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 前作『SPECTRE』の時も書いたが、わたしが『007』シリーズを初めて劇場で観たのは、おそらく「私を愛したスパイ」だと思う。日本公開は1977年だったそうだが、当時の日本のキッズたちが何に夢中だったか、ご存知ですか? その年わたしは小学校低学年だったけれど、わたしと同年代なら即答できるでしょうし、現在20代とか30代の若造たちは伝説として聞いたことがあるかも程度だと思うけど、当時、我々キッズたちは「スーパーカー」なるものに夢中だったのである。フェラーリやランボルギーニ、ロータスやマセラッティなど、いわゆるスーパーカーが、日本で大ブームだったのだ。
 そして、『007』といえば、主人公ジェームズ・ボンドが駆る、いわゆる「ボンド・カー」が大活躍するわけで、わたしが初めて劇場で観た「私を愛したスパイ」においては、なんとロータス・エスプリが潜水艦に変形して見せ場を作るんだな。もう、当時のわたしは大興奮ですよ。わたしはこのエスプリの変型ギミックの付いた1/24のプラモも作ったし、映画も親父にせがんで有楽町へ観に行ったのであった。
 そしてあれから40年以上の歳月が過ぎ、わたしも当時の親父の年齢をとっくに超えてしまい、初老の男として、日々、髪が薄くなってゆくことに心痛める毎日を送っているわけである。
 というわけで。
 その『007』シリーズ最新作が、COVID-19によって何度も公開延期となってしまった不幸を乗り越え、やっと公開になったので、さっそく観てまいりました。というわけで、以下ネタバレに触れることもあると思うので、まだ観てない人は、まずは劇場で観てきてからにしてください。さようなら。

 はい。ではよろしいでしょうか。
 まあ、予告からも分かる通り、6代目ジェームズ・ボンドこと、Daniel Craig氏のカッコ良さは、これはもう男女問わず誰しもが認めることだろうと思う。男から見たって、圧倒的にカッコいいですな。なんつうか、やっぱりボンドはスーツ姿がいいっすねえ! わたしは以前、この6代目ボンドが愛用しているTOM FORDのスーツを買おうとマジで考えたことがあって、NYCマンハッタンの店の前、まで行ったんだけど、ちょっと無理でしたね。。。値段もそうだし、店のオーラ的なものに、恥ずかしながら尻尾を巻いて退散したっす。情けなし。。。
 で、このDaniel氏が演じる「6代目ボンド」作品には、それまでなかった、画期的?というか、超重要なポイントが一つある。それは、それまでの第1作目から第20作目までの物語にはほぼなかったもので、Daniel氏による6代目が初登場した第21作目『Casino Royale』から、本作である第25作目『No Time To Die』までの5作品は、「連続したお話」であるという点だ。それまでは、ほぼ単発のお話であったのに反して、6代目ボンドの5作品は話がつながっているのである。明確に続編、と言っていいと思う。
 この点は、おそらくメリットとデメリットがあって、メリットとしては6代目ボンドの成長譚という側面を持ち、初めて「00(ダブルオー)」エージェントとなった初任務からその最後に至るまでの一貫した物語となることは、作品自体に非常に深みを持たせることに成功しているとわたしは思う。
 一方でデメリットとしては、「一見さんお断り」になってしまい、全作観ていないと意味が分からない、という点は、興行においては明確なハンデになり得ると思う。
 まあ、わたしのような映画オタは、普通に全部観ているので問題ないけれど、ライト層の取り込みには若干のハードルとなってしまうだろう。とはいえ、そんなライトな連中はまったくどうでもいいし、そもそも話のつながりとかまるで気にしないで観る奇妙な人々だろうから、放置していいとも思うけどね。
 というわけで、本作は明確に、「6代目ボンド」最後のミッションを描く作品なわけで、Daniel氏自身も、また宣伝プロモーション活動においても、「本作が最後」と最初から言っていたので、はっきり言ってわたしは観る前から、結末は見えていた。
 そう。Danielボンドは最後に殉職するんだろうな、という結末である。
