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 恒川光太郎氏は、わたしが思うに、わたしが大好きなStephen King大先生に、日本の作家で最も近いテイストの作品を描く作家の一人、のような気がしている。その著作の全てを読んでいるわけではないけれど、新作が出ると、かなり気になるお気に入り作家の一人だ。
 というわけで、先日、わたしの愛用する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERにて、コイン還元率の高いフェアを実施してる時に、なんか面白そうな作品はねえかなあ、と渉猟していたところ、おっと、これはこの前単行本で本屋さんに並んでた作品だな、よし、じゃあ、読もう! と買ったのが、恒川先生の新作『滅びの園』という作品である。新作と言っても、2018年5月発売だから、もう半年近く前か、出版されたのは。
滅びの園 (幽BOOKS)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2018-05-31

 わたしは読み始めて、何故かすぐに、この話、オレ、読んだことがある、と妙な感覚にとらわれた。その理由は実はいまだに謎なのだが、推測するに、どうもわたしは刊行されてすぐのころに、試し読みかなにかで最初の部分を読んでいたのだと思う。完璧忘れてたけど、それしか考えられない。そして、その時なぜすぐに買って読まなかったのか、その理由も全く記憶にない。もう病気かもしんねーな……この異常な記憶力の低下は。
 まあ、そんなわたしの若年性ボケはどうでもいいとして、物語はというと、結論から言うなら、大変面白かった。つうかむしろ、超面白かった! と絶賛したいぐらいだ。おまけに結構感動作でもある。そして、物語が提示するある種の「究極の選択」に、わたしは非常に心が痛くなったのである。なんつうか……つらいというか……まあ、この世のあらゆるものに関して、ほぼ興味を失いつつあるわたしとしては、どちらかというと主人公サイドの気持ちの方が心地よいというか、理解できてしまうように思うけれど、でもなあ……うーん……。と、読み終わっていろいろ考えてしまうわけで、読者に強烈な問いかけをする物語だということは言えるように思う。
 まずは、物語の構成をメモしておこう。本作は、6つの章からなっているのだが、そのページ分量は結構バラバラで、次のような構成になっている。なお、ページ分量はわたしが読んでいた電子書籍の書式によるもので、紙の単行本とは全然一致しないと思います。
 第1章 春の夜風の町:60ページ分
 第2章 滅びの丘を越えるものたち 80ページ分
 第3章 犬橇の魔法使い 12ページ分
 第4章 突入者 57ページ分
 第5章 空を見上げ、祝杯をあげよう。 13ページ分
 第6章 空から落ちてきた男 33ページ分
 とまあ、こんな感じなので、かなりバラバラでしょ、分量的に。どうやら本作は、元々は第1章、第2章、それから第4章と比較的長い3つはKADOKAWAから出版されている『幽』という雑誌に掲載されたものらしい(※『幽』が定期誌なのかムックなのか分からんす)。そして短い第3章及び第5、第6章が書き下ろしだそうだ。うーん、ひょっとしたら『幽』掲載時に第1話だけ読んだのかもな……。ともあれ、物語は、ある意味短編連作風でもあって、各章で登場人物が違い、全体の大きな世界観を描いた構成となっている。それでは、各章ごとの内容を、ごく簡単にまとめておこう。
 以下は、完全に核心的なネタバレに触れる可能性が高いので、ネタバレが困る方は以下は一切読み進めず、今すぐ退場していただきたい。ネタバレなしに感想は書けないので。
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 ◆第1章:春の夜風の町
 冒頭は外回り営業に心身ともに疲れ切った主人公の様子が描かれる。名前は鈴上誠一。彼は、ほんの些細なきっかけで、ふと電車を降りて、駅の外へ。するとそこは、見たことのない土地で、住民とも微妙に話が噛み合わない。自分がどうしてここで降りたのか、ここはどこなのか、そんなこともわからずぼんやりしていると、電車にかばんを置き忘れたことに「あっ」と気付く。しかし、勤める会社は完全ブラック企業で、ああ、どうしよう、これはまたこっぴどく罵倒される……なんてことを思った時、誠一は、「もういいや」と頭の中で糸が切れ、「このままどこかに消えてしまいたい」と思うに至る。そしてとぼとぼと町を散策すると、そこは誠一にとって妙に居心地がよく、いろいろな「?」がありつつも、住民たちに溶け込み、そこで生活を始めるのだがーーてなお話で、誠一の感覚では6年が過ぎてゆき、その間、誠一はすっかりその謎世界の一員として生活し、友達も出来て、さらには結婚、そして子供までできる。ちなみにわたしは、ま、まさかこの世界は恒川先生の『スタープレイヤー』のあの世界なのか!? とドキドキしたけど、全然そんなことはなく、単にわたしの先走り妄想でした。
