というわけで2017年になりました。はー。やれやれ。。。
 ところで、わたしは絵画鑑賞もかなり好きだということは、さんざんこのBlogでも書いてきたが、2015年の秋にNYCへ行ったときは、その一番の目的はBroadwayミュージカルの観賞だったけれど、それと同じくらい楽しみだったのが、The Metropolitan Museumの鑑賞であった。そして初めて体験したMETに収蔵されている芸術作品の質と量に圧倒され、とにかく大興奮となったのである。とにかくすごい量だし、作品も超メジャーがずらりと勢ぞろいであった。
 わたしの好きな絵画の三大作家は、ゴッホ・ターナー・マグリットであることは散々このBlogでも書いてきたが、このMETへ行ってきたときに、一番気に入った作品は以前書いた通り↓これである。
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 これは、19世紀末~20世紀初頭のウィーンを代表する作家Gustav Klimtによる、「Portrait of Mada Primavesi」という作品で、クリムトのパトロンであり、実業家で銀行家のプリマヴェージ家の娘さんを描いたものだ。わたしは、Klimtといえば、絢爛で金色のイメージがあったので、Klimtにこんな可愛らしいポップな作品があったんだ、と非常に驚いた。すごい現代的で、Kawaiiカルチャーに通じるものがありますよね、これは。
 この作品は1912年制作だそうで、モデルのメーダちゃんは9歳だそうです。つまり、メーダちゃんは1903年生まれであり、父はその後1926年に亡くなって、銀行も破産してしまったらしいが、銀行家ということでユダヤ系であったのかもしれない。だとすると、メーダちゃんはナチス台頭期に30代に入ってたわけで、無事に2次大戦を生き残ることができたのか、大変心配になってくる。
 何が言いたいかというと、わたしが普段、美術館でうっとり眺める絵画に描かれた人物たちは、もちろんのことながら実在した人間を描いたものが多いわけで、それら、絵画のモデルとなった人々が、その後どんな人生を送ったのか、そして、20世紀の作品であれば現在も生きてどこかに暮らしている場合も十分あり得るわけで、そういった想像を働かせると、より一層面白いというか、興味深いと思うわけであります。
 で。昨日の大みそか、HDDに貯まっている映画を片付けていこう大会を実施しているわたしが、この映画で2016年を締めくくるか、と選んだ作品が『WOMAN IN GOLD』(邦題:黄金のアデーレ 名画の帰還)という作品であります。まさしく、Klimtの名画としておなじみの、『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』(Portrait of Adele Bloch-Bauer I)を題材にした映画である。

