以前、とある若者にお勧めしてもらって読んでみたところ、大変面白くて気に入った漫画『僕と君の大切な時間』。

 昨日その3巻が出たので(電子で。紙で同時なのか知らない)、さっそく買って読み、うん、やっぱ面白い、と再確認したわたしであるが、夕方、わたしが電子書籍を買っているBOOK☆WALKERより、一通のメールがポロリンと届いた。曰く、ゲリラコインバックフェアを今日の夜開催するぜ、とのこと。通称「ゲリラコイン」とは、まったくランダムに、(お知らせメール登録者以外には)事前告知なく急に始まるフェアのことで、通常は買い物の度に数%のコインバックがあるのだが、ゲリラ開催時は最大で45%とか、その還元率がグンと上がるわけである。
 えーと、要するにですね、400円のコミックを買うと、180円のコインを返還してくれるわけで、実質220円で買えます、ということだ。ただ、注意しないといけないのは、220円で買えるわけではなく、あくまで400円支払わないといけないわけで、後で使える180円分のクーポンがもらえる、みたいな感じである。ヨドバシのゴールドポイント的な感じですな。おまけにゲリラの場合は。たいてい直近1カ月以内に配信開始したものは除く、という縛りもある。
 しかしわたしは毎月1万円以上BOOK☆WALKERで買い物しているので、この「コインバック」されたコインがばかにならず、統計的に毎月4000円近くもらえており、前月にもらったそれを使うことで、結果的にわたしは毎月6000円ぐらいしか実際に支払っていないのが現状である。
 というわけで、「ゲリラ」のお知らせメールが届くと、よーし、なんか買ったるぜ!的な気分になり、昨日の夜も、なんか面白そうなのねえかなー、とサイトを渉猟することとなった。そして、まったく偶然? の結果、以下の漫画が、わたしの中に潜む何らかの面白センサーに反応したため、まずは(1)(2)巻を買って読んで見たところ、これが大変面白かったので、現状出ている最新刊の(6)巻までを一気買いして読んでみることとなったのである。そのタイトルは『町田くんの世界』という作品である。

 集英社の別冊マーガレットに連載中らしいこの漫画は、いわゆる少女漫画で、わたしの普段の生活においてはまったく縁がないはずだが、こうして電子の世界での出会いもあるわけで、全く不思議な世の中だと改めて思う。
 物語は、おっそろしく不器用な町田 一(まちだはじめ)くんの日常を追ったもので、とりわけ劇的な何かが起こるわけでもない。町田くんは、勉強もスポーツもまるでダメ男だが、とにかく、「ウルトラいい奴」なのである。わたしは、この漫画で、ここまでストレートに描かれる町田くんの行動に、なるほど、世に言う「優しい」ってのはこういうことか、と改めて知らされたような気がしてならない。
 おっと、どうやら今、集英社のWebサイトで、1巻目がまるまる無料で読めるようなので、一応そのリンクを貼っておこう。どうも期間限定だから、すぐにリンク切れになっちゃいそうだけど、まずは読んでもらった方が話は早かろう。→こちらへ

