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 いやーー……バカにして申し訳ありませんでした!!
 昨日、わたしは会社帰り映画を観てきた。それは、本当なら先週末に行こうと思っていたのだが、ちょっとした用事が出来てしまって観に行くことができず、かといって明日からの週末は別の映画も始まるので、なんとしても今日中に観ておきたい、という作品だったのだが、その映画とは……DCコミックヒーロー映画、『AQUAMAN』であります。
 わたしは散々このBlogでも書いている通り、MARVELヒーロー映画は大好きだけれど、どうもDCヒーローはBATMANとWONDERWOMANしか好きになれずにいた。まあ、そのために、公開してすぐ観に行かなくてもいいか、とか思っていたのも事実である。さらに言うと、おととしの『JUSTICE LEAGUE』もかなり微妙な作品で、いよいよ公開される『AQUAMAN』に関しても、正直、まったく、1mmも期待していなかったのだ。どうせまた、相当アレなんでしょ……と小馬鹿にしていたわたしの方こそのバカだった!! はっきり言ってわたしは今日観た『AQUAMAN』が超面白くて、思いっきり楽しめたのであります。いやあ、これはイイっすねえ!
 というわけで、以下、ネタバレに思いっきり触れると思いますので、まだ観ていない方は今すぐ退場して、映画館へGO!でお願いします。ま、別に話を知ってても楽しめると思うけど。

 どうですか、この予告は。もう、全く見たいという気持ちを起こさせないというか、クソつまらなそうに思えませんか。少なくともわたしは、この予告を観た時、こりゃあまた香ばしいクソ映画っぽいな、と感じたのは確かだ。つうか、ガキ臭せえマンガじゃねえか、と。
 そして観てきた今でも、その印象はほとんど変わっていない。ズバリ、もう漫画そのもの、な映画であったと思う。
 しかし、だ。そもそも、DCコミック=漫画なんだから、実際あったりまえなのである。そして、わたしが本作を気に入った最大の理由はまさにそこにあって、「漫画に徹底している」のがとても気持ちイイのだ。『MAN OF STEEL』に始まった、DCワールドに関しては、今までもう何回もこのBlogでその勘違いした「リアル」路線を批判してきた。しかしこの映画『AQUAMAN』は、見事に今までの弱点を克服している作品だとわたしは思う。以下に、わたしがポイントだと思う点を列挙してみよう。
 1)ある意味テンプレな物語。だが、それがイイ!
 まずは物語である。ズバリ物語は、ある意味テンプレ的なお約束の展開で、ほぼ意外に思うことなんてなく、想像通りに進む、よくあるお話と断じてもいいのではないかと思う。だがこの映画は、例えるならば、全くの直球ど真ん中、そして「超剛速球」なのだ。
 その真っ直ぐでストレートなお話は、ここまで剛速球だと、もうそれは「テンプレ」とネガティブに思うよりも、「王道」とポジティブに評するしかないと思う。上映時間は140分超と意外と長いのだが、わき目も振らずに一直線に進む物語は、観ている観客にとっては全くストレスなく楽しめるし、その長さを一切感じさせないのも高く評価できるポイントだろうと思う。
 簡単に物語をまとめてみよう。時は1985年から始まる。とある灯台守の男が、嵐の夜、岩場に一人の美女が倒れているのを発見し、介抱する。そしてその美女は目を覚ますと、海底アトランティスの王女だという。親に決められた結婚を拒否して逃げてきたらしい。かくして出会った二人は恋に落ち、愛らしい男の子が生まれる。しかし男の子がすくすくと育つ中、海底から追手が現れ、「わたしがいては、あなたたちに危害が加えられてしまう。あなたたちのために、わたしは海に帰るわ」と、結局海に帰ってしまう王女。そして時は現代に移り、地上に残された息子はすっかり成長、ゴッツイおっさんとなって悪党退治にいそしむAQUAMANとして暮らしていたが、そこに海底から一人の美女が現れ、「あなたが海に戻って王位についてくれないと、あなたの弟が地上に戦争を仕掛けてくるわ。ついでに言うと、わたしはあなたの弟と結婚させられそうで困ってるんだけど」という話を聞き、ええ~オレは王の器じゃねーし……とか言いながら、いざ母の故郷の海底へ。そして海底のしきたりや、弟のことをよくを知らないAQUAMANは、王位継承の決闘に挑むことになるも、初戦は敗退、美女と共に「世界のどこかにある三叉の槍=トライデント」という最強武器を求めて旅に出るのであった……てなお話です。サーセン。超はしょりました。
