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 わたしは映画や小説、漫画などの「物語」というものを、ほぼ毎日味わっているわけだが、好みとして、やっぱり主人公の言動に共感し、ともに物語の世界を歩みたいわけで、主人公に共感できないと、どうしても面白いとは思えないし、読んでいてあるいは観ていて、実に苦痛である。
 これは別に、主人公には善人であってほしい、というわけではなく、悪党であっても、きちんと「だからこうする」という理由のようなものがあって、それが徹底されていればいいわけで、一番わたしが嫌悪するのは、考えの底が浅く、「なんでお前はそんなことを?」というのが全く理解できないような、うすらトンチキ、あるいは悪意の塊、のようなキャラである。そういうキャラは、ああ、コイツはさっさとくたばらねえかなあ、とか思いながら物語を見物することになるが、それが主人公がそういうトンチキだと、もはや結末もどうでもよくなってしまうというか、つまんねー話、という最終結論に至るのである。
 というわけで、わたしは今日、東宝作品『来る』を観てきたのだが……これは……我ながら面白いと思ったのか、つまらねえと思ったのか、まだよくわからないという不思議な作品であった。今現在、わたしが確信を持って言えそうなことは、役者陣の熱演は極めて上質で素晴らしかったことだけであろうと思う。脚本(=物語)、演出、これについては……どうなんだこれ……ズバリ言うと、全然怖くなかったすね。つうか、極論かもしれないけど、この映画って、ひょっとしてコメディだったのかな? そんな気さえしている。
 というわけで、以下はネタバレに触れる可能性が高いので、これから観ようと思ってる人、あるいは超最高だったぜ、と思っている人は読まずに退場してください。

