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 先日の日曜日、午前中にぶらっと、久しぶりに京王線に乗って「芦花公園駅」に降り立ったわたしである。隣の千歳烏山は、親戚が住んでいて、わたしには大変お馴染みな街なのだが、わたしが芦花公園駅に降り立つのは、おそらく30年ぶり以上の久々だ。各駅しか止まらないため、何気に新宿から時間のかかるこの駅に、わたしは一体何のために降り立ったのか?
 えーと、サーセン。分かるわけないっすね。
 なので素直にお話しますが、↓コイツを観に行ってきたわけであります。setagaya05
 「世田谷文学館」というところで開催中の、『上橋菜穂子と<精霊の守り人>展』である。
 ロケーションとしては、京王線の芦花公園駅から歩いて5分もかからないぐらいの閑静な住宅街の中にある。駐車場もあるらしいので、最初は車をかっ飛ばしていくかとも思ったのだが、まあ、首都高の渋滞にイラつくのも嫌だし、ま、ここはおとなしく電車で行ってみるか、というわけで、久しぶりの京王線乗車と相成った。駅から、まっすぐ歩いていくと、↓こんな感じにズドーンと看板もあるので、実際迷いようはないです。
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 10時OPENということで、わたしが現地についたのは9:55頃だが、ガラガラだろうな、と思っていたら、5人ぐらい、親子連れや熱心なファン(?)と思われる方が既に並んで待っていた。わたしはNHKのドラマから入った超・にわかファンなので大変失礼ながら、上橋先生のファンの規模の想像がついてませんでした。さすがすね。
 で。すぐに会場になり、チケットを買って入っていくと、すぐ、チケットもぎりの横に、こんな風に、「バルサの短槍」がこれまたズドーンと展示してあって、さっそくテンションが上がってきました。
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 これは実際の放送で使った奴っぽいですよ(?いや、サーセン。興奮しててちゃんと文字読まなかったので未確認)。ここは写真撮っていいよゾーンでした。
 中は、まず前半は、「守り人シリーズ」関連の展示があって、後半は上橋先生ゾーンとなっている。これまでの「守り人シリーズ」の歴史が分かる展示、実際に上橋先生が使ってたPC(富士通のFM-Vだった)や、初稿ゲラや入稿原稿などを観ることができる。そして「国際アンデルセン賞」のメダルや、デンマーク王室からの手紙だったり、上橋先生の活躍の軌跡を知ることが出来る展示となっている。
 そしてメインの広い展示では、NHKドラマでの衣装や小道具などの展示や、残念ながら今年、若くして亡くなってしまった、挿絵を担当されていた二木真希子さんの生原稿なども展示されていた。
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 ↑ ここも、撮影していいよゾーンでした。左の衣装が、まさしく綾瀬はるかちゃんが着ていたバルサの衣装ですな。右と真ん中はチャグム君の衣装ですね。ホントはさらに右にも、ジンの衣装だったかな? も、展示されてます(シュガの衣装だったかな……いや、ジンだったと思う)。ちなみにジンを演じた松田悟志さんは、わたしにとっては「仮面ライダー龍騎」における、仮面ライダー・ナイトでお馴染みの、大変カッコイイ人です。
 ちなみに、わたしがとても、へえ~、と思ったのは、この「守り人シリーズ」の刊行前に、上橋先生が偕成社の編集に原稿を送る時に同封した手紙が展示されていたのだが、その中で、もし出版して、挿絵をつけるなら、二木真希子さんにイラストを担当してほしい、と要望していることが書かれていて、このこと自体は確かあとがきでも書かれていたと思うけれど、原稿を送る時点ですでに指名してたんだなあ、というのは大変興味深かった。
 で、後半は、上橋先生の文化人類学者としての研究史のような感じにさまざまなものが展示されている。文系で博士号を取得するのは非常に大変で、わたしは博士前期課程(=いわゆる修士)でさっさと見切りをつけてしまった男なので、修士論文を書くことで終わりにしてしまったが、文系の博士号取得者にはもう、無条件ですげえと思ってしまう。しかも文化人類学という、フィールドワークが基本の学問だ。机にかじりついていればいいものでは全くないだけに、わたしの上橋先生に対する尊敬は三倍増しである。ほんとうに、地道で孤独な日々だったと思う。修論を書くのにかなり苦労したわたしには、博士論文なんて、そりゃあもう、精神的にも肉体的にも相当過酷であったことは想像に難くない。

