去年2016年の暮れに公開され、30数スクリーンからのスタートというごく小規模公開だったにもかかわらず(最終的には50スクリーンぐらい拡大された)、それなりに売れて、評判も上々だった映画がある。わたしも気になっていたものの、タイミングとシネコン場所が合わず、結局見逃してしまった作品なのだが、先日、もうWOWOWでの放送があったので、やった、と喜んで録画し、さっそく観てみた。
 その作品のタイトルは『DON'T BREATHE』。そのタイトルの意味は「息をするな」というもので、ごく簡単に言うと、盲目の元軍人の家に泥棒に入ったガキが、痛い目に合う物語である。相手は盲目ということで、息を殺してこっそり、ってことだろうとわたしは思っていたし、まあ実際そういうお話だったのだが、結論から言うと、ガキどもにも、そして元軍人にもまったく共感できず、正直不快な思いのする作品であった。どうしてそんなに評判が良かったんだろう? と素朴に疑問である。というわけで、公開されてもう9か月弱経っているので、超今さらなのだが、以下、ネタバレ全開になる可能性が高いので、気になる方は読まないで立ち去ってください。

 わたしが初めて見た予告は、US版の字幕なしでもうチョイ尺があったと思うが、その予告を見た時は、まず第一に、盲目の元軍人を演じているのが、『Avatar』で超強力な大佐を演じて強烈な印象を残したあのStephen Lang氏だったので、あれまあ、ずいぶん年取ったというか、そういう年齢のお方なんだろうか? と若干どうでもいいことを感じた。今調べたらまだ65歳だって。うーん、まあ、年相応、なのかな。で、肝心の物語としては、きっとクソガキが痛い目に遭って、大佐が大勝利して終わるんだろう、とかなり平和?なストーリーを想像していた。そもそも、US版予告を見た時は、盲目のおじいちゃんとはわかっても、元軍人とは全く気が付いてなかったし。
 なので、問題となるのは、その泥棒に入るガキどもはどんな奴らなのか、そして目的は現金らしいけれど、なんでまたそんな現金が家にあったんだろう? という点にあるのではないかとわたしは想像していたのである。
 しかし、実際に観てみたところ―――そんな予想をまったく覆す凄い展開が待っていたのであった。以下、各キャラ紹介をしながら、物語の顛末をまとめてみよう。なお、役名はちゃんとあるけれど、ほとんど記憶に残らないので、役名は割愛します。ある意味どうでもいいので。
 ◆ガキA_真面目風少年:そもそも、泥棒に押し入ったガキどもが高校生なんだか大学生なんだかわたしにはちょっと良くわからなかったが、学校に行っている描写はあったので、まあ学生さんなんだろう。そしてこのガキAは、父親がセキュリティ会社を経営(?)しているらしく、金に困ってる様子はない。が、父親の会社のシステムを導入している家に、父親の部屋からかっぱらってきた鍵で侵入し、悪さを働いている。この時点でわたしとしては、ガキAへの同情は1mmもなく、さっさと痛い目にあうがいい、と思っていた。なお、このガキAは、若干の道徳心はある、けど、次に紹介するガキB_綺麗目女子の関心を得たいがために、悪さに付き合ってるという設定のようだった。アホなガキだ……。なお、演じたのはDylan Minnette君20歳。どうやら『Let Me In』に出ていたらしい(主役のあの少年ではない)が、顔に覚えはないなあ……。
 ◆ガキB_綺麗目女子:大変顔立ちは綺麗でかなりのちびっ子女子。演じたのはJane Levy嬢27歳。あれっ!? 一番年上じゃん。まあいいや。この女子は、残念ながらいわゆるPoor Whiteな典型的家庭崩壊の中にいて、母親はどうもクソビッチであり、娘に金をせびったり、金がないなら体を売ってこい的な言動までするクズである。おまけに母親が現在付き合っているチンピラからは色目で見られている(?)、ような、実際気の毒な境遇にある。それゆえ、幼い妹とともにこの状況から逃げ出したいと思っている。なお、舞台はDetroitで、残念ながらDetroitは全米ナンバーワン犯罪都市としてお馴染みであり(ナンバーワンは言い過ぎか?)、彼女としては西海岸へ妹とともに移住することを夢見ている。故に、金が欲しい、という設定だ。しかし、わたしとしてはそういう気の毒な身の上には同情するけれど、どんどんとエスカレートする犯罪者ぶりにはまったく共感できなかった。ズバリ悪党であると断罪せざるを得ない。どうやら、やっぱりDetroitにはROBOCOPが必要ですな。
 ◆ガキC_チンピラ小僧:いかにもな、ラティーノなチンピラ小僧で、コイツが盗品を故買屋に持って行って換金するが、今の時代、盗品なんてすぐに足がつくわけで、故買屋からは買いたたかれ、もう現金をかっぱらうしかねえな、と思っていた。彼は単に金が欲しいだけのクズ。そして綺麗目女子をオレの女だ、と思っている。わたしとしては、確実にコイツはあの世に行くな、と登場時から確信していたような、ホント、典型的なクズのチンピラで同情の余地なし。銃を持っている。そして予告にあるように、最初に元軍人にごくあっさり銃を奪われ死亡。演じたのはDaniel Zovatto君26歳。Zovatto君自身はコスタリカ出身だそうです。あっ!この顔、どっかで観たことあると思ったら『It Follows』のグレッグじゃないか! しかも『It Follows』を見た時に書いたこのBlogの記事で、この役者は『DON'T BREATHE』にも出てるみたいですな、とか書いてるし! アホだ、すっかり忘れてたわ。
 とまあ、わたしのアホさ加減はどうでもいいとして、こんな3人のガキが、元軍人の家に泥棒に入るわけだが、その理由は、
 1)元軍人は、娘を交通事故で失い、その加害者が金持ちだったので慰謝料(示談金?)で30万ドルは貰ったらしいぞ。
 2)元軍人は盲目らしいので、こっそり忍び寄って、薬をかがせて眠らせれば楽勝じゃん。
 というものらしい。なんで現金を家に持っているとガキどもは思ったのか、何か理由があったように思うけど、サーセン、忘れました。
 で。ここまでは、おおむね予想通りというか、想像の枠を超えないものであろう。
 が、問題は元軍人のおじいちゃんであった。
 ◆盲目の元軍人:演じたのは、前述の通りStephen Lang氏。眼をやられたのはイラクで手榴弾?の破片にやられたため。体は屈強。実際コワイ! 娘を事故で亡くした。
 とまあ、ここまでは、それほど特異でもないし、そんなおっかない元軍人さんが、その持てる軍事スキルをフル動員して、泥棒のガキどもをぶっ飛ばすのかとわたしは考えていた。しかし、よく考えれば気が付くことだが、それだけじゃあ、2時間の映画にならんすわな。実際のところ、本作は88分と非常に上映時間は短い作品なのだが、それでも、ガキどもが忍び込むまでに30分かけたとしても、その後、元軍人に遭遇して、バトルだけでは、20~30分あたりが限界だろう。あと30分、尺が余ってしまう。ここで、元軍人が地下室でとんでもないことをしていたという秘密の暴露が行われるのだが―――それはもう書かないでおく。正直相当キモイというか、わたしはもう、な、なんだってーーー!? と相当驚いた。そしてその内容が極めてキモチ悪いために、わたしの元軍人のおじいちゃんへの共感は吹っ飛び(それまでは、ガキをぶっ殺す姿に応援さえしていたわたしなのに)、こりゃあもう、全員死亡エンドしかねえ! とさえ思うに至った。
 しかし、結果を言うと、まずガキCのチンピラは、最初にごく簡単に殺られるし、これは当然の報いなので心は痛まない。そして次にガキAが、まあ正直ちょっとかわいそうだけど、さっさとトンズラしたのに帰ってきた勇気は実らず、逝っちまいます。若干気の毒。そしてラストはガキBの女子VS元軍人という展開になるのだが……両者ともにまったく共感できず、わたしとしては相打ちエンドを望んだのだが……この結末も書くのはやめとこう。正直わたしとしては、なーんだ、という終わり方であまりスッキリはしなかった。
 
