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 いやあ~……最高だったすね! コイツは面白かった! 今年はあまり映画を観に行けていないけれど、まあ、ダントツの完成度とダントツの面白さで、今のところ暫定ナンバーワンですなあ!
 何のことかって? そんなのコイツに決まってるでしょうが!!

 というわけで、US本国よりも数日早い昨日から日本公開となった『SPIDER-MAN:FAR FROM HOME』 であります。いやー、本当に素晴らしかった! とにかく内容盛りだくさんで、これはMCU=マーベル・シネマティック・ユニバースにとって極めて重要な作品であったと言えると思う。
ポイントとなるのは……
 ◆そもそもの本筋である物語が最高に面白い
 ◆本筋に影響を及ぼしている、MCUの世界観設定が超秀逸に決まっている。
 ◆コミック原作への深いロイヤリティ(忠誠心)が観ていて感動的
 という点にあるような気がしますね。これは本当にお見事としか言いようがないすわ。まずはざっくりと、これまでのまとめと本作の物語をまとめてみよう。間違いなく言えることは、MCUのこれまでの歴史を知らないと、本作を味わうことはできないことでしょうな。まあ、そんなのは当たり前の大前提ですよ。
 で、MCUにおける『SPIDER-MAN』単独の物語は、本作で2作目であるものの、実のところ主人公スパイディ=ピーター・パーカー君がMCUに登場するのは、これでもう5本目だ。
 <初登場>:MCU最高傑作とわたしが認定している『CAP:CIVIL WAR』に緊急参戦。CAPと分かり合えない深い溝ができてしまったトニーが、なにやらNYCで悪者退治にいそしんでいる「蜘蛛男」のうわさを頼りに、ごくあっさり正体を見破り、ある日突然、ピーター君の前に現れスカウト。この時トニーは、あくまで助っ人として助力を要請するが、世界的な大富豪&天才と知られているトニーのスカウトに大興奮したピーター君はそれなりに活躍するも、それほどは深く描かれず、顔見世に終わる。
 <単独主演>:初の単独作『HOME COMING』にて、『CIVIL WAR』のその後が描かれる。トニー謹製のSPIDERスーツをもらって大はしゃぎのピーター君は、CIVIL WARののち、僕もアベンジャーズの一員になって大活躍したい、とずっとトニーからの連絡を待つ日々だったが、トニーからは連絡なし。つれない対応にしょんぼりしているが、NYCに現れた悪党ヴァルチャー(及びその手下)との戦闘で、若干ミスってしまってトニーに怒られ、スーツも取り上げられてしまってさらにしょんぼりは深まる。が、最終的にはヴァルチャー退治に成功し、トニーもピーター君の活躍を認め、ラストは記者会見で、新たなるヒーローの誕生だ、と派手に紹介しようとしたところでピーター君はそれを断り、「NYCの親愛なる隣人」でいることを選択する。この作品の一番素晴らしいところはこのピーター君の選択で、原作コミックのCIVIL WARでは記者会見でマスクを脱いで、自分がSPIDER-MANであることを明かすのだが、見事にその流れを断る点にあろうと思う。女の子にモテたい、自分がSPIDER-MANであることを明かせばモテる、という前振りが何度もあるのに、それをきっちり断って、モテることより自分のできることを頑張る、というピーター少年の決断は実にカッコ良かったすな。そしてこの作品では、若干暗くてブラックなことばかりつぶやいている謎のプチストーカー少女こそ、SPIDY世界のヒロイン「MJ」だった! というラストも実にお見事でした。
<3作目&4作目>:『INFINITY WAR』勃発。NYCのマンハッタンにやってきた宇宙船を、スパイダー・センス(=何気に重要な能力で、今回のFAR FROM HOMEではカギとなる危機察知能力)でいち早く感知したピーター君は、スクールバスから現場に急行、戦闘中のトニーを助け、拉致されたDr.Strangeを追って宇宙船にしがみつくが、成層圏を突破する辺りで意識朦朧となり、上空から落下するもトニー謹製の「アイアン・スパイダー」スーツを装着、トニーには家に帰れと言われてたのに宇宙船に潜入、結果、THANOSの手下一人をぶっ飛ばすことに貢献し、トニーにはアベンジャーズの一員として認められる。そしてTHANOSとの戦いに挑むも、THANOSの「選択」で消滅することに。しかしご存知『END GAME』で普通に復活しました。ただしその代償は―――トニーの命だったわけです。
 <5作目となる本作『FAR FROM HOME』>:INFINITY WAR~END GAME事件から8カ月後の世界。物語としては、もう予告で描かれている通り、高校生としての夏休み、サイエンスクラブの合宿旅行(?)で訪れたヨーロッパを舞台に、ピーター君としては大好きなMJに告白したい、けれど謎の怪物が世界各国に現れていて、トニー・スターク=IRONMANというスーパーヒーローを失った世界はSPIDER-MANの力を必要としていた……。
