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 というわけで、先日、上遠野浩平先生による「事件シリーズ」を電子書籍で一気買いし、以来、せっせと順番に読んでいるわたしであることは先日書いた通り。つか昨日も書いた通り
 で、今日は昨日に引き続き、そのシリーズ第3作目となる『海賊島事件』を自分用備忘録としてまとめておこうと思う。もうなんか同じことばかり書いているが、この3作目も大変面白かった。そして、致命的にいろいろなこと忘れていて、ホントに自分の記憶力のダメさ加減に呆れましたわ。あ、こんな話だっけ、と恐ろしく新鮮に感じたわたしは、もう、なんか脳に重大な疾患があるんじゃないかと心配でなりません。

 本作『海賊島事件』は、わたしの記憶では、第1作『殺竜事件』でED、ヒース、レーゼの三人が一度立ち寄った「海賊島」が舞台で、そこでの殺人事件を解き明かすミステリーじゃなかったけ、と思っていたのだが、まるで違っていてびっくり&あきれました。
 本作が紙の本で出版されたのが2002年12月。なので、14年ぶりの再読である。しかし、こんな風に、1作目の『殺竜』が2000年、2作目の『紫骸城』が2001年、と、1年ごとに出てたんだなあ、という事も完全に記憶から消失していました。ああ、あの頃は、たぶんわたしのサラリーマン生活で最も楽しい時分だった……と妙に郷愁というか、ノスタルジーめいたものを個人的にはを感じますね。たった15年ほど前のことなのに。随分この期間に世界は変わったもんだなあ。
 ま、そんなことはどうでもいいや。
 さて。本作『海賊島事件』は、「最も美しい死体」として発見された「夜壬琥姫」の謎を解くお話なのだが、事件の起こった「落日宮」で事件の真相解明をするEDと、一方で事件の最重要容疑者が逃げ込んだ「海賊島」に、容疑者引き渡しを迫るダイキ帝国とそれを拒む海賊島の対立が勃発し、その仲裁にやって来るリーゼとヒース、というように、二つの場所での出来事を同時進行で追う物語になっている。相変わらず各キャラクターが素晴らしくて、最高です。というわけで、今日も昨日と同じく、登場人物やキーワードをまとめておいて、数年後再び記憶が消失する際の備忘録としよう。
 ◆夜壬琥姫:聖ハローラン公国の紫月姫の従姉妹。落日宮に3年滞在し、故国に戻れない事情があり、「キリラーゼ」という男が迎えに来るのを待っている、と周囲に話していた。超絶美人で気高く頭もいい。冒頭で、「水晶の結晶の中に閉じ込められた死体」として登場。今回はその謎解き話。ちなみに、第1作の時点から時間が経過していて、この時、月紫姫は聖ハローラン公国の事実上の最高権力者になっている。ちなみにそれは第1作でヒースと出会ったことによって決断した結果で、名目上の公主たる白鷺真君はまだ幼い子供なので、役職としては摂政についている。曰く、「世界一有名で人気のある国家権力者」。本作は、冒頭で第2作に出てきたウージィが登場し、夜壬琥姫殺害の重要容疑者として世界中から捜索されている男が、「海賊島」に匿われていることを月紫姫に教える。また、EDが落日宮に到着知った際も、「月紫姫の代理人」と名乗った。
 ◆落日宮:モニー・ムリラという国にある、世界最高のリゾートホテル。
 ◆ニトラ・リトラ:落日宮の支配人(オーナー)。以前は海賊だった男で、ムガンドゥ1世と2世に仕えていたが、3世の襲名後、引退して落日宮を作った。ムガンドゥ3世のことは、子どもの頃から知っていて、姿を衆目にさらしたことのない3世の本当の姿を知る、ほとんど唯一の人間。
 ◆カシアス・モロー:元料理人で貿易商。あらゆる感覚を「味覚」で表現する。七海連合にスカウトを受け、面接の場所としてやってきた落日宮で事件に遭遇、後にやってきたEDの助手的な役を演じる本作の語り部。容貌は丸くて小太りでイケてないが、冷静で頭は切れる。
 ◆サハレーン・スクラスタス:落日宮に滞在していた芸術家。彼固有の魔法を用いた水晶彫刻で世界的な有名人。自信家で女好き。夜壬琥姫にちょっかいを掛けていたことが周囲にも知られていた。夜壬琥姫殺害の容疑で追われる身だが、海賊島で匿われている。精神が崩壊しつつある。
 ◆ムガンドゥ1世:インガ・ムガンドゥ。犯罪組織「ジェスタルス」の頭首。後に、最大最強の海賊として世界中の領海に縄張りを持ち、やがては無数の貿易会社を従えて表社会にも歴然たる影響力を持つことになる巨大組織「ソキマ・ジェスタルス」の初代支配者。
 ◆アイリラ・ムガンドゥ:ムガンドゥ1世の唯一の子供(娘)。父を毛嫌いしていたが父の財力・影響力で放蕩三昧の毎日を過ごしていた。
 ◆ムガンドゥ2世:ニーソン。元々、別の組織からインガ・ムガンドゥ暗殺のために「ジェスタルス」に入った男だったが、「夢」=「未来」を持つムガンドゥに魅かれ(?)、忠誠を誓う。そしてインガの死後、アイリラを娶うことでムガンドゥ2姓を名乗り、組織を引き継ぐ。現在の「海賊島」を建造した男。
 ◆ムガンドゥ3世:アイリラとニーソンの実子イーサー。幼少時から、2世の指示で、身分を隠して「海賊島」の最底辺の仕事をさせられていた。そんな幼少時代に、ニトラ・リトラを見込んで自らの正体を明かしている。ニーガスアンガーによる防御呪文の刺青で全身が覆われているが、普段は幻惑魔法(?)で隠している。素性が一切謎の人物として世界では知られ、その姿を見たものは海賊島のメンバーにもいない。ムガンドゥ3世の顔を知っているのは、ニトラ・リトラと第1作で面会したED、ヒース、リーゼ、この4人だけ。第1作で見せたリーゼの度胸が大変気に入っている様子で、恐ろしい男だけどリーゼにはかなり好意的。
 ◆タラント・ゲオルソン:第1作で、海賊島を訪れたEDたちとギャンブル勝負をした男。当時は賭場のイカサマチェック係だったが、リーゼとの勝負で精神的に大きく成長し、本作では「顧問役」として海賊島でもっとも頼りになる男として描かれている。今回、容疑者引き渡しを迫るダイキ帝国に、「ならば第三者に仲介と調停を要請する」ことを認めさせた。その判断に、ムガンドゥ3世から「よくやった、タラント・ゲオルソン」と直接誉められる。そしてリーゼとヒースが海賊島へやって来るというストーリー展開。
 ◆ダイキ帝国:この世界の「西の大陸の中でも最大の国土を誇る」国。今回、この国の「不動」と称せられる将軍ヒビラニ・テッチラが海賊島に艦隊でやって来て、容疑者引き渡しを迫る。しかし、その裏にある目的が、ちょっとだけ、軽いというかイマイチなのはやや残念かも、とは思った。