 わたしがこの映画を観ようと思ったのは、この予告を観て次のことを思ったからだ。一つは、うおお、岡田くんカッコいいなあ! ということ、そしてもう一つは、久しぶりに松たか子様の強力な演技が観られそうだぞ!? という2点で、物語としては、幸せな夫婦の娘を狙う「アレ」なるものを祓う話だろう、とうすらぼんやりと見当をつけていた。
 が。ズバリ言うとわたしの予想は大筋では間違っていないものの、物語はかなり予告から想像していた展開ではなく、かなりの変化球であったと思う。物語の具体的な流れはもう説明しないが、おそらく原作小説は、まさしく湊かなえ先生の『告白』的な、1人称小説&章ごとに語り手が変わるタイプなんだと想像する。しかし、映画としてその構造がうまくいってるかは、かなり疑問だ。
 普通に考えて、1人称で語り手がチェンジする物語の面白さは、芥川の『藪の中』、あるいは黒澤明監督の『羅生門』的に、一つの共通した事象について、観る人が変わるとその内容も全然違ったものになる、という点にあると思う。さらに言えば、それぞれのキャラクターの言い分も実は全然事実と違ってた、という展開もよくあって、そこに、な、なんだってー!?という真実が明らかにされる(あるいはまさしく真相は藪の中で終わる)というのが王道だろうと思うのだが……。
 本作では、まず最初に夫がいかに満点パパだったかというなかなか気持ち悪い物語を観せられる。次に妻の視点から、夫は100点どころか0点でさえなく、マイナス100点のクソ野郎だったことが語られる。しかし観客としては、そんなこたあどう観ても分かってて、でしょうな、としか言いようがなく、妻もまた、(夫がクソ野郎だったからとはいえ)なかなか香ばしい人物だったことが提示される。そして、二人がこの世を去った後、第三者が必死で後始末をつける顛末が最後に描かれるわけだが、残念なことに、事件の核心たる「アレ」については、問題とされないのだ。「アレ」こそが核心であり、それを様々な視線から見た時の違いが、映画的に面白くなるはずだったと思うのだが……単に夫婦の裏の顔ともいうべき本性が暴露されるだけなので、はっきり言って底が浅く陳腐だ。結果として、そもそもの「アレ」が何故いつまでも娘を狙っているのかがさっぱり分からない。まあ、「アレ」の行動原理など分かりようはないので、それはそれでいいのかもしれないけれど、わたしにはどうも釈然とせず、結論として、なんだったんだ……としか思えないのであった。
 というわけで、各キャラクターと演じた役者をメモして行こう。
 ◆田原秀樹:夫。最初の語り手。たぶんそもそもの元凶。一言で言えばクソ野郎で、見事死亡する。わたしは心の底からざまあとしか思わなかった。が、コイツが死んでも「アレ」は収まらず。コイツはどうやら幼少時に一人の少女の失踪事件に関係があったようで、それがそもそもの元凶だったのだと思うが、その事件が何だったのかは結局なにも描かれず。単に、その失踪した少女に、「うそつきだからお前もそのうち狙われるよ」と言われていた過去だけが描かれる。そして大人になったコイツは、まさしくとんでもない「うそつき」野郎で、救いようのないゲス野郎に成長。結婚前も後も会社の女に手を出しまくっていたらしい。つうか、お前は結局何だったんだ? なんで「うそつき」な人間なのか、説明が欲しかった。あの実家のクソどもに育てられたからってことかな? こんなゲス野郎を、超見事に演じた妻夫木聡くんは本当に演技派だと思う。何が見事って、コイツのような外面だけよくて実はゲス野郎、っていう人間は、もうそこら中に普通にいそうなんですよね……。そのリアルさが超見事だと思います。しっかし……結婚式などでいかにも訳アリげだった会社の女は、物語において何の役も果たさなかったのは何だったんだ……。
 ◆田原香奈:妻。第2の語り手。この人は恐らく完全に被害者(だよね??)なので許してもいいかも……まあ、精神的に虐待されてたともいえそうだし、実の母もクソ女だし、気の毒だったと思うべきなんだろうな……。余裕で浮気してた(? しかも夫は知ってたっぽい。NTRを喜ぶ変態だったってこと?)ことは、利用されたってことで許してもいいか。でも、まあ、男を見る目がなかったってことですな。そんな薄幸の女子を演じたのが、若干幸薄そうな昭和顔でお馴染みの黒木華さん。これまた超見事な演じぶりで、控えめでおとなしそうな妻の顔、何もしない夫と言うことを聞かない娘にブチギレる母の顔、そして珍しくドぎついメイクで男に抱かれる女の顔、の3つを超見事に演じ分けてらっしゃいました。実際素晴らしかったと思う。初めて黒木華さんをエロいと思ったす。
 ◆津田大吾:どっかの大学の准教授。秀樹の高校時代の親友。ホントに親友なのかは相当アヤシイ。お互いがお互いを利用してただけというか、ま、薄っぺらい友情だったんでしょうな。そしてコイツも残念ながらクソ野郎で、どうやら秀樹が生きているうちから英樹の会社の女や、あまつさえ香奈にも手を出してた模様。しかも、コイツが「アレ」を呼び寄せるお札を仕掛けていた事件の張本人(?)なのだが、この伏線というか仕掛けをもっと物語に上手に盛り込めたはずなのに……ほぼ詳細は語られず。ま、最終的には見事死亡して、心底ざまあです。演じたのは青木崇高氏。優香嬢の旦那ということ以外、よく知らないす。まあ、あんな准教授はいないでしょうな。リアル感ゼロ。
