いわゆる「COOL JAPAN」コンテンツというと、基本的には漫画・アニメ・ゲームの世界の作品が取り上げられ、その魅力をもっと海外に発信しよう的な活動が、ここ15年ぐらい、官民挙げて盛んなわけだが、一つ、大いなる勘違いじゃねえかとわたしが感じているのは、それらは主に「オタク」コンテンツであり、日本国内でさえ、一部のコアなオタク以外には訴求力が鈍く、いわんや海外ではもっとごく一部のオタクどもを熱狂させているだけで、実のところ、フツーの人々にはなんのこっちゃ? という性格のものであろうという点だ。
 実際のところ、例えば日本人なら大勢の人が「ガンダム」を知っているとは思う。けど、「おれ、やっぱり一番カッコイイと思うのはゼータなんすよね!」と熱く語っても、フツーの人は「ゼータ」ってなんぞ? と思うだろうし、海外では、フツーの人が「ガンダム」を(知ってはいるかもしれないが)愛しているとは思えない。
 しかし、「オタクコンテンツ」の最大の特徴は、その「忠誠心」にあり、好きな人は猛烈に好きで、消費行動も旺盛であり、経済的観点から見ると、母数は少ないが経済的価値はそれなりに高い、という点が、まさしく「オタク」的であると一般的に定義されるわけだ。
 ゆえに、「オタク」コンテンツの経済的価値がそれなりに高いのは間違いなくとも、イマイチその支持層は狭く、限定的であるため、経済規模としては、ある一定の視えざる上限のようなものがあって、それ以上成長しにくいという性質を持っているように思う。現実を見ても、もう10年以上、「COOL JAPAN」とか言いつつ、世界戦略としてはあまり大きな成果をあげていないのがその証左であろう。まあ、そりゃそうですよ。それをやろうとしているお役人どもが、そもそも「オタク」ではなく、何もわかっちゃいないのだから。
 というわけで、以上は全くどうでもいい前振りである。
 今日、わたしは、Steven Spielberg監督最新作の『READY PLAYER ONE』を観てきたのだが、確かに面白かった。しかし、この面白さは、あくまでわたしがクソオタク野郎だから通じる面白さであって、この映画は普通の人が見てもそんなに面白くないんじゃなかろうか、と強く感じたので、その原因のようなものを冒頭に記してみたのである。だって、画面にチラッチラッと現れるキャラクターたちに関して、非オタクのフツーの人に通じるとは到底思えないもの。この映画の面白さは、VRとかそういう未来描写じゃないと思う。まず、物語自体が「3つの鍵を探してその先にあるお宝をGetする」というゲームそのものであり、その点でRPG的な素養がなければ楽しめないだろうし、あっ! 今、春麗がいた! とか興奮出来ない人はダメなのではなかろうか。そういう意味では、本作は結構筋金入りのオタク向け作品であったと断言してもいいぐらいだ。
 また、わたしは原作小説を読まずに観に行ったので全く予想外で驚いたことがあった。わたしはこのBlogで、もう何度もStephen King大先生の大ファンであることを表明してきたが、Kingファンならば間違いなく大歓喜のエピソードもあって、まさしく俺得、要するに、わたしは超大興奮で楽しめたのである。
 けどこれは……フツーの人にはどうだろうか……。なので、上記のわたしの文章の意味が分からない人は、観に行ってもあまり楽しめないような気がしてならない。春麗の読み方が分からないって? ああ、そりゃもう、やめた方がいいっすわ。というわけで、以下、ネタバレに触れる可能性が高いので、まだ観ていない方は、今すぐ退場してください。

 というわけで、物語はほぼ上記予告で語りつくされている。舞台は2045年アメリカ合衆国のオハイオ州コロンバス。今現在から27年後という、恐らくこの映画を観る人が大抵生き残っているであろう、絶妙?な未来だが、まあ、現代ではまずまずな田舎の地方都市だ。