 というお話なわけだが、スーパーヒーローとしての活動は、ピーターが「NYCの親愛なる隣人」であろうとする気持ちと、さらに高校生として恋と青春をエンジョイしたいという気持ちともバッティングしてしまうわけで、ピーター君は大いに悩むわけです。おまけに、ピーターが尊敬してやまないトニーからの遺品(=トニー愛用のサングラスで、ARシステムが実装され、地球防衛装置(と言えばいいのかな?)にダイレクトにリンクした強力な一品)も、ホントに僕が持ってていいんだろうか、なんて悩みもあって、もう大変なわけです。
 しかし、後半、自分の行動が間違っていたことに気づいてからは、前を向いて自らの失敗を取り返すべく、超がんばるわけですが、それがまたなかなかけ健気なんすよ! ピーターはトニーを失っても、きっちり自分で成長を果たしたわけで、そんな、「少年の成長物語」が面白くないわけない! のです。本当に良く練られた脚本で、実にお見事でありましたなあ! マジ最高でした。
 というわけで、以下、キャラごとに演じた役者と共に思ったことをメモしておこう。
 ◆ピーター・パーカー=SPIDER-MAN:演じたのはもちろんTom Holland君23歳。演技的にも完璧に近く、悩める姿、しょんぼりな顔やはじける笑顔など、高校生そのものな感じでとにかく最高だったすね。そもそも、SPIDER-MANは、マーベルコミックの中では(一部のX-MENキャラを除いで)最年少の少年ヒーローで、これまでの映画シリーズのような、恋愛中心のキャラではなく、原作に最も忠実な描かれ方なのではないかと思う。しかし、本作のエンドクレジット後のおまけ映像では、ついに自分がSPIDER-MANであることを明かされてしまって、今後どうなるのか、超楽しみっすね! そして、とうとうMCU版にもデイリー・ピューグル編集長(どうやら時代を反映して新聞社ではなくネットニュース配信社?)も参戦、おまけに演じた役者がSam Raimi監督版3部作で同じ役を演じたJ.K.Simmons氏だったことに、もうわたしは大興奮したっすわ! あれはもう、ファンは全員、な、なんだってーーー!? なおまけ映像でしたな。最高でした。
 ◆ハッピー・ホーガン:悩めるピーター君の前に現れる大人その1。演じたのはもちろんJohn Favreau監督52歳。お馴染みトニーの運転手兼ボディガード(?)のハッピーは、今回は美人過ぎるおばさんでお馴染みのメイおばさんのケツを追っかけつつ、後半、ピーターが決断してからはいろいろとサポートしてくれた強い味方。だけど、ちょっとあんた、弱すぎだし、メイおばさんを見る目が完全にエロオヤジなんですけど大丈夫ですか!? トニーが生きてたら、なんと言われるか……まあ、今後もピーター君をサポートしてあげてくださいね。
 ◆ニック・フューリー:悩めるピーター君の前に現れる大人その2。Samuel L. Jackson叔父貴しか演じられるわけがありません。基本的にこの人は偉そう&口だけ人間に近く、ピーター君の力にはほとんどなってない。さらに、この人はTHANOSの選抜で消滅した側なので、5年のブランクがあるのでイマイチ本調子じゃないみたい……と思わせといて、なんなんすかあのおまけ映像は!? 要するに、今回出てきたニック・フューリーは全部スクラル人のタロスが変身してたってことなんすか!? マジかよ!! この設定って必要だったかなあ!? まあ、どうやら本物のニック・フューリーは銀河のどこかでお仕事中みたいすね。ま、今後のMCUがどうなるかさっぱり謎ですが、その「今後」のための伏線なんでしょうな。うおお、すげえ楽しみであります!
 ◆クエンティン・ベック=ミステリオ:悩めるピーター君の前に現れる大人その3。演じたのはわたしが結構好きな役者の一人であるJake Gyllenhaal氏38歳。やっぱカッコイイすねえ、この人。そして、SPIDER-MANにちょっと詳しければ、ミステリオのことも知ってるはずで、わたしはもうずっと、予告でやけにイイ人っぽく描かれる「ミステリオがイイ奴のわけがないんだけど……どんな話になるんだ?」とドキドキしていたわけで、本性が現れた時は「やっぱり……!」ではあった。しかし、脚本的に、コイツが悪党だってことは一切匂わせず、実にお見事な大どんでん返しであったとわたしは大絶賛したい! 素晴らしかったね。ここでこう来るんだ!? と誰もがびっくりな展開は完璧に決まったすね。こういう点も、原作へのロイヤリティの高さがにじみ出てますよ。しかも、原作ファンには、アース616とかアース833とか、「それっぽい」ミスリードを誘うようなセリフも、実に原作へのリスペクトが感じられる素晴らしい脚本でした。そしてJake氏の演技も良かったすねえ! わたしとしては大絶賛いたしたく存じます。
 ◆ネッド:MCU版ではおなじみの、ピーターの親友のデブオタ君。いやあ、今回の「ネッド、大人への階段を上るの巻」も実に素晴らしかったすねえ! ネッドに春が来るとはなあ! しかも、ネッドの素晴らしいところは、彼女ができても、彼女に付きっきりになることなく、キッチリとピーターの相棒=椅子の男として活躍してくれるんだから、ホントにコイツはイイ奴ですよ! 演じたのはもちろんこれまでネッドを演じ続けてくれているJacob Batalon君23歳。なるほど、Tom Holland君と同い年なんすね。君たちコンビはこれからもずっと頑張ってほしいすね!