 てな感じかな。重大なネタバレはしてないつもりだけど、大丈夫かしら。
 ホント、毎回書いているけど、上遠野先生の作品は、もっともっと売れてしかるべきなのに、知名度的にライトノベル界にとどまっているのは本当に残念だと思う。出版社の営業の怠慢だと言いたいね。確実に、日本の小説家の中ではTOPクラスの実力だと断言できるし、わたしとしては日本人の作家ではナンバーワンに好きな作家だ。とにかく面白い。これを世間に広めるには、どうすればいいものか……。まあ、作品内容的には、ファンタジーに分類されてしまうので、その時点で読者を選ぶことになってしまうのだろうか。もったいないなあ……。 

 というわけで、結論。
 上遠野浩平先生による「事件シリーズ」第3作目『海賊島事件』も大変面白かった。何度でも言いますが、上遠野先生の才能は、日本の小説家の中で確実にTOP5に入るレベルだと思う。この才能があまり一般的に知られていないのが、心の底から残念だと思います。以上。

↓ 次の第4作はこれか。これも、今回久しぶりに読んで、まったくストーリー展開を覚えてなくてびっくりした。かなり面白いです。しかし、やっぱり電子書籍って、昔読んだ本を再読するのに向いてますな。

 


 

 というわけで、先日、上遠野浩平先生による「事件シリーズ」を電子書籍で一気買いし、以来、せっせと順番に読んでいるわたしであることは先日書いた通り
 今日は、そのシリーズ第2作目となる『紫骸城事件』を自分用備忘録としてまとめておこうと思う。いやはや、ホントに面白い作品で、たしか発売当時は、ミステリー愛好家の皆さんから、ミステリー部分が弱いとか言う批判もあったような記憶があるが、わたしはまったくそんな風には思わず、読むのはこれで2回目だが、初めて読んだときと同様、大変楽しめたのである。

 紙の本で出版されたのが2001年だそうなので、わたしにとっては15年ぶりの再読である。しかし、ホントにわたしも適当な男で、この作品は超面白かったという事は明確に覚えていたし、おおよその物語の流れも記憶通りだったけれど、細部は全然忘れているもので、ホント、読みながらまるで初めてかのようにドキドキワクワクしながら読めたわけで、これはもちろん上遠野先生の紗宇品が素晴らしいからなのは間違いないとしても、わたしの記憶力の乏しさも影響したのかもしれない。ま、そんなことはどうでもいいや。大変面白かった。
 本作は、「紫骸城」で行われる「限界魔導決定会」を舞台に起こる殺人事件の謎を追うミステリーである。今回は、EDやヒースは最後にちょっと出てくるだけだし、リーゼは出てこない。代わりに、主人公を務めるのは「決定会」の立会人として招集されたフロス・フローレイド大佐で、「キラル・ミラル」と呼ばれる双子の戦地調停士が初登場する。というわけで、また登場人物やキーワードをまとめておいて、今後のシリーズ作品を読む際のメモとしておこう。
 ◆紫骸城 :「バットログの森」の中にそびえる城。300年前、リ・カーズがオリセ・クォルトとの最終決戦のために築いた、呪詛集積装置。現在では、中に入るには特殊な転送魔法が必要。なお、リ・カーズとオリセ・クォルトの超絶魔法バトルが勃発して、紫骸城周辺が「魔法汚染」され、生態系が破棄されたためにバットログの森が生まれたわけで、バットログの森の中に紫骸城があるのではなくて、紫骸城の周辺が現在はバットログの森と呼ばれている、という方が正しい。
 ◆限界魔導決定会:魔導士ギルドが5年に1度開催する、最も優れた魔導士を決める大会。紫骸城で開催される。もう200年の歴史のある由緒正しい(?)大会。
 ◆フロス・フローレイド:本作の主人公。わたしは愚かなことに、理由は我ながらさっぱりわからないけれど、ずっと女性だと思って読んでいて、終盤で「彼」という人称代名詞で呼ばれるところで初めて、あ、男だったんだ、と認識した。なんでなんだ、オレ。フロスは、かつて「風の騎士」ヒースとともにとある事態を鎮圧したことがあり、世間的に「英雄」として有名になっている。ただし本人は、「あれをやったのはほとんど風の騎士」であるため、自分が英雄と呼ばれることに抵抗を感じている。ヒッシパル共和国の魔導大佐。
 ◆ナナレミ・ムノギタガハル:謎の「ブリキ製の子供の人形」をいつも抱えている、頭のイッちゃった風な魔導士の女性。貴族令嬢だが恋人と駆け落ちし、その恋人を殺されたという噂。今回の大会には副審として招集された。
 ◆U2R:魔導擬人機。我々的には、C3-PO的なドロイドを想像すればいいと思う。ただし3POよりもっと有能で、大会の管理をしている。もう相当古い機械らしい。
 ◆キラル・ミラル:「ひとつの戦争を終わらせるのにそれまでの戦死者に倍する犠牲者を生む」と世に悪名高い双子の「戦地調停士」。姉のミラロフィーダ・イル・フィルファスラートと、キラストラル・ゼナテス・フィルファスラートのコンビ。ともに絶世の美形で顔は瓜二つ。姉のミラルは、基本的に「良し(ディード)」と「否(ナイン)」しか言わない不思議系美女。どうやらEDのことが大好きで惚れてるらしい。弟のキラルはEDをつまらん男としか思っていないようだが、その実力は認めている模様。なお、二人の姓「フィルファスラート」というのは、リ・カーズが人間だった(?)時の姓。二人とも、超絶に頭は切れる。
  ◆ニーガスアンガー:前回優勝者。世界最強の「防御呪文」の使い手。「海賊島」のムガントゥ三世の全身に防御呪文の入れ墨を施したのもニーガスアンガーで、シリーズでちょいちょい名前が出てくる。シリーズ4作目の『禁涙境事件』では若き頃のニーガスアンガーも出てくる。そして、本作では第1の被害者として冒頭で殺害される。
 ◆ウージャイ・シャオ:中盤で出てくる、「女盗賊」。まだ10代の少女。「聖ハローラン公国」の月紫姫と友達のようで、次の3作目『海賊島事件』の冒頭にも出てくる。大変ナイスキャラ。 
 ◆死人:大会審判長のゾーン・ドーンという人物は「死人」だそうで、一度死んだが手遅れの蘇生呪文の作用で 生体活動が戻った者のことを、この世界では「死人」という。彼らには以前の意思も人格も記憶もなくなっていて、生きている時とはまるで別人になっているらしい。ただし、知識だけは残されていることが多く、言葉や道具の使い方は前と変わらないという設定になっている。ちなみに、第4作目・第5作目に出てくるネーティスも「死人兵(しびとへい)」。