 で、幸せが誠一を包み、何の不満もなかったのだが、この謎世界には「魔物」なる存在がたまに出現し、それを住民たちが協力して退治していた。そしてある日、「人間型の魔物」が誠一の前に現れ、驚愕の事実を誠一に告げるのだった――という展開となる。
 まあ、ズバリ言うと、この謎世界の秘密、というか事実、は、明確に説明される。なんでも、地球上空に「未知なるもの」なる謎の存在がやってきて、そこから地表に「プーニー」と名付けられた、白くてスライム上の謎生命体が蔓延し、人類は滅亡の危機にあると。そして主人公の鈴上誠一は、理由は不明だけど、「未知なるもの」のコア(核)に取り込まれていることが観測の結果判明したらしい。そして誠一の前に現れた「人間型の魔物」は、誠一に、核の破壊を依頼しに来たというのだが……その正体はーーというラストに至る。
 問題は、そこで誠一が下した決断はーーということになるのだが、おそらくわたしも、誠一同様の選択をしただろうな、と思う。ま、だからこそ面白いと思ったし心に響いたわけですが、「現状の自分の幸福」を取るか、「将来の人類の幸福」を取るか、そしてこれは両方を同時に選べるものではなく、どちらかを選べば、一方は破棄されるという、サンデル教授的な「強制的な二者択一」である。
 わたしは「どちらがより善」なのか、というよくある哲学問答には、実際のところほぼ興味がない。いわゆる強制的な二者択一、という状況はほとんどが机上の空論であるし、第3の選択、第4の選択、第5の選択、そういった可能性を探るべきだと思うからだ。
 たしかに、ある程度普遍的な「善」なるものが存在するのは間違いなかろうと思う。しかし、その普遍的な善なるものが、自分自身の犠牲を強いるものであった時、それに背を向け、自らの幸福を求めて何が悪いというのだろう。わたしが誠一の立場だったら、まず間違いなく、誠一と同じ選択をしただろうと思うし、それをけしからんと思う人がいるとしたら、その人のことはとても信用する気になれないすね。嘘くさいすよ、自分が犠牲になることを強いるなんて。
 そりゃもちろん、犠牲の程度にもよるだろうし、かかっているものへの愛着?にもよるだろうと思う。わたしだって、今わたしが命を投げ出さねば、愛する者が死ぬ、とかいう状況で、どんなに考えても万策尽きたなら、そりゃもう、命をなげうつのにためらうことはないだろう。でも、誠一の状況はそうじゃあない。なにしろ、誠一は、完全にかつての人類生活を嫌悪し、何の未練もないのだから。要するに誠一にとって、もはや人類は救う価値がないのだ。そこにわたしは、妙に共感してしまったわけで、これは普通の読者なら、誠一の決断は断じて認められないのかもしれないな……という気もする。でも、残念ながらわたしには、人類に救う価値があるとはあまり思えないでいる。誠一ほど、まだ精神がイッちゃってないという自覚はあるけど、ま、実際、ほぼ何の未練らしきものはないすね。こんな感じで、第1章は「選択」を行った誠一の物語が語られて終わる。
 ◆第2章:滅びの丘を越えるものたち
 で、第2章である。今度は、「未知なるもの」がいかにして地球に襲来し、「プーニー」がどのように地球上で増殖していったのか、が「私」の目を通じて語られることになる。ここで事件を物語る「私」は、初登場時中学1年生の女子、相川聖子さんだ。ここでの物語でポイントとなるのは、「プーニ―」への耐性が人によって違っていて、弱い人はもう近づくだけで感染(?)し、自らもプーニ―に同化して死んでしまうのに対し、強い耐性を持つ人もいて、その耐性が検査によって数値化されているという点だろう。耐性100以上がAランク(※最弱のランクDが耐性0~10。100以上というのはかなり数値的に大きい)という中で、相川さんの耐性はなんと400越え。この数値だと、相当なプーニ―に囲まれても平気なレベルであるため、世がプーニ―に溢れ、対プーニ―処理班が結成されると、相川さんは中学生ながらスカウトされ、プーニ―処理の仕事を行っていくことになる。
 そしてこの第2章で描かれるのは、やっぱり人間の醜さ、と言ってもいいだろう。耐性の強い人への嫉妬が世を覆っていくのだ。しかもあからさまではなく、裏でコソコソと、である点がホント嫌になる。相川さんはその嫉妬の対象になっても、あまり動じないメンタルで、実に性格付けが面白い。これは相川さんの中1~成人過ぎまでの時間軸で描かれているのだが、相川さんの言動はかなりぶっきらぼうというか、どうも、あまり執着を持たない人物のようだ。ただし、あくまで「あまり」であって、「全然」ではないのもポイントで、ある意味人間らしいとも思える。