 というわけで、わたしは『上橋菜緒子と<精霊の守り人>展』を楽しく堪能してきたわけであるが、わたしはつくづく思ったことがある。それは、おそらく「守り人シリーズ」は、その発表があと10年遅かったなら、完全にいわゆる「ライトノベル」に分類されるものだったのではないか? ということだ。もちろん、偕成社という児童書の出版社から刊行されていたらやはり児童書として区分されたかもしれないけれど、実際、10代20代、あるいはもっと上のわたしのようなおっさんが読んでも非常に面白い作品でもあるし、ライトノベルのどこかのレーベルから刊行されても全く違和感のない作品である。この「守り人シリーズ」を、ライトノベルではなく児童文学にカテゴライズさせた一番の要因は何なのだろう?
 時代? 出版社? そもそもの内容? おそらくはそれぞれが要因であることは間違いないが、おそらくもっとも重要なのは、会社の売上や利益よりも、作品本位で作品そのものを大切にする編集者や営業・宣伝との出会いが一番の要因ではなかっただろうかとわたしは思うのである。昨今のライトノベルは、無理矢理アニメ化してアニメが終わったらもう誰も見向きもしないような実に残念な状況だ。それじゃあ、作品が育つわけはない。
 ちなみにわたしが、日本の小説で最も好きで、今すぐ新作を読ませてくれるなら、そうだなあ、1,000万払ってもいいと思っている作品は、小野不由美先生の『十二国記』シリーズだ。あの作品も、元々は「講談社X文庫ホワイトハート」から刊行されたもので、女子向けラノベだったわけで、数多くの才能が、ライトノベル界には存在しているはずなのは、現在も変わりないと思う。だから、もっともっと、凄い作品が生まれてきていいはずなのだが……時代が許さないんすかねえ……それとも、幸せな作家と編集・営業との出会いが生まれてないのかなあ……もっと、第2第3の上橋先生や小野先生が生まれてこないと、ホントにもう、ライトノベルはつまらなくなってしまうだろうな、と、おっさんとしては思うわけである。まったくもって残念だ。

 というわけで、結論。
 上橋先生や、「守り人シリーズ」のファンの方は、ぜひ、京王線に乗って、芦花公園で降り、ちょっくら世田谷文学館へ足を運んでいただきたい。そして編集者も是非行ってみて、当時の上橋先生と編集部のやり取りの手紙などを見て、ちょっとだけでも自分の作家との付き合いを振り返ってほしいものである。しかし、それにしてもドラマの第2シーズンが待ち遠しいですな。また、綾瀬はるかちゃんのバルサに出会いたいものです。そして、それまでにはシリーズを全部読んでおきたいですな。「守り人シリーズ」は、読んでいないなら超おススメです。以上。

↓ 早く電子書籍出てくれ……もう耐えられそうにないんですけど……。紙で買ってしまいそう……。


 

 先日、第1シーズン全4話の放送が無事に終了した、NHK放送90周年記念の大河ファンタジー『精霊の守り人』だが、わたしも全話見て、大変楽しませてもらったわけで、ラストのチャグムとバルサの別れのシーンに、実にグッと来てしまったのだが、放送後、とりあえずすぐに読み始めた原作も、読み終わった。勢いですぐに第2巻となる『闇の守り人』、そして第3巻の『夢の守り人』まで現在み終わってしまった。
 というわけで、今回はまずは第1巻の『精霊の守り人』について書こうと思います。

