先日、どうして土日の日中のTVはこんなにもつまらないんだろうか……? と片っ端からチャンネルを変えながら、しみじみと発見し、絶望したわけだが、どうも最近、翌週のウィークデイの夜にやる番組の、そのまた紹介番組を土日に放送していることが多いような気がした。そして肝心のものは見せず、やけにCM回数も多くて、ああ、こりゃあもう、TV没落も止むねえことですなあ……ということをぼんやり思った。
 なので、なんか映画でも観るか、と、WOWOW放送を撮りためてあるHDDを捜索したところ、ひとつ、邦画で、劇場で観たかったのに見逃していて、そして録画したこともすっかり忘れていた作品を見つけたので、よっしゃ、コイツを観よう、と再生を始めたのである。
 タイトルは、『駆込み女と駆出し男』。2015年公開の松竹映画であり、 原作は確か井上ひさし先生だったな、そして主演はわたしの大好きな戸田恵梨香ちゃんだったはず……と、そんなあやふやな記憶しか持ち合わせず、もちろん物語が鎌倉の東慶寺、通称「縁切寺」を舞台にした作品であることは知っていたけど、ズバリ、それ以外は何も知らないので、さて、面白いか知らん? という感じで視聴を開始したわけである。

 のっけから結論を言うと、実に面白かった。つか、意外と、というと大変失礼だが、とても感動した。危うく泣けそうなぐらいに。
 まあ、まずは上記予告を観ていただきたい。この予告を観ると、大体の雰囲気は分かると思う、が、正直全く物語は伝わってこないと思う。わたしは、もちろん「駆込み」なる制度が存在していたことは、一般常識としては知っていたが、この予告でもチラッとだけ説明されるような、「駆込み」の作法があるなんてことは全く知らなかったので、冒頭からもう、へぇ~、の嵐である。
 まず第一に、江戸時代にそれほどまで「離婚」が多かったことなんて知らなかったわけだが、想像するに、家のための結婚が普通であった当時、女性たちは子供が産めなくてはあっさり離婚されてしまう、ようなことは何となく想像できる。武家の事情なんかは、あまたの時代劇でもお馴染みですな。たぶん、そういった「夫から離婚される」場合が多数を占めていたはずだし、その数は、確かにふと考えると、今より多かったかもな、とは思う。なにしろ女性(妻)は、夫の所有物のようなものだったのだろうから。ポイ捨ては十分考えられそうだ。現代感覚からすればまったくもってひでえ話ですが。
 しかし、女性から離婚を申し立てることはできないわけで、かと言って女性たちにも別れたい理由は無数にあっただろうことも、想像に難くない。そんな時の最終手段(?)がいわゆる「縁切寺への駆込み」であろう。そして、その「駆込み」には、厳密なルールがあって、この映画ではそこをきちんと説明してくれるわけである。これがなかなか興味深い。ちなみに時代背景としては、本作は1841年ということで、明治ももうすぐ、の幕末直前という頃合いを舞台としていました。

 ◆STEP01:駆込み成就
 どうやら、Wikiによるといわゆる「縁切寺」は鎌倉の東慶寺と、群馬の満徳寺の二つがあったそうだが、その山門の内側に入ると、「駆込み成就」らしい。そしてその際、身に付けているもの(草履orかんざし)を投げ込んでもOKらしい。これって常識ですか? わたしは知らなかった。
 ◆STEP02:聞き込み調査
 そして、駆込みの発生が確認されると、山門の門番が当人を、「御用宿」へ連れて行き、事情の聞き取りが行われる。この時、仲介人(御用宿の人)は、相手方の旦那と、親元(あるいは名主)にも話を聞くみたい。そして大体の調べが終わったところで、両者を対面させる。この時、夫サイドが素直に「離縁状」を書けば、もう晴れて離婚成立、となるわけだけど、基本的に、「妻に駆込まれた男」はそりゃあもう激怒しているので、ふざけんな、となるわけだ。
 ◆STEP03:入山~下山
 で、ふざけんな、の場合、女性は縁切寺に「入山」することになる。2年を寺で過ごし、2年後、再び夫が呼び出されて、また御用宿で話し合いになり、2年の時をかけて、女性側からやっぱりあんたが好き! 離婚やめた! となることもあるようだが、基本的に2年後のこの話し合いの場は、夫が離縁状を強制的に書かなくてはならない場となり、晴れて離婚成立、となるようだ。この2年後の場では、夫に拒否権はもうないそうです。どうですか、知ってましたか、こういう段取りがあるって。わたしは残念ながらまるで知らなかったっす。
 ◆STEP03番外編:入山後の女性の日々の暮らし方
 わたしは入山後の女性たちの毎日にも、非常にへえ~と思ったことがあった。どうも、入山時にお寺に「格付け料」という名目の金を払わないといけないらしく、その金額によって、まさしく「格付け」されるんだな。で、一番上の格だと、寺の雑事なんて何もしないで、日々歌を稽古したり書物を読んだりの優雅な毎日を送ることができ、一番下の格だと、掃除洗濯炊事など、要するに住み込みの下女的な扱いになる。なんでも、武芸(なぎなたと弓)はどの格も修行しないといけない必修科目みたいですな。