 もう、いろいろ突っ込みたくなるのだが、これがなかなかどうして、ここまで剛速球のストレートだと、細かいことはどうでもよくなってきてしまうというか、面白く思えてしまうのだから不思議ですよ。わたしが一番謎に思ったのは、登場するキャラ達はものすごい勢いで水中を移動するのだけれど、ありゃ一体、どういう……仕組みというか理屈なんだろうか? いや、水を掻いている気配はないし、何かを噴出してジェット的に進んでいるわけでもない。物理法則は完全無視で、強いて言うなら、空を飛んでいるSUPERMAN的に「泳いでいる」としか見えないのだが……ええ、もちろんそんなことに一切の説明はありません。でもですね、どーでもよくなっちゃうんだな、そんなこたあ。
 そして物語は、当然伝説の武器を手にして勝利、無事に王座についてめでたしめでたし、である。こう書いてみると、オレは一体何が楽しかったのかさっぱり伝わらないと思うが、事実、面白かったとしか言いようがないのであります。
 2)とにかく映像がスゴイ!
 恐らく、ド直球の物語を、すげえ!と思わせるのに一番貢献しているのは、その映像そのものなのではないかと思う。恐らく水中シーンは、もうキャラクターを含めてほぼフルCGなのではないかと思う。それはそれで凄いのだが、一番すごいのは、カメラワークだ。とにかく動く! そして切れ目なし! 一体全体どうやって撮影したのか、どこからどこまでがCGなんだかさっぱり分からない映像のクオリティは、これはもう超一流だと言わざるを得ないだろう。この映像のすごさが、単なる直球ど真ん中の物語を「剛速球」に仕立て上げているとわたしは感じた。これはバットに当たっても、バットをへし折る勢いですよ。
 また、映像的な凄さは、まさしく漫画的表現にも通じるものがあって、漫画で言うなら「見開きでズドーーンと描かれる決めカット」もふんだんに盛り込まれており、観客の興奮を掻き立てることに見事に成功しているように感じられた。そう、極めて漫画に近い映像作りにも非常にセンスを感じさせるものがあったと思う。そういった画の作りこそ、演出というものだ。
 近年、コミック作品の映像化が当たり前となった日本の映画界(およびTV界)では、どこか勘違いしたような、漫画の絵をそのまま実写にしたような画をよく見かけるけれど、あんなのは演出なんかではなく、単に漫画の画をコピーしただけのものだ。本作はそんな下品なコピーなんかとは一線を画す、見事な作品と断言してもいいだろう。
 本作を撮ったのはJames Wan監督だが、わたしは彼の名を一躍有名にした『SAW』に関しては名作だと思っていたけれど、それ以降はとりわけ気にしてはいなかった。が、どうやらやはり彼は本物ですね。見事な演出だったとわたしとしては最大限の賛美をおくりたいと思う。
 3)何気に豪華なキャストが、超王道の剛速球を支えている。
 というわけで、各キャラとキャストを紹介しよう。ポイントになるキャラを演じる有名俳優がとても効いてると思う。