 そしてこの第2章では、プーニ―への耐性の強い人間には、プーニ―を操る能力が発現する可能性も描かれていて、相川さんは救助作業中に、とある「プーニ―使い」の男と出会う。その男、野夏 施(のなつ めぐる)は、相川さんよりもさらに強い、耐性500レベルだったのだが、自分の能力が発現したばかりの頃は、プーニ―の操作をミスって、何十人もの死者を出してしまったのだとか。それゆえ、野夏の存在が世に知られると、世論は「けしからん! 人殺しじゃないか!」と糾弾する人々と、「素晴らしい! せひその力でプーニ―を処理してくれ!」と救世主的に持ち上げる人とに分かれてゆく。なんか、すげえありそうな話ですよ、これは。そして第2章は、野夏の身に起きた事件で幕が下ろされるのだが、まあ、なんつうか、読んでいて実に残念に思ったし、やっぱり人類は救う価値なんてねえんじゃねえかなあ……と軽い絶望を禁じ得なかったす。
 ◆第3章:犬橇の魔法使い
 この章はとても短く、ある意味で幕間的なものだ。ここで描かれるのは、第1章の後の謎世界での誠一の様子で、さらに、第2章の野夏が謎世界にやってきて、誠一と知り合う様子が描かれる。
 ◆第4章:突入者
 この章では、再び地球上の話だ。人類の研究によって、「未知なるもの」がどうやら別の次元に属していて(それゆえ謎世界の誠一の感じる時間の流れと地球の時間はまったく違っていて、誠一は6年と感じていたが地球では20数年時が経っている設定)、「未知なるもの」の観測が進み、最初はモノを、そして次の段階ではヒトを「未知なるもの」へ送ることが可能となる。そして、その次元なんとか装置で送り込まれた人を地球では「突入者」と呼び、完全片道切符だけど人類の英雄として称賛されていることが語られる。そしてプーニ―耐性が強い突入者ほど、自らの姿を保ったまま謎世界で存在できるようで(耐性値が低いと謎世界では人間の形状ではなくなる)、第1章で誠一の前に現れた「人間型の魔物」こそ、人類が送り込んだ「突入者」であることが明らかになる。
 で、この第4章でのメインは、耐性500オーバーの大鹿理剣(おおしか りけん)という少年が突入者となって送り込まれるまでのお話だ。しかし……なんつうか、ここでも、嫌になるぐらい人間の醜さが描かれてゆく。耐性値の高い人間への嫉妬、あるいはクソ野郎の父親など、とにかくまともな人間の方が少ないぐらいの印象だ。そしてこの章のラストで、理剣は突入者となって派遣され、そのままの姿で謎世界で再構成され、さあ、夢の世界をぶっ壊すか! というところで終わる。
 ◆第5章:空を見上げ、祝杯をあげよう。
 この章は再び相川さん視点で、「未知なるもの」が崩壊し、地球が救われるまでの模様が描かれる。
 ◆第6章:空から落ちてきた男
 最後の章は、エピローグ的な物語だ。ここでは、「未知なるもの」崩壊後、空から落ちてきた第1章の主人公、誠一のその後が描かれる。そして誠一視点での、魔物=突入者との最終決戦も語られるのだが、何とも実に悲しいお話であった。しかし、世論としては、またしても「誠一は被害者で、責められるべきではない」とする意見と、「事件の元凶だ、許すまじ!」という意見に分かれるという様相を呈してしまう。
 誠一はラスト近くで、人類を「下劣で醜い生物」と断じる。ま、実際のところ、今の人類は、ごく少数の声のデカい奴が世論を動かし、自分に甘く他人に厳しい連中が常に人を貶めようと隙を狙って攻撃してくるし、闘争に明け暮れ、殺し合いに余念がないわけだから、わたしも、主人公による「人類=下劣で醜い存在」だという断罪にはかなり同意したいようにも思う。
 しかし、そうはいっても、自らもその人類の一員であることは間違いなく、さらに言えば幸福が何らかの「犠牲」のもとにある、とか言われたら、うーん……やっぱりその犠牲に対して、そんなの知るかとほっとくことも出来そうにないだろうな……。なので、どうしてもわたしは誠一サイドに共感してしまう一方で、相川さんや野夏、理剣の行動も十分理解できるし、彼らを善悪の強制的な二者択一で評価したいとは全然思わない。
 おそらく、わたしがこの物語を面白いと思ったのは、実のところキャラクターたちの言動というよりも、キャラクターたちそれぞれが「納得」をして行動しているその姿そのものにあるのではないか、という気がする。もちろん彼らも葛藤する。しかしその葛藤は、「納得」をへて行動に移ってゆくわけで、そこには極限状態であっても、強制されない自由な人間の心があって、その点にわたしはグッと来てしまったのではなかろうか。
 なんつうか、描かれている事件そのものは完全ファンタジーだけれど、一方で描かれる人間の心情は極めてリアルで、そういう点でも、やっぱり恒川先生はKing大先生に通じるようなものがあるように思えますな。いやはや、大変楽しい読書時間を過ごせました。ズバリこの作品は、オススメであります!