 ◆MJことミシェル:前作『HOME COMING』では、むしろ彼女がピーター君大好きで、若干ストーカーめいた挙動不審な女の子だったし、おまけにピーター君も別の女の子に夢中だったのだが、今回はもう、ピーター君の方からMJ大好きに。まあ、おっさんからすれば、二人がもうお互い大好きなのは見え見えなので、YOU、さっさと告っちゃえよ! なわけですが……なかなか甘酸っぱくて良かったすね。つうか、演じたZendayaちゃんはミュージシャンとして大人気なわけだけど、この子はなんとなく日本人的顔立ちだし、観ていると話が進むにつれてどんどんかわいく見えてきますな。エンディングではSPIDER-MANに抱かれてマンハッタンの空をスィングしまくる映像も流れて、なんか微笑ましかったすな。青春しやがって! ところで、ピーター君もネッドもMJも、揃って5年間消えていた側なわけですが、本作では、トニーの逆パッチンによって、消えた人がどう復活したかもちょろっと描かれてました。わたしはその映像を見て椅子から転げ落ちそうなぐらいびっくりしたんだけど……どうやら、「消えた場所で(?)、突然、パッと復活した」らしい。うっそだろ!? そんな復活だったのかよ!? とわたしとしては超驚いたす。だって、飛行機に乗ってた人とかもいたはずで、そういう「消滅した時の場所がアレだった人」たちってどうなったんでしょうなあ?? 謎っす。
 いっけねえ! もうクソ長いからこの辺にしとこう。

 というわけで、もうぶった切りで結論!
 超楽しみにしていたMCU最新作にしてPHASE-4の最終作となった『SPIDER-MAN:FAR FROM HOME』を観てきたのだが、一言で言えば最高でした。控えめに言っても、最高だと思います。真面目な少年が、悩みや悲しみを乗り越えて成長するという物語は、もう鉄板でしょうな。実に面白かったすね。悔しいぐらいに。MCUとしても極めて重要な作品であったと思う。しかしなあ、ホントにパラレル・ワールドの「マルチ・ヴァース」の設定を使わなかったのは大正解だと思いますね。アレはもう、収拾がつかなくなるし、これまで、を無視しちゃう禁じ手だと思うな。まあ、それを使って台無しになったのがFOX版『X-MEN』なわけで、MCUがその道にまっしぐらにならず、ホント良かったと思います。つうかですね、ニック・フューリーは一体何をしてるのでしょうか? そして正体がバレたピーター君の今後の運命やいかに!? というわけで、今後もますます楽しみなMCUは、本当に最高だと思います。完璧だったっすね、マジで。以上。

↓ まずはコイツを読もう! 話はそれからだ!
スパイダーマン (1) (MF文庫)
池上 遼一
メディアファクトリー
2002-05

 いやー、最高でした。今年2017年暫定ナンバーワンです。
 今日からいよいよ公開となった、MCU最新作『SPIDER-MAN:Home Coming』を観てきたわたしが、真っ先に思った感想である。もはやMCUってなんぞ? という方はいないと思うので、説明しない。.現在MCUはPhase-3と呼ばれる第3段階に入っている。去年2016年にわたしが劇場で観た映画ナンバーワン作品である『CIVIL WAR:CAPTAIN AMERICA』から始まったこのPhase-3は、その次に公開された『DOCTOR STRANGE』、そして先般公開された『GUARDIANS OF GALAXY VOL.2』』を経て、本作が第4作目となる。先に言っておくと、次は11月3日公開の『THOR: RAGNAROK』、そして来年2月ごろUS公開予定の『BLACK PANTHER』、そして来年GWに公開予定の『AVENGERS:INFINITY WAR』に至る道がすでに公表されている。どの作品も、とにかくわたしは楽しみであり、今からもうわくわくしているわけで、まずは今日公開の『スパイディ』の素晴らしい出来の良さに、わたしはもう、MCUの成功は疑う余地はあるまい、とその確信を深めたわけである。

 (※追記:ちなみに上記予告にある、IRONMANとスパイディが揃って飛んでいる印象的なシーンは本編になかったす。カットされたのか?と思いきや、予告専用の映像なんですって。へえ~)
 えーと、何から書こうかな……今回わたしが一番これはすごい、と思ったのは、やはり脚本だ。つまりそもそものお話が実に興味深くて面白いのだ。そして我々観客をえっ!と思われせるような見事な展開で、はっきり言って上映時間2時間13分は若干長いけれど、むしろわたしは2時間半ぐらいあったのかな、と思うぐらい内容が分厚くて、逆にちょっとびっくりしたぐらいだ。たとえば、『CIVIL WAR』は2時間27分の上映時間をまったく感じさせない素晴らしい脚本だったが、本作のように、実際より長く感じるというのは、わたしとしてはかなり珍しいことだと思う。そういう映画はえてして退屈を感じてしまったがゆえに長く感じるものだと思うが、どういうわけかそんなことはなく、最後まで本当に楽しめる作品であった。
 とにかくわたしは今、興奮しているので、思いついた順に、脚本の素晴らしさやキャストについて箇条書きで書きなぐって行こうと思う。もちろん、ネタバレ満載なので、まだ観ていない人は今すぐ読むのをやめた方がいいと思います。
 ◆完全にMCU作品である。それすなわち、この作品単品ではダメ!
