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 はーー……ヤバいす。前巻の時も書きましたが、今回も、結論をのっけから言ってしまうと、「高田先生!! 次の(9)巻はいつですか!! 今すぐ読みたいんすけど!!」であります。なんのことかって!? キミィ! わたしが毎度新刊を楽しみにしている『あきない世傳』の最新(8)巻のことに決まってるでしょうが!! いやー、マジ面白かったし、今すぐ続きが読みたいす!

 しっかし今回のお話はヤバかったすね……今回は、ズバリ主人公「幸」ちゃんの妹である「結」ちゃん主役回だったように思う。今までの流れはもうまとめないので、過去記事をご覧ください。
 この(8)巻冒頭の段階では、五鈴屋のビジネスの面では2つの大きな問題解決が急務となっている。
 1つは、ずっと先送りになっていた「女名前禁止」に対する回答だ。これは、大坂においては女性は商家の店主になることができない、というお上の定めたルールがあって、主人公幸ちゃんは9歳で五鈴屋に奉公に上がってから、4代目(クソ野郎・死亡)、5代目(冷酷野郎・失踪)、6代目(優しいけどだめんず野郎・死亡)の妻として五鈴屋を支えてきたわけだが、6代目の死亡によって五鈴屋は後継ぎがおらず、実際存亡の危機に陥っている。現状では猶予をもらっているところで、その猶予期間もいよいよ期限切れが迫っているわけだ。幸ちゃんとしては、この問題はとにかく何とかしないといけない。
 そしてもう1つは、新規商材の開発だ。前巻で、「江戸紫」カラーの「鈴の小紋」という商材開発に成功し、大ヒット!になるものの……江戸において「小紋」は武士が着るものあるいは女子向け、ということで、まだまだ普通に市中の一般男性が着られるものではない。鈴(や今巻で開発したコウモリ)の柄が可愛すぎるのだ。老若男女が普通に着てくれないと、五鈴屋のビジネスとしては脆弱だし、そもそも既に「小紋」をパクったライバル店もすでに出現しつつある。五鈴屋ならではの、オリジナル小紋がどうしても必要な状態である。
 こんな状況なので、幸ちゃんはじめ、五鈴屋江戸店のみんなはいろんな努力をするのだが……今回、そんな五鈴屋に二人の男がかかわってくる。
 まず一人は、大阪五鈴屋時代にあまりに冷酷なビジネスで信頼を損ねてしまい、失踪していた5代目だ。彼は、前巻だったかな(前々巻だったかも)、ふらりと江戸、浅草で目撃情報がもたらされていたのだが、今回とうとうその姿を幸ちゃんの前に現す。ただ、5代目は、確かにちょっと問題アリではあったけれど、実際、ビジネス面では極めて有能な男であり、幸ちゃんのこともマジで好きだったんだと思うし、要するに、悪党では決してない、とわたしは思っている。
 実は、五鈴屋のみんなは、5代目が現れて、ワイこそ正当な店主じゃい!と主張されたら困るな……と戦々恐々に思っていたんだけど、今回、その心配は明確に否定される。この5代目の動向は今後も要チェックだけど、わたしとしては、結構味方になてくれるんじゃないか、そして正々堂々と戦う最終ラスボスにもなり得るかも、と思います。楽しみですな。
 そしてもう一人が、今回の超問題キャラ、音羽屋だ。音羽屋は日本橋の両替商で、もう50近い(?)おっさんなのだが……なんと、27歳の結ちゃん(幸ちゃんの妹)に一目ぼれ?してしまう。しかしその様がですね……どう考えても単にヤリたいだけのスケベ野郎で、完全に性的な目で結ちゃんを見ていて、ズバリ、気持ち悪いんだな。さらに、どうやらこのゲス野郎は、五鈴屋のビジネスにも実は背後でいろいろ妨害工作をしているようで……まあ、とんでもないクソ野郎であることはもう確定です。
 そしてその様子を幸ちゃんは目撃していて、うわあ、コイツ最低!と思っているのだが、当の結ちゃんがですね……これまた途方もなくゆとりあふれた恋愛脳で、もちろん結ちゃん自身も音羽屋にはまったく気がないのに……余計なことばっかりしてしまって幸ちゃん激怒!という展開になってしまうのだ。そして、こういう時、ダメ人間にはありがちなことに、ダメな結ちゃんはどんどんダメな方向に行ってしまい……今巻ラストは、結ちゃんのとんでもない行動で幕が下りることになる。もう、なにやってんだよ結ちゃん!! つうか続きが今すぐ読みたい!! と思ったのはわたしだけではないだろう。恐らく、本作を読んだ読者全員が思ったはずだ。
 わたしとしては、結ちゃんの行動に対しては、姉たる幸ちゃん同様に、もう、何やってんの! という気持ちが大きい。今回の結ちゃんは、とにかくネガティブ方面に気持ちが行ってしまっているし、「デキる姉」と比べてなんて自分はダメなのかしら、的な気持ちが強いし、さらに言うと、恋愛脳で、大好きな賢輔くん(年下のデキるイケメン君)に対しても、余裕でフラれかけてしまっていて、もう精神的にヤバい状態だ。恐らく賢輔くんも結ちゃん大好きなんだろうけど、ド真面目過ぎて、いや、オレは今は仕事が大事で恋愛してる場合じゃないんすよ……的な対応で、結ちゃんはますますしょんぼりが募る。
 言ってみれば、そういう精神的な隙に音羽屋はお恐らく「悪意を持って」つけ込んでくるわけなんすけど……ま、音羽屋が最低なのは間違いないとしても、結ちゃんはもうチョイしっかりしてほしいし、一方で幸ちゃんも、仕事第一過ぎて、妹ケアがが若干甘かったんだろうな、と思った。結ちゃんだけをダメ人間と断罪するのは、やっぱりちょっと気の毒ではあると思う。結ちゃんは江戸に出て、帯締め教室だったり店頭だったりで、モデルとして活躍して、自分の居場所を自分できちんと見つけていた、と思っていたのに、なんつうか、ままならないですなあ、ホント。
 というわけで、本作は冒頭時点での2つの大問題である、跡目問題及び新規商材開発問題は、何とかクリアできそう、だが、新たに結ちゃん問題が勃発してしまい、それが新規商材開発に大きく影響してしまいそうで、わたしとしては、もう何度も書いて恐縮ですが、「今すぐ続きが読みたい!!」であります。
 最後に、本作で沸き上がった(けど解決の見込みの付いた)大問題である、お上からの「上納金」納付命令についてメモしておこう。どうやら、当時の江戸(作品時間としては18世紀末かな?)では、「運上金」という名の、今でいう法人所得税的なものがあるのだが、今回、幸ちゃんが代表取締役を務める五鈴屋江戸店は、その運上金とは別に「上納金」を納めよ、というお上からの命令を受けてしまう。しかもその額1500両! ときたもんだ。この問題に対して、幸ちゃんは、姿を現した5代目のちょっとしたアドバイスで知恵を絞り、見事クリアするんだけど、わたしがへええ、と思ったのは、この上納金納付命令の理由だ。五鈴屋さんは前巻で一躍江戸アパレル界に名を成したわけだけど、それがお上まで届いてしまい、儲かってるならもっと金をよこせ、と、それだけの理由で、かなり理不尽というか、もう言い分が完璧にヤクザなんすよね。。
 わたしは去年、久しぶりに会社の税務調査に立ち会ったのだが、税務署の言い分はまさにこれで、もう、ホントヤクザと変わらない言いがかりばっかりで、ホント腹が立ったすわ。しかも税務署は全く法的根拠は示さないし、担当が変われば言い分も変わるし、ありゃホントに合法ヤクザそのものだね。木っ端役人のくせにムカつくほど態度デカいし。
 まあ、五鈴屋さんに降りかかった上納金問題は、どうやらクソ野郎の音羽屋の陰謀っぽいし、実際何とかクリアできそうだけど、わたしとしてはもう、幸ちゃんには、そういう「お上というヤクザ」には負けないでほしいと心から応援したくなるっすな。わたしも税務署の木っ端役人どもには負けん!

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。

 わたしが毎回新刊を楽しみにしている、高田郁先生による『あきない世傳 金と銀』の半年ぶりの新刊(8)巻「瀑布篇」が発売となったので、さっそく読みました。今回も大変面白く、興味深く、とても満足であります。そしてラストは非常にヤバいところで終わっており、マジで今すぐ続きが読みたい! が結論であります。そのサブタイトル通り、まさしく「瀑布」のような怒涛の展開でありました。つうか、ハルキ文庫も電子書籍を出してくれないかなあ……。すっかり電子野郎になってしまったわたしとしては、電子で出してくれるととても助かるのだが……今回も、この人誰だっけ? とかアホな疑問も、電子ならその場で前の巻とか参照出来ていいんだけどな……。もし電子で出し始めたら、ちゃんと最初から買い直すので、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。以上。

↓ こういうの、眺めるだけでも楽しいすな。小紋の型職人は切り絵作家みたいすね。

 わたしがシリーズをずっと読んでいて、新刊が出るのを楽しみにしている小説に高田郁先生の『あきない世傳』というシリーズがある。これは、時代的には18世紀中ごろの大坂商人のお話を描いた作品なのだが、実にその「あきない」が、現代ビジネスに置き換えられるような、現代の会社員が読んでも示唆に溢れた(?)いわゆる「お仕事モノ」としての側面もあって、読んでいて大変面白いのであります。
 というわけで、その最新刊である第7巻が発売になったので、わたしもすぐ買った……のはいいとして、ちょっと他の小説をいくつか読んでいたので若干後回しになっていたのだが、いざ読みだすと、いつも通り2日で読み終わってしまった。実に読みやすく、そして内容的にも大変面白く、わたしとしては非常にお勧めしたいシリーズであると思っております。