 というわけで、なんか同じようなことばかり書いてるしクソ長いので結論。
 わたしのお気に入りの作家の一人である、恒川光太郎先生の新作『滅びの園』を読んでみたところ、実に興味深く、非常に考えさせる物語で、わたしとしては実に面白かったと絶賛したい気分であります。まあ、映画だとこういった「人類共通の敵」のようなものに対して、国家を超えて人類が団結する、みたいな話や設定が多いけれど、わたしはひそかに、そんなことにならないだろうな、と思っている。常に利害が対立して、意志がまとまることなんかないのではなかろうか。もちろん、それが悪いと言いたいのではなくて、まとまることはなくても、どういうわけか、全体としてみると、よりよい善にいつの間にか向かっている、という作用が人類には働くような気がしますな。無責任に言うと、なるようになる、ということかな。いや、そうじゃないな、なるようになっても、何とかなる、というべきか。つまり、どんな状況に陥っても、意外と受け入れられちゃう、あるいは慣れてしまう、ということで、そこに至るまでにはおそらく厳しい選択によって弾かれる人も多いだろうけど、まあ、それが淘汰ってやつで、適者生存なんでしょうかね。何が言いたいかもうさっぱりわからなくなってきたので、以上。

↓ そういやこれも読んでないな……と思いきや、これは双葉社から出ていた作品『金色の獣、彼方に向かう』を改題して」出し直したものだそうです。なーんだ。
異神千夜 (角川文庫)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2018-05-25

 先日、恒川光太郎先生の新作、『ヘブンメイカー スタープレイヤーII』を読んで大いに面白かったという事をここで書いたのだが、その時も書いた通り、1巻目の話をすっかり忘れかけていたので、もう一度読んでみたいと思ったものの、本棚を探しても見つからず、おそらくは誰かに貸してそのままなんだろうという事が判明した。たぶんあの人に貸したような……という心当たりはあるものの、返せというのもかなり今更感があって、じゃあもう一度、電子書籍で買っちゃおう、という決断を下した。もちろん、わたしが愛用している電子書籍サイトのコインバックフェアが開催されるタイミングで買ったので、およそ半額だったのだが、安かったので同時に恒川先生のデビュー作、『夜市』も買った。この本も確実にわたしは持っていたはずなのだが、やはり本棚に見当たらず、どうも『スタープレイヤー』の1巻目と一緒に貸したんだろうと思われる。で、改めて読んでみて、両方とも確かに面白く満足であったが、今日はデビュー作の『夜市』の方のレビューとすることにしようと思います。
夜市 (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
角川グループパブリッシング
2008-05-24