 ◆AQUAMAN=アーサー・カリー:主人公AQUAMANに関しては、わたしは実のところコミック版『AQUAMAN』を読んだことがないので知らなかったことが結構あって、意外と驚いた。わたしは『JUSTICE LEAGUE』でのAQUAMANしか知らなかったのだが、あの作品でのAQUAMANは、まあズバリたいして強くないくせに偉そうなキャラだったのだが、本作で語られたことによれば、深海の超高圧・極低温にも耐えられる体だそうで(ちなみにそのような体に「進化」したんだそうだ)、結果として、銃火器や刃物は一切効かないため、ま、普通の人間ではまず勝ち目ナシ、である。そして海に入ればほぼ無敵であるため、これは戦い方によってはチート宇宙人のSUPERMANにも勝てるのではないかというポテンシャルを持つ男である。そして海洋生物と意思疎通ができる謎能力の持ち主で、そのことが今回、ちょっとしたカギに(わたしは海底人なら誰でも持てる能力だと思ってたのだが、どうやら「王」の資質を持つ者の固有能力らしい)。ただ……残念ながら弱点は、あまり頭が良くないことかな……しかし、そのせいなのか、キャラとしては極めて素直で奢ることもあまりなく、ちゃんとそれなりに努力もするし、とても好感の持てる男であった。ごめんよ……『JUSTICE LEAGUE』しか知らなかったわたしは、君のことをただの脳筋かと思ってたよ……意外と素直でイイ奴だったんだね……。演じたのはもちろんJason Momoa氏39歳。そのあまりにワイルド&マッチョの風貌は、まさしくバーバリアンだけれど、コイツ、意外と人懐っこい笑顔がイイすね。なんつうか、わんこ的な陽キャラすね。今さらですが、結構気に入ったす。
 ◆メラ:アーサーを迎えに来た美女で、海底国ゼベルの王の娘。わたしはこれも知らなかったのだが、海底には7つの国があって、それぞれ王がいて、4つ以上の国の王が承認しないと、団体での軍事行動はできないというルールがあるんですな。へえ~、よく出来てんな、とわたしは感心したっすね。演じたのは『JUSTICE LEAGUE』にもちらっとだけ登場したAmber Heard嬢32歳。この人はいろいろ私生活が取りざたされたお騒がせ女優的なイメージがあるけれど、まあやっぱり、可愛いし美人ですよ。大変結構かと思います。 もちろん、アーサーとFalling Loveな展開ですが、そりゃ惚れるでしょうよ。しょうがないす。
 ◆バルコ:アトランティス帝国の参謀であり、アーサーが子供のころから、折に触れて地上へやってきては、格闘術をアーサーに叩き込んだ師匠でもある。子供相手の特訓シーンなんかも、ホントにお約束というか、鉄板でしょうな。演じたのは、名優Willem Dafoe氏63歳。ホントにどんどん渋くなっていい役者ですなあ。来週発表されるアカデミー賞では、ゴッホを演じた役で主演男優賞にノミネートされてますが、そういやゴッホによく似てるすね。いつも、強烈な印象を残してくれる名優ですよ。今回もとても素晴らしかったと思います。
 ◆オーム王/オーシャンマスター:アーサーの異父弟で、現在のアトランティスの王。自ら雇った地上人に海底を攻撃させ、それを自ら撃退するという自作自演で「ほらみろ、地上から先に攻撃してきたんだから、団結して地上に戦いを挑もう!」と海底の国々をまとめて地上侵攻を説く、本作のVillain(=悪役)。演じたのは、わたしが大好きな超名作『WATCHMEN』でナイトオウルIII世を演じたPatrick Wilson氏45歳ですよ! 兄貴が大嫌いと言うキャラ付けは、なんとなく銀河一の愚弟ロキ様を思い起こさせるけれど、負けた後は意外と素直で、ロキ様的な知略はほぼナシで、その気持ちのイイやられっぷりも、本作の剛速球感に貢献していると思う。見事でした。
 ◆アトランナ:アトランティスの前女王にしてアーサーとオームの母。アーサー出産後、海底に戻り、やむなくアトランティス王に嫁いでオームを産むが、アトランティス王は地上でのアーサー出産にずっとイラついていて、いつまでたっても自分をちゃんと愛してくれないことに嫉妬しまくり(?)、なぜか海溝族(?)の化け物半魚人たちにアトランナを生贄としてささげてしまう。その後生死不明だったが――ええ、もちろん死んでません。漫画的お約束ですな。そして演じたのはNicole Kidmanさん51歳。とても51歳には見えないのに、全然整形感がない天然物の美人ですな。もはや名優と言っていいNicoleさんが、本作のようなコミックヒーロー映画に出て、それっぽいコスチュームを身にまとうというのもイイすね。物語の本物感に貢献していると思います。全くどうでもいいことだけど、『JUSTICE LEAGUE』でAQUAMANが使っていた、5ツ叉の槍は、このお母さんが地上に残していったものだったようです。
