もう5年ぐらい前に、浅利慶太氏が「日生劇場は若き頃のわたしと石原慎太郎が作ったんだよ」とお話するのを直接、目の前で聞いて、え、マジすか、すげえっす、と思ったことがある。あとでWikiで調べたら、まさしくそんなことが書いてあって、浅利先生は本当にすげえお方なんだなあと思ったわけだが、恥ずかしながらわたしは日生劇場へ足を運んだことがなかった。
 しかし1カ月ぐらい前に、わたしのヅカ友の美しいお姉さまから、「今度の、みりおんが出る『ヴァイオリン』は観に行くのかしら?」と聞かれ、いや、実はスルーなんす、と答えたところ、「あら、チケットが1枚余って相手を探してるの、あなたいかが?」とお誘いを受け、ならばそれがし、喜んでお供つかまります! というわけで、今日は初めての日生劇場へ、『屋根の上のヴァイオリン弾き』を観てきた。なんと今年は初演から50周年だそうです。すげえなあ!
Violin
 全く物語を予習せずに観に行ったわたしだが、結論から言うと大変面白く、主役の市村正親氏の見事な芸達者振りから、意外なほど笑えて、実に満足な作品であったのである。いやあ、全く想像していなかった物語であった。
 ところで。
 まず最初に、わたしのヅカ友の美人お姉さまが言ったセリフの解説からしておこう。お姉さまの言う「みりおん」とは、普通の人にはなんのこっちゃ、であろう。しかし、ヅカファンなら即座に理解できる単語で、つまり、今年の春に宝塚歌劇団を退団した元・宙組のTOP娘役、実咲凛音さんのことである。みさきりおん、と読むわけで、そこから「みりおん」という愛称で呼ばれていた彼女だが、わたしの主観では、近年のTOP娘役の中ではナンバーワンクラスの美人であり、歌もうまい大変素晴らしいTOP娘役であったと思う。そのみりおんの、退団後初ミュージカル出演というわけで、積極的にチケットを獲ることはしなかったけっれど、行けるならぜひ、わたしも観てみたいと思ったわけである。
 で。
 物語をざっと説明すると、正確な時と場所の説明はなかったような気がするが、パンフレットによれば、20世紀初頭のウクライナである。その村で牛乳屋さんを営むテヴィエというおじさんが主人公で、若干おっかないけど優しい奥さんゴールデとの間に5人の娘に恵まれ、貧しくつましいながらも、ユダヤ教の教えを守って幸せに暮らしていた。その村では、「しきたり」が支配しており、結婚は仲人的なおばちゃんの紹介で親が決めるものであったが、まず長女のツァイテルは村の仕立て屋さんの青年と恋に落ちていて、かなり年の離れた肉屋と結婚させられそうになるけれどそれを蹴って、無事に仕立て屋さんと結婚、独立する。次に、次女のホーデルは、もともとインテリ好きで、村にやってきたキエフの大学を卒業した青年と恋に落ちる。そしてその青年が、キエフに戻って革命運動で逮捕され、シベリアに流刑になってしまうと、その彼を追ってシベリアに旅立つのであった。そしてさらに、三女のチャバは、よりによってロシア人(=キリスト教徒)の青年と恋に落ち、駆け落ちしてしまう。
 とまあ、そんなわけで、しょんぼりなテヴィエだったが、やがて村にはユダヤ迫害の波が迫り、最終的にはユダヤ人追放令まで発せられ、残った妻と4女5女を伴い、新天地アメリカに住む親せきを頼って、旅立つのであった……とまあ、そんなお話である。
 なので、暗いと言えば暗い。実に。だが、とにかくお父さんテヴィエを演じた市村氏の演技が素晴らしく、随所に織り交ぜられたギャグが大変笑わせてくれるもので、なんか、暗さを感じさせない不思議な作品であった。まあ、ラストでアメリカに旅立ったのは、歴史的に見れば大正解だったと言えるだろう。そのまま残っていたら、大変なことになったのは間違いないだろうし、下手すれば死んでいる可能性も高かったはずだ。なので、意外とわたしはハッピーエンドだったような気もしている。
 おまけに、何というかわたしには、主人公のお父さんテヴィエの元を一人また一人と娘が旅立っていくシーンにはいちいちぐっと来てしまったし、なんかもう、「北の国から」の黒板五郎に見えて仕方なかったすね。それでも、黒板五郎と違ってテヴィエには奥さんもいるし、4女も5女も一緒にアメリカに行ったわけで、それはそれで、非常に?希望に満ちたエンディングだったように思う。
 ただ、ミュージカルとしては、もうチョイ歌があっても良かったような気もする。もっと歌ってほしかったかな……とりわけ、1幕ラストや、2幕のエンディングで、心に刺さるようなぐっとくる歌が欲しかった。ともに、結構唐突というか、え、ここで終わりなんだ?という幕切れであったのがちょっと驚いた。
 そして、『屋根の上のヴァイオリン弾き』というタイトルだが、実はわたしは、主人公がそのヴァイオリン弾きなのかな? と盛大に勘違いしていた。しかし上記の通り主人公は牛乳屋さんで、これはいったいどういう事だろうと思っていたのだが、どうやら、冒頭のお父さんのナレーション? で説明される通り、屋根の上という実に危なっかしい場所で、落っこちて首を折らないよう気を付けながら、愉快にヴァイオリンをかき鳴らそうとしている、そんな暮らしをしている人々だ、という事らしい。そしてなんでそんな危なっかしいところにいるのか。それは故郷だから。そしてどうやってバランスをとっているのか、それはユダヤの「しきたり」がバランサーとなっている、とまあそういうことだそうだ。これは、この文字面だけではちょっと理解できないかもしれないけれど、本作を鑑賞すれば、なるほど、と理解できるものであろうと思う。
 というわけで、各キャラと演じた役者を紹介しておこう。
 ◆お父さん・テヴィエ:演じたのはもう散々申し上げている通り市村正親氏。