 なお、『夜市』ではなくて、『スタープレイヤー』の方は、ちょっと探してみたら恒川先生自身が語っている動画があったので、貼っておきます。しかしこの動画……再生回数が780回(2016/01/21時点)って、どんだけ観られてないんだよ……せっかくこういうのを公開しても、この再生回数じゃあもったいないというか……営業や宣伝が仕事をしてるのか心配になるな……。
 ま、いいや。
 で、『夜市』である。この作品は以前も書いた通り、2005年に第12回日本ホラー大賞を獲った中編作品(長編でもないし短編というほど短くもない)で、書籍化に当たっては表題作ともう一つ、描き下ろしの『風の古道』という中編の2本が収録されているものである。しかも、その年の134回直木賞の候補作ともなった。デビュー作が直木賞候補とはなかなか珍しいような気もするが、いずれにせよ、非常に高い評価を受けたのであろう。実際、わたしも2005年当時に読んで、ほほう、これはなかなかイケますね、と偉そうに思っていた(当時わたしは小説編集者だったので、素直に認めたくないもんね! という心理があった)。
 わたしは初めて読んだとき、そして今回改めて読んでみて、変わらない感想を持ったのだが、やっぱりこの作品は、わたしが愛してやまないStephen Kingの持つ独特の空気感と、非常によく似ていると思う。特に、Stephen Kingの短編に非常に近い、ような気がする。そこら中でKing自身が語っているように、Kingが描くのは、日常のちょっとした隙間に存在する怪異である。日常の一本裏通り、と言ったらいいのかもしれない。ごく身近な世界のすぐ裏に存在するもの、とりわけKingの場合は、邪悪な存在が多いけれど、そういったごく身近な闇に潜むSuper Natural を描く短編がKingの得意技の一つである。
 ではまず、表題作『夜市』。どんな物語かというと、いつか、どこかで開かれる「夜市」という非・人間たちが集うイベントがあって、そこでは、必ず「欲しいもの」が売られているという。そんな「市」で、少年時代にとある取引をしてしまった男が、大人になってから、その時に手放したものを再び取り戻そうとするお話である。「夜市」にはひとつ、厳格なルールがあって、何かを買わないと元の世界に戻れない。 なので、一度「夜市」に迷い込んでしまったら、何かを買わないと行けないのだが、果たして男は、手放したものを見つけられるのか、そして見つけてもその代償に何を払うのか、が問題となるわけで、とてもデビュー作とは思えないクオリティの作品である。とても面白い。てゆうか興味深い。「欲しいものが必ずある」という設定は、なんとなくKing の『Needful Things』を思い起こすけれど、実際のところ全く違うお話になってます。『Needful Things』はわたしも大好きだけれど、話的には、ずっと邪悪ですな。
 もう一つの『風の古道』は街にある<綻び>から、人間が本来は入れない「古道」に迷い込んでしまった少年のお話だ。これもまた非常にStephen Kingっぽくて、具体的に似た話があったような気さえする。ほんの探検気分で入ってしまった「古道」で少年たちの顛末は、非常に厳しいエンディングを迎える。なんとなく、印象としてKingの作品は、意外と最後は何とか助かる話の方が多いような気がするけど(……いや、そんなことないか?)、恒川先生の描いた『夜市』も『風の古道』も、実に厳しく、ルールを破った罰がきっちりと下される。ただ、それはそれほど後味の悪いものではなく、登場人物には気の毒だとは思うけれど、どうにもできないことだし、その覚悟へと至る登場人物の心の持って行き方は、読んでいて決して不快ではない。非常に良いと思う。
 このような、日常のほんのすぐそばには、人間の人知を超えた何かがある、というお話は、Stephen Kingに限らず、実際のところ世には無数にあるわけだが、わたしとしては、恒川光太郎先生の描く世界は非常に楽しめたし、これからも読んでみたいと思わせるものでありました。まあ、『スタープレイヤー』シリーズはホラーでは決してないけれど、やはり同じように、日常のすぐそばにある不思議な世界を描くという意味では共通しており、よく考えてみれば、小説というものは、程度の差があっても、みな、すべからくそういうものであるべし、と当たり前のことを今さら思った。しかし、久しぶりに『夜市』や『スタープレイヤー』を読み直して楽しかったです。『スタープレイヤー』の3作目をまた今年の暮れあたりに出してくれないかなーと思うわたしであった。

