わたしは走る男として、わたしを知る人々から認識されている。が、実は、震災でわたしがエントリーしていたレースが中止になって以降、1度もレースに出ていないので、実際のところ過去形で語るべきかもしれない。まあ、いずれにせよ、わたしが皇居を走ったりレースに出ていたのは2000年代で、まだ、当時は今のようなブーム的な盛り上がりまでは来ておらず、例えば、今現在の皇居の周りは平日の昼でもなぜか走ってる連中が多く、しかもクソ遅いスピードで多くの人がちんたらしている姿を見かけるけれど、10数年前はほとんどそんな姿は見られなかった。当時、わたしはよく仕事終わりに皇居で走り、真っ暗な桜田門の誰もいない広場で、全裸で着替えをするのも全然当たり前だったものだ。今やったら、確実におロープ頂戴で即逮捕は間違いない。
 そして時が過ぎ、2013年4月15日。「PATRIOTS DAY(=愛国者の日)」という祝日に開催されたボストンマラソンにおいて爆弾テロ事件が発生したことは、我々日本人もまだ生々しい記憶として覚えている人も多いはずだ。最近のマラソンブーム的な世の中においては、結構世界のマラソン大会に出場するためのツアーなんかもあるけれど、このボストンマラソンは、そういうなんちゃって野郎はお断りで、出場条件となるレースタイムが結構シビアというか、普通の市民ランナーだとちょっと速い人でないと出られない条件となっている。わたしの持ちタイムでも、やっと出場条件を10分クリアしているぐらいである。瀬古選手が2回優勝したことでもお馴染みのレースですな。
 というわけで、わたしが今日観てきた映画『PATRIOTS DAY』という映画は、まさしくそのボストンマラソン爆弾テロ事件の顛末を追う物語で、実に痛ましく、観ていてなかなかつらい作品であったのである。以下、結末まで書くと思うので、ネタバレが困る方は読まないでください。

 まあ、物語はもう上記予告のとおりである。ボストンマラソン開催中のゴール付近で爆弾テロが起き、そのテロリストを捕まえようとする警察とFBIの捜査を追ったお話だ。直接的な爆弾による死者は3名。後の捜査中に射殺された警官1名、合計4名がこの事件で亡くなっている大変痛ましい事件だ。
 ただ、映画の展開としては、若干群像劇的で、冒頭から爆弾が炸裂するまで、およそ30分ぐらいは、のちにこの事件を中心的に捜査することになる警官、爆弾で片足を失うことになる若いカップル、のちに犯人に車を奪われることになる中国人青年、また、のちに犯人に射殺されることになる警官、そういった、事件によって人生が変わってしまった、あるいは奪われてしまった複数の人々の、「なんでもない日常」が描かれてゆく。もちろん、犯人の二人組の、決行に至るまでの様子も、だ。
 わたしがこの映画を観て感じたことは、主に二つのことであろうか。
 1)一体全体、どうして犯人はこんなことをしようと思ったのか。そして実行できたのか?
