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 以前、まったく同じこと書いたので繰り返しだが、すっかり立派な中年オヤジとなってしまったわたしにとって、青春時代とは、小学校~中学校~高校~大学入学までを過ごした80年代であったと確信している。そして映画オタクとして小学校低学年からせっせと映画館に通っていたわたしにとっては、『STRA WARS』という作品や、『ROCKY』『RAMBO』などで当時の世界のヒーローだったSilvester Stallone氏は、今のわたしを作り上げた重要な要素の一つだと思う。
 なので、約3年前の2015年12月、世は『STAR WARS』の10年ぶりの新作『Episode-VII』の公開に沸き返る中、わたしも当然かなり興奮していたものの、実は、同時期に公開されたもう一つの映画の方に、より一層大興奮していたのである。
 その映画のタイトルは『CREED』。このタイトルだけでわたしはもう大興奮だ。CREEDとは、それすなわち伝説のチャンプであり、後にロッキーの親友となる、アポロ・クリード氏のことだと0.1秒で分かるからである。そして、最初に公開された予告編を見たわたしは、もう泣きそうになったぐらい嬉しくなった。なんと、アポロJr.と思われる青年が、あの「星条旗パンツ」で戦っているじゃあないか! しかも老いたロッキーがセコンドに!! こ、コイツは傑作のにおいがするぜ……!? と思ったのである。
 そして『STAR WARS Ep-VII』の興奮も冷めやらぬうちに公開された『CREED』は、確かに非常に面白かった。とりわけ、老ロッキーのStallone氏はキャリア最高の演技だったと思うし(アカデミー助演男優賞はノミネートだけで受賞に至らず超残念!)、監督のRyan Coogler氏の手腕も極めてハイクオリティで、恐らくはほぼすべての人類が知っているあの「ロッキーのテーマ」を、ここしかない!というタイミングで使ってみせたり、なにより「アポロの息子をロッキーが育てる」という天才的なアイディアがとにかく素晴らしい作品であった。きっとCoogler監督はこの後すげえ作品を撮るぞ、と思っていたら、その2年後にはマーベルヒーロー作品でナンバーワンヒットとなった『BLACK PANTHER』を作り上げたのだから、その才能は本当に本物、であった。
 しかし――である。ここまで絶賛しておいてアレなんですが、『CREED』という映画には、わたしとしてはひとつ、重大な問題点があったとも感じている。それは……ズバリ言うと、主人公たるアポロJrの青年アドニス君が「何故戦うのか」という点に説得力を見いだせなかったのである。なにしろアドニス君はなかなかのリア充野郎であり、まったくもってハングリーじゃあない。そんな男が、ボクシングという世界で成功できるのか、つうかお前、ボクシングをする理由がほぼないじゃん、と思えたのである。『ROCKY』を思い出してほしい。ハングリーじゃないとダメなんすよ……ボクサーって奴は……。
 というわけで、以上はどうでもいい前振りである。昨日からとうとう日本で公開された『CREED II』を観てきたのだが、まずはやっぱり大感動したことははっきり言っておきたい。のだが、正直に言うと大絶賛というほどではないかな……という気もする。その辺りを、この文章を書きながら考えてみようと思います。
 もちろん以下はズバリネタバレてしまうはずなので、まだ観に行っていない方はここらで退場してください。今すぐ劇場へ観に行った方がいいと思います。