 まあ、この作品だけを観ても十分楽しめるとは思うが、実際それじゃあ全然ダメ、なのは、MCUを愛する人なら同意してもらえると思う。完全に『CIVIL WAR』の続編であり、これまでのMCUの流れを知らないと本作をきちんと楽しめないと思う。
 ◆SPIDER-MANことピーター・パーカーはなぜ戦うのか?
 前知識としてのポイントは2つあって、まず一つは、『CIVIL WAR』からMCUに登場したスパイディの、戦う動機についてだ。このことを知らないで本作を観ると、かなりピーターのゆとりKIDSぶりにイラつく可能性もあると思う。確かにSam Raimi監督版とはかなり性格も違うし、非リア充だけど何とも明るく元気な少年として描かれていて、本作のピーターは、そもそもの原作の性格に最も近いと言われている。わたしもその意見に賛成だ。そう、SPIDER-MANは、そもそもはガキなのである。だからゆとりでいいのだが、本作ではピーターの戦う動機がほぼ触れられていない。おまけに言うと、過去のスパイディ映画で描かれたような、蜘蛛に噛まれて、スーパーパワーを得たという誕生秘話も完全にカットされており、本作でちょろっと、主人公ピーターが親友のデブオタに「いやー、蜘蛛に噛まれてこうなったんだよ」の一言で終了である。
 しかし、なぜスパイディは戦うのか、そしてなぜ、IRONMANことトニー・スタークは、ピーターを仲間にしようと思ったか。それは前作『CIVIL WAR』で明確にされている。ピーターは、『CIVIL WAR』の最中に突然家にやってきたトニーに言う。「自分に力があるのに、何もしないでいて、それで良くないことが起きたら、なんか自分のせいじゃないかって気がしちゃうんだ」。トニーはそう語るピーターの、少年としての真っ直ぐな正義感に感心し、このガキなら、ともに戦える、と考えるわけである。本作では、ピータを仲間に入れることをみんなに反対された、とトニーは言っていたが、いわば、IRONMANとして活動を始めた初期のころの自分を見る思いだったのではないかとわたしは感じている。これは、名作といわれるSam Raimi監督の『SPIDER-MAN』第1作で語られた「大いなる力には大いなる責任がある」というベンおじさんの名言と同じ考え方だろう。ピーターは、突然身に着けてしまったスーパーパワーを持て余している、けれど、なんとかそれを世の中の役に立てたい、とうずうずしているのだ。そして憧れのトニーに、認めてもらいたくてたまらないのである。
 わたしが本作でこの描き方は素晴らしい!と絶賛したいのは、Sam Raimi版のピーターが、非常に根暗で非モテ人種で、超リア充の親友に対して嫉妬すら抱える少年であり、ある意味一番の動機として大好きなMJへの恋愛感情が物語の軸にあったのに対し、本作ではそういった恋愛感情は脇に置かれ、あくまでメインは「世の中の役に立ちたい」という、子供らしい真面目さ、に置かれている点だ。
 デブオタの親友も、スーツに組み込まれたAIも、さあピーター、今こそ憧れの女の子に自分がSPIDER-MANであることを打ち明けるんだ! と何度か背中を押すのに、それは違うだろ、と思いとどまる。そしてなんと、ラストでトニーが用意してくれた記者会見の場を、自らの意思できっちり断るのだ! 原作の『CIVIL WAR』では、トニーとともに会見に臨み、衆人環視の中でマスクを脱ぎ、自分がSPIDER-MANであることを全世界に公表するのだが(→身元を明かした結果、メイおばさんが巻き込まれてヤバいことになり、後にピーターはトニー派を離脱し、CAP派に転向する)、まさに本作はその逆になっている。本作のピーターは、オレがSPIDER-MANだ!と世界に宣言したい、とは考えないのである。MCUの記念すべき第1作である、2008年の『IRONMAN』のラストシーンを思い出してほしい。「わたしがIRONMANだ!」と宣言したあのトニーの姿を! トニーとは正反対の決断をしたピーター。わたしはこの展開に結構感動すらしてしまったほどだ。これらのことは、やっぱりこれまでのMCUを観ていないと、ちゃんと理解できないんじゃないかな、という気がするのである。
 ◆トニー・スタークのこれまでの行動
 もう一つ、前知識として知っておかないと、本作を楽しめない重要なポイントは、トニー・スタークの心中である。トニーは、イケメン&スーパーリッチ&天才科学者、という地球上で最強のリア充野郎である。しかし、その心中は実はかなり真面目な男で、自分の作った武器が横流しされてテロに使われていることを知り、おまけに自分も殺されそうになった経験から猛反省し、まずは武器商売をやめ、それまで製造してきた武器を根絶するために、IRONMANスーツを着用して戦いを始めた男だ。そしてAvengersとして宇宙人との戦いを経験し、撃退したはいいけれどNYCは壊滅。そしてさらなる脅威に対抗しようとして、うっかりULTRONを作ってしまい、撃破したはいいけれど、またしても街はボロボロ、遺族になじられてもうしょんぼりな状態であった。そこで『CIVIL WAR』事件が起き、国連管理下に置かれることもやむなし、と思い至るが、CAPとの大げんかの末、確かに、CAPの言う通り、国連管理下でも対応できないこともあるかもしれない、けど、母親を殺されたことは話が別だ!と大激怒、CAPとは分かり合えず決別してしまう。
 わたしは完全にトニー派なので、CAPの考えは傲慢かつわがままで実にけしからんと今でも思っているし、CAPの腰ぎんちゃくに過ぎないファルコンやホークアイがトニーを生意気に批判するシーンには心底頭に来たが(ウィンターソルジャーことバッキーは一番ちゃんと反省してるので許すけど、ホークアイはワンダを巻き込んだ張本人で許せない!)、重要なのはトニーが常に自分をも疑って、客観的かつ理論的に、きちんと考えて行動する男であり、自らの行動の過ちをきちんと認められる大人の男だという点だ。
 本作は、そんなトニーの性格を知らないと、まったく話が通じない可能性があるとわたしは思う。それは、トニーのこれまでの行動が、今回の悪党であるヴァルチャーを生んでしまったからだ。そう、またしても、トニーが良かれと思ってとった行動が裏目に出てしまったのである。
 ◆ヴァルチャー誕生の説得力が素晴らしい!
