日本における2013年の洋画興行において、おそらく業界関係者が一番驚いた作品は、なんと42.3億もの興行収入を上げた『TED』であろう。わたしも、こういう下ネタ満載のアメリカンギャグ映画が売れるとは全然思ってもみなかった。事実、 公開時は253スクリーンとやや小さめの規模で封切られ、3.2億、3.3億、2.98億と恐ろしく好調な週末興収を稼ぐに至って4週目からは373スクリーンにまで拡大され、その後も順調に興収を重ねたという近年まれに見る「後伸びヒット」をかました作品である。まあ要するに、当初はまったく期待されていなかった作品がグイグイ伸びたという非常に珍しい映画だ。
 監督したのは、Seth MacFarlane。いかにもモテそうにない愉快なおっさんだが、この『TED』はUS国内では2012年の6月公開で2億ドル以上の大ヒットとなり、2013年のアカデミー賞授賞式の司会を務めることとなった。しかし、生来の空気を読まないギャグ体質が残念ながら顰蹙を買い、本人ももう二度とアカデミー賞の司会はやらんと言っているようで、わたしもその年のアカデミー賞授賞式をWOWOWの中継で見たけれど、確かにひどかった。
 ま、そんなSeth MacFaelane氏だが、『TED』の大ヒットを受けて 調子に乗って制作した映画が『A Million Ways to Die in the West』(邦題:荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~)である。WOWOW放送を録画しておいた奴を、今日やっと観てみた。

 残念ながらこの映画は、US本国でも4313万ドルと、『TED』の5分の一程度しか稼げなかったし、日本でもまったく売れなかった作品である。あまりに売れなくてあっという間に公開が終わってしまったのでわたしもすっかり見逃してしまっていたのだが、改めて観てみて、なるほど、こりゃアカンと思った次第である。
 物語は、1882年アリゾナを舞台に、彼女に振られてふてくされて引きこもる羊飼いのまったくイケてないおっさん主人公が、街にやってきた悪党をやっつける話である。脚本的には特に見るところもなく、とにかくストーリーに関係ないギャグがそこらじゅうにちりばめられた、Seth MacFarlaneの、Seth MacFarlaneによる、Seth MacFarlaneのための映画であった。そのノリはまさしく悪ノリであり、ギャグもほぼすべてうんこ、SEX、人種差別的なもので、実に下品きわまる映画であった。別にわたしも下ネタに抵抗があるわけではないし、ギャグはギャグとして十分受け止めることのできる男だと思っているが、いかんせん、やりすぎというか、残念ながらまったく面白くないのが致命的である。
 この作品がWOWOWで放送されたのが1月4日なのだが、その日は放送をわたしは観ていたものの、開始19分で寝てしまい、おとといの夜、また観てみようと思って73分ぐらいのところでまた寝てしまい、ようやく今日、3度目にしてやっと最後までちゃんと見た。まあ、そんな映画です。
 この、Seth MacFarlaneという男は、脚本も書くし声優もやればアニメーター、歌手もこなすなど、恐ろしく才能あふれる男なのだとは思うが、ちょっとね……ちょっと無理です、わたしは。ただまあ、すべて確信犯としてやっているわけで、ファンはきっといるのだろう。実際、『TED』は大ヒットしたわけだし。まあ、去年公開された『TED2』は、US本国で8100万ドルに留まり、前作の半分以下に落ちてしまった。ただ日本では25億も稼いだのかな。それは非常に立派な数字である。ちなみにわたしは『TED』はそれほど面白いとは思っていないので、どうでもいいです。この人は。

 じゃあ、なんでわざわざ録画までして観たかというと、出演者がかなり豪華だからである。まず、主人公を振る元彼女を演じているのは、わたしが大好きな三大ハリウッド美女の一人、Amanda Seyfriedちゃんである。『TED2』でもヒロインを演じた彼女だが本作では、またひどい役で、彼女と言えばその大きな目がチャームポイントだが、「このギョロ目女が!!」とひどい言われようであった。そして主人公と恋に落ちて(?)拳銃のコーチをしてくれる女性を演じたのが、MADMAXのフェリオサでお馴染みのCharlize Theronで、本作でも非常に綺麗な美人さんであった。彼女は非常に良かったです。可愛くてカッコイイ。なんでまた主人公のようなイケてない男に恋に落ちたのかは全く理解できなかったけど。そして悪党を演じたのが、マスター・クワイ=ガン、あるいは戦うお父さん・ブライアン・ミルズこと、Liam Neeson氏である。しかしまた、なんでこの映画に出ることをOKしたんだろうか……と思うぐらいひどい扱いで、ケツ出しで失神するぐらいなら5万歩譲ってよしとしよう、だけど、そのケツにお花をブッ刺されて放置されるって……ここはさすがに笑わせてもらいました。そして、恋敵のイヤミな金持ちをNeil Patrick Harrisが演じていて、彼はブロードウェー・ミュージカルの活躍でも有名で、何度もTONNY賞授賞式の司会をしている男だ(2015年も彼でしたね)。本作では、これはたぶんミュージカルが元ネタなのでは? というギャグも多かったのだが、残念ながらわたしにはよく分からなかった。
 そのほか、カメオ出演でいろいろな有名役者が出ていて、おそらくはSeth MacFarlaneがそれだけUS本国では愛されキャラなんだろうな、ということは察することが出来た。チラッと、Back to the Futureのドク本人も出てくるし、今年公開の『DEAD POOL』でお馴染みのRyan Reynoldsも出てたし、ラストはJamie Foxxも当たり役Djangoの姿で出てくるし。まあ、そういう楽屋落ちめいたワイワイガヤガヤ感も、はっきり言って鼻につくと言うか、一人でよがってろ!! というわけで、わたしとしては冷める一方であった。

 というわけで、結論。
 『A Million Ways to Die in the West』、邦題『荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~』は、ちょっと日本人にはかなりのビーンボールで、悪球好きの岩鬼でも手が出せない、相当な大暴投であろうと思う。よって、普通のストライクゾーンの持ち主は、黙って見送るほうがよさそうだと思います。以上。

↓ 『TED』ならまだ普通の人にもかろうじて通じるんですが……。サーセン。『2』は観てないです。
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マーク・ウォールバーグ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2016-01-20