 しかし何で日本版の予告編ってのは……無駄なナレーションとか入れるのかなあ……何でも感動作にしようとするのはホントやめてほしい。ま、そんなことはどうでもいいけど、もう、本作の物語は上記予告で語りつくされていると言っていいだろう。アポロJrことアドニス君の前に「あの男」の息子が立ちはだかる!という基本プロットはもうファンにとっては大興奮の展開だ。
 その「あの男」とは、30年前に偉大なるチャンプ、アポロ・クリードをリング上でブッ飛ばし、死に至らしめた、「ソヴィエト連邦」が科学技術の粋を尽くしたトレーニングで作り上げたマシーン、あの、アイヴァン・ドラゴである! そのドラゴが、息子を引き連れてアドニス君の前に現れるというのだから、もう、ホントこのアイディアだけでわたしは白米3杯行けるのは間違いなかろう。
 ただ、わたしはふと、イヤイヤ、ちょっと待てよ!? とも思った。というのも、ドラゴによるアポロ公開処刑の件は、きっちりと、そして美しく、既にロッキーが落とし前をつけてくれているからである。
 しかし、予告では、どうやら怒りに燃えた老ドラゴが、ロッキー憎しの恨みに駆られて息子を、ロッキーの育てているアポロJrにぶつけようというお話らしい。これって……つまり「憎しみの連鎖」の話ってことか? とも思えてしまったのである。わたしとしては、アポロJr.とドラゴJr.にまでそんな重荷は背負ってほしくないし、むしろ友情が芽生えてほしいぐらいなのだが、きっとまあ、ゆとり乙なリア充アドニス君は、父の仇!とかカッとなって挑み、ボコられて負け、特訓して再挑戦して、最終的には勝って終わり、みたいな感じなんでしょ、とテキトーな予想をしてしまったのもまた事実である。これじゃあ、アドニス君がリングに上がる理由なんて、もうちゃんと描かれないんだろうな……と若干の失望を、観る前からアホなことに感じていたのだ。
 しかし! 結論から言うとわたしの予想はほぼ的中していたのだが、わたしはやっぱりアホだった!! 観ながら、これはわたしが全然間違っていたことを痛感したのである。ズバリ言うと、わたしにとってこの映画は、アドニス君の物語ではなかった。この映画は、30年前にロッキーに敗北し、全てを失った男、アイヴァン・ドラゴと、栄光を手にしながらも、同じように全てを失った老人、ロッキー・バルボアの物語であったのである。わたしはもう、ラスト近く、かつて30年前にロッキーが「出来なかったこと」を、歯を食いしばって行ったドラゴの行動に涙しそうになったすね。
 そう。かつて、ロッキーは親友となったアポロがドラゴと戦うことになった時、必死で止めた。けど、アポロはリングに上がってしまい、それならばとセコンドを買って出た。そして、絶望的な試合展開に、もう無理だと何度もアポロを止めようとした。けど、それも出来なかった。それはもちろん、アポロの戦う理由が、自らの誇りのためであり、その強い意志を尊重したため、ではある。が、その結果、アポロは逝ってしまった。そう、ロッキーはアポロを止めることが出来なかったのだ。そしてそのために自らが戦っていわゆる「復讐」を遂げることに成功したけれど、やっぱりどうしても「あの時止めていれば……」と悔やんでしまうのである。いわゆる「復讐は何も生まない」というやつが、ロッキーを今もなお、苛んでいるのだ。
 しかし! 今回、ドラゴは息子のために、未来のために! なんと「タオルを投げた」のだ!!! 何と美しいシーンだっただろう! ロッキーがあの時どうしても出来なかったことを、30年後にドラゴが、歯を食いしばってやってのけたのだ! わたしはホントに、感動したっすね! あのシーンの、ドラゴを演じるDolph Lungren氏の表情はもう、最高の、渾身の演技でしたなあ! 最高にカッコ良かったすねえ、ホントに。
 そして一方のロッキーも、アドニス君を止めようとしても止められず、「家族や未来を考えろ」と説教しても、アドニス君に「じゃああんたは考えてたのかよ!?」と反論されて、「ああ、確かに考えてなかったな……」としょんぼりしてしまう。ロッキーは愛する妻エイドリアンに先立たれ、息子のロバートともうまくやって行けず、孤独な老後を淋しく送っている。しかし、タオルを投げたドラゴを観たロッキーは、アイツに出来たならオレにも出来る!的に、意を決して、なんだか恥ずかしそうにロバートの家を訪ね、初めて孫に会いに行くのだ! あのラストシーンを観ましたか!? あの恥ずかし嬉しそうなあの笑顔を! しかもこの、ロッキーJrことロバートを演じた役者には、ちゃんと、『ROCKY BALBOA』(2006年の作品だから10年以上前!)でロバートを演じたMilo Ventimiga氏を起用していて、ファンとしてはもう、最高にうれしい配慮だったと称賛したい。こうして、ロッキーとアポロとドラゴの、30年にわたる戦いは大団円を迎え、「憎しみの連鎖」はドラゴがタオルを投げたことによってきちんと断ち切られたわけで、わたしはホントに美しい物語だと感動したっすね。最後のエンドクレジットで、脚本がStallone氏本人であることを知って、超納得である! これは、Stallone氏にしか書けなかった物語だとわたしは強く思う。

 というわけで、わたしはラストには大感動しちゃったわけだが、そこに至る道のりは、結構な頻度で、なんかなあ……と思っていたのも事実である。もうめんどくさいので、おお! と興奮した部分や、えええ……と思ってしまった部分を箇条書きでまとめよう。思いついた順に書くので物語の順番とは一致しません。
 ◆アドニス君のファイトスタイル
 やっぱり、どう考えてもドラゴJrとの初戦は無謀すぎたでしょうな。誰がどう見ても不利だったと思う。それはもう体格からして明らかで、身長は10cmぐらいは低いし(=リーチが短いし上方向にパンチを出すのは難しい)、ウェイト(=質量が違えば単純な破壊力も違う)も相当違う相手だし。ボクシングにおいてそれは致命的ともいえるハンデであって、そこまで体格差がある相手と戦うならば、スピード(=相手のこぶしを喰らわない)とインファイト(=離れたら相手の拳だけが届くので自らの間合いの接近戦を挑む。そして上にある頭ではなく目の前のボディを徹底して叩く)がカギになるはずだ。が、アドニス君はまったくスピードもないしインファイトの練習もしない。なので、わたしはなんかずっとイラついていた。それじゃアカンよ……と。そして案の定、あっさり負けた後、ロッキーがセコンドに復帰して、『ROCKY IV』ばりの大自然トレーニングで大復活という流れは、まあアリだけど、なんか、どうにもアドニス君が「強いボクサー」に見えないのが、ちょっと残念であったように思う。
 あと、今回若干不満なのが、「ロッキーのテーマ」は、この大自然トレーニング終了時に高らかに鳴り響いて、試合になだれ込む展開であってほしかったなあ……「ロッキーのテーマ」の使い方は、前作の方が圧倒的にうまかったと思います。どうせなら、お前には野獣の眼がない!とロッキーがアドニス君に言ってから大自然トレーニングが始まって、「EYE OF THE TIGER」が流れたら最高だったんだけど……。そう、実は本作は、物語的には『ROCKY III』に近いんすよ……。それにもう一つ、今回は黒ベースの「次世代星条旗パンツ」にバージョンアップされてましたが、やっぱり伝統の赤/青/白の方がカッコイイすね。今回はドラゴJr.が「ロシア国旗パンツ」で白/赤/青だったので、かぶっちゃったってことかな……残念す……。
 ◆アドニス君の闘う理由
 わたしが最も重要視していた、リア充のアドニス君が戦う理由については、結局「俺はリングで生きる男なんだ、リングにいる俺こそ俺なんだ」的な解釈であったように思う。これは前作でも同じような感じだったと思うのだが、じゃあなんでそう思うのか、については、誇り高き伝説のチャンピオン、アポロの息子だから、としか思えないのも、やや残念に思った。でもまあ、それしか描きようがないのかな……。でも今回は「父の復讐」という呪縛からはきちんと抜け出し、「自分のために戦う」と思えたことは良かったすね。ここでは、アドニス君のお母さん(=アポロの未亡人)の台詞が効いたっすねえ! あのお母さんの「戦いたいならおやんなさい。あなたは大人、自分で決めなさい。でも! わたしのためとか、お父さんのためとか、そんなこと言われるのは心外だわ! 断じてお断りよ!」的なことを言って激怒するのは実に痺れたっすね。復讐なんて誰も望んでないし頼んでもいないわけで、そこに気付けた(?)のは良かったすな。
 ◆アドニス妻(=歌手)、なんとアドニス君の入場曲を自ら歌ってリングへエスコート
 アレはいらないと思います。必要だったか?? なんか、もうチョイ、エイドリアン的なしおらしさ?というか、けなげさがあった方がわたしは好きです。つうか、普通は止めると思うのだが……。そう考えると、やっぱり『ROCKY』シリーズにおけるエイドリアンの役割は大きかったんだなあと思ったす。息抜きしたいからスタジオ行って来る、子供はお願い、と赤ん坊をアドニス君に預けてさっさと出かけちゃうのも、まあ現代の21世紀的なんでしょうな。基本的に、わたしとしてはほぼどうでもいい存在であったアドニス妻でありますが、歌はちゃんと演じたTessa Thompson嬢が歌ってたようです。でもあれ、上手い……か?
 ◆なんと驚きの人物の登場!
 わたしは、まさか、この映画にStallone氏の2番目の妻でお馴染みのBrigitte Nielsenさんが登場するとは思っておらず、スクリーンに現れた時は大興奮したっすね! しかも役柄は『ROCKY IV』の時と同じドラゴの妻であった。正確に言うと、ドラゴがロッキーに負けたことで、さっさと離婚したようなので「元」妻なのだが、ドラゴにとっては自分を捨てた女、そしてドラゴJrにとっては、自分を捨てたお母さん、という、二人にとっては愛と憎しみの入り混じった対象として、物語上結構重要な役柄であったと思う。まあ、すっかり年を取られているのに、30年経っても相変わらず冷たいまなざしのお方でした。もちろん演技上の表情ですが、実際お見事でしたね。しかし、当時の「ソヴィエト連邦」は今はなく、ドラゴはウクライナ(キエフ在住)人であることが判明しましたが、それでも元妻が「ロシア」の大使たちと出てきちゃうところがおそろしあ……と思ったす。
 ◆デュークよ、いつのまに……
 デュークというのは、かつてのアポロのトレーナーで、アポロ亡き後はロッキーをサポートしてくれたし、最終作の『ROCKY BALBOA』でも手伝ってくれた男なのだが、前作には登場しなかったことがわたしはとても残念に思っていた。しかし、今回アドニス君がロッキーにセコンドを断られて向かったのは、あの、デュークのジムでありました、が、なんとどうやらデュークは既に亡くなっていて、今回はデュークの息子がアドニス君をサポートしてくれる展開でした。これって……わたしが忘れてただけかなあ?? デュークよ、いつのまに亡くなってたんだ……。そして、デュークJrがイマイチ有能でなかったことも残念す……。