 トニーが、2012年に地球にやってきた宇宙人を命がけで撃退した顛末は、『AVENGERS』第1作で描かれた通りであるが、その戦いでNYCがボロボロになったのは、MCUを見続けている我々にはもうお馴染みであろう。しかし我々日本人は、数々の災害や戦争に遭っても、時間をかけて街を再建してきたわけで、NYCもきっと立ち直れる、と直感的に理解できると思うが、問題は、あの巨大な宇宙船(宇宙生物?)とか、兵士の残骸とか、あれはいったいどうするんだ? という点についてはちょっと想像ができないでいた。が、本作では、その点がきっちり描かれている。
 まあ、普通に考えて、瓦礫と化した建物と同様に、バラして運んで、と地道に片づけていくしかないわけだが、相当な物量であることは想像に難くない。そして、そのがれき撤去だけで相当な雇用が生まれ、不謹慎な言い方かもしれないが、経済が回るのは確かなことだろう。本作の悪役であるヴァルチャーは、元々そのがれき撤去業を地元で営む真面目な家族思いの社長さんだ。えらいことになったNYCで、従業員を増やし、トラックも新たに買って、NYC復興のために頑張ろうぜ!とみんなにはっぱをかけていた矢先に、トニーが政府と合弁で設立した「ダメージコントロール局」が活動を開始し、がれき撤去の「仕事」が一切奪われてしまう展開になる。トニーは、間違いなく金のためではなく、単純に宇宙人たちのテクノロジーが散らばっているがれきを危険だと思って、そうしたわけだが(おまけに、もう街に迷惑はかけられん、とマンハッタンに建つあのAvengersビルも手放し、北部の田舎に引っ越す決断もする)、要するにまた、トニーの善意が裏目に出てしまったわけだ。「畜生、あいつ、自分で壊しといて自分で稼ぐのかよ、オイシイわけだぜ!」というような「仕事」を奪われたヴァルチャーのセリフに、わたしは実に見事な脚本だと思った。確かにその通りではある。
 こういった点が、トニーの弱点で、いかに天才で大富豪とはいえ、結局一個人の力というものが、現場の末端まで行き届かないのは残念ながら事実であろう(それが分かっているからこそ、トニーはCAPの主張する個の力に頼る考えに同意できない)。しかし一方で、組織の端末の人間は、「上に命じられたこと」しかやらないお役所仕事のボンクラばかりであり、作業現場に乗り込んできた偉そうなボンクラも、「文句があるなら責任者に言え」としか言わないお役所対応である(そしてだからこそ、CAPは組織を信頼できないというジレンマが発生する)。バルチャーは「そりゃねえよ!その責任者って誰だよちくしょう!」と悲痛な叫びをあげても答える人間はいない。結果、ヴァルチャーはトニーに対し、この恨み晴らさでおくべきか! とメラメラと怒りの炎を燃やすことになる。何という皮肉! そして何という見事な説得力! 素晴らしいとわたしは大絶賛したい。トニー派のわたしとしては、ここで、なんとかトニー本人にヴァルチャーの声が届いたなら、絶対にトニーは、じゃあ、ダメージコントロール局の仕事の外注先に御社も入れましょう、と判断したはずだと思う。結局、「誰かがやらなくてはならないこと」であるのは間違いないのだから。トニーはそのように民間に金が回ることをむしろ歓迎したはずだと思う。そういった、ヴァルチャーがなんとかトニー本人に会って話をしようとした、けどダメだった、という流れがきちんと描かれていたらもっともっと良かったのに、という気もしなくないが、まあ、そこまですると、ちょっと重すぎるというか、この作品が『IRONMAN4』になっちゃうか。この映画の主人公はあくまでスパイディだしな……。でも、そういったシーンがあっても良かったと思う。
 結局ヴァルチャーは、がれきの中の宇宙人技術をこっそりと持ち出し、せっせと武器開発にいそしみ、悪党になってしまったわけで、実にリアルで、ありうる展開だとわたしは大絶賛したい。
 ◆脚本的にお見事!と思わず観ていて「えっ!? あっ!!!」と驚いた点
 今回、わたしは観ていて、上記以外にもいくつか、主にキャラクターの正体(?)が判明するシーンで思わず声が出ちゃうぐらいびっくりした点があったので、4つほど紹介しておこう。これは本当に完全ネタバレなので、未見の方は絶対に読まない方がいいと思う。知ってたら、わたしのように「えっ!?」と驚けないよ。そしてそれは超もったいないと思います。
 1)お父さんは実は……
 劇中では、ピーターはとある女子にぞっこんで、いいなあ、あの子可愛いなあ、おっと、ずっと見てたらオレ変態だよ、あっぶねえ!とか実に男子高校生らしい日常を送っているのだが、なんとその女子のお父さんこそ……であった。これは本当に見事でしたねえ! わたしは全然予想しておらず、超びっくりでした。どうだろう、何か伏線はあったかなあ? 何もなくかなり突然だったような気がするけど、単にわたしが見逃してバカだっただけかもしれないが、とにかく実に効果的なタイミングで効果的なつながりであったと思う。ホントにお見事!とわたしは大絶賛したい。これほど、あっ! と思ったのは、かの名作『The Silence of the Lambs』(邦題:羊たちの沈黙)のクライマックスで、FBIチームが犯人の家に乗り込む、とそこはもぬけの殻、実は主人公クラリスが訪れた家の方こそ、犯人の家だった!のあの演出以来かもしれない。いや、それは褒めすぎかな。まあ、それぐらいわたしはお見事だと思いました。
 2)えっ!君がまさか……!
