わたしは山に登る男だが、何度かこのBlogで書いた通り、ランニングや登山などを趣味としていると、100%間違いなく、「何でわざわざそんな辛いことするの?」と聞かれることがある。
 その度ごとに、世間的に善人で通るわたしとしては「うるせーな、一生走ったり山に登ったりしないお前には永遠にわかるわけねーだろ」 と心の中で思いながら、さわやか営業スマイルで「まあ、気持ちいからっすね」と答えるようにしている。実際それがわたしの心を最も正確に表現しているのだが、そういう話をしていると、これまた100%確実に、「ストイックですよね、ホントに」とかいう感想を聞かされることになる。
 するとわたしは、心の中で、「お前なあ、ストイックって言葉の意味知ってるのか? 大体お前、ストア派の哲学を理解して言ってんのか? ストイックってのは、ストア哲学派っぽい、って形容詞だぞ? オレは全然欲望に満ち溢れてるっつーの!!」 と、我ながら小学生じみためちゃくちゃな理論が頭の中を渦巻き、内心かなりイラつくのだが、ま、もう慣れているので、「そんなことないっすよ、はっはっは」的にテキトーにあしらい、その人間と、お疲れっした~、と別れた直後、すぐにどこかタバコを吸える場所を探して一服し、はあ、あいつとは永遠に分かり合えねえな、という判定を煙とともに吐き出すことにしている。まあ、その人の印象やどんな顔をしてたかすら、煙とともに虚空に消え去るわけだが、ちなみに、わたしは、そうだなあ、たぶん100人近い人々から、「ストイック」だと評されたことがある。あーあ。人は分かり合えませんなあ。
  というわけで、わたしがさっき読み終わった本が、わたしの好きな作家の一人である湊かなえ先生による『山女日記』である。湊先生と仲良しのお方に聞いた話によると、湊先生も結構山に登るお方だそうで、ハードカバー単行本で出たのが2014年とちょっと前なのだが、ついうっかり文庫が出るまで待つか……リストに入れてしまったため、ようやく先日発売になった文庫を買い、読んでみたわけである。
山女日記 (幻冬舎文庫)
湊 かなえ
幻冬舎
2016-08-05