 この点は、実際のところあまり深くは描かれない。単に、イスラム過激思想に染まったゆとり小僧二人が行った、ある意味何も考えていない短絡的な犯行であるようにわたしには写った。はっきり言って子供の悪ふざけと変わらない幼稚な思考である。しかし明確な人殺しなわけで、きっちり落ちまえをつけてもらう必要がある。おまけに犯人二人は兄弟なのだが、兄の方は妻も子もいる。どういう経緯で過激思想に染まったのか知らないが、100%悪党と断言せざるを得ないだろう。意外と計画はずさんで(それゆえに100時間で事件は解決する。100時間が長いのか短いのか、もはやわたしには何とも言えない)、様々な場所の監視カメラにバッチリ写っている。この事件はいわゆる「自爆テロ」ではなく、自分はさっさと逃げて無傷だったのだから、まあ、きっと死ぬつもりはなかったんだろう。でも、あんな計画で逃げ切れるとでも思っていたなら相当知能は低い。ちなみに二人の犯人は事件後、家にこもっていたけれど、顔写真が公開されて、その時点で初めてヤバい、逃げよう、と、NYC目指して逃亡するのだが、バカかこいつら、死ねよ、と本当に腹立たしく思った。おまけに、二人は逃亡のために、わざわざ超目立つメルセデスの新車のSUVを奪って、その持ち主も乗せたまま逃亡するのだが、ごくあっさりその持ち主に逃げられ、追い詰められることになる。行動に一貫性がなく、確実に言えることは、この二人はど素人、である。
 そしてわたしがもっと腹が立ったのが弟と、その大学の友人のクソガキたち(こいつらは別にムスリムではないただのゆとり小僧たち)の方だ。この事件当時19歳だったそうで、まさしく何も考えていないとしか言いようがない。こういう凶悪なクソガキが平気な顔をして暮らすUSAってのは、ホントにおっかないですなあ。そしてその友人どもも、写真が公開された時点で、あ!これってあいつじゃん!と認識しているのに、一切警察へ通報したりしない。このガキどもがさっさと通報していたら、ひょっとしたら警官は死なずに済んだかもしれないのに。まあ、まさしく悪意そのものですよ。ちなみに、このガキどもも、事件後捜査妨害の罪で逮捕されたそうなので、心底さまあである。キッツイお仕置きをくれてやってほしいですな。そしてもうひとつちなみに、兄貴の方はきっちり死ぬのだが(しかも警官に撃たれて死ぬのではなく、弟の運転するメルセデスに牽かれて死亡)、このクソガキ弟の方は生き延び逮捕される。現在も収監中だそうで、一応死刑判決が出ているそうだが、さっさと執行してもらいたいものだ。
 あと、悪意そのものといえば、犯人の兄の妻、も相当なタマと言わざるを得ないだろう。狂った信心に心を閉ざし、捜査に一切協力しない。劇中、ラスト近くで、超おっかないおばちゃんがこの妻を尋問するシーンがあるのだが、ちょっとわたしには意味不明で、その超おっかないおばちゃんが何者なのかさっぱりわからなかった。あれって……誰なんすか? ミランダ警告(※よくUS映画で刑事が犯人を逮捕するときに「あなたには黙秘権がある……」と読み上げるアレ)なしで妻を逮捕させる権限を持つ何者か、なのだが……だめだ、キャストとしてもInterrogator(尋問者)としか載ってないな……まあとにかく、この邪悪な妻も、さっさとこの世から抹消すべきでしょうな。もちろん現在も収監中?のようです。なお、その妻を演じたのは、TVシリーズ『SUPERGIRL』でおなじみのMelissa Benoist嬢でびっくりしました。
 2)捜査規模が尋常じゃない。当たり前かもしれないけど。
 本件の捜査は、警察が始めは場を仕切る、が、US国内における防諜・対テロ案件は、当然FBIの管轄だ。なので事件後数時間でFBIチームが現場に到着する。そして爆発現場に転がっているボールベアリングなどを見て、明らかに殺傷力を高めた対人爆弾であることから、本件はテロ事件であることを宣言し、FBIが捜査権を握る。このシーンは上記の予告のとおりだ。
 そしてその後、でっかい倉庫に現場を再現し、膨大な動画の中から犯人を特定し、前述のように、犯人に車を乗っ取られた中国人青年が逃げて通報し、と犯人に迫っていく。そして車を発見し、銃撃戦となって兄が死んだところで、弟には逃げられてしまう。ここからの展開がすごいんですよ。なんと、ボストン全域(?)にわたって、「外出禁止令」を発令し、商業活動も一切すべて止めてしまうんだな。車一台通らないボストンの図は、まさしく劇中のセリフにある通り、Martial Law=戒厳令そのものだ。これは日本ではありえないだろうな……あり得るのかな? それを可能にする根拠となる法が日本には存在しないんじゃないかしら……。まあ、最終的には、隠れていた弟は見つかって御用となるわけだが、その大捕物も、そりゃ銃や爆弾を所持している可能性があるから当然かもしれないけど、過剰なほどの銃・銃・銃、での大包囲となる。
