わたしは映画の9割がたをTOHOシネマズで観ている。それは単に家から一番近いシネコンがTOHOだから、なのだが、当然、予告で流れる映画は東宝配給の邦画が数多く、去年、やけに予告を何度も見せられた作品があった。まあ正直、それほど観たいという強い意欲はなかったものの、現在わたしはTOHOシネマズの「シネマイル」が貯まったおかげで何でも無料で観られる無敵状態にあるため、それじゃ観てみるか、と早めの昼食を摂ってから、出かけてみた。
 その作品とは、長澤まさみちゃん主演の『嘘を愛する女』である。まあ、観終わった今、結論を言うと、なかなか悪くはなかったと偉そうな感想を持つに至っている。脚本も悪くない。キャストの芝居ぶりも悪くない。だが、称賛するほどには至らず、いろいろなアラが、わたしの様なクソ映画オタク野郎からすると若干目についてしまったのも事実であろう。わたしが一番、うーむ、と思ってしまったのは、そこはかとなく漂っているように感じられる「リアリティのなさ」なのだが、どういう点にわたしが、嘘くせえ……と感じてしまったのか、ちょっといろいろ思ったことを書き連ねてみようと思う。
 というわけで、以下、ネタバレに触れるかもしれないので、これから観ようという方は以下は読まない方がいいと思います。

 まあ、大体の物語は上記予告の通りである。ずっとそばにいた愛する人が、偽名で正体不明の男だった。いったい何者なんだ? そんなお話である。
 わたしが上記予告から想像していたのは、男のいわくありげな過去が、かなりヤバいもので、驚愕の真実がここに! 的な物語なのだが、ズバリ言うとそんなわたしの想像とは全く違い、意外とまとも、というか、ひどい言葉でいえばスケールは小さく、結構わたしはなーんだ、と思うものであった。
 まず二人の出会いだが、予告にある通り、駅で気分の悪くなった主人公にやさしく男が声をかけるところから始まる。わたしはきっと、何か会社で忙しくしている女子が通勤の際に気分でも悪くなったのかと思っていたが、そこからして全く違っていた。気分が悪くなったのは、まあわたしの想像通り会社の激務?での体調不良のようだったが、これは2011年3月11日の日中のことで、つまり、大震災の日のことだったのである。つまり震災が起きて電車が止まってしまい、東京では多くの人が駅にあふれた、あの時のことであった。
 あの日のことは誰しも忘れられないだろう。わたしも当然覚えている。わたしはあの日、会社の近所に住む当時の部下のYくんのチャリを借りて、全く動かない車の列や黙々と歩く大勢の人々の間を、全く苦労なく20km離れた家に帰ることができたが、あの日の東京は結構寒かった事を覚えている。しかし―――画面に映るイケメン野郎、高橋一生氏のなんと薄着なことよ。わたしはこういう点にいちいち反応してしまうのだが、まずこの出会いのシーンで、嘘くせえ、と思ってしまった。
 しかし、こういった震災がきっかけで男女の仲が深まった事実は、わたしの身近にも結構あって、えーと、わたしが知ってる女性で4人かな、震災をきっかけに結婚したわけで、まあ、ともかく本作の主人公と謎の男は付き合い出し、それから5年(?)、すっかりいちゃつくカップルとして日々暮らしていたのだが、主人公のお母さんが上京して食事をするので、あなたも来てよ、という展開になる。
 しかし、男は現れなかった。主人公はもう怒り心頭である。ほぼ激怒して家に帰ると、男はいない。なんなのよもう!とカッカしているところに、ピンポーン、とインターホンが鳴り、なんで来なかったのよ!!と激怒で玄関を開けると、そこにいたのは警官で、なんと男は近所の公園でくも膜下出血によりブッ倒れて病院に運ばれたのだという。そして、持っていた免許証は偽造されたもので、全く名前もでたらめだったことが判明、主人公による正体探しの旅が始まるーーーてな展開である。
 その正体探しの旅は、男がPCに日々書き連ねていた、謎の小説を手掛かりになされるのだが、正直その部分はどうでもいいとして、わたしが本作を観ながらずっと感じていたのは、主人公が男で、謎の人物が女性だったらどうだっただろう? という思いだ。
