世にはいろいろなことをいう人々がいて、インターネッツなる銀河にはさまざまな情報が満ち溢れているのだが、「落ちモノ」なるジャンルが小説や漫画に存在することをご存知だろうか。
 語源としては、どうやら宮崎アニメの名作『天空の城ラピュタ』に由来するのではないかと推察するが、要するに「ある日、美少女が空から落ちてきた」的な、Boy Meets Girl な作品を称して、「落ちモノ」とくくるわけである。『ラピュタ』を観たことのない日本人はもはや稀であろうから、分かりますよね? 冒頭、空から落ちてくるシータを、屋根の上でトランペットを吹いていたパズーがキャッチする、あの名シーンだ。
 ああいった、唐突ともいえる出会いに、あこがれ、心ときめかない男は、まあ、普通はいないと思う。もちろん、誰だってそりゃあファンタジーだと分かっているし、ありえないよそんなの、なんて言うことは、野暮の極みというか、『キャプテン翼』の話で盛り上がってるのに突然物理学の話を持ち出すようなもので、そういう野暮な空気を読めない人間とは付き合わないことをおススメしたい。まあ、つまらん奴でしょうよ、きっと。
 というわけで、わたしが今日観てきた映画は、「ある日玄関先に、スーパー・イケメンが行き倒れてた」というファンタジックな場面に遭遇した女子のお話、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』である。まさしく女子向け「落ちモノ」であり、これがまた大変素敵な物語なのであった。以下、ネタバレ全開です。