 とまあ、こんな感じかな。
 本作は、一応「密室モノ」と言っていいと思うのだが、ミステリー部分はもちろん、いろいろな人物の行動が大変興味深くて、非常に面白かった。第1作目の『殺竜事件』とはだいぶ趣が違って、本当に上遠野先生はすげえなー、と思うばかりである。 この才能をもっともっと世に知らしめたいものだが……だれか、この「事件シリーズ」を超絶クオリティで2時間にまとめて劇場アニメにしてくれないかな。絶対面白いはずなんだが。映像にするには地味すぎるかもな……でも、最高の小説原作として映像に向いていると思うな。なんなら、ハリウッドで実写化してもらいたいもんだぜ。

 というわけで、結論。
 上遠野浩平先生による「事件シリーズ」第2作目、『紫骸城事件』も最高に面白かった。15年ぶりの再読だというのに、なんでこんなに新鮮に感じて面白く読めちゃうんだ。あ、それはわたしの記憶力がニワトリ並ってことか!? HOLY SHIT……否定できない……。けど、間違いなく最高に優れた小説だと思います。以上。

↓ やっと電子でも発売になったので昨日から読んでます。しかし本当に早川書房は素晴らしい出版社ですよ。紙の本の発売から1週間で電子書籍発売。大変ありがたし。
暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2016-07-22

暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2016-07-22

 

 というわけで、先日、上遠野浩平先生による「事件シリーズ」を電子書籍で一気買いし、以来、せっせと順番に読んでいるわたしである。作品自体は、発売当時に紙の本で買って読んでいるので、知っている話なわけだが、改めて読んでみると全く忘れていることも多く、実際初めて読むかのように楽しめてしまい、わたしの記憶力も本当に大した事ねえなあ、とやや残念ではあるが、まあ、同じお話でここまでまた楽しめるなんて、おれも随分お得な奴だな、という気もする。とにかく、一度読んだことのある小説なのに、またしてもこんなに面白いなんて、と上遠野先生の作品の素晴らしさをわたしとしては最上級にほめたたえたい。実に面白い作品である。
 そんな感じのわたしなので、また、数年後、記憶が消失することはほぼ確実なので、それぞれの作品に関してメモというか備忘録的に、登場人物や思ったことなどをまとめておこうと思った次第である。
 まず、シリーズ共通の物語の舞台だが、「呪詛」をベースとした「魔法文明」の発達した、「ここではないどこかの世界」である。我々の文明の主要エネルギー源が、太古の生物の死骸が堆積圧縮されて液化した「石油」であるように、その世界では「生命エネルギーの二次利用」だという。つまり、生命エネルギーの1次利用とは「生きていること」そのものだが、それは当然死ぬときに終わる。だがその生命の残滓というものがこの地上に残り、それが「呪詛」と呼ばれる魔法の源になるエネルギーなのだそうだ。で、そのエネルギーは生物の「思考の流れ」に反応するらしく、「呪文」はその思考の流れを整える(?)もので、さらに言うと「呪符」にそのスイッチ的な役割を与えられると。そういった「呪詛」を用いて火をつけたり、冷やしたり、ということをして文明を築いている、そんな世界である。
 まずはこちら、シリーズ第1作の『殺竜事件』から行ってみよう。