 この地に住む17歳の少年ウェイド・ワッツ君は、いわゆる負け組であり、リアルの世界ではつまらない毎日を送っているが、その唯一の心のよりどころは「オアシス」というVR空間であった。この「オアシス」は2025年(だったっけ?)にサービス開始されて以来、圧倒的なユーザー数を抱える娯楽空間で、人々はもう誰しもがVRゴーグルを着用して暮らしているような、そんな時代である。
 ちょっと笑えるというかリアルなのは、そういった負け組連中ほど、このオアシスにどっぷりハマって課金しまくっていて(中でのアイテム購入のため)、それが払えなくなって破産状態になると、IOI(アイ・オ-・アイ)なる企業に連行されでVR空間内での強制労働を強いられるという設定になっていた。生身の体は狭いボックスに監禁され、ゴーグルやVRグローブなどの装備が外されないように固定されて、VR奴隷となるのである。おっかねえ……つうか、日本のスマホゲー課金廃人たちを思い出しますな(なお、どういう法的根拠からそれが認められているのか、説明は一切なかった)。
 で、5年前、このオアシスの創始者が亡くなり、予告にある通り、創始者がオアシスの中に隠したイースターエッグ(=いわゆる隠しアイテム)を見つけたものに全財産を譲渡しよう、という動画が流れ、以来、オアシスの中にはエッグハンターたちが大挙して押し寄せているものの、いまだにエッグに繋がる鍵の1つも見つかっていないという状況で、現在、どうやら「レースゲーム」でゴールに辿り着いた者が第1のカギを得られるという情報は発見されていて、毎日、大勢の人々がそのレースに参加している、というところから本作は始まる。まあ、主人公のウェイド君がその鍵を次々に発見しーーーという展開は誰しも想像する通りである。
 ちなみに、上記予告に流れているVan Halenの「JUMP」に血圧が上がらない人も、この映画は楽しめないでしょうな。つまり、この映画はもう、38歳未満(1980年生まれ未満)お断りのおっさん・おばちゃんムービーであると断言してもいいぐらいだ。むしろR-38指定した方がいいとわたしは思います。
 これは、そもそも、オアシスの創設者が1972年生まれ(※原作小説の作者Arnest Cline氏も1972年生まれ)という設定に源があって、つまり80年代に10代で青春を燃やした人間なわけで、そりゃあ、そうなるわな、とわたしにはとても腑に落ちるものだ。そう、何を隠そう実はわたしもほぼ同世代なのです。なので実にストライクなわけです。また、全く物語には関係なく、オアシス空間を歩いているキャラがいちいち、あっ! 今のは!? とか反応してしまう有名キャラてんこ盛りとなっており、ちょっと待って!? 今ロボコップが歩いてたぞ!? あ! スポーンだ! みたいな興奮が続くのである。こういった点に関しては、わたしはもう、本当に楽しめる映画であった。