 もう、これまでのシリーズの流れを詳しく解説しません。詳しくは、過去の記事をご覧いただくとして、本作第7巻がどんなお話だったかというと、まあ一言で言うと、いよいよ念願の江戸に店を開いた主人公・幸(さち)ちゃんが、江戸に来て1年がたつまでに過ごした奮闘の日々、が描かれています。
 まあ、本作に限らず、小説を読んでいるといろいろな、知らないことを知ることが出来て、「へええ~?」な体験こそ読書の醍醐味の一つだと思うけれど、例えば、「呉服」と「太物」ってわかりますか? これはわたしは前の巻だったかな、初めて知ったのですが(単にわたしが無知だっただけだけど)、「呉服=絹100%」「太物=綿製品」なわけで、大坂では明確に扱う店舗が違っているけど、江戸では両方扱ってもOK、と商慣行が違っていたりするわけです。おまけに、大坂では「女名前禁止」というお上の決めたルールがあって、女性は店主になれない=代表取締役の登記が出来ないんだな。ま、それ故、幸ちゃんはそのルールのない江戸に支店を出すことを決めたわけですが。
 で、幸ちゃん率いる「五鈴屋江戸支店」は、要するにアパレル小売店なのだが、当然幸ちゃんたちは大坂人故に、江戸のさまざまな生活カルチャーや、江戸人の考え方自体にも不慣れだし、いきなり店を出店しても商売がうまくいくわけないので、いろいろな工夫を凝らすわけです。その工夫が、現代ビジネスに通じるモノが多くて、大変面白いわけですよ。
 要するに、まず新店OPENにあたっては、いかにしてお店のことを告知していくか、という宣伝広告戦略が重要になるし、いざ知ってもらっても、「五鈴屋」で反物を買ってもらうためには、どうしても「五鈴屋オリジナル」商品が必要になるわけです。いわゆる「差別化戦略」ですな。
 ちょっと五鈴屋のビジネスモデルというかバリューチェーンをまとめると……
 ◆生産者:養蚕家(絹の生糸の生産)、綿農家(木綿糸生産)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(1):織職人(布に織る人、模様を入れて布に仕立てる人)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(2):染付職人(模様や柄を染め付ける人)
  →NOT YET。本作冒頭ではまだ不在
 ◆卸売事業者:製品を仕入れて小売りに卸す人
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み。一部は五鈴屋が自ら仕入れ
 ◆小売事業者=五鈴屋=お客さんに売る人
  →江戸店は開店した。が、どうお客を集めよう?
 ◆顧客=お客さん=武家から市井の人々まで様々
  →どういう嗜好を持った人? どんなものを求めている? か研究中。
 ◆加工者(3):仕立て屋さん(布を裁ち、縫製する人)
  →基本的に五鈴屋さんは反物を売っておしまいで、反物を買ったお客さんが、どこかの仕立て屋さんに頼むか、あるいは自分で「服」に加工するので、五鈴屋は現代的な意味でのアパレルショップではない。けど、頼まれれば五鈴屋さんは仕立て屋さんを紹介したり自ら縫製もします。ちなみに、そのため、最初から「服」になっている既製服屋さんとしての古着屋さんもいっぱいあるのです。
 てな感じに、18世紀半ばの時点で、既にこういう分業がキッチリなされているわけですが、五鈴屋の「あきない」のモットー=企業理念は明確で、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指しているわけで、つまり上記の関係者全員=ステークホルダーがHAPPY!であることを目指しているのです。
 どうですか。いいお話じゃあありませんか。
 で。今回の第7巻では、主にオリジナル商品開発がメインとなっています。もちろん、宣伝広告も頑張るんだけど、それはもう前巻までにやってきたことなので、説明は割愛します。お店を知らしめるために、神社仏閣の手水場に、五鈴屋のコーポレートロゴである「鈴」の絵柄付き手ぬぐいを寄進しまくったり、来てくれたお客さんのカスタマーロイヤリティ向上のために、無料の「帯の巻き方教室」を開催したりと引き続き頑張り、そこで得たお客さんとの縁が、今回鍵になるわけです。いい展開ですなあ! わたし、これも知らなかったけれど、大坂と江戸では、帯を巻く方向が逆なんすね。そんなことも、幸ちゃんたちとともに読者は「へええ~?」と学んでいくわけです。おもろいすなあ。
 そして今回メインとなるオリジナル商品開発のカギとなるのが、上記ビジネスモデル(バリューチェーン)の中で、唯一まだ縁のなかった「染付」でありました。
 これも大坂と江戸の違いなんだけど、大坂は商人の街であり、江戸は武士の町なわけですよ。で、大坂では普通で誰もが当たり前に着る「小紋」というものが、江戸では基本的に武士のためのもので、あまり町人の着るモノじゃないらしいんですな(※絶対NGではないみたい)。そしてその「小紋」の柄も、どうやら武家のオリジナル模様があって、それはその家中の人間以外は着てはならんというルールもあるらしい。
 だけど、江戸人は「粋」を愛する人種なので、遠目には無地かな? と思わせて、よーく見ると模様が「染められている」小紋はOKなのです。めんどくせえけど、そういうことらしい。なので、売れるのは無地や縞(ストライプ柄ですな)ばっかりだけど、実は「小紋」もいけるんじゃね? つうか、江戸人好みの小紋をつくったらヒット間違いなしじゃね? とひらめくわけです。
 そして、どんな柄にしよう? と考えた時、当然もう、全員が「鈴」の模様で異議ナシ、なわけですよ。だけど、それってどうやって作ればいいの? というのが今回のメインでありました。
 染付職人をどうしよう? つうかその前に、染付の「型」って、誰がどんな風にして作ってるんだろう? というのが段階を経て実を結んでいき、さらに、完成した「五鈴屋オリジナル小紋」を、どうやって世に知らしめよう? と考えた時、思わぬ縁が繋がってーーーという流れはとても美しく、もう読者たるわたしは、正直できすぎだよ、とか思いつつも、良かったねえ、ホント良かった、と完全に親戚のおじさん風にジーンと来てしまうわけで、もうさすがの高田先生の手腕には惜しみない称賛を送りたく存じます。ホント面白かったす!
 そして今回は、重要な未解決案件である「女名前禁止」に関する進展も少しあり、さらには妹の結ちゃんが満を持して江戸へやってきたり、さらには、失踪した5代目がついに姿を現し……といった、今後の引きになる事柄もチョイチョイ触れられていて、結論としては、高田先生! 次はいつですか!! というのが今回のわたしの感想であります。はーー面白かった。

 というわけで、結論。

 わたしが新刊が出るとすぐに買う、高田郁先生による小説シリーズ『あきない世傳 金と銀』の最新7巻が発売になったのでさっそく楽しませていただきました。結論としては今回もとても面白かったです。なんつうか、やっぱり人の「縁」というものは、大事にしないとイカンのでしょうなあ……一人では出来ないことばかりだもんね……そこに感謝をもって、日々暮らすのが美しいんでしょうな……わたしも真面目に生きたいと存じます。そして、5代目の動向が大変気になるっすねえ……! まず間違いなく、次の巻では五鈴屋の存在が江戸に知れ渡ることになり、5代目が「幸が江戸にいる!」ことに気が付くことになるような気がしますね。どこまでシリーズが続くか分からないけど、全10巻だとしたら5代目とのあきないバトルがクライマックスなんすかねえ……! 早く続きが読みたいっす! 以上。

↓ そういや映画になるらしいすね。キャストはNHK版からまたチェンジしたみたいですな。この特別巻が出てもう1年か……あ!映画の監督があの人じゃないか!マジかよ!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 数日前、このBlogのログを見ていたとき、わたしが新刊が出ると毎回せっせと感想を書いている『あきない世傳』シリーズの記事のPVがやけに上がっていることに気が付いた。そして電撃的に、これって、まさか……? と思い、すぐさま版元たる角川春樹事務所のWebサイトをチェックしてみると、まさしくその予感は当たっていることが判明して愕然としたのである。そう、2月に、新刊第(6)巻が発売になっていたのだ。

 うおお、まじかよ! 超抜かってた!! と思い、すぐさま本屋さんへ向かって確保し、帰りの電車から読みはじめ、翌朝、翌夕、そしてその次の朝、と、わたしの通勤電車2往復分で読み終わってしまった。わたしが電車に乗っているのは片道30分ほどなので、2時間ほどで読み終わったということだ。たぶんこれは、わたしがとりわけ早いわけではなく、おそらく誰でもそのぐらいで読めると思う。実にすらすらと読みやすいのが高田先生の作品の特徴だ。
 で。わたしは読み始めて、冒頭で、えっ!? と思った。そう、ズバリ言うと前巻のラストを完璧に忘れていたのである。そうでした。前巻は、非常にヤバいところで終わったのでありました。
 それを説明する前に、このシリーズのおさらいをざっとしておこう。
 本作は、現在の兵庫県西宮市あたりの村から、大坂は天満橋近くの呉服屋さん「五鈴屋」に下働きの下女として奉公に出た少女が、その持ち前の頭の良さと心の真っ直ぐさで成り上がってゆく物語で、実に現代ビジネスマンが読んでも面白いような、現代ビジネスに通じる様々な「あきない」ネタが大変痛快な物語なのであります。
 そして主人公・幸ちゃんは、まあとにかく凄い激動の人生を送っているわけですが、下女だったのに五鈴屋4代目と結婚し、「ご寮さん(=大坂商人の店主の奥方)」にクラスチェンジし、次に5代目、そして6代目とも結婚してようやく幸せになったかと思いきや……というところで、前巻(5)巻ラストで大変な悲劇に幸ちゃんは見舞われてしまったのでした。
 どうして結婚相手がころころ変わったかと言うと……
 ◆4代目:長男で放蕩野郎。店の金を使い込むクソ野郎。死亡
 ◆5代目:次男で商才はあるが人の気持ちを読まない残念系社長。取引先を激怒させ失踪。
 ◆6代目:三男。作家を夢見るだめんず野郎だけど人としては超イイ奴。
 という感じで、商才盛んな幸ちゃんが自らもう、女社長としてバリバリやればいいんだけど、それが出来ない理由があって、結婚せざるを得なかったわけです。それは、大坂には「女名前禁止」という謎ルールがあって、大坂においては「女は店主になれない」というもので、現代風に言うと男しか代表取締役の登記が出来ない、のです。だから、どうしても男の社長を立てる必要があるわけですな(一応その理由は、女に財産分与して資産隠しや税逃れをする奴がいたから禁止になったらしい)。
 時代背景としては、1731年だったかな、そのぐらいから始まって、最新刊である本書(6)巻では1751年ぐらいまで経過していて、幸ちゃんも少女から現在28歳まで成長している。これは、高田先生の『みをつくし料理帖』が最終巻の段階で1818年ぐらいだったはずだから、それよりも70年近く話で、ついでに言うと『出世花』の2巻目が1808年ぐらいの話だから、やっぱりそれより50年以上前ってことになる。ちなみに、『みをつくし』は1802年ぐらいから始まるので、主人公・澪ちゃんと『出世花』の主人公・正縁ちゃんは江戸の町ですれ違っててもおかしくないぐらいの時代設定だ。
 なんでこんなことを書いたかと言うとですね、そうなのです。ついに! 幸ちゃんが江戸に進出することになったのです!! この、江戸進出はもう既に前から野望として描かれてきたのですが、この、大坂の女名前禁止をどうしても打ち破ることが出来ないなら、江戸進出を急ごう!ってなことで、急がなくてはならない理由、それは前巻ラストでブッ倒れた6代目が逝ってしまったからなのです。
 というわけで、本作(6)巻は、いきなり6代目の初七日の模様から始まります。わたしは6代目がブッ倒れたことを完璧忘れたので、最初のページを読んで、えっ!? と思ったのでした。まあ、すぐ思い出したけど。
 で、今回の物語は、江戸店のオープンまでの様子が描かれるわけですが、今回は、現代ビジネス的な面白エピソードは1つだけかな。それは、江戸店オープン前の宣伝告知活動だ。
 幸ちゃんはバリバリ関西人で、もちろんお店の仲間たちも同じ関西人。当然、江戸の町ににも商慣習にも不案内で、だんだん理解していくことになるわけだが、「引き札(=現代で言うチラシ)」はやらず、彼女の取った方法とは――てのが今回一番面白かったすね。幸ちゃんは今までも、宣伝告知活動には色々な策をとって来て、それがいちいち現代風で面白かったけれど、今回の策も、大変良かったと思います。もちろん、その作戦は大成功で、オープン当日から江戸店にはお客さんがいっぱい来てくれて、ホント良かったね、と思いました。
 あと、今回から、幸ちゃんは本格的に「太物(ふともの=木綿製品)」も扱いを始めようとする。これは常識かも知れないけど、わたしは愚かなことに本作シリーズを読むまで知らなかったのだが、いわゆる「呉服」ってのは、「絹100%製品」のみを指す言葉なんすね。大坂の五鈴屋本店が加盟しているアパレル業界団体は、あくまで呉服屋組合であるため、木綿製品は扱うことが出来ないこともポイントで、江戸の組合にはそんな縛りはない、ってのも、江戸店出店の動機の一つもでもあるわけです。
 さらに言うと、幸ちゃんの出身地では、綿花の栽培が特産でもあって、木綿は絹よりも圧倒的に安いし、洗えるし軽いし、と使い勝手がいい、要するにコストパフォーマンスに優れているわけで、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指す幸ちゃんは、木綿に大変思い入れがあるわけですな。
 あ、あと、今回幸ちゃんが江戸店の、商品ディスプレイに工夫する話も面白かったすね。まあ、やっぱり、こうすりゃいいんじゃね!? とひらめく瞬間はとても気持ちいけれど、普通のサラリーマンにはそれを実行するにはいろんな邪魔が入るわけで、上司に恵まれないと、毎日毎日同じ作業を繰り返すことを仕事と勘違いすることになるわけだが、ま、お店を出すことの面白みの一つでしょうな、そういうひらめきの快感は。大変今回の(6)巻も楽しめました。

