昨日の夜は、『ミレニアム4』を読み終わって、非常に興奮していたわけであるが、さっさと寝ようと思って布団に入って、さて、次は何を読むかと本を漁ってみたものの、なんとなく本を読む気にならず、じゃ、映画でも観るか、とHDDにたまっているWOWOWで録画した映画をチェックしてみた。
 その結果、時間的にも100分ほどと、短くて手ごろな作品があったので、じゃ、コイツでも観てみるか、と何の前知識もなく観始めた。その作品の名は、『PREDESTINATION』(邦題はそのまま「プリデスティネーション」)である。 

  ところで、わたしの場合、どういう基準でWOWOWの作品を録画するかというと、まあ実に適当なもので、毎月最終週のちょっと前ぐらいに送られてくる番組ガイドの冊子を見て、翌月の放送タイトルから、これは絶対録画しよう、とか、なんだこれ、面白そうだな、とか、こんな映画知らねえなあ、とりあえず録っとくか、とか、あ、この俳優が出てるんだ、じゃ撮っとこうとか、そんな感じのフィーリングで決めて、1か月分まとめて予約をしてしまう。わたしの使っているHDDデッキは、月の最終週になると、翌月1か月分予約可能になるので。
 なので、ストーリーか役者か監督か、どれかにピンときた作品を実にテキトーに録画しまくっており、まあとにかくHDDの容量がいくらあっても足らないわけで、これは永久保存だね、と思った作品はBlu-rayや外付けHDDに移している。 
 で。昨日観た『PREDESTINATION』は、見始めてすぐに、なんで録画しようと思ったか思い出した。「時空警察」というワードに、わたしは反応したのであった。この作品は、かのSF界の巨匠、Robert A. Heinleinの短編小説を原作とした、「タイムトラベル」モノの純SF作品である。残念ながら原作小説は未読だが、実にしっかりとした、そして物悲しいハードボイルドSFで、非常に見ごたえのある作品であった。

 そもそも、世には「タイムトラベル」を題材にしたSF作品は数多く存在するが、基本的に核となるのは大抵の場合、「過去に干渉した場合の未来への影響」、いわゆるタイムパラドックスを描くものが多いと思う。例えば、かの『Back to the Future』も、過去に干渉してしまったために、自分という存在が消えてしまう事になった主人公が、それはヤバイと一生懸命に元の事象の流れに戻そうとする話で、普通は深刻な話が多いが、珍しくコメディーである。わたしもそういう作品は実に大好物なので、この『PREDESTINATION』を紹介する短い文章の中に「時空警察」という4文字を見つけて、これは、と反応したわけであるが、この作品の一番の特徴は、そのタイトル「Predesitination=運命」が示す通り、すべての行動は、過去に干渉するものであれ、最初からそうなるように決まっていた、何をしてもその影響すらも予定通り、という、逃れられない運命にとらわれた男の一生を描いている点にある。うーん、うまく説明できないな……この作品の、原作小説の邦題は「輪廻の蛇」というそうだが、要するにウロボロス、自分のしっぽを飲みこむ蛇、ということで、無限ループになってしまうお話である。いわゆる「鶏が先か、卵が先か」のお話と言ってもいいだろう。

 物語は、「時制局」と呼ばれる組織のエージェントが、1970年代にNYで起こった爆弾魔の犯行を阻止しようとするところから始まる。1万人以上の被害者を出した犯罪阻止のために、時をさかのぼってやってきた主人公だが、あっさり犯行阻止に失敗、全身やけどを負ってやむなく元の時である1985年に戻る。再建手術ですっかり人相も変わってしまた主人公は、再び時を渡り、今度は1960年代のNYへ。そこで、バーテンダーという仮初めの身分においた主人公は、一人の青年に出会い、その青年の壮絶な人生を聞き、自分のMissionをその青年に託すことにするのだが――。
 と、これ以上はもうどうにも説明できない。非常に興味深いのは、その青年が語る彼の人生である。極めて数奇な人生で、その奇妙な人生は、『The Curious Case of Benjamin Button』のような、それだけで一つ物語が成立できるようなもので、一体この男の人生がどう関係するのか? と考えると、物語全体の構造が、ははーん? と分かって来る仕掛けになっている。
 また、細かい設定もいちいち面白く、例えば、タイムマシンとなっているのがバイオリンケースで、時を「ジャンプ」するにはそのバイオリンケースをしっかり抱きしめていないといけないのだが、いわゆる「時空酔い」みたいなものもあって、時(と空間)をジャンプすると、身体的な負担が大きく、主人公もだんだん弱っていく。そして、青年と主人公の関係が明らかになるときには、意外と深い感動的な何かがわたしの心を鷲掴みにした、のだが、正直なところ、えーと結局爆弾魔って……? と考えると、ちょっとエンディングは説明不足のようにも思える。解釈はどうも観客(読者)に任されてる系かもしれない。

 まあ物語はそんな感じなのだが、主演の二人は実に渋く深い演技ぶりだったと言えよう。主人公を演じたのは、Ethan Hawke。若いころからコンスタントに活躍している彼だが、この人の転機となったのはやっぱり『Training Day』でしょうな。2001年の作品だからもう15年も前か……。この作品ですげえ悪党を演じたDensel Washingtonはアカデミー主演男優賞を獲ったけど、その受賞も、対照となる役のEthanの演技が光っていたからこその結果だと思う。そして、本作の鍵となる青年を演じたのは、Sarah Snookちゃんという可愛らしい女性。ネタバレですが、青年が語る話の直前に、実はオレはかつては女だった、と自分ですぐにバラすので書いてしまいますが、その女性時代のSarahちゃんが、誠に可愛らしい眼鏡っ子で、実に魅力的であった。まだキャリアは浅いみたいですが、非常に印象的な演技を見せてくれました。この女子は、スーパー美人というわけではなく、実にわたし好みの、ちょうどいい塩梅の可愛さで、ちょっと今後要チェックですな。

 というわけで。結論。
 『PREDESTINATION』という映画は、極めて高品質な純SF物語であった。役者の演技も極めて上等。原作を読んでみようかなという気になった。劇場公開は、今年の2月ごろだったそうだが、全然知らなかったよ。まあ、わたしの知らない映画もいっぱい公開されているもんですなあ。以上。

↓ Sarahちゃんが本作の次に主演したホラー『Jessabelle』。これも観てみたいな……。つか、これ、WOWOWで観たかも……?
ジェサベル *セルBD [Blu-ray]
セーラ・スヌーク
エイベックス・ピクチャーズ
2015-06-03