 ◆野崎:第3の語り手。フリーライター。口は悪いけど、本作では一番の善人。とにかく演じた岡田准一氏がカッコイイ! ルックスのカッコ良さはもちろん、しゃべり方もカッコいいし、非常にそれっぽい。要するに演技的に一番素晴らしかったと思う。さすがはジャニーズ演技王ですよ。しかし、野崎についても、元カノと堕胎した子供に関するエピソードは、部外者たる野崎が「アレ」と対峙する重要な動機であるにもかかわらず、中途半端にしか描かれていないのは残念に思った。結果的に野崎はかなりお人よしにしか見えないことに……。
 ◆比嘉真琴:野崎の現・恋人なのか? 職業はキャバ嬢らしいが(キャバシーンは一切ナシ。普段何してるのかちゃんと描写してほしかった)、沖縄のシャーマン的な一家の出身で、霊感バリバリなパンク女子。真言を唱えていたので仏教系術者か? メイクはアレだけど相当可愛い。秀樹→津田→野崎と依頼されて、最初に「アレ」と対峙するが……。演じたのは小松奈菜ちゃん。今までの可愛らしい顔を封印した、気合の演技だったと思う。素晴らしい!
 ◆比嘉琴子:真琴の姉で、超絶パワーの持ち主として、裏では知られた人物らしい。警察さえも動かせる権力を持っている。姉は神道系術者か? 儀式は仏教系と神道系が両方タッグ?で行われていて、あの描写は非常に興味深かったです。きっとこのお姉さまは政治家とかのスピリチュアル顧問のようなことしてるんでしょうな。真琴では手に負えない「アレ」を祓うため、一人術者を派遣したのちに満を持して登場する。演じたのは松たか子様。いやあ、たか子様の演技は相変わらず完璧ですなあ……しかし、演出に問題があるのか、完全にもう、笑わせに来てるというか、極端すぎて漫画のようになってしまったのがとても残念。この演出によって、わたしは「怖さ」をまったく感じなくなったわけで、たか子様の演技が完璧だっただけに、陳腐な漫画的演出は全くの無用だったとわたしは感じた。笑わせたかったのなら、成功だけど。
 ◆逢坂セツ子:真琴では手に負えず、琴子お姉ちゃんが最初に派遣した霊能者。演じたのは柴田理恵さん。どう見ても柴田さんなんだけど、今までにこんな柴田さんは見たことのないような、強力に雰囲気バリバリな霊能者で、素晴らしく超熱演だったと思う。一切笑わない柴田さんは初めて見た。
 とまあ、こんな感じであった。最後に監督について短くまとめて終わりにしよう。
 本作の監督は、中島哲也氏だ。わたしは中島監督の作品をいくつか観ているが(全部は観てない)、まあ、特徴的な画を撮る監督としてもお馴染みだろうし、物語的にも、かなりイヤな人間が多く登場することでもお馴染みだろう。ただ、今までの作品は、クソ野郎であっても、きちんと観客として共感できる面を持つキャラクターが主人公だったと思う(大抵女性が主人公なので野郎ではないけど)。しかし、今回は……まあ、主人公が誰かというのはもう観た人が決めればいいことだし、複数いる場合だってあるので、別に主人公にこだわるつもりはないのだが……とにかく、観せられたのは、薄汚れた人間が謎の「アレ」に狙われ、まともな部外者が一生懸命助けようとする話で、どうにも共感しようがなかった、というのがわたしの抱いた感想だ。しかも「アレ」については一切説明ナシ、であった。妙な時間経過もどうも意味不明というか……その間なんで平気だったのか、どうして急にまた怪異が起き始めたのか、など、まったく触れられずである。
 これはひょっとすると、わたしが世界で最も好きな小説家であるStephen King大先生的な物語を狙っているのかもしれないし、実は原作小説はそれがうまくいっていて超面白いのかもしれない。けれど、この映画だけでは、それが見事に決まったかというと、全然そうは思えなかった。むしろ、これってコメディなの? としか思えず、かといって全く笑えず、怖くもなく、なんだかなあ……というのがわたしの結論である。ただし、何度でも言いますが、役者陣の熱演はとても素晴らしかったのは間違いない。その点では、観た甲斐はあったと思います。
 あ、あと、どうでもいいけど、エンドクレジットはアレでいいのかなあ(今回は2~3秒で全面書き換わっちゃうものだった)……わたしは結構、エンドクレジットで、なんていう役者だったんだろうか、とか真面目にチェックするのだが……あのエンドクレジットでは全く目が追いつかず、であった。わたしはエンドクレジットに関しては、興味のない人はさっさと席を立ってもOKだと思ってるけど、実は柴田理恵さんの演じた役は、柴田さんだろうと観ながらわかっていたものの、あまりにTVなどでお馴染みの柴田さんとはかけ離れていたので、クレジットで確かめたかったのだが……それに、野崎の元カノを演じた方や、秀樹の会社の女を演じた方など。確かめようもなかったのも残念。誰だったんだろうか。ああいう不親切なクレジットは、好意的にはなれないすなあ……。あれって中島監督作品はいつもそうなんだっけ?