 というわけで、さっさと結論。
 大変抜かっていたことに、わたしがシリーズをずっと読んできた『あきない世傳』の新刊が、なんと1カ月以上前に発売になっていたことにハタと気が付き、慌てて買ってきて読んだわけですが、まあ、今回も大変面白かったと思う。これからは江戸を舞台に、またいろんなビジネスプランが展開されるんでしょうな。そしてわたしとしては、主人公幸ちゃんに幸あれと思うわけです。ところで、今後の展開としては、確実に妹の結ちゃんも江戸にやってくることになるだろうし、おそらくは、失踪した5代目と江戸で再会することになるんじゃないすかねえ……。そもそも江戸進出は5代目の夢でもあったわけだし。5代目が現れた時、幸ちゃんはどうするんすかねえ……今さら元サヤはないよ……ね……? どうなるんだろうなあ。そのあたりは、これからもシリーズを読み続けて、楽しみにしたいと思います。つうか、ハルキ文庫も電子で出してくんねーかなあ……。そうすりゃ100%買い逃すことないのに……。以上。

↓ 五鈴屋江戸店は、浅草の近くの「田原町」にオープンです。現代の今は仏具屋さんがいっぱい並ぶあの街っすね。銀座線で浅草の隣す。


 わたしが今、日本の小説で一番新刊を待ち望んでいる作品、それが高田郁先生による『あきない世傳』というシリーズである。そして、この度最新の(5)巻が発売になったので、やったー! とさっそく買い求め、一気に読み終わってしまった。というわけで、さっそくネタバレ満載で感想をつづってみたい。本当にネタバレまで書いてしまうと思うので、気になる方は読まない方がいいと思います。なお、以上は(4)巻の時の記事を丸々コピペしました。手抜きサーセン。というわけで、今回は(5)巻です。

 この『あきない世傳』という物語は、もうこれまでも散々書いた通り、現代ビジネスの視点から見ると大変興味深く、普通のサラリーマンが読んでもとても面白い作品だと思う。もう(5)巻なので、これまでのお話のあらすじは記さないが、前巻のラストでは、主人公の幸ちゃんが所属する大阪天満の呉服屋さん「五鈴屋」がずっとお世話になっていた老舗の桔梗屋さんが、とんでもないクソ野郎に買収されかかるという事態に陥り、ちょっと待ったー! そのM&A、わたしもビットに参加させてもらう! と幸ちゃんが名乗りを上げるところまでが描かれた。ビジネス的に言うと、いわゆる「ホワイトナイト」ってやつですな。詳しい話は、前巻(4)を読んだ時の記事をご覧ください。こちらです→http://ebat42195.blog.jp/archives/72127438.html
 で。今回の(5)巻はその続きであるので、当然ながらM&Aのその後が描かれる。が、これがまたきわめてスムーズかつ順調で、五鈴屋はとうとうこれまでのお店を本店、そして桔梗屋さんを2号店として事業拡大に成功するのだが、ここでのポイントは、桔梗屋さんの思いだ。
 まず、桔梗屋さんは前巻で「卒中風」、現代で言うところの脳卒中を発症してしまい、半身にまひが残る状態となってしまったわけだが、それはともかくとして、M&Aというものは、現代では非常に難しいというのが常識だろう。わたしも長年の経営企画としての経験から言うと、はっきり言って、当初目論んだ、いわゆる「シナジー効果」なんてものは、なかなか現れず、うまくいかない場合が多い。それは、結局のところ企業とは人であり、要するにM&Aは、買収する側とされる側の「ハートの問題」になってしまいがちだからだ。これは理屈ではないので、いったんこじれると実に厄介なことになる。通常、M&Aでは、まずは買収(=株式取得)があって、しばらくはそのまま、屋号も変わらず、単に子会社として並列するものだと思うし、本作でも、あくまで幸ちゃん=五鈴屋=買収した側は、桔梗屋さんはこれまで通り桔梗屋さんとして、あきないに励んでもらいたい、だたまあ同業なので、仕入れ先などの統合や効率化は進めていきましょうという常識的なオファーを出す。そのことで、桔梗屋さんの現場の従業員たちも、良かった、何も変わらないんだ、桔梗屋は桔梗屋でいいんだ、という安心感をもてるわけだ。しかし! 桔梗屋さん本人の想いが、わたしには非常にグッと来た! なんと、桔梗屋さんは、もう買収されたのだから、桔梗屋の名を捨てて、五鈴屋の新たな部門として一体化したい、という逆オファーを幸ちゃんに進言するのである。
 このことがどういう意味を持つか、現代的に言うと、要するに買収だけではなく、吸収合併を望むということである。つまり、桔梗屋という屋号を捨てる、ということだ。この決断は、現代ではなかなかできないことであろうと思う。これは、オーナーたる桔梗屋さん本人ではなく、雇われている従業員の心情からして、現代では非常に難しいのだ。というのも、現代的に言うと、従業員サイドから見ると、吸収合併にはメリットとデメリット、両方あるためだ。
 まず、デメリットから言うと、これは完全に、まさしくハートの問題、モチベーションの問題で、普通の場合、やっぱり誰しもが自分の会社に愛着や誇りがあるわけで、なかなかその社名を捨てることはできない。どうしても反発や、なんというか……従属意識が芽生えてしまう。おれたちは買われたんだ、おれたちの会社はなくなっちまうんだ、的な。これは、おそらく実際にそのような事態にならないと、実感できないかもしれないが、わたしはもう、そういう光景を何度も何度も観てきたので、この桔梗屋さんの決断には深く敬意を抱いた。現場の反発は全部自分が説得する、という態度である。これは非常に立派ですよ。一方で、現代においては従業員にも実はメリットがあって、単なる買収で子会社としてそのままだと、まさしく何も変わらない、のだが、これが吸収合併となると、すべての制度が買収した側に合わせることになるので、例えば、上場企業の羽振りのいい会社に吸収合併されれば、当然自分もその上場企業の一員となるので、人事制度が変わって給料が上がる可能性が出てくるし、ある程度の「上場会社の社員」として社会的ステータスが向上する可能性もある。なので、小賢しい奴は、口では吸収合併に反発しても、実は内心喜ぶ、なんてことも実に頻繁にある。まあ、本作における桔梗屋さんの従業員のみんなは、そんなことに喜ぶ人々ではなく、桔梗屋という屋号が消滅することを悲しむ人ばかりだが、そこを、桔梗屋さん本人がきっちり言い聞かせるのだ。そこにわたしはグッと来たのである。
 というわけで、今回の(5)巻は、この企業統合の話がメインになるのかな、と思ったのだが、まったくそんなことはなく、この辺りのお話は実にスムーズに進み、本題ではなかった。今回の(5)巻で一番のメインとなるビジネスプランは、もっと根本的なもので、かつ、実に現代的なものであったのである。それは、現代で言う新商品開発と、ブランド戦略である。
 そもそも、五鈴屋さんは呉服屋さんであり、それすなわち、現代で言えばアパレル業だ。もっと細かく言うと、小売店であり(一部卸もやってるんだっけ?)、一般消費者と一番違いところに位置している。そのアパレル業として、呉服を売っているわけだが、幸ちゃんは今回、「帯」に注目をする。1枚の呉服でも、「帯」を変えることで何通りもの着こなしが可能、なわけだが、周りの呉服屋さんは「帯」をそれほど推していないし、メイン商材としても扱っていない。これは、「帯」の販売に拡大の余地があるんじゃね?と気が付くのである。この辺りの幸ちゃんの思考は実に現代的で、「帯」も、太さがこの頃変わってきているし、結び方もいろいろある。これをお客さんに提案していこうじゃないの、というわけで、ある種のトータルコーディネートの提案であり、ファッションの流行を自ら作ろうという思考だ。そうすれば、お客さんも買ってうれしいし、五鈴屋も売上UPで嬉しいし、ということになるわけで、本作でよく出てくる「買うての幸い、売っての幸せ」という言葉は、高田先生の『みをつくし』で言うところの「三方よし」という思想に近いものだ。
 で、このアイディアはもちろん大成功し、やったぜ! になるものの……ここでまた、桔梗屋さんを買収しようとしていたクソ野郎、真澄屋がパクリ戦略で、同じように帯に力を入れ始め、何と五鈴屋の方がパクリじゃんか、と世間に言われてしい、五鈴屋及び旧桔梗屋の従業員一同が、ぐぬぬ!と悔しい思いをしてしまう展開となる。まあ、これも現代では良くあることですな。画期的なアイディアはすぐにパクられるのはもうどうしようもない。
 しかし、このピンチに幸ちゃんがひらめいたのが、「ブランド戦略」である。そもそも、前巻だったかでも登場していた通り、五鈴屋は、「鈴」の絵柄を自社のコーポレートアイデンティティとして、販促に使っていたのだが、とうとうその「鈴」の絵柄を商品にも使って、五鈴屋のブラント品として販売していくことをひらめくのだ。その販売にあたっても周到な準備を行い、以前、浄瑠璃で成功したように、今度は歌舞伎の舞台で、プロダクトプレイスメントを成功させ、ロゴが入っているので、今度は真似されることがなく、大ヒットとなるのである。そもそも、「ブランド」とは、牛の焼き印のことで、この焼き印の入った肉はうまいぜ、という目印なわけで、その目印があれば安心だぜと消費者に伝えるモノであるわけで、五鈴屋の「鈴」も、おお、あのおしゃれな帯は……鈴の柄が可愛らしいじゃないか! そうか、あの鈴は、五鈴屋さんの帯だよ! と目印になるわけです。大変お見事でした!
 とまあ、そんなわけで、本作は本当に現代ビジネスマンが読んでもとても面白い作品だと思う。わたしも大変楽しませていただきました。
 ただ、今回は、幸ちゃん自身に大変な不幸が立て続けに起こる。これはもうここには書きません。大変気の毒で痛ましいが、幸ちゃんはそれにも負けずに頑張り、「いつか江戸支店を出店する!」という野望に向け、本作ラストではその布石を打つところで、さらに最大の不幸?かも知れない不吉な報せが入るところで終わる。この終わり方はもう、続きが超気になりますな!
 あと、これは幸ちゃんに降りかかる不幸の副産物?として、どうしてもメモしておきたいのだが、その結果として、妹の結ちゃんが、五鈴屋さんに住まうことになる。彼女はまだあきないを分かっていない娘なわけだが、彼女の存在も、徐々に五鈴屋になじんで、何気にコーディネート見本のモデルとしても活躍したり、素朴な疑問で幸ちゃんにひらめきを与えたりと、存在感が増してきそうな気配ですな。結ちゃんもイイ男を見つけて、幸せになってほしいですよ、ホントに。おっさん読者としては、完全に見守る親戚の叔父さん風な想いを抱きましたとさ。

 というわけで、結論。
 わたしが新刊を待ち望む作品の一つである高田郁先生の『あきない世傳 金と銀』の最新(5)巻が発売になったので、さっそく買い求め、読んだところ、今回も実に興味深く、楽しませてもらったのでありました。現代ビジネスを戦うリーマンの皆さんにもぜひ読んでいただきたいですな。なんつうか、ビジネスの様相は250年前も今も、根本は変わらないと思いますね。でも、現代では買って良し・売れて良しの気持ちのいい関係は薄れてるんすかねえ。まあ、顧客第一はビジネスの基本であろうと思う。幸ちゃんが江戸に店を出して、「あきないの戦国武将として天下を取る」日を楽しみに、今後も読み続けたいと存じます。そして結ちゃんの天然ぶりは、今後も幸ちゃんの助けになってほしいですな。きっとまた、とんでもないピンチが起きるとは思うけれど、次の(6)巻が大変楽しみです。以上。

↓ M&Aのポイントは、そのスキームやテクニカルな面ではなく、「その後」の事業展開にあるのは間違いないと思う。なので、こういう本を読んで役立つのか、さっぱりわかりません。

 わたしが今、日本の小説で一番新刊を待ち望んでいる作品、それが高田郁先生による『あきない世傳』というシリーズである。そして、この度最新の(4)巻が発売になったので、やったー! とさっそく買い求め、一気に読み終わってしまった。というわけで、さっそくネタバレ満載で感想をつづってみたい。本当にネタバレまで書いてしまうと思うので、気になる方は読まない方がいいと思います。