 というわけで、結論。
 もし今、なんか面白い小説ないかなー、と思っている方。そしてまだ恒川光太郎先生の作品を読んだことのない方。そんなあなたには、『夜市』と『スタープレイヤー』は超おススメです。たぶん読書に慣れている人なら、『夜市』は2日もあれば読み終われるし、『スタープレイヤー』も、1週間程度、異世界旅行を楽しませてくれると思います。以上j。

↓ 久しぶりに読みたくなってきた&観たくなってきた。映画版は、主人公(?)を超苦しめる極めて邪悪な存在を、『SW:EP VII』のロア・サン・テッカを演じたことでわたしを驚かせた、MAX VON SYDOWおじいちゃんが超怪しく演じてます。相当イメージ通りだと思うんだけどな……。あ、もう絶版なんだ……。本棚漁ってみるか……。
ニードフル・シングス〈上〉 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
1998-07

ニードフル・シングス [DVD]
エド・ハリス
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2004-11-26




 

 どんな望みも10個叶えられるとしたら、何を願うか?
 つい先日わたしが読み終わった小説は、非常にファンタジックでいてリアルな、不思議な作品『ヘブンメイカー スタープレイヤーII』である。実はサブタイトルにある通り、この作品は、2014年に出版された『スタープレイヤー』という作品と同じ世界観で描かれており、続編ではないものの、シリーズ第2弾ということになる。前作とのつながりは、ネタバレになるので内緒ってことにしておこう。
ヘブンメイカー スタープレイヤー (2)
恒川 光太郎
KADOKAWA/角川書店
2015-12-02

 ちょっと探してみたら、前作のPVがあったので貼っておきます。

 著者の恒川光太郎先生は、2005年に『夜市』という作品で第12回日本ホラー小説大賞を受賞してデビューした方なのだが、今回の『スタープレイヤー』シリーズはまったくホラーではなく、異世界ファンタジー、と言っていいのかな。ここ数年で散々出版されているような、いわゆる「なろう系」によくあるような異世界召喚モノに基本的な骨格は近い。けれど、面白さは比べ物にならないぐらい高品位で、きわめて質の高いエンタテインメント小説であるとわたしは思う。
 物語は、唐突に始まる。
 ある日、主人公は顔から何から白塗りの、身長2メートルの謎の男から、「運命の籤引き」を引かされ、「1等:スタープレイヤー」を引き当てる。すると、どことも知らない異世界に飛ばされ、「スターボード」というタブレット端末のようなものを手にする。なんでも、「フルムメア」という存在が全てを統括しているらしいのだが、そこには、以下のような「スタープレイヤー」のルールが書いてある。
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一.スタープレイヤーは、スターボードを使用し、<十の願い>という力を与えられる。
一.ただし、元の世界に戻るという願いは、スタートより百日後でないと叶えられない。
一.元の世界に戻る、と願ったら、残りの願いの数にかかわらず終了する。
一.願いはスターボードで文章の形にする必要がある。
一.文章を送ると、フルムメアが審査し、それが通れば、願いを確定させることができる。
一.抽象的だったり、観念的だったり、物理法則の土台を変えてしまうような願い、また十の制限をとったり、矛盾をはらんだ願いは却下される。
一.願いをかなえられるのはこの惑星の中だけであり、スターボードの地図に記入されていない場所には何もできない
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 このルールの下で、いくつかポイントとなる点がある。
 ■願いを上手くつなげる文章にまとめることで、複数のことを実現できる
 →例えば、「最新型のポルシェ911を1台。なお、ガソリンは満タンであり、予備部品も5台分用意し、その整備工具や消耗品の油脂類10年分、整備場なども同時に召喚する」といったように書けば全部呼び出せるし、ついでにガソリンスタンドの設置や予備ガソリン1億ガロンとか、文章次第で、「1つの願い」として申請できる。
 ■まず、願いが通るかどうか審査があり、とりあえず審査だけしてキャンセルするのは自由。
 →まず、可能かどうかだけをチェックできるので、それを利用していろいろできる。また、死者を蘇らせることや、元の世界から特定の誰かを呼び出すことも可能。なので、何かの事故や病気で死んだら、18歳の肉体で蘇る、その際、記憶は引き継ぐ、とかそういう自分の死亡リスクについて願って保険をかけておくこともOK。