 本作は、2000年6月に発売になった作品で、大変失礼な言い方で申し訳ないのだが、上遠野先生の『ブギーポップ』シリーズの人気の最盛期で、間違いなく当時の電撃文庫の不動の4番バッターだった頃だ。なので、わたしの大嫌いな講談社からこの作品が発売されたときは、本当に腹立たしく思ったのだが、読んでみるともう最高に面白くて、くっそう、面白れえ……ぐぬぬ……!! と憤死寸前だったことをよく覚えている。
 で、物語はというと、タイトル通り、今世界に7匹棲息するとされる「竜」のうちの1匹が死ぬという事件が起こり、その謎を解くミステリー(?)である。その謎に挑むのは、以下の3人組で、直近で「竜」に面会した記録の残っている、容疑者と思われる人々のもとを訪れて、話を聞いていく展開である。
 ◆ED:本名はエドワース・シーズワークス・マークウィッスル。世界に23人しかいない、「弁舌と謀略で歴史の流れを抑え込む」と言われる七海連合の特殊戦略軍師「戦地調停士」の一人。常に仮面を着用している男。ヒースとは子供のころからの親友。「オビオンの子供たち」の生き残り。本人曰く、本職は「界面干渉学」を研究する学者。
 ◆ヒースロゥ・クリストフ:本来はリレイズ国の軍人だが、七海連合に出向している少佐。いくつもの勇名を馳せる世界的な有名人。世界最強の戦士の一人。リーゼとはかつて同じ国際学校で学んだ友人。朴念仁。EDは、ヒースを「世界の王」にしようと思っている。
 ◆リーゼ・リスカッセ:カッタータ国の特務大尉。女性。常識人でありEDの奇行・言動に振り回される役回り。ただし、肝の据わった精神的にも肉体的にも非常に強い女性であり、密かにヒースのことが大好き。
 ◆容疑者(1):聖ハローラン公国「スケノレツ」卿
 聖ハローラン公国というのは、このシリーズで何度も出てくる、この世界に存在する大国なのだが、まず3人はこの国へ行く。だが、竜に面会したとされる「スケノレツ卿」は半年前になくなっていることが判明。代わりに、「ハローランの塔に住むとても美しい姫」と半ば伝説化されている「月紫姫」と面会。ハローランの政治的内情を知ることになり、「月紫姫」は一つの決断を下すことに(事件には何の関係もない)。姫は第3作『海賊島事件』で再登場する。
 ◆サロン(宿屋)「水面の向こうがわ」にて情報収集
 3人が次に向かったのは、情報交換の場として有名な港町ム・マッケミート。そこで、サロンを経営するナーニャ・ミンカフリーキィとその娘ソーニャに会いに行く。この母娘の「ミンカフリーキィ」は「暗殺王朝」として有名なレーリヒという国に仕えていた「ザイラス公爵」の末裔で、情報やとしても有名な存在。ここでEDはすべての竜が現在棲息する地を記した「地図」を入手する。また、このサロンは「界面干渉学」の情報交換の場でもあり、いろいろな「この世界に流れ着いたもの」が取集されていて、我々の世界の車や拳銃などもある。また、EDの仮面を製作したのがナーニャであることも語られる。
 ◆容疑者(2)海賊島の領主「ムガントゥ三世」
 この世界での一大歓楽地として有名なソキマ・ジェスタルス島。別名「海賊島」。ここの三代目は一切世間に顔の知られていない謎の男だが、殺された竜に面会した記録が残っていたことから「海賊島」へやってきた3人。そこで出会ったタラント・ゲオルソンとのギャンブル勝負でリーゼが大活躍。それを見張っていたムガントゥ三世は、リーゼを気に入り三人の前に姿を現すのだが――。ゲオルソンやムガントゥ三世は第3作の『海賊島事件』で再び登場する。
 ◆容疑者(3)名もなき空白の地に住む「竜」
 「竜」を殺せるのは「竜」だけか? と、現在生きている別の「竜」に会いに行く3人。ここでの竜との問答で、EDは一つの確信を得る。
 ◆容疑者(4)竜探しの「アーナス」
 竜との面会後、世界に存在するすべての竜をその目で直接視認するという夢をもっている冒険者のアーナス・ブラントと出会う(※竜を見たといううわさを流せば二日以内に必ず現れる男なので、偶然を装って出会うよう仕向けた)。そして3人は、次なる目的地「バットログの森」の道案内をアーナスに依頼する。
 ◆容疑者(5)バットログの森の「ラルサロフ・R」
 3人+アーナスの一行は、300年前にリ・カーズとオリセ・クオルトという二人の超絶魔導士が戦い、その影響で魔法汚染されてしまって生態系に異常をきたしている「バットログの森」へ。殺された竜の面会記録の住所欄に、バットログの森に住むとされる人物の名前があったからだ。そして「ラルサロフ」と出会う。彼は「暗殺王朝」レーリヒの血を継ぐと自称している暗殺者で、EDたちの捜査を妨害するために雇われた刺客だった――。
 ◆容疑者(6)戦士の中の戦士「マーマジャール・ティクタム」 
 最後の容疑者は、「世界最強の男」として名高いマーマジャール・ティクタム。最新刊『無傷姫事件』にも登場する戦士。ヒースよりも戦闘力では凌駕する。わたしはこの人のことをすっかり忘れていたので、『無傷姫』を読んで電撃的に思い出したのだが、やっぱり、この第1作目の『殺竜事件』では、無傷姫についての言及はなかったすね。いずれにせよ、EDはマーマジャールとの対話で、事件の真相に気づく。

 というわけで、本作は犯人捜しのミステリーなので、ネタバレにならないように書いてきたつもりだが、たぶん、わたしのこの無駄に長い文章を読んでも、物語の面白さには一切影響ないと思う。非常に面白いので、ぜひ読んでいただきたい。たぶん、この作品だけでも十分に面白く、いつもの「上遠野ワールド」の基礎知識はいらないと思うな。ほんと、16年前に出版された小説だけど、改めて読んでみて、その面白さを再認識しました。最高です。

 というわけで、いい加減、もう結論。
 上遠野浩平先生は、確実に日本小説界の中でTOPクラスの実力を持つ最強の小説家の一人であろうと思う。そして、先生が2000年に書いた本作『殺竜事件』は、その代表作の一つであり、その面白さは私が保証します。ええ、何の保証にもなってませんが。以上。

↓ シリーズ2作目はこちら。紙の本が出たのが2001年。15年ぶりに読んだけど、ホント面白い。

 というわけで、先日まとめて買った上遠野浩平先生の作品をあらかた読み終わった。今日取り上げるのは、今年の2月? あたりに出た新刊で、もともとは講談社の「メフィスト」というまったく売れてないと思われる小説雑誌に掲載された作品で、6本の短編とそれぞれの短編をつなぐちょっとした幕間が描き下ろしで追加されているものであった。
 タイトルは『彼方に竜がいるならば』。まあ、上遠野先生の作品を読んできた人ならば、なんとなく想像がつくだろう。本作は、すべて「事件シリーズ(あるいは「戦地調停士シリーズ」)」と呼ばれる上遠野先生の作品群と、デビューシリーズである「ブギーポップポップシリーズ」 の夢のクロスオーバー作品であった。結論から言うと、超面白かったす。

