19世紀の末に、日本は明治の世となり、開国されたわけだが、その後、数多くの西洋人が日本にやってきて、おそらくは「なんてこった、こいつはすげえぞ!」と大興奮で買いあさって自国へ持って帰ったもの、それが浮世絵であることはもはやお馴染みであろう。その結果、いわゆる「ジャポニズム」なる一大日本ブームがヨーロッパで起こったわけだ。
 今、Wikiiで軽く復習してみたところ、どうやら明治になる前、1856年にはもうすでにフランス人が「北斎漫画」を目にして興奮していたようだし、1862年のロンドンの万国博覧会で日本文化は紹介されていたそうだから、どうやらその興りは江戸末期から、と言った方がよさそうだ。
 まあ、起源はどうもわたしのインチキ知識よりも古いようだが、そういった初期のフランスでの盛り上がりは「ジャポネズリー(日本趣味)」というそうだ。しかし何といってもわたしが「ジャポニズム」と聞いて真っ先に思い出すのは、やっぱりゴッホやモネと言った印象派~ポスト印象派の作家たちによるもので、そのような「ジャポニズム」の影響が見られる作品を我々日本人が見ると、なんかうれしくなるのはわたしだけではないだろう。
 そんな、なんかうれしくなる「ジャポニズム」というテーマは、比較的何度も、数年ごとに展覧会が行われているような印象があるが、今日、わたしは、二つの展覧会をはしごして、ぼんやりと美術鑑賞としゃれこんでいた。というわけで、わたしが今日観てきたのは、こちらの二つの展覧会である。
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 一つが、東京都美術館で開催中の『ゴッホ展~巡ゆく日本の夢』。こちらはチケットはとっくに買ってあったものの、あと少しで終わってしまうので、やばい、そろそろ行かないと、ときょう若干慌てて観てきた。
 こちらは、わたしが好きな三大作家のひとり、ゴッホの作品にみられる日本、というテーマでの展示であり、大変わたしとしては楽しめた。上の画像にある「花魁」をとうとうこの目にできて大満足だ。この作品、すごいのは、センターの花魁ももちろん、元になった作品があるし、周りのもの、例えば、足元にガマガエルがいるでしょ? このガマガエルも全く同じ構図の作品があるんだな。浮世絵で。
 本展覧会は、そのように、基本的に各作品ごとに「元となった浮世絵作品」と対になるように展示されていて、非常に分かりやすく、観ていると、マジかよ、完全パクリじゃん!と大興奮である。パクリ、というのはもちろん現代語で、ネガティブイメージがある言葉なのでふさわしくないかもしれないが、もうまさしくパクリ、であって、そこにはゴッホの「なんだよ、浮世絵ってすげえ! ちょっとおれもこうした構図で描いてみたい!!」と思わせる興奮と尊敬、そしてあこがれが存在しているのは間違いないと思う。
 わたしは今日初めて知ったのだが、どうやらゴッホの身近には、日本とつながりのある人々が4人いたそうだ。その4人によって、未知なる国、日本へのあこがれがゴッホの中でむくむくと沸き上がったんだそうだ。ちょっと2人だけメモしておこう。
 まず、一人は、叔父にあたる人物で、軍人として日本に滞在したことのある人物だそうでヨハネス・ファン・ゴッホなる方が、いろいろゴッホに、日本はすげえ国だぞ的なお話をしてたらしい。そしてもう一人は、画商のジークフリート・ビングなる人物で、この人は商売として浮世絵に注目して、日本に来日もして仕入れて、パリで店を開いていた人だそうで、ゴッホはそのお店で初めて浮世絵の実物を見て、「うああ!なんだこれすげえ!この倉庫は天国じゃん!」ぐらいの大興奮で通っていたそうです。サーセン、セリフはわたしが勝手に妄想で創作しました。
 そして、これもわたしは初めて聞いたように思うが、有名なアルルへの移住も、ゴッホ的には「ここはフランスの日本だ!」てな思いが強かったんだそうです。アルルと言えば、南仏の、太陽の光あふれるような温かいイメージがあるけれど、ゴッホが初めてアルルを訪れたのは冬で、その雪景色に日本を感じちゃったらしいです。へええ~。知らなかったわ。
 というわけで、本展覧会はゴッホ好きなら大興奮間違いなしであろうし、ゴッホに興味がなくとも、浮世絵の与えた影響の大きさを知ると、かなり興味深く作品を見ることができるのではないかと思う。わたし的には大興奮で大満足であった。ちなみに、この『ゴッホ展~巡ゆく日本の夢』は、年明けからは京都へ会場を移して、3月4日まで引き続き開催されるようですな。
 で。わたしは今日、9時半開場の『ゴッホ展』に8時55分ごろに着いて、寒空の中ぼんやり開場を待っていたのだが、わたしの前には15人ぐらいしかいなくて、大変快適に作品を鑑賞することができた。そして会場を出たのが10時半ごろで、次に、国立西洋美術館へ向かい、そのまま『北斎とジャポニズム~HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』を観てきた。
