今回はもう、結論から言う。『ジョジョリオン』のセリフをパクって表現すると、
 「グロ注意ッ!! グロ注意ッ!! 頭がブッ飛ぶぞォ!
 今日わたしが見た映画、『Kingsman:THE SECRET SERVICE』という映画は、そういう映画であった。

 本作は、アメリカ版予告を見たときから、こいつは観ないとな、と思うほど、わたしは期待していた。なにしろ、監督はあの『Kick Ass』で一躍注目を浴び、その後、X-MENムービー最高傑作とわたしが認定している『X-MEN: The First Class』を撮ったMatthew Vaughn監督である。バリバリのイギリス人である彼が、英国スパイムービーを撮るなら、もう行くしかなかろう、というのがわたしの判断であった。 おそらくは、X-MENの大成功で、FOXに可愛がられて、ご褒美をもらったんだろうな、とわたしは思っていた。
 だが、わたしはすっかり忘れていた。
 コイツがあの『Kick Ass』を撮った男であることを。
 そして、事前調査を怠っていた。
 『Kingsman』は『Kick Ass』と同じく、Mark Millerによるアメコミの実写映画化であったのだ。よく考えたら、同じMark Millerの『Wanted』(※Angellina Jolie や James McAvoy主演の、弾丸の軌道を曲げるあの映画)にもちょっと共通した話だった(※なお、Mark Millerはスコットランド人なので、正確には全然アメコミではない、か)。
 ウカツ! そんなことに気付かずに見に行ってしまったとは!
 なので、これを読んでくれている皆さんにはどうでもいいことだが、わたしは今、非常に自分に対して頭に来ているのである。

 何をわたしが言っているか、わからない人に説明しよう。
 まず、Matthew Vaughnの出世作たる『Kick Ass』だ。この映画は、日本でも公開時話題になったハチャメチャヴァイオレンスムービーである。先に述べた通り、Mark Millerなる男によって創作された、いわゆるグラフィックノベル(=まあ要するに漫画)の映画化である。そのキャッチ―さと、キャストの熱演により、金額的にはたいしたことはないが、スクリーン数が少なかったために、それなりに高いスクリーンアベレージをたたき出した小規模ヒット作である。この映画からは、天下のブサカワ・ガールことChloe Grace Moretzちゃんという、今ハリウッドで精力的にバンバン映画に出ている女の子(当時14歳ぐらい、現在19歳か?)と、もう一人、Avengersになり損ねたクイック・シルバーことAaron Tayler-Johnsonという、二人の若いスターが生まれた。そういう意味で、『Kick Ass』は注目に値する作品ではあるのだが、正直なところ、映画としては――まあ元が漫画なので仕方ないといえば仕方ないが――全く無意味な残虐シーンが多く、でたらめな物語であったため、わたしはまったく評価していなかった。首が飛んだり、腕が切断されたり、とにかく血まみれで、最後は全身バラバラに吹っ飛ばす、という展開は、観ていて決して気持ちのいいものではない。だって、ほとんどその死に様の描写に意味がないんだもの。この映画が大好き、という奴とは、おそらく友達にはなれない可能性が高い。
 そういう、無駄な残虐シーンが現在のゆとり青年・スウィーツ女子たち(※両方とも既に死語)の大好物だという事はもちろん承知しているし、そういうのが見たければ『進撃の巨人』でも読んでてくれ、とわたしとしては言いたいところだが、残念ながら、どうやらそういう傾向は全世界的と見ていいのではないかと思っている。なんという、変な世の中になったものだ。人にやさしく(笑)と言いながら、人の死に様を見て喜ぶ。まあ、人類はそろそろ滅ぶんだろう。

 しかし。そのセンセーショナルな(とはいえ薄っぺらな)映像によって、Matthew Vaughnが注目されたのは事実である。もちろん、ここまでやるのは当然計算ずくであり、確信犯であることは間違いなく、わたしもこの監督は今後要観察だな、と思っていた。そんな彼が、かの『X-MEN: The First Class』の監督に抜擢されたと聞いた時は、期待半分不安半分で、確かにこの男なら、コミックヒーロー作品に合うかも、でもまた血まみれにされたらアウトだぞ……思っていたのだが、わたしの心配は、ほぼ良い方に裏切られ、『X-MEN: The First Class』は非常なる傑作として世に登場した。この映画は、何度でもいうが、現状のX-MEN作品の中で最高傑作と言っていいと思う。やはり、Matthew Vaughnは、コミックの実写映画化が得意なのだ。そして、Zack Snyderとはやや異なった画を撮れる貴重な男として、おそらくは今後もいい作品を撮るであろうと、わたしは非常に期待したのである。

