現在、わたしが主に使用している電子書籍販売サイト「BOOK☆WALKER」にて、大きなフェアをやっており、ライトノベルが50%引きとなっていたので、最近の作品で面白いのがあるのかどうか、ちょっといくつか買って読んでみることにした。まあ、フェアを開催している理由はとんでもなくアホくさいというか、ユーザーには全く興味のない、関係のないことだが、ユーザーとしては、安売り大歓迎であるので、とりあえず、MF文庫J、スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫からそれぞれ1冊買ってみようと思い、さっそくBOOK☆WALKERにて作品を漁ってみたのだが、条件としては、なるべく新しく、当然1巻であり、表紙イラストやタイトルからちょっと気になるもの、そしてあらすじとカラー口絵のチェックはしない、というテキトーな基準で選んでみたところ、まず最初に、MF文庫Jからは、『Digital Eden Attracts Humanity 最凶の覚醒』という作品を買ってみた。2月刊なので、ちょっと古いかとも思ったが、7月に2巻が出たようで、まあ、それじゃ1巻読んでみるか、という気になった。
Digital Eden Attracts Humanity 最凶の覚醒 (MF文庫J)
櫂末 高彰
KADOKAWA/メディアファクトリー
2015-02-24

 決め手は、なんだこのタイトル? という素朴な疑問である。英語部分はまったく意味不明であり、おまけに「最凶」だの「覚醒」だのときたもんだ。 こりゃあ、相当な中二臭がぷんぷんしますぞ……というわけで、さっそく読み始めた。読み終わるのにかかった時間は、およそ2時間15分ほど。物語全体と、あとは編集的な部分で、いくつか気になったことがあったので、いつもの通り自分用備忘録としてあげつらっておく。

 まずは、普通ならどうでもいいと思われる、編集的視点からの「なんだこりゃ?」から。
 いくつかの本文イラスト(本文中に挿入されるモノクロイラスト)が、わたしとしては少しだけ気になった。まず一番最初の、狼男を描いたイラスト。直前の描写は「だらしなく着崩しているものの、長袖のシャツにジーンズという出で立ち」とあるが、イラストでは上半身だけではあるが、着崩したじゃすまないほどボロボロ。おまけに、この狼男は巻頭のカラー口絵にも描かれているが、着ているのはどう見てもTシャツ。なんだこれ。
 もうひとつ、イラストで気になったのは2枚目のモノクロイラストで描かれている佐嶋という女子キャラ。彼女は、本文中の描写だとスパッツの上に短パンを着用しているらしいが、イラストはどう見てもキュロットっぽい。それから、重要なアイテム、万年筆型の携帯端末、とやらを胸ポケットに装着していることが描写されているがそれらしきものは全くイラストにない。ちなみに、彼女もやはりカラー口絵に描かれていて、その万年筆型携帯端末らしきものを手にしている絵なのだが、それをしまう(装着する)ポケットは見当たらない。そして戦闘ジャケットの下に着ているのは学校の制服(のスカート)。なんだこれ。
 イラストというか、容姿や服装の点でいうと、もう2つ、なんだこれがある。一人、白衣&パンブラのみというセクシーお姉さまが出てくるのだが、本文中には、なんでそんなカッコをしているのか、まったく理由は書かれていない。しかし、そういう非常識な格好には理由が絶対に必要だと思う。わたしなら、どんな屁理屈だろうが絶対に理由を本文中に書かせると思う。でないとホントに意味不明。なんだこれ。
 もう一つは、「尻尾」について。これは、とある状態で尻尾が生えるキャラクターが何人かいるのだが、それがどういう状況なのか、全くイメージできない。パンツに穴が開いてるのか? わたしなら、何らかの文章描写が必要だと指摘するだろうと思う。どうなってんだろう? わからん。なんだこれ。
 次に、言葉遣いというか文体と言うか、全くどーでもいいことがいくつか。
 これは、わたしもかつて九州出身の作家の原稿で指摘したことがあるのだが、「カッターシャツ」という言葉は、たぶん東京の人間には通じない。特に、想定読者である10代の子どもたちには、想像はつくかもしれないが、普段使うことは100%ないと断言できる。当時わたしも調べてみたのだが、どうも「カッターシャツ」という単語は、愛知県以西では普通らしいが、静岡県以東では使わない言葉らしい。さっき調べたところによると、著者は広島出身なので、当たり前に使う言葉だろうけど、わたしが編集なら絶対指摘する。ま、物語上はどうでもいいことだが。
 そしてもう一つこの作家の癖? なのかわからないが、この作品はプロローグとエピローグを合わせて12章から成っているが、そのうち10の章が「セリフ始まり」、である。この「セリフ始まり」は、非常に陳腐と言うか、初級というか、カッコ悪いというか、とにかくわたしは嫌いで、やめてくれと思っている。素人くさい。この作家は、既に他のレーベルでは十分以上の実績を持っているようなので、もう少し、工夫と言うか技巧を凝らしてほしいものだと思った。まあ、これもどうでもいいことだが。
 あと、最後にもうひとつ。タイトルについて。正直なところ、最初に書いたとおり、英語部分はまったく意味不明。しかも別にカッコイイ響きでもない。そして、読み終わった今でも、タイトルの意味が非常にうっすらとしか分からない。これは、想像するに作家の意向でこういうタイトルになったのではないかと思うが、もし編集がつけたタイトルなら、まあ0点だと思う。代案としてこういうタイトルでどう? というアイディアもなくはないが、わたしのセンスもたいしたことがないので、人のことを批判する資格もズバリ言えばゼロなのだが、ま、実際このタイトルはない。なんだこれ。