 物語は、上記予告の通りといってよかろう。なんとあの名画のモデル、アデーレ女史の姪っ子が、その所有権をめぐって法廷闘争するというお話である。しかもこれは実話だ。非常に興味深いお話であった。
 一応、この映画がもし完璧に事実に忠実に描かれているのなら、という前提付きだけれど、主人公の主張はそれが証明できるなら明確な法的根拠となるだろうし、その想いも十分に理解できるものだと思う。実際に、裁判の結果、作品は主人公の元に戻るわけだし。
 しかし、わたしがこの映画で一番の見どころだと思ったのは、そういった法的な問題や絵画の行方ではなく、主人公の老女が抱く、故国オーストリアへの愛と憎しみだ。彼女はユダヤとして両親や親せきを殺され、自らは間一髪でアメリカに逃れ、アメリカ人として戦後を生きてきた過去を持つ女性だ。彼女は、「助けてくれなかった」どころか、ナチスを歓迎して「積極的に受け入れた」(としか主人公には見えない)故国が許せない。そんな故国には、もう二度と帰らないと心に決めていたのだ。それほど故国が憎い。実際に絵を奪ったのはナチスであるけれど、それを援助したのは紛れもなく当時のオーストリアという国家と、大勢の国民であり、それが、戦後、この絵は我が国のモナリザです、なんて飾っていてはそりゃあ腹も立つだろう。だから少なからず、復讐の気持ちもあったに違いない。彼女にとっては、ナチスもオーストリアも同罪なのだから。
 しかしそれでも、である。一大決心のもとに、二度と帰らないと心に決めていたウィーンに降り立った彼女の心情は、当たり前だけれど懐かしさと故郷に対する郷愁でいっぱいになる。そりゃあそうだ。誰だって、かつて生まれ育ち、結婚式を挙げた場所を前にしたら、心がいっぱいになるはずだ。ここの場面の主役のお婆ちゃんを演じたHelen Mirrenさんの表情は素晴らしかったと思う。現在71歳。本当にこの人はきれいなお婆ちゃんだなあと思う。2006年の『Queen』でエリザベス女王を演じ、アカデミー主演女優賞を獲得した彼女は、何とも言えない上品さが漂っていて、お父さんはロシア革命で亡命してきた元ロシア貴族なんだそうですな。本物、っすね、ある意味。この映画は、たぶんHelenさんが演じないとダメだったように思えます。『RED』なんかでは、ハジけたところのある元気な元暗殺者のお婆ちゃんをコミカルに演じてたのが印象的すね。
 ほかにも、主人公の甥っ子として、冴えない弁護士を演じたのが、『Deadpool』でイカレた主人公を演じたRyan Reynolds氏。今回は非常にまじめな普通の男をしみじみと演じています。そこも見どころかもしれないす。コイツは、わたしの審美眼からすると別にイケメンではないけれど、まあ大活躍ですな。コイツの奥さんはBlake Lively嬢です。非常にうらやまけしからん野郎ですよ。ちなみにその弁護士の甥っ子は、Schönbergという苗字で、まさしく12音技法で有名なあの、Arnold Schönberg(彼も同じく亡命ユダヤ人としてアメリカに移住)の孫にあたる人物だそうだ。すげえよなあ、初めて知って驚きました。
 あと、主人公のお婆ちゃんの若き頃を演じたTatiana Maslany嬢も非常にかわいらしくて良かったすね。本作は現在のお婆ちゃんとなったアメリカ人の主人公と、その若きころの回想が折重なって語られるわけだけれど、ほんの70年前に起こった出来事なわけで、まだまだ実際に生存者は数多くいるし、もはや歴史、と我々なんかは思ってしまうけれど、まだまだ終わっていない、現在と地続きの過去なんだなあ、という思いが深まった。

 わたしは、オーストリアに降り立った主人公のお婆ちゃんが、役人に対して、ドイツ語ではしゃべりません、英語でお願いします。と毅然と言うシーンがとても心に残った。お婆ちゃんの願いは、実際のところ、絵の返還というよりも、オーストリア政府による謝罪、だったのだろう。それを絵の返還という形で示せ、ということだと思う。まあ、一応、そのようになったわけだが、オーストリア政府は嫌々ながらも応じずにはいられなくなっただけなので、明確な謝罪はない。でもまあ、返還するというところが落としどころってことなんでしょうな。
 しかし、他にもこの映画には、絵のモデルとなった、きれいで優しい叔母、アデーレがモデルになったときも身に着けていた金の首飾りが、主人公に贈られたのちに、家に押し入ってきたナチスの兵士に奪われ、ヒムラー(だったっけ?)のものとなったこと、とか、さらにこの絵が、ヒトラーの別荘であるベルクホーフで見つかったこと、とか、そういった、絵の背後にある歴史を色々と教えてくれる。そういうことを知ると、ホント、絵画を観るときの想いがまた変わりますね。
 わたしは、絵画は風景も人物もともに好きだけれど、やっぱり風景でも人物でも、そのとき作家が見つめていたはずの現地・人にとても興味を抱く。この映画は、そんな妄想をするのがある意味趣味のわたしには、とても興味深く、面白い映画でありました。

 というわけで、結論。
 『WOMAN IN GOLD』(邦題:黄金のアデーレ 名画の帰還)は、Helen Mirrenおばあちゃんの魅力にあふれた素晴らしい映画であった。そして絵画の背景にある歴史も、非常に重く、とりわけ20世紀初頭からナチス台頭期という大きな歴史のうねりに巻き込まれた物語はとても見ごたえがあったと思う。ちなみに本作の真の主役であるKlimtの『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』(Portrait of Adele Bloch-Bauer I)は、NYCのNeue Galerieで観られるそうです。くっそう、METのすぐそばだったのか……観に行きゃあ良かった……!! 今年、もう一回またNYCに行こうかしら……。以上。

↓ こういうポスターを買って、きちんと額装して飾るのも乙かもしれないすね。本物はかなりデカい作品でしたよ。