 さてと。一応、発売日は昨日なのかな。わたしはおとといの帰りに本屋さんで売っているのを見かけて、おおっと!新刊キター!とさっそくレジに向かったのだが、おそらくは日本全国でわたし同様に喜んだ方々はきっと70,000人ぐらい存在しているのではなかろうか。何しろ売れている。高田先生の前シリーズ『みをつくし料理帖』はちょっと前にNHKドラマ化も果たしたばかりだし、その知名度も上がっていようことは想像に難くない。しかもそのドラマでの主演は、わたしが高田先生の作品を読むようお勧めしてくれた、当時わたしが大変お世話になっていた美人お姉さまが、映像化するならきっとあの女優がいいわね、と言っていた通りの黒木華ちゃんがヒロインを演じ、わたしもせっせと見ていたが、華ちゃん=澪ちゃんは極めて役柄にぴったりで、大変楽しませてもらったところである(ただしNHKドラマは、え、ここで終わるんだ、という変なところで最終回的な空気もなく結構バッサリ終わっちゃった。まあ、きっと続編が作られるんだろうと勝手に予想している)。

 で。この『あきない世傳』であるが、(1)~(3)巻までの詳しいことは、過去の記事を読んでもらうとして、ざっくり話をまとめると、ヒロインである幸(さち)ちゃんは、現在の西宮あたりの村に住む少女だったが、父を亡くし兄を亡くし、と、立て続けに一家の働き手を失ったため、母と妹を故郷に残し、大坂は天満橋の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公に出る。その時9歳。時代は1733年、かな。その後、幸ちゃんは持ち前の賢さから熱心に商売の勉強をし、皆に可愛がられるのだが、(2)巻で大変な事件が起こり、なんと、その五鈴屋の4代目となったバカ男(長男)の嫁になる。しかしその4代目がとんでもないクズ野郎で、幸ちゃんはどうなっちゃうのよ……とハラハラしていたらそのクズは死亡、そして(2)巻ラストで、その弟(次男)が5代目を襲名してもいいけど、幸ちゃんを嫁としてもらうぜ!宣言が起こる。この時点での幸ちゃんは17歳まで成長している。
 続く(3)巻では、5代目の次男は、冷酷で意地悪なやな奴、かと思いきや、商売には超有能で、売掛金の回収サイトの変更や在庫処分セールの実施など、様々なビジネス構造改革を断行し、いろいろな反発は食らうものの、きちんと成功はするのだが、その成功の要因として、なにかと幸ちゃんの提案する事業計画というか販促宣伝プランがうまくいったこともあって、夫として若干面白くない、と思っていたところに、先行投資として出資していた生糸の生産地の村へ貸し付けが、両替商の倒産でデフォルトとなってしまい(わかりやすく言うと、五鈴屋は生糸の生産地の村に、増産のための設備投資に必要な資金を両替商の発行する約束手形で貸し付けたが、その両替商が倒産したために、村に貸し付けた事実だけが残って、手形は紙くずになり、村は借金だけを背負うことに)、その結果ステークホルダーから、あんたのせいだ、とある意味逆ギレされてしまって5代目は大ピンチに陥ってしまう。この時点で幸ちゃんは21歳まで成長、もちろん、すっかり大変な別嬪さんである。
 で、今回の(4)巻は、その続きである。
 経営企画として長い経験があるわたしにとっては、今回の(4)巻も、ビジネスの観点から見て大変に興味深く、実に面白いという感想を得た。
 まず、メインストーリーをズバリ書いてしまうが、やらかしてしまった次男こと5代目は、この(4)巻冒頭で失踪してしまう。ただし、無責任に姿を消すのではなく、きちんと地元呉服屋協会に「隠居」届を提出し、妻たる幸ちゃんにも離縁状的なものを提出し、まあ、一応きちんと(?)辞任届を提出して筋は通すという次男のキャラらしい失踪の仕方である。しかし、これはわたしは知らなかったが、当時の大坂商人の常識として、女子は店主=代表取締役になれないらしいんだな。というわけで、五鈴屋は存亡の危機に陥るのだが、ここでも次男はちゃんと手を打っていて、弟である三男に、おまえが店を継いで6代目になるんだよバカヤロー! と一発ぶんなぐっていたのであった。
 しかしこの三男が、これまた問題のある野郎で、大変心の優しいイイ奴で、実際、幸ちゃんのことはその少女時代(自分も少年だった時代)から大好きだったのだが、これがまたとんでもなく夢追い人のだめんず野郎で、おれは作家になるんだ!と9年前に実家たる五鈴屋を出て行ったというか追い出された野郎だったわけです。イイ奴なんだけどね。で、散々説得されて、お前ももういい年なんだから、夢見てんじゃねえよ、という趣旨のことを元営業本部長(番頭さん)で現在は引退していた社外顧問的なやさしいおじさんにやんわり諭され、また2代目の女房たる祖母の健康状態も良くないこともあって、ようやく、よし、オレにはビジネスの才はないけれど、大好きな幸ちゃんと一緒になれるなら6代目を就任してもいい、そしてオレは完全にお飾りの、対外的には店主を演じるけれど、実質的には幸ちゃんを代表取締役として、人形のように幸ちゃんに操ってもらうよ! と、こう書くと果てしなく情けないダメ男だけれど、まあ、そういうわけで、なんと(4)巻冒頭で幸ちゃんは3人目の旦那と結婚することになるのであった。
 これは何というか……まあ、わたしとしては、きっと幸ちゃんは将来的にはやさしい三男と結ばれて、幸せになるんだろう、と想像していたので、驚愕はしなかったけれど、まさかこんな早いタイミングで!? というのは驚いた。幸ちゃん、3回目の結婚である。
 そして、まあ二人は仲良く、五鈴屋を大きく成長させていくわけだが、今回の(4)巻でのお話を現代ビジネス風にまとめると、以下の4つのビジネスプランが実行される。これが非常に面白い!
 1)販路の拡大
 これまで五鈴屋は、基本的に大坂内だけの、こちらから品物を持っていって買ってもらうという訪問販売と、お店に来られる常連客への販売が基本ビジネスだったが、それだと当然顧客も限られ、売上拡大にも限界があり、どうしても販路の拡大が必要なわけだ。要するに、こちらから行けない、お店にも来られない、お店を知らないような、遠く離れた人にも売りたい、ってことですな。これは、今で言えば、たとえばWeb通販のようなものと言っていいだろう。お取り寄せ、あるいは移動販売、的な感じかな。まあ、当時は当然Webなんぞあるわけもなく、幸ちゃんが採用した販路拡大作戦は、「行商人への卸売り」だ。つまり、主に東北地方を行脚している近江商人=行商人に、五鈴屋の取り扱う反物も一緒に持って行ってもらって、地方の人々に売ってきてもらう、という手である。競合と戦わない市場開拓、という意味ではブルーオーシャン戦略ですな。確かに、上物の反物は高価なので実際に購入してくれるお客さんは限られているかもしれないけれど、間違いなく日本全国で需要があり、行商人も結構あっさり取り扱いを決めてくれる。しかも委託販売でもなく、回収サイトの長い掛け売りでもなく、現金即金払いと破格の条件で買い取ってくれたのだから凄い。しかし行商人に関しても、わたしの常識? とは違って、天秤棒で担いで売るんじゃなくて、商品を前もって拠点となる宿に先に船便で送って、そこをベースに得意客を回るものなんだそうだ。へえ~~である。まあ、正直出来すぎな展開だが、結果的にこの策は当たり、行商人に卸した商品もきっちり売り切れ、追加発注までもらって五鈴屋は大儲けであった。おもしろいすねえ!
 2)フランチャイズ展開による在庫処分
 行商人がうまくいった幸ちゃんの元に、かつて五鈴屋で頑張っていた、けど、(3)巻だったかな、5代目と衝突して(いや、(2)巻で4代目のクソ野郎と衝突したんだっけ?)、五鈴屋を退職していた二人の手代が、再就職先が倒産して困っているという話が伝わる。彼らを再雇用するというのもアリだが、それよりも、彼らが独立して商売ができるような手はないかしら、と思った幸ちゃんがひらめいたのは、五鈴屋で在庫となってしまった反物を彼らに預け、行商してもらえばいいんじゃね? というアイディアだった。その際、彼らには五鈴屋のロゴ入り風呂敷に荷物を包んでもらって、運んでもらえばブランド戦略にもなるし! みたいな展開である。ここでは、売った分だけでいい、という「委託販売」の方法にを採っている。そうすれば彼らも元手はかからないし、というわけで、これは現代的に言うと、わたしには「フランチャイズ展開」に近いだろうな、と思えた。いわばロイヤリティを取るけど、商品仕入れはこちらでやるし、ブランドロゴも用意し、あとはあなたたちの努力次第、みたいな感じである。ちなみにこの時、大きな助けとなったのが、(1)巻で4代目のクソ野郎に最初に嫁いで後に離婚した菊栄さんで、彼女は現在実家に戻ってお店を弟(兄だっけ?)とやっているのだが、お鉄漿で大ヒットを飛ばし、人気店として頑張っている。そして、そのお鉄漿の生産地には、もうかっているけど田舎なので金を使う道がなくて、きっと五鈴屋の反物を求めている人がいっぱいいるわよ、と紹介状を書いてくれて、それがあって元手代たちは最初の在庫を見事売り切り、みんながハッピー、Win-Win-Winぐらいの大成功となる。まあ、これも正直出来すぎ、ではあるけれど、いいの! 読んでいて楽しいから!
 3)プロダクトプレイスメント
 そして3つ目が、これはビジネス改革というより宣伝プランなのだが、なんと幸ちゃんは、現代で言うところの「プロダクトプレイスメント」までひらめき、実行し、大成功してしまうのである。えーと、まず「プロダクトプレイスメント」ってのは何か説明すると、ごく簡単に言うと、ドラマや映画などで、主人公が何気なく使う品、を提供して、劇中で使ってもらい、さりげなく広告する手法だ。まあ、普通はスポンサーだとかの商品が不自然に置いてあるとか、やけにロゴがアップで写るとか、そういう形で行われるので、下手にやると下品極まりないけれど、幸ちゃんの実行したやり方は実に面白かった。現在の夫は、元作家志望のだめんず野郎だけあって、浄瑠璃の世界にも知り合いがいるわけですよ。その、浄瑠璃の人形に、五鈴屋の「桑の実色」の反物を無償提供するんだな。もちろん、一切、五鈴屋の宣伝をしてくれとかお願いせず、ただ、無料提供するだけである。そして、幸ちゃんが、同じ反物から作った着物を着て、その浄瑠璃を観に行くわけですよ。ここでポイントなのは、そもそも幸ちゃんが超美人で目立つ、ってことですな。お客さんは、おお、あの人形の着物はきれいな色でいいねえ! と思う→ふとみると、おっと!なんだあの別嬪さんは!人形と同じ着物着てるぞ!?まるで人形のような美しさじゃないか!!とざわつく→幸ちゃんは一切しゃべらず、にっこりするだけで去る→これを10日連続で行い、現代的に言うと、完全にBuzzるわけですな。結果、五鈴屋さんには「あの桑の実色の反物をくださいな!」とお客さん殺到。しかも周到なことに、幸ちゃんはあらかじめ「桑の実色」の反物を買い集めておいて、在庫もしっかり確保してるわけですよ。えーと、しつこいですが、やっぱり出来すぎ、ではあると思う。けど、痛快ですなあ! わたしは大変楽しめました。
 4)M&Aによる事業規模の拡大
 そして今回、最大のポイントがラストに待っていました。いままで、かなり五鈴屋の味方になってくれていた同業の桔梗屋さんが、後継ぎもいないし、もう歳だし、ということで、お店を売りに出すことになる。その時、よし、じゃあわたしが桔梗屋さんを買い取りましょう、ちゃんと従業員は継続雇用するし、お店の名前も桔梗屋さんのままでいいですよ、といいことづくめのように見えたが……まあ、実は全然いい話じゃなく、買い手はクソ野郎だった、ということで、桔梗屋さんは激怒&手付をもらっていたために大ピンチに陥る。そこで幸ちゃんが下した決断はーーー! というのが最後のお話で、これは実際に今までさんざんM&Aをやってきたわたしには、超何度も見かけたお話で、とても面白かった。わたしの経験では、M&Aはたいてい失敗しますよ。これは経験上、わたしは断言してもいいと思っている。お互いがお互いを尊敬し思いやるような、心の美しさがM&A成功のカギで、結局のところ、人、がすべてなのだが、最初に言っていたことを反故にするのなんて、もう何度も目にしてきたし、上手くいったのはほんの一握り、なのが現実だ。買収前後のゴタゴタは本当につらいことなのだが、幸ちゃんの決断は実に胸のすくもので、今回はここで終わりか! というエンディングだったので、次の(5)巻が今からもう楽しみでたまらないのであります。次はまた、年明けあたりだろうな……とてもとても、楽しみです!