 と、最初にどうでもいいチェックをしてしまったが、これは、作家の責任ではなく、100%編集者の責任に当たる部分であると思う。こういうチェックこそが編集の仕事だと思うのだが、こういう点が残っている原稿で許されるのは、新人の応募原稿だけだ。本として出版する際は、プロである編集がこのような「なんだこれ」をきっちり修正させないといけない。これらは、ごく軽度の修正で済む部分なのに、それすらなされていないのは非常に残念だ。

 一方、物語はどうかというと、わたしが一番評価したい点は、物語の起承転結がしっかりとしていて、骨組みがきちんとしている点だ。構成は、こんな感じになっている。
 プロローグ:物語のカギである「デジタルウィルス」なるものの紹介。ただしこれは別に本編中でも出来たはず。ここで紹介されてる「悪魔」なるキャラ――どうやら2巻で出てくるらしい――を出したかっただけなのではないかと思う。
 001~003まで:「起」にあたる。主人公の紹介と事件の始まり。正義側(?)組織の登場
 004~006まで:「承」にあたる。物語を進める天才少女(主人公の幼馴染)登場。「起」で出会った組織とのやり取り、連続する事件への関与開始、主人公も変身へ。
 007~008まで:「転」にあたる。連続事件の犯人推定完了、妹の謎判明
 009~010まで:「結」にあたる。事件の決着、主人公の「覚醒」。
 エピローグ:正直なところ、このエピローグもイマイチ的がズレているというか、一番書いておきたいことが中途半端だと感じた。「覚醒」した主人公を待ち受けるこの後の展開を予感させる終わり方になっていないといけないのに、そのヒキが非常に弱い。これだけなら、結に含ませていい内容にしかなっておらず、エピローグとして独立している意味がない。どうせなら、冒頭の「悪魔」をここでも登場させてもいいと思った。

 というわけで、構成はしっかり組まれているのがこの作品の美点であるが、物語そのものは、なんだか『テラフォーマーズ』や、ある意味『魔法科高校の劣等性』も若干混じっており、目新しさはほとんど感じられない。この作品の独自性は、「デジタルウィルス」なるものの存在だが、もう少し、インチキ理論でもいいので、設定を固める必要があるように思う。アイディアは非常にいいと思うが、設定が甘すぎる。発明者である主人公の父がいて、その父に「仕組まれた」体を持つ主人公、という図式は、そういえばわたしの嫌いな『進撃の巨人』も少し混じっているような気もする。
 また、設定という点では、肝心のデジタルウィルスである「オラクル」と、そのワクチンである「ネメシス」の違いをもっと明確にして欲しいと思った。そのウィルス感染者・ワクチン接種者の違いも、たまに混同しやすい。ここは一番重要な鍵なので、もう少し、明示的に分かりやすくする必要がある。そもそも、ワクチンは、主人公は天才少女謹製のアイテムで「接種する(=見て聞く)」シーンがあってわかりやすいが、他の正義組織の隊員の接種方法がよく分からない。ウィルス感染者の変身も、なんだか任意に出来るのか、それとも常態として変態してしまうのかも良く分からない。たぶん、この著者は『テラフォーマーズ』が大好きなのだろう。しかしどうせ参考にするなら、ここは仮面ライダー方式のほうがよかったのではないか。すなわち、「ベルト」という明確なアイテムと、「変身!」という明確なプロセスが必要だ。そこがあいまいなので、ウィルス感染とワクチン接種が混合してしまっている。これじゃあ、ダメだ。
 あと、これは主人公の動機という点で、最も重要だと思うが、主人公と妹の関係性をもっと描写すべきだと思った。非常に薄い。もっとページ数を費やしていいから、妹への思いを丁寧に描かないと、最終的な決断を下す行程が軽く読めてしまう。今のままでは、単に妹がかわいくてHしたいだけに読める。これはネタばれだが結構冒頭で分かることなので思い切って書いてしまうが、主人公と妹は、血縁関係がない。が、主人公にとってそのことは、やった、じゃあ妹とは恋人同士になれるじゃん! と喜んでいるように読める。それで、いいのか?? 妹で思い出したが、冒頭では妹は「パジャマ」を着て寝ているという描写があり、その後、「寝間着」と表現が変わる。これって、別にどうでもいいことだが、校閲のレベルも低いと言わざるを得ない。もっとプロの仕事をして欲しい。

 こうしてみると、これらを改善して作品の完成度を高めるのも、やっぱり編集の仕事だと思う。はっきり言って、非常にレベルが低い。腹立たしささえ感じる。また、この作品に、どうでもいいお色気サービスシーンは不要だ。あからさまに狙って入れているのは、著者の好みなのか、編集の指示なのか判断できないが、必然性のないものを入れて、売れると思っているようなら、このジャンルは本当に衰退するだけだ。編集に本当に面白いものを作ろうという気概を感じることが出来ない作品は、一時的な売上げは確保できても、確実に、一瞬で消えてなくなってしまう。これではダメだと思う。『テラフォーマーズ』を面白いと思ったら、まずは、ちくしょー!と悔しがってくれ。そしてそれを超えるものを作ってくれ。

 というわけで、結論。
 編集がもっと仕事をして欲しい。せっかく、種としては大きな花に咲きそうな要素は十分にあるのに、編集がきちんと栄養と水を与えていないという印象しか残らなかった。

 ↓ はっきり言うが、2巻を読む気にはまったくならない。
Digital Eden Attracts Humanity 2 (MF文庫J)
櫂末 高彰
KADOKAWA/メディアファクトリー
2015-07-24