ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)という画家はご存じだろうか? 17世紀のオランダ人で、残された作品が少なく、日本でも非常に人気のある画家だと言って良いと思うが、日本に彼の作品がやってくると、たいてい大変話題になり、わたしもまた足しげく美術館へと足を運んでいるので、個人的にもなじみのある作家である。おそらくは、一番有名な絵は、「真珠の耳飾りの少女」という作品で、たぶん誰しもが知っているのではないかと思う。たしか3年ぐらい前に、わたしも東京で実物を見たが、非常に白目と真珠の耳飾りのハイライトが目に突き刺さるような、とても印象深い絵である。半開きの唇もまた、いろいろな想像をかき立てる。この作品については、実はわたしの大好きハスキー・グラマー・ガールでおなじみのScarlett Johansson(通称スカージョ)主演で映画にもなっているのをご存知だろうか? なんとその映画でフェルメールを演じたのは、Collin Firthである。映画としてはちょっと微妙だけど、その当時の風俗・暮らしぶりを知るには非常に興味深い作品である。フェルメール好きなら必見と一応言っておこう。もちろん、当時19歳のスカージョもやたらと可愛いことはいわずもがなである。

 で。 わたしが一番最近観たフェルメールの作品は、今年の3月ごろに乃木坂の新国立美術館で開催された「ルーヴル美術館展」のメイン級として来日した「天文学者」という作品である。↓こんなやつ。
天文学者
 この作品は、非常に似た構図・人物で描かれた「地理学者」という作品と対になっているのだが、今年観た「天文学者」は、想像よりも小さく、それでいてなにか強いオーラというか、明らかに、これはただものではないというパワーをまとった作品で、ちょっとビビったことをよく覚えている。
 で、残念ながら無知なわたしは、この絵を見たときは全く知らなかったのだが、なんとこの絵は、かのナチスドイツによって接収され、後にオーストリアでぽろっと発見されたものなんだそうだ。もちろん、ナチスドイツが世界の美術品を収集していたことは一般常識として知ってはいたが、この「天文学者」という作品も、えらい大変な目に遭ったんだね……というのは全く意識していなかった。そして、今日観た映画で、そういった奪われた人類の宝と称すべき美術品を、ナチスから奪還することをMISSIONとした「The Monuments Men」と呼ばれる男たちのことを初めて知ったのである。

 というわけで、わたしが今日観た映画は『The Monuments Men』(邦題:ミケランジェロ・プロジェクト)である。監督は、主演の一人であるGeroge Clooney本人で、最近白髪が増えてきたわたしとしては、ああ、コイツみたいになったらカッコいいのだが……とあこがれる野郎の一人である。いや、無理なのは分かってるよ!! 言ってみただけ。サーセン。
 物語は、原題の通り、「The Monuments Men」という、第2次世界大戦時にナチスに奪われた美術品を奪還・保護することを任務とした、特別な男たちのお話である。パンフレットによれば、大筋は実話ベースではあるが、キャラクターは映画用にかなりいじっているそうなので、完全に実話そのものではないようだ。例えば、映画には、上記に挙げたフェルメールの「天文学者」がまさに彼らによって発見・保護されるシーンがあって、うおお、マジか!! と実物を今年観たばかりのわたしは若干興奮したのだが、どうも、実際は戦後に発見されたものらしいので、史実だったのかどうか、正直良くわからない。
 また、「The Monuments Men」が始動し始めたのは大戦末期で、ノルマンディーから上陸して各地を回るのだが、D-Day後なのでパリももう解放される直前あたりで、映画の中では戦闘描写はあまりない。なので、普通の戦争映画とはまたちょっとだけ切り口が違っていて、非常に興味深かった。当然、軍人たちは、美術品を優先して戦闘を避けるわけにもいかず、The Monuments Menの面々はなかなか現地で協力を得られない。The Monuments Menの面々は、もちろん軍人という扱いではあっても、元は美術館長や学芸員、建築家といった人々で構成されているので、冒頭の招集後に新兵訓練を受けるシーンはあるけれど、歳も歳なので、まあ、戦闘に関しては完全な素人である。わたしがそんな任務を受けて、いかに戦争末期とはいえ、はたして戦地に向かえるだろうか? などとぼんやり考えてみても、そりゃあビビるだろうなという事は容易に想像はつく。でも、おそらくはそれでも、この人類にとって極めて重要な任務なら、わたしもビビりながらも参加するだろうな、と21世紀にのんきに暮らすわたしは無責任に思った。思うに、自分の命を懸けるに値する、きわめてやりがいのある任務だと思う。だから、まあ史実とは違うと言っても、やはりThe Monuments Menのメンバーには深い尊敬と感謝を抱かざるを得ない。すごい男たちだ。

 役者陣は、主役のGeroge Clooneyをはじめとして、Matt DamonCate Blanchett、あるいは最近やけにまた活躍し始めたような気がするBill Murrayなど芸達者が脇を固め、万全である。今回は、わたしとしてはCate Blanchettの美しさが非常に際立っているように見えた。フランス人役なので、フランス語なまりの英語で話すのだが、極めてセクシーである。ビジュアル的にも、いかにも冷たそうな出来る女的な、クールなメガネ女子を演じていて、とても良かった。もちろんそのクールさは、ナチスに対する嫌悪と美術品に対する熱い思いを隠す仮面なわけで、とある出来事があってMatt Damonを自宅に招待するシーンがあるのだが、そこでのいつもの氷の女王的な姿とは違う、ドレスアップしたCate Blanchettは恐ろしくBeautifulだった。彼女の「泊まってもいいのよ……」という誘いを、Matt Damonはカッコよく断るのだが、観ているわたしは、お前よく断れたな!? と心の中でつぶやいてしまった。まあ、だからわたしはダメなんですな。納得。

 なお、物語上、The Monuments Menがとりわけ強い意志を持って追跡する作品が二つある。ひとつが、「ヘントの祭壇画」と呼ばれる作品で、Wikipediaによれば15世紀に製作された北方ヨーロッパ絵画の最高傑作の一つだそうだ。時代としてはルネサンス期で、まあ、すごい大作ですな。今現在は、2012年から5年がかりで行っている修復作業中だそうです。そしてもう一つが、ミケランジェロの作品で唯一、イタリア以外に存在する「聖母子像」である。これは16世紀初めの作品だそうだ。こちらは現在も観に行くことができるそうですな。両作品とも、本当に、無事でよかった。今、世界では自らの信仰する宗教以外を認めない人々の手によって、数多くの人類の宝が破壊されているという、極めて残念でならないことが行われており、本当に心が痛むのだが、なにか出来ることはないのだろうか……。やっぱり、教育が一番重要なんだろうな……。
 ともあれ。このミケランジェロの「聖母子像」にちなんで、この映画の邦題は「ミケランジェロ・プロジェクト」となったのだと思うけれど……どうなんだろう、微妙にダサいというか……まあ、代案を出せないので、黙っときます。でもまあ、この映画はやっぱり『The Monuments Men』として、わたしの記憶に残ると思う。

 というわけで、結論。
 この映画は、美術好きな方は必見、と申し上げておく。ただし、史実とは微妙に違うらしい、ということは頭の片隅に置いておいた方がよさそうですよ。詳しくは、パンフに結構書いてありますので、そちらをどうぞ。

 ↓ 美術好きで、観てない人は是非。19歳のスカージョのハスキーボイスがイイ!!
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2013-06-26