 ◆トム・カリー:アトランナと出会って恋に落ちる地上人で、アーサーの父。わたしは直感的に、あれっ!? この役者、絶対知ってる、誰だっけ……とか思っていたのだが、ラスト近くで再登場した時、はっきり思い出した。この人は、つうかこの顔は、まさしく銀河賞金稼ぎでお馴染みのボバ・フェットの父、ジャンゴ・フェットをEP:II で演じたTemuera Morrisonさん58歳ですよ! あっ! この人、ジャンゴだ! と分かった時は超すっきりしたっす。16年ぶりにお見かけするジャンゴは、すっかり渋いおじちゃんになってました。
 ◆ネレウス王:メラの父でべセルの現王様。地上侵攻に消極的だが、オームの自作自演にまんまと引っ掛かり、何となくしぶしぶと地上侵攻に協力。強いのか弱いのかかなり微妙なお方。そして、こちらはわたし、恥ずかしながら全く気が付かなかったのだが、なんと演じたのはドラゴでお馴染みDolph Lungren様61歳であった。そして言われてみればもう、Dolph様以外の何物でもなく、気が付かなかった自分が情けなしである。エンドクレジットでDolph様の名前を観て、あっ!?っと思ったす。
 ◆ブラック・マンタ:コミックAQUAMANでは有名なVillainで、わたしも名前は知ってたけど……今回のブラック・マンタは、全く同情の余地なくただのクソ悪党で、単なる逆恨みで戦いを挑んでくるだけのやられキャラに過ぎないのだが、なんであんな余計な終了後のおまけシーンをつけたのか、そこだけほんとに不要だったと思う。しかしビジュアルはクラシカルな漫画チックで良かったすね。演じた役者は全く知らない人なので省略!
 他にも、CGで加工されてるから全く分からないけどDjimon Hounsou氏が出ていたり、「トライデント」を守る巨大な怪物、の声を、なんとJulie Andrewsさんが担当していたりとやけに豪華なキャスト陣が、それぞれ確かな演技で「王道」の物語を支えてくれている。そこを、わたしは「剛速球」と讃えたいのであります。

 というわけで、もう長いので結論。
 これまで、どうもDCコミックヒーロー映画は、正直イマイチな感じであったが、今回『AQUAMAN』観て、ちょっとだけ、だけど考えを改める必要を感じたのである。『AQUAMAN』という映画は、超感動したとか、そういうたぐいの映画では全然ない。けれどそこには、わたしが、あるいは日本人男子ならかつて間違いなく感じたであろう、ヒーロー漫画への愛と興奮が存在しており、大変楽しめたのであった。王道で、直球の物語は、ここまで本気で剛速球で描かれると、もうただただ、その世界に浸って楽しむのが正しいと思うすね。ツッコミどころも満載だけど、いいんだよ、もうそんなことは。そして主役のAQUAMANを演じたJason Momoa氏だが、ホント、いかつい凶暴な風貌のくせに、なんか人懐っこさのある、ホント大型犬みたいな役者っすね。気に入りました。まあ、恐らく続編もあり得るんだろうけど、一言だけ言うならば、ブラックマンタはもう出てこなくていいと思います。以上。

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 以前、まったく同じこと書いたので繰り返しだが、すっかり立派な中年オヤジとなってしまったわたしにとって、青春時代とは、小学校~中学校~高校~大学入学までを過ごした80年代であったと確信している。そして映画オタクとして小学校低学年からせっせと映画館に通っていたわたしにとっては、『STRA WARS』という作品や、『ROCKY』『RAMBO』などで当時の世界のヒーローだったSilvester Stallone氏は、今のわたしを作り上げた重要な要素の一つだと思う。