 というわけで、もう長すぎなので、ここで結論。
 高田郁先生による最新刊『あきない世傳 金と銀(4)貫流編』が発売になったので、すぐさま買い、すぐさま読んだわたしだが、今回も非常に面白かった。高田先生の作品は、おそらく主に女性読者に人気なのだと思うけれど、この『あきない世傳』シリーズは、世のビジネスマンが読んでも大変面白い作品だとわたしは確信している。とりわけ今回のビジネスプランは実に面白かった。そしてとうとうM&Aまでがテーマとなり、これは全国の経営企画室の人々にぜひ読んでもらいたいと思う。そして、自らが手掛ける案件を想い、真面目に、誠実に、まっとうに、嘘をつくことなく、職務を全うしてもらいたいな、と思った。現代ビジネスの世界は、ほとんど契約に縛られているので「情」の出る幕は実はほとんどないのが現実だけど、やっぱり、「情」のない奴との仕事はつまらんというか……そういうやつとは付き合いたくないですな。幸ちゃん……あなた、生まれるのが250年早かったかもね……部下に欲しかったよ、君のような女子が……以上。

↓ お、DVDは発売されてますね。華ちゃん=澪ちゃんはいいすねえ! 華ちゃんは大阪人だから、澪ちゃんにぴったりでおますなあ! 女子のしょんぼりフェイス愛好家のわたしには、華ちゃんの「下がり眉」は最高でした。
みをつくし料理帖 DVD-BOX
黒木華
ポニーキャニオン
2017-11-15

 去年の3月頃、わたしはその時大変お世話になっていた美人のお姉さまに教えてもらった小説、高田郁先生の『みをつくし料理帖』というシリーズをせっせと読んでいて、これがまたとても面白く、最後まで楽しませてもらったわけだが、『みをつくし』は全10巻で完結していて、一気に全巻を読破してしまったわたしとしては、主人公の澪ちゃんにもう会えないのか……と一抹の淋しさを感じていたのであります。しかし、既に高田先生による『あきない世傳』という新シリーズの刊行が始まっていて、じゃあそっちも読んでみよう、というわけで、夏ごろにその新シリーズの2巻が出るころのタイミングで1巻・2巻を読んでみたところ、こちらもやはり面白く、これはしばらくこのシリーズを楽しんでいけそうだ、という確かな手ごたえを感じたわけである。そして先日、『あきない世傳』の3巻目が発売になったので、待ってたぜ!と早速買い求め、読み出したところ、2日で読み終わってしまった。今巻でも、またもや、なかなかのピンチに陥る主人公「幸(さち)」ちゃん。果たしてこの女子に幸せはやって来るのだろうかと大変心配だが、結論から言うと今巻もとても面白かった。

 ハルキ文庫は、どうも電子書籍には興味がないようで、まだ紙の本しか買えない。版元である角川春樹事務所の作品で電子書籍化されているのは、どうやらごくわずかなようだ。たしか、社長たる角川春樹氏は、どっかで本屋さんの味方です的なことをしゃべっていたと思うが、まあ、電子で出ないなら出ないでそれでも構わない。いっそ、電子では出さない、という方針を明確にしてくれた方が、電子版が出るまで待つか……とイラつくこともないので、わたしとしてはその判断はアリ、だと思う。
 しかし、紙の本の場合は、発売日が非常にあいまいで、これは流通上やむを得ないというか業界的な慣習なので仕方ないのだが、版元のWebサイトでの発売日の告知は昨日だったと思うが、おとといには書店店頭に並んでいて、わたしもおととい買い、昨日読み終わってしまった。ま、そんなことはどうでもいいけど。
 さて。まずはおさらいと行こうか。本作『あきない世傳』シリーズは、舞台を大坂のとある呉服屋さんに据え、そこへ女衆として働きに出た当時9歳の少女「幸(さち)」ちゃんが、その賢い頭脳を駆使して、成り上がるサクセスストーリーである(たぶん)。現在はまだ序章的な始まったばかりなので、全然サクセスしてませんが。時代と時間軸をまとめると、こんな感じ。
 【1巻】:冒頭は1731年。幸は7歳。武庫川のほとりの今でいう西宮あたりの農村在住。学者だった父や、優しく賢く大好きだった兄を亡くし、大坂の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公にあがることになる。その時9歳(1733年夏)。1巻ラストでは13歳まで成長。五鈴屋の三兄弟が非常に対称的で、今気が付いたけれど、そういえばカラマーゾフの兄弟の三兄弟に、キャラ的に結構似ているような気がするな。長男は荒くれ者で色里通いのクソ野郎だし、次男は冷徹な商売のことしか考えない野郎、そして三男は心優しい、的な。それぞれのキャラ紹介は、1巻を読んだときの記事を参照してください。
 【2巻】:長男のクソ野郎が、とてもいい人だったお嫁さんと離縁し、幸ちゃんを嫁に迎えることになり、幸ちゃんは女衆から一気に「ご寮さん」(大坂商人の旦那の奥方)にクラスチェンジ。ただし長男がとことんクソ野郎でえらい目に遭う。が、ラストで長男死亡、そして次男が、じゃあ幸ちゃんを嫁にもらっていいなら、後を継いでもいいぜ、と衝撃の展開に。このラストの時点で幸ちゃんは17歳まで成長。長男のクソ野郎の唯一褒められる点は、幸ちゃんを力づくでモノにしようとはしなかった点で、まあ、幸ちゃんもまだ子供だったので助かった、という展開。
 で、今回の【3巻】ですが、今回もまたかなり大変な展開が待っていました。時間軸的には、主人公幸ちゃんは、ラストでは21歳かな? だいぶ成長しました。そしてすっかり別嬪さんにおなりで、大変よろしいかと存じます。
 そして今回、商売部分のポイントは、現代ビジネス視点からも非常に面白く、長男のクソ野郎が毀損してしまった五鈴屋の信用をどう回復するか、そして次男のビジネス改革を店員たちや顧客にどう受け入れてもらうか、という点にあった。
 次男のビジネス改革は、主に3つのポイントにまとめることができる。
 ◆売掛金の回収サイトの変更
 これは、当時は年末一括払いというのが当たり前(?)だったのを、年5回の売掛回収とするという方針で、さらに、店員たちに毎月の販売ノルマを課すというおまけ付きであり、当然みんな、え―――っ!? と困ることになる。現代ビジネス感覚から言えば、回収サイトが早まればもちろんキャッシュフローも良くなり、経営にとってはいい話だけれど、長年の付き合いのある顧客からすれば、ちょっと待ってよ、と反発を喰らうのは当然だろう。しかし、次男は、「ガタガタいう顧客は切っていい」と強気で一歩も譲らない。まあ、わたしとしては、この改革は実際アリ、だとは思う。従来は年1回の回収ということで、ちゃんと利息も取ってたそうで、その利息分、安く提供できるじゃん、というのが次男の理論らしいが、それはアリとしても、社長たる自分は何もせず、従業員に押し付けるのはちょっとどうかな、と言う気もしなくもない。が、とにかくこの改革は成功する。
 ◆宣伝広告をするのだ!
 この、売掛回収期間の変更を周知させるにはどうしたらいいか。どうやら当時も、現代で言うチラシ的なものはあったそうだ。しかし、幸ちゃんのアイディアで、貸本の草紙本の空きスペースに広告を出すことを思いつく。そしてそれはまんまと成功。また、かつて2代目五鈴屋時代に、傘に店名を入れたものをレンタルしていたことがあった、という話を聞いた幸ちゃんは、そ、それだ――!! と喰いつき、五鈴屋オリジナル傘を販促のために配布するアイディアをひらめく。そして次男もその策を採用し、瞬く間に評判になる。この宣伝広告、あるいは販促施策は非常に現代的で読んでいて面白かった。ま、雑誌広告みたいものだし、販促アイテムの配布も、まさしく現代でもやってることですわな。ここは大変面白かった。
 ◆仕入先の変更
 従来、五鈴屋は、京の問屋から仕入れた反物を販売する小売店なわけだが、それではどうしても、五鈴屋オリジナルの商品がなく、競合店との差別化ができないわけです。どこかいい織物を織っている産地はないものかと次男は悩んでいたのだが、幸ちゃんのひらめきで、有名な生糸の産地に、糸だけじゃなくて織物も生産してもらえばいいじゃね?ということに気づき、生糸の産地へ交渉に向かう次男。ついでに設備投資の資金を貸し付けて、独占契約を結べば、小売りだけではなく卸もできるじゃん、とイイこと尽くしのように見えたが……ラストに大問題が発生してしまう。
 この大問題は、次男の性格に由来するもので、読んでいる読者から見れば、まあ、そうなるわな、と非常に残念なお知らせだ。こと、ここに至るまでの間に、幸ちゃんと次男の間の関係性が丁寧に語られていて、大変分かりやすい物語だと思った。
 次男は、とにかく商売優先で、あきないに情けは不要、というポリシーを貫いている。幸ちゃんとしては、そういう次男の態度にはいちいちイラッとしてしまうわけだけれど、あきないに対する情熱は本物だと思ったから、嫁になることも承諾したわけで、そういう次男のポリシーが産む軋轢(対店員、対顧客、対仕入れ先、対同業者組合、とステークホルダーをことごとく怒らせる困った社長)を、少しでも解消してあげようと思っていたわけです。しかし、宣伝広告や仕入れ先など、ことごとく幸ちゃんのアイディアが生きてしまって、社長としては面白くないわけですよ。つまらん男のプライドですな。その果ての暴走が、ラストの大問題を引き起こしてしまうわけで、こういった点も、現代ビジネスマンが読んでも非常に面白いと思う。
 わたしも営業経験があるし、経営の根幹にも携わってきたので、今回の話は大変興味深かった。まあ、次男は残念ながら社長の器にあらず、でしょうな。有能なプレイヤーが有能なマネージャーになれるかという問題は、現代でも難しいわけで、有能な人間は自分で何でもできてしまうから、人の使い方が下手、ってのは非常に良くあるパターンであろう。わたしは、商売、というより、ビジネス全体に対して常に思っている鉄則がある。それは、目上であれ目下であれ(買う側であれ売る側であれ)、「相手を怒らせたら負け」という鉄則だ。常に、相手を笑わせ、気持ちよくさせるのが勝利の鍵だとわたしは信じているので、心の中では「ちくしょうこのクソ野郎お前との取引はこれが最後だ死ねバカ」と思っていても、満面の笑顔で商談できるし、何かお願い事がある時は、全身で「お願いしますアナタが頼りなんです」的オーラを醸し出して、何気にこちらに有利な条件で相手を説得することも得意技だ。勿論、感謝も全身で伝えるし、仕事に関係ないようなどうでもいいアホ話だけしかしないで帰ることもある。極論すればそれらのわたしのテクは、まさしく情に訴えかける方向性であり、相手を怒らせることは、一番やってはいけないことだと思っている。何しろそこですべて終わってしまうし、相手の怒りを鎮める手間も時間ももったいない。
 現代社会のビジネスは、ほぼ契約に縛られているので、実際のところあまり情に訴える必要はなく、クールに淡々とこなせる部分も多いかもしれないが、次男の態度では、いずれ破たんが起きるんだろうな、というのは読みながらずっと思っていたことなので、ラストの大問題発生も、残念ながら自業自得としか言いようがない。
 今回、その大問題発生で物語は終了したのだが、はたして今後、どう続くのだろうか?
 わたしは、実は最初から、きっと幸ちゃんは心優しい三男と結ばれるんでしょうな、と思っているので、長男死亡、そして次男がこのまま立ち直れなかったら、いよいよ三男の出番か? と短絡的に考えてしまうが、次男は次男で、5年以内に江戸進出を果たす!など、経営者としてのビジョンはしっかりしているので、ここで退場させてしまうのは実にもったいないような気がする。しかし一方で、幸ちゃんは、商売における戦国武将になる!的な野望があるので、実際のところ次男とは恐らく今後も折り合うことはないような気もする。ということはあれか、幸ちゃんは江戸支店長に抜擢、単身江戸に向かう、そして三男も作家として江戸でデビュー、とかいう展開はアリかもなあ。