 というわけで、もう書いておきたいことがないので結論。
 予告を観て、おっと、これは面白そうだぞ、と思って観に行った映画『来る』。確かに役者陣は素晴らしく、その演技合戦は極めてハイクオリティではあった、が、脚本と演出なのかなあ……まず第一に、全く怖くない。それは「アレ」の説明が一切ないからなのか、それとも過剰な演出が漫画的であったからなのか、各エピソードが散らかっていて中途半端だからなのか、もはやよくわからないけれど、結果として、なんかよくわからねえ、という感想を抱くに至ったのである。まあ、とにかく第1の語り手である秀樹のクソ野郎ぶりがホントに気持ち悪かったすね。そしてわたしにそう思わせた妻夫木くんの演技は、抜群だったってことでしょうな。そして初めて黒木華ちゃんをエロいと感じました。お見事だったすね。岡田くんも実にカッコ良かったし、松たか子様の余裕の演技ぶりは大変満足です。が、演出と脚本が……漫画みたい&説明不足で残念す。以上。

↓ 原作を読めってことかもな……ちょっとチェックしときますわ。

 わたしは映画や小説が大好きである。それはもう、このBlogを読んでもらえれば理解していただける通りであろう。実際、わたしがクソオタク野郎であることは、わたしの周りの人々にも認知されている事実だ。映画や小説、あるいは漫画、そういったものの他にも、好きなものはいっぱいあって、宝塚歌劇も大好きだし、登山やマラソンなどの持久系スポーツも得意だ。そんなわたしだが、歴史も日本史・世界史問わず好きで、中でも、信長の台頭から関ケ原に至る流れは、結構詳しいつもりでいる。
 なのでわたしは、司馬遼太郎先生の『関ケ原』が映画化されると聞いた時は、そりゃあ観に行かないとダメだな、と断定し、キャストも、石田三成をジャニーズ最強演技王の岡田准一氏が演じるとなれば、こいつは傑作の匂がするぜ……? とさえ思いこんでいた。
 というわけで、昨日から公開された映画『関ケ原』を早速観てきたのだが、のっけからもう、わたしはこの映画に対して、若干イマイチだったという旨を表明せざるを得ないだろう。確かに、確かに役者陣の熱演は素晴らしく、実に見ごたえはあった。三成の岡田氏、家康の役所広司氏など、本当に素晴らしい、渾身の演技だったことは間違いない。だが、はっきり言って、期待したほどは面白くなかった。それは一体なぜか? 以下、考察してみたい。いや、考察というか、答えはもうごく簡単で、一言で言えば、まとまりがない、ように思えたのである。おそらくそれは、本作を観た人ならばほぼ確実に感じることなのではないかとわたしは思う。

 とまあ、予告の出来は素晴らしくイイ! この予告を観たわたしのような歴史オタは、こ、これは期待できる! とゴクリと唾をのんだはずだ。だけど、観終わったわたしが真っ先に思ったのは、何とも言いようのない、もやもやした思いである。何がそうさせたのか。すでに前述のように、まとまりがない、とわたしは評したが、それは次のような点からそう思ったのである。
 ◆とにかく説明がなくて分からん
 1)登場人物が多すぎて誰だかわからない。
 まあ関ケ原の戦いを描くとなれば、そりゃあキャラクターが多いのはやむなしであろうとは思う。しかし、それにしても多すぎる。誰かが名を呼ばないとわからないようなキャラも多く、例えば大谷刑部井伊直政の鎧のような、ビジュアル的特徴がある場合は、わたしのような歴史オタならすぐに分かっても、残念ながらそうでない観客もいっぱいいるはずだ。わたしが観た回は、けっこう子供連れの親子も多く、ちびっこには100%理解不能だったのだろうと断言できる。なぜ断言できるかって? だって、わたしの隣に座ってた小学生ぐらいのちびっこ、通路を挟んだ隣の中学生ぐらいのガキ、二人とも、ぐっすり寝てましたよ。そりゃあ無理だったんだろうな。わたしですら、エンドクレジットを観て、あ、上杉景勝は登場してたんだ、そうか、五大老がそろうシーンがあったんだから、そりゃあいただろうな、でも、どれだったんだ? とか、もうさっぱりである。
 2)視点が定まらず、群像劇として軸がブレている。
 この、膨大ともいえるキャラクターたちの中で、本作の物語の軸となる主人公は、三成ようでいて、家康のようで、あるいは初芽や金吾だったりと、いわゆる群像劇のようになっているのだが、ほぼ、キャラクターの背景などの説明はないため、どうしてそのキャラがその行動をとるかという説得力に欠ける。この点も、歴史オタには通じても、そうでない観客には通じないだろう。群像劇は、それぞれをしっかり追う必要があるものだと思うけれど、かなり描かれる情報量に濃淡があって、どうも1本筋の通った軸が感じられず、あれもこれも、と手を出した結果、ブレブレにしか感じられなかった。俯瞰的な、神様視点で関ケ原の戦いを描きたかったのだろうか? だとしたら、失敗していると言わざるを得ないだろう。戦場の様子も正直良く分からず、どうして今の状況で、金吾がどう動くかで戦いの趨勢が決まるのか、まったく伝わっていない。おそらく関ケ原の戦いについて知識のない人が見たら、まったく理解できなかっただろうとわたしには思えた。
 3)端折りすぎて事件の経過も分からない。
 さらに理解を妨げるのは、場面がかなり時間的にも空間的にも飛びまくる点だろう。省かれてしまった出来事が多すぎて、なぜそうなったのか、キャラ説明もないだけに、明らかに説明不足だ。わたしが致命的に感じたのは、例えば、直江兼続と三成が挟み撃ちにするという作戦を立てるシーンを入れたのに、なぜ上杉軍は動かなかったのか、一切説明はなく省かれている点だ。また、三成が襲撃を察知して家康のところに転がり込んだ後の奉行解任・佐和山蟄居の流れも一切カット。さらに、珍しく薩摩島津家も登場させた本作だが(しかも『DRIFTERS』でおなじみの豊久までちゃんと出演させたのは大興奮!だけどまったく出番なし!)、島津家の思惑もまったくふわっとしか描かれず、何のために出てきたのか全く謎のままであった。アレじゃあ分からんだろうなあ……と思う。