 こういったルールの元に、異世界での生活を余儀なくされた人々を描いているのが『スタープレイヤー』シリーズという小説である。生活を進めるうちに、いろいろな出来事が起き、最初のうちは、貴重な「十の願い」を無駄使いしてしまったり、後半になると、その異世界にもともと住んでいる現地人が出てきたり、また別のスタープレイヤーと出会ったり、非常に面白いお話となっている。
 2014年に出版された第1作は、主人公が女性であったが、今回の『ヘブンメイカー』は男が主人公。主人公の追想録と、主人公によってこの世界へ召喚された少年の物語が交互して語られるスタイルである。そして最後はその二つの物語が交差し、いろいろなことが判明するという仕組みになっていて、読んでいてわたしは実にワクワクした。また、第1作目とのつながりも、最後の方で示され、すっかり1作目の内容を忘れつつあるわたしは、もう一度読んでみようかとも思わされた。なお、実を言うと、本作の『ヘブンメイカー』というタイトルからして、「ああ、今回はあそこの話なんだ」と最初からピンと来るべきなのだが、わたしは1巻目の内容をだいぶ忘れてしまっていたので、最後の方で1巻の主人公の女性が出てくるまで、ぜんぜん気が付かなかった愚か者である。恒川先生、ごめんなさい。なので、1巻目を読んでこの物語が気に入った人ならば、本作のタイトルを見ただけでワクワクしたのかも知れない。ちなみに言うと、本作を読んでから、1作目を読むというように順番を逆にしても、なんら問題はないと思うし、本作単独でも、十分に楽しめます。
 というわけで、十の願いを(ほぼ)なんでもかなえられるとしたら、どんな願いを抱くか、がこの作品では一番の重要時になる。もちろん、最初は異世界での生活を快適にするための願いであろう。そして孤独に耐えられなければ、人を召喚したり、現地人と接触しようとするかもしれない。本作、『ヘブンメイカー』の主人公も、序盤はそういう流れで「願い」を消費してしまうが、様々なことを体験し、また多くの人々と出会う事で、「願い」は複雑で高度なものへと成長していく。そして、いよいよ最後の「願い」を使う時が訪れるが、その「願い」はとても重く、わたしはいたく感動した。感動? いや、なんだろう、清々しさというか、そうきたか、という納得であろうか。今回のエンディングは、わたしとしては前作よりも深く心に響いたような気がする。ああ、やっぱりもう一度前作を読み直そう。そう思ったわたしであった。しかし、これだけ面白いと、きっとまた映像化の話が出てくると思うが、くれぐれも、変なアニメや実写映画化は勘弁して欲しい。やるなら、きっちりと金をかけて、気合の入ったものをお願いしたいものである。

 というわけで、結論。
 恒川光太郎先生の『ヘブンメイカー スタープレイヤーII』という作品は、万人にお勧めできる非常に面白い小説である。この小説がどのくらい売れているか分からないが、もし10万部以上売れていなかったら、営業担当者は相当のヘボであろうと断言する。こういう作品を売らないでどうするんだよ、と怒鳴りつけてやりたい。実に面白く、そこらのクオリティの低い素人小説の5万倍は面白いと思います。以上。

↓ 1作目がこれ。本棚にどうしても見当たらないので、もう一度買うか……電子で。たぶん当分文庫にならないんだろうな……文庫になるとしたら、今年の夏フェアかなあ……。ちなみにこの1作目は、NHK-FMでラジオドラマ化されました。
スタープレイヤー (単行本)
恒川 光太郎
KADOKAWA/角川書店
2014-08-30

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