 というわけで、結論。
 高田郁先生による『あきない世傳 金と銀(3)奔流篇』を読み終わったわけだが、今回は非常にビジネス面でも興味深く、また各キャラクター達の動向も大変面白かった。つーかですね、公式発売日の翌日なのに、大変恐縮なのですが……高田先生! 次の4巻はいつですか!!! 超楽しみに待ってます!!! あ、あと、『みをつくし料理帖』がNHKドラマになるそうで、しかも主人公の「澪」ちゃんを演じるのが黒木華ちゃんであることが発表されました!! わたしに『みをつくし』を進めてくれた美人お姉さまが言った通りのキャスティングで驚きです。さすがHさん、お元気にしてますか!? たまにはご連絡くださいませ! 以上。

↓ わたしの愛する宝塚歌劇で舞台化された、高田先生のこの作品、そろそろ読んでおくかな……。
※2017/4/12追記:やっと読みました。大変面白かったです。記事はこちらへ

 今、わたしはほぼ毎日せっせと『みをつくし料理帖』を読んでいて、全10巻のうち、現在9巻が終わりそうで、あとチョイで全部読み終わるところまで来ている。舞台は、このBlogで1巻2巻を紹介した時にも書いたが、1802年1812年から6年間ほどのお話で、要するに江戸後期、第11代将軍・徳川家斉の時代である。元号で言うと享和から文化から文政のころであり、時代劇で言えば田沼意次が失脚したのちの松平定信による寛政の改革の緊縮財政や風紀取締り、思想統制といった抑圧から開放され、江戸市民がやれやれ、と一息ついて元気を取り戻しているような、そんな時代であろう。
 この、19世紀初頭というのは、日本の文学や美術といった芸術史上「化政期」と呼ばれる 重要な頃合いで、今現在我々が知っている有名人が、まさに活躍していた時期である。ちょっと、1802年において、誰が何歳だったか、ちょっと調べてみた。面白いから芸術家以外の有名人も載せてみよう。
<※2016/04/25追記修正:間違えた!!! 澪ちゃんが淀川の氾濫で両親を亡くすのが1802年で、物語はその10年後だ!!! なので、澪ちゃんが江戸に来たのは1812年のようで、以下の有名人の年齢は10歳プラスしてください。どうも馬琴(=清右衛門先生)が若すぎると思った……なので、澪ちゃんは1794年生まれっすね>
 ■葛飾北斎:42歳(1760年生→1849年没)浮世絵師
 ■喜多川歌麿:49歳(1753年生→1806年没)浮世絵師
 ■歌川広重:  5歳(1797年生→1858年没)浮世絵師
 ■歌川豊国:33歳(1769年生→1825年没)浮世絵師
 ■歌川国貞:16歳(1786年生→1865年没)浮世絵師
 ■歌川国芳:  5歳(1797年生→1861年没)浮世絵師
 ■上田秋成:68歳(1734年生→1809年没)読本作家・俳人・歌人
 ■山東京伝:41歳(1761年生→1816年没)浮世絵師&戯作者(作家)
 ■十返舎一九:37歳(1765年生→1831年没)戯作者(作家)
 ■曲亭馬琴:35歳(1767年生→1848年没)戯作者(作家)
 ■為永春水:12歳(1790年生→1844年没)戯作者(作家)
 ■小林一茶:39歳(1763年生→1828年没)俳人
 ■渡辺崋山:  9歳(1793年生→1841年没)画家(文人画)
 ■酒井抱一:41歳(1761年生→1829年没)画家(琳派)
 ■杉田玄白:69歳(1733年生→1817年没)医者 
 ■前野良沢:79歳(1723年生→1803年没)医者
 ■桂川甫周:51歳(1751年生→1809年没)医者
 ■平田篤胤:26歳(1776年生→1843年没)医者・国学者
※この頃はもう亡くなっていたけど、時代的に近い有名人
 ■東洲斎写楽(1820年没らしいが、1794年~1795年の10カ月しか活動してない)
 ■平賀源内(1728年生→1780年没)何でも屋の天才
 ■中川淳庵(1739年生→1786年没)医者・玄白の後輩
 ■本居宣長(1730年生→1801年没)国学者
 ■伊藤若冲(1716年生→1800年没)画家
 ■円山応挙(1733年生→1795年没)画家

 ああ、いかん。面白くなってきて収拾つかなくなって来たので、この辺でやめとこう。
 もう、ある意味GOLDEN AGEの凄いメンバーだと思う。
 で、この中で言うと、『みをつくし料理帖』に出てくる戯作者の清右衛門先生は、明らかに馬琴のことであろうと思うわけで(りう婆ちゃんが語る清右衛門先生の作品内容は明らかに『南総里見八犬伝』)、その友達の絵師、辰政先生は、どうも北斎っぽい(同じく、初登場時にりう婆ちゃんが興奮して説明した内容は馬琴作・北斎画の『椿説弓張月』のことだろう)。そして医者の源斉先生も、まさに上記の偉人たちの活躍期ということで、蘭学が発達して近代医学が芽生え始めていたことが分かると思う。桂川甫周先生は、『居眠り磐音』シリーズでもお馴染みですな。時代的に、『磐音』の物語のちょっと後で、澪ちゃんは坂崎空也くんの5~7歳年下になるのではないかと思う。<※2016/04/25追記:そうか、10年ずれると言うことは、ラスト近くで亡くなったという源済先生の恩師って、杉田玄白のことなんだな、きっと>
 こういう時代背景なので、わたしは近頃この19世紀初頭という時代に大変興味があるわけだが、今日、わたしが朝イチに一人で観に行ったのが、渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞』という浮世絵の展覧会である。これが非常に痛快というか、実に楽しく面白い作品ぞろいで、また、まさしく『みをつくし料理帖』とほぼ同時代で当時の風俗や人々の姿を観ることができて、極めて興味深い展覧会であったのである。
kuniyosikunisada
 ↑チラシです。 ↓お、プロモーション動画もあったので貼っとくか。

 上記の動画でも分かる通り、そして、『俺たちの国芳わたしの国貞』というタイトルからも分かると思うが、この展覧会は、歌川国芳と歌川国貞の浮世絵を、当時のPOPカルチャーとして捉え、そこに現代性を観ることをコンセプトとして企画されている。非常に面白い取り組みだが、正直、シャレオツ感を盛りすぎていて(髑髏彫物伊達男=スカル&タトゥー・クールガイと読ませたりとかw)、性格のねじ曲がっているわたしとしては、若干鼻につくというか、敬遠したくなるのだが、企画意図は非常に興味深いと思う。実際、この企画通り、明らかに浮世絵は現在で言うところの小説挿絵だし、ズバリ言ってしまえば、ライトノベルのイラストそのものだ。また、美人画や役者絵は、もう現代のアイドルグラビアそのものであろう。
 そういう視点は、実際以前からもあったとは思うが、ここまでPOPカルチャーとして明確に振り切った企画展示は初めてのような気がする。これが、単に「歌川国芳・歌川国貞展」では、来場者はおっさんおばちゃんばかりになってしまうだろうが、実際のBunkamura展示会場内は非常に若者たちも多く来場していて、この企画が実に成功していることが良く分かる風景となっていた。何となく悔しい気分がしてならないが、これはもう、お見事、である。むしろ、とことんPOP色に染めているので、定番のお客さんであるおっさんおばちゃんに敬遠されてしまうのでは? と要らぬ心配もしたのだが、全然そんなこともなく、老いも若きも熱心に展示を観て、そして結構うるさく喋りまくっているような、ちょっとあまり例のない展示会だったように思う。うるさい、とは言いすぎか、みんな気を遣って超小声なんだけど、とにかくそのぶつぶついう声は明らかに普通の美術展よりも大きく聞こえてました。でも、まあ、去年の『春画展』の時も書いたけれど、観て、一緒に行った人としゃべりたくなる気持ちは十分わかる。おそらくは、春画も含めて浮世絵というものには、明確にストーリー、物語が存在しているのだ。だから、観て、そういった物語に触れると、どうしても人と語り合いたくなってしまうのではないかと思う。ま、あっしはいつも通り一人なんで、しゃべる相手はいねえってこってす。はい。やれやれ。
 
 で。今回、わたしがハッとした作品を二つだけ紹介しよう。共に国貞の作品だ。
KUNISADA_OUGIYA
 まずは↑これ。詳しくは、Museam of Fine Art BOSTONのWebサイトにあるのでそっちに任せます。なんと、藍色の単色刷りと見せて、唇だけ赤を使っているのがなんともイイ!!! 藍の濃淡も非常にBeautiful。これはシリーズもので、5人の大夫を描いたものの中の1枚です。実物はすごい綺麗です。そしてもう一枚がこちら↓
KUNISADA_OUGIYA02
 こちらの作品のBOSTONのWebサイトはこちら。これは、上の大夫をカラーで描いたもので、3枚組の中の1枚。両方とも、「江戸町壱丁目(=吉原の一等地)」にあった、「扇屋」という楼閣のTOP大夫「花扇」さんを描いたものです。なんでわたしがこの絵に深く感じるものがあったか、知りたい人は『みをつくし料理帖』を全巻読んで下さい。そして、読んだ人ならわかりますよね。これは、まちがいなく、作中に出てくる「翁屋」のことですよ。どちらも1830年頃に描かれた作品だそうで、186年前のこういった作品を観られるって、やはりわたしはとても感動してしまう。実に素晴らしい。
 国貞が1786年生まれだから、当時44歳。そしてそのころ、『みをつくし料理帖』の主人公、澪ちゃんは46歳36歳だね。あと少しで読み終わるけれど、澪ちゃんが幸せになることを祈ってやみません。そんなことを思いながら、今回の『俺たちの国芳 わたしの国貞』をわたしは堪能させてもらった。大変、楽しくて興味深い美術展でありました。ちなみに、Museam of Fine Art BOSTONのWebサイトでは、たぶんほとんどのコレクションを検索で探せて、今回日本に来ていない作品もいっぱい観ることができた。こういうサービスは、日本でももっともっと充実してほしいですな。
 最後に、きっと検索でこのBLOGにたどり着いた人が一番知りたがることを書いておこう。ズバリ、土日は混んでます。なので、朝イチに行かないとダメです。昼に行っても、人の頭しか見えないと思います。浮世絵って、とにかく線がとてもとても細かくて、サイズ的にも画自体大きくないので、朝イチに行かないと魅力の半分も味わえないと思いますよ。わたしは当然、いつも通り朝イチ&前売券購入済みで楽々入場して存分に鑑賞できました。あと、図録は2500円と、まあ標準的なお値段でしたが、かなり論文や読む部分が多くて、少なくともわたしは満足です。装丁も、やけに手触りがいいのが気に入りました。