 しかし、肝心の「鍵」探しの展開は、まあ正直に言うと底が薄いような気もする。今まで5年間謎で誰も解けなかったのに、何故そんなに次々とウェイド君は解明できちゃったんだという点は、おそらく誰しも感じてしまうのではなかろうか。その辺りは、残念ながらご都合主義的であったようにも思う。『HUNTER×HUNTER』のように、ソロプレイではダメで、「仲間」とパーティーを組んでそこに行かないとクリアできない、みたいな条件があればよかったのにね……。ラスト、すべての資産を受け継ぐことになった主人公の決断も、ありきたりと言えばありきたりかもしれない。
 基本的に謎は、ヒントとなるメッセージがあって、それを、創始者の過去の言動から割り出して(※すごいことに、創始者の過去の行動が監視カメラなどの映像によって、全て映像アーカイブ化されていて、いつどこで何をしていたかを誰でも自由に閲覧可能)、あ、ひょっとして、こうすればいいんじゃね? とひらめいたウェイド君が行動に移し、まず第1のカギをGet、そして次の鍵へのヒントを入手して、次の謎に挑む(=次のクエストが発生してそれに挑む)という形になっている。Stephen Kingのファンならば、第2の鍵のクエストは最高でしたな! わたしは一発で、そりゃ『The SHINING』のことだ! と分かって大興奮、そしてあの「オーバー・ルック・ホテル」と「双子の姉妹」が出てきた時にはもう、相当血圧が上がったすねえ! でも、絨毯の模様が違うんだよ! 日本橋TOHOの絨毯の柄なんだよ! とか、もうホントにわたしとしては盛り上がりました。え? 意味わからない? ああ、それは……残念す。
 で、当然主人公の前には悪人が立ちふさがるわけで、本作の悪党は前述のIOI(アイ・オー・アイ)の社長(?)である。面白いのは、彼は純粋に金が欲しくて(オアシスの運営権を握るために)エッグを探しているのだが、彼自身は、全くオタクじゃないしセンスもない人種なんすよね。彼は、オアシス誕生以前に創始者のもとでインターンをしていた経験があるけれど、まったく素養がなくてそっぽを向かれていた「使えない」人物で、そのため、彼には自分では謎に挑む知識が全くないのだ。それ故、大量の社員を動員し、また賞金稼ぎ的なキャラも雇ってエッグ探しに奔走しているのだが、その様は、なんだかわたしには、何も知らないくせにCOOL JAPANとかほざいているお偉方のようにも見えて、その結末には、もう心の底から、ざまあ、とスッキリしました。もうチョイ、勉強してから出直しな! みたいな。それぞれのクエストは、というよりオアシス全体が、まさしく「ゲーム」なわけで、創始者はゲームデザイナーとして、「遊んで楽しんでほしい」というのが一番の願望であり、後継者に望んだ「資格」だったのだろうと思う。なので、彼にはその資格は最初からなかったということですな。ラストで、「私のゲームを楽しんでくれてありがとう」と言う創始者のアバターには、たぶんゲーム業界の人間はみなグッと来たと思う。