 というわけで、わたしとしては、キャラクターに共感できない物語は評価が低くなってしまうし、実際、それほど面白かったとは思っていないのは間違いないのだが、その演出テクは実に上等で、これはなかなかのワザマエであると認めるにやぶさかではない。無駄な部分はほとんどなく、88分間テンションを維持する画面作りは才能を感じさせるものがあったと思う。なので、先ほど、いったい監督は何者なんだ? と調べて、これまた一つ驚きの発見をした。監督・脚本はFede Álvarezというウルグアイ人の39歳のお方なのだが、わたしが驚いたのは、本作の次に現在彼が製作中(?)の作品は、なんとなんと、2年前発売になってわたしが大興奮した、あの! 「ミレニアム」シリーズ第4作目『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』(The Girl in the Spioder's Web)じゃあないですか! すげえ、大抜擢ですなあ! まあ、本作もSONY作品で「ミレニアム」もSONY作品だから、きっと本作のクオリティがSONY幹部をして、コ、コイツはなかなかやる男だぞ……と認めせしめたのだろう。へえ~そりゃあ凄いや。まだ正式にキャストなどが発表になっていない、プリプロ中のようだけど、これは楽しみですなあ! つーか、あれっ? そういえばシリーズ第5弾は今年の発売じゃなかったっけ? おっと、USでは9月発売か。つか来週じゃんか。

 これは楽しみだ! Take an Eye for an Eye、目には目を、か。どんな日本語タイトルになるのだろうか。早川書房様、どうか年内の日本語版の発売をよろしくお願いいたします!!! 俺たちの早川さんならやってくれると信じてます!

 というわけで、見事に脱線したのでもう結論。
 去年暮れに公開になり、ちょっとした話題となった映画『DON'T BREATE』がWOWOWで放送になったので、超今さら視てみたのだが、正直、キャラクターがことごとくクズで、わたしはとても共感できず、実際不快なお話であった。が、その演出はなかなかキレがあってお見事で、そういう点では高評価なのはうなづけるけれど、どうも、世間一般のこの映画に対する高評価は、わたしには実際なぞというか良く分からんです。面白い話ではないような……というわけで、あまりお勧めはしないでおきます。怖いというより……わたしはキモチ悪い、と思う感情の方が大きかったす。以上。

↓ わたしは素直に、こういう映画かと思ってました。
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オードリー・ヘップバーン
ワーナー・ホーム・ビデオ
2011-12-21