 というわけで、結論。
 何でもそうだと思うけれど、やはり、ある程度、何事も準備して損はないと思う。突然行って何の知識もなくぼんやり見るのも、別にそれはそれでアリだけど、背景をある程度知ってからの方が、その面白さや感動はもっともっと深く、豊かになると思いますよ。『俺たちの国芳 わたしの国貞』展は、ちょうど最近私が興味のある時代と一致していて、大変楽しゅうございました。以上。

↓ あとは10巻だけ。澪ちゃん……幸せになっておくれよ……。
天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)
高田 郁
角川春樹事務所
2014-08-09

 

 昨日は4月1日。新年度の始まりである。
 わたしは昨日の朝、市ヶ谷と靖国神社の真ん中あたりにあるとある役所へ会社の手続きの用事があったので、8時半開庁に間に合うように、朝っぱらから 、靖国神社と武道館周辺の桜を愛でながら歩いていくか、と思い立った。ちなみになんでそんな朝行くの? と思う方もいるだろう。あのですね、4月1日は超激混み必死なわけですよ。ならば朝イチがわたしにとっては当然なのである。
 普通に歩けば、わたしの足なら30分かからない。なので、8時前に出れば十分なのだが、ふと、ああ、そういやきっと、わたしがこのところ楽しく読んでいる『みをつくし料理帖』の主人公、「澪ちゃん」もきっと同じような道のりを毎日歩いてたんだろうな、と気が付いた。澪ちゃんが住んでいるのが、たしか神田金沢町。神田明神に程近いところだったはずだ。そして「昌平橋」を渡って、それから半時(=1時間)ほどかけて、「俎橋」を 渡って、勤務場所「つる屋」のある元飯田町に至ると。そんな経路なので、恐らくはこんな感じだろう、と見当をつけた。
mio
 これは現代の地図だけど、分かるかな? 今でも「神田明神」「昌平橋」「俎橋」は上記のように存在している。東京の地理に明るい人なら、ああ、要するに「靖国通りを真っ直ぐ行くだけね」と分かると思う。古地図を確認したわけではないので、全然適当な予想だが、上記の地図で言うと、おそらく、昌平橋からすぐに左に曲がってショートカットすることはなかったと思う。なぜなら、昌平橋から現在の御茶ノ水駅方面へは、上り坂なのだ、「駿河台」という小高い丘になってるのです。なので、おそらくは昌平橋を渡って、そのまま駿河台を迂回する形で、現在の靖国通りあたりまで南下してから、西へ向かったはずだと思う。もちろん、靖国通りはたぶん当時はなかったと思うので、そのものズバリではないと思うが、まあ、方向は間違いなかろう。
 というわけで、30分でいける道のり+澪ちゃん通勤経路探索&桜見物30分を含めて、昨日は朝の7時半から、スーツ姿でLet's Walk と洒落込んでみた訳である。まさか澪ちゃんも、210年後の未来にこんなストーカーじみた目に遭うとは思ってもいなかっただろうな。そう考えると、わたしもまあ物好きと言うか、もはや変態である。
 いいの!! 面白いから。
 
 で。まずは、「神田明神」と澪ちゃんが毎朝渡り、夜くたびれて帰ってくる「昌平橋」からスタートだ。現在の様子はこんな感じ。
kandamyo-jin
 神田明神は今現在でも大変多くの参拝者の集う、将門公を祀る江戸の総鎮守様だ。最近ではすっかり「ラブライブ」の聖地にもなっていて、昨日のアキバはラブライバーがいっぱいいましたね。朝はガラガラで大変気持ちがいい。
syohei01
 で、これが現在の昌平橋。上を走っている緑の鉄橋が、JR総武線ですな。これは、上で貼った地図で言うと、南から北の方向で撮影している。澪ちゃん的には、帰りの景色ですね。このあたりを歩いていたら、この写真で言うところの、橋を渡って向こう側へ行き、右に曲がった反対側へ行ったところに小さな公園があって、桜が1本佇み、綺麗な花を咲かせていたのだが、そこにはこんな、案内板があった。
syohei02
 おっと、古地図があるじゃないですか。なるほど、神田旅籠町、か。いやいや、ちょっと待って、神田旅籠町って、「源斉先生」が住んでるところじゃん!? と気が付いて、若干のテンション上昇である。ほほう、やっぱこの辺か。なるほど。で、古地図の部分を拡大すると……
syohei03
 おっと!! あった!! あるじゃん、「神田金沢町」。神田明神のちょっと北(左下にある神田明神のちょっと上)。おお、しかも旧つる屋のあった「神田御台所町」や源斉先生の住んでいる「神田旅籠町」もすぐそばだ。なるほど、まさしくここだ。そして、昨日はぜんぜん気が付かず、今さっき写真を加工してて発見したのだが、この地図の右上の端っこの方に、「稲荷社」ってのがありますね。これが澪ちゃんが通う、「化け物稲荷様」かな? どうだろう? もう一度読み直して描写をチェックして見ないと分からないな。現地は今度またチェックしておきますわ。
 てな感じで、完全にもうストーカーなわたしであるが、なんだか朝から気分がアガッて来ましたぜ。こいつぁ、たまらねぇ。である。※一応解説しておきますが、種市おじいちゃんの真似です。
 というわけで、ここから澪ちゃんは歩いてんだなーと、Walking開始である。その道筋は、別に面白くないので割愛します。最初に貼った地図の通り、ツカツカと靖国通りを西へ向かうだけなので。
 で、わたしの足ではやはり、30分もかからず、ごくあっさり「俎橋」まで来た。以下が現在の俎橋であります。
manaita04
 九段下の、ちょっと手前に「俎橋」の交差点の看板アリ。で、もちろん「橋」としても残っていて、
manaita01
 ずどーんと、立派にネームプレートが設置されてます。
manaita02
 が、ご覧の通り、この日本橋川の上には首都高が通っているため、暗~い感じになってます。
manaita03
 この写真の、左岸が、新しい「つる屋」のある元飯田町ですな。今はすっかり面影なし。土手もなく、コンクリート製だし。この川辺で、澪ちゃんやふきちゃんは、何度泣いたことでしょう。200年、人類は進歩したんだか、変わってないんだか、分からんですな。
 なんてことを思いながら、わたしはまだ『みをつくし料理帖』の3巻までしか読んでいないけれど、続きを読むのがもっと楽しみになって来ました。男の、たぶん常人よりはるかに勝る脚力を持つわたしがツカツカ歩いて30分かからないほどの距離だが、女子であり、着物であり、草履であり、また道も悪い状況で……と考えると、やっぱり澪ちゃんの足では小1時間はかかるかもな、というのは納得できた。これを毎日通っていたわけで、そりゃ遠いとは思わないけど、楽ではないわな。澪ちゃん、4巻以降どんな艱難辛苦に苛まれるか、まだわたしは知らないけど、幸せになっておくれ。と願わずにはいられないわたしであった。
 以下、おまけ。
yasukuni01
 靖国神社や武道館周辺は、もう満開でした。人出も多く、昼以降はもう、歩くのも大変な混雑だと思う。ま、夜桜を観て酔っ払うのも、それはどうぞご自由に、だが、やっぱり朝、少し肌寒いくらいの澄んだ空気の中、ぼんやり過ごすほうが、粋だと思いますよ。大変綺麗で、昨日一日、とても気持ちよく過ごせましたとさ。おしまい。

 というわけで、結論。
 現在の秋葉原と御茶ノ水の間にある「昌平橋」から、現在の九段下にある「俎橋」まで、1.9Kmほどである。1802年当時の女子の足では、まあ小一時間はかかるだろうなと言うのは良くわかった。江戸中期に生きた澪ちゃんと、平成の世に生きるわたしとでは210年ほどの時の隔たりがあるが、まあ、きっと、人間としての中身はそれほど変わらんのだろうと思う。澪ちゃん、毎日の通勤も大変だろうけど、幸せになっておくれ。オレも真面目に生きてみます。以上。

↓ こういうの買って、ちょっと思いを馳せてみるのも乙ですね。つーか、もう完全にオレの趣味、老人レベルなんじゃないかと心配です。

 先日読んだ、『みをつくし料理帖』が大変面白かったので、とりあえず2巻目を買ってきた。で、これまた非常に気に入ったので、もう、オラァッ!! と全10巻買って読み始めています。
 毎回読み終わるたびに、ここに書いていくと10回にもなるので、今後は数巻ずつまとめて感想を書こうと思います。今日は2巻だけですが。
花散らしの雨 みをつくし料理帖
高田 郁
角川春樹事務所
2009-10-15

 ええと、……どうすべか。ま、エピソードガイドにしておこうか。
 まずは復習。『みをつくし料理帖』はこんなお話です。
 主人公、「澪」ちゃんは18歳。舞台は1802年の江戸。半年前に大坂から出てきたばかり。澪ちゃんは当時珍しいはずの女性料理人として大坂のとある有名料亭「天満一兆庵」に勤務していたのだが、火災に遭って焼け出されてしまう。やむなく、その江戸店に移ってきたところ、江戸店を任せていた経営者夫婦の息子が、なんと吉原通いに熱を上げてしまっていて、店もすでになく行方知れずになっていたのです。散々行方を探すも見つからず、経営者の旦那さんは亡くなってしまい、奥様(=「ご寮さん」と呼ばれている。本名は「芳」さん)も心労でぶっ倒れてしまったため、困っていたところ、とある縁で、神田明神下で「つる屋」という蕎麦屋を経営する「種市」おじいちゃんと知り合い、その「つる屋」で料理人として雇用されるに至ると。物語は、既に大坂からやって来てから半年後(?)の、つる屋で毎日元気に働く澪ちゃんの姿から始まる。
 で、問題は澪ちゃんの味覚なわけだが、料理は上手でも、完全に大坂テイストが身に付いていて、時には江戸っ子のお客さんたちから、なんじゃこりゃ、と言われてしまうこともあり、江戸の味を覚えるのに必死なのが最初のころ。で、何かと親切にしてくれる医者の「源斉」先生や、謎の浪人風のお侍「小松原さま」と知り合って、いろいろ味を進化させていくという展開。
 1巻は、江戸の高級料亭「登龍楼」というライバルの嫌がらせにより、つる屋に大変なことが起きて、それでも何とか頑張っていくところまでが描かれた。なお、これは有名な話だが、当時、江戸のレストランランキング的な「料理番付」というものが実在していて、この1巻では登龍楼は大関にランクされていて、つる屋は澪ちゃん考案のメニューによって小結にランクされるなど注目を浴びる(その結果、嫌がらせを受けちゃったけど)。
 そして、これは前回も書いた通り、この物語にはもう一つの軸がある。澪ちゃんは幼少期に淀川の氾濫によって両親を亡くしているのだが、同時に一番の親友だった幼馴染の消息も失ってしまっている。そして、かつて、少女の頃に占ってもらったところによると、澪ちゃんは、「雲外蒼天」の運命にあり、またその消息が分からなくなってしまった親友の「野江」ちゃんは、「旭日天女」の運命にあると言われたことがある。
 澪ちゃんの「雲外蒼天」というのは、辛いことや艱難辛苦がいっぱいあるけれど、その雲を抜ければ、誰も観たことがないような蒼天を観ることができる、つまり超・大器晩成ですよ、ということで、一方の野江ちゃんの「旭日天女」というのは、天に昇る朝日のような勢いで天下を取れる器ですよ、というものだが、1巻では、子どものころに被災した水害で行方が分からなかった野江ちゃんが、どうも現在は吉原のTOP大夫の「あさひ大夫」その人なんじゃないか、ということが明らかになる。それは1巻の最後に、大変な目に遭った澪ちゃんに届けられた現金に添えられていた手紙で「ま、まさか!!」となるわけだが、まあ、読者的にはもうまさかじゃなくて、あさひ大夫=野絵ちゃんと言うことは確定してます。
 はーーー。まーた長く書いちゃった……。とまあ、こんな感じの1巻であったのだが、2巻は以下のようなお話でした。大変面白かったです。前回も書いたように、基本的に短編連作の形で、どうやら毎巻4話収録っぽいですな。
 ■俎橋から~ほろにが蕗ご飯
 前巻ラストで大変な目にあった「つる屋」は、神田明神下から俎橋へ引っ越し、リニューアルオープンを果たすところから始まる。「俎橋」は今でも交差点で名前が残ってますね。九段下のチョイ秋葉原寄りの、ちょうど首都高が靖国通りの上を通るところですな。
 このお話で、「ふき」ちゃんという新キャラ登場です。彼女の行動は微妙に怪しくて……またも大変な事態が発生するのだが、それでもふきちゃんを信じる澪ちゃん。そして登龍楼に乗り込んでタンカを切る澪ちゃん、頑張ったね。キミは本当にいい娘さんですよ……。そしてもう一人、戯作者(=今で言う作家)の「清右衛門」先生もここから登場。この人は、とにかく毎回、澪ちゃんの料理に難癖をつける嫌なおっさんなのだが、言う事はまともで実際のところ、つる屋が気に入って何気に応援もしてくれている人で、この後レギュラー出演します。
 ■花散らしの雨~こぼれ梅
 季節はひな祭りの時分。新キャラとして、流山から「白味醂」を売りに来た留吉くんが登場。そしてなにやら吉原で事件があったようで、あさひ大夫に何かが起こったらしく、あさひ大夫専属料理人兼ボディガードの又次さんがやって来る。この又次さんは1巻にも出てきた人で、相当おっかない筋のヤバい人なのだが、澪ちゃんにはつっけんどんながらも何かと良くしてくれるいい人で、今回も澪ちゃんに、とある料理をお願いするのだが……みたいなお話。章タイトルの「こぼれ梅」は、大坂時代によく澪ちゃんと野絵ちゃんが好きで食べていた味醂の搾り粕のこと。
 ■一粒符~なめらか葛まんじゅう
 このお話では、澪ちゃんとご寮さんが暮らす長屋のお向さんである、「おりょうさん」一家が麻疹にかかってしまうお話。医者の源斉先生も大活躍。小松原さまもちらっと俎橋に引っ越してから初めて登場するも、澪ちゃんはすれ違いで会えず。また、つる屋で接客を手伝ってくれていたおりょうさんが倒れてしまったので、ピンチヒッターとして70過ぎの「りう」おばあちゃんという新キャラも登場。超有能で、なくてはならない存在に。
 ■銀菊~忍び瓜
 季節は皐月のころ。かなり暑くなってきた江戸市中。涼やかな蛸と胡瓜の酢の物をメニューに入れた澪ちゃんだったが、蛸は冬の食い物だぜ、という江戸っ子のお客さんたち。まあ、一口食って、みなさん、うんまーーい!! となるので一件落着かと思いきや、日に日にお侍のお客さんが減ってしまい、ついにお客さんは町人だけになってしまった。困った澪ちゃんだが理由がさっぱりわからない。そんな折、澪ちゃんが実はもう好きで好きでたまらない小松原さまが久しぶりのご来店だ!! 素直に喜べず、ちょっと怒ったりなんかもして、まったく澪ちゃんは可愛ええですのう。で、小松原さまの話によって、武士が胡瓜を食わない理由も判明し、澪ちゃんの工夫が始まる――みたいなお話。今回も、新キャラの「美緒」さんというお金持ちの両替商の別嬪さんが登場。この人も、この後ちょくちょく出てきますね。源斉先生に惚れている娘さんです。

