2010年に起きた「メキシコ湾原油流出事故」は、油まみれの海鳥の写真とともに全世界に報道され、いまだにわれわれ日本人の記憶にも残る大事故であろうと思う。われわれ日本人は、その後、東日本大震災に続く福島第1原発の壮絶な事故をテレビ画面を通して目撃してしまったわけだが、人間はとにかく地球をぶっ壊すことに余念のない生物である、と、将来どこかの宇宙人が言い出したら、残念ながら反論はできないのではなかろうか。
 というわけで、今日わたしが映画館で観てきた映画『Deepwater Horizon』(邦題:バーニング・オーシャン)という作品は、その2010年メキシコ湾原油流出事故の発生にいたる経緯を描いた実話ベースの物語であった。11名の人命が喪われた壮絶な事故であり、大変緊張感の高い作品であった。

 このような「Based on True Event」の映画の時はいつも書いているような気がするが、当然映画であって、描かれていることを100%鵜呑みにすることはできない、と承知してはいるものの、司法の手による捜査もほぼ終わっており(?)、結論としてはこの事故は、完全なる「人災」であることは間違いないようだ。しかし、はっきり言うと、犯人探しをしても、もはやどうしようもない。明確に「人災」である以上、この事故に対する責任を負うべき人物は存在しているわけだが、そいつを牢屋にぶち込もうと、失われたものは決して取り返すことはできない。ゆえに、我々としては、このような映画を観てできることは、「同じ過ちは繰り返すまい」と心に刻むことだけだろうと思う。
 もう、さんざんこの事件について報道されているように、この事故の責任は原油採掘基地「Deepwater Horizon」の保有者(?)であり運営者である(※追記:どうやらDeepwater Horizon自体はトランスオーシャン社(=主人公の所属する会社)のものらしい)、油田開発を実施・管理するイギリス企業、BP社にあろう。British Petroleum=イギリス石油、という社名を持つスーパー大企業でありモータースポーツが好きな人ならそのロゴマークは誰でも知っている、あのBPである。わたしはこの映画を観て、初めて知ったというか、そりゃ言われてみればそりゃそうか、と思ったのは、「Deepwater Horizon」で働く現場の皆さんは、みんな下請けの人間で、BPの人間はほとんどいないんすね。確かに。それは超ありうる。たいていの大規模開発の建築現場でも、仕切りはゼネコンでも、現場にゼネコン社員なんてほとんどいないだろうし、それと同じだよな、と改めて気が付いた。
 なので、この映画で描かれるヒーロー的活躍をする主人公や現場主任は、BPの人間ではなく、遅れている作業に業を煮やした(?)BP幹部が、現場の意見を無視して(一応、しぶしぶではあるけれど「同意」は明確にしたので、正確には無視してない)作業を指示したことで起きた大事故、と描かれていて、それはきっと事実なんだろうけれど、そんな、現場にやってきたBP幹部を悪人的に描いてもしょうがないというか、そりゃフェアじゃないんじゃないかしら、という気はした。そんな木っ端端末なんぞよりも、悪党はもっと奥にいるはずだ。現場になんて出てこないで、事業戦略を練るような中枢の、たっけえ給料をもらってる連中が決めた事業方針が、この事故を起こしたといって過言ではないのだろうと思う。
 ただし、それももはや結果論であって、おそらくは「大企業」と呼ばれる会社なら、事の大小はあっても、確実に起こりうるものだと思う。とりわけ上場企業の場合は、どんなきれいごとを並べても、究極的には利益の追求こそが至上命題というか義務であり、コスト削減は当然なのだから、本作で描かれたような、巨額の投資による事業が、なかなか進展しなければ、当然イライラもする。そして現場に派遣された幹部は、その問題解決が義務になる。何が問題で遅れているのか。その調査にまた時間(=金)がかかるわけで、残念ながらドツボにはまるわけだが、最終的な判断を人間がする以上、まず間違いなく、「まさかこんなことになるなんて」というミスが起こることは、もはや防ぎようがない。
 よって、責めるとしたら、そのリスク回避のバックアッププラン、事故発生時の対処法がなかった点にあるとわたしには思えた。いわゆる「想定外」ってやつだ。そして、その「想定」は、残念ながらどんどんと膨らんでいくばかりであり、企業としてはある一定の、ここまでは想定した、という線引きをせざるを得ない。たぶん、福島第1と決定的に違う点があるとしたら、この線引きのラインがやけに低かったこと、そして、人間による判断の甘さが事故の直接原因であろうということだ。
 本作で直接の原因として描かれるのは、パイプ内の圧力計の数値の解釈がマズかったという点で、その背景にあるのは、遅れている工期を何とかしたい=コスト削減、である。しかし、その判断がマズかったとしても、一気に大事故へつながる前のセーフティーネットはもっと何重にもあるべきだったんだろう。はっきり言って判断ミスなんて、絶対に起こりうるんだから。ま、それでも、人間は信用できん、とか言って、いろいろシステム化して、また無駄に金がかかったり、そのシステムもまた信用できない、みたいな無限ループになるんだろうけど、とにかく、「動いているものを完全に止める」手段は、何重にも用意しとかないとだめってことなんでしょうな。
 なんか書いてることも無限ループになってきたからこの辺にしておこう。
 ところで、わたしがこの映画で、へええ!? そうなんだ? と思ったことがもう2つあったのでメモしておこう。
 ◆実は「船」。
 石油採掘基地Deepwater Horizonは、わたしはてっきり、しっかり海底に固定された「建造物」なのかと思っていたが、実は「船」であった。ちゃんとスクリューとかある(=エンジンがついている)し、航行できる「船」なんすね。しかし考えてみれば当たり前で、あくまで「油田を発見するため」のものであり、空振りならば、はい次~と移動しなきゃいかんわけで、「船」といわれて、ああ、そうなんだ、つーか、そりゃそうだ、と納得である。
 ◆原油は汲み出すものじゃない=ポンプはいらない。
 これは冒頭で、主人公が自分の子供に説明する形で描写されるのだが、原油って、「汲み出す」ものじゃないんですね。つまりポンプなんていらないらしい。これも考えてみれば、ああ、そりゃそうだ、なのだが、要するに地下にある原油は、常に「超高圧」にさらされているので、穴をあけると噴き出すものらしい。なるほどである。そりゃそうだ。自分の上に、海や地面という超重量物が乗っかってるんだから、そりゃ圧力かかってるよ。これって常識なんだろうか? わたしは言われなければ全然気が付かなかったす。温泉なんかも同じなんだろうか??
 