 結論から言うと、本作は、湊先生の『花の鎖』や『物語の終わり』のような、短編連作でキャラクターが次々と入れ替わりながら、それぞれ関係していて最後、美しくまとまる系のお話で、大変に面白かった。さっさと単行本で読めばよかったと思う。
 で、内容は、タイトル通り、登山を趣味とする女子たちのお話で、何人か登場するキャラクターたちが少しずつ関係があってつながっており、読みながら、ああ、この人は前の話に出てたあの人か、みたいな感じで読み進めるように書かれていて、それぞれ全く性格が違ったり、思わぬところでつながったり、とても楽しい時間を過ごせる物語であった。
 さて、じゃあ、今回は、それぞれのキャラクターをまとめておいて、読む際の人物相関図的なものをイメージできるような記事にしようかな。サーセン。ネタバレも含んでると思います。
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 第1話:「妙高山」
 ◆江藤律子:通称りっちゃん。超しっかり者。30代。婚約者との結婚を前に、若干悩み中。丸福デパートの婦人服売り場担当。「アウトドアフェア」でDannerの登山靴に一目ぼれし、山デビューを決意。第1話の語り手。由美のいい加減さが実は大嫌い。学生時代は剣道部。
 ◆芝田由美:超ルーズな今どき女子。同じデパートの同期。部長と不倫中。勢いだけで参加した。何も考えてなさそうな女子だが、意外とかなり心優しい女子(?)。
 ※ちなみに、Dannerのブーツは、山を趣味にしている人ならだれでも知ってる有名なブランドなのだが、わたしは、高いし、デザインもあまり好みでないし、とにかく重くて硬いのでわたしの登山スタイルに合わないので買ったことはない。けど、知らない人が見て、これぞ「ザ・登山靴」とあこがれる気持ちはよくわかる。
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 第2話:「火打山」
 ◆神崎秀則:40代。この第2話の段階では、まだ下の名前は不明で、「神崎さん」としか出てこない。お見合いパーティーで美津子に一目ぼれ。曰く、「クールビューティーなところ」に惚れたのだとか。
 ◆美津子:40代。この第2話の段階では苗字は不明。バブル入社で証券会社へ入社したものの、倒産。現在は老人ホームの事務員。バブル時代のキメキメスーツやメイクを同僚の若い女子にバブルと揶揄されることを腹立たしく思っている。実は大学時代は山岳部で、バリバリの元アウトドア人種。
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 第3話:「槍ヶ岳」
 ◆わたし:たぶん第1話で律子にいろいろアドバイスしてくれた牧野しのぶさんだと思う。子供のころから父と山に登っているベテラン。大学の山岳部の団体行動が耐えられず、部を辞めてもっぱら単独行。律子たちの一つ年上で、丸福デパートの贈答品売り場担当。落ち着いた雰囲気の女子
 ◆永久子さん:直接は出てこないが、「わたし」の山岳部の1つ先輩。永久子さんも部を辞めた。後に、やっぱり単独行は不安だからと山岳ショップ主催の登山で知り合った男と来年結婚するかも、という状態。郵便局勤め。
 ◆本郷さん、木村さん:「わたし」が出会う年配の登山者。実にうっとおしい。わたしなら確実に無視して一切しゃべらないと思う。
 ※わたしも常に単独行だが、不安は感じたことはない……かな。やっぱり、どうしてもペースの合わない人とは行けないし。ちなみに、わたしは山で出会った人と同行を求められたことは一度もないのだが、この話を読んでいて、その理由が分かった。わたしは、どの山でも基本的にほとんど休憩しないで歩き続けているので、話しかけられる余地が一切ないんだった。そうか、休憩しないと、話も出来んわな、と納得できた。やれやれ……。
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 第4話:「利尻山」
 ◆宮川希美:第4話の語り手。35歳。実家は玉ねぎ農家(場所はよくわからないが田舎らしい)。都内の外大を出た後、フリーの翻訳家を名乗りながら収入はわずかで、母を亡くした父とともに実家暮らしで畑を手伝っている。友人に立花柚月という帽子デザイナーがいる。しっかり者の姉に、いつも見下されているように感じていて、若干苦手。
 ◆お姉ちゃん:下の名前は不明。「お姉ちゃん」としか呼ばれない、希美の姉。しっかり者。大阪の女子大を卒業。栄養士として勤務した病院で知り合った医師と結婚。娘が一人いる。大学の時に、同じ寮の同級生、内藤美佐子に誘われて山岳サークルへ。なので、元・山ガール。長女としてのしっかり者プレッシャーからなのか、寝ているときに歯ぎしりする癖がついてしまったのがコンプレックス。何やら旦那との関係で問題発生のようで……
 ※利尻山は、たぶん登場人物と全く同じコースでわたしも登ったことがあるけれど、往復で確か5時間チョイぐらいだったので(AM4時過ぎから登って10時前には下山完了していた)、ああ、やっぱり普通の人は倍かかるんだ、とこの話を読んで初めて知った。あの時も、登りで一回休憩したぐらいだったなあ……。
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 第5話:「白馬岳」
 ◆お姉ちゃん:今回はお姉ちゃんが語り部。苗字も名前も、この話でも判明せず。読み飛ばしちゃったのかな……?
 ◆七花:お姉ちゃんの娘。小学5年生。賢く、パパ・ママが大好きないい子。
 ◆宮川希美:この話も、妹である希美も参加。
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 第6話:「金時山」
 ◆梅本舞子:丸福デパートの、律子・由美の二人と同期の同フロア。本当は妙高山にも一緒に行く予定だったが熱を出して不参加だった。元バレーボール選手だが、膝を壊して大学3年で引退。「日本一」にこだわるバリバリ体育会系女子。目標を定めて一つ一つこなすタイプ。妙高山以来、律子と由美が仲良くなったのが若干面白くない。いつも、しっかり者の律子が由美にキレて、まあまあ、と間に入るのが舞だったのに。
 ◆小野大輔:舞子のちょっと年下の優しい彼氏。劇団員の夢追い人、と思っていたら、実は意外な過去が……。
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 第7話:「トンガリロ」
 <10数年前>
 ◆立花柚月:旅行会社のニューカレドニア支社駐在員。色黒。大学では山岳サークル所属。日本にいる長距離恋愛中の彼氏、吉田くんとニュージーランドで待ち合わせ、トンガリロへ向かう。その後、ニューカレドニア支社がバブル崩壊で閉鎖され帰国、通販をやっている子会社へ出向。そしてその会社を辞め、専門学校に通って技術を身につけ、今では予約しても納品に半年かかる人気の帽子製作者。
 ◆吉田くん:柚月の彼氏。柚月曰く、デブは嫌いだが、「硬いデブならアリ」というゴツイ男。元ラガーマン。
 <現在>
 ◆立花柚月:10数年ぶりに懐かしのニュージランドトレッキングのツアーに一人で参加してみる。その理由が明らかになるラストはとてもジーンと来た。
 ◆石田真由:現地のツアー添乗員の女性。推定20代前半とまだ若い。
 ◆神崎秀則&美津子:第2話の二人。めでたく結婚している。ハネムーンとしてツアー参加。美津子さんはさすがにブランド物に詳しく、柚月の帽子の愛用者で……。
 ◆牧野しのぶ&太田永久子:第3話の「わたし」と先輩の永久子さんもこのツアーに参加。永久子さんの結婚が決まったのでその壮行トレッキングに来た。
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 最終話:「カラフェス」
 ◆宮川希美:第4話から3年が経過している。あれ以来、山の楽しさに目覚めるが、いかんせん彼女は単独行よりも仲間が欲しいと思っていて、「山女日記」というWebサイトで、「クマゴロウ」なる女子の書き込みを見て、涸沢で行われる「カラフェス」へ参加しようとやってくる。
 ◆熊田結衣:希美が出会った若い女性。希美は、彼女が「クマゴロウ」本人だったことに驚き、仲良くなる。
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 はーーー。長くなったけど以上かな。
 
 というわけで、もうこれ以上長く書いてもしょうがないので、結論。
 湊かなえ先生による『山女日記』はとても面白かった。わたしもすべて単独行で、今後もそれは変わらないが、そりゃあ、山友達がいればなあ、と思わないこともない。が、いつも、前に書いた通り、休憩しないでとにかくずっと歩いているので、知り合う機会がないわけで、今度はちょっと、休憩をとるようにしてみようかな。でも、オレ、とにかくがらーーーんとした山が好きなので、実際のところ人に会わないことの方が多いんだよな……アルプスは人が多すぎて行く気になれないし。そもそもの問題はそれか!! まったく……やれやれ、だぜ。以上。

↓ ちなみに、本作は、北村薫先生の『八月の六日間』にもとてもよく似ている。確かこの作品、映画化が発表されてたんじゃないかな。偶然、こちらは2014年に単行本で出たときに読んでいたのだが、とにかく、本作はよく似ていると思う。こちらも結構おススメです。
八月の六日間 (角川文庫)
北村 薫
KADOKAWA/角川書店
2016-06-18