 とまあこんなところかな。もう、本作は有名役者ばかりなので、役者陣のメモは書きません。えーと、ここまで書いて触れてないのは、肝心のアドニス君を演じたMichael B. Jordan君だけかな? もう説明は必要ないすね。結構イケメンだと思うし、やっぱり演技も素晴らしい若者ですよ。今後を期待したいですな。監督は……Steven Caple Jr.という方だそうだが、知らない人だなあ……どうもまだ長編2作目の新人?監督さんみたいすね。演出的には、ここがスゴイ、ここがアカン、とかは特に感じなかったです。前作のRyan Coogler監督のような長まわし(のように見える流れるようなカメラワーク)も、ちょっとだけあったかな。特に、メモしておくべきことは思いつかないす。
 
 というわけで、もうクソ長いので結論。
 わたしの大好きな映画『ROCKY』シリーズ最新作!と言ってもいい新作『CREED II』がUS公開から2カ月たってやっと日本公開となったので、さっそく観てきた。物語としては、わたしは大感動したのだが、それはあくまでロッキーやドラゴと言った、「既に終わった人」に対する深い共感であって、おそらく『ROCKY』愛に溢れていない人には、理解してもらえないものだと思う。そして肝心の主人公アドニス君に対しては、やっぱりどうしても前作同様に深い共感は抱けず、であった。とりわけ、アドニス君の妻に関しては、共感ゼロどころかマイナスですよ。なんつうか、これはもう、完全にわたしが人生を終わりつつある中年オヤジだからなんだろうな……。だってしょうがないじゃない。それが現実なんだもの……。いやあ、それにしても老いたるStallone氏はホント、渋いですなあ! わたしにとって永遠のヒーローっす。以上。

↓当然本作はコレを観ていないとお話になりません。つうか、シリーズ全作を観てないとアウトです。
ロッキー4 (字幕版)
シルベスター・スタローン
2015-10-07


 今年、2018年は、わたしの大好きなMARVEL CINEMATIC UNIVERSに属する映画が3本公開されるので、わたしは非常にワクワクしている。もちろんそのメインは、4月末に公開される『AVENGERS:INFINITY WAR』であり、その後US本国では7月(日本では秋?わからん)に公開される『ANT-MAN AND THE WASP』と続くわけだが、まずは2018年第1弾として公開されたのが、『BLACK PANTHER』である。
 すでに世界的に大ヒットとなっている本作が、ようやく日本でも公開されたので、わたしももう待ちきれず、初日の昨日の夜、会社帰りに観てきた。わたしは上野のTOHOで観たのだが、平日の夜だってのにかなりお客さんは入っていて、大変な盛況であったように見えた。これは結構稼ぐような気がしますね。で、結論を先に言うと、MCUの中では、『CAPTAIN AMERCA: CIVIL WAR』がすべての面において100点満点だったことを基準にすると、映像は確かに100点と言えると思うが、肝心の物語は75点ぐらいであったように思う。十分面白かったし、相当興奮したものの、若干の「あれっ!?」という点もあって、ちょっと100点は付けられないかな、というのが現時点でのわたしの採点である。
 というわけで、以下、ネタバレ全開になると思うので、気になる方はここで退場してください。一切の配慮なく思ったことを全て書くと思うので。

