いやー、毎回本当に面白い。大興奮である。
 連載が始まったのが2009年だから、もうずいぶんと前になるけれど、連載ペースはゆっくりなため、単行本が出るのは1年に1冊出るかどうかというペースだったのだが、この度、最新刊の(5)巻が1年8か月ぶり(7カ月?)に発売になったので、早速買って読んだ。そして、大変面白く、確かな満足であった。
 タイトルは『ドリフターズ』。意味としては「漂流者たち」という事だが、実に独特の物語設定と、平野先生のいつもの熱い展開で、大勢の読者を熱狂させている漫画だ。

 実はこの作品、今年の10月からTVアニメ化されるそうで、既に公式サイトもあるし、ちょっとした予告映像もある。以下に貼っておくのは、今回の(5)巻の特装版に同梱される映像を元にしたCMだそうで、これがまたクオリティが高く、30秒しかないけれど超ワクワクなのであります。TVが楽しみだなー。

 お、アニメ化発表の時の長い映像もあったから貼っとくか。

 さてと。ざっくりと物語を紹介すると、1巻の冒頭は、かの「関ヶ原の戦い」における、島津家の有名な撤退戦、で「捨て奸」戦法が炸裂した、「烏頭坂(うとうざか)」の戦いである。西軍の島津家・島津義弘(当主・義久の弟)の脱出にあたり、井伊直正の屈強な「赤備え(→ひこにゃんが被ってるアレ)」の軍と戦い、そのしんがりを務めた島津豊久の奮闘が描かれる。
 我々が知っている歴史では、豊久はそこで壮絶な死を遂げるわけだが、この漫画は違う。全身に深手を負い、半死半生の豊久は、森をさまよううちに、いつの間にか、整然と扉の連なる奇妙な廊下にたどり着く。そこには、謎の人物が受付のような机に座っていて、名前を記されると扉に飲み込まれてしまう豊久。気が付いた時には、良くわからない異世界へ「漂流」していた――。とまあ、そういうお話である。
 その漂流した先の世界は、一番わかりやすく例えると、『The Lord of the Rings』的なファンタジックな世界だ。エルフやドワーフ、ゴブリンや竜がいて、人もいる。そしてその文明レベルはまさしく『LoR』的な感じで、ある。
 ポイントとなるのが、その世界には豊久以外の「漂流者たち=ドリフターズ」がいるという点だ。しかもそれらは皆、我々が良く知っている歴史上の有名人たちだ。どうやら、その「ドリフターズ」たちの共通点(??)といえそうなのは、「死にあたって、やり遂げた、悔いはない」と思っている(??)人々で、かつ、「その死体が未確認」な人たち、っぽい。一方で、「ドリフターズ」と対極をなす存在もいる。彼らは、この異世界に「廃棄された」人たち、ということで「廃棄物=エンズ」と呼ばれている。彼らに共通するのは、逆に「死にあたって、やり残したことや恨みが満ちている」人たちで、かつ「処刑されて明確に死が確認されている」人たち、という感じである。いや、どうかな、ちょっとテキトーかもしれません。
 いずれにせよ、そういった「漂流者たち」と「廃棄物たち」の戦いになっていくわけですが、これがですね、とにかく有名人たちのスーパー・オールスターバトルで凄いんだな。ちょっと、メインどころのキャラクターを紹介しておこう。
 【漂流者サイド】
 ・島津豊久……薩摩人。バトルマシーン。
 ・那須与一……豊久が最初に出会うドリフ。史実(?)通り、弓の達人。
 ・織田信長……与一が豊久を連れていく廃城に居を構えていた。日本人なら知らない人はいないすね。
 ・安倍清明……豊久たちよりだいぶ前にこの世界に流れ着いていたらしく、「十月機関」という組織を結成して「エンズ」たちを監視(?)していた。
 ・ハンニバルスキピオ……ローマ時代のアノ人たち。老人。お互いライバルの天才戦術家。
 ・菅野直……史実では大日本帝国海軍のエースパイロット。愛機の「紫電改」とともに流れ着く。
 ・山口多聞……史実ではミッドウェーで戦死した大日本帝国海軍少将
 ・アドルフ・ヒトラー……すでに異世界でも故人。数十年前に流れ着いたらしく、異世界において「オルテ」という国家を作った国父として知られている。
 【廃棄物サイド】
 ・黒王……謎の存在。どうやらこの人は、我々世界のアノお方っぽいのだが、それは読んで皆さん想像してください。これ……欧米人はどうリアクションするのだろう……。
 ・ジャンヌ・ダルク……火刑に処せられて非業の死を遂げた聖女。恨み骨髄。
 ・土方歳三……函館で戦死。当然、島津家が大嫌い。なので、豊久に出会って怒り爆発。
 ・ジルドレ……史実ではジャンヌを救おうとしたりした百年戦争期のフランス軍人。火刑に処せられた。
 ・アナスタシア・ロマノヴァ……20世紀初頭のロシア大公女。17歳で銃殺刑に。
 ・ラスプーチン……怪僧としてお馴染みのアノ人。史実では暗殺されました。