 以上の3点は、重なり合っていて、上手く分類できなかったが、結局のところ「キャラが多すぎ、それぞれの背景も分からず、それぞれの思惑が分からない」ということに尽きると思う。これはたぶん誰が観てもそう感じることだと思う。わたしとしては、「軸のブレ」が非常に気になったことで、とにかく、本作のような群像劇は完璧な計算が必要なはずなのだが、どうも配分というか、共感度合いというか、ポイントが絞れておらず、結論としてわたしは「まとまりがない」と思うのである。逸話としての有名なエピソードをあれもこれも、と取り入れいるうちに、逆に重要な情報がそがれていき、軸が失われてしまったような印象だ。本当に残念である。

 しかし。以上の点は役者陣には一切責任はなく、各キャストの熱演は本物であり、パーツパーツでは大変見ごたえはあったことも間違いないと思う。というわけで、素晴らしい熱演で魅せてくれた役者陣に最大級の敬意を表して、各キャラ紹介をしておこう。
 ◆岡田准一氏 as 石田三成:素晴らしいの一言。NHK大河で演じた黒田官兵衛もすさまじい気迫あふれる渾身の演技だったが、今回も素晴らしかった。本作での三成は、秀吉の治世を「利害による治世」であると否定し、「義による政体」を樹立すべきであるとする男として描かれている。それはそれで美しいけれど、まあ、現代も利害によって国が成り立ち世界が成り立っているのは間違いないわけで、やっぱり「大一大万大吉」の世は夢と消えるのはどうしようもないでしょうな。いずれにせよ、とにかくカッコよく素晴らしい演技であった。
 ◆役所広司氏 as 徳川家康:まあ、本作は三成視点の方に重点が置かれているので、悪役としての登場だけれど、役所氏の演技は相変わらず素晴らしく、歴代家康史上でも最高峰の家康ぶりであったように思う。今回の描かれ方は、確かに憎々しい悪役テイストではあったけれど、客観的に見れば現代ビジネスの世界ではごく当たり前の気配りによる調略で、なんというか、ここが家康の凄いところだ的なものは感じられなかったように思う。まあ、そりゃあ三成は、こんな家康の配慮の前には孤立しますわな。
 ◆有村架純嬢 as 初芽:歴史上の人物ではなく創作キャラ、だと思う。わたしは正直、まーた架純ちゃんを登用して変なLOVE展開でも付け加えるんだろうな、と大変失礼な高をくくっていたのだが、実に、実に素晴らしい演技で、大絶賛したいと思う。本作では、関ケ原の戦いが情報戦であったことも描こうとしていて、その情報戦の主役たるスパイ=忍の者、にも結構大きな役割が加えられている。各陣営に雇われている伊賀者が、陣営の壁を越えて夜集まる「忍び市」なる情報交換会が行われていたという描写があって、それは非常に興味深かった。しかし、やっぱりいろいろと説明不足であったし、これは忍びの者としての演出なので架純ちゃんには全く非がないことだが、非常に早口で、セリフが聞き取りづらかったのも少し気になった。ただ、架純ちゃんの演技はとにかく素晴らしかったと絶賛したい。
 ◆平 岳大氏 as 島左近:わたしにとって左近といえば、原哲夫先生の漫画や、その原作である隆慶一郎先生の小説『影武者徳川家康』で超お馴染みの武将だが、演じた平氏はそのビジュアルといい、演技ぶりといい、もう完璧であったと思う。とにかくカッコイイ。これまた歴代左近史上最高だと思った。
 ◆東出昌大氏 as小早川秀秋 a.k.a."金吾":さまざまな関ケ原に関する物語で、「裏切り者」と言われる金吾だが、本作では、本当は三成に協力したかったけれど家康によって配備されていた柳生宗章に無理やり徳川につかされたという描写になっていた。そして、戦いの後に捕縛された三成からはやさしい言葉をかけられるなど、裏切り者としてよりもかわいそうな人、という扱いであった。演じた東出氏は、まずまずであったと思う。ちなみに、剣聖・柳生石舟斎もチラッと出てきてわたしとしては大興奮であった。