 というわけで、本作はそのタイトル通り、BLACK PANTHER単独主演作品である。BLACK PANTHERとは、MCUにおいては『CIVIL WAR』で初登場したヒーローで、アフリカの「ワカンダ」なる架空の国の王様、が担う役割・役職でもある。「ワカンダ」とは、CAPの盾の素材でお馴染みの「ヴィブラニウム」という鉱石の産出国であり、超科学文明の発達した謎の国、という設定だ。そしてMCUにおける時系列の中での本作の位置づけとしては、『CIVIL WAR』の直後のお話ということになっている。まさか、『CIVIL WAR』を観ていないのに『BLACK PANTHER』観るなんてことを考えては、そりゃあダメっすよ。そして『CIVIL WAR』も、もちろんそれまでのMCU作品すべて観ていないとその真の価値を理解できないと思うので、それもまたナシです。
 しかし、すでにMCUは本作が18本目であり、それら過去の17本をすべて観ていないと分からない、という一見さんお断りな映画ということになると、当然、観客動員・興行収入に影響してしまうわけで、マーケティング的に高いハードルとなることを避けるためにも、本作は比較的、単独作として観ても大丈夫なつくりにはなっていたように思える。まあ、わたしにとってはそこも、残念ながら減点ポイントとなっているようにも思えたのだが、それは後で書きます。
 さてと。まずは簡単に物語をまとめてみよう。本作は、わたしとしては結構意外なことに、1990年代(1992年だったけ?)から始まる。場所はアメリカ西海岸。駐車場でストリートバスケに興じる黒人少年たち。そしてその横に建つマンションの一室では、二人の黒人青年がなにやら武器を整備して怪しげな計画を練っている。そこに、槍を持った屈強な女性たちが登場、どうやら、部屋にいた黒人青年のリーダー格はワカンダ人で、槍を持った女子たちはワカンダの兵士のようだ。一瞬暗くなった部屋に再びぱっと照明がつくと、そこにはワカンダ王ブラックパンサー(後のCIVIL WAR事件で亡くなる先代)が降臨、すぐさま跪いて、王への敬意を示すリーダ黒人。どうやら彼は、ワカンダの鎖国政策を無視して、アメリカでの黒人解放的な?運動に参加しようとしているらしく、ワカンダの重要な資源ヴィブラニウムを横流ししていたのだ。ワカンダへ戻り議会に出頭して罪を告白せよ。冷たく言い放つ王。そして実はリーダー黒人と一緒にいた若い黒人青年が、王の意を受けてスパイしていたのだという。万事休すか、的なリーダー黒人であった……。
 そして時は現代へ。CIVIL WAR事件により、王は死亡。王子たるティ・チャラは新たなブラックパンサーとしてCIVIL WAR事件の終結に貢献し、一路、母国ワカンダへの帰途についていた。それは自らの即位式のためだったが、途中で、ワカンダが世界中に放っているスパイのうち、幼馴染で元カノのナキアを途中で拾って、国へ戻る。到着したワカンダでは、スーパー天才頭脳の妹シュリや母、そして各部族の長たちが待っており、さっそく即位するための儀式に挑むことに。その儀式とは、即位しようとしている者に対して、各部族の承認を受けるもので、異議ナシであればいいけれど、異議アリ!の場合は、決闘を行い、降伏か死をもって雌雄を決するという少年漫画的なものであった。そしてティ・チャラの即位に対し、いつも若干仲間外れ的にされている部族だけが異議を唱え決闘が始まるが、まあ軽く勝って、無事王座に就く。
 王座に就いたティ・チャラの最初の任務は、30年の因縁のあるユリシーズ・クロウの捕縛であった。クロウは、冒頭に描かれた90年代のヴィブラニウム流出事件の買い手であり、それ以来ヴィブラニウムを商う武器商人で、MUC的に言うと『ULTRON』事件の際、ウルトロンが欲しがったヴィブラニウムを提供して左腕をぶった切られたアイツである。いまやそのぶった切られた左腕には謎武装搭載の義手をしており、いまだ世界を駆け巡っているらしい。そしてクロウがロンドンの博物館から強奪したヴィブラニウム製の遺物を韓国で売りさばくという情報を得たティ・チャラは、妹の作った最新ブラックパンサースーツを着用し、出陣するのであった……てな展開である。
 というわけで、なかなかツッコミどころがある物語なのだが、わたしが、ちょっと残念に思ったことは、以下の3つのポイントだ。
 ◆ワカンダの経済発展について
 もう、ヴィブラニウムについては、そういうもんだ、で納得できるので、別に目くじらを立てるつもりはない。けれど、わたしが観る前に一番知りたかったことが、本作ではほぼ何も描かれていなかったような気がする。それは、「なんで鎖国していて秘密を抱えている国が経済発展できたのか?」という点だ。貿易は一切していないようなのだが……なんであんなに栄えることができたのだろう?? 国内経済だけで=輸入に頼らないで=金を使うことをしないで、あそこまで繁栄できるものだろうか? どうやらワカンダは、世界においては「農業国」と認識されているようなので、農産物の輸出で稼いでいるという設定だったのだろうか? 超高額で取引されるヴィブラニウムは禁輸品なわけで、アフリカの中央に位置する国が、そういった高額輸出品もないのに何故あんなにすげえ首都が建造てきたのか、よくわからない。ヴィブラニウム以外の資源も豊富だったのかな? ま、ヴィブラニウム(の研究から)派生する科学的発展に関しては、そういうもんだ、で納得できるけれど、そもそもそういった発展の源となるお金はどうやって調達していたのだろう? あれかな、世界中に派遣していたスパイたちの情報をもとに、何らかの金融取引もしてたってことなんすかね? だとしたら、なかなかの悪よのう……。このワカンダの経済的な発展に関しては、省略しないで、きちんと触れてほしかったと思った。金とかレアメタルとか、そういう資源に恵まれてたのかな?
 ◆意外と弱かった主人公ティ・チャラ
 この点がわたし的にかなり残念だったのだが……わたしは「BLACK PANTHER」の原作コミックを読んでいないので知らなかったのだが、なんと、ブラックパンサーは、ドーピング戦士だったんすね。ブラックパンサーというヒーローは、『CIVIL WAR』においても相当な超人的身体能力を持つかなり強い男、だと思っていたのだけれど、実は、謎のハーブを体内に摂取することで、その超人的身体能力を獲得していたのである。これは、どうやら原作通りの設定らしいので、別に問題ないけれど、知らなかったわたしとしては、へえ、そうなんだ、である。そして即位の儀式の決闘の際には、その謎ハーブを浄化する?薬物を摂取し、素の状態で決闘しなくてはならない設定であった。
 で、その謎ハーブは、例えていうならCAPの謎血清やSPIDER-MANの謎の蜘蛛に噛まれたとか、そういうものと同じなので、別にアリだし、文句はないのだが、わたしが本作で、意外と弱いなコイツ、と感じてしまった点は、今回の敵(Villain)であるエリック・キルモンガーが非常に強いためである。キルモンガーは、冒頭の90年代の描写で登場した、リーダー青年の子供で、駐車場でバスケをしていた少年であった。そしてそのリーダー青年は実は先代ブラックパンサーの弟であり、要するに、キルモンガ―もワカンダ王族の血が流れているわけで、ティ・チャラの従兄弟なわけだ。それゆえ、オレも王の資格がある! オレも異議アリだ! とティ・チャラに決闘を挑むのだが、なんと、結構余裕で勝っちゃうんすよね。それもそのはずで、キルモンガーはアメリカ育ちで、MITを卒業した頭のいい男だし、おまけにUS-NAVY-SEALsに在籍して世界中で闘ってきた男なので、謎ハーブの力を浄化されて素の状態になったティ・チャラでは、勝ち目がないんすよ。
 まあ、物語的には、王座を奪われたティ・チャラは妹たちの援助もあって再び謎ハーブのドーピングを受けて大復活し、再びキルモンガ―に挑み、大勝利に至るわけだけれど、ちょっと待てよ……お前、儀式に負けたし、謎ハーブナシじゃキルモンガ―に勝てないじゃん、と、わたしとしてはかなりガッカリした。ティ・チャラよ、お前、若干、主人公の資格を失ってやしませんか? おまけに、王として、キルモンガ―に味方した部族の気持ちをもう少しわかってやれよ……お前がまんまとユリシーズ・クロウを逃したからなんだぞ……。元カノとイチャついてる場合じゃねえだろうに……。