 6つの短編は、全て現在の我々の住む日本、が舞台で、「戦地調停士シリーズ」の異世界ではない。が、全て、今までの「戦地調停士シリーズ」とつながっていて、まあ、向こうの異世界からこちらへ漂着した「魂」?めいた存在が、こちらの世界の人々に影響をもたらすお話、と言っていいのではないかと思う。具体的に言うと、6つの短編はそれぞれ次のようなものになっていた。
 ◆『ドラゴンフライの空』
 『殺竜事件』に繋がる話。ビルの屋上で、飛び降りようとした女性が、先日この世で亡くなったミュージシャンの幽霊に出会う話。しかし、その幽霊は、どうやら同時期に異世界で死んだ「竜」と融合しているらしく――的なお話。
 ◆『ギニョールアイの城』
 『紫骸城事件』に繋がる話。謎の死に方をした男の調査にやって来る雨宮世津子(=ブギーポップシリーズでお馴染みの「リセット」)。その男の死に様は、空から落下してきた「何か」に貫かれたものだった。そしてその「何か」とは、異世界の「紫骸城」の破片らしく――的なお話。
 ◆『ジャックポットの匙』
 『海賊島事件』に繋がる話。木村陽子の物語(※木村陽子=第1作目『ブギーポップは笑わない』に出てきた木村明雄くんの妹)。その精神的な同一性からか(?)、『海賊島』のムガンドゥ(?)と会話できるようになってしまった彼女は、その指導の元、超一流ギャンブラーとして勝負に挑むが――的なお話。
 ◆『アウトランズの戀』
 『禁涙境事件』に繋がる話。土に埋まっている姿で発見された男の赤ん坊。彼の舌の付け根には「あちらの世界」の高度な「防御魔法」の刺青が刻印してあり、成長した彼は統和機構の観察対象になるが、やがて一人の女性と恋に落ち――的なお話。
 ◆『ヴェイルドマンの貌』
 『残酷号事件』に繋がる話。モデルの女性がひょんなことから手に入れた「仮面」。その仮面は、人の悪意を吸収する能力があり、どうやら『残酷号』で語られた「ヴェイルドマン計画」のアレらしく――的なお話。
 ◆『ドラゴンティスの雪』
 『無傷姫事件』に繋がる話。とある男女二人組が手にした紙。そこには謎の紋章が刻印されており、どうやら「竜の委任状」らしく、なんでもOKな無敵パワーを手に入れた二人だったが――的なお話。

 という感じに、シリーズを読んできた人なら興奮間違いなしのお話であった。
 どれも、こちらの世界では解析不能な、向こうの世界の魔術と呼ばれるものや呪詛といったものが事件の根幹にあり、それをリセットが調べに行く形式になっているが、さすがにリセットさんは、原理は分からなくても危険なものは危険、だけれど、危険でないなら放っておく、というプロ意識の高いお人なので、読んでいて大変面白い。まあ、言ってみれば、逆・界面干渉学、ですな。
 で、これら短編をつなぐ幕間には、毎回「ブギーポップ」がいつものようにしれっと登場して、各短編のキャラクターが、「世界の敵」なのかをチェックし、結局、やれやれ、僕の出番はないようだな、と去っていくという展開になっていて、大変ファンとしては面白い。

 というわけで、わたしは読んでとても面白かったわけだが、が、しかし、である。
 これはもう、どうにもならないのだが……完全に一見さんお断りの世界になりつつあり、上遠野先生の面白さは、どうしてもやはり、すべて読んでいないと存分には味わいきれないという、極めて残念な特徴がある。これはなあ……どうにもならないよなあ……そこが非常に残念で、なかなか人にお勧めしにくく、本作も、いきなりほかの作品を知らないで読んで、おもしろいのかどうか、実際のところさっぱりわからない。ちょっと無理、だろうな……。
 こういう点は、実はわたしの愛するStephen King氏の著作にも、ちょっとだけ当てはまることで、King氏の作品でも、一部の作品は、長大な『The Dark Tower』シリーズを読んでいないと分からないようなところもあるのだが、おそらくKing氏は意図的に、読んでいなくても大丈夫なように書いていて、基本的にはシリーズを読んでいなくても大丈夫、だけど、読んでいればより一層面白い、というように書いてくれているので、かなり一見さんのハードルは低く設定されている。これはおそらく、エージェントや編集者からの配慮なのではなかろうか。「King先生、オレはもう最高だと思いますけど、ここはちょっと、知らない人には全然通じないっすよ」という指摘が入るんじゃなかろうか。そんなことないかな? どうなんだろうなあ。
 つまり、何が言いたいかと言うとですね、上遠野先生の担当編集は、もうチョイ、一見さんでも読めるようにした方がいいんじゃねえかしら、という、まったくの大きなお世話を感じてしまったという事です、はい。せっかく、日本最強レベルの小説家なのに、イマイチ知名度が低いのは、この一見さんハードルが高すぎるからだというのは間違いないとわたしは思う。実にもったいない。ホント残念だ。

 というわけで、結論。
 上遠野先生による『彼方に竜がいるならば』という作品は、上遠野先生のファンなら絶対に面白い、と唸るはずだと思う。けれど、読んだことのない人には、さっぱりわからんのではないかと思うわけで、実に残念です。はーー何とかならんものか……以上。

↓ と言いつつ、わたしも実は上遠野先生の作品を全部読んでいるわけではありません。例えばこっちのシリーズはまだ全然読んでません、なぜなら、祥伝社が嫌いだからです。
 

 以前も書いた通り、わたしはライトノベルでもまったく躊躇せず手に取り、読む男だが、中でも、最強レベルに別格の天才だとわたしが思っているのが、上遠野浩平先生である。
 3月に、上遠野先生の代表作である『ブギーポップ』シリーズの最新刊を読んで、やっぱ最高に面白い、つか、もう電子書籍で全巻買い直してくれるわ!! と調子に乗って、とりあえずその時は、電撃文庫の作品を全巻買ったものの、実はその時、こっちはどうしよう……と悩んで保留してしまったシリーズがある。
 それは、講談社ノベルスから出ている『事件シリーズ』という作品群なのだが、こちらもめっぽう面白く、わたしは大好きである。が、この時、わたしは重大な、きわめて罪深い過ちを犯してしまった。な、なんと、今年の1月に、その『事件シリーズ』の最新刊が発売になっていたのに、全く気が付かずスルーしてしまっていたのだ!!! 何たる愚か者か!!! 実に自分が腹立たしい!! というわけで、先週の末に、「げええーーーッ!? こ、これは新刊!? 嘘だろ!? ドッゲェーーーッ!! なんでオレは買ってなかっただァ―――ッ!!」と、激しく動揺し、即購入し、読み始め、こ、これは超傑作だ!!! と感動に打ち震えることとなったのである。その新刊のタイトルは――『無傷姫事件』。今年読んだ小説で現状ナンバーワンです。いやあ、本当に上遠野先生は天才だと思う。超最高に面白かったです。
 なお、以下、シリーズを知らない人は、わたしが何を言っているかさっぱりわからないと思うので、たぶん読んでも無駄です。さようなら。