 ◆福島正則加藤清正黒田長政の「三成ぶっ殺し隊」トリオ:正直存じ上げない方が演じていたので割愛。描写としては、これまでもよく見た「過激な若者たち」で、特に思うところはない。ただ、一つメモしておくと、有名な長政の兜(水牛の角のアレ)と正則の兜(以後、長政の兜としておなじみの一の谷型のアレ)を交換して和解するシーンがあるのだが、2年前、福岡で開催された「大関ケ原展」での解説によれば、一の谷型の兜は、当時はゴールドの金箔が張られていた可能性があるらしいのに、本作では現在残っているもののようなシルバーであった。まあ、その後の調査でも、うーん、金だったのか銀だったのか、良く分からんというのが現在の結論のようなので、文句は言わないけれど、ゴールドの一の谷兜も観てみたかったすね。わたしは実物を福岡で観ましたが、意外と長政は小柄なお方だったようですな。
 ◆松山ケンイチ氏 as直江兼続:もう完全にワンシーンのみ。マツケン氏の芝居は全く文句はないけれど、三成最大の同盟者たる上杉家についてはほぼ何も描かれずだったのは残念です。まあ、本作においては本筋ではないという判断なのだろうけれど、三成の「義」を強調した物語なのだから、「義の上杉家」をカットするのはちょっともったいないと思った。
 あーイカン、キリがないので、あと大物を二人だけ。
 ◆西岡徳馬氏 as 前田利家:いやーカッコ良かった。大納言様がカッコイイとやっぱり締まりますな。三成ぶっ殺し隊の若者たちを一喝するシーンはとてもカッコ良く、西岡氏の貫禄が非常に大納言・利家にマッチしていたと思う。
 ◆滝藤賢一氏 as 豊臣秀吉:いやー、やっぱり滝藤氏は演技派なんすねえ。実にいい芝居であったと思う。ただし、本作においては若干チョイ役で、秀吉の執念じみたものにはあまり重点は置かれていなかったように感じた。

 思うに―――といっても完全な素人映画オタクの浅はかな考えだけれど、やっぱり取捨選択を一本筋の通ったものにする必要があったのだろうと思う。例えば、完全にもう”情報戦”というコンセプトに絞って、いかに三成と家康は自らの陣営を整えていき、三成の切り札は上杉家と金吾の動きであり、家康の切り札は金吾の寝返りに尽きる、というような、そこが崩れれば負けてしまう、という、両陣営ともに実にあぶなっかっしい、ギリギリの戦いだった、ということに絞ればよかったように思う。そうすればもっと登場キャラクターを整理して絞ることが出来たろうし、画面に登場させなくても忍びの報告で状況は説明できたのではなかろうか。そして最大のポイントである「義」と「利」の対立も、もっと明確に描けたのではなかろうかと思うのである。期待した大作だけに、とても残念だ。

 というわけで、結論。
 かなり期待して観に行った『関ケ原』であるが、どうも、何もかも説明不足で、「一見さんお断りムービー」に仕上がってしまっていたように思われる。しかし、キャスト陣の熱演は素晴らしく、とりわけ三成を演じた岡田准一氏は素晴らしい! また、有村架純嬢も、期待よりもずっとずっと見事な演技であった。もう少し、コンセプトを絞って、徹底的な緊張感のある凄い映画にしてほしかった……ちなみに、パンフレットは非常に分厚く、物語に描かれなかった情報満載で大変読みごたえがあります。が、パンフで補完されてもね……なんというか、実に残念です……。以上。

