007シリーズでわたしが一番初めに劇場で観たのは、おそらく『わたしが愛したスパイ』だと思う。70年代スーパーカーブーム真っ盛りの中、ロータス・エスプリが潜水艦に変形するギミックで、当時の小学生を仰天させたあの映画だ。オヤジと観に行ったことをよく覚えている。1/24プラモデルも作って遊んだもんだ。
 あれからもう40年近くが過ぎ、現在007を演じるのはDaniel Craigである。 まあ誰がどう見てもカッコイイ野郎だ。その彼がJames Bondを初めて演じた『Casino Royale』からもう9年がたち、Daniel Craig4作目となる最新ボンド映画『SPECTRE』が公開されたので、わたしも早速観てきた。はっきり言って物語上、若干の問題点はあるが、ボンド自体は超カッコ良く、アクション満載で確かな満足の映画であった。

 相変わらず、オープニングアクションからカッコイイ。この冒頭のメキシコシティーでのくだりは、ちょっと驚きのロングカットで、時間を測ってはいないけれど、たぶん3分以上、↑に貼った予告で、ボンドがライフル構えるところまで、ワンカットでカメラは止まっていない。冒頭からもう大興奮である。ちなみに、いわゆる「ガン・バレル・オープニング」はDaniel Craigボンドで初採用であった。
 ただ……わたしは、前作『SKYFALL』が全然楽しめなかったクチなのです。どうしてそんなにみんな『SYKFALL』を絶賛するのか良くわからない。あれはちょっとなあ……正直なところ、007映画としては敵の動機がしょぼい。逆恨みだし。なんか妙にマザコンっぽいし。しかもMもまったくの三下の銃撃が致命傷になってしまうし。ちょっとあの映画は、いまだにわたしは好きではない。ので、果たして4作目となる本作『SPECTRE』は大丈夫かしら……と実はちょっと心配していた。
 Daniel CraigがNEWボンドに扮してからの3本は、かつての007映画が基本的にに1本1本独立していたのと違って、微妙にストーリーがつながっていているため、今回の4本目も、ズバリ言うと前の3本を観ていないと、きちんと楽しめないと思う。まあ、それはそれでいいし、実際わたしも『Casino Royale』と『Quantum of Solace』については、事実上前編後編的な2本であるけれど、大好きだ。おっそろしくカッコイイ。しかしながら、今回の『SPECTRE』では、007最大の敵「スペクター」という悪の組織のラスボスの正体について、正直底が浅い。そして意外と弱い。ガッカリである。なので、その点では若干、いやな予感は当たってしまったと言える。
 たぶんこういうものは、最初の『Casino Royale』から周到に脚本の中で用意されていないとダメだったと思うのだが、おそらくは、今回の映画の構想は、『SKYFALL』時点で初めて意図したんじゃないかと思う。ちょっと後付け感が強い。偶然だったとしか思えないラスボスの人物造形には、はっきり言ってダサいというか、つまんねーの、と思った。なんでその人物がそういう悪の組織のボスになったかが一切描かれていないのだ。だから、脚本的には、わたしならもっとうまく書けるのになー、と、いつも通りのわたしの言うだけ詐欺ですが、そう感じてしまった。ありゃあ、イカンね。
 基本的に、007ことJames Bondは、その場の勢いというか先のことを考えずに、行き当たりばったりの出たとこ勝負で行動するキャラクターである。だから毎回、まんまとスーパーピンチに陥る。本作でも、観ているだけで相当痛そうな拷問を受ける。そういうピンチを、「Q」特製のガジェットだったり、「M」の支援だったり、あるいは「ボンドガール」と世に呼ばれるヒロインの助けを得て、なんとか脱するのがある意味シリーズの見どころなわけだが、そこを、アホかコイツ!! もうちょっと計画立てて綿密に行動しろよ!! と思ってしまったら、もうこの映画は楽しめない。
 おまけに今回のあの拷問って、別に何か口を割らせようとするものではなくて、単にボスの趣味だってのも、やっぱり脚本として0点だと思うんだけどな……ボスが如何にして悪の組織を作り上げたか、作り上げる動機や性格のゆがみの原因などは一切描かれておらず、それなら変にボンドの過去と結びつける必要性はゼロだったと思う。Mr,Whiteとのつながりはとても良かっただけに、ラスボスは別にボンドの過去とは関係のない、ただの悪党でよかったと思うが、もっと無敵で、頭の良い男にして欲しかった。要するに何らかの復讐だったり、悪のダークサイドへ転落するきっかけ的な出来事が描かれ、悪には悪の理由がきちんと提示されて欲しいのだが、そのような背景が語られないのなら、『The Dark Knight』におけるJoker的な、狂える純粋悪にしていただきたかった。おまけに、2時間28分かな、上映時間はちょっと長いね。無駄なシーンも結構あるので、その点でももっと改善できたと思う。ちなみに、ボンドの過去については、かのJeffery Deaverの『007 白紙委任状』でほのめかされるボンドの父親像が素晴らしく想像を掻き立てるワクワク感があって、わたしは大好き。この作品は、一応「公式」007シリーズに認定されてるんじゃなかったかな。わたしは今回の映画が、ボンドの過去に迫る!的なプロモーションだったので、まさか『白紙委任状』の設定を採って、父親の代からの因縁がからむのか!? そいつは最高だぜ!! と勝手に盛り上がって期待してました。全然違ってたよ……。
007 白紙委任状 上 (文春文庫)
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋
2014-11-07





