去年の11月、ニューヨークを旅した時、わたしにとってのメインイベントの一つが、The Metroplitan Museum of Art(通称:MET)を堪能することだった。詳しくはこちらに書いたので、ご興味のある方はどうぞ
 しかしMETの中は恐ろしく広大で、とにかく絵画だけは全部見ようとおよそ3~4時間ほど見物したわけだが、とても全部は見られなくて、ミイラで有名な1階のエジプト系の展示はほとんどざっとしか観ることができなかったのが残念であった。いや、別に一人でぶらっと行ったので、ちゃんと6時間でも10時間でも、好きなだけ時間をかければよかったのかもしれないけど、ズバリ言って疲れちゃったんだよね……。
 で、とにかく西洋絵画はほぼ全て回ったつもりなのだが、その中でも、わたしが事前の調べでコイツだけは外せないという作品があった。 全作品が30点ほどしか残されていない、17世紀オランダの画家、Johannes Vermeerの作品群である。どうやら、METには、Vermeerの作品が5点あるらしい。その5点の中でも、「水差しを持つ女」という作品がどうも一番有名で、まだ日本に来たことがないという。ならばここ、ニューヨークでじっくり堪能させていただこう、と、広大なMETの中を迷いながら、Vermeerが展示されている部屋に赴いたわけである。
 確か部屋は、2階の真ん中の一番奥の端っこだったと思う。どうやらGallery632らしいですね。 で、ようやく辿り着き、よし、ここか!! と勇んで展示を観た……のだが、おかしい。あれっ!? いち、にい、さん、よん……4点しか展示がない。むむ? 肝心の「水差しを持つ女」はどうした? 別の部屋か?? と思ってよく見てみると、なんと海外貸し出し中! となっていた。複製というか、解説類が展示されていたけれど、現物不在であった。マジかよ!! HOLY SHIT!! とはこのことである。
 なので、ちょっとがっかりしたものの、ほかの展示は質・量ともにすさまじく、わたしの大好きなゴッホやターナーなどは、日本での企画展なんかよりも物凄い量の展示があって、大興奮&大満足でMETを後にしたわけだが、その日の夜、ホテルの部屋でちょっと調べてみたところ、なんと貸出先は日本で、京都にて展示中だったのだ!! な、なんだってーー!? 超・入れ違い!! マジか…… こいつはBigなHOLY SHITだぜ!! と再度叫んだことは言うまでもない。
 そんな、ちょっとしたすれ違いだったVermeerの「水差しを持つ女」という作品だが、京都での展示を終え、ようやく東京に来てくれた。ならば会いに行かねばなるまい。というわけで、1/14から六本木にて開催中の『フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展』に行って、ようやくの対面を果たしたわけである。
Vermeer
 まず、この絵のことを書く前に、言いたい放題の文句を言わせてもらおう。わたしは六本木ヒルズの上にある、この美術館が前々から好きではない。何しろ、行き方がめんどくさい。何度も行っているので迷うことはないが、とにかく無駄にシャレオツで、導線もひどく悪い。わたしは常に朝イチで行くが、人出が多い時間帯に行こうものなら、もうたどり着く前に帰りたくなるレベルだ。それに、わたしはこの点が一番イラッとするが、前売券を持っているのに、いちいち窓口に並んで入館証に引き換える必要があるのも、勘弁してほしい。それなら当日チケット買うためにならぶのと同じで、意味ないのだが……。また、ライティングも、色付きLEDの暖色系で、薄暗く、作品が持つ本来の色を実に損ねているような気すらする(勿論計算されつくされた展示だろうから、決してそんなことはなく単にわたしの言いがかりだと思う)。日本の美術展は、もうそういう、無駄な雰囲気出しの演出はやめて、きっちりはっきり見えるようにしてもらいたいものだが、今回の展示もとにかく暗くて見えにくいこと甚だしく、イライラしたことを自分用記録として記しておこう。わたしにとっては、出来ることなら行きたくない美術館の筆頭である。というわけで、今回も、さほど混んでいない時間帯なのに並ばされ(1列待機の複数窓口じゃなく、複数列待機なので、列によって進む速さが違う)、長ーいエレベーターに乗せられ(待つ時もいちいち立つ場所を指示される)、半ば、やっぱりここに来るんじゃなかった、さっさと京都に観に行くべきだった、つか、もう帰りてえと思いながら会場入りした。