 なので、約3年前の2015年12月、世は『STAR WARS』の10年ぶりの新作『Episode-VII』の公開に沸き返る中、わたしも当然かなり興奮していたものの、実は、同時期に公開されたもう一つの映画の方に、より一層大興奮していたのである。
 その映画のタイトルは『CREED』。このタイトルだけでわたしはもう大興奮だ。CREEDとは、それすなわち伝説のチャンプであり、後にロッキーの親友となる、アポロ・クリード氏のことだと0.1秒で分かるからである。そして、最初に公開された予告編を見たわたしは、もう泣きそうになったぐらい嬉しくなった。なんと、アポロJr.と思われる青年が、あの「星条旗パンツ」で戦っているじゃあないか! しかも老いたロッキーがセコンドに!! こ、コイツは傑作のにおいがするぜ……!? と思ったのである。
 そして『STAR WARS Ep-VII』の興奮も冷めやらぬうちに公開された『CREED』は、確かに非常に面白かった。とりわけ、老ロッキーのStallone氏はキャリア最高の演技だったと思うし(アカデミー助演男優賞はノミネートだけで受賞に至らず超残念!)、監督のRyan Coogler氏の手腕も極めてハイクオリティで、恐らくはほぼすべての人類が知っているあの「ロッキーのテーマ」を、ここしかない!というタイミングで使ってみせたり、なにより「アポロの息子をロッキーが育てる」という天才的なアイディアがとにかく素晴らしい作品であった。きっとCoogler監督はこの後すげえ作品を撮るぞ、と思っていたら、その2年後にはマーベルヒーロー作品でナンバーワンヒットとなった『BLACK PANTHER』を作り上げたのだから、その才能は本当に本物、であった。
 しかし――である。ここまで絶賛しておいてアレなんですが、『CREED』という映画には、わたしとしてはひとつ、重大な問題点があったとも感じている。それは……ズバリ言うと、主人公たるアポロJrの青年アドニス君が「何故戦うのか」という点に説得力を見いだせなかったのである。なにしろアドニス君はなかなかのリア充野郎であり、まったくもってハングリーじゃあない。そんな男が、ボクシングという世界で成功できるのか、つうかお前、ボクシングをする理由がほぼないじゃん、と思えたのである。『ROCKY』を思い出してほしい。ハングリーじゃないとダメなんすよ……ボクサーって奴は……。
 というわけで、以上はどうでもいい前振りである。昨日からとうとう日本で公開された『CREED II』を観てきたのだが、まずはやっぱり大感動したことははっきり言っておきたい。のだが、正直に言うと大絶賛というほどではないかな……という気もする。その辺りを、この文章を書きながら考えてみようと思います。
 もちろん以下はズバリネタバレてしまうはずなので、まだ観に行っていない方はここらで退場してください。今すぐ劇場へ観に行った方がいいと思います。

 しかし何で日本版の予告編ってのは……無駄なナレーションとか入れるのかなあ……何でも感動作にしようとするのはホントやめてほしい。ま、そんなことはどうでもいいけど、もう、本作の物語は上記予告で語りつくされていると言っていいだろう。アポロJrことアドニス君の前に「あの男」の息子が立ちはだかる!という基本プロットはもうファンにとっては大興奮の展開だ。
 その「あの男」とは、30年前に偉大なるチャンプ、アポロ・クリードをリング上でブッ飛ばし、死に至らしめた、「ソヴィエト連邦」が科学技術の粋を尽くしたトレーニングで作り上げたマシーン、あの、アイヴァン・ドラゴである! そのドラゴが、息子を引き連れてアドニス君の前に現れるというのだから、もう、ホントこのアイディアだけでわたしは白米3杯行けるのは間違いなかろう。
 ただ、わたしはふと、イヤイヤ、ちょっと待てよ!? とも思った。というのも、ドラゴによるアポロ公開処刑の件は、きっちりと、そして美しく、既にロッキーが落とし前をつけてくれているからである。
