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 というわけで、『空想オルガン』を読んだ。
空想オルガン (角川文庫)
初野 晴
角川書店
2012-07-25

 この作品は、「ハルチカ・シリーズ」と呼ばれる『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続くシリーズ3作目で、時間軸としては春太と千夏ちゃんが2年生の夏で、舞台は、一冊丸ごと夏の地区大会~県大会~東海地区大会の話である。わたしは全く知らなかったが、吹奏楽部の全国大会――通称、普門館――に至る道のりは、並の運動部よりももっとハードで、県代表レベルでは出場できないものらしい。このことは、シリーズ1巻目の『退出ゲーム』でも出てくるので、ふーん、と軽く読み流していたのだが、ちょっとだけ調べてみた。
 どうやら、全国の高校吹奏楽部の若人が目指す、彼らにとっての甲子園たる「普門館」へ至るには、地区大会→都道府県大会→支部大会をそれぞれ上位で勝ち抜かないといけないらしい。 県によっては地区大会のないところもあるようだが、いずれにせよ、都道府県代表ではダメで、もう一つ先があるということになる。なお、その会場たる「普門館」であるが、東京都杉並区に存在している(していた)、宗教法人立正佼成会の持ち物で、まあ要するに私立のホールという事だ。なお、大会の正式名称は、「全日本吹奏楽コンクール」の「高校の部」で、主催は社団法人全日本吹奏楽連盟と朝日新聞である。なので、なんでまた、 立正佼成会の建物でそんな大会が行われていたんだろう? と素朴に疑問に思ったのだが、どうやら、要するにキャパシティや音響設備、ステージ、あるいは広い駐車場も完備している、といったハードウェア的に最高峰かつ理想的な会場であったから、のようだ。まあ、機材搬入とか、確かに広い駐車場は必要でしょうな。また、そもそも立正佼成会は自身で東京佼成ウィンドオーケストラというプロ楽団も持っていて、課題曲のお手本演奏をしたりしている。いやはや、恥ずかしながらそんなことも知らなかった。このあたりは、吹奏楽の経験者なら常識なのだと思う。ただ、残念ながらその「普門館」は、2011年の震災以降、耐震構造に問題があるということが2012年に分かったそうで(何しろ築40年以上)、現在は名古屋国際会議場センチュリーホールに会場を移してコンクールは行われているそうです。本書に収録されている4つの作品は、3つが2010年に書かれたものなので(もう一つは単行本刊行時の書き下ろし)、当時は「普門館」であったわけだ。とまあ、春太と千夏が出場を目指す「普門館」とはそういう存在であるらしい。

 で。また無駄に前置きが長くなったが、今回も安定の面白さで大変楽しめた。また、各エピソードガイドを備忘録としてメモっておこう。今回はとうとう春太のお姉ちゃんが出てきて、非常にナイスキャラでわたしとしては大変気に入りました。あと、もう一つ、わたしがこのBlogを始めるに当たって、一番最初に取り上げた、わたしの大好きな作家が出てきて、えええっ!? と、マジでびっくりしたわ。

 ■イントロダクション
 いつぐらいか分からないが、数年後、千夏ちゃんが大人になっていて、高校時代を振り返っているという体での導入。ただ、大人になった千夏ちゃんがどんな暮らしをているのかは、今のところまったくわからない。幸せでいてくれるといいのだが……。
 ■ジャバウォックの鑑札
 地区大会会場での出来事を綴ったお話。地区大会会場横の広場で、春太が保護した犬に、二人の自称飼い主が現れた。果たして本当の飼い主は……というお話。そこで出会ったとある人物は、本作でそのあとも何度か出てくるが、一体何者なのか、最後まで読んでいただくと良いと思います。
 ■ヴァナキュラー・モダニズム
 夏休み中の話。ついに春太の一番上のお姉ちゃん登場。職業は一級建築士。超サバサバ系の男前美女で、愛車はホンダ・シビック・タイプR。この車、知らない人にちょっとだけ説明すると、たぶんこの物語が書かれた2010年であるならば、日本最速のFF車(前輪駆動車)で、とにかく、普通の人には扱いきれない、超速(チョッパヤ)マシンです。 で、そんなマシンをぶっ飛ばすアクティブ美人お姉さんと、春太のアパート探しに同行する羽目になった千夏ちゃんとカイユ。とある不動産屋で、やけに家賃が安いアパートを見つけた一行が、そのアパートでまことしやかにささやかれる謎の現象の解明に乗り出す話。とにかく、美人お姉さんが素晴らしく、わたしは非常に気に入った。
 ■ 十の秘密
 静岡県大会会場での話。ギャル軍団「清新女子高等学校」との出会いと、彼女たちの部長の謎を解く話。この中で、わたしが世界で最も好きな作家、Stephen Kingがちょっと関係してくる。しかも小説ではなくて、『小説作法』が出てくるとは本当に驚いた。
 ■空想オルガン
 東海支部大会会場での話。 とある、詐欺師グループの話が前後して挿入される中、会場には、清新女子のボスギャルも、プロを目指す芹沢さんも応援に来てくれ、本番に向けて集中する春太と千夏たち。会場の横で行われている「オルガン・リサイタル」と謎の詐欺師はどういう関係があるのか。また、詐欺師の覚悟は、芹沢さんの心も動かし……と言う話。最後にいろいろなことが見事に明かされるくだりは非常に良かった。この話を締めくくりとして、夏休みは終わり、次の作品は秋、文化祭から始まることになる。

