのまったり感? というか、静かなのっぺり感? がどうしても苦手で、黒澤的なギラギラ感の方がどうしてもわたしの好みなのである。実のところ、小津作品は、『東京物語』を含め、遺作の『秋刀魚の味』、それから『晩春』『お早よう』の4本しか見ていない。しかも、全部20年以上前に観たっきりである。
 なので、小津監督による『東京物語』のストーリーは薄らぼんやりとしか覚えていない。確か、尾道から出てきた両親が、(戦後の)東京の子どもたちの家にやって来て、あまりいい思いをせず帰ったところで母が亡くなり、そのお葬式に今度は東京の子どもたちが尾道ににやって来て、また嫌な感じでさっさと帰っちゃう、けど、戦争で亡くなった次男のお嫁さんだけはいい人だった、みたいな感じで、正直なところ正確なディテールは忘れている。確か長女がやな奴じゃなかったけ? ぐらいの印象しか残っていない。

 とまあ、こんなわたしが、昨日の夜、クリスマスイブだというのに、ぼんやりと、平成の世に生まれ変わった山田洋次監督による『東京家族』を観たわけだが、結果としては、映画の神様ごめんなさい、この映画を劇場に観に行かなかったオレは本当にバカでした。と深く謝罪をせねばなるまいという結論に至った。ホントすみませんでした。素晴らしかったです。
 山田洋次監督は、『寅さん』シリーズでも一貫して「家族」というものを描いてきた監督である。また、震災を経験した我々日本人にとっては、まさしく「家族」というものは極めて大きなテーマであり、山田洋次監督がこの作品を2013年に公開したことにも、大きな意味があると思う。
 この映画で描かれた物語は、間違いなく、わたしのような40代のおっさんや、50代ぐらいの人間には猛烈に突き刺さるはずだ。間違いなくやって来る親の死。それが10年後なのか20年後なのか、ひょっとしたら明日なのか。それは誰にもわからない。けれどその日は、100%確実にやって来る。親孝行は、親のためというよりも、自分のためだというのがわたしの持論だが、親を亡くした時に、胸を張れる自分でいられるかどうか。後悔をしなくて済む自分かどうか。やましい気持ちにならずに済んだ自分であるかどうか、それが親孝行の判定基準だとわたしは思っている。
 この物語の登場人物たち、特に子供たちはどうか。また、愛する妻を亡くした父も、どうなのか。たぶん、みんな後悔している。ああ言ってあげればよかった、こうしてあげればよかった、と。それはもう、どうしようもない。あまりに亡くなるのが急だったし、倒れて一度も意識は戻らなかったし。だがそういった気持ちは、あくまで自分が思うことであって、第三者にとやかく言われるものではない。
 そこが難しいところで、例えば、わたしとしては、仕事が忙しいと言って東京に来た母をあまり構わなかったくせに、葬式では母のアレが欲しいからちょうだい、とか言い出す長女なんかには、この人は嫌な女だなーと思うものの、実際のところ、その長女の本心はわからない。それを批判するには材料が足りなすぎるし、そもそもまったくの赤の他人なので、別にどうでもいいとしか言えない。
 しかしそれでも、少なくとも、なるべくこうはなりたくないなあ……という意味での一つのビジョンは示してくれる。やっぱり、映画というものは、まあもちろん小説でも漫画でもそうだけれど、観客や読者といった受け手自身に、自分のこととして振り返らせるような、心に突き刺さる作品が、傑作と呼んでいい作品なのだろうと思う。わたしはこの映画を観て、既に父を亡くしている男としては、残る母をどう送るか、が、おそらくは今後の半生における最大の問題であろうという認識をあらたにした次第だが、この映画は非常にわたしの心に突き刺さった。

 で。
 役者陣は、相変わらず素晴らしい芝居ぶりで文句はほぼない。やっぱり、妻夫木くんの適当でいながらやさしい次男とか、その彼女の蒼井優ちゃんは、若手ではトップクラスであろうことをこの映画でも証明してくれていると思う。妻夫木くんも、二宮くんと同じように、いつも本当に自然というかナチュラル系ですね。作りこみ系ではないですな、この人は。実に良いと思います。蒼井優ちゃんも、非常に可愛い娘さんを好演しておりますね。素晴らしい。また、長男夫婦、長女夫婦も、まあ先ほど書いた通り長女とは永遠に友達にはなりたくないが、演技としては非常にハイクオリティであった。長男の嫁を演じた夏川結衣さんは、非常にいいですな。物語上も結構いい人で、嫁として十分以上に夫の両親に対して優しい役だし、演技ぶりもとても良かった。
 そして老いた両親を演じた橋爪功お父さんと吉行和子お母さんもお見事でした。優しくていつも厳しい父親との間に立ってくれたお母さん。とても胸にしみました。元先生で、次男を理解しようとしない堅物のお父さんも、お母さんの偉大さが身に染みたでしょう。今後は、ちゃんと次男にも優しくしてあげないとダメですよ。まあ、現実にはホント、家族ってのは難しいですな。決して美しくはならないのが現実の家族であることは間違いない。たぶん、この映画で描かれた家族も、母を亡くしても、結局はそうあまり変わって行かないと思う。なので、たまにはこういう映画で、他人の家族を冷静に眺めて、自分に立ち戻って考えてみる必要があるんでしょうな。自分の家族ってやつを。

 というわけで、結論。
 『東京家族』は、40代以上の日本国民は全員観るべき価値のある作品だと思います。そして、やっぱり自分に置き換えて、今後どう生きるか、ちょっとだけでも振り返ってみた方がいいと思います。
 そして、『東京家族』とまったく同じキャストで贈る喜劇『家族はつらいよ』は絶対に劇場に観に行こうと思います!!


↓ 可愛いのに、なんかわたしの周りは嫌いと言う人が多いのは何故? わたしはもちろん大好きです。

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