 しかし、予告では、どうやら怒りに燃えた老ドラゴが、ロッキー憎しの恨みに駆られて息子を、ロッキーの育てているアポロJrにぶつけようというお話らしい。これって……つまり「憎しみの連鎖」の話ってことか? とも思えてしまったのである。わたしとしては、アポロJr.とドラゴJr.にまでそんな重荷は背負ってほしくないし、むしろ友情が芽生えてほしいぐらいなのだが、きっとまあ、ゆとり乙なリア充アドニス君は、父の仇!とかカッとなって挑み、ボコられて負け、特訓して再挑戦して、最終的には勝って終わり、みたいな感じなんでしょ、とテキトーな予想をしてしまったのもまた事実である。これじゃあ、アドニス君がリングに上がる理由なんて、もうちゃんと描かれないんだろうな……と若干の失望を、観る前からアホなことに感じていたのだ。
 しかし! 結論から言うとわたしの予想はほぼ的中していたのだが、わたしはやっぱりアホだった!! 観ながら、これはわたしが全然間違っていたことを痛感したのである。ズバリ言うと、わたしにとってこの映画は、アドニス君の物語ではなかった。この映画は、30年前にロッキーに敗北し、全てを失った男、アイヴァン・ドラゴと、栄光を手にしながらも、同じように全てを失った老人、ロッキー・バルボアの物語であったのである。わたしはもう、ラスト近く、かつて30年前にロッキーが「出来なかったこと」を、歯を食いしばって行ったドラゴの行動に涙しそうになったすね。
 そう。かつて、ロッキーは親友となったアポロがドラゴと戦うことになった時、必死で止めた。けど、アポロはリングに上がってしまい、それならばとセコンドを買って出た。そして、絶望的な試合展開に、もう無理だと何度もアポロを止めようとした。けど、それも出来なかった。それはもちろん、アポロの戦う理由が、自らの誇りのためであり、その強い意志を尊重したため、ではある。が、その結果、アポロは逝ってしまった。そう、ロッキーはアポロを止めることが出来なかったのだ。そしてそのために自らが戦っていわゆる「復讐」を遂げることに成功したけれど、やっぱりどうしても「あの時止めていれば……」と悔やんでしまうのである。いわゆる「復讐は何も生まない」というやつが、ロッキーを今もなお、苛んでいるのだ。
 しかし! 今回、ドラゴは息子のために、未来のために! なんと「タオルを投げた」のだ!!! 何と美しいシーンだっただろう! ロッキーがあの時どうしても出来なかったことを、30年後にドラゴが、歯を食いしばってやってのけたのだ! わたしはホントに、感動したっすね! あのシーンの、ドラゴを演じるDolph Lungren氏の表情はもう、最高の、渾身の演技でしたなあ! 最高にカッコ良かったすねえ、ホントに。
 そして一方のロッキーも、アドニス君を止めようとしても止められず、「家族や未来を考えろ」と説教しても、アドニス君に「じゃああんたは考えてたのかよ!?」と反論されて、「ああ、確かに考えてなかったな……」としょんぼりしてしまう。ロッキーは愛する妻エイドリアンに先立たれ、息子のロバートともうまくやって行けず、孤独な老後を淋しく送っている。しかし、タオルを投げたドラゴを観たロッキーは、アイツに出来たならオレにも出来る!的に、意を決して、なんだか恥ずかしそうにロバートの家を訪ね、初めて孫に会いに行くのだ! あのラストシーンを観ましたか!? あの恥ずかし嬉しそうなあの笑顔を! しかもこの、ロッキーJrことロバートを演じた役者には、ちゃんと、『ROCKY BALBOA』(2006年の作品だから10年以上前!)でロバートを演じたMilo Ventimiga氏を起用していて、ファンとしてはもう、最高にうれしい配慮だったと称賛したい。こうして、ロッキーとアポロとドラゴの、30年にわたる戦いは大団円を迎え、「憎しみの連鎖」はドラゴがタオルを投げたことによってきちんと断ち切られたわけで、わたしはホントに美しい物語だと感動したっすね。最後のエンドクレジットで、脚本がStallone氏本人であることを知って、超納得である! これは、Stallone氏にしか書けなかった物語だとわたしは強く思う。