 だから別に、わたしはラストに驚かなかったし、とりわけ感動もしなかった。そもそも「007」というのはコードネームで、次々に移りゆくものだし。仮にDanileボンドが殉職しても、次の007が任命されるだけ、だ。事実、本作では、新たに次の007は登場してくるし、エンドクレジットの一番最後は、堂々と「JAMES BOND WILL RETURN」とまるでマーベル映画のように宣言されるので、まあ、そういうことでありました。
 で、問題は、これまでの4作で語られてきた物語が、今回どのようなエンディングを迎えるのか、が一番重要なんだと思うけれど、その内容としては、正直微妙だったように感じている。
 それは、今回の悪役である「サフィン」なるキャラが微妙に意味不明だからだ。サフィンは、幼少期にスペクターによって両親を殺されたことで、スペクターに対して復讐をしたいと思っている。ついでに、スペクターの大幹部「ミスター・ホワイト」の娘だったマドレーヌ、幼いながらも果敢に自分に立ち向かって来たマドレーヌに強い執着心をもって、それはもう愛に近いぐらいの感情を持っていたこと、これらはもう非常によくわかったのだが……結局コイツの物語がよくわからないんだよな……結局コイツは何がしたかったんだろうか。単に、スペクターに代わって世界征服をもくろんでいたってことなのかなあ? 浅い……浅すぎる……つうか、とってつけた感というか、ぽっと出すぎて、コイツの物語を十分描けてなかったようにわたしは感じている。これは、ひょっとすると「話がつながっている」ことの副作用で、ボンドやマドレーヌの物語が深くじっくり語られてきた一方で、サフィンが本作にしか登場していないことによるものじゃあなかろうか。だって、サフィンが今までの4作に登場してこなかったのも若干おかしいよな。。。特に前作では、登場してきてもおかしくなかったのに。
 ま、それでも、ボンドとマドレーヌの関係は非常にエモーショナルで、またボンドとMやQやマネーペニー、さらにはCIAのフェリックスなどのお馴染みのキャラとの関係性はとても見事に描けていたと思うので、わたしとしては十分以上面白かったという判定を下したいと存じます。とにかくカッコイイよ。本当に。
 というわけで、以下、各キャラと演じた役者陣をまとめて終わりにします。
 ◆ジェームズ・ボンド:確か元々海軍中佐じゃなかったかな? それゆえ、Commander Bond と呼ばれるのが正しい呼び方。英国秘密情報部MI-6所属のエージェントで、「殺しのライセンス」を女王から与えられている「00」ダブルオーエージェントの7番目。ゆえに「007」。シリーズで登場してきた、他の00エージェントでわたしが一番覚えているのは、第17作目の『GOLDEN EYE』に登場した「006」かなあ。まあ、元「006」で悪役だったけれど、006を演じたSean Bean兄貴が凄いカッコ良かったすね。
 で、演じたDaniel Cyaig氏のカッコ良さはもう散々書いたからいいとして、Daniel氏演じる007=ボンドの最大の特徴は、血まみれ&埃まみれ&服ボロボロになりながらも、戦いまくることにあると思う。それまでの歴代ボンドは、極めてスマートで、血を流すことも少なかったしDanielボンドのように格闘戦も少なかった印象で、主に頭脳戦で、そのフィジカルの強さが分かりにくかったような気がするけれど、まあとにかくDanielボンドはよく戦いますよ。もうその雰囲気からして強そうだもの。そしてもう一つの特徴は、Danielボンドは女性に一途というか、ちゃんと特定の女性に対する愛を明確に示すことにもあるように思う。登場第1作の『Casino Royale』で出会ったヴェスパーは、本当にイイ女でしたなあ。。。あのエンディングは結構ショッキングだったし、ボンドがあれほどメロメロになるシーンも珍しかったと思う。そしてその後出会ったマドレーヌに対しても、本作のオープニングでいちゃついているシーンは、観ていて、なんか幸福感を感じたっすね。それまでの歴代ボンドは、比較的女性にはあっさり目であったような気がするので、この、女性への愛も、Danielボンドを語るうえで重要なポイントだと思うっす。