 はい。シリーズを知っている人は続きをどうぞ。
 しかし……わたしとしては大変に盛り上がったわけで、その興奮をとりあえず書いてしまったわけだが、『事件シリーズ』の新刊は約7年ぶりになるのかな。だいぶ間が空いてしまっていて、登場人物など細かいことは結構忘れている。が、それでも今回の新刊『無傷姫事件』は大丈夫、と申し上げておきたい。
 冒頭、シリーズの主人公(?)たる「戦地調停士」のEDがとある地方に調査にやってくるところから始まる。それは、「無傷姫」と呼ばれた、とある国家元首の調査で、「無傷姫」が代々保持しているという噂の「竜の委任状」の存在をEDは確認しに来たのだが、その調査は、4代続いたそれぞれの「無傷姫」の生涯を紐解く作業であった――的なお話でした。
 ところで、わたしは完璧に忘れていたけれど、今、Wikiをチェックしてみたら、この「無傷姫」という存在は、シリーズ1巻目の『殺竜事件』でも言及されてる存在なんですね。そうなんだっけ? もう全く記憶になかったっす。すげえなあ。だって、『殺竜事件』が出版されたのって……ええと、2000年の話だぜ? 16年目の伏線回収と言っていいのかもしれない。いやあ、本当に興奮します。そして、完璧にそんなことを忘れていたわたしでも、まったくもって大変に楽しめました。
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 ※2016/08/04追記:現在、シリーズの最初からまた読み直しているのですが、上記の情報はサーセン、ウソでした。第1作には、マーマジャール・ティクタムは明確に登場するけれど、「無傷姫」に関する言及は一切ありませんでした。ホントサーセン。
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 キャラクター的には、EDや「風の騎士」ヒースロゥ、レーゼ、それから「ミラル・キラル」の二人といった、今までのお馴染みのキャラも出てくるけれど、本作は、70年ほど前の初代「無傷姫」の誕生からの、この世界の歴史を過去から順に追うものなので、基本的な時制は過去で、現在のEDたちは章の合間にチラッと出てくるだけです。そしてEDの過去的な部分もちらっとほのめかされるというか、垣間見えて、そりゃあもう大興奮ですよ。
 で、なにより興奮するポイントとしては、わたし的には大きく分けると3つあった。

 1)初代「無傷姫」
 上遠野先生のシリーズを読んできた我々には、300年前に「リ・カーズ」と「オリセ・クォルト」の超絶大喧嘩があったことは大変おなじみだと思いますが(さすがにわたしでもこれは覚えてた)、な、なんと、ですよ、初代『無傷姫』は「オリセ2号」として開発された合成人間なのです。これは、もう冒頭すぐに分かることなので、ネタバレですがいいよね? その、オリセ2号=オリセの妹、とされる合成人間が、現在時制から約70年前に、とあるきっかけで封印から目覚めるところから物語は始まるのだが、この設定だけで、我々ファンは白米3杯いけますね。のっけからもう大興奮。そしてそのキャラ造形が恐ろしく上遠野先生の描くキャラそのもので、実にイイ!! そして初代の跡を継ぐ3人の「無傷姫」もそれぞれ全く違うキャラクターで、読んでいて大変わくわくした。
 初代は合成人間、2代目は生真面目な少女、3代目は自由奔放な少女、そして4代は自分を持たない少女。それぞれがそれぞれの時代の「無傷姫」を演じ、務めるその生き方は、読んでいて大変爽快であり、かつ、非常に感動的とすら言える生き様だったと思う。
 そして、各「無傷姫」のイラストも大変素晴らしいと思う。このイラストを担当したのは獅子猿氏。もうキャリアもかなり長いベテランの方だが、非常に各姫のキャラクターを表す姿で、髪型や服装のデザインもとても特徴があって、完璧な仕事だと思う。もし、『殺竜』の金子一馬氏だったらと想像しても、今回の獅子猿氏のイラストは決して引けを取らないだろうし、極めて美しくカッコ良いと思った。素晴らしい。

 2)七海連合誕生秘話&戦地調停士誕生秘話
 このシリーズの主人公EDの所属する組織が「七海連合」だが、その創設秘話が本作では語られる。ただ、秘話と言っても、非常に成り行きで、じゃあそういう組織を作っとくか、名前もなんかカッコイイし、みたいな実に緩い(?)成り立ちで、この部分も非常に面白いと興奮した。その創設者たるユルラン・ヤルタードという人物も今回たぶん(?)初登場で、しかも彼は「無傷姫の天敵」と呼ばれる存在だったことが明かされる。でも、ユルランはあえてその通り名を世に広めていた的な秘密が非常に興味深かった。彼の根本的な望みは、「強いということがどういうことなのか」を知ることであり、生涯、初代無傷姫ハリカ・クォルトの謎を追求しようとしていたわけで、そのための資金稼ぎのために「ヤルタード交易社」を設立し、後にそこから3代目のマリカ姫に、勧められて作った集団が「七海連合」となる。「七海連合」の名付け親は、その3代目マリカ姫だったことが語られる部分は非常に爽快と言うか、そうだったんだ、そう来たか、と痛快でありました。
 そして、「戦地調停士」という職業(?)も、ユルランが設定したもので、第1号調停士となったハローラン・トゥビーキィも、その名から想像できる通り、今までシリーズに何度も出てきた「聖ハローラン公国」の第17王位継承者たる皇子で、元々王族に嫌気がさして音楽を作っていた変わり者で、ユルランの紹介で3代目マリカ姫と対面してからこの物語に登場するのだが、出番は少な目だけれど非常にキャラが立っていて、これまた大変に上遠野キャラ成分濃厚で良かったと思う。

 3)今まで名前だけ出てきたキャラが何人か登場&初登場キャラがイイ!!
 もう、いろいろめんどくさくなってきたので、キャラをずらずらあげつらってみようと思う。
 ◆バーンズ・リスカッセ大佐 :シリーズのファンならわかりますよね? リーゼのおじいちゃんがまだ若い頃の姿で初登場!!
 ◆オース・クラングルタール博士:リスカッセ大佐とともに無傷姫に会いに行く。付け髭のなかなかいいキャラ。何を研究している博士かって? そんなの当然「界面干渉学」ですよ!! しかも「界面干渉学」の始祖だそうです。
 ◆ユルラン・ヤルタード・・・無傷姫の天敵として上に書いた通り、「七海連合」の創設者。
 ◆ハローラン・トゥビーキィ:漢字で書くと、「波浪蘭飛毘行」。上に書いた通り、聖ハローラン公国の第17王位継承者にしてユルランの親友であり、後に第1号戦地調停士になる。
 ◆ヒギリザンサーン火山:人ではないけど今まで何度か出てきた山の名前。今回、その噴火の当時の様子が語られる。かなり重要な事件。
 ◆人食い皇帝メランザ・ラズロロッヒ:暴虐な男。2代目無傷姫と会談をする。今まで何度か名前は出てきてる。
 ◆ダイキ中将:ラズロロッヒの部下だったが凡庸な男。後の「ダイキ帝国」はこの人の名前から来ていることが今回判明!!
 ◆マーマジャール・ティクタム:『殺竜』にでてきたあの人。「戦士の中の戦士」という最強の男。確か、「竜」と喋れたり出来たんじゃなかったっけ? 今回、彼がまだ少年の頃に、2代目無傷姫と出会うシーンがあって、わたしはもう大興奮!!
 ◆オピオンの子供たち:人の名前ではないけれど、EDもまさに「オピオンの子供たち」の出身。今回、「オピオンの子供たち」にはどのような事が起きたのかが少し触れられる。