 ◆MCU成分はかなり薄め
 本作は、前に描いた通り、比較的単独作品としても観られる作りになっているため、そのトレードオフでMCU的つながりはかなり薄い点もわたしとしては残念だった。なお、本作はMCU恒例のおまけ映像が2回あって、そちらでチラリと出る程度、で、期待した「インフィニティ・ストーン」最後の6個目も登場せず、であった。
 (1)おまけ映像その1:最初に出てくるのは、メインキャストのクレジットの後、比較的すぐ出てくる。ここでは、本作の事件終結後、ティ・チャラがこれまでのワカンダの秘密主義を(少しだけ)捨てて、ワカンダの技術で世界に貢献します的な宣言を国連で演説するシーンだ。そこで、何も知らない奴が、農業国が何貢献するって言うのよ? 的リアクションを取るわけだが、その後、90年代描写で出てきた駐車場とマンションにて、ティ・チャラがいろいろ決断するシーンとなる。まあ、これはこれで美しいけれど、「賢者は分け与え、愚か者は壁を築く」的な発言は、現US大統領の元不動産王のおっさんへのあてつけなんでしょうな。ワカンダファーストをやめます、な宣言なわけで、わたしとしてはそんな政治メッセージは別に要らねえと感じた。ま、そういった点もUS本国で大ヒットしている要因なのでしょうな。
 (2)おまけ映像その2:これはすべてのクレジット終了後の一番最後に出てくる。天才妹が、とある人物の介護をしながら二人でアフリカの自然を眺めるシーンだ。そしてそのとある人物こそ、『CIVIL WAR』での重要人物、ウィンターソルジャーでお馴染みのバッキーであった。『CIVIL WAR』での最後のおまけ映像で描かれた通り、バッキーやCAPは、現在ワカンダにいるはずである。そしてバッキーは、自らに施された洗脳がきっちり解除されるまでは、また利用されて危険なので、冷凍睡眠に入ったことになっている。なので、わたしは本作でCAP達がチラッとでも出てくるんじゃないかと思っていたのだが、一切出てこず、このおまけ映像その(2)にバッキーが出てくるに留まった。
 てことは……順番としては、CIVIL WAR事件終結、ティ・チャラ、ジーモの身柄を拘束、法機関へ引き渡す→ティ・チャラ帰国、キルモンガ―事件勃発(同時期に、CAPは海中刑務所に侵入、バッキーたちを強奪)→キルモンガ―事件終結、国連演説→CAPたち、ワカンダ到着、バッキーは冷凍睡眠へ→そしてバッキーの洗脳解除に成功、という流れなのかな?
 という感じで、MUC成分が薄めな点も、わたしとしてはちょっと残念でありました。ちなみに、MCUにおいていまだ姿を現していないインフィニティ・ストーンは、オレンジ色で、Soul Stone(※原作のオレンジはTime)だったと思う。確か。
 以上のように、わたしとしては残念ポイント3つで25点減点、結果75点という判定を下したのだが、やっぱり映像はもうすごいもので、安定のハイクオリティだったのは間違いない。監督のRyan Coogler氏はやっぱり大した腕の持ち主ですな。監督の前作『CREED』を観た時もこの監督を絶賛したわたしだが、やっぱり映像のキレは抜群でしたね。今回もまあワンカットが長い! これは長いように見えるだけでCGでつないでいるだけ、かもしれないが、とにかくよくカメラが動く! しかも、CGバリバリ作品だと良くありがちな、速すぎて目で動きが追えない、ようなものではなくて、きちんとキャラクターを見せる動きは実に素晴らしかった。このCoogler監督はまだ31歳ととても若く、非常に才能あふれた野郎なので、今後も非常に期待したい男ですな。
 そして、Coogler監督と言えば、もちろん、Coogler監督の作品ですべて主演しているMichael B Jordan君も忘れてはならないだろう。彼は今回、キルモンガ―を演じたわけだが、今回も大変良かったと思う。あの髪型、カッコイイすね! ただ、今回もCoogler監督は自ら脚本を買いているのだが、わたしがあげつらったポイントをもう少し、精密に描いてほしかった。とりわけ、ティ・チャラよりも監督の盟友たるJordan君演じるキルモンガ―の方に重点が置かれちゃったようにも思えてしまったのが残念だったかも……。
 では、最後にキャストをざっと紹介して終わりにしたい。
 ◆ティ・チャラ=ブラックパンサー:演じたのはCIVLI WARから勿論そのままChadwick Boseman氏41歳。まあ、やっぱりイケメンですよ。大変カッコ良かった。けど、ティ・チャラよ、お前、ちょっと弱いぞ……INFINITY WARまでに、もうチョイ鍛えておいてくれよな。
 ◆ナキア:ティ・チャラの幼馴染であり、元カノ。本作ではすっかり元のさやに戻り、次期王妃は確実なんでしょうな。一応、おまけ映像(1)によれば、アメリカ在住となって難民支援センター長?的なポジションとなる模様。演じたのはオスカー女優Lupita Nyong'oさん34歳。このお方はもう、相当な売れっ子としてそこら中の作品で見かけるようになったけれど、わたしはあまり好みでないし芝居もそれほどすごいと思っていないので、省略! ちょっとお太りあそばしたか?
 ◆オコエ:ワカンダ王室親衛隊長の超おっかない戦闘女子。演じたのはDanai Guriraさん40歳。このオコエというキャラは非常に良かったすねえ! 王個人に忠誠を誓っているのではなく、王座に忠誠を誓っているのです! という決断は実にカッコ良かったし、親衛隊長なるものはそうあれかし、と思うので、実に毅然として美しかったす。キャラとしても、ちょっとしたギャグ担当でもあって(超真面目なので逆に笑えるという方向で)、今後の王様にはなくてはならない存在ですな。お見事でした。
 ◆シュリ:ティ・チャラの妹でスーパー天才科学者。若干ゆとり臭漂うお姫様で、なんか笑顔がとても可愛らしいキャラクターでした。わたしとしては、同じく天才科学者トニー・スタークと絡むシーンが見たいすねえ! 下手をするとトニーよりもすごい頭脳なのではなかろうか? 演じたのはLetitia Wrightさん24歳。24歳!? 若い! どうやらこれまでのキャリア的にはTVでの活躍ばかりのようですな。今後も期待したい若手女優として名を覚えておきたく存じます。
 ◆エリック・キルモンガ―:今回のVillain。前述の通り演じたのはMichael B Jordan君31歳。彼には本当に期待してますよ。彼と言えば、同じMARVELヒーローの『Fantastic 4』でヒューマン・トーチを演じたわけだが、残念ながら映画は酷評されてしまったわけで、見事リベンジ成功ってところでしょうな。わたしはあの映画、別に嫌いではないのだが……。
 ◆エヴェレット・ロス:コミック原作でもお馴染みのキャラで、前回の『CIVIL WAR』にも登場していた彼は、今回はCIA局員となっていました。演じたのは、BBCドラマ『SHERLOCK』のジョン・ワトソン君でお馴染みMartin Freeman氏46歳。しかし彼もMCUメンバーとなったわけで、わたしとしてはINFINITY WARで、相棒シャーロックこと、ドクター・ストレンジを演じるBenedict Cumberbatch氏との夢のツーショットを実現してほしいものです。ちょっと無理だろうな……ドクターは基本NYC住まいだけど、ちょっとだけでもすれ違ってくれないもんすかねえ……。
 ◆ユリシーズ・クロウ:コミック原作でもお馴染みだし、MCU的にも『ULTRON』で出てきた武器商人。悪い人。今回結構あっさりあの世に逝っちまいました。演じたのは引き続き、モーションキャプチャー俳優として有名なAndy Serkis氏53歳。素顔での出演。なんかすげえ、アクのある顔ですが、俳優にとってはそれもまた武器なんでしょうな。素顔での演技だからではないだろうけど、なんだかちょっと楽し気に演じられているのが新鮮でした。
 ◆ラモンダ:ティ・チャラとシュリの母。先王の妃。演じたのはもう大ベテランでかなり多くの作品に出演されているAngela Bassettさん59歳。やっぱお綺麗ですな。そして、母として、もうチョイティ・チャラを強く育ててほしかったす。かなり、息子に甘いというか……ま、母親だからしょうがないのかな……。