 そして今回の『Kingsman』である。ストーリーについては、もはや語るまい。予告編から想像できる範囲で物語は進むのだが、2つ、わたしがまったく考えてもいなかった展開が待っていた。
 そのうちの一つは、重大なネタバレなのでちょっと書けない。申し訳ないが、知りたい人はわたしに直接聞くか、映画を見に行ってくれ。この部分は、ちょっと頭を冷やして考えてみると、まあ、なくはない展開ではあるけど、十分避けられたルートだと思う。どうにも気持ちよくはない。むしろ、えっ!? という驚き以上の何も残らないので、もうちょっと脚本を練る必要があったとわたしは感じている。
 もう一つの方が、冒頭でわたしが言った、「グロ注意ッ!!」である。まーたこの野郎、やらかしおった。しかも、今回はその規模が、『Kick Ass』より上である。ずいぶんとまあ、派手にやらかしている。ので、血まみれや残虐シーンが苦手な方は、避けた方が賢明かもしれない。ただ、ラスト近くの大虐殺は、完全にコミック調の演出で、もはやギャグとして描かれているので、そんなにビビらなくてもいいかな……という気もするので、まあ、心配性ならやめておけばいいし、怖いもの見たさの好奇心旺盛な方は、劇場へ観に行っていただければと思う。マンガなんだからガタガタいうな、ってことで了解すべきなのかもしれないが、それにしても、ホント無意味というか、ギャグなんだよな……死に様が。どうにもわたしには、お腹いっぱいというか胸焼けするというか、もう結構です。

 ちなみに、この映画の製作費は81M$だそうで、1億ドルはかかっていないようだが、日本映画からすればすごい金の使い方である。そのため、映像のクオリティは非常に高い。数々の秘密道具も、英国スパイっぽくてよろしい。かつての007的なアイテムがそろって登場するし、なにより、きっちり体に合ったスーツがカッコイイ。まったく余談だが、Daniel Craig扮する007も、スーツ姿が恐ろしくカッコイイが、あれはトム・フォードというブランドのスーツで、わたしも一着ほしいものだと常々思っている。なおわたしも、現在保有しているスーツはすべてオーダーメイドで、わたしの体形にフィットしたものを着用しているが、とにかくサイズの合っていない服を着ることほどカッコ悪いものはない。スーツはその筆頭だ。一度オーダースーツを着ると、もはや既製品は着れなくなるものだ。できれば、英国製の車にもこだわりが欲しかったが、この作品ではカーアクションはほぼない。出てくるのは、ロンドンタクシーと、なぜかイギリスで大人気の、われらがスバル・インプレッサぐらいである。
 それに、キャスト陣もまずまずの一級線の役者がそろっている。主役の若者は、全く知らない青年だったので、過去にどんな作品に出ていたのか、先ほど調べてみたが、どうやら今回が初めてのビックバジェット作品のようだ。正直、たいしたことはないので、まあどうでもいい。が、『King's Speech』でオスカー俳優の仲間入りを果たしたColin Firth や、Nolan組の常連Michael Caineといった純イギリス人が脇を固めており、一応の安定感と言うか、安心感はある。なお、年末にとうとう新作が控えているSTARWARSだが、かのLuke SkywalkerでおなじみのMark Hamillが、ちょっとした役で出ている。老けるのは仕方ないというか当たり前なので全然いいんだけど、もうちょっと、しゅっとした体形を維持していただきたかったなあ。かのSir Alec Guinness様が演じたベン・"オビ=ワン"・ケノービのような風貌になってほしかった……。
 そして一方で、ジェダイマスター、メイス・ウィンドゥあるいはニック・フューリーでおなじみのSamuel L Jacksonが悪役として出てくるのだが、正直、この悪役はいったい何をしたいのか最後までさっぱりわからなかった。いや、人類を減らしたいのは分かるし、わたしも大いに賛成だが、何でそう思うのか、どうしてそう思うに至ったのかが、極めて弱くて、まったく意味不明であった。また芝居振りも、なんというか悪ノリっぽい妙なハジケ振りで、なんというかもう……あんた何なのよ!? とわたしは見ながらずっと思っていた。ただ、彼の部下たる両足が鋭い刃になってる女子の、くっきりとした太い眉&前髪パッツンぶりは非常にすばらしかった。彼女は、Sofia Boutellaという人のようだが、どうやら元々はダンサーで、かのマドンナのバックダンサーでもあったらしい。スタートレックの次回作にもクレジットされているようなので、今後が期待である。。
 ついでに言うと、Kingsmanという組織自体も、その位置づけや役割が非常にあいまいと言うかフワッとしていて、最後まで何なんだかよく分からなかった。そういう点で、わたしとしては残虐シーンに加えて物語上の適当さが最後まで腑に落ちず、どうにも物語りに入り込めなかったのでありましたとさ。

 というわけで、結論。
 ズバリ言う。残念ながらイマイチかなぁ……。こういう、意味のない血まみれシーンはもうホントやめて欲しい。ああいうのは、なんなんだろう、笑うところなのかな? ギャグシーンなの?? 度を越えていて、わたしには全然笑えねーし。
 あと、予告編のセンスのなさには絶望を禁じえない。上のほうに置いといた2分05秒Verの予告はまあまともなんだが、そのあとに公開された、変なナレーション入りの1分30秒Verの方は観なくていいと思う。このナレーション、すっげえダサくね? やめなよこういうの。


 ↓ これが原作のグラフィックノベル。小プロもホントに凝りねえなぁ……売れっこないのに。