 とまあ、こんなことになっているわけで、これは明確な「法制度」の一つのようだ。だから手に負えない場合はちゃんとお役人も出張って来る。調停人がいることなんてまるで知らなかったす。

 で、物語は、真面目な「じょご」という名の女子と、どうも訳ありな「お吟」さん、それからとある武家の侍ガール「ゆう」さんの3人の「駆込み」を中心に語られていく。「じょご」の場合、旦那は製鉄業を営む町人で、じょごちゃんも結構腕のいい職人なんだけれど、旦那がなかなかのクソ野郎で、ズバリ言えばDV野郎で逃げてきたという背景があり、彼女の目から見た日々がつづられていくわけだが、まあ、大変健気で頑張り屋さんないい娘さんなわけですよ。演じたのは、戸田恵梨香ちゃんで、実に可憐で最高でした。わたしはこのBLOGで、散々、「幸薄い女子」に魅かれるというか大好物であることを表明してきたが、今回もまあ幸薄いこと甚だしい。戸田恵梨香ちゃんの表情は本当にグッとくるものがありますな。マジ最高のしょんぼりフェイスでした。
 そして、「お吟」さんを演じたのが、満島ひかりさん。お吟さんのキャラも非常に良かったですな。最初の登場時は、なんなんだこの人偉そうに、と思うじょごちゃんも、だんだん親しくなっていって、ラスト前でのお吟さんとの別れのシーンは、大変感動的でした。わたしが泣きそうになったのはこのシーンです。「ずっと妹だと思ってたよ」と告げるお吟さんにはとてもグッときましたね。それから、お吟さんの旦那を演じた堤真一氏も、最後はとてもカッコ良かった。なかなかの漢でしたな。
 で、侍ガールの「ゆう」も、まあひどい目に遭ってきた女子で、実に幸薄く、大変魅力的でした。演じたのは内山理名ちゃんですね。わたしはこの方がまだ10代の頃に街でばったり見かけたことがあるのだが、超可愛かったことを覚えてます。すっかり落ち着きのある、イイ女になりましたな。キッとしたまなざしが印象的ですが、今回もつらい過去を背負い、やや運命に囚われてしまった気の毒な女子を大変お美しく演じてくれたと思います。最後はすっきりとした顔になって、良かったね、本当に。
 こういった、美しく可憐で不憫な女子を相手に、ひとり奮闘する「駆出し男」が大泉洋氏で、もういろいろな映画やドラマに出演しているけれど、やっぱり上手い、と言わざるを得ないでしょうな。はっきり言って、いつ見ても同じ大泉洋氏、だし、今回も弁舌で乗り切るちょっとお調子者な男ということで、まあ、誰もが思い浮かぶ大泉洋氏の「いつもの」役のような気がするのに、なぜか引き込まれてしまう。きっとこれは、演じているキャラクターというよりも、大泉氏本人の人柄?のようなもののせいなんじゃなかろうか。要するに、大泉氏は実際イイ奴で、なんか誠実さのようなものが、役を支えてるんじゃないかな、という気がしました。それは現在放映中のNHK大河『真田丸』でも滲み出ているように思う。きっと、非常に真面目な男なんでしょうな、大泉氏は。現在の日本の男優の中でも、非常に独特な存在感がありますね。ちなみに、なぜ「駆出し男」なのかは、見ればすぐに分かりますので説明はしません。
 あと、キャストで備忘録として記しておきたいのが、二人、わたしの愛する宝塚歌劇出身の元ジェンヌが出演していたので、ちょっと驚いた。陽月華さん(通称うめちゃん)が、東慶寺の院代を務める法秀尼様を演じ、その直属の部下(?)である法輪尼様を演じたのが大鳥れいさん。二人ともわたしは現役時代を知らないので詳しくないけど、うめちゃんは最初に登場したところですぐに分かった。わたしは出演されていることを全然知らなかったので、ちょっとびっくりした。

 というわけで、もういい加減長いので結論。
 ふとしたきっかけで観てみた『駆込み女と駆出し男』という映画だが、まったく予期せぬ感動作であった。大変面白かったと思う。しかし、この映画の興行成績としては、どうやら10億に届かなかったようで、8億~9億ぐらいで終わってしまったようだ。はーーー。劇場に観に行くべきだったなあ……今年の『殿、利息でござる!』のように、非常に面白く、また知らないことを教えてくれる良質な映画で、松竹の映画作りは地味ながらさすが、ですな。機会があれば、ぜひ多くの人に観ていただきたい映画だと思います。全然まとまりませんが、以上。

↓ 配信で観られますよ!

↓そしてわたしとしては、原案とクレジットされている井上ひさし先生のこちらが大変気になる。「オール読物」で11年にわたり連載された作品だそうですね。
東慶寺花だより (文春文庫)
井上 ひさし
文藝春秋
2013-05-10