 はーーー。全然まとまらない散らかった文章になってしまったが、最期に一つだけ、ちょっと記録として残しておきたいことがある。それは、今回のエピローグ、エンディングが、上遠野先生の作品としては最高レベルにさわやかで、温かいのだ。ちょっと感動すら覚えるぐらい、非常にグッと来るエンディングで、そんな点もわたしがこの作品を現状の「2016年ナンバーワン」に位置づけるポイントでもある。
 また、あとがきも、いつもの上遠野先生節が全開で炸裂しているけれど、非常に考えさせるもので、かと言っていつものような難解な話でもなく、とても面白かった。要するにですね、この作品は最初の1ページ目から最後のページまで、完全にもう素晴らしいということですな。ホント最高に面白かったです。

 というわけで、全然まとまりがないけど結論。
 『無傷姫事件』は、まあ、記憶がフレッシュだからだと思うけれど、わたしとしては「事件シリーズ」最高峰、と言いたい気分です。ので、本当にそうか、もう一度「事件シリーズ」全作品を電子で買って、読み直そうと思います。 とにかく面白かった。最高です。そしてそんな最高の作品を、出版後半年経って読むなんて、ホントにオレはもう抜かってたとしか言いようがありません。もっと頑張ります!! 以上。

↓ やっぱり、1作目の『殺竜』は面白かったなあ……電子で全部買う。もう決めた!!
 

 今現在、たいていの本屋さんには「ライトノベル」と呼ばれる中高生向け小説の棚がきちんと設置されている。すっかり市民権を得たというか、「ライトノベル」という言葉が通じてしまう世の中になった。もちろん、おそらくは50代以上には通じないとは思う。なぜなら、そもそもは1980年代後半から1990年代にかけて生まれたジャンルであるため、それが約25年前として、その頃既に大人だった人は知りようがないわけだ。逆に言うと、25年前に15歳だった人が今、40歳なのだから、少なくとも30代以下の人にとっては、おそらくは普通に知っているものであろうと思う。
 要するに、カバーにイラストが描かれている10代向けの小説と思っていただければいいわけだが、ありがたいことに、いまだに読み続けてくれている30代~40代も非常に多く、市場として、出版業界が厳しい中、今でもそれなりの規模を誇っているのが「ライトノベル」という小説ジャンルである。
 で。
 わたしはライトノベルに相当詳しい人間の一人であるという自負があるが、そのわたしが断言してもいいと思っていることがひとつある。それは、1998年に発売されたとある作品が世に現れることがなかったならば、今のライトノベルの隆盛(もちろんここ数年は落ち込んでいる)は、決して存在しえなかっただろう、ということだ。
 その作品の登場によって、ライトノベルのナンバーワンレーベルである「電撃文庫」の今がある。その作品の大ヒットがなければ、確実に、「ライトノベル」そのものが、もちろん存在はしていたかもしれないが、今のようにどこの本屋さんでも棚が造られるほど、世に認知されることはなかった。それはもう、コーラを飲んだらげっぷが出るのと同じように確実な事実であると断言する。 
 その作品とは、上遠野浩平先生による、『ブギーポップは笑わない』という作品だ。
 1998年2月に発売された作品なので、正直、今読むとやや古い。あの当時はまだ携帯もそれほど普及していなかったし(当時わたしはポケベルから進化してPHSを使っており、携帯に移行するまさにそのあたりの時期) 、インターネットも、既に存在していたけれど、まだまだ原始的なWebサイトしかなかった。amazonだってまだ日本でのサービスは開始していないし、googleマップなんてまだない時代である。しかし、そういった時代を反映する小物類は古いかもしれないが(なにしろ主人公の女子高生はルーズソックス着用だ!)、物語としてはまったく色褪せないものがあり、実際、今読んでも非常に面白い作品である。
 『ブギーポップは笑わない』という作品が真に偉大な点は、例えば、それまで異世界ファンタジー主体だったライトノベルに、現代の現実世界を舞台として導入したことなど、実はいろいろあるのだが、わたしが最も重要というか、最大のポイントだと思っていることは、「普通の大人が読んでも非常に面白い」点にある。要するに、小説としての完成度が抜群に高いのだ。しかもデビュー作である。電撃文庫は、この才能を得たことを永遠に感謝し続けるべきだと思う。1998年からすでに18年が経過したが、いまだに『ブギーポップは笑わない』よりも小説として優れた作品はないと思う。この点は自信がないので断言しないが、たぶん、わたしと同じぐらい小説を読んでいる人ならば同意してもらえるような気がする。
 そんな『ブギーポップ』だが、もうすでにシリーズとしては20冊近く刊行されていて、おそらく今から新規読者を獲得するのは難しいかもしれない。さらに言えば、上遠野先生の作品はどのシリーズでもちょっとしたつながりや明確な関連があり、その全貌を理解するのは全作品を読まないといけない。しかし、タイトルに『ブギーポップ』とついていない作品も含めるとその数は40冊近くなる。そんな点も、新規読者には障壁となってしまうだろう。去年だったか、とうとう電子書籍での刊行も始まったので、わたしはこの期にすべて電子で揃えようかと考えている。まだ実行していませんが。
 というわけで、またいつものように長くなったが、以上前置きである。
 今月、電撃文庫より『ブギーポップ』の久しぶりの新刊『ブギーポップ・アンチテーゼ オルタナティブ・エゴの乱逆』という作品が刊行されたので、わたしは喜んで買ってさっそく読み、うむ、やはり上遠野先生は すごい、そして『ブギーポップ』はライトノベル最高峰の作品であろうという認識を新たにしたわけである。
ブギーポップ・アンチテーゼ オルタナティヴ・エゴの乱逆 (電撃文庫)
上遠野浩平
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2016-03-10