 ともあれ。
 007シリーズは、脚本としてきちんとそうせざるを得ないと観客に思わせないといけないわけで、ほんのわずかな手がかりを得て現地へ飛び、アクションがあって次の手がかりを得て、また次の場所へ移動する、というのを繰り返して、最終的にラスボスとの対決に至る、というのが007の基本ストーリーラインなので、常に、観客を飽きさせない派手なアクションだったり、驚きの展開だったりというような、工夫が絶対に不可欠だ。その点では、今回の『SPECTRE』は、そのラスボスの背景が薄っぺらではあるけれど、ボンドの戦いの連続は非常に迫力もあって楽しめましたので、十分わたしとしてはアリ、としておこうと思います。このイマイチな脚本でも、流れや映像、そしてキャラクターは素晴らしく、わたしとしては『SKYFALL』よりはずっと面白かったと思う。それは間違いない。ポイントは、ヒロインかな? いや、今回のボンドがやけにカッコイイからかな? 相変わらず、Daniel Craigの着用するTom Fordのスーツはひじょーに美しく、カッコ良かったです。
 役者陣では、前作『SKYFALL』のラストで新たな「M」に就任したRalph Fiennesが非常に良かった。出番は少ないけれど、お堅い官僚かと思わせておいて実はちゃんと熱い男というのがとてもいい。また、前作から登場した技術スタッフの若きQを演じるBen Whishawも、とてもいい味を出している。これまで、現場に出向いたQっていたっけな? 現代の若者らしいとぼけた芝居振りは非常に良いと思う。それと、今回ボンドが乗り回す車、アストンマーチンDB10について、劇中でQが「ああ、この車は009のために用意したものっす。007、あんたのじゃないっすよ」と釘を刺すシーンがあるのだが、お前散々見せびらかせておいて、そんなこと言ったら絶対勝手にパクられるだろ!! と心の中でツッコミを入れたら、ホントにボンドに勝手に乗って行かれてしまって困るの巻、というしょんぼりしたQの顔は非常に笑わせてもらいました。あと、ヒロインはLea Seydouxちゃんが演じておりますが、ぱっと見では微妙ヅラかなぁと思っていたものの、ストーリーが進むにつれてどんどんかわいく見え始め、最終的には何この人、くっそエロイんですけど、と、ハアハアしながら観ていました。いいね。とてもいいです。ラスボスを演じたChristoph Waltzは、散々書いたように薄っぺらいキャラなので、芝居ぶりは素晴らしいけれど、まあ置いとくとして、悪役陣では、とある人物を演じている役者がホントに憎たらしい小悪党で、演技としては素晴らしいかもしれないけど、とにかく嫌な奴であった。Andrew Scottって役者はご存じですか? あのBBCドラマ『SHERLOCK』で、モリアーティを演じたアイツです。彼のモリアーティばりの嫌な奴さ加減は結構必見ですよ。

 というわけで、全然まとまりはありませんが、結論。
 『007 SPECTRE』は、脚本的にははっきり言って穴だらけで、散々文句を書いてしまったが、Daniel Draigのカッコ良さは本当にどんどん磨きがかかっているし、Lea Seydouxのエロ可愛さは超必見です。なので、わたし的には「アリ」。面白かったです、結局のところ。ただ、もし前3作を見ていない場合は、予習した方がより深く楽しめるのは間違いないですよ。

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007/ダニエル・クレイグ ブルーレイコレクション(3枚組) [Blu-ray]
ダニエル・クレイグ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2015-10-07