もう1年以上前に、US版予告を観て、うおお、コイツは超面白そうだぜ!と思っていた映画がある。しかし、日本では一向に公開される気配がなく、こりゃあお蔵入りで、そのうちWOWOWで放送されないかなあ、と待っていたところ、US公開から1年3か月経ったおとといの金曜日からようやく日本公開の運びとなった。ので、今日、さっそく観てきた。
 その作品のタイトルは、『SWISS ARMY MAN』。とんでもなく奇想天外な物語で、わたしは観ながら結構笑ってしまったのだが、結論から言うとラストは若干微妙で、ちょっとまだわたしはこの映画を消化しきれていないというか、若干胃もたれしているところである。
 ところで、タイトルの意味を理解するには、コイツのことを知っていないと困るのだが、まあ、男なら絶対に知っていると思う、↓これである。

 そう、いわゆる「スイス・アーミー・ナイフ」、通称「十徳ナイフ」といういろんな機能が搭載された、アウトドア野郎なら必ず1本は持っているアレである。なんとこの映画は、「死体」をこの十徳ナイフのように便利に使っちゃう、漂流サバイバル映画であった。というわけで、以下、確実にネタバレ全開で書くことになると思うので、気になる人は絶対に読まない方がいいと思います。これは何も知らないで観に行った方が面白いと思うので。観てから、読んでください。

 というわけで、まずは上記予告を観てもらいたい。もう大変なことになっている。わたしはUS版の予告を観て、な、なんだこれ!? と超興味を抱いたのだが、この予告からわたしは、前述のように「漂流サバイバル映画」だと思ったものの、いきなりで恐縮だけど、まずは前言撤回である。そう、実は全然「漂流サバイバル映画」ではなかったのだ。無人島&海、は、実は冒頭の5分ぐらいしか出てこない。冒頭はもう予告にある通りで、船が難破し(?)、小さな無人島で絶望とともに首を吊ろうとしていた男がふと見ると、波打ち際に人影が。慌てて駆け寄ってみると、すでに完全に死んでいる。が―――その死体は、豪快な音を立ててオナラをしており、何だよこれ……と見ていると、どんどん波にさらわれて死体が海の方に流れていく。しかも、ケツからは、ブビビビビ……とガスが放出されていて、おい、ちょっと待って、もしかして……と死体に飛び乗ると、死体はまるでジェットスキーのように、ガスパワーで海を豪快に駆けていくではないか! ひゃっほう! これで助かったぜ! というのが予告にある通りだが、あっさり男はバランスを崩して海に投げ出され……気が付くと陸地に打ち上げられていた。けれど、一体全体ここはどこ? というわけで、男は助けを求めて、陸地に分け入って行く。死体を背負いながら……てなお話であった。ちなみにここまで、開始10分ほどである。
 なので、冒頭だけが海&小島で、物語の本筋は、ほぼ森の中である。とにかく死体が便利すぎて、そのあたりの描写は、もう笑うしかない奇想天外なシュールな映像となっていくのだが、とある怪現象が起きてからは、かなりその趣は変わってくる。そうなのです。完全なる死体なのに……どういうわけかしゃべりだす、のだ。死体なのに!
 この、死体がしゃべるメカニズムは、ズバリ言うとラストまで一切説明はない。わたしは、実はこれは夢オチ的なエンディングで、死体がしゃべっていると思っているのは主人公の男だけで、なにか幻想のようなものを見ているだけなんじゃないのかしら、と思っていたのだが、どうもそうではない、らしい。そしてしゃべる死体との会話も、どんどんシュールになっていく。生前の記憶のない死体に、いろいろ教えていく主人公。そして主人公のこれまでの人生も語られていく。そして極めて残念ながら、その人生が全く共感できないものなんだな……なので、中盤からは、死体を使った笑えるシーンにはゲラゲラ笑ってしまうものの(これって不謹慎?)、主人公がバスで出会った美女に対する想いが観客に提示されていくにつれて、はっきり言ってわたしはドン引きになっていくという残念な状況となった。
 どうも、主人公が海で遭難した理由、もっと言えばなんで船で海に出でたのか、も、はっきりとはわからない。どうやら主人公は、とにかくコミュ障で、人と関わるのが苦手であったようだ。そして舞台はどうやら西海岸で、冒頭の無人島&海は太平洋の孤島らしい。よって、場面が変わってからの森は、西海岸のロスだかシスコのあたりのようなのだが、ともかく、主人公は全く見知らぬ美女に一方的に惚れ、そして美女に娘も旦那もいることは知っていたようなので、軽いストーカー野郎といってもよさそうだ。そんな見知らぬ美女をスマホの壁紙にしているのだから、まあ、ちょっと問題アリな男と言わざるを得ないだろう。
 あれっ!? なんだか書いていてドンドンつまらない映画のような気がしてきた。
 しかし、間違いなく笑えて面白かったのだが、冷静に考えると、結局のところ、この映画でわたしが面白かったのは、死体を便利な道具として使うという1点に集約されるわけで、そういう意味で完全なる一発ネタムービーだったのかもしれない。やたらと、さわやかな青春ムービー的なキャッチコピーで宣伝されているような気がするが、わたしには全くさわやかには感じられず、とりわけ感動もなかったのは事実だ。
 恐らく、わたしがこの映画で一番感動(?)したのは、「死体」を演じたDaniel Radcliffeくんのスーパー熱演であろうと思う。とにかくすごい! 完璧な「死体」であり、この渾身の「死体」の演技だけでも、この映画は観る価値があると思う。しかも、ケツ毛もじゃもじゃのケツもさらして、Harry Potterのイメージはもう完全にぶっ壊しており、わたしとしてはもう、順調なおっさん化を遂げたRadcliffeくんの姿には実に感動した。下品と言わないでいただきたい。だって人間だもの!
 そして主人公たる男を演じたPaul Danoくんもなかなかの熱演だった。彼は、かなりの出演作をわたしは観ているはずだけれど、正直あまり覚えにないかなあ……冒頭ではヒゲもじゃな彼が、中盤以降はすっきりした顔で出てくるのだが、そのスッキリした顔を観ても、ちょっとピンとこなかった。なお、どうやってひげをそったのかは、ぜひ本編を観て確認いただきたい。もちろん使ったのは、超便利な「死体」だが、どの部位を使ったかは書かないでおこう。若干……じゃあ済まないか。かなりドン引きな髭剃りなので。ちなみに、主人公が故郷への方向を知る道しるべになるモノも、死体の一部の謎反応によるものなのだが、それがナニかも書きません、つーか下品すぎて書けません。
 あと、主人公が一方的に(?)好きになった女性、を演じたのがMary Elizabeth Winslead嬢だが、この人、なんか老けたか? この人で思い出すのは『Die Hard 4.0』のマクレーン刑事の娘役とか、『The Thing(邦題:遊星からの物体X:ファーストコンタクト)』や、去年みて失望した『10 Clover Field Lane』など、結構わたし的にはおなじみの女優だが、本作では、顔を観ても一瞬誰だか分からなかったぐらい、何となく印象が違って見えました。なんでだろうな……自分でも良く分からんです。
 最後は監督についてメモして、もう終わりにしよう。この奇想天外な物語の監督・脚本を担当したのは、クレジット上ではDanielsと表示されていたけれど、Daniel Sceinert氏とDaniel Kwanという二人のダニエルさんのコンビだそうだ。正直知らない方々です。まあ、長編初作品らしく、そのアイディアは凄い、と思うけれど、どうして死体にしゃべらせたのか……その点だけ、わたしには良く分からないし、実際必要なかったのではないかという気も非常にする。あくまで、主人公の一人語りで十分だったのではなかろうか……どうなんだろう……ちょっとマジでわたしには良く分からんです。

