ちょっと前に電子書籍版を買ったものの、しばらく読む時間が取れず、記録によると5/24(水)から読み始めた本を、昨日の朝の通勤電車の車内で読み終わった。読了タイムは518ページを372分。あ、そんなにページ数あったんだ。意外とボリュームのある作品だったんだな。と今初めて気が付いた。
 邦題は「忘れゆく男」という作品で、著者Peter May氏に関しては、わたしは全く知らなかった。単純に、あらすじを見て、面白そうだな、と思って購入した次第である。
忘れゆく男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピーター メイ
早川書房
2015-03-20

 しかし……わたしは早川書房を愛してやまない、翻訳小説が大好物の男なわけだが、今回はホント抜かっていたことが判明した。何が抜かっていたかというと―――わたし、読み終わって、面白かったぜ、と思ったのはいいのだが、あとがきを読んだらですね……な、なんと!この作品はシリーズ物の第2作目だった!!! ことが判明したのです。オイィ!早川書房さんよぅ!そういうことはちゃんとあらすじの最後に【シリーズ第2弾!!】とか入れといてくれよなあ……。まあ100%わたしのうっかりミスだが、どうにもやりきれないというか、愛する早川書房に責任転嫁したい気分である。くっそう! 知っていればちゃんと1作目から読んだのに!もーーー!!
 というわけで、わたしはあとがきを読んで、せっかくの読後の心地よい余韻が台無しになってしまったのだが、調べてみるとその第1作目も電子書籍になっていたので、即座にカートにぶち込んだ。そして、今回はすぐさま購入せずに、若干の早川書房への当てつけの意も含め、次のコインバックのフェアでまで待ちだな、と決意した。しかしである。一応あとがきには、「本作単独でも楽しめます」的なフォローがあったので、何とか心の折り合いをつけたのだが、どうやら3部作なのに、3作目はまだ日本語訳されていないことを発見してしまい、またしても愛する早川書房にイラっとしてしまったので、ちょっと今、落ち着け……と自らに言い聞かせているところである。

 ふーーーー。よし。落ち着いた。それではさっそく、本作『THE LEWIS MAN』について書こう。まず物語であるが、あらすじは早川書房作成の文章をそのままパクッて無断で貼っておこう。こんなお話である。
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 ここはどこだ、なぜ自分は家ではなくここにいる? 重度の認知症のケアをする施設に入ったトーモッド。孤独な彼のもとを元刑事フィンが訪れる。フィンはトーモッドの娘の元恋人だった。その頃、泥炭地からは身元不明の遺体が発見されていた。被害者はトーモッドの血縁関係者だという。フィンは事件を調べ始めるが、明らかになったのは、家族も知らないトーモッドの秘密だった…忘れゆく男の記憶と想いをめぐるミステリ。
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 ちょっと補足すると、舞台はスコットランドの北西岸から船でミンチ海峡を渡って3時間かかるルイス島である(※原題のLewisはこの島のこと)。そこでは、泥炭が暖房の燃料として使われていて、冒頭は現代、その泥炭の切り出し作業中に、一人の遺体が見つかるところから始まる。わたしは知らなかったけれど、そういう泥炭地帯から、完全な形で体組織が保存されたミイラが発見されることがあるんですって。有名なのは「トローン・マン」という遺体(ミイラ)があるそうで、これはリンクをクリックしてNAVERまとめを参照してみてほしい。超そのままというか、2000年以上前に、どうやら何らかの宗教儀式?の生贄として殺された男らしい、と言われているミイラだ。
 まあとにかく、そういった完全な形で保存された遺体が冒頭で発見され、こりゃまた何千年も前の遺体か?と鑑定してみると、なんと肩にプレスリーの刺青があり、どうやらおよそ60年ほど前に「殺された」遺体であることが判明し、DNA検査の結果、今現在、完全に痴呆症となってしまったとある老人の親族であることが明らかになる。遺体は推定10代後半から20代前半の男。ならば、その犯人はまだ生きている可能性がある――てな始まりである。
 そして、上記あらすじにある「元刑事のフィン」が、シリーズ3部作の主人公だそうで、本作ではエディンバラの警察を辞め、故郷である島へ帰ってくる話が並行し、フィンが元恋人とその父である痴呆症の老人と再会し、いったい、ミイラとなって60年ぶりに発見された遺体は何者なのか、そしてなぜ殺されたのか、だれが殺したのか、そしてそもそも、痴呆症の老人は、いったい何者なのか、といった謎をフィンが解き明かしていくお話である。
 というわけで、恒例のキャラ紹介を4人だけやっておこう。
 ◆フィン:元エディンバラ市警の刑事、だが、本作冒頭で退職。どうやら交通事故で息子を亡くし、妻とも別れて帰郷を決意した模様。その経緯がきっとシリーズ第1作で描かれているのではなかろうか?
 ◆トーモッド:現在痴呆症が進み、たまに記憶が鮮明になるが、基本的には恍惚の人。フィンの島時代のご近所さん。泥炭採取現場から発見された60年前の遺体と血縁らしいが……トーモッドの過去にどんなことが起き、今に至っているのかが本作の一番のポイント。また、痴呆症の人間の心理がやけに生々しく、なんか……正直わたしは怖いというか、ゾッとした。痴呆だけにはなりたくねえなあ……でもこればっかりはどうにもならんだろうな……。長生きしていいことってホントあるんすかねえ……。
 ◆マーシャリー:トーモッドの娘であり、フィンの幼馴染で元彼女。フィンの親友アーシュターと結婚するも死別(?)。現在は息子が、大学へ行くか、妊娠出産させた彼女と子供を育てるかでフラフラしていて、大変困っている。自分自身もグラスゴーの大学に入って勉強しなおそうと考えていたのに。どうも、マーシャリーやフィンの親友アーシュターも、第1作に出てくるんじゃなかろうか……分からん。
 ◆ケイト:トーモッドが少年時代を共に過ごした初恋の相手。今どこでどうしているのか不明。実に活発な、おそらくは相当な美少女。生きていれば80歳ぐらいにはなっているはずだが……