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))
上遠野 浩平
メディアワークス
1999-06

 というわけで、今回の新刊について少し感想を書き留めておきたいのだが、既にさんざん前置きで書いた通り、『ブギーポップ』シリーズは巻数も多く、登場人物もかなり膨大でわたしもはっきり言って「コイツ誰だっけ?」と思うぐらいだし、話もかなり忘れかけているので、詳しい説明はもうあきらめることにし、あくまで新刊の話だけに絞って書こうと思う。
 今回のお話は、「カミール」こと織機綺(おりはた あや)をめぐる、統和機構に属する二つの勢力の争奪戦である(もう、統和機構って何? とか、カミールって誰? という説明はしません。シリーズを読んできた人にはおなじみの言葉)。どうやら、カミールはこれまでは「無能力」として放置されていたのだが、実はその「無能力」こそが重要で、「合成人間を人間に戻すことができるかもしれない存在」として、二つの陣営はカミールを確保したがっているという状況である。そこに、綺の恋人たる正樹くんも巻き込まれていくという展開なのだが、今回はある意味シリーズ最強のキャラクター、綺の保護者であり、正樹くんの腹違いの姉である「炎の魔女」こと霧間凪は登場しない。この戦いの趨勢は、いつもの通り読み応え抜群で大変面白かったし、今後の綺の立ち位置も、これまでとは決定的に変わってしまうところで終了である。
 実のところ、上遠野先生の作品は、思想としてあるいは哲学として極めて興味深い記述が多く、おそらくわたしがこのシリーズを大学生当時に読んでいたなら、この思想について、本気で論述して卒論を書いたかもしれないとさえ思う。上遠野先生の人間に対する観察眼は非常に厳しく、示唆に富んだ指摘が多く、また、その指摘は極めて鋭い。その思想は小説として描かれているので、前面に出てくることはないが、おそらく現代日本においてTOPクラスの思想家ではなかろうかと思う。中沢新一先生あたりが本気で論述してくれたら面白そうなのだが、もはやわたしにとって上遠野先生の作品は、ある種の哲学書として楽しむべきものと認識している。
 今回、問題となるのは、タイトルにある「オルタナティブ・エゴ」というものだ。作中では、シリーズ随一の頭脳の持ち主としておなじみの末真和子と、前述の「炎の魔女」霧間凪の会話(を綺が思い出す回想シーン)で以下のように説明しされている(P.123)。
「とにかくオルタナティブ・エゴよ。我を張るくせに、そこには自分がなんにもないのよ。そういう例よ、それって」
「それってあれだろ、もう一人の自分とかそういう意味だろ」
「それはアルターエゴよ。心理学でいう自己の分身って方。ここでのオルタナティブ・エゴっていうのは、代案とかもう一つの選択とか傍流とか、そういった方の意味。要は、"なんか別のもの"とかいうような感じ」
「もう一つの自分、ってなんだよ」
「自分ではないのに、自分になってしまっているものよ。そういうものが人間の心の中にあるってこと」
(略)
「まあ、俺なんかはエゴの塊だからな」
「でも凪のエゴは決して利己的なものではなくて、理不尽と戦うための武器になっている。誰でもない自分という誇りがある。そういうのが正しいエゴだとすれば、オルタナティブ・エゴは誰でもいい自分、とでもいうべきもの。それは縄張り意識だけがとても強くて、内面の充実をほとんど考慮しない――そして何よりも、嘘つき」
「ああ、親父が嫌いそうな話だな」
「気にするのはいかに責任を逃れるか、破たんを避けるかということだけで、自分が何かを生み出したいとか、達成したいとかいう夢がない。そういう形でのエゴ――意志なき傲慢。無思考の厚顔無恥。それがオルタナティブ・エゴ。目的が、単なる言い訳になっている……卑怯者の自己正当化よ」
 今回の事件の中で、綺はかつて末真さんから聞いた上記の話を思い出し、まさしく自分も、そして自分を狙ってくる勢力も、オルタナティブ・エゴにとらわれているのではないかと考え、そこからの脱出を決意する。それが今回のお話の筋である。
 この「オルタナティブ・エゴ」という概念は、わたしには非常に興味深いものだ。なにしろ、リーマン生活を続けていると、出会うのはそんな奴らばかりなのだから。どうだろう、要するに思考停止の木偶の棒、ってところだろうか? 与えられ植え付けられた価値観を自分固有のものと「勘違い」して、中身のない言動をとる。中身がないだけならまだましで、その空っぽな言動で他者を攻撃し、とにかく空っぽな自らを守ろうとする。そういう奴、いっぱいいるでしょ? ただ問題は、そういう空っぽ星人どもをどうすべきかという事で、だからどうする、が明確には語られていない。作品の中で描かれるのは、そのことに気付いた綺の行動だけである。だからその「だからどうする」については、参考例として綺の決断と行動を描くので、あとは自分で考えろ、というのが上遠野先生のスタイルである。また、上遠野先生は、おそらく、だからダメなんだという価値判断も下していない、と思う。もちろん上遠野先生は、作中人物の末真さんの口を借りて、「卑怯者」とネガティブ判定しているわけだが、上遠野先生お約束のあとがきを読むと、それが人間だもの、しょうがないよ的なある種のみつお的な諦念めいたものも感じられる。これは、哲学系・思想系の本で非常に良くあるパターンだ。想像するに、ちょっとカッコイイこと書いちゃったけど、オレもそんな立派じゃねえしな、という著者の迷いのようなものなのではないかといつもわたしは感じている。なので、わたしはちょっと安心したりするわけで、そういった思想をエンタメ小説という形で発表し続ける上遠野先生は、本当にすごい作家だと思います。

 というわけで、いつにも増してまったくまとまりがないけれど、結論。
 やはり上遠野浩平先生も、作品を通じて自らの思想を表現しているという点において、手塚治虫氏先生同様の天才であると思う。本作も大変楽しめた。が、あまりに長いシリーズなので、やはり電子書籍ですべて買い直して、最初から読み始めよう、そして、今後の上遠野先生の作品は必ず読もう、と心に誓ったわたしであった。以上。

↓ 上遠野先生のJOJO好きは有名だが、コイツは本当に超・傑作。素晴らしすぎて最高です。

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