というわけで、昨日書いた通り、先週の日曜日に平成28年大相撲7月場所(名古屋場所)が閉幕した。そして同じ日の深夜、遠く離れたフランス共和国において、世界最大のスポーツイベントと称されることのある『Le Tour de France 2016』も最終日の第21ステージを迎えた。

 まあ、結果は、大方の予想通り、イギリス人(※ケニア生まれの南アフリカ育ちのイギリス人)のChristopher Froome選手が盤石の走りで2年連続3回目の総合優勝を決めたわけで、とりわけ大きな波乱もなく、なんとなくやれやれ、やっぱりFroomeか、というような印象も少しだけある。
 とにかく強い。彼の強さは、近代ツール覇者の条件である、山岳の強さとタイムトライアルの強さを双方ともに世界最強レベルで併せ持っていて、全盛期の(ドーピングで永久追放された)Lance Armstrong以上なのではないか、とさえ思う。特に山岳は。
 彼の特徴は、とにかくやはり異常な高ケイデンスを維持できる点だろうと思う。つか、Froome選手がダンシングしている姿はほとんど見ないもんな。とにかく、常にサドルに座ったまま、グイグイグイグイイイイッーーー!! と、あっという間にライバルを置き去りにする山岳での走りは、なんか、非常に異質なものを感じる。普通は、バッとサドルから立ち上がり、ダンシングでオラ、オラ、オラァッッッ!! という気合のアタックが観ものなわけだが、Froome選手の場合は、そういうことがほとんどない。だから、速さが目に見えないというか、実に不思議な、異常な速さである。あと、登りではなくて、確か、第8ステージの、マイヨ・ジョーヌを獲得した決め手となったダウンヒルの時だったけれど、解説の栗村修氏は、Froome選手のすっげえダウンヒルを称して「宇宙走法(でしたっけ?)」と言っていたけど、ホントにそう思う。とにかく、今までの常識では測れない、恐ろしい強さなんですよね。なので、その強さを本来は讃えたいのだけれど、あまりに異質で、わたしはどうも、熱心に彼を応援できないのだが、その理由は、そういう心に響くような魂のアタックが観られないからなのではないかと思っている。ファンの皆さん、勝手なことを言ってサーセン。
 
 わたしの好みは、熱いファイターであるのだが、どうもこの10年近く、そういった魂を感じさせる走りを見せる選手がいなくて、あまり楽しめていないのが現実だ。わたし的には2005年のLe Tourが最高に熱かったのだが、もう11年も昔っすね……。おまけに、Lance Armstrongの永久追放もあったりして、もうホント、やれやれ、である。

 というわけで、わたしとしては今年のツールは、Froome選手の「ランニング」が炸裂した第12ステージに度肝を抜かれたぐらいで、他は比較的、あっさりだったような気がする。しかしまあ、第12ステージはヤバかった。

 これは公式動画だが、なんと、Froome選手(黄色いジャージ=マイヨ・ジョーヌを着てる人)が、自転車に乗っておらず、「ランニング」してるでしょ。これは、何があったかというと、Froome選手と他2人の選手が、前方を走るバイクカメラに追突してしまって大転倒、そして後ろからついてきていたオートバイに自転車を踏んずけられて、チャリがぶっ壊れちゃったんだな。ゴールまでもう1kmを切っている地点での大アクシデント。そしてこの動画を見れば分かる通り、もう超・観客たちのエキサイト振りで、道幅が狭くなりすぎていて、予備の自転車を積んでいるチームカーが全然近寄れない状況。わたしはこの状況を、半分寝ながら生中継を観ていたのですが、思わず飛び起きて、な、なんだ、何が起こった!? えええーーーっ!? ま、マジか!! と完全に目が覚めた。ちなみに、結果的にはタイムロスは救済処置によって最小限にとどめられたため、成績に大きく影響はしなかったけれど、やっぱり、強すぎるFroome選手には地元フランス国民の風当たりも強く、批判もあったようだが、続く第13ステージのTT(=タイムトライアル)で総合ライバルたちを軽くしのぐタイム差をつけ、救済処置がなくても全然首位は動かなかったね、という強さを見せて批判を封じ込めた。これはとてもカッコ良かったと思う。
 ほかには、わたしが一番応援しているContador選手が途中でリタイアしたしてしまったのが大変残念だけれど、同じチームの世界チャンピオンPeter Sagan選手が相変わらず元気に5年連続ポイント賞(いわゆるGreenジャージ、フランス語で言うマイヨ・ヴェール)を獲得したし、Rafal Majka選手も山岳賞を獲得出来て、まあ、良かったね、ぐらいしか感想はない。
 あと、日本人唯一の出場者、新城幸也選手も無事完走、したのは本当に超人だと思うし、逃げに乗った第6ステージでの敢闘賞受賞は大変おめでたいけれど、チーム内の仕事としては、ほぼ何もしていないわけで、これは本人も、「何もできないツールだった」とインタビューで答えている通り、観ているファンとしても、正直物足りない気持ちだ。自転車ロードレースは、明確に「チームスポーツ」、すなわち団体戦である。なので、チーム内での役割があって、それが果たせたのなら、外からどう見られようとMission Completeなのだが、はたして新城選手は、自らのMissionを完遂できたのか。実際のところは良くわからないが、得るものがあった3週間だったと思いたい。

 というわけで、結論。
 今年のLe Tour de Franceは、結果的には下馬評通りChristopher Froome選手の盤石な横綱相撲で終わり、ちょっと、なんか熱くないような気がするものとなった。いや、もちろん、総合に関係ないところで繰り広げられるステージ争いなんかは熱くて、もちろん毎日楽しかったんですよ? でも、肝心の総合争いがなあ……。
 自転車ロードレース界の次のビックイベントは、スペインの「La Vuelta a Espana」が8/20(土)から開幕するが、その前に、今年はオリンピックイヤーである。新城選手が出場する男子自転車ロードレースは、8/6(土)の、大会2日目の開催だそうだ。日本時間では8/6(土)21時かららしいので、放送はあるのかなあ……ああ、NHKのWebサイトによると、翌日、録画&ダイジェストでしか放送はないみたいですな。まあ、強豪ひしめく中、メダルは事実上不可能だと思うけれど、途中棄権しないで完走して、2010年の世界選手権の時のようにゴールに絡んでほしいと思う。周回コースだけれど、今回は登りも石畳もあるし、クラッシック系の選手が有利かもしれないすね。ツールで落車骨折してしまったDumoulin選手が元気に出場できれば、かなり有力なメダル候補だと思うのだが……。楽しみに応援しましょう。以上。

↓ この年のヴィノクロフ大佐は本当にカッコ良かった……けど、翌年はドーピングで出場できず(2005年の成績ははく奪されてはいない)。そしてこのDVDジャケットで超笑顔のLance Armstrong氏は、7年後の2012年にすべての記録を抹消され永久追放となります。ホント残念だよ……。
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ランス・アームストロング
東宝
2009-07-08