 ズバリ言うと、遺体の正体は、読者には結構すぐに想像がつく。しかし謎なのは、なぜ殺されたか、誰が殺したのか、という部分である。ポイントとなるのが、重要なカギを握っている老人トーモッドが痴呆症で、いかんせん話も聞けないし、記憶も失われているという点にあり、ほんの些細な手がかりからフィンが地道に調べを進める一方で、痴呆症の老人の心の中で語られる過去がクロスして物語は進むのだが、その、誰にも語られず、あくまで老人が薄れゆく意識の中で思い返す回想部分が、実に壮絶というか、過酷なのだ。
 そういった凄惨な過去を、一切封印して生きてきた老人。それがラストは美しい再会とともに事件の解決をみる構成となっていて、読後感は大変上質であろうと思う。
 まあ、日本の我々からすると、戦後の昭和20年代後半ぐらいかな、その老人の若き頃の話は。だから、実はそれほど遠い昔ではないのだが、わたしの印象に強く残ったのが、舞台となるスコットランドの北に位置する島の荒涼とした風景で、非常に描写としても脳裏に描きやすかった。寒そうで、風が強そうで、きっと土地も痩せていて、豊かなイメージは一切沸かない。ホント、人類はどうしてまたそういう地に住み付こうと思ったんでしょうなあ。先祖が住んでいたから、とか言われても、じゃあその先祖はなぜ? という点にわたしは非常に興味がありますね。きっと、明確な理由があるはずで、それは現代人の我々には理解できないことかもしれないけれど、ぜひ知りたいものです。冒頭でミイラが出てきたからかもしれないけれど、なんかそういった、人類学的な好奇心も、わたしは本書を読んで掻き立てられたのであります。
 一方で、キャラ描写の方は、心理的な部分は全く問題なく物語に入って行けるけれど、具体的な容姿に関しては、イメージがつかめず、いったいどういう顔をした少年だったんだろうとか、映像化するとしたらフィンは誰が演じたらいいかな、といった部分ではいまだにちょっと想像がつかない。うーん、だれが演じたらハマるかなあ。そうだ、あと、キャラクターたちは、スコットランドの西側の人間としてゲール語が話せるし、ゲール語がちょっとしたキーになっているのも、わたしとしては興味深かった。ゲール語というと、わたしは決まって「モ・クシュラ」という言葉を思い出す。その言葉の意味が知りたい方は、わたしが劇場でうっかり号泣した映画『Million Doller Baby』をご覧ください。わたしの大好きなClint Eastwoodおじいちゃんの三大名作の一つですので、絶対的なおススメです。

 というわけで、さっさと結論。
 ふとあらすじを読んで面白そう、と買って読んだ『THE LEWIS MAN』(邦題:忘れゆく男)は、なかなか面白かった。スコットランドの北のLewis島か……一生行くことはないだろうな……でも、行ってみたくなりますね、こういう作品を読むと。しかし、本作がまさかシリーズ物の第2作目とは……超ぬかってたわ……くそう。おっと!まさに今日の夜、大きいコインバックフェアがあるらしいので、さっそく買って読むとするか。でも、ちょっとほかの本がたまってきたから、順番待ちだな。おそらく第1作は、主人公フィンについてもっと理解が深まるはず、です。以上。

↓ というわけでこちらが第1作。先にコイツを読んでいたら、本作はもっと面白かったのかもな……くそう!