 というわけで、結論。
 本作も、非常に面白く、楽しませていただきました。
 今回は、生徒側では新キャラは登場ナシ。また、先生の過去についても、ほとんど進展なしであった。わたしとしては、既に買ってある3冊は読み終わってしまったので、次のシリーズ第4弾『千年ジュリエット』も買って読むしかないかなと思いつつあります。なんというか、軽い中にもやけに重い話が含まれていて、ちょっとバランスが悪いような気もするけれど、まあ、それもまた持ち味なんでしょうな。誰にでもおススメできるかどうか、正直良くわからない。けど、わたしは面白いと思います。

↓わかったよ。買います。読みますよ。
 ……調子に乗りました……ごめんなさい。先が気になるので、読ませてください!!
千年ジュリエット (角川文庫)
初野 晴
角川書店
2013-11-22

 以前読んだ「ハルチカ」シリーズの第2弾『初恋ソムリエ』を読み終わった。
 本作も、シリーズ共通のフォーマットで描かれており、いくつかの短編連作という形で、まずまず面白かった。
初恋ソムリエ (角川文庫)
初野 晴
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-07-23

 まあ、安定の面白さで特に書くことがないので、エピソードガイドで今日は終わりにします。手抜きでサーセン。しかし、カバーのイラストは、主人公たる穂村千夏さんなのだろうが、そうか、こんなに可愛い女子なのね、と今さら思った。彼女は、中学時代はバレー部所属だったが、清水南高校に入学してから吹奏楽を始めた女子高生だが、そういえばビジュアルイメージをずっと意識していなかったので、さっき初めてまじまじとカバーを見てしまった。手がでかいな。ま、どうでもいいけれど。

 というわけで、本作も4つの短編で構成されている。
 第1話「スプリングラフィ」は、春太と千夏が2年生に上がる直前の春休みを舞台に、音楽室に忍び込む謎の生徒を追う話である。その生徒が何者かはすぐに判明するのだが、そしてその何者かは、どうやら音楽のプロを目指しているほどの人物で、何のために音楽室に忍び込むような真似をしているのか、春太と千夏が謎を追いかけ、意外な事実が判明するというお話。
 第2話「周波数は77.4MHz」は、変人・生徒会長から、ブラックリスト十傑の一人、地学部長を連れて来いという依頼を押し付けられた千夏が、捜査を続けるうちに、はまっているコミュニティFMのDJをやっている男の意外な正体が判明する話。この話で、また一人、吹奏楽部の仲間が増えることになる。
 第3話「アスモデウスの視線」は、春太と千夏が大好きな草壁先生が倒れてしまったことから、その原因となったライバル校の藤が咲高校吹奏楽部顧問の先生の休職の理由を探る話(「の」が多い!! サーセン!!)。複数回行われた席替えは、先生の休職とどう関係しているのか? 藤が咲高校吹奏楽部の部長や教育実習生から事情を聴くうちに、どうやら教室内でとあることが行われていたことが判明し……というお話。
 第4話「初恋ソムリエ」は、第1話で準レギュラー化するプロ音楽家志望の女子から千夏が依頼を受ける話。なんでも、3年生の朝霧という男子生徒と叔母が学校内で会っているとか。朝霧という生徒は何者なのか、そして「初恋ソムリエ」とはなんなのか、を追う話。やはり彼もどうやらブラックリスト十傑の一人で、「初恋研究会」の代表らしく、吹奏楽部部長の片桐くんとはいろいろな因縁がある人らしいのだが……というところはではすぐに判明する。この話では、「記憶と匂い」の関連性について面白い話が展開されていて、前巻の『退出ゲーム』第4話では「記憶と音」の興味深い話が書かれていたが、今回は「匂い」と「味」である。お話としては結構シビアな重い話だが、面白かった。