 まあ、とにかく、Danielボンドは最強にカッコ良くて、最強に強かったのは間違いないと思うし、今後現れる次の「007=JAMES BOND」がどんなキャラになるのか、楽しみですな! ちなみに、なんとDaniel氏はわたしと同い年(ただし早生まれらしいので学年はわたしの1コ上)だそうで、わたしの最近の髪型は、年々髪が薄くなりつつある男としてDaniel氏をモデルにして短髪にしております。たぶん見かけだけなら、オレの方が若いと思うな笑。
 ◆マドレーヌ:前作から登場した、犯罪組織スペクターの大幹部Mr.ホワイトの娘。微妙な顔だけど妙にエロい。まあ、はっきり言って私の好みは圧倒的にヴェスパーなので、ボンドがどうしてまたマドレーヌにぞっこんになったかよくわかりません。物語的には、少女時代に今回の悪役サフィンに殺されそうになるも、果敢に反撃し、逃げるが氷の張った湖に落っこちたところで、逆にサフィンに命を救われると。で、そのことが微妙なよくわからんトラウマになってると。まあ、なんつうか……大した話じゃあないな、と思いました。そして、冒頭のアクションが終わって、ボンドに疑われて駅に置き去りにされるシーンで、あ、なるほど、妊娠してるんだな、ということははっきりわかったすね。あそこはさりげなく実にいい演技でした。まあ、そりゃあんだけイチャイチャしてヤりまくってりゃ、そりゃ妊娠するわな。後半はそのボンドとの間にできた娘とのシーンが多いですが、まったく娘にDaniel氏の面影がなくて、若干アレだったかも。
 演じたのはフランス人のLéa Seydoux嬢36歳。あ、もうそんな年になってたんだ。なるほど。あまり趣味じゃないので以下省略。
 ◆サフィン:今回の悪い人。だけど、散々書いた通りその目的とか野望はよくわかりません。世界征服したいみたいです。ただ、その手段が、実はMが進めていた「ナノマシン」による特定人物の殺害手法で、それを奪っての世界征服?なわけだけど、うーーん……ちょっとSF過ぎるような気もしたっすね。実用化可能とはちょっと思えないす。
 演じたのは、栄光のオスカーウィナー、フレディことRami Marec氏。Bohemian Rhapsodyは本当に見事だったすね。妙に日本趣味なサフィンでしたが、あれもちょっと意味があったのかよくわからないす。フレディの影響か??
 ◆M:MI-6の長であり、ボンドの上司。2作前の『SKY FALL』で先代Mが殉職し、そのラストからRalph Fiennes氏が引き継ぎました。渋いんだよなあ……すごく。いつもボンドに振り回されて、ボンドに腹を立てているけれど、実は一番熱いハートを持つ正義のお方。しかしサフィンに奪われた「ヘラクレス計画」はちょっとありゃアカンすね。。。
 ◆Q:MI-6のメカ担当部署の男。歴代シリーズでは、Qといえばおじいちゃん的キャラでしたが、Danielボンドでは3作目『SKY FALL』で初登場。そして衝撃的に若きイケメンQに代替わりしました。いつもボンドのせいで困ってる苦労人ですが、現場に(超イヤイヤ)赴くのも、歴代シリーズではなかったことっすね。本作ではどうやら「彼氏」がいるようで、演じたBen Whishow君もリアルLGBTなので、まあそういうことだと思います。全然アリな設定かと存じます。
 ◆マネーペニー:Danielボンドシリーズで、最初はエージェントだったけど、『SKY FALL』のラストで新任Mの秘書に配置換え。なので、実は結構強いし頼りになる女性。ボンドファミリーの重要なひとりっすね。演じたのはDanielボンドシリーズを通じてNaomie Harris嬢45歳。え、45歳? 見えねえなあ……すごい美人だと思います。
 ◆ノーミ:Danielボンドが冒頭アクション後引退して5年経つ間に、「新任007」として00の称号を得た女性。はっきり言って登場する意味はほぼなかったと思う。演じたのは、キャプテン・マーベルの親友マリア・ランボーでお馴染みLashana Lynch嬢33歳。ほぼ無意味なキャラなので書くことなし。
 ◆フィリックス・ライター:CIAエージェントでボンドと仲良しの男。過去のシリーズでもいろいろな役者が演じてきたけど、DanielボンドシリーズではずっとJeffrey Wright氏が続投。憎めないイイ奴だったのに……残念す。。。