 本作では、主人公の女性がバリバリのキャリアウーマンで、ひどい言い方をすれば男を囲っていたという状況である。これって……男女の立場が逆だったら物語は成立しただろうか……? 男は、研究医でバイト程度の収入しかない、という設定だった。故に、一緒に住もうよ、と女性から言われても、いや、おれには家賃出せないよ、と実に弱気な、まるで拾われてきた子犬のような表情でぼそっと言う。すると女性は、じゃ、じゃあさ、その代り家事とかお願いできないか、わたし、料理も掃除もダメなんで、と必死?に説得する。そして、困ったなあ、的な表情でうつむく男、そしてそんな男にそっとキスする女性。まあ、どう考えても、男女が逆だったら、アウト!でしょうな。
 わたしが言いたいのは、くそう、うらやましい! とかそういうつまらないことではなくて(いや、正直に告白するとちょっとある)、どうも、こんなことあるかなあ? と嘘くせえと感じてしまったのがまず一つ。そしてもう一つは、本作の主人公は、どうもやけに男っぽいというか、かなり……なんというべきかな……かなり問題アリな女子なんだな。
 まず、かなり短気で、よく怒る。そして、かなり何度も酔っ払って帰ってきてはひどいことを言う。そしてすぐそんな自分に凹む。さらには結構八つ当たりめいた言動もする。また、これは最後の最後で告白される事実でわたしは非常に驚いたのだが、なんと男を囲っている期間中に、浮気してたことも判明する。これ、男だったら絶対許されないぜ? という思いがずっと頭から離れなかった。まあ、長澤まさみちゃんならすべて許してもいいけど、ズバリ言うと主人公のキャラクターにわたしはほぼ共感できなかった。
 ついでに言うと、わたしは全ての謎が解けた後で、今度は高橋一生氏演じる男にも、なんかその心理が良く理解できなくなった。偽名を使っていた理由はクリティカルすぎるので書きませんが、だからってなぜ、偽名で暮らそうと思ったのかはよくわからない。何しろ、そういった偽りの生活を送るには相当コストがかかるはずで、そう簡単ではなかっただろうことは、東京でまっとうに暮らす人間ならすぐに想像できるであろうからだ。主人公は携帯も銀行口座も持ってないような設定だったようだが(実は良くわからん)、それで生きられるほど甘くないすよ、東京は。バイト程度、と言っても収入はあったのだとしたら、相当いろいろな局面で偽IDは困ったはずだ。また、実は収入は全て過去の貯金の切り崩しだったとしても、口座にアクセスした時点で居場所はバレるのは間違いないだろう。要するに、そういった面でもわたしは、嘘くせえ、と感じでしまったのである。
 つまり、いろいろと甘い、ような気がしてならなかったのだが、わたしが一番、ええ~?と思った制作上の甘い点は、主人公女子が、男の過去を突き止めて、かつて男が棲んでいた家に行ってみたときのシーンである。家、というものは、人が住んで生活していないとあっという間にボロボロになることは、結構よく知られていると思う。だけどなんだあの保存状態のいい家は。もう7年ぐらい経過しているはずなのに、ほこりもかぶってないし、あれはナイと思うなあ……庭だって、7年放置したらもうとんでもないことになるぜ、普通に考えたら。あれは、ご近所のおじさんが手入れしてくれてたってことなのかしら。
 というわけで、そういう細かい作業がおざなりに感じられてしまったわけで、はっきり言ってそれらは全て監督の責任だろうと思う。監督が一言、これじゃダメ、と言えばいいだけだし、それほど金がかかることだとも思えない。そういう点が邦画を観て、世界に通用しないと感じてしまう点なのだが、キャラについての練り込みをもう少しだけでも深くできたら、この脚本はハリウッドに売れる出来と思う。基本プロットは悪くないですよ。実にアリ、な脚本だったのに、大変もったいないように感じた。そしてキャスト陣も、激賞はできないけれど、悪くないと思う。メインキャストを紹介して終わりにしよう。