 というわけで、今回も春太と千夏がいろいろな謎に挑むのだが、基本的には千夏は特に謎解きには貢献していない。だが、千夏の天然の率直さというか常識人たる純粋な驚きや感動が、重くなりがちな謎解きにおいては非常に救いとなっているわけで、とてもバランスはいいと思う。
 また、各キャラクターも非常に生き生きとしていて読んでいて楽しいし、まあ、ちょっとコイツらスーパー高校生すぎるんじゃね? という部分はあるけれど、十分許容範囲内だろう。前作で仲間になったマレンや成島さんもすっかり溶け込んでいて、とても重要な役割を果たすし、今回新たに仲間になったカイユも非常にナイスキャラである。また、芹沢さんは今後仲間になってくれるのか、非常に気になる存在だ。清水南高校生徒会からマークされている「ブラックリスト十傑」も、極めてキャラが立っていて、面白い変人ばかりである。ちょっと、これまでに出て来た「十傑」メンバーを自分用備忘録としてまとめておこうかな。
 日比野秀一:生徒会長。春太と千夏の1つ先輩。
 名越俊也くん:演劇部部長。春太と千夏と同級生
 萩本 肇くん:発明部部長。春太と千夏の1つ先輩。
 萩本 卓くん:発明部部員。肇の弟。春太と千夏と同級生。
 麻生美里さん:地学研究会部長。春太と千夏と同級生。
 朝霧 亨くん:初恋研究会代表。春太と千夏の1つ先輩。
 ええと、今のところ5人まで判明しているわけか。全員出てくるんだろうか? それとも見逃してるのかな?まあ、いいや。

 というわけで、結論。
 面白い。1月からのアニメがちょっと楽しみになってきた。前回も書いたが、くれぐれも変な萌えアニメにならないことを祈りたい。

↓ これが初野先生のデビュー作。ちょっと読んでみたくなってきた。
水の時計 (角川文庫)
初野 晴
角川書店
2005-08-25

 この数年、おそらくは2011年以降、出版界というか小説の業界の中で、いわゆる「コージーミステリー」と呼ばれるジャンルの作品が大いに盛り上がっている。いや、これはもう過去形で語ったほうがいいのかもしれない。もはや古いような気がしなくもないが、ともかく、その先鞭をつけた作品は間違いなく『ビブリア古書堂の事件手帖』であろうと思う。
 コージーミステリーって何だ? と思う人は、とりあえずWikipediaでも見てもらうとして、ごく簡単にテキトーに要約すると、日常のちょっとした謎を解き明かす殺人の起こらないミステリー小説のことだ。このジャンルは、実のところ結構以前からあって、なにも『ビブリア古書堂の事件手帖』が元祖と言うわけではない。たしか、10年以上前に、営業部時代の同僚のM君に教えてもらって北村薫先生による「円紫師匠シリーズ」を読んだことがあったのだが、たぶんその作品がいわゆる日常の謎系の元祖なのかもしれない。この「円紫師匠シリーズ」というのは、北村薫先生のデビュー作『空飛ぶ馬』から始まるもので、主人公「私」が落語家の「円紫師匠」と出会い、「私」が遭遇する日常生活の中でのちょっとした「ん?」といった謎を円紫師匠に話すと、円紫師匠はたいていの場合、話を聞くだけで、現場に行くこともなく、「それはきっと……」と謎を解いてあげたり、ヒントを提示してあげたりするようなお話だ。いわゆる安楽椅子探偵に近いものがある。『空飛ぶ馬』に収録されている「砂糖合戦」というエピソードは非常に面白く、作品の方向性を定めた初期の傑作だと思うな。 
 ちなみに、営業時代の同僚M君は、かなりいろいろわたしに小説やコミックのお勧めをしてくれて、この「円紫師匠シリーズ」以外にも、加納朋子先生の『ななつのこ』や『魔法飛行』といった「駒子シリーズ」も、M君に教えてもらって読んだ作品だ。これも日常の謎系ミステリーで、とても面白い。
ななつのこ (創元推理文庫)
加納 朋子
東京創元社
1999-08

 で。わたしは編集者時代に、この日常の謎系はかなり多くの作家に、こういうのやろうよとお勧めしまくっていたのだが、結局作品を作ることができなかった。やっぱりネタ出しがすごく難しいので、編集者としては三流だったわたしには実現できなかったのが残念だが、その後、けっこうある日突然『ビブリア古書堂の事件手帖』が生まれた。見本が回ってきたときに読んで、ものすごく悔しかったのを良く覚えている。ちっくしょー! これは面白い!! こういうのやりたかったんだよなー、と作った編集者を大いに見直したものだ。ただ、確実に10万部はいけるとは思ったものの、これがまさか、あっという間に100万部を突破する大ヒットになるとは思ってもいなかった。この大ヒットでMW文庫というレーベルは大きく成長していくことになるが、MW文庫だけでなく、日本出版界のとりわけ書き下ろし文庫業界では、次々と似たような、日常系ミステリー花盛りとなったのである。今、本屋さんに行って文庫売り場に行くと、なんともまあ、カバーイラストがMW文庫のような作品の多いことか。おまけに日常系ミステリーも非常に数多く出版されている。まったくもって、なんともまあ、という状態である。

