前作『MADMAX: The Thunder Dome』の公開が1985年だから、既に30年が過ぎた。
 おそらくは、いわゆる「終末世界(ディストピア)」のイメージとして、全世界の様々な作品に影響を与えたあの『MADMAX』が、まさかシリーズ生みの親であるGeorge Miller本人の手によって再びよみがえる日が来るとは、わたしのような映画オタクでも、まったく想像していなかったに違いない。少なくとも私は、またGeorge Millerが撮るらしいという噂を聞いても、本当に撮影を開始して、ビジュアルが公開されるまでは、「またまた、ご冗談を。タチの悪い噂話はなしですぜ」と、一瞬も信じていなかった。しかし、それは現実だったのだ。わたしの愛する『北斗の拳』に多大な影響を与えた、あの、まさにあの! 元祖『MADMAX』大復活である。
 当然わたしは初日に観に行った。IMAXにするか悩んで、結局、TOHOシネマズのTCXスクリーンにて3D字幕版で観た。そして、大興奮したわけである。
 
 現在のデータでいうと、まずUS国内での興行成績は152M$、全世界興収は373M$に達しており、これは紛れもなく大ヒットである。今日のレートが1US$=120円ぐらいなので(円安が結構進んでるのう……)、全世界でおよそ448億円の興行収入を稼いだことになる。予算規模は150M$らしいので(Box Office MOJOより)、興収の40%程度がバックされるとすれば、劇場上映、いわゆる1次スクリーンだけでなんとか元は獲れそうなところである。当然、Blu-rayや配信での収入や、当然MDや権利関係の収入もこれから入るわけだから、無事に黒字は確実であろう。
 黒字が確実、という事が何を意味しているか。
 それは、確実に続編を作れる、ということでもある。世の『MADMAX』ファンは、安心していただきたい。
 なお、近年では洋画がことごとくヒットしない日本においても、この作品は15億を超え、十分にヒットしたといえる成績を収めている。まあ、わたしとしては20億を超えてほしかったが、年間で10億を超える洋画のヒット作が15本程度しか出ない今の国内劇場映画市場では、十分頑張ったと言ってよかろうと思う。なお、去年2014年のランキングを見ると、15億強という成績は年間ベストの7位にランクされる数字である。よかったよかった。
 
 で。
 21世紀の今、世はリメイク作品が溢れ、そのことごとくが、あまり高い評価を得ない時代である。
 中には非常に優れたリメイクもあるのに、リメイクゆえに、元の作品への思い入れの強い人々からは、「ああ、やっぱオリジナルの方がいいわ」となじられるわけで、そういう「懐古厨」という厄介な客がいる中での、今回の大復活。
 当然わたしも、『MADMAX』については、それなりに思い入れがある。実は、第1作は劇場で見ていない。年齢的に、TVでしか見ていない世代なのだが、『MADMAX2』は、現在のヒカリエが存在する、渋谷駅前の、今はなき東急文化会館に入っていた「渋谷東急」という劇場で見た。1階の渋谷パンテオンではなかったと思う。なんでそんなことを覚えているかというと、わたしは、なんという映画をどこで見たか、については、どういうわけか異常なほど記憶が残っていて、ほぼ、誰と見たかも思い出せるという、我ながら謎の能力があるからだ。まったく、記憶力の無駄遣いもいいところである。しかも『MADMAX2』をなぜ渋谷で見たかも、明確に記憶している。これは、わたしが中学の時の冬の話で、宿題でプラネタリウムを見なくてはいけない課題があって、そもそも渋谷には、同じく東急文化会館の一番上(?)にあった、「五島プラネタリウム」に用があって来ていたのだ。
 当時すでに映画オタクへの階段を順調に上っていたわたしとしては、プラネタリウムなんぞより映画が見たくて仕方なく、一緒に行った3人の友人を連れて『MADMAX2』を見たのである。
 インターネッツなる便利な手段のない当時、わたしの映画情報は、たいていが集英社刊「ロードショー」という月刊雑誌に頼っており、読者コーナーのイラスト投稿なんかもあったほのぼのとした時代だが、その中には、ダジャレめいた投稿も多く、この『MADMAX』も当然ネタにされており、中でも、当時も今もわたしが最高だと思うお葉書が、『松戸マックス』という変なイラストの投稿で、以来、わたしはずっと、『MADMAX』を『松戸マックス』と呼んでいる。なので、この中学生の冬も、友人たちとは、1階のパンテオンでやっていた作品(確か『タイタンの戦い』だったと思う。もちろん1981年版)と、この『松戸マックス』にするか、若干もめて、「いいからこっちだよ! 松戸マックス2に決まってんだろ!」と、わたしが半ば無理やり決めた思い出深い作品なのだ。

 まあ、そんなわたしの中学時代の思い出はさておき。

 今回の『Fury Road』だが、大半の懐古厨のおっさんどもにも好評のようで、興行成績は冒頭に紹介した通りである。しかし、一部のおっさんたちは、「いやー、だってインターセプターは2で爆破しちゃったでしょ」だの、やはり文句を付けないと気が済まないらしい。そんな細けぇこたぁ、どうでもいいんだよ!
 基本、MADである。狂っとる。という話なわけで、あまりわたしもガタガタ文句は付けたくない。火を噴くギターをかき鳴らすMADな野郎、その後ろでドカドカ太鼓をたたくMADなドラム隊、完全にイカレてやがる人食い男爵や武器将軍(この日本語訳は素晴らしい!) など、まさしくヒャッハーなMAD世界を再びスクリーンに描いてくれたGeorge Millerのイマジネイションはやはり一級品だと思う。
 だが、やはりわたしは、脚本を、ストーリーを、物語をもっとも重視する人間であるため、どうしてもモノ申したくなってしまうので、以下、少々お許しいただきたい。