 ◆主人公:実は役名が全く印象に残らなかったので、以下役名は省略します。主人公のバリバリキャリアウーマンを演じたのは長澤まさみちゃん。実に可愛いのは間違いないし、そのむっちりボディは極上なのも言うまでもなかろう。芝居ぶりとしては、え、ど、どういうこと?と戸惑う表情は大変良かった。キャラとして喜怒哀楽が激しく、それぞれの表情も悪くないす。ただなあ……この女子とはちょっと付き合えないかなあ……ちょっと遠慮したいタイプでした。なお、ラストの5分ぐらいはあるんじゃないかという超長回しのロングカットでの演技はお見事でした。何テイクぐらい撮影したのかなあ。
 ◆謎の男:演じたのは高橋一生氏。男からすると、そんなにイケメンか?と思ってしまうけれど、それはまあひがみなんでしょうな。この人の一番の魅力は「声」のような気がしますね。あとは笑い皺なのかな。演技ぶりは、現在時制では意識不明で寝ているだけだけれど、回想としてチョイチョイ出てくるイチャイチャシーンは大変絵になりますな。どうでもいいけどこのお方、歯並び悪いすね。それも魅力なのかな……。
 ◆探偵:ある意味主人公女子に振り回される気の毒なおっさん探偵。演じたのは吉田鋼太郎氏。キャラとして有能なんだかよくわからない探偵。加えて彼の家庭の話が必要だったのか、若干微妙のような……。あれはなくても物語にはあまり影響ないような……彼は、自分の妻の秘密(=嘘)を知ってしまって、「知らなければよかった」と思っているわけで、主人公女子にも「秘密を知ってもロクなことがないぜ」と言い聞かせるわけだが……じゃあなんで秘密を飯のネタにする探偵をやってるんだか、その点がやや消化不良のような気がする。その意味で言うと、「嘘を愛する女」というタイトルは非常にいいタイトルだと思うけれど、どうも内容に合っていたのか、若干微妙な気がする。
 ◆探偵の助手:いわゆる「椅子の男」として探偵をサポートする若者。演じたのはDAIGO氏で、彼は非常に良かった。キャラとしても一番有能で、使える男だったすな。しかし今回、ロン毛の怪しい風貌で、ぱっと見ではDAIGO氏には全くみえず、だけどしゃべると明らかにDAIGO氏で、彼のある意味いつも通りなひょうひょうとしたしゃべり方は、演技としてとてもナチュラルで、わたしとしては本作で一番素晴らしかったと称賛したい。彼は役者としてイケるんじゃないかしら?
 ◆謎のゴス女子:謎の男と交流があって、半ば謎の男のストーカーと化していた変態女子。演じたのは元AKBの川栄李奈嬢。大変可愛い。けど、ズバリこの役は物語に不要だったと思う。ただし、演技ぶりは悪くなく、今後役者として成長する可能性大だと感じた。アイドル的な作品よりも、シリアス系で十分イケるような気がしますね。笑顔よりも、ちょっとキツめの表情がかなりいいと思った。
 そして本作を撮った監督は中江和仁氏なる人物だそうだが、全く知らないす。ワンカットワンカットはとても丁寧でいいと思うけれど、もうチョイ、細部のリアルにこだわってほしいと感じたのは散々書いた通りです。

 というわけで、さっさと結論。
 去年、かなりの回数劇場で予告を観た東宝作品『嘘を愛する女』を観てきたのだが、メインプロッとは大変優れていて、うまくやればハリウッドに売れる脚本だと思うが、いろいろ制作上の詰めの甘さが目立って、その結果、何となく全体的に嘘くせえ、とわたしには感じられてしまった。その点は非常に残念だと思う。せっかく面白くなりそうな脚本だったのに、もうちょっとだけキャラを練り込んで、そして細部までこだわった画作りに徹してほしかった。しかしこの物語、男女が逆だったら完全アウトだろうな。男だったら到底許されそうにないというか……まあ、そこは長澤まさみちゃんだから許されるんすかね。実際、許します、わたしとしては。なので、結論としては、悪くないす。以上。

↓ よく分からんのだが、ノベライズ?というべきなのかな? 一応小説版もあるようです。
嘘を愛する女 (徳間文庫)
岡部えつ
徳間書店
2017-12-01