 とまあ、こんな感じで2巻は構成されていて、今回も大変楽しめた。
 しかし、どうも最初のあたりでは、小松原さまは中年のくたびれた浪人風な男をイメージしていたのだが、どんどんとカッコ良くなってきたような気がする。そして澪ちゃんも、いろいろな艱難辛苦に苛まれる気の毒な女子だ。しかし、それでも健気に、そして真面目に生きていくことで、周りの人も明るくして、様々な縁を引き寄せるんだから、ホント、頑張って生きるのが一番だな、と改めて教えてくれますね。オレも真面目に生きよっと。そんなことを思いましたとさ。

 というわけで、結論。
 『花散らしの雨 みをつくし料理帖~2巻』もまた大変楽しめました。
 真面目に生きているわたしにも、こういう縁がいろいろ訪れてくれるといいのだが……まだまだ精進が足りないっすな。頑張ります。以上。

↓これはレシピ集みたいっすね。はあ……料理の上手な健気な女子と出会いたい……。

 先日、わたしが大変お世話になっている美人のお姉さまに、「あなた、そういえばこれをお読みなさいな」と勧められた小説がある。へえ、面白いんすか? と聞いてみると、既にシリーズは全10巻で完結しており、また以前TVドラマにもなっていて、ヒロインをDAIGO氏と結婚したことでおなじみの北川景子嬢が演じたそうで、その美人お姉さま曰く、「面白いわよ。でも、わたしは、TV版の北川景子さんではちょっと小説でのイメージよりも美人過ぎるというか、彼女よりも、あなたが最近イイってうるさく言ってる、黒木華さんなんががイメージに合うような気がするわ」とのことであった。
 ええと、それはオレの華ちゃんが美人じゃあないとでもおっしゃるんですか? と思いつつも、「まじすか、じゃ、読んでみるっす」と興味津々の体で、すぐさま、その場で調べてみるも、どうも電子書籍版はないようなので、その後すぐに本屋さんへ行き、まずはシリーズ第1巻を買ってみた。それが、高田郁先生による『八朔の雪 みをつくし料理帖』という作品である。

 なお、インターネッツという銀河を検索すれば、TV版の映像も出てくるが、どれも違法動画っぽいので、ここに貼るのはやめておきます。小説を読み終わったばかりのわたしとしては、ははあ、なるほど、お姉さまの言う通り、北川景子嬢ではちょいと感じが違うかもね、というのはうなづけた。もちろんそれは北川景子嬢が悪いと言う話ではなくて、美人過ぎる、からなのであって、北川景子嬢のファンの皆さまにはお許し願いたい。そもそもわたし、ドラマ版を観てないので、とやかく言う資格もないし。俄然見たくなってきたけれど。
 で。この作品は、主人公「澪」ちゃん18歳が、「牡蠣の土手鍋」を店で出して、客から、なんじゃいこりゃあ? と言われてしまうところから始まる。どうやら澪ちゃんは大坂出身であり、江戸っ子たちには牡蠣の土手鍋は未知の料理であると。そして、どうやら「種市」さんというおじいちゃん経営の蕎麦屋「つる屋」の料理人として雇われていて、「お寮さん」と呼ぶ奥様と一緒に、神田明神の近くに住んでいるらしいことがすぐわかる。その後、料理の話を中心に、澪ちゃんとお寮さんの関係や、江戸に来たいきさつなどが判明してくると。で、現在の蕎麦屋に雇われるきっかけとなった出来事も語られたり、何かと澪ちゃんや種市爺さんを気に掛けてくれるお医者さんの「源斉先生」や、謎の常連客の浪人風なお侍「小松原さま」と知り合って、話が進んでいく。
 基本的には、いわゆる短編連作という形式で、1話につき一つの料理を巡って話が進む。その時、必ずカギとなるのが、江戸と大坂の味覚・料理法の違いだ。大坂人の澪ちゃんにとっての常識は江戸では非常識であり、当然逆に、江戸での常識は澪ちゃんにとって、「ええっ!?」と驚くべきものなのだ。このカルチャーギャップが本作の基本で、毎回読んでいて非常に興味深い。例えば、冒頭の「牡蠣の土手鍋」は、関西以西では普通でも、江戸っ子にとって牡蠣は、焼いて食うものであって、「せっかくの深川牡蠣を」「こんな酷いことしやがって、食えたもんじゃねえ」とお客に怒られてしまう始末なのである。こういったカルチャーギャップは、現代の世の中でも話のネタとしては鉄板だ。わたしの周りにも大阪人や名古屋人などが存在していて、よくそういう食べ物系カルチャーギャップの話をする。江戸人に限らず、我々現代人の場合においても、自らのソウルテイストに固執して、違うものを拒絶する傾向が多いと思うが(かく言うわたしも関東人の味付けじゃないと嫌だし)、澪ちゃんはプロ料理人として、江戸風味を理解し、生かしながら、自らの大坂テイストとの融合を模索する。その工夫は特に後半で問題となる、「出汁」の話が非常に面白い。昆布出汁で育った澪ちゃんが、江戸の鰹出汁とどう折り合いをつけ、澪ちゃんオリジナルとして昇華させるか。おそらく読者たる我々も、なんだか作中に出てくる料理を味わいたくなるのが、この作品の最大の魅力の一つであろうと思う。なお、文庫巻末には、作中料理のレシピが付いてますので、誰かわたしに作っていただけないでしょうか。
 ところで、澪ちゃんの最大のビジュアル的特徴は、「眉」である。澪ちゃんは数多くのピンチに苛まれるわけだが、その度に、「地面にくっついちまうぜ」と小松原さまにからかわれる通り、「下がり眉」なのだ。わたしは、しょんぼりと困った顔をして眉が下がっている様の女子が大好きなので、もうのっけから澪ちゃん応援団になってしまった。「下がり眉」愛好家のわたしとしては、現在の芸能界で最強に可愛い下がり眉と言えば、元AKB48の大島優子様だが、澪ちゃんのイメージとしては、優子様ではちょっと美人過ぎるか。もうチョイあか抜けない素朴系……と考えたら、確かに、この作品をわたしに教えてくれたお姉さまの言う通り、愛する黒木華ちゃんが候補に挙がるような気がする。ただ、澪ちゃんはまだ18歳なので、もうチョイ若い方がいいのかな。ま、そんなことはどうでもいいか。
 いずれにせよ、澪ちゃんは非常な困難に何度も直面し、しょんぼりとよく泣く、気の毒な娘さんだが、彼女は一度泣いたあと、きっちりと気持ちを立て直し、常に努力を続ける。じゃあ、これはどうだろうと考えるし、周りの人々のちょっとした話からも、解決の糸口を見つけ出す。その「常に前向き」な姿勢が非常に健気で、わたしとしては彼女を嫌いになれるわけがない。とても良いし、応援したくなる。まさしく彼女は、物語の主人公たる資質をきっちりと備えているわけだ。もちろん、周りのキャラクター達も、そんな澪ちゃんを放っておけない。いわゆる江戸小説らしい人情が溢れており、とても読後感はさわやかである。これは売れますよ。人気が出るのもうなずける作品であるとわたしは受け取った。
 この作品を貫いている一つの大きな柱として、「雲外蒼天」という言葉がある。これは、澪ちゃんが子供のころに占い師に言われた言葉で、曰く、「頭上に雲が垂れ込めて真っ暗に見える。けんど、それを抜けたところには青い空が広がっている。――可哀そうやがお前はんの人生には苦労が絶えんやろ。これから先、艱難辛苦が降り注ぐ。その運命は避けられん。けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほど澄んだ綺麗な空を。ええか、よう覚えときや」という意味である。
 まさしく澪ちゃんは、「雲外蒼天」の言葉通り、艱難辛苦に遭う。そして、それでも頑張り通して、最後には笑顔になることができる。それは澪ちゃんだけでなく、周りの人々をも笑顔にするもので、当然、読者たる我々にも、笑顔を届けてくれるものだ。こういう作品を、傑作と呼ばずして何と呼ぶ? わたしはこの作品が大変に気に入りました。
 
 というわけで、結論。
 『八朔の雪 みをつくし料理帖』は大変面白かった。澪ちゃんにまた会いたいわたしとしては、もはやシリーズ全10巻を買うことは確定である。これはいい。最後どうなるのか、楽しみにしながら、せっせと読み続けようと思います。幸せになっておくれよ……澪ちゃん……。そしてこの作品をわたしに教えてくれた美しいお姉さま、有難うございました!! 以上。
 
↓漫画にもなってるんですな。ドラマ版は、探したのだけれどどうもDVD化されていないっぽいです。

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