 で。意外とメインのVermeerに至るまでに展示されている17世紀オランダ作品が素晴らしくて、おお……こりゃあいい、と気分は上がるものの、やっぱりライティングが暗くて、画の端の方とかよく見えないんだよ!! と再びイライラしながら順番に観ていくと、ほぼラスト近辺に、お目当ての作品が展示されていた。これぞまさしく、Vermeerの「水差しを持つ女」。NYで会えなかった君に、ようやく会えた、ということで、わたしのテンションはあっさり上昇、大興奮である。
Vermeer_woman
 この絵は、やっぱりまず目を引くのが、目にも鮮やかな青であろう。この青は、一番有名な「真珠の耳飾りの少女」のターバンの青よりも深い青で、実物は非常に美しい色味であった。何気に、袖部分の3本線がスカート部分の青と同色で、デザインとしてもちょっとカッコイイ。左腕の部分、女性の被っているベール(?)が薄手なんだろうか、青いラインが透けているのもいい感じである。このベールの透け加減は、頭の部分でも、少し髪型が分かるぐらい光が透過している。光について言うと、構図的に、左に窓、そこから入る光、人物はセンターから若干左寄り、人物背後の壁には何かがかかっている、と、完全にVermeerでおなじみの構図であるので、例えば、窓にはうっすらと空と雲が映っているようだし、左手の水差しの下の銀のたらいは、テーブルクロスの赤を美しく反射している、など、非常に写実的というか写真のようだ。おそらくは朝なんでしょうな。
 この絵は、サイズは45.7cm×40.6cmだそうで、正方形に近く、ちょっと小ぶりである。まあ、Vermeerの作品はそんなにデカいものはないので、標準サイズぐらいと言っていいと思う。なお、背後の壁にかかっているのはオランダの地図だそうで、近年の科学調査によると、書き始めた時点では、もうちょっと左の方まで大きく書かれていたそうだ。ちなみにこの絵が制作されたのが1664~1665年頃だそうで、まさにオランダ(ネーデルラント)がスペインから独立して10数年の頃合いという事になる。日本で言うと江戸初期、4代将軍の家綱時代であろう。長崎の出島も築造されていて、鎖国政策の下に唯一付き合いのあった国だ。そういう歴史的背景を頭に入れておくと、Vermeerという作家の作品を観る時にいろいろ妄想が沸くので楽しいと思います。なお、もうひとつのメインのレンブラントは、たった1点だけ。METで観たレンブラントルームはすっごい充実していて大興奮だったのに、残念だよ……。

 というわけで、結論。
 ようやく会えた「水差しを持つ女」は、やはり色彩鮮やかな、美しい作品であった。これはVermeerが好きなら絶対に観に行くべきでしょうが、会場としてはあまりお勧めできないので、4月からの福島での展示に行った方が楽しいかも。そっちの方が空いているだろうし、じっくり見ることができるかもしれない。車で3時間半ぐらい、新幹線を使えば3時間かからないぐらいで行ける。日帰り楽勝なので、ちょっとした小旅行に最適だと思います。つーか、マジでもう一回、会いに行こうかな。以上。

 ※なお、当時のオランダの生活模様を知りたい人は、以前も書いた通り、この映画を観るといいと思います。その時も書いたけれど、映画としてはそれほど面白いというものではないものの、当時の生活の様子や、特にVermeerについてもっと知りたい人には超・オススメ出来ると思う。もちろん、この映画撮影当時19歳のScarlett Johansson嬢も非常に可愛いです。オランダ女性がかぶっているベールの意味もこの映画を観るとわかります。なかなか興味深いです。
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