わたしは映画オタクとして、年間に40本ぐらいは映画館へ行って観ているのだが、そりゃあやっぱり好みというものがあり、一番の大好物は、ハリウッドアクションものである。が、別に邦画に偏見を持っているわけではなく、観たいな、と思えば邦画でも普通に観に行く男であることは、このBlogの過去記事をあさってもらえばご理解いただけるであろうと思う。問題は、観たいな、と思う作品が少ないということだ。
 ところで。ビートたけしこと北野武氏の作る映画は、たぶん全部ではないけど、ほぼ観ているつもりである。面白い! と思う作品もあれば、こりゃあ微妙すぎると思う作品も当然あるわけで、北野武監督作品だからと言って全作肯定派では全然ない。わたしの中では、北野作品でナンバーワンだと思っている作品は『あの夏、いちばん静かな海』なのだが、監督デビュー作の『その男、凶暴につき』(なんと28年前かよ! 当時わたしは大学生でした)からはじまった北野氏の、一連のヴァイオレンス系も結構好きで、近年の代表作といっていい『アウトレイジ』シリーズは、北野作品の中では2番目に好きだ。とにかく緊張感あふれる物語の流れ、そして突然始まる暴力、そういった、静と動の対比が実に上品で、いやもちろん画面に写される行為自体はとても上品じゃあないけれど、わたしにとっては非常に面白く思えるのである。
 というわけで、今日は待ちに待ったシリーズ第3弾にして完結編の『アウトレイジ 最終章』を観てきた。結論から言うと非常に面白く、これは今年のベスト10に入る出来栄えだとわたしとしては大満足であった。今のところ2位か3位かな……しかしあれすね、なんというか、シリーズの中で一番わかりやすく、そしてヴァイオレンス成分はいままでよりは抑えめで、そして、とても心に刺さるものがある作品だったと思う。以下、キャラの最終的な生死についても書いてしまうかもしれず、それは決定的なネタバレかもしれないので、知りたくない人は決して読まないでください。

 まあ、今までの流れを説明しだすとまた長大になってしまうので、今回の『最終章』だけ、ちょっと軽く物語をまとめてみよう。前作はラストで、警察のクソ野郎をぶっ殺した主人公大友は、その足で韓国へバックレて幕切れとなったわけだが、今回はその続きである。なお、本作はシリーズの「1」「2」両方とも観ていないと全く話になりませんよ。完全なる続編ですので。で、今回は、済州島で静かな日々を送っている大友の様子から始まるのだが、大友の世話になっている韓国ヤクザの管理する娼婦を日本から来たヤクザがギタギタにするという事件から物語は動き出す。当然大友としてはそんな奴は許せないわけで、乗り込んでいくと、そいつは何と、前作で出てきた関西の巨大組織、花菱会の幹部であることが判明する。とはいえ、ここは済州島、花菱だからなんだってんだ、というわけで、そのクソヤクザも強く出るわけにもいかず、金で解決することで話はまとまる……のだが、自分はさっさと日本に帰ったものの、手下が大友の世話になっている組織の若造をぶっ殺してしまい、コイツはケジメをつけてもらわねえといけねえ話だぜ……と大友は数年ぶりに日本へやってくるのだがーーーてなお話である。その先はもう観てもらった方がいいだろう。
 わたしがこのシリーズを通して強く感じるのは、「義理」と「責任」という問題だ。本作では、たいていの場合、「義理」を欠いた奴はその命で「責任」を取ることになる。これはまあ、我々普通の一般人からすれば、相当恐ろしいというか極端な話だけれど、わたしは、そういった「義理」を欠き、「責任」を取らずに平気な顔をしてるクズのような人間を、今までのサラリーマン人生で数多く目撃してきたので、そういった連中が命で償う場面には心底ざまあと思うし、正直非常にスッキリする思いである。多分、ここが、わたしがこのシリーズが大好きな一番の理由であろうと思うし、おそらくは、わたしと同じように感じる人もいっぱいいるのではないかと想像する。
 そして本作は、前述のようにシリーズの中では一番わかりやすく話が進むので、とても爽快?でもあった。たぶん、冒頭での済州島で偉そうにしていたヤクザが、さっさと謝っていれば(そしてそもそも変態SM趣味がなければ)話はここまで大きくならなかったはずだ。この点では、実はこのお話は結構、わたしの大好きな『John Wick』とか、そういったハリウッド作品にも通じるものがある。しかし、謝り方を間違えてしまったわけで、ビジネスの世界にも非常に通じるものがあるというか、ホント、サラリーマン諸氏にも深く共感できる物語なのではないかと思う。
 わたしは、サラリーマンとしてすでに20年以上働いているわけだが、仕事上の鉄則として、よく部下にも指導していることがある。それは、「相手がどんなクソ野郎であっても、絶対に相手を怒らせないこと。怒らせたらそれは自分が悪いと思え」という、わたしの仕事上の掟である。そして、万一やっちまったら、「即座に全身全霊でごめんなさいと謝ってこい。ひとりで行けないなら俺も行く。お前の言い分は後だ。まずはごめんなさいに行くぞ!」と言っている。
 わたしが思うに、仕事上でも何でもいいけれど、人を怒らせていいことはひとつもない。怒らせていいのは、相手を完全にぶっ殺す(仕事で言えばもう取引停止する)場合しかない。生かしておけば、確実に遺恨を残してしまう。なので、全身全霊で謝っても、それが通じないなら、殺す(しつこいけど仕事の場合はもう取引しない)しかないとわたしは思っている。
 だが、それが非常に難しい場合がある。それは、相手が「身内」の場合だ。社外の取引先なら、別に縁を切って、他の取引相手を探せば済むけれど、社内の人間だと、どうしたって顔を合わせる場面も生じてしまうわけで、しかもそれが、能力もないくせに役職だけは高い者の場合だと、はっきり言って最悪だ。そういう場合は、そいつと同等かさらに役職が上の「兄貴」や「叔父貴」に出馬願うしかない。
 本作の中では、そういった身内の抗争も出てきて、解決策としては殺す、命を奪うという行為に至るわけだが、それができないサラリーマン社会は、意外とヤクザ社会よりもよっぽどつらいのかもしれないな、なんて平和な感想をわたしは抱いた。まあ、だからこそサラリーマン社会はストレス社会であり、様々な人間の精神に変調をきたす出来事が起こるのだが、そういう人は、わたしを含め、この映画を観て、とてもすっきりするのだと思う。これはどうかなあ、女性もそうなのかなあ? 男だけ、であるとは思えないけど、男のように単純に女性がこの映画を楽しめるのか、ちょっとわたしには良く分からんです。
 そして本作は、明確にシリーズ完結編であることも、結構重要だ。はたして大友は、自ら信じる「義理」を通し、どのような責任の取り方をするのか。わたしは本作のエンディングは、実に北野作品らしい、正々堂々とした、見事なラストだったと思う。これ以外ないと思うし、これ以外は観たくなかったとさえ思う。このエンディングで、わたしとしてはこのシリーズが完全に傑作に登りつめたと絶賛したいと思います。素晴らしかったすね、本当に。

