つい先日、闘うパパでお馴染みのLiam Neeson氏主演映画『RUN ALL NIGHT』をWOWOWで観て、ここでもレビューを書いたが、先週もう1本、同じようなLiam Neeson映画がWOWOWで放送されていたので、彼の映画が大好きなわたしとしては当然録画し、観てみたわけである。そして結論としては、今回はパパではなかったけれど、実に渋い探偵モノのハードボイルドで、わたし的には大変楽しめたのであった。その映画のタイトルは、『A Walk Among the Tombstones』。直訳すると「墓石の間の散歩する」、ってことだが、日本での公開タイトルは『誘拐の掟』という作品である。 

 物語の大筋は、上記予告の通りである。ただし、時系列が相当ぐちゃぐちゃに編集されており、この映画の良さは一切伝わらない予告なので要注意だ。わたしはまったく予備知識なく観たわけだが、観終わって、これひょっとして……? と思い、調べてみたところ、やはり、明確に原作小説の存在するハードボイルドであった。著者はLawrence Blockという大ベテラン作家。わたしは読んだことがない作家だが、なんと80年代にわたしが観てかなり好きだった映画『800万の死にざま(Eight Million Ways to Die)』の原作者で、さらに言うと、なんと、同じ主人公の「マット・スカダー」シリーズであったのだ。これは全然知らなかった。1986年公開の『800万の死にざま』において、Jeff Bridges氏が演じたキャラクター、マシューが、今回Liam Neeson氏が演じた主人公マットその人だったわけで、わたしとしては、マジか!? と大変驚いた。というわけで、今回の原作となったのはこの作品らしい。

 ほえ~、そうだったんだ、とわたしは30年前に観た『800万の死にざま』という映画を懐かしく思い出したが、今回の『誘拐の掟』を観終わって、これってひょっとして……? と思ったのは、なんというか……妙に文学的な匂いのする映画なのだ。なので、これは原作があるんじゃねえかしら、と思ったのだが、とりわけ主人公マットの雰囲気がイイ。また、予告に一切現れない、ホームレスの少年も非常にキャラが立っていて、過去を持つ男と、彼にあこがれる少年のやり取りは大変好ましく、ハードボイルド小説の香りがぷんぷんしてくる物語であった。
 主人公、マット・スカダーは元警官。1991年にとある事件が起こり、警察をやめ、1999年の現在は、免許登録をしていないいわばもぐりの私立探偵として生きている。そんな彼が、アル中克服プログラムで出会った男から、弟に会って欲しいと依頼され、しぶしぶ会いに行くと、その弟は、妻を誘拐した犯人を捜して欲しいとマットに依頼する。そんなのはFBIの仕事だぜ、と断るマット。しかし、既に誘拐された妻は惨殺されていて、その異様な様に、やむなく手を貸すことにするのだが――という話である。
 ストーリーとしては、その異常殺人誘拐魔を追う話と、マット自身の物語の2つの流れがあって、捜査の中で知り合った少年が、二つの物語を結びつける役割をしている。わたしとしては、正直なところ重要なのはマット自身の物語の方だと思えた。過去を悔やんでいる男。どうにも取り返しの付かない過去を抱えながら、それでも何とか正しく生きて行こうとする疲れたおっさんの姿は、やっぱり我々おっさんの心には響くものがあって、Liam Neeson氏の素の状態に近い芝居振りも大変良かった。今回は別にスーパー腕利き殺し屋でもないし、ある意味普通の人なので、少年とのやり取りも、態度こそぶっきらぼうだけれど意外と優しいおっさんで観ていて安心できる。
 ただ、だいぶ褒めてしまったけれど、映画として微妙な点もあって、例えば1991年の事件から現在時制の1999年まで何をしてどんな生活だったのかはよくわからないし、意外と家や家具は整然として金はかかってそうだし(=つまり金にはあまり困ってないっぽい)、あるいはまた、別れたとだけ語られる奥さんや、子供がいたのかとか、背景はほぼ描かれない。これはきっと原作小説だともう少し補完されているんじゃなかろうかという気はする。また、なんでまた、いまさら1999年を舞台にしているのかもよくわからない。これは原作小説がそうだから、そのまま採用しているのだと思うが、あまり意味がなく、別に2015年にしても良かったようには思う。それと、肝心の、異常な誘拐殺人事件の方も、あまり背景は語られないので、犯人の異常性の説明はほぼなく、単に異常者だったとしか語られない点も、原作小説ではもっと細かい背景があるんじゃなかろうかとは感じた。
 さて、最後に役者陣と監督についてチェックしておこう。
 主人公のLiam Neeson氏はもういいよね。この主人公に、弟と話をしてみてくれと依頼に来る、ヤク中のダメ兄貴を演じたのは、Boyd Holbrook氏34歳。特徴ある顔で、フィルモグラフィーを見ると意外といろいろな映画でわたしは見かけているはずなのだが、明確な役は全然覚えていない。ただ、先日レビューした、Liam Neeson作品『RUN ALL NIGHT』で、組織のボスのバカ息子を演じていたのが彼でしたな。
 それから、彼の兄貴で、主人公に妻を誘拐した野郎を探してくれと依頼する弟を演じたのがDan Stevens氏33歳。彼は、これまた以前ここでレビューを書いた『靴職人と魔法のミシン』にも出てましたな。あの映画では、主人公の隣に住むイケメン・リア充青年の役だったかな。
 あと、主人公に懐いてくる少年ホームレスを演じたのが、Brian "ASTORO" Bradley君19歳。え、19歳!? もっとガキに見えたけどな……。映画が2014年の作品らしいので、出演時は16歳ぐらいってことか。それなら納得かも。彼は本職はラッパーだそうですな。意外と今後、活躍するような気がしますね。名前は覚えておこう。
 最後、監督はScott Frank氏56歳。この人は元々脚本家みたいで、本作の脚本も自身によるものみたいすな。監督としては本作が2本目ぐらいだけど、脚本家としてのキャリアは長いすね。わたしが観た映画もいっぱいあって驚きだ。日本ロケで話題になった『WOLVARINE:SAMURAI』の脚本も、この人がクレジットされてるみたいすね。そうなんだ。へえ~。

 というわけで、結論。
 本作『A Walk Among the Tombstones』(邦題:『誘拐の掟』)は、わたしとしては結構気に入った。しかし、映画としてはまったく売れなかったようだし、評価もかなり微妙なラインなので、せっかく原作はシリーズモノなのだが、映画の続編は期待できないだろうと思う。本作が気に入ったわたしとしては、主人公マットをもっと知りたいと思うので、大変残念だ。原作読んでみるかな……。以上。

↓ シリーズの5作目っぽいな……よくわからんけど、映画は大変面白かった。そして肝心の映画は古くてBlu-rayは発売されていない模様……。
八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ローレンス ブロック
早川書房
1988-10