 というわけで、もう長いので結論。
 超期待して観に行ったMCU最新第18弾『BLACK PANTHER』を初日の平日の夜観に行ったわたしであるが、どうも、基本設定や主人公のキャラ付け、そしてMCUとのかかわりの薄さに関して、わたしとしては減点したいポイントのように思え、少しだけ、期待よりも下回る感想となってしまった。ただまあ、映像はすごいし、結局のところ、まずまず楽しめたので、結論としてアリ、だと思う。まあ、MCUももはや18本目となるわけで、それを全部見とけと言うのも確かにマーケティング的に厳しいものがあるのはうなづける。でも、『CIVIL WAR』があまりに完璧だったので、やっぱりアレと比べると、本作『BLACK PANTHER』は幾分、格下に思えてしまうのである。しかしなあ、どうでもいいけど、なんで木曜日に公開するんだろうか。1日だから? ファーストデーとしてお安く見られるから? それ、超大きなお世話っつーか……おれ、とっくにムビチケ買ってたのに……数百円損したわ……別にどうでもいいけど。それにしても、次の『INFINITY WAR』、そして『ANT-MAN AND THE WASP』が超楽しみです! 以上。

↓ 全く読んでいないので、ちゃんと勉強すべきか……
ブラックパンサー (ShoPro Books)
レジナルド・ハドリン
小学館集英社プロダクション
2016-04-20