 今回、ピーターの身近に、何かと変なことばかり言うちょっと変わり者でひねくれもの的な、とある女子がいる。どうも、ピーターをいつも見ていて、実は君はピーターが好きなんでしょ? とわたしは思いながら見ていたのだが、なんとラスト近くで、彼女のとあるニックネームが明らかになるのだが……そのニックネームは、Sam Raimi版を観ている人なら絶対に知っている彼女の名前でした。これは驚いたすねえ! まあ、コアな原作ファンなら最初からわかってたのかな? そういうことだったのね!? とわたしは驚き、ニヤニヤするしかなかったす。ホントお見事!とわたしは大絶賛したい。
 3)トニーよ、いつの間に!?
 トニーは、『IRONMAN3』事件でIRONMAN引退宣言をしたわけですが、まあ、全然引退していないわけで、その結果、愛するペッパーと喧嘩・別居状態にある、のは、『Ultron』事件や『CIVIL WAR』でも描かれた通り、MCUファンにはお馴染みであろう。しかし! 朗報です! ペッパー is Back!ですよ!! ほんのちょいしか出てきませんが、どこで出てくるかは観てのお楽しみってことでお願いします。いやあ、トニー、良かったね! なかなか粋な脚本的はからいだとわたしはうれしく思いました。
 4)ピーターーーー!!! うしろうしろ!!
 もう完全に志村けん的コメディのお約束展開ですが、一番ラストのシーンは、家に帰ってきたピーターが、一度は取り上げられてしまったスパイダー・スーツが紙袋に入れられてベッドに置いてあるのを発見し、え、いいの?やった―――!と大喜びで再びスーツを身にまとうシーンであった。けど、ピーター、お前、ちゃんとドア閉めとかないと……つか、うしろうしろ―――www という笑わせてくれるもので、実にハッピーなエンディングだったと思う。これはお見事でしたねえ! ホントに素晴らしい脚本でありましたよ。このエンディングはぜひ劇場でお楽しみくださいw わたしとしては、まったく何の変哲もない紙袋に無造作に入れられていて、トニーから直筆で「君のものだ This suite belongs to you」的なメッセージが紙袋に直接書いてあるのが実にトニーっぽくて粋でカッコイイと思いました。
 ◆トニー謹製「新スパイダー・スーツ」に秘められた、オタク向けニヤニヤポイント。
 1)超多機能!であるのと同時に……
 今回のトニー謹製「新スパイダー・スーツ」は、『CIVIL WAR』でプレゼントしたものなのだが、実はまだ「トレーニング・モード」というEASY設定にプログラムされて機能が制限されており、おまけにGPSでスーツがどこにあるか、トニーに監視されている設定になっていた。実は原作の『CIVIL WAR』では、その監視されていることが重要なポイントで、そのことでピーターはトニーへの信頼を失うきっかけにもなってしまうわけで、本作では、デブオタの親友とスーツをいじっていて、その位置探知機能を切断し、さらにモード設定も勝手にプログラムをハックして、ロックを解除しフル機能実行可能なモードに変更してしまうシーンがある。この変化はとても観ていて面白く、また、原作オタクもニヤリとするシーンであろう。ちなみに、ラストの記者会見に臨むピーターのために、トニーはさらに新型スーツをプレゼントしようとするのだが、それがまさしく原作の『CIVIL WAR』で出てくる通称「アイアン・スパイダーマン・スーツ」のデザインで、ここも原作オタクのニヤリポイントであろうと思います。
 2)そしてスーツのプログラムAIがしゃべるように変化するのだが……
 ピーターがスーツのモードを勝手に改変し、その結果スーツがIRONMANスーツの現在のフライディのように、女性の声でしゃべるようになり、ピーターは、スーツレディ、カレン、と名付けて仲良くおしゃべりをするようになるのだが、わたしは観ながら、果たして、このスパイダー・スーツ=カレンの声は誰だろう? とちょっと気になっていた。ので、エンドクレジットを観て、わたしのようなオタクファンは、あっ! と驚き、そういうことね……とニヤリ、としたはずだ。なんと、カレンの声を担当したのはJennifer Connellyさんですよ! なぜ彼女が担当してることでニヤリとできるかというと、彼女の現実世界での旦那は、Paul Bettany氏なんだな。えっ!わからない!? うっそお! 彼は現在のVISIONさん、先代IRONMANスーツの忠実な電脳執事、ジャーヴィスの声の人ですよ。夫婦そろってトニーに仕えてたのね、というわけです、はい。

 あーーーもうすげえ長くなってしまったので、今回わたしが特に気に入った3人のキャストと監督について書いて終わりにしよう。
 ◆Tom Holland君 as 3代目ピーター・パーカーは最高だった!