 というわけで、もうクソ長くなってしまったので、各キャラと演じた俳優をメモして終わりにしよう。無駄に長い文章、略して駄文でサーセン。
 ◆ウェイド/アバター名「パーシヴァル」:主人公の17歳の少年。アバターのパーシヴァルはかなりのイケメンだが、現実世界のウェイド君は眼鏡の冴えない野郎。もちろんパーシヴァルと言えば円卓の騎士の一人の有名人。ドイツ文学を修めたわたしとしては「パルツィファル」でお馴染みですな。相当なオタク野郎で、そのオタク知識で謎を解明するが、キーとなるのは、彼が創始者に関してナンバーワン・オタクであったことなんだろうと思う。しかし、リアル割れはマズいすよ。その後の展開も当然予想通りの展開で、これでもし惚れちゃった女子が現実世界で可愛くなかったらどうしてたんだろうか。可愛い女子で良かったね。そして演じたのはTy Sheridan君21歳。彼は『X-MEN:Apocalypse』で若きスコット=サイクロップスを演じた彼ですな。そのぱっとしない少年ぶりはなかなかでありました。
 ◆サマンサ/アバター名「アルテミス」:主人公が惚れちゃう女子。アバターも可愛らしく、本人もギリギリ可愛い。アルテミスはもちろん狩りの女神。オアシス内では『AKIRA』の金田バイクをかっ飛ばすイカした女子。しかし、パーシヴァルもアルテミスも、そんなアバターネームが残ってて良かったね。メジャーすぎてすぐ誰かが使いそうなのに。それだけ、初期からオアシスにログインしてたってことなのかな。いやいや、この二人が生まれた時にはもうオアシスは存在してたはずだから、それはないな。偶然? ま、そんなことはともあれ、彼女の一言が謎解明に繋がったわけで、ご都合主義とは言え、物語としてはまあアリとしておきたい。演じたのはOlivia Cooke嬢。知らない女優だなあ、と思って調べたら、なんてこった! もう2年前にこのBlogで記事を書いた『THE SIGNAL』に出てたあの娘じゃないか! 全然忘れてた。そうだったのか……。まあ、ホント、ギリ可愛い女優さんです。わたしとしてはむしろ、パーシヴァルの親友「エイチ」こそ、アバターはいかついメカボディの大男、だけど、現実では超かわいい女子、であってほしかったす。ラノベのお約束的な。
 ◆ハリデー/アバター名「アノラック」:オアシスの創始者。5年前に死亡しているが、オアシス内では鍵を渡すアバター・アノラック(姿は『The Lord of the Ring』でお馴染みガンダルフ!)として存在。果たして完全なNPCなのか、それとも……という点がラストでポイントとなる。なお、アノラックというと、いわゆるパーカー的なフード付き防寒着、だけど、どうやらイギリスのスラングで「オタク野郎(米語でいうギーク)」という意味があるそうですね。それは、イギリス人の鉄オタにはアノラックを着用している奴が多いことに由来するのだそうです。へえ~。演じたのは、ここ数年Spielberg監督の大のお気に入りであるMark Rylance氏58歳。しゃべり方が非常に特徴あるイギリス人のおじさんですな。いかにもコミュ障的な気弱な天才オタク野郎でありました。
 ◆ソレント:IOIの社長(?)。アバター名は不明?だけど、一応オアシス内で行動するアバターはあって、いかついスーツ姿のおっさん。さらにはメカゴジラのアバターを使って主人公たちを追い詰める悪い人だけど、オアシスへのログインパスワードを紙に書いて張っておくような、ド素人というか、IT企業のTOPとは思えないうっかりオヤジで、まあ、ありゃイカンすな。演じたのはBen Mendelsohn氏49歳。49歳!? うっそお! もっと上かと思ってた。わたしとほぼ変わらないじゃん! Ben氏と言えば、やっぱり『ROGUE ONE』の悪役のデススター・開発司令官クレニックを思い出しますな。そうか……ほぼ同じ年だったんだ……ショック……。
 これ以外のキャラは、まあ正直あまり重要ではないので割愛します。日本人トシロウ(アバター名ダイトウ)を演じた森崎ウィン君に関しては全く知らないので、書くことないす。ダイトウというアバターは、鎧武者で顔が三船敏郎氏なのだが、クライマックスではなんとRX-78-2ガンダムに大変身するという荒業で活躍してくれました。でも、ガンダムがビームサーベルを逆手で持ったことはないと思うな……たぶん。アレはアメリカンニンジャ的な刀の持ち方イメージなんすかね?
  あと、そうだ、最後に一つだけ、わたしがこの映画でガッカリしたポイントがあった。それは物語のラストに登場する現実世界のパトカーなのだが……物語世界は2045年なのに……思いっきり、日産リーフなんすよね……しかも現行の最新モデルではなく、初代の旧型。アレはちょっとどうかなあ……Spielberg作品らしくない、手抜きを感じてしまったのが残念す。2045年モデルの車であってほしかったなあ……。オタク向け作品だけに。

 というわけで、無駄に長いしまとまらないので、もうぶった切りで結論。
 日本キャラがいっぱい登場することで話題となっている映画『READY PLAYER ONE』をさっそく観てきたのだが、話自体はもうゲームそのもので、クソオタク野郎のわたしは非常に楽しめた。ついでに言うと、Stephen King先生の大ファンであるわたしとしては、Kingファンは絶対観るべき! とオススメしたい。が、ゲームやアニメに関するオタク的知識がなく、King作品も読んだことのない人は、この映画を観ても、何故わたしがこんなにも興奮したのか、全く理解できないように思う。もちろん、わたしもこの映画を大絶賛するつもりはない。実際、物語自体はそれほど深くはないし別に感動的でもないし。でも、わたしとしては別にそれでもいいのです。様々なキャラクターが登場し、ハリウッド映画で我らがCOOL JAPANコンテンツが活躍してくれたのは大変うれしくなっちゃうことなので。その意味が、オタク以外には通じないだろうな。しかしSpielberg監督はもう71歳だってのに凄いですな。その創作意欲は全く衰えておらず、さすがっす。でも、日産リーフだけはアカンと思います。以上。

↓ 原作小説ではウルトラマンに主人公が変身するとか、すごい展開らしいですな。版権の都合で映画には登場しませんでしたが。
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2014-05-17

ゲームウォーズ(下) (SB文庫)
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2014-05-17