 とまあ、こんな感じに、歴史上の有名人たちが、生きた国や時代に関係なく、この世界に集い、戦いを繰り広げる。その戦いの原因は、黒王を中心とする「廃棄物」たちが、すべてを破壊し、すべての人間を皆殺しにして、その世界を「やり直させる」ことを意図している一方で、「漂流者たち」はそれを食い止めようとする、とまあそんな対立構造である。超ざっくりですけど。
 おまけに、「廃棄物たち」には、「漂流者たち」にない特徴があってですね、彼らは妙な、スタンド能力的な力を持っているんだな。『LoR』的に言うと「魔法」に当たるような、謎の能力をもっていて、例えばジャンヌ・ダルクは、炎を操れたりするわけで、その点では「漂流者たち」はちょっと不利なんすよね。で、一方の「漂流者たち」は、信長をはじめとする頭脳派が多い(?)ので、直接戦力としてはバトルマシーンの豊久ぐらいしか戦闘力の高い人はいないため、その世界にもともと住んでいたエルフやドワーフや人間を指揮して戦うと、まあそんな感じになっています。

 とにかく、面白い。わたしの下手な説明よりも、とりあえず(1)巻を読んでもらった方が5万倍は面白く感じ、続きを読みたくなること請け合いです。平野先生による素晴らしい画とコマ割り、擬音など、もう全編にヒラコー節が炸裂しまくっていて、少なくとも男の読者なら誰もが夢中になって読むのではなかろうか。
 で、最新刊(5)巻だが、とうとう前巻で「廃棄物サイド」に登場した、信長に対する恨み骨髄の明智光秀も軍師として活躍し始めたり、「漂流者サイド」でも、山口多聞提督と菅野がとうとう直接対面したり、ようやく皆、お互いの存在を知って、信長と豊久が中心となっている「オルテ」に集結し始めていて、実にワクワクな展開でありました。また、どちらに属するのか不明で、ジョーカー的存在であった、源義経も、どうも今は(?)あっちサイドらしく、動き始めたし、前巻で豊久と派手に戦った土方も、どうもエンズのやり方が気にくわない的な部分も見えてきて、非常に緊張感もある。
 わたしのどうでもいい心配としては、この最高に面白い漫画の完結まで、果たしてオレは生きてるだろうか……というのが、マジで心配である。でもまあ、別にゆっくりで構わないので、最高のクオリティで平野先生の思う世界を書き続けて下されば、もうそれでわたしは最高に楽しめます。ま、年に1冊ぐらいは出してほしいけど……。

 というわけで、結論。
 1年8か月(7か月かな?)ぶりに新刊が発売になった『ドリフターズ(5)』だが、今回も最高に面白かった。わたし的には今、発売されたら一番うれしい漫画である。TVアニメのクオリティも相当高そうで、期待大ですな。とりあえず、まだ買って読んでいない人は、今すぐ本屋さんへGO!!! でお願いします。以上。

↓ 豊久はですね、薩摩島津家なわけで、示現流の源流であるタイ捨流の遣い手なわけです。しかし……あの剣の持ち方は……どう見ても剣が振れないと思うのだが……タイ捨流の持ち方なんすかね……? 気になる……。