 というわけで、わたしはラストには大感動しちゃったわけだが、そこに至る道のりは、結構な頻度で、なんかなあ……と思っていたのも事実である。もうめんどくさいので、おお! と興奮した部分や、えええ……と思ってしまった部分を箇条書きでまとめよう。思いついた順に書くので物語の順番とは一致しません。
 ◆アドニス君のファイトスタイル
 やっぱり、どう考えてもドラゴJrとの初戦は無謀すぎたでしょうな。誰がどう見ても不利だったと思う。それはもう体格からして明らかで、身長は10cmぐらいは低いし(=リーチが短いし上方向にパンチを出すのは難しい)、ウェイト(=質量が違えば単純な破壊力も違う)も相当違う相手だし。ボクシングにおいてそれは致命的ともいえるハンデであって、そこまで体格差がある相手と戦うならば、スピード(=相手のこぶしを喰らわない)とインファイト(=離れたら相手の拳だけが届くので自らの間合いの接近戦を挑む。そして上にある頭ではなく目の前のボディを徹底して叩く)がカギになるはずだ。が、アドニス君はまったくスピードもないしインファイトの練習もしない。なので、わたしはなんかずっとイラついていた。それじゃアカンよ……と。そして案の定、あっさり負けた後、ロッキーがセコンドに復帰して、『ROCKY IV』ばりの大自然トレーニングで大復活という流れは、まあアリだけど、なんか、どうにもアドニス君が「強いボクサー」に見えないのが、ちょっと残念であったように思う。
 あと、今回若干不満なのが、「ロッキーのテーマ」は、この大自然トレーニング終了時に高らかに鳴り響いて、試合になだれ込む展開であってほしかったなあ……「ロッキーのテーマ」の使い方は、前作の方が圧倒的にうまかったと思います。どうせなら、お前には野獣の眼がない!とロッキーがアドニス君に言ってから大自然トレーニングが始まって、「EYE OF THE TIGER」が流れたら最高だったんだけど……。そう、実は本作は、物語的には『ROCKY III』に近いんすよ……。それにもう一つ、今回は黒ベースの「次世代星条旗パンツ」にバージョンアップされてましたが、やっぱり伝統の赤/青/白の方がカッコイイすね。今回はドラゴJr.が「ロシア国旗パンツ」で白/赤/青だったので、かぶっちゃったってことかな……残念す……。
 ◆アドニス君の闘う理由
 わたしが最も重要視していた、リア充のアドニス君が戦う理由については、結局「俺はリングで生きる男なんだ、リングにいる俺こそ俺なんだ」的な解釈であったように思う。これは前作でも同じような感じだったと思うのだが、じゃあなんでそう思うのか、については、誇り高き伝説のチャンピオン、アポロの息子だから、としか思えないのも、やや残念に思った。でもまあ、それしか描きようがないのかな……。でも今回は「父の復讐」という呪縛からはきちんと抜け出し、「自分のために戦う」と思えたことは良かったすね。ここでは、アドニス君のお母さん(=アポロの未亡人)の台詞が効いたっすねえ! あのお母さんの「戦いたいならおやんなさい。あなたは大人、自分で決めなさい。でも! わたしのためとか、お父さんのためとか、そんなこと言われるのは心外だわ! 断じてお断りよ!」的なことを言って激怒するのは実に痺れたっすね。復讐なんて誰も望んでないし頼んでもいないわけで、そこに気付けた(?)のは良かったすな。
 ◆アドニス妻(=歌手)、なんとアドニス君の入場曲を自ら歌ってリングへエスコート
 アレはいらないと思います。必要だったか?? なんか、もうチョイ、エイドリアン的なしおらしさ?というか、けなげさがあった方がわたしは好きです。つうか、普通は止めると思うのだが……。そう考えると、やっぱり『ROCKY』シリーズにおけるエイドリアンの役割は大きかったんだなあと思ったす。息抜きしたいからスタジオ行って来る、子供はお願い、と赤ん坊をアドニス君に預けてさっさと出かけちゃうのも、まあ現代の21世紀的なんでしょうな。基本的に、わたしとしてはほぼどうでもいい存在であったアドニス妻でありますが、歌はちゃんと演じたTessa Thompson嬢が歌ってたようです。でもあれ、上手い……か?