 わたしが読んでいるのは上記の偕成社版の電子書籍版です。イラスト付き。新潮社版なんて読みたくないので。ま、比べていないので、偕成社版と新潮社版が同じなのか違うのかわからないけれど、少なくともオリジナル版ではあると思う。
 この、第1巻である『精霊の守り人』は、主人公である女用心棒、バルサと、水の精霊の卵を産み付けられてしまった「新ヨゴ皇国」の第2皇子チャグムのお話だ。ただ、読み終わって、だいぶTV版とお話の印象が違うなとは思った。とはいえ、大きく印象が違うのが、新ヨゴ皇国の帝と聖導師の二人なので、はっきり言って物語上はどうでも良い存在(そんなことないか)で、面白さを損ねているという事は全くなく、TV版も大変良かった。特に、バルサを演じた綾瀬はるかちゃんの熱演は素晴らしかったし、少年チャグムを演じた小林 颯くんも非常に良かったと思います。バルサの師匠・養父のジグロを演じた吉川晃司兄貴も抜群にカッコ良かった。
 TV版で、これは……? と思った改変は、第4話の一番ラストであろう。原作上、第2巻『闇の守り人』の舞台となる、バルサの故郷・カンバル王国の王様が、原作と別人なのだ。これって……大丈夫かな、と心配だが、まあ余計なお世話であろう。実際のところ、一番の悪党なので、この王様が今も生きている設定(原作ではバルサの悲劇の大元の悪党で、10年前にすでに死んでる設定)の方が、ドラマチックに描きうるとも思えるので、来年の放送を楽しみに待っていようと思う。
 おっと、NHKの公式Webサイトに、上橋先生が直接お話されている記事が載ってますな、ははあ、なるほど、TV版の第2シーズンは『神の守り人』『蒼路の旅人』『天と地の守り人』になるんだな……そうか、まだ読んでないけど、第2巻の『闇の守り人』は最後に映像化されるわけか。なるほど、これは既に第2巻を読んだわたしには何となくうなづけるところだ。第2巻でバルサは、過去の因縁ときっちり決着をつけるのだから、その話を最後に持ってくるのはアリかもしれない。そういうことですか。
 ま、いいや。原作第1巻『精霊の守り人』の話に戻ろう。
 上橋菜穂子先生は、以前書いた通り、文化人類学の博士号を持つ学者でもある。その作品群は異世界ファンタジーと分類されるもので、異民族や異種間の交流を描く場合が多く、常に、異文化に対する相互理解がテーマとして内包されているように思う。本作も、一つは舞台となる「新ヨゴ皇国」の文化、そして先住民である「ヤクーの文化」がそれぞれ存在し、謎を双方から解こうとする流れがあって、それぞれを代表する、星読博士のシュガ、呪術師のトロガイが「精霊の卵の謎」に迫る。ただ、それはあくまで物語の本流ではなく、あくまで、本作は、元・カンバ王国民であり現在は国を追われ、用心棒として生きているバルサという31歳の女性と、新ヨゴ皇国の第2皇子として生まれ、「卵」を産み付けられてしまったチャグムのお話と言っていいだろう。
 本作で、バルサの背景はあらかた語られ、これまでの生涯がおおよそ説明される。その説明を読んだ読者としては、バルサがチャグムに抱く母性は非常に分かりやすい。説得力は十分だろう。バルサは、チャグムを守り、鍛えることで、初めて、ジグロが自分に向けてくれた愛情を実感として理解するのだ。恐らくは、この点が本作で一番重要なポイントだろうと思う。最初は皇子として、高飛車な態度だったチャグムが、徐々に心を開き、バルサを頼っていく様は読んでいてとても心に響くし、強くあれとチャグムを見守るバルサも、大変カッコ良く、同時に、バルサの慈愛に満ちた母性も強く感じられた。
 これは、TV版でもそうなのだが、事件が終わり、二人が別れるシーンは非常にグッとくる。泣きはしなかったけれど、泣きそうになりましたね。
 迎えが来て、王宮に戻りたくない、バルサと一緒に旅を続けたいと言うチャグム。そんなチャグムを抱きしめ、耳元で「ひと暴れしてやろうか?」と囁くバルサ。チャグムは、バルサがここで暴れれば、逃げることはできるかもしれないけれど、その後ずっと追われる立場になってしまう事が分かっている。非常に甘く、心が望む誘いであっても、キッパリと断り、世話になったタンダやトロガイに抱きつき、それぞれへ「ありがとう」と明確な感謝を告げ、別れを告げるあのシーンだ。バルサも、チャグムと別れたくないし、「暴れてほしい」と言われること本心では期待しながらも、チャグムの決断の正しさを理解し、抱きしめてチャグムの感謝を受け入れる。ここは、TV版の役者の演技でグッと来たし、原作ではちょっとだけ違う、「いいよ。暴れなくていいよ。……暴れるのは、別の子のために取っておいてあげて」というチャグムのセリフにも、とても心に響いた。
 ホントに、このラストのチャグムの涙はTV版の映像ならではというか、ホントにもう、泣かされそうになりましたなあ。子役の小林くんは本当にお見事でした。一度迎えの輿に向かって歩いて行き、やっぱりもう一度、とバルサに駆け寄って抱きつきくあのシーンは、もう大感動ですよ。
 「ありがとう……バルサ、ありがとう……」
 「礼など必要ない……。わたしは……金で雇われただけだ」
 このバルサのセリフは、そしてそれを演じた綾瀬はるかちゃんは最高にカッコ良かった。わたしも、今後、いろんな場面でパクらせてもらうと思います。「礼はいらない……わたしは、金で雇われただけだ」。もう使いまくると思うな、きっと。この別れのシーンは、わたしにとってはここ数年でナンバーワンに完璧で、美しいものだったと思う。本当にお見事でした。今後のチャグムの成長を、心から楽しみに、シリーズを読み続けていきたいと思う。

 というわけで、結論。
 わたしは上橋菜穂子先生の作品を読むのは、『獣の奏者』『鹿の王』に続いて3作(3シリーズ)目だが、やっぱり、非常に好きです。この先の作品も順次読んでいますが、もう完全に、頭の中では、バルサ=綾瀬はるかちゃんです。やっぱりはるかちゃんは、あまり笑わない、寂しげな笑顔がとってもいいですな。小説もTVも、たいへん楽しませていただきました。これは読んでいない方には超おススメです。以上。

↓ 実はもう2作目も3作目も読み終わったので、明日レビューを書こうかな。



  

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