 わたしはおそらくは、世間的に冷たい男としてお馴染みであろう、と思っている。実際、表面的には落ち着いた男としての体裁を保っているつもりだが、心の中ではよく人に対して罵倒しているし、結構な頻度で人を嫌いになる。そして嫌いになった人はわたしにとってはもう視界に入らず、完全にどうでもいい存在になるわけで、そいつが大出世しようが、あるいは死んでしまおうが、「へえ~」の一言で、心には一切のさざ波もたたず、5秒後にはそのことは記憶から失われるほどなのだが、町田くんはまったくわたしと正反対だ。わたしは、「優しい」ってどういうことなのか、実のところこんなおっさんになった今ですら良くわからないでいる情けない中年オヤジなのだが、どうやら、町田くんの思考と行動は、まさしく「優しい」とはこういうことなんだろう、とわたしに思わせてくれるものなのである。こりゃあなかなか凄い漫画ですよ。
 わたしは今まで、世に言う「優しい」ってのは、それって要するに甘やかしてるだけじゃね?とか思ってきたわけで、全然関係ないけど、料理や食べ物に対して「優しい味~」とか言う評を聞くと、「アホか、味に優しいもクソもあるかこのボケ!」とか内心思ってきたヒドイ男である。
 だが、どうやら、この『町田くんの世界』という漫画によれば、どうも「優しい」というものは、「人に対する愛」であり、大げさに言うと「人類愛」的なものであるらしいということが分かった。もちろん、わたしもそれなりに人類愛のようなものは、内心に抱いているつもりだが、それを、ド直球で言葉にし、ド直球の行動に移すこと、がさらに重要なことなのではないかとわたしはこの漫画を読んで感じた。
 ちょっとだけ、ページをキャプった画像を載せておこう。
machida-1
machida-2
 これは(1)巻で描かれる、猪原さんとのシーンだ。町田くんは、とにかく勉強もスポーツもダメだけど、その「優しさ」で周囲に愛されているのだが、町田くんとしてはまったくその意識がない。そして同じクラスの猪原さんという少女と、段々仲が良くなって行く。猪原さんは、元々私立の女子中出身であったが、とあることがあって、高校は町田くんと同じ、ランク的には下の公立高校に通い、現在町田くんと同じクラスである。しかし彼女は、人嫌いで、人を寄せ付けないオーラを振りまいていたのだが……(6)巻現在ではもう、完全に町田くんが大好きでメロメロである。そんな猪原さんが、町田くんを決定的に好きになる、いいシーンであります。
 まあ、このページだけでは全く伝わらないと思うけど、こんなことを言われたら、もう完全に恋に落ちますよ。そりゃあもう間違いないっすわ。
 こんな感じで、町田くんは次々に多くの人の心を撃ち抜いてゆく。そして本人にはその自覚ゼロ(であり、猪原さんとしてはどんどんライバルが増えてヤキモキすることになる)。タチが悪いと言えばまさしくそうだと思うが、まったくの天然であり、町田くんに心射抜かれてしまった人々は、町田くんだからしょうがないし、そうでなければ町田くんじゃない、とさえ思ってしまうわけで、これはもう、本物であろうと思う。

 しかし思うのは、人は、たとえわたしのような冷たい男であっても、人を思いやる心は一応備わっているのに、それを行動に、言葉に表せないのは一体なぜなんだろうか? なんなんだろう……アレかな、いろいろ「先を計算」してしまうからなのかな? 打算……じゃあないな、なんだろう、その自分の言動が及ぼす影響について、その結果を無意識に、瞬時に、脳内で検討しているため、なんだろうか? 実はわたしは、最初のうちは、町田くんのキャラ設定について、そんなに人のことが思えるなら、十分賢いだろうし、勉強だってできるだろうに、なんでこんなキャラ付けにしたんだろう? とか思いながら読んでいた。でも、そうか、「先を考えない」から、ド直球な言動が取れるのかも? という気がしてきたのである。おまけに後悔のようなものも一切なく、見返りも求めることもなく、迷いなし、だ。
 故にわたしが抱いた結論は、ひょっとすると、これが人類愛ってやつか、というものである。これはもはや仏教だろうとキリスト教だろうと、なんでも構わないけれど、ある意味宗教的な根源? に近いモノなんじゃなかろうか、とさえ思えたのである。
 現在の最新刊(6)巻では、とうとう、猪原さんに対して、町田くんは「心がドキドキする気持ち」を理解しつつあり、これが恋なのだろうか? と気づき始めており、今後の展開が大変楽しみである。そして町田くんは現在17歳。果たして彼はどんな大人になるのだろうか? 悪意に満ちたこの世においては、正直若干心配だが、まあ、町田くんはきっと大丈夫であろう。別に何も求めていないのに、誰にでも愛される町田くん。まったくこれはすごいことで、わたしは大変気に入りました。

 というわけで、結論。
 ふとしたきっかけで、買って読んでみた少女漫画『町田くんの世界』という作品は、まるで不意打ちのように、わたしの心に刺さってしまった大変面白い作品である。優しいって、きっとこういうことなんでしょうな。しかしそれが分かっていても、町田くんのような言動を取るのは、おそらく容易ではなく、心がけよう、なんて意識すればそれはもう、違うものになってしまうような気もする。難しいですなあ。生まれ持ってのものなのか、育った環境なのか……性善説・性悪説なんて考えているようじゃあ、町田くんのようにはなれないんだろうな……まあ、わたしも少しは町田くんのように生きてみたいと思います。もう中年だけど、遅くないよね、きっと。大変面白い漫画でありました。以上。

↓ 作者の安藤ゆき先生のことが大変気になったので、こちらも勢いで買いました。大変面白かったです。