 いやあ、やっぱりTom君はいいですねえ! 彼は元々、2008年に『BILLY ELIOT』のBroadway版で主人公Billy演じた男なわけで、2週間前に日本版『BILLY』を観たばかりのわたしとしては、なんかBillyが後にこんなに立派に育って活躍している姿を観るとホントうれしいすね。本人も言っている通り、『BILLY』で相当鍛えられたんだろうな。なかなかの肉体美も披露してくれるし、とにかく、元気なピーターはわたしとしては歴代最高だと思う。ちなみに、一緒に観に行った元部下のA嬢は、やっぱり初代のToby Maguire氏の方が良かったと評していた。友達もいないしイケてないし、というしょんぼり野郎がヒーローになる、という展開の方がよかったそうで、まあ、女子目線からすると今回のピーターはちょっと軽いというかチャラすぎ、と感じるのかもしれない。その辺は、いろいろな意見があってしかるべきだろうと思うが、わたしとしては最高に良かったと思う。
 ◆デブオタだっていいんだよ。だってにんげんだもの!
 今回、やけに光るのが、ピーターの親友のデブオタ君ことネッドを演じたJacob Batalon君だろう。いいすねえ、彼は! ネッドなしにピーターの活躍はあり得なかったし、ネッドがいなければピーターの高校生活もまるで暗いものになってしまったかもしれないわけで、何気に重要な役をきわめてさりげなく、巧みに演じてくれました。彼の存在が本作を明るくしてくれているといっても過言じゃあないでしょうな。もう大活躍で、今後のシリーズにもぜひ、登場してもらいたいと思います。
 ◆蝙蝠男~鳥男~そして禿鷹男への進化を遂げたMichael Keaton氏が素晴らしい
 いやあ、やっぱり本作での悪役、ヴァルチャー(禿鷹)を演じたMichael Keaton氏は良かったすねえ! まあ、キャラについてはもう前述の通りなのだが、その正体を明かしてからのピーターに対する態度がやけに恐ろしくて素晴らしかった。さすがは元BATMANであり、BIRDMANとしてオスカー候補になっただけはある、貫禄と威圧感たっぷりのおっかない大人を熱演されていました。なお、今回のおまけ映像は、刑務所に入れられた彼が、とある男に脅されるシーンで、その脅す男が次回の悪役なのだろうと思われます。サソリのタトゥーの男で、原作に詳しくないわたしは何者か実は良く分からなかったです。まあ、MCU的に今後のAvengersにつながるような大物悪役、ではないと思います。たぶん。
 ◆監督はあの『COP CAR』のJohn Watts氏!
 去年わたしはWOWOWで『COP CAR』を観て、その抜群の演出センスに相当驚いたのだが、今回も様々な驚きをわたしにもたらしてくれた演出テクは、とても上質だったと思う。脚本にもクレジットされているWatts監督なので、まだ監督作品3作目というキャリアとしては全然浅い男だけれど、今後が大変楽しみな才能だと思います。

 というわけで、まだまだ言いたいことはあるけど、もう長すぎなので結論。
 やっぱり、MCUは最高である! その最新作『SPIDER-MAN:Home Coming』は期待を裏切らない最高の出来であり、わたしとしては大満足であった。しかし、わたしのこの興奮と満足感は、あくまでMCUを全て観てきており、MCU全体を愛しているが故、であるわけで、本作も、単独ではなく、MCUの一部として観るのがやっぱり正しいように思う。よって、言いたいことはただ一つ。MCU全作を観てくれ! そしてこの『SPIDER-MAN:Home Coming』を楽しんでほしい。ホント最高でした。以上。

↓ 次はコイツですよ! 準備はいいですか!? 一応、劇場でもこの予告編が流れてました。Kate Blanchett様が超COOLで最高です!