 しかし、チラッと見た限り、全然列がなかったので、これは大丈夫かな、と思って入場してみると、中は大混雑で、ああ、やっぱり絵画展は朝イチじゃないとダメだ……というため息のもと、来館者のあふれる館内に、わたしのテンションは下がりまくり、なんか、流して観てきてしまいました。
 こちらは、基本的なコンセプトは同じ、だけど、ゴッホ以外の作家の作品での「ジャポニズム」全開で、またこちらは北斎の作品がメインとして、北斎の作品とそれを基にした西洋絵画、という形で対になっていて、これはこれで大変面白かった。作品展数という意味でのボリュームもこちらの方が大きくて、大変満足である。
 わたしがこの展示を見て思ったのは、よくもまあ、オリジナルの浮世絵を探し当てたものだなあ、という若干のんきな思いで、後世の美術研究家たちの丹念な作業に実は一番感動した。ドガのこの作品は北斎漫画のこのページのこれ、とか、モネのこの作品は北斎のこの作品、とか、ロートレックのこの作品には、北斎のこの作品が、みたいな、その照合作業がものすごいと思った。とにかくその数は膨大で、実に興味深い。他にも、有名な北斎の「富嶽三十六景」のひとつ、「神奈川沖浪裏」がこれほどまでに多くの作品に影響を与えていた、なんてことも、結構感動モノである。すごい数ですよ。しかも絵画だけでなく、カミーユ・クローデルは彫刻で「浪」を作ってるし! 実に興味深く、面白く楽しませてもらった展覧会であった。あと、わたし的にとても感激したのが、現在ビル建替え中で長期休館中の、ブリジストン美術館が持っているセザンヌの「サント・ビクトワール山とシャトー・ノワール」が展示されていた! のである。何年ぶりだろう、お久しぶりっす!と思わず心の中で挨拶してしまったぐらい、わたしには大変おなじみの作品で、学生時代、何度も平日のガラガラのブリジストン美術館で観た作品で、とても思い入れのある作品だ。いったいいつ、新たに新装オープンするのか知らないが、早くまた、常設で会いに行きたいすな。はあ……あの頃、何度この作品の前で、若き悩みをくよくよ考えてぼんやりしたことだろう……とても懐かしく、また会えてうれしかったよ。
 そして、観終わったわたしが、ショップで見かけて、おお、これは面白い! と思って買ってきたのが、これである。
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 わかるかな、真ん中のものなんですが、「ミニ図録」なるものです。左のピンクの袋は、この「ミニ図録」を買うと入れてくれる紙袋で、デザインも色も、大変可愛らしくて良いじゃあないですか。そして右にあるのが、『ゴッホ展』で買った「花魁」のポストカードで、「ミニ図録」の大きさ比較用に並べて撮影してみた。わたしは図録を毎回買うわけではないけれど、図録を買う時は、作品を眺めるため、というよりもむしろ解説を読み物としてあとでじっくり読みたいからである。その目的からすると、この「ミニ図録」は実にわたしにとって都合がよく、大変気に入った。中も、左に北斎のオリジナル、そして右にその影響を受けた作品、と見開き単位で整理されており、大変観やすく、かつ面白い。普通のデカい図録は保管するのも大変だし、重いし、高いし、で、今後すべての展覧会でこういう「ミニ図録」があればいいのになあ、と思った。これは大変いい企画商品ですよ。全然知らなかったけれど、結構既に前から「ミニ図録」ってあったんですな。かつて、雑誌の女性誌も、「バッグサイズ」という縮小版が流行ったことがあったけれど、図録のミニサイズは大いにアリですよ。大変気に入りました。
 
 というわけで、わたしとしては短いけれど、結論。
 今日は美術展を二つはしごしてきた。東京都美術館で開催中の『ゴッホ展~巡ゆく日本の夢』と、国立西洋美術館で開催中の『北斎とジャポニズム~HOKUSAIが西洋に与えた衝撃』である。ともに、「ジャポニズム」を共通のテーマとしており、我々日本人が見るととても面白い企画だと思う。なんか、嬉しくなりますな、こういう日本の影響を有名な作家の有名な作品に観ると。まさしくCool Japanの先駆けですよ。そういう、これまで世界になかったもの、を生み出す力が我々日本人にはあるはずと信じたいですな。近年すっかり日本の世界的プレゼンスは低下してしまったけれど、偉大なる先達の作品を見ると、うれしくなるし、ちょっとした勇気が出てきますな。やっぱり、もう世界を相手にしないと。日本でしか受けないガラパゴス映画ばっかり作ってる場合じゃないと思いました。以上。

↓ 以前もこのBlogに書いたと思うけれど、有名なモネのこの作品「ラ・ジャポネーズ」は、数年前に世田谷美術館で観ました。想像よりも実物はすげえデカくてびっくり。凄いオーラでした。