 わたしにとっての青春は、明らかに小学校から高校卒業・大学入学までの80年代だと思う。大学生から社会人になったばかりの90年代よりも、ずっと明確に80年代のほうがいろいろなことを覚えているような気がする。そんなわたしにとっては、『STAR WARS』で映画に目覚め、『ROCKY』や『RANBO』のSylvester Stalloneで育ったようなものだと言っても過言ではないわけで、非常に特別な想い入れがある。
 その、『ROCKY』シリーズの最新作とも言える作品が『CREED』である。

 わたしは、この映画のことを知って、最初の予告を見た時点で、これはすごい傑作になるという予感をひしひしと感じていた。そもそものタイトル『CREED』と聞いて、マジか、アポロの映画か!? とすぐに分からない人はまったくもって『ROCKY』愛のない人種であろう。だがわたしは、もうタイトルだけで大興奮である。クリードといえば、アポロ。それはコーラを飲んだらゲップが出るのと同じぐらい当たり前である。そして最初の予告で、アポロJr.と思われる黒人青年が、あの「星条旗パンツ」をはいて戦っている姿を観ただけでで、わたしは泣きそうであった。これ、絶対にロッキーが「これは……お前の親父さんから借りっ放しになってたモンだ。やっと返せる時が来たようだ」と手渡すシーンがあるに決まってる!!! という興奮した体で、激しく周りの人々に、この映画は絶対観ないとダメだ、と宣伝しまくったのだが、どうにもみなさんリアクションが薄い。そうか、そういう世の中なのね……と若干の失望と絶望を感じるに至ったが、まあ、実際、日本でわたしと同じくらい興奮した人は、きっと1000人もいないのであろう。折りしも、『STAR WARS』の新作が公開され、話題は完全にそっちに持っていかれてしまっており、もちろんわたしも、『STAR WARS』には特別な愛があるので大興奮したわけだが、一方で『CREED』の公開も、猛烈に楽しみに待っていたのである。おまけに、かの格付けサイトRotten Tomatosでも93%Freshという非常に高い評価である。これはもう、傑作確定じゃんか、とわたしの期待はいやがうえにも高まっていた。
 で。さっそく今日の初日に観に行ってきた。結論から言うと、超傑作!! とまでの絶賛は出来ないけれど、十分に期待に応えてくれたと思う。
 物語は、ほぼ予告で語り尽くされているので、おそらく上記に貼った予告を観ていただければ想像が付くと思う。そして、まあほぼ想像の通りだ。ひとつだけ、これは開始数分で明かされることなので、ネタバレだけど書いてしまうが、主人公は、アポロ・クリードの愛人の子、である。なので、「アドニス・ジョンソン」という名で、苗字も違う。たしかに、思い返せば、『ROCKY』の第1作、第2作目でのアポロの様子からすれば、そりゃあ愛人もいたんでしょうな、と思わせるスーパー・モテモテ振りだったので、この設定は十分許容できる。なにしろ、「アーイ・ウォンチュー!! アーーーイ・ウォンチューーー!!」と叫びながら、美女軍団を引き連れてリングに上がっていた男である。
 余談だが、わたしは実は年代的に、『ROCKY』第1作と第2作は、劇場では観ていない。劇場では『3』を中学生の時に観たのが最初なのだが、『1』および『2』はTVでしか観ていない世代なので(まだVIDEOレンタルさえない時代)、どうしてもアポロというと、日本語吹き替えの内海賢二さんの声を思い出してしまうが、とにかく、アポロといえば派手で「アーイ・ウォンチュー!!」である。そんな彼に愛人がいて、子供が出来ていたという設定は、まあ、アリだと思う。で、そんな「愛人の子」である彼は、父を当時の「ソ連人」ボクサー・ドラコにリング上でぶっ殺された時はまだ母親のお腹の中であったそうで、母親も出産後まもなく亡くなっているという設定だ。
 なので、事実上両親の顔を知らない子として、親戚をたらいまわしにされ、施設で育ち、喧嘩に明け暮れていたアドニス君(推定7歳ぐらいの子供)だが、ある日一人の女性が引き取りに現れる。その女性とは、アポロ・クリードという伝説の男の正妻・未亡人だった。あなたの父親は偉大な男だった。その血があなたには流れている。と、愛を持ってアドニス君を引き取り育てることにする。そして時は流れ、施設で殺伐とした幼少期を送ったアドニス君も、アポロ夫人に引き取られてからはきちんとした教育を受け、金融業界でスーツを着て真面目に働く立派な若者に成長する。だが、彼に流れる血は、常に戦いを求めており――、という流れである。
 まあ、強引といえば強引な物語だが、『ROCKY』愛に満ちているわたしにはまったく問題ナシである。ただ、観終わった今、やっぱりどうしても文句をつけたくなってしまう点がひとつだけある。
 それは、かなりアドニス君が「リア充」であるという点だ。まったくもって、「ハングリー」じゃあない。なので、彼が戦う理由が、アポロの血がそうさせるというだけでは、ちょっと物足りないのだ。まず第一に、金に困っていない。そして、生まれ育ったLAから、ロッキーのいるフィラデルフィアに引っ越してきても、即、彼女が出来る。ま、これはモテないわたしのひがみ100%であろうことは否定できないが、うーん、金にも困ってないし女にも困ってない、果たしてこういう男が強くなれるんだろうか? という点は、ちょっと疑問である。
 わたしは、日本のボクシングには余り興味はないが、WOWOWで放送される「Excite Match」は結構好きで、世界戦はかなりの数を観ている。そして、その解説をやっているジョー・小泉氏(知らない人はWikipediaでも読んどいてくれ)の、スーパーおやじギャグ交じりの解説の大ファンなのだが、本作のパンフレットには、そのジョー・小泉氏が解説を書いてくれている。曰く、「親子2代のチャンプはほとんどいない。なぜなら、ハングリーな境遇から王座を獲得した男は、同じことを息子にさせたがらないし、ボクサーの道を選んだとしても、偉大な父の元で裕福な暮らしをしていた男で大成した例は非常にまれ」だそうだ。なので、今回のアポロJrことアドニス君のリア充ぶりは、確かに幼少期につらい思いはしたとはいえ、ちょっとどうなんでしょう、という気はしなくもない。また、ボクシングシーンも、そりゃ映画だから仕方ないけれど、ここまで食らったら普通はもう立てないでしょ、というものであるので、純粋ボクシングファンからすれば、ちょっと文句は言われそうではある。
 後もうひとつ、強いて文句をつけるとしたら、アポロの元トレーナーで、『ROCKY BALBOA』(邦題;ロッキー・ザ・ファイナル)で強い味方になってくれたデュークが出てこないのはちょっぴり淋しいっすな。