 今回、わたしが物語上うーーーむ……? と思ってしまった点は、女性戦士フェリオサだ。彼女が如何にしてイモータン・ジョーの支配する国(?)で地位を得、そしていかなる理由で反逆を決意したか、が、非常に薄らぼんやりとしかわからない。この点が、わたしがこの映画で唯一問題視する点である。そんな細けえこたぁ……どうでもよくないのだ。わたしには。
 確かに、生まれの国(?)たる女性戦士の集団が出てきたりはするが、正直良くわからない。既にご覧になった方ならわかると思うが、イモータン・ジョーの支配は、非常に合理的で、彼は全く、おそらく唯一、「狂っていない」男だと思う。あの狂った世界において、イモータン・ジョーという男は、実に冷静で、非常に優れた統治者だったと言っていいのではなかろうか。水や食料を生産し、人々には役割=仕事を与え、ガソリンや武器は物々交換で手に入れるという、経済活動すらも回している。イモータン・ジョー、あんたすげえよ!
 イモータン・ジョーの統治は、確かに21世紀に生きる我々からすれば、非人道的で到底許されないものだとお怒りの方も当然いるだろう。ごもっとも。そりゃそうだ。わたしだって、逃げるわそりゃ。しかし、フェリオサは、反逆により「自由」を手に入れたとしても、彼女たちはその後生きていけただろうか? 正直、見通しは全くもって甘い。確実にもっともっと厳しいサバイバルが待っていたはずだ。それとも、この映画は、それでも自由は尊いということを主張したかったのだろうか?
 その辺は観た人の受け取り方次第なので、正直どうでもいい。どういう意見もアリだ。ただ、やはりわたしとしては、フェリオサが反逆を志す理由を、もう少し丁寧に語ってほしいと思った。なにしろ、計画が恐ろしくずさんで、もしあのタイミングで、マックスが現れなかったら、確実に失敗していたし、マックスが現れなくても計画は実行していたのだから、完全に運が良かったとしかみなせないのである。それでイモータン・ジョーの立場を乗っ取るとは、なんともはや、イモータン・ジョー哀れなり、としか思えない。現実的なわたしとしては、あーあ、水解放しちゃって、この後どうすんだよ……と、エンディングのテンションは若干下がってしまった。下手したら、ありゃすぐに暴動になるぞ。

  というわけで、ちょっとだけ、物語上の問題点はあるものの、各キャストの芝居は素晴らしいし、映像も迫力満点で見ごたえ十分だ。わたしは3D版を見たが、全くもって問題なし、というか、3Dによって迫力は増していたと思う。今回は、3D版で正解だ。
 なお、主演のTom Hardy は、非常にイケメンで、カッコよくマックスを演じてくれていて大満足。元祖マックスのMel Gibsonは、わたしは大好きな俳優の一人だったが、自らのDVによってすっかりハリウッドから干されてしまった。ちょっと前に、スタローン隊長に誘われて『EXPENDABLES3』には出たけどね……。何やってんだよ全くもう。オスカー監督でもあるのに、実に残念。いずれにせよ、Tom Hardyに惚れた方は『INCEPTION』か、『Tinker, Tailer, Soldier,Spy』(邦題:『裏切りのサーカス』)を見ていただきたい。どちらも非常に見ごたえのある傑作です。また、フェリオサも、物語上の文句は付けたものの、Cherlize Theron の演技は素晴らしく、さすがにオスカー女優の実力は折り紙付きだ。そのほか、ニュークスを演じるNicholas Hoult は、最近売り出し中で、こいつをチェックするなら、当然『X-MEN:First Class』『X-MEN:Days of Futur Past』が順当だが、『Warm Bodies』もなかなかイケてるのでおすすめしよう。これは、ゾンビ映画なのだが、彼演じるゾンビは、生前をびみょーに覚えていて、ゾンビである彼が襲って食べちゃった男が好きだった女子、を自分が好きだった女子と思いこんでしまい、健気に守ろうとする(いや、あんまり守ってないな)お話で、きちんとした原作小説のあるちょっと変わった物語だ。興味があればぜひ。ほかにも、レニー・クラビッツの娘であるZoe Kravitzも出てるし(この娘も『X-MEN:First Class』にエンジェル役で出てる)、『Transformers: Dark of the Moon』に出演してあまりの下手さに酷評されたRosie Huntington-Whiteleyや、かのElvis Presleyの孫、Rilley Keoughなんかも出演しているので、何気に豪華キャストの映画なのでありました。
 あ、ここまで書いたところで、今知ったのだが、Wikipediaによると、どうやら前日譚がグラフィックノベル化されているみたいですな。そして映画の続編も、フェリオサの過去を描く(?)らしいね。もう、早く言ってよ!

 というわけで、結論。
 『MAD MAX:Fury Road』は、絶賛というほどではないにしても、かなり楽しめる映画でありました。ご興味のある方は、迫力の映像と、MADな世界観に満足するだけではなく、ぜひ、物語を考えながら見てほしいと思います。あと、たぶん、シリーズの1作目と2作目は見ておいた方が楽しめる……と思います。(※1作目のシーンのフラッシュバックが結構入るので、観てない人には意味不明だと思う)

↓ ちょっとだけ取り上げた『Warm Bodies』の原作小説。
 また小学館文庫か……でも、この表紙は、ナシだ。なんでこんな表紙にしたんだ?

 わたしは小説原作を読んでないのでなんとも……↓こっちの映画だけでいいと思います。
 ――あれっ!? 発売元が……マジか……知らなかった……。すげえオチが付いたわw
ウォーム・ボディーズ [Blu-ray]
ニコラス・ホルト
KADOKAWA / 角川書店
2014-02-07