 はー。もう長くなってきたので、最後にキャストと監督について触れて終わりにしよう。まず、主人公の下請け技術者(=油田探索のプロ)を演じたのが、サル顔でおなじみのMark Wahlberg氏。正直この人の見せ場は、事故発生後の避難の際の英雄的行動だけです。なお、本作はエンドクレジットで、実際の事件の裁判(?)シーンで、役の元となった本人が何人か出てきます。本物の彼は、事故後退職してテキサス住まいだそうです。あ、あと彼の奥さん役をKate Hudson嬢が演じてました。なんかいつもよりかわいく見えたのはなぜなんだ。大変お綺麗な美人ですな。
 次は、良心ある下請けの現場主任を演じたのが大ベテランKurt Russell氏。来月公開の『Gurdians of the Galaxy Vol.2』ではスターロードのお父さん役で登場するらしいすね。大変楽しみですが、本作でもやけに渋くカッコよかったす。彼に元になった人は、現在もなお同じ仕事をしているそうです。
 次。上に貼った予告でも登場する、ドリルオペレーター?の若者(最初にやっべえ!と気づく若者)を演じたのが、『THE MAZE RUNNER』シリーズの主役でおなじみのDylan O'Brien君25歳。このさわやかイケメンは顔に特徴があるのですぐわかりますな。助かってよかったよ。
 次。BPから派遣されてきた今回の悪役的ポジションとなった男を演じたのが、こちらも大ベテランのJohn Malkovich氏。まああの判断はまずかったな、どう考えても。ちなみにもとになった人は、故殺罪で起訴されたそうですが、のちに起訴取り下げとなったそうですよ。どういういきさつかはわからないけど。
 最後。監督は、Wahlberg氏とは前作『LONE SURVIVER』からの付き合いとなるPeter Berg氏。この人の作品は、結構私は好きかもしれない。独特のキレというか、いつも音響もいいし、非常に緊張感の高い作品をとる人だと思う。まあ、世間的には珍作扱いされてしまった『Battle Ship』も、わたしは嫌いではありません。この人は役者としても結構出てるんだよな。なかなかの才能あふれたお人ですな。

 というわけで、結論。
 2010年メキシコ湾重油流出事故を描いた『Deepwater Horizon』を観てきたわけだが、まあ非常に凄惨な事故が、ほんのちょっとしたこと、ともいえるようなミスが原因だったということはよくわかった。冒頭に書いた通り、もう犯人捜しは無益なので、こういう作品を観て、やっぱり「2度とこういうことを起こさない」ための教訓とするほかないと思う。これって、こんな大事故だけでなく、生活のあらゆるところでも当てはまることでしょうな。慎重になりすぎてもしょうがないけれど、常に安全第一で、万一のセーフティーは、生きる上でいくつあっても用意しすぎってことはない、とまあ、そういうことですな。しかし、どうでもいいけど「バーニング・オーシャン」って邦題は……必要だったのかなあ……ディープウォーター・ホライゾンじゃなぜ駄目だったんだろうか……。以上。

↓Mark Wahlberg氏&Peter Berg監督タッグの次回作はこの作品ですな。6月9日(金)公開。間違いなく観に行くと思います。

予告編はこちら。わたしの大好きなKevin Bacon氏が超シブイす。