 ◆パロマ:フィリックスがボンドの助っ人として用意したCIAエージェント。なんでも研修が終わって初めての任務だそうで、超緊張している……けど、酒をガバガバ飲んで肚をくくる、豪快かつとんでもなくかわいい女性。ボンドにも気に入られるほどの腕前で、出番がちょっとしかなかったのが超残念! ノーミはいらないからパロマをもっと活躍させてほしかった!!! 演じたのは、AIシステムJOIちゃんでお馴染みAnna de Armas嬢33歳。とにかく可愛い。アクションも素晴らしかったすね! Kianu兄貴がひどい目に遭う『Knock Knock』ではとんでもないクソビッチだったけど、今回は本当に最強にかわいかったです。
 ◆ブロフェルド:前作でボンドに敗北し、収監されているスペクターの元首領。なんか、今回の扱いはレクター博士みたいだったすね。演じたのは前作に引き続きChristoph Waltz氏が続投。今回、結構あっさり逝っちまいましたね。

 というわけで、もう長いのでぶった切りで結論。

 公開が伸びに伸びて、やっと劇場で観ることが出来た『007NO TIME TO DIE』ですが、お話的に、それなりにツッコミどころはあるし、絶賛するつもりはない、けれど、やっぱり、Daniel Craig氏の演じる「007」とういキャラクターは、とにかくカッコ良くて、その点ではもう大満足です。また、Danielボンドシリーズをまとめて観たくなりますな。わたし的には、Danielボンドシリーズ第1作の『Casino Royale』が一番好きかも。あの全裸拷問シーンはヤバかったよなあ。。。男ならもう、観てるだけで痛かったすね、あれは。本作は、なんだか、そんな思い出がいろいろと脳裏をよぎる、大団円だったと思います。まあ、いずれにせよ、ジェームズ・ボンドというキャラクターは見事ですよ。今後の新シリーズにも、心からの期待を込めて、楽しみに待ちたいと思います。できればパロマをフィリックスの代わりにレギュラーキャラにしてほしい!! よろしくお願いいたします!!! 以上。

↓ 何度も言いますが、最初から全部観ていないとダメです。まずはこれを観ましょう!
カジノ・ロワイヤル (字幕版)
ジュディ・デンチ
2014-02-26

 さっきちょっと調べたところ、わたしがWOWOWに加入して観始めたのは、どうやらまだ学生だった1991年のことのようだ。映画オタクのわたしにとって、WOWOWは大変ありがたい存在と言うか、実に重宝していて、デジタルになって3ch体制になってからは飛躍的に番組数も増え、ほぼ毎日楽しんでいる。が、実はWOWOWの、わたしにとっての真価は映画ではなく、LIVEイベントの中継にある。要するに、WOWOWでしか見られない番組が結構多いのだ。これは、デジタル化以前のアナログ時代においてもそうだったのだが、スポーツのビックイベントや、音楽・演劇系の中継も、例えばテニスの4大トーナメントや、アカデミー賞授賞式なども、そういったWOWOWならではのオリジナルコンテンツとして、わたしは楽しんでいる。
 で、わたしがアナログ時代からかなり好きで、ずっと観ているのが、 ボクシングの「Excite Match」という番組で、他では見られない中~重量級のタイトルマッチなどは、ほぼすべてこの番組で放送されている。90年代のMike Tyson王座時代の試合は、たぶんわたしは全部観たんじゃなかろうか。しかも生放送である。有名な、Holyfield VS Riddick Bowe戦のパラシュートマン乱入事件や、Holyfield VS Tyson戦の噛み付き事件もわたしは生で観て仰天した思い出がある。フォアマンの復活戦も観たなあ。そんなわたしなので、ボクシング、特にアメリカ、もっといえばラスベガスやNYCのマジソン・スクウェア・ガーデンを中心とするBIG MATCHは大変思い入れがあるわけで、ボクシング映画となると、もうとりあえず問答無用で観たいと思ってしまうのである。
 というわけで、わたしが今日観た映画は、『SOUTHPAW』。日本公開タイトルはそのまま『サウスポー』。なかなかグッと来る映画であった。