 というわけで、もう全然まとまらないので結論。
 最初にUS版予告を観た時から超期待していた『SWISS ARMY MAN』が、US公開から1年3か月経ってやっと日本でも公開されたので、早速観てきたわたしだが、映画としては、全然想像していたものとは違っていたのは間違いない。全然漂流サバイバルじゃないし。そして、物語は実に微妙なお話であったことも事実だ。しかしそれでも、わたしはこの映画を観に行ったことを1mmも後悔していない。なぜなら、「死体」を演じたDaniel Radcliffeくんの演技が凄まじく素晴らしいからだ。その1点だけは保証できる。死体を使った数々の面白描写にも、相当笑わせてもらったし。だが、この映画が万人にお勧めかというと、これは無理だろうと思う。まず、相当な下ネタが多いし、そもそも死体をこんな風に扱うなんて、と真面目な人なら眉を顰めるかもしれないし。なので、まあ、とにかく予告を観て気になるなら観に行った方がいいし、予告の段階で、何じゃこりゃ、と嫌悪感を感じたならやめておいた方が無難だと思う。あ、それは当たり前か。サーセン。なんだかまだ、わたしはこの映画に対して消化不良で、全然うまくまとめられませんでした。以上。

↓ わたしは実は「漂流サバイバル映画」はジャンルとして結構好きで、今のところそのジャンルで最高峰は、この映画だと思います。とにかく壮絶。そしてカッコよく、悲しい……。