 わたしは今日初めて生で市村氏の演技を見た。とにかくうまい。芝居も歌も完璧ですな。現在68歳だそうだが、全く見えないすね。そしてお父さんデヴィエのキャラが大変イイ! 愚痴ばっかりだけどそれがいちいち笑えるし、娘を思っての父親としての態度は結構グッとくるものがあった。とりわけ次女との別れのシーンは良かったですなあ! さらに強引にキリスト教徒と結婚してしまった三女との別れも「達者でな! ……と伝えてくれ……」と肩を落とす姿は、もう黒板五郎そのものでありました。泣かせるシーンでしたよ。とにかく、本作はもう、市村氏の魅力爆発の、市村劇場だったすね。最高です。ツァイテルの結婚を奥さんに認めさせるために、夢におばあちゃんがでた、というあのシーンはもうホント爆笑でした。
 ◆お母さん・ゴールデ:演じたのは、わが星組の大先輩、鳳蘭さん。御年71歳。

 いやあ、歌も芝居もさすがのクオリティですなあ。実際素晴らしかったと思う。お母さんゴールデのキャラも、結構コミカルで、明るく、物語の暗さの中ではとても光っていたように思う。基本的にお父さんを尻に敷く肝っ玉系おっかさんだが、お父さんを愛していると言う場面は大変良かったすね。実にお見事でした。
 ◆長女・ツァイテル:長女らしいしっかり者を演じたのは元宙組TOP娘役のみりおんこと実咲凛音さん。

 やっぱりみりおんは本当に美人ですな。そして、手先までのピシッと揃ったダンスの所作は、宝塚の厳しい教えを受けてきただけあって、抜群の美しさであったと思う。そして、意外と背が高いすね。163cmかな、そしてとにかく華奢ですよ。抱きしめたら折れちゃうんじゃね? というぐらいのウエストの細さですな。歌もさすがです。ちょっと格が違う感もありましたね。大変良かったと思います。
 ◆次女・ホーデル:演じたのは神田沙也加ちゃん。

 やっぱり歌の存在感は抜群です。非常にうまい。そして可愛い! みりおんと並ぶと、まあかなりのちびっ子ですよ。あの体で、あんな圧倒的な歌唱力というのは本当にグッときますな。あ、もう31歳なんだ。つーことは……たぶんみりおんが推定29~30歳ぐらいなはずだから、年上? かもしれないな。沙也加ちゃんも大変華奢で、実に可愛らしいお方でした。そして生で聞く歌声は抜群に良かったと存じます。「アナ」そのものでしたね。演技の方も、お父さんとの別れの駅のシーンは素晴らしかったすねえ!
 ◆三女・チャバ:演じたのは唯月ふうかちゃん。

 元々9代目のピーターパンを演じた方で、すでにもう数々のミュージカルに出演されている実力派ですな。わたしが観たのは『デスノート The Musical』のミサミサぐらいか。この方は沙也加ちゃんよりさらにちびっ子で、まあかわいいお方でした。もちろん歌も文句なし。チャバも、お父さんとの別れのシーンは大変グッときました。大変良かったと思います。
 というわけで、三人娘が歌う動画が公式であったので貼っておこう。本番での、三人のスカーフを巻いた衣装がとてもかわいいのだが、この動画は普通の衣装です。

 どうすか、なんて可愛い娘たちなんでしょう。この三人の素晴らしいパフォーマンスと、市村氏、鳳さんの生の歌と芝居を観る機会を与えてくださって、本当に今日はありがとうございました>美人Mお姉さま。実際最高でした! そして初めての日生劇王は大変興味深かった。天井に敷き詰められているのはアコヤ貝だそうですな。とても独特な内装で、壁の作りなんかも面白くて、そんなところも楽しめた観劇でありました。

 というわけで、結論。
 積極的に行くつもりはなかった、日生劇場での『屋根の上のヴァイオリン弾き』を、お誘いを受けて今日観に行ってきたわたしであるが、物語は全然想像していなかった展開で、おまけにこんなに笑えてグッとくるものだとは思ってもいなかったので、正直驚きである。そして結論はもう、ブラボーであります。特に、やっぱり市村正親氏の芸達者ぶりはすごいすね。細かいところでいちいち笑わせてくれるし、歌唱力も圧倒的存在感だ。お母さんの鳳蘭さん、そして三人の娘たちもとても魅力的で、わたしとしては大満足である。やっぱり、50年も公演が続くだけありますな。こういう名作と呼ばれる作品には、それだけの理由があるわけで、わたしも今後もっともっとちゃんと劇場へ足を運んで、生の舞台を楽しみたいと存じます。みりおんこと実咲凛音さん、そしてさーやでおなじみ神田沙也加ちゃん、ともに抜群の歌唱力で最高でした。以上。

↓ これはちょっと原作にも興味がわいてきますな。読んでみようかしら。でも、きっと暗~いお話だろうな……どうなんだろうか。つうか、今や岩波文庫も電子書籍って出てるんですね。知らんかったわ。
牛乳屋テヴィエ (岩波文庫)
ショレム・アレイヘム
岩波書店
2015-06-18