 大体の物語は、上記予告の通りである。実は、わたしは最初にこの映画のことを知ったとき、へえ、そんな選手がいたっけ? と、実話なのかと思っていたのだが、これはまったくのフィクションであった。なので、ああ、なんだ、フィクションなんだ。てことはつまり、要するにこれは往年の名作『CHAMP』的なお話かな? と思って劇場へ向かったのだが、結論から言うと、まあ、似ているようで似ていないお話であった。そしてこれも、最初に言ってしまうけれど、かなり、テンプレ通りの展開で、脚本的にははっきり言って普通の出来であると思う。それほど深い感動的な作品、とはちょっと違うような気がする。
 物語上の問題点として、わたしが最も、これはちょっと……と文句をつけたいのは、ありがちなテンプレ進行についてではなく、タイトルの『SOUTHPAW』に関わる部分だ。正直、この映画が『SOUTHPAW』というタイトルである意味は、物語的にはほぼないと言っていいのではなかろうか? ラストの逆転必殺技が、かなり物語的にとってつけた感があって、わたしは大変残念に思った。もっと面白く出来たと思うのだが……冒頭、主人公のファイトシーンから始まるこの映画、わたしはてっきり主人公は左利き(=サウスポー)ボクサーで、左のストレートをフィニッシュブローとするファイターなのかと思っていたが、思いっきり右利き、いわゆるオーソドックススタイルで、ガードをほとんどしない選手だということが分かる。その時点でわたしは、アレッ!? サウスポーじゃないじゃん!? と思ったのだが、物語が進展しても、まったくサウスポースタイルの話にならない。中盤の再起を賭けたトレーニングで、チラッとだけ出てくるだけだし、ラストの試合も、最後の最後だけ、サウスポースタイルにスイッチして大逆転、という展開である。なんというか……若干ぽかーーん、としてしまった。
 わたしが脚本家だったら、右の拳に怪我をさせて、もはや以前のスタイルでは闘えない、再び勝つためにはサウスポースタイルをとらざるを得ない、という展開にしたと思うな。いわゆるアレだ、「巨人の星」において左腕を破滅させた星飛雄馬が、右投げ選手として復活する「新巨人の星」ですよ。まあ、わたしのそんなアホな妄想はどうでもいいとしても、作中において、「サウスポー」で闘うことの意義をもっと重くしてもらいたかったと思うのだが、復帰に当たって主人公が強化するのは、ディフェンスである。要するにガード、ですな。しかし、世界チャンプ(しかもWBC,WBA、IBFの統一チャンプという設定だった)まで到達した男が、いまさらショルダーガードを身に着けて、以前とは見違えるように闘う、というのは如何にも地味すぎるし、ボクシング好きとしては、若干、ううむ……と醒めてしまった。ここはやっぱり、右のナックルが、それまですべての試合で相手を叩きのめした右の拳が、以前の破壊力を失ってしまったという、何らかの出来事を入れ込んで、それ故にサウスポーとして再びリングに立つ、みたいな展開にしてほしかったのだが……。わたしとしては、タイトルと物語がイマイチ合っていないような気がしたのが大変残念だと思う。
 しかし、である。テンプレ通りのストーリー進行であり、「サウスポー」という戦闘スタイルがあまり物語に生かされていないという脚本上の問題点があるとはいえ、やはりわたしは、この映画を観てかなりグッと来た。それは、恐らく物語、脚本というよりも、役者の渾身の芝居から来るものだろう、と思う。
 主人公はちょっと後で語るとして、とりわけイイのが、主人公の娘のちびっ子だ。眼鏡っ子のかわいらしい子役が演じる娘がですね、ひじょーーーにいいのです。彼女の演技に敬意を表して、わたしはこの映画はアリ、だと判定したい。演じたのはOona Laurenceという2002年生まれの子だが、大変達者で素晴らしい演技だったと思う。どうやら彼女は、Broadwayミュージカル出身で、なんと2013年に『Matilda』という作品でタイトルロールを演じ、TONY賞の栄誉賞(?)を獲得している実力派らしい。その時11歳ってことだよな。これは凄いというか、たいしたものだ。ちょっと、彼女の名前は覚えておきたいですな。今後の活躍を期待します。
