わたしの心の狭さや性格の悪さを端的に示すポイントとして、嫌いなものが多いという事象がある。もちろん、それはなるべく表に出さず、社会人としての外面は保つように自動的に行動出来ているので(たぶん)、ご心配いただかなくて大丈夫だが、まあ、嫌いなものは嫌いで、なるべく嫌いなものには近寄らないように、わたしという人間は自動操縦されている。
 おそらく、普通の人で、あの出版社は嫌い、というような好みがある人はほぼ皆無だとは思うが、わたしは仕事上、嫌いな出版社がいくつかある。一応理由はあるのだが、ま、そんな理由を開陳する必要もなかろう。誰も興味ないだろうし。だが、わたしにとっては、「お! この本面白そう!!」と思って手に取って、出版社を見て、ああ……と、そっと棚に戻すことが実は結構ある。この出版社の本なんて買ってやらないもんね!! という、実にテキトーなオレ・ルールが発動してしまうのである。
 というわけで、年末ぐらいに本屋で見かけ、おっと!! この先生の新刊出てたんだ!! と喜んで手に取り、レジへ向かおうとして足が止まってしまったのが、この『江ノ島西浦写真館』という小説である。 
  著者は、『ビブリア古書堂の事件手帖』でおなじみの三上 延先生。わたしも『ビブリア』は当然発売時から楽しく読ませていただいており、実のところ三上先生がデビューした電撃文庫時代から、たぶんほぼ全著作を読んでいるはずの、わたし的には昔なじみの作家だ。なので、新刊を見つけたときは、当然買うつもりだった。が……よもやわたしの嫌いな出版社ランク4位ぐらいに位置する光文社とは……というわけで、年末に発見した時は買わず、しばらく見なかったことにした、のだが、先日、またも書店店頭で本書と目が合ってしまい、ぐぬぬ……と5分ほど悩んでから、三上先生に罪はないし、この作品にももちろん罪はないッ!! だからオレは買う!! 今すぐ読みたいからだッ!! というわけで、若干自分にカッコ良く言い訳をして、レジに並んだのであった。まあ、普通の人には全く意味が分からないと思うが、簡単に言うと、アホですな、わたしは。
 というわけで、買った帰りの電車内からさっそく読み始め、翌々日の帰りの電車内で読み終わった。片道約25分×5=2時間チョイで読めてしまった。本書のページフォーマットは44文字×18行。それが228P。最近の文庫本は、字が大きく、大体40~42文字×16~17行ぐらいが標準だと思うので、おそらく後に文庫化された場合は288Pぐらいになってしまうかもしれない。何が言いたいかというと、ちょっと短い、のである。なので、とりわけ読むのが速いわけではないわたしでも、2時間ほどで終わってしまった。もちろん、三上先生の作品がとても読みやすくわかりやすい文章であることが大きい。
 この本は、プロローグ+全4話+エピローグという構成になっていて、ところでこれって書き下ろしなのかしら? と奥付付近の初出を見てみると、どうやら第1話だけ、光文社の小説雑誌(?)に掲載されたらしく、他はすべて書き下ろしであった。なるほど。しかし、仮にも『ビブリア』でミリオンセラーを達成した三上先生の作品だというのに、あまりにプロモーションが少ないというか、かなり市場をチェックしているわたしですら、本屋さんで発見して初めてその存在を知るに至ったというのは、ちょっと営業や宣伝の仕事に問題があるような気がするけれど、まあこれは、単にわたしが抜かっていたという事であろう。正式な発売日は12/16だったそうで、全然知らなかったのが悔しい。
 で。どんな内容かというと、こんなお話である。
 主人公、桂木繭は小さな会社の経理を担当するOLさんである。かつては写真家として身を立てようと思ったこともあっのだが、それは江ノ島にある写真館を経営していたおばあちゃんの影響であった。しかしそのおばあちゃんが亡くなり、写真館を売却することになった。本来は、作家をしている母と一緒に、遺品整理に行くはずだったが、母は原稿が忙しくて行けない、ので、あんた一人で行ってきて、と、数年ぶりに江ノ島の写真館を訪れることになる。そこで一人の青年と出会った主人公は、整理を手伝うという青年の申し出を受けながら、片づけをはじめるのだが、「見渡し写真」という、お客さんへ渡されていない写真の束を見つけ……という展開である。
 基本線としては、主人公のOLが、なぜ写真を辞めたのか、という心の傷の物語が縦糸になり、主人公OLの大学時代の話や幼馴染の話、おばあちゃんのやっていた写真館にまつわる数々の人々の物語、江ノ島で出会った青年の素性の物語、などが横糸となってストーリーがつむがれている。
 結論から言うと、わたしは主人公OLに最後まで感情移入できず、若干のここで終わり感もあって、わたしとしては読後感はあまり……良くなかった。どうにも主人公の性格が最後までつかめず、主人公のことが好きになれなかった。この点は、『ビブリア』の女性主人公、栞子さんとはかなり違う。最後まで、主人公OLのビジュアルイメージも明確には沸かなかった。本書のカバーには主人公OLのイラストが描かれているが、わたしには、文章から喚起されるイメージとはちょっと一致せず、しっくり来ないままであった。どうも、身体的特徴やルックスの描写が本文中に少ないのかもしれない。服の描写はあったけれど。たぶんこれは、『ビブリア』においては、五浦君という青年の目から見た栞子さん、という描写が多いために、より分かり易かったのだと思う。それが本作にはないので、イメージが沸きにくかったのではなかろうか。あと、各章トビラにはワンカットのイラストが描かれているが、これらもわたしが文章から得たイメージとやや一致していないような気がする。そう思ったのはわたしだけかもしれないけれど、特に、主人公OLの幼馴染の「琉衣」を描いた絵は、なんかちょっと、ピンと来なかったことを記録に留めておきたい。確実に、これらは編集者に責任がある部分であることも、付け加えておく。栞子さんのイラストは完璧にイメージ通りなんだけどな……。
 なお、この本で、わたしが一番、ほほう、これはいいね、と思ったのはですね、ちょっとまず、買ったらカバーを外して本体を裸にして、表紙を見てみてください。そこに描かれているイラストは、非常にイメージ通りで良かったと思います。

 というわけで、結論。
 三上 延先生の新刊『江ノ島西浦写真館』は、ちょっと今のところ評価保留である。確実に続編が書かれるべき作品で、全体として評価した方がいいのでは、と思った。あと、イラストは……非常に美しく、上手ではあるけれど、ひょっとするとなくても良かったのでは、とも思う。単純に『ビブリア』の商品イメージを踏襲したように見えてしまった。散々なことを書いてしまったが、続きが出たら必ず買って読むと思います。エンディング後が気になるので。以上。
 
↓ 栞子さんは最強に可愛いです。次の7巻で完結予定、だったかな? 待ってますよ!!
ビブリア古書堂の事件手帖 文庫1-6巻セット (メディアワークス文庫)
三上延
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2014-12-25