 しかし、である。わたしはやっぱりこの映画を褒め称えたい。
 わたしがこの映画で賞賛したいのは、老いたロッキー・バルボアを見事に演じきったStalloneと、もう一人、監督のRyan Cooglerである。
 まず、Stalloneは、わたしとしてはキャリア最高の演技だったのではないかと思った。もちろん、若きころの『ROCKY』、『ROCKY2』も最高だったけれど、決してそれに劣らない、素晴らしい演技だった。元々Stalloneは脚本も書くし監督もやる、なにげに頭脳派の男だ。演技も、実際うまかったのだが、あまりにもマッチョを売りにしていたので正当な評価を得ていないと思うが、例えば『RANBO』の1作目だって、ものすごく渋い味わいのある演技振りだった。冒頭の、友を訪ねたものの既に亡くなっていて、一人とぼとぼと寒い中を歩くシーンなど、実にいい演技だった。今回も、人生の天国と地獄を十分に味わいきった男を見事に演じていたと思う。だから、どうか彼に、アカデミー助演男優賞をあげて欲しいと心から願うばかりである。素晴らしかった。
 そしてもう一人、監督Ryan Cooglerだが、今回は脚本も1986年生まれのこの男が書いたようだ。1986年生まれというと、1984年公開の『ROCKY4』の頃にはまだ生まれてもいない野郎である。この男は2011年に大学院を卒業して、2013年に『Fruitvale Station』(邦題:フルートベール駅で)という映画でデビューするのだが、何でも、大学在学中から本作の企画を立て、デビュー作の『Fruitvale Station』の準備中に、Stalloneに本作の売り込みに行って、その時は、パンフレットのインタビューによれば「ノー、ノー、ノー」と言われて断られたらしい。しかし、デビュー作『Fruitvale Station』の出来も良く、1年か1年半後に、Stalloneも「突然、天才的なアイディアだ、アレを断るなんて、なんてオレは心が狭かったんだ」と反省し、OKをもらうに至ったそうである。わたしも、実際アポロの子供をロッキーがコーチする、という基本プロットは天才的なアイディアだと思う。
 そして、わたしがこの男をすごいと思うのは、その演出である。よーく観ると、結構長回しをポイントポイントで使っていて、驚いたのがアドニス君のプロデビュー戦である。なんと全編長回し。ニュートラルコーナーから出撃して勝つまでのおよそ4~5分ほど、カメラを止めていない。また、クライマックスの戦いも、控え室から、リングに上がって対戦者が出てくるまで、ここもカメラを止めない長回しである。だから、まあおそらくは役者陣も、NGは出せないと緊張しますわな。その緊張感が、まさしく試合前のボクサーの緊張感と見事にシンクロしているようにわたしには観えた。これは相当なリハーサルと計算がないと絶対に出来ないことだ。
 最後にもう一つ。きっちりと、あの、誰もが知っている「ロッキーのテーマ曲」を、ここしかない!! というタイミングで見事に使っている点も、お見事であった。この男、若いくせによーく「わかってる」野郎ですね。Ryan Coogler(ライアン・クーグラーと読む)。この監督の名前、覚えておいたほうがいいと思う。こいつ、きっと近い将来、すげえ作品を撮ると思うな。デビュー作の『Fruitvale Station』は観ていないので、ちょっと早いとこ何とか観る機会を作ってみようと思う。
 なお、主演のアポロJrを演じたMichael B Jordan君は、その『Fruitvale Station』にも主演で出ているそうで、その後でわたしが絶賛している『Chronicle』や、今年公開されてさんざんな評価を受けてしまった『Fantastic 4』に出演したわけだが、その彼も『Fruitvale Station』での演技が絶賛されているようなので、これはもう、なんとかして観るしかないですな。
 また、ファイトシーンがちょっとアレかも、とは書いたけれど、今回のアポロJrと対戦する相手は、全員が現役ボクサー・引退した元ボクサーといった本物ぞろいなので、その点では見ごたえ十分である。ジョー小泉氏がそう言っているので、間違いないと思います。はい。

 というわけで、結論。
 『ROCKY』が好きなら迷わず劇場へGO!! そうでもない人でも、カッコイイ男の生き様を観たい人には強力におススメします。とにかくStallone隊長が渋くて素晴らしい。あと、星条旗パンツなんですが、劇中ではわたしが想像していたよりももっと感動的にJrに託されるシーンになってましたよ。以上。
 
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東宝
2014-09-17

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