 わたしは観ていて、やっぱりこれは、要するに戦争なんだな、と思った。戦争とテロ、何が違うかといえば、常識的に答えるならば戦争はプロ同士の殺し合いであり、戦闘員以外は対象から除外されるものである一方で、テロは、非戦闘員をも殺傷対象にしている、という点にあろうと思う。しかし、やっぱりテロは「いつでも」「どこでも」「誰でも」が無差別に対象となる戦争そのものなんだな、ということをわたしは強く感じた。なんというか、人類は憎しみの連鎖を断ち切ることはできず、ずっと殺しあうんだろうなという絶望を感じざるを得なかった。
 本作は、そういったテロに対する憎しみや、失われた命に対する悲しみを克服することができる、唯一の力として「愛」を讃美しているのだが、まあ、そうあってほしいとわたしも深く同意したい、とは思う。心から。けど、無理なんじゃないかなあ……。それならとっくに克服しててもおかしくないはずなのではなかろうか……人類は、どうやら何千年たっても、肝心な部分が進化できていないのかもしれないすねえ……。ラストの、おそらくは当時の本物映像を使ったと思われる、ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークでの「BOSTON STRONG」の演説(?)シーンは、わたしは結構グッときましたね。なんか、映画館でも鼻をすすってる人も多かったように思います。
 ※ちなみに、生粋のボストン人は「ソックス」ではなくて「ソークス」と発音するそうで、とある二人のキャラが「ソックスでしょ?」「いやいや、ソークスだよ」とやり取りするシーンは、後々ちょっとグッときます。

 というわけで、まあ、暗くもラストは希望を一応は描いてくれた映画なのだが、キャストは結構豪華で有名どころが多く出演している。もう長いので、二人だけ紹介して終わりにしよう。まず、主人公的視点のキャラとなる警官を演じたのが、サル顔でおなじみのMark Wahlberg氏。4月に観たばかりの『Deepwater Horizon』での熱演も記憶に新しい彼だが、本作は、監督も同じPeter Berg氏だ。やはり音響の迫力はばっちりだし、当時の本物の映像を巧みに使い分けながら非常にキレのある作品であったと思う。Wahlberg氏も、なんか、この人は「アメリカの良心」的な役が似合うんすかね。大変共感できる芝居ぶりであったと思います。
 そして次は、わたしが大好きなKevin Bacon氏の名をあげなくてはなるまい。今回はFBIの特別捜査官として、久しぶり?に悪党ではなく善の人でありました。いやー、シブい。実にカッコ良かったと思います。今回はそれほど活躍のシーンはないんだけど、犯人の写真を公開するか否かで警察とFBIが対立した時に、どっかのTV局がその写真を入手し、公開に踏み切るという話を聞いて、それまでは比較的冷静だったのに、いよいよブチ切れるシーンはもう、わたしの大好きなBacon節が炸裂してましたね。「……いいだろう。もう公開するしかあるまい。TVより先にな。だが! いいか! 覚えておけ! 絶対に写真をリークした警官を見つけ、必ず破滅させてやる!!!」わたしも観ながら、誰だ情報漏らしやがったのは!と腹が立っていたので、Bacon先生の大激怒で超スッキリしました。Bacon先生を怒らせるとは、恐れ知らずもいいとこだぜ……! あの大激怒を目の前でやられたら、おそらくほぼ確実に失禁せざるを得ないと思いますw 最高でした。

 というわけで、結論。
 2013年4月15日に起きた、ボストンマラソン爆弾テロ事件の顛末を描いた『PATRIOTS DAY』を観てきたのだが、とにかく思うのは、テロはもう戦争そのものだということで、まあ断じて認めるわけにはいかないということだ。ま、当たり前か、それは。しかしなぜなんだ? なんでそんなに憎しみを身に抱えられるんだ? なんで平気で人を殺せるんだ? 映画としては、本作はわたしのその疑問には答えてくれなかったけれど、代わりに、憎しみと悲しみを克服するのは「愛」しかねえ、と教えてくれます。でも……どうなんだろうな……いや、やっぱりそう信じて、行動するしかないすかねえ。なんというか、信じて損はないと思うけど、相手もそうとは限らないわけで、どうしたらいいのかなあ……以上。


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