 で、主人公のボクサーを演じたのが、わたしの結構好きな俳優Jake Gyllenhaal氏である。彼は若い頃からいろいろな映画に出ていて、演技派でもあるし、アクション大作にも出ることがあるし、わたしとしては、彼を鑑賞するならやはり、リアルBL映画としてお馴染みの『Brokeback Mountain』と、ディザースタームービーでも有名な『The Day after Tomorrow』をおススメしたい。両方とも10年以上前の作品だし、内容も全然違うけれど、Jakeのカッコ良さは堪能できると思います。最近では今回の映画でも話題になった通り、出演する作品に応じた肉体改造が激しくて、カメレオン役者的な評価をされている。今回も、きっちりボクサーの体になっていて、肝心のボクシングシーンは凄い迫力だし、やっぱり、娘との交流だったり、再起を賭けて依頼するコーチとのやり取りなどは大変見ごたえアリの素晴らしい芝居だったと思う。大変良かった。
 あと二人、この映画で観るべき俳優がいるので紹介しておこう。まずは、主人公の奥さんを演じたRachel McAdams嬢。今年のアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた『Spotlight』で注目された彼女だが、キャリア的にはそれなりに出演作が多く、わたしが一番彼女で覚えているのは、やっぱり『Sherlock Holmes』でのアイリーン・アドラー役だろうか。ちょっと癖のある顔立ちだけど、まっとうな美人さんですね。今回も、主人公の美人妻としてかなり印象に強く残る芝居振りであった。そしてもう一人、 主人公の再起を支えるコーチを演じているのが、もはやベテランのForest Whitaker氏だ。わたしはこの人の作品、かなりたくさん観てるんだよな……Wikiによるとデビュー作は、80年代のわたし的名作の『First Times at Ridgemond High(邦題:初体験リッジモンドハイ)』だし、わたしがこの人で一番印象に残っているのが、かの名作『Platoon』だ。主人公のクリス(演じたのはCharlie Sheen)と同じPlatoonに配属された、ちょっと気のいい黒人兵役で、わたしはとても良く覚えている。あの時から、ホントにこの人は鶴瓶師匠に似てんなーと思っていたが、 2006年の『The Last King of Scotland』で黒人俳優4人目のオスカーウィナーになったわけで、演技も大変渋くて、今回も大変存在感のある芝居振りだったと思う。そういやこの人は、年末公開の『ROUGE ONE : A STAR WARS STORY』にも出ているんだっけ。今からとても楽しみだ。
 最後、監督について備忘録をまとめておこう。本作の監督は、Antoine Fuqua氏。『Training Day』でDenzel Washington氏にオスカーをもたらせた職人肌の監督ですな。この作品含めて10本の作品を発表しているようだが、wikiを見たところ、わたしは7本観てるらしい。あんまり意識してないのだが、どうも結構わたし好みの作品が多いみたいですな。現在は、『七人の侍』のハリウッドリメイク『荒野の七人』を、さらにリメイクした作品『The Magnificent Seven』が公開スタンバイ中らしいすね。Denzel Washingtonがリーダー、Chris Plattが三船敏郎的キャラみたいっすな。

  US公開は9月らしいけれど、果たして日本で公開されるのか……若干心配だが、まあ楽しみに待っていよう。

 というわけで、結論。
 『SOUTHPAW』という映画は、正直、脚本的には良くあるパターンだし、肝心の「サウスポースタイル」でのボクシングシーンがないのがちょっと残念だけれど、役者陣の熱演は非常に素晴らしく、少なくとも、わたしは劇場で観てよかったと思います。なかなかグッと来ました。どうなんだろう、ボクシングに興味のない人は全然問題なく感動できるのかな。そこんところは、ちょっとわからんす。以上。

↓ わたし、全巻持ってます。おっと、最新刊は今月発売か。いつも買うの忘れちゃうんだよな……。

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