 物語は、ほぼ上記予告で語られる通りである。原作小説が出たのが、2009年、かな。だからもう7年前か。わたしは有川先生の作品はすべて発売されたらすぐに読んでいるので、読んだのも7年前である。なので、若干細部の記憶は怪しいが、今回の映画はほぼ原作通りだったと思う。
 空気感も大変に好ましく、主題歌の歌詞の通り、「あなたをつつむすべてが~やさしさで溢れ」ているわけで、実にいい。うら若き女子が見れば、「いいなぁー」と思うだろうし、男が、ましてやわたしのようなおっさんが観ても、「ええのう……」と、つぶやかざるを得ない。この空気を作り出した二人の主人公の芝居振りは大変素晴らしかったとわたしは思う。
 わたしの場合、もともと、女子のしょんぼり顔愛好家なので、今回の高畑充希ちゃんのしょんぼりフェイスは最高級にグッと来た。主人公の「さやか」ちゃんは、都内で不動産会社に勤務する一人暮らしの24歳の女子だ(※充希ちゃん本人も24歳だそうですな)。やたらとあたりの強い、部長と呼ばれる上司に、日々しょんぼりな毎日を送っている。まあ、こんな上司にめぐり合ってしまったら、そりゃあ、毎日しょぼーんとしてしまうのも無理はない。大勢のいる前で叱責したり、あまつさえ、大声である。大体、世の女子の大半が一番苦手とするものが、「男の大声」だ。これは全世界の女性に申し上げたいですが、大声でがなる男の9割がたはクソ野郎なので、近づかないほうがいいですよ。部下だったり、お店の店員さんだったり、とりわけ自分より立場の低い人間に対してがなる男は、これはもう100%クズなので、そういう場合は、そいつより上の人を味方につけるに限ります。わたしはもう、会社で自分より上の人の方が少なかったので、心底思うけれど、そういう奴は確実に、上には弱腰ですよ。わたしの部下にはキツイ文句を言うくせに、わたしが出て行くとコロッと態度が変わる小者ばっかりだったからね。とにかく、この物語の主人公のさやかちゃんは、日々、ずっとしょんぼりしている。その様が、非常に良いとわたしは感じた。わたしはもともと、高畑充希ちゃんは可愛いと思っているし、歌も上手で大好きな女優の一人だが、今回のその、しょんぼりフェイスで、さらに好きになった。この人は……いい。大変魅力的である。
 ちなみに、なぜわたしが、そういったしょんぼり女子が好きか。それは、そういった女子が笑顔になると、ウルトラ可愛いからだ。要するに、「オレがキミを笑顔にしてやんぜ!!」と、妙にわたしの内面が燃えてくるのである。まあ、若干変態じみていることは否定できないが、そういうことです。
 しかし、である。既におっさんのわたしの場合、そこにはあまり恋愛感情めいたものはないし、実際下心もほとんどない(あくまで、ほとんど。ゼロじゃあない)。おまけに、別にそれはわたしが優しいからでもない。純粋に、このしょんぼりGirlが笑ったら、可愛いだろうな、と思うだけなので、わたしとしては大変残念なのだが、わたしの周りの先輩のお姉さんたちには「あんたはタチが悪い」と叱られてしまうことになるのである。曰く、「付き合う気もないのに、優しくしちゃダメよ!! 勘違いされちゃうでしょ!!」というわけである。はーーー。まったくもって難しい世の中である。ま、わたしの話はどうでもいいや。
 で。日々うなだれているさやかちゃんは、ある日、自宅前で腹ペコで一歩も動けないという青年「いつき」君と出会うことで、徐々に笑顔を取り戻していく。なにしろ、カッコイイし、料理も出来るし、やたらとハイスペックで、本人の言うとおり「しつけが行き届いている」スーパー・イケメンだ。そりゃあ、惚れますよ。そりゃあもう、間違いナシ、であろう。だが、お互い苗字も知らない、過去も知らない、極論すれば何も知らない状態である。そして、いつき君は、充希ちゃんという極めて可愛い女優の演じるさやかちゃんと同居しているにもかかわらず、一切手を出さない。まったくもってしつけの行き届いたイケメン君である。この、ちょっとした緊張感が物語的に最初のポイントとなる。下衆な言葉で言ってしまうと、「いつ二人はヤっちまうんだ?」という、一線を越えるタイミングである。ここはもう、書かないでおきます。たぶん、女性が観ても男が観ても、大変いい流れで、原作でもわたしはここを読んで、もうおじいちゃん的視点から、「若いもんはええのう……」とほほが緩んでしまった。
 というわけで今回、スーパー・ハイスペック・イケメンを演じたのが、EXILE一族の若き王子様の岩田剛典くん27歳だ。もう、完全にこの人には勝てない。と、普通の男なら全面降伏せざるを得ない、本物のスーパー・ハイスペック・イケメンである。まあカッコイイ。そもそも、わたしのような不細工野郎が女子になにをしてあげったって、「どうせ <※イケメンに限る>でしょ」という世の真理が存在していることを承知しているので、わたしも特に下心なく、気後れもなく、女子に接することが出来ているわけだが、彼のようなイケてる男が、ちょっとでも女子に優しく接したらもう大変だろうな、とまったくもって大きなお世話だが、心配になる。なので、果たして、この物語において、いつき君には最初から下心があったのかどうか、その点にわたしは少し興味がある。正直、わたしにはわからない。が、たぶん、彼にはまったくその気はなかったのではないかと想像する。おそらくは、さやかちゃんとふれあい、日々を共に過ごす中で、しょんぼり顔だったのがどんどん笑顔になっていき、その笑顔に徐々に惚れて行ったのだと思う。男としては、そうなんだろうとわたしは勝手に想像している。
 だが、実際分からないのは、さやかちゃんの方だ。彼女は、イケメンを前に、やっぱり一目ぼれ的感情はあったのだろうか? まあ、あったんでしょうな。少なくとも好意がなければ、部屋に入れないよね。だとすると、はあ……やっぱり「※ただしイケメンに限る」というのは真実なんだなあ、とブサメン歴40数年のわたしとしては残念に思うほかなかろう。やっぱりね……。いいよ。もうそれ、知ってたし!! と強がっておくことにするか……。あーあ……イケメンに生まれてきたかった……。
 そして物語は、いつき君の突然の失踪で、大きな山場を迎えるのだが、いつき君失踪後のさやかちゃんの暮らしぶりが、わたしは原作の中で一番好きな、そして最も切ない部分だ。ここでの充希ちゃんもとても良かった。冒頭でクソ上司に対してしょんぼりしているよりも、いつき君を喪ったさやかちゃんのしょんぼり振りの方が、より痛ましくて、わたしなら絶対に放っておかないような、淋しそうな表情は、大変にグッと来た。なので、最後に再会し、幸せな笑顔でエンディングを迎えた充希ちゃんは、より一層、可愛く見えたと思います。

 というわけで、結論。
 『植物図鑑 運命の恋、ひろました』は観ていてとてもうらやましくなるような、非常に素敵な恋愛ドラマであります。原作ファンも、キャストのファンも、ぜひ劇場で観ていただきたいと思う。わたし的には、大変楽しめました。以上。

↓ わたしとしては、どこでロケをしたのか凄く知りたいんだよな……あれは荒川の土手かな? どこの河原なんだろう。コイツにはロケマップが収録されているようなので、チッ……買うしかねえ、か……。