 そんな中で、先日、今年の冬アニメをチェックしていたところ、なんと、角川文庫の「ハルチカシリーズ」がアニメ化されることを今更知った。あ、マジか、アニメになるんだ、ふーん……とちょっと感慨深く思った。実はこの初野晴先生による「ハルチカシリーズ」は、『ビブリア』よりもぜんぜん前の2008年に出版されていて、文庫化されたのが2010年だったと思うが、日常の謎系小説としてちょっと注目していた作品だった。わたしがチェックした当時は、同じく日常の謎系である米澤穂信先生の「古典部シリーズ」でおなじみの『氷菓』に比べると、全然売れていなかった印象だが、いつのまにか、アニメ化されるまで成長していたことに素直に嬉しく思った。ごめん、全然知らなかったよ……。
 というわけで、この「ハルチカシリーズ」も電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERにて半額で売っていたので、久しぶりに読んでみることにした。実はわたしは、第1作の『退出ゲーム』しか読んでいなかったので(しかも文庫じゃなくて、最初に発売になった当時の単行本で読んだ)、この期にシリーズ第2作『初恋ソムリエ』と第3作『空想オルガン』まで、3作品をとりあえず買ってみた。
退出ゲーム (角川文庫)
初野 晴
角川書店
2010-07-24




 
 物語は、とある高校の弱小吹奏楽部に入部した穂村千夏(チカ)という女の子と、その幼馴染で、美形で頭脳明晰で男が好きな上条春太(ハルタ)という男の子が校内で起こる事件を解決していく話である。構図としては、チカがワトソン君で、ハルタがシャーロックである。 なお、チカはワトソン君なので、事件を解決するのはシャーロックであるハルの手柄で、チカは基本的に常識人としての突っ込み役である。どうでもいいが、この二人は、そろって顧問の日下部先生が大好きで、男・女・男というアブノーマルな三角関係にある。ハルタは、チカにとってはにっくき恋敵なのである。そんな部員の少ない吹奏楽部に、部員をスカウトしたい二人が、校内にいる、吹奏楽の経験者なのに、吹奏楽部に入ってくれない「わけあり」な生徒がいたり、変人の生徒会長や、「ブラックリスト十傑」と呼ばれる変人たちがいて、そのわけを解き明かして吹奏楽部の仲間に加えたり、変人の謎を解いていくのが、この1作目の大きな流れである。
 基本的には短編連作の形をとっており、この『退出ゲーム』は4話構成になっている。
 『結晶泥棒』・・・文化祭賑わう校内。そんな中で、科学部の展示品が消えた。劇薬にもなるその結晶の行方を追うハルとチカの紹介的エピソード。このトリックはそもそもの、とある知識がないとわかりっこない。当然わたしも見抜けなかった。
 『クロスキューブ』・・・オーボエ奏者として腕の立つ女子をスカウトする話。オーボエを辞め、吹奏楽から遠ざかった彼女が突きつけた、吹奏楽部に入る条件をハルとチカが解き明かしていく。
 『退出ゲーム』・・・サックス奏者として腕の立つ、演劇部の幽霊部員である男子をスカウトする話。もう一度サックスを手にとってもらうために、演劇部と対決するハルとチカの即興劇バトル。
 『エレファントブレス』・・・変人生徒会長からの依頼を受けたチカ。ブラックリスト十傑の発明部の兄弟の発明品を買ったのは誰かを探す話。そしてどうやらその「誰か」は、トロンボーン奏者らしく……というこのエピソードは、「音」と「色」の関係性について面白知識が披露されていて、非常に興味深いというか知らなかったことなのでちょっと興奮した。実に面白い。そして、最後はちょっと泣かせてくれる。

 というようなお話で、この『退出ゲーム』はハルとチカが1年生が終わるところまでを描いている。実のところ、この作品はライトノベルと言っていいだろう。わたしのライトノベルの定義はただひとつ。主人公が10代の若者だと言うことだけだ。だから、わたしにとっては、この作品はライトノベルそのものである。
 キャラクターの造形もよく、物語も面白い。登場するキャラクターの変人振りなどはとても漫画っぽさもある。このシリーズが、変にふざけた、薄っぺらなイマドキアニメにならないことを祈りたい。

 というわけで、結論。
 結構面白い。現状、シリーズは5作あるのかな。まあ、順番に読んでみるとします。

 ↓ シリーズ最新作。出たばかりなので、単行本しかない。残念ながら文庫になるまで買えない……かな。
惑星カロン
初野 晴
KADOKAWA/角川書店
2015-09-30

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