 さてと、一応キャストもざっとメモしておこうかな……と思ったけれど、主要人物が多すぎて、わたしが気に入った3人だけを紹介しておこう。もちろん、主人公大友を演じた北野氏は、もう書かなくていいすよね?
 まずは、シリーズ初参戦となった大森南朋氏だ。済州島で大友の世話係?として一緒に過ごしている男で、大友とともに日本へやってくる、今回唯一の味方だ。役名は市川かな。今までのシリーズからすると、まず間違いなく市川はクライマックス前に死亡するはずだ、とわたしは思っていたので、まあ、きっとそういう運命だろうな……と思っていたのだが、生き残れてよかったね! なんか、うまく自分の気持ちが整理できていないけれど、市川が生きて、済州島に帰ることが出来て、わたしはとてもうれしかったです。良かったねえ、という安堵感というか……ホント、市川だけでも助かってよかったよ。まあ、大森氏はイケメン?のわりに体つきが恐ろしく中年で、今まであまりかっこいいと思ったことはないけれど、今回の芝居ぶりは、どこかひょうひょうとしていて憎めない野郎でしたな。大変良かったと思います。
 次は、前作『ビヨンド』で超ヤバいというかおっかねえヤクザオヤジを演じた塩見三省氏だ。役名は中田、かな。前作であれだけヤバかった中田だが、今回はどうも中間管理職的に、出来に悪い部下を持ったために、上から散々叱られるような立ち位置にあって、その変わりぶりも、やっぱりわたしはサラリーマン社会を連想せざるを得なかったすね。しかし、どうも演じた塩見氏が脳出血で倒れて、リハビリ明けということで体調も良い状態ではなかったようですな。それもあってか、今回の塩見氏の演じる中田はほとんど怒鳴り散らすシーンはなく、ぐぬぬ……と耐えているような静かな演技が多かったすね。でも、その迫真のぐぬぬ……が大変素晴らしく、物語においても間違いなくキーパーソンの一人であり、塩見氏の演技は非常に良かったとわたしは称賛したいと思う。
 最後。これも前作『ビヨンド』から登場した、韓国裏社会のフィクサー的存在の張(チャン)というキャラクターを演じたのが金田時男氏という方だ。この方は、実は全く役者ではなく、普通に実業家の方だそうで、この方の息子が北野監督と仲良しで、その縁で出演に至ったのだという。よって前作ではほとんどセリフはないものの、ただものではない恐ろしいオーラを纏っているお方だが、今回は結構セリフがあり、しかも、一度スーパー激怒するシーンもあって、やっぱりこの方が一番怖い、ということがよーーく分かります。いやあ、ホントヤバいす。そして最高でした。

 というわけで、さっさと結論。
 公開を待ち遠しく思っていた、北野武監督作品『アウトレイジ 最終章』を今日観てきたわたしだが、わたしの期待にかなう、大変な傑作であったと思う。仕事においても、まあちょっと大げさかもしれないが人生においても、「この人は絶対に怒らせたらヤバい」という人に、誰でも出会うと思う。けれど、まあ、とにかく相手がだれであれ、人を怒らせて得るものなんて、何もないとわたしは思います。そして、万一やっちまったら、もう謝るしかないよね。全身全霊で。それすらできないクズも多いし、そもそも責任を取ろうとしないクズも、嫌になるほどいっぱいいますわな。そういうストレスと戦っている人には、この映画は超おすすめです! ただし! シリーズ「1」「2」の両方とも観てないとダメですよ! ぜひ、まずは1作目2作目を観て、その勢いで映画館へ足を運んでください。わたし的には、最高だと思います。以上。

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