↓ 今わたしが一番見たい映画。関ケ原の戦いという題材は日本人なら誰でも知っているお馴染みのもので、イギリス人ならだれでも知っているらしいダンケルクの戦いに近いような気がするんすよね。果たして天才Nolan監督は、そんなダンケルクの戦いをどう描くのかが楽しみです。

  今日は14日である。14日というと、わたしが映画を見るシネコンであるTOHOシネマズは、「トー・フォーの日」として、1,100円で映画が見られるので、お得なのです。世の女性には「レディースデー」なるお得な日が毎週あるにもかかわらず、男にはそのようなサービスデーがないのは非常に逆差別を感じざるを得ないが、まあ、仕方ない。
 というわけで、今日は帰りに『図書館戦争 THE LAST MISSION』を見てきた。個人的にこの作品にはいろいろ関係があるのだが、まあそれは置いておくとして、一観客として、十分に楽しめた作品であった。

 原作はもはや紹介の必要はなかろう。有川 浩先生によるベストセラーで、第1巻目に当たる『図書館戦』がハードカバー単行本で発売されたのは2006年。改めて考えるともう発売から9年が過ぎている。それは、発売当時すぐに読んだわたしからすると、ちょっと驚きだ。もうずいぶん経ったものだ……読んで、ああ、これはすごい小説だと思ったが、以降、シリーズとして、第2作目の『図書館内乱』、3作目の『図書館危機』、そして完結編となる『図書館革命』という4冊が発売になり、さらに加えて、番外編というかキャラクターごとのスピンオフも2冊出版されている。全て非常に売れている作品だ。また、既にアニメ化・漫画化も行われており、数多くにファンに愛されているすごいコンテンツである。
 実写映画は、今回2作目。前作は2013年に公開されたが、基本的には第1巻の『図書館戦争』に沿った展開であった。そして今回の『The Last Mission』は、原作でいうところの第3巻『危機』の内容を踏襲している。てことは、2作目の『内乱』はどうなった? とまあ普通は思うことだと思うが、その第2巻の内容は、先週TBSで放送された(この映画はTBS主幹事製作)、スペシャルドラマ『図書館戦争 ブック・オブ・メモリーズ』で描かれている。ので、そちらを見る必要がある。この『内乱』にあたるドラマでは、主人公・笠原郁と両親の関係を描くエピソードや小牧と毬江ちゃんのエピソード、それから手塚と兄と柴崎の関係性も描かれているので、派手な戦闘は控えめではあるものの、シリーズ全体から見るとかなり重要だと思う。すぐに再放送されることはまあ常識的に考えて難しいとは思うが、見逃した方は、どうやら今日、DVD/Blu-rayが発売になったようなので、そちらを見ていただきたい。こちらのドラマも非常に良かった。
図書館戦争 BOOK OF MEMORIES [Blu-ray]
岡田准一
KADOKAWA / 角川書店
2015-10-14

 で。今回の映画第2作『The Last Misson』である。原作とは若干の違いがあったが、正直全く問題なし。非常に流れもよく、うまく2時間にまとまっていた。監督と脚本は、第1作から引き続き佐藤信介監督と野木亜紀子さんのコンビだ。パンフレットによれば、有川先生がとても信頼する二人だそうで、野木さんはTVドラマ『空飛ぶ広報室』でも有川作品を手がけており、おそらく、有川作品への愛が最も深い脚本家ということのようだ。先ほども書いた通り、物語は若干原作よりも駆け足展開だが、映画として何ら齟齬はなく、問題はない。一つだけ注文を付けるとしたら、何か季節を表すセリフなり情景が欲しかった。何しろ、現在の現実世界は秋である。が、映画世界は春になる少し前(これ原作通り)で、キャラクターはコートを着ている。ひょっとしたら、原作を読んでいない人だと、年末に向かう冬だと思ってしまうかもしれないので、何かちょっとした季節感を表すものが欲しかったかもしれない。ちなみに、この『図書館戦争』という作品では、「カミツレ」という花が重要な意味を持っているのだが、さっきいろいろ調べたところによると、この花は春の花で、3月~5月あたりに咲く花なのだそうだ。花言葉は「逆境に耐える」。作中では極めて意味が深い。ちなみに、我々としては「カモミール」という名の方が知られているだろう。ハーブティーやハーブアロマオイルでおなじみのアレだ。「カミツレ」とは「カモミール」の和名なんですって。へえ~。まあ、「カミツレ」が咲いている=「春」ということで、季節感を表現できているとも言えるのかもしれないが、なんとなく、わたしにはクリスマスへ向かう雰囲気のように見えて、ちょっとだけ気になった。