 ◆なんと驚きの人物の登場!
 わたしは、まさか、この映画にStallone氏の2番目の妻でお馴染みのBrigitte Nielsenさんが登場するとは思っておらず、スクリーンに現れた時は大興奮したっすね! しかも役柄は『ROCKY IV』の時と同じドラゴの妻であった。正確に言うと、ドラゴがロッキーに負けたことで、さっさと離婚したようなので「元」妻なのだが、ドラゴにとっては自分を捨てた女、そしてドラゴJrにとっては、自分を捨てたお母さん、という、二人にとっては愛と憎しみの入り混じった対象として、物語上結構重要な役柄であったと思う。まあ、すっかり年を取られているのに、30年経っても相変わらず冷たいまなざしのお方でした。もちろん演技上の表情ですが、実際お見事でしたね。しかし、当時の「ソヴィエト連邦」は今はなく、ドラゴはウクライナ(キエフ在住)人であることが判明しましたが、それでも元妻が「ロシア」の大使たちと出てきちゃうところがおそろしあ……と思ったす。
 ◆デュークよ、いつのまに……
 デュークというのは、かつてのアポロのトレーナーで、アポロ亡き後はロッキーをサポートしてくれたし、最終作の『ROCKY BALBOA』でも手伝ってくれた男なのだが、前作には登場しなかったことがわたしはとても残念に思っていた。しかし、今回アドニス君がロッキーにセコンドを断られて向かったのは、あの、デュークのジムでありました、が、なんとどうやらデュークは既に亡くなっていて、今回はデュークの息子がアドニス君をサポートしてくれる展開でした。これって……わたしが忘れてただけかなあ?? デュークよ、いつのまに亡くなってたんだ……。そして、デュークJrがイマイチ有能でなかったことも残念す……。

 とまあこんなところかな。もう、本作は有名役者ばかりなので、役者陣のメモは書きません。えーと、ここまで書いて触れてないのは、肝心のアドニス君を演じたMichael B. Jordan君だけかな? もう説明は必要ないすね。結構イケメンだと思うし、やっぱり演技も素晴らしい若者ですよ。今後を期待したいですな。監督は……Steven Caple Jr.という方だそうだが、知らない人だなあ……どうもまだ長編2作目の新人?監督さんみたいすね。演出的には、ここがスゴイ、ここがアカン、とかは特に感じなかったです。前作のRyan Coogler監督のような長まわし(のように見える流れるようなカメラワーク)も、ちょっとだけあったかな。特に、メモしておくべきことは思いつかないす。
 
 というわけで、もうクソ長いので結論。
 わたしの大好きな映画『ROCKY』シリーズ最新作!と言ってもいい新作『CREED II』がUS公開から2カ月たってやっと日本公開となったので、さっそく観てきた。物語としては、わたしは大感動したのだが、それはあくまでロッキーやドラゴと言った、「既に終わった人」に対する深い共感であって、おそらく『ROCKY』愛に溢れていない人には、理解してもらえないものだと思う。そして肝心の主人公アドニス君に対しては、やっぱりどうしても前作同様に深い共感は抱けず、であった。とりわけ、アドニス君の妻に関しては、共感ゼロどころかマイナスですよ。なんつうか、これはもう、完全にわたしが人生を終わりつつある中年オヤジだからなんだろうな……。だってしょうがないじゃない。それが現実なんだもの……。いやあ、それにしても老いたるStallone氏はホント、渋いですなあ! わたしにとって永遠のヒーローっす。以上。

↓当然本作はコレを観ていないとお話になりません。つうか、シリーズ全作を観てないとアウトです。
ロッキー4 (字幕版)
シルベスター・スタローン
2015-10-07


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