 キャストもまた、前作から引き続き同じメンバーである。主役の郁、堂上のコンビは、かの「ダ・ヴィンチ」の有川先生特集の号において実施された、「映画化するならキャストは誰がいい?」投票で1位になった榮倉奈々ちゃんと岡田准一くんのコンビである。原作では、この二人は背の高さのギャップがあって、女子の郁の方が背が高く、男の堂上の方がちょっと背が低い設定になっていてそこがまたひとつのポイントなのだが、きっちりそれも映画で実現している。しっかしホントに、榮倉ちゃんはデカイ。顔が非常に童顔なだけに、なんだかひょろっとした不思議な感じがするが、だがそれがいい、のであろう。前作のときに舞台あいさつで遠くから本人を目撃したのだが、実際非常にかわいい女子でした。なんというか、芝居ぶりが非常に、原作読者が想像していた「笠原 郁」そのものなのだ。とてもいいと思います。一方、岡田くんも、おそらくはジャニーズNo.1の演技力で、去年の日本アカデミー賞では、最優秀主演男優賞と最優秀助演男優賞を同年ダブル受賞した実力派である。去年のNHK大河ドラマ『軍師 官兵衛』でも、素晴らしい演技を披露してくれたことは記憶に新しい。また、この映画には、偶然なんだろうけど『官兵衛』のキャストが数人出ている。岡田くん演じる堂上の相棒である小牧を演じたのは、田中圭くん。『官兵衛』では、石田三成をイヤ~な奴として見事に演じていた。また、今回の映画からの新キャラ(※実際は2作目『内乱』にあたるスペシャルTVドラマで既にチラッとお目見え済み)である、手塚 慧には、わたしにとってはシンケンレッドでおなじみの松坂桃李くんがカッコよくエントリー。彼は『官兵衛』では岡田くんの息子、すなわち黒田官兵衛の息子たる黒田長政を演じた男だ。どこかで聞いた話では、桃李くんは今でも岡田くんのことを「父上」と呼んでいるそうですよ。そして長政といえば、三成ぶっ殺し隊のリーダー格であるので、不思議な因縁のキャストになっているが、まあ、偶然でしょうな。しかし、桃李くんは本当にカッコよくなった。もちろん、デビュー作の『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッドの時からカッコ良かったが、どんどんそのカッコ良さは磨かれているように思う。また、劇中で弟役となる福士蒼汰くんも、デビュー作『仮面ライダー・フォーゼ』から見事に成長し、すっかりイケメンとしておなじみとなった。なんだか見るたびに痩せていっているような気がするが、今後も頑張って活躍してほしいものだ。
 ちなみに、どうでもいいことを一つ付け加えておくと、先ほど前作を観たときにキャストの舞台挨拶を観たと書いたが、その時のわたしの印象に一番強く残っているのが栗山千明様だ。劇中でも非常に、まさしく原作でイメージしていた通りの柴崎を演じているが、本人のちびっ子さ、華奢さ、そして、マジでハンパないオーラというか、完全に一般人が気安く声をかけることはできないような、超絶な可愛さは、本当にビビった。はあ……千明様と京都に旅に出たいわ……いや、無理ですけどね。

 というわけで、結論。
 脚本もキャストも演出も、すべて良かったと思う。おそらく、この映画を観た有川先生はきっとうれしいだろうなと想像する。有川先生の作品に共通するのは、キャラクターが常に、心にやましいところのないように、まったくもってまっとうで、真っ直ぐに生きようとしている人々を描いている点にあると思う。だから、読んでいる我々は、自らを省みて、ちょっと自らを恥ずかしく思うこともあるし、また、同時に深く感情移入できてしまう。「こうでありたかった自分」を思い出さずにいられないのだ。また、普段の生活ではまったく自覚していない、自らの不用意な言葉や行いが、どれだけ他者に影響を与えてしまうかを振り返らせてくれることもある。そういう点が魅力なのだと思う。『図書館戦争』も実際のところそういう部分はあり、映画でも存分にその魅力は伝わったのではなかろうか。興行収入が前作を超えるとうれしいのだが。
(※10/21追記:興行収入が2週目まで出ている→こちらを参照)


↓ 次の有川先生の新作。なんと「コロボックル」ですよ!


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