 「モービーディック」と言えば、日本では『白鯨』として知られる小説である。
 Herman Melvilleによるその小説は、アメリカ文学史上燦然と輝く古典として有名なわけだが、わたしも確か大学院生のころに読んで、かー、こりゃまた読みにくい、と思った覚えがある。さっきわたしの本棚を漁ってみたら、岩波文庫版の<上><中><下>の3冊が出てきた。奥付によると、1994年発行のものであるらしい。もう読んだのは20年以上前なので、「読みにくかった」という印象しか残っていないが、まあ、この作品が書かれたのは1851年、つまり江戸時代、幕末期なので、そりゃあ読みにくいのも当たり前と言ってよかろう。翻訳も、いわゆる古典めいたものなので、その読みにくさは結構ハンパない。
 ただ、その物語が実話をベースにしていることは、正直知らなかったというか、全く意識したことはなかった。岩波文庫の解説(なぜか<上>の巻末に掲載されている。<下>じゃなくて)にも、Melvilleが『白鯨』を書くに至った時代背景などは妙に詳しく書かれているけど、ちょっと引用してみると、「メルヴィルはこれを書くに当たっては、自分の海洋生活の体験を元としたことはいうまでもないとして、捕鯨についての多くの記録を渉猟したのである。たとえば、抹香鯨に1820年に沈められたエセクスという船があったり(略) しかし、そういう体験や勉強を基として、メルヴィルは測り知ることのできぬほど強力な想像力をはたらかせ」ることで、書いたものだそうだ(※岩波文庫版<上>P.331より)。なので、わたしは全くのフィクションだと思っていたし、まあそういう認識でいいのだと思う。
 というわけで、相変わらず無駄に前書きが長くなったが、昨日観た映画、『IN THE HEART OF THE SEA』(邦題:白鯨との闘い)は、Melvilleの『白鯨』を映画化したものではなく、その元となった実話(ベースの本)を映画化した作品で、まさしく、上記に引用した部分で触れられている「エセクス号」の物語だ。

 たぶん、一番世の中的に、へえ、そうなんだ? と誰もが思うポイントは、この物語は1820年という、日本で言うと江戸時代の話であるという事ではなかろうか。当時の世界情勢をちょっと振り返っておくと、まず舞台となるアメリカは、南北戦争よりずっと前であり、まだいたるところでインディアンが虐殺されている時代で、西海岸はまだスペインやメキシコ領だったり、今とは全く国境線も違う時代である。ヨーロッパはというと、ナポレオンが失脚してまだ数年しか経っていない頃合いで、ようやく、今のヨーロッパに近い(あくまでも近いだけで詳細はかなり違うけど)国境線が出来つつある頃だ。文化的に言うと、まだ文豪ゲーテは現役だし、ベートベンなんかも「第9」を書いているころである。日本はというと、当然鎖国中で、将軍家としては11代将軍家斉の時代である。そんな時代の話だということは、意外と誰しも、へえ~? と思うのではなかろうか。
 すなわち、産業革命前の世界であり、蒸気機関も生まれたばかりでまだ船の動力としては使われておらず、本作で登場する捕鯨船も、もちろんのこと帆船である。また当然電気もない。石油が発掘されて産業に利用されるのもまだ数十年後だし、ガス灯も、かろうじてイギリスで設置されていた程度で、普及していたとは言いがたい時代である。何が言いたいかというと、この時代、人類が夜を克服するための明りとして「油」は非常に貴重で、かつ需要も高かったということだ。そして当時のアメリカにおいて、さまざまな「油」がある中で、「鯨油」は重要な産業資源であったということである。
 なので、現代アメリカ人には捕鯨反対を声高に訴える連中がいるが、そもそもお前らが乱獲したんだろうが!! という歴史がある。もちろん、日本でも捕鯨は盛んであったようで、Wikipediaによれば享保から幕末にかけての130年間で21,700頭にも及んでいたそうである。もちろん、鯨油が欲しかったのは日本もそうだが、日本人は食糧としてもおいしくいただいていたわけである。
 ま、こんな話は今回はこの辺にしておこう。
 一応、こんな歴史的背景を知っておいたほうが、本作はより興味深いとは思うが、実は、本作の一番の見所は、わたしとしては捕鯨ではなく別のところにあった。
 まず、本作の物語の構造を簡単に説明しておくと、作家Melvilleが、エセックス号の事件の30年後に、唯一まだ存命の生存者に取材に行き、その生存者が少年の頃に遭遇した悲劇が回想として描かれる構成になっている。そして、エセックス号はいかなる航海を経て「白鯨」と出会い、沈没するに至ったのか、が語られる。そこでは、船長と一等航海士の確執があったことや、初めてクジラを仕留めたときの興奮などが描かれるが、わたしが一番の見所だと思うのは、エセックス号が白鯨によって沈められた後の、漂流の顛末である。そこで描かれる極限状態ゆえに、少年は老人となってMelvilleが取材に来るまで、「あの時何が起こったのか」を誰にも語ることが出来なかった。そのすさまじい様子は、ぜひ劇場で観ていただきたい。
 いわゆる「漂流もの」は、今までいろいろな映画で描かれているが、最近で言えば、まさかのアカデミー監督賞を受賞した『LIFE OF PI』だろうか。あの映画はなんとなくファンタジックなところがあって、ちょっと微妙だが、わたしのイチオシ「漂流」映画はやはり『CAST AWAY』であろう。わたしがあまり好きではない、Tom Hanksのベストアクトだとわたしは思っている作品だが、とにかく、漂流後のガリッガリに痩せたTom Hanksの、悟りを開いた仙人のような眼差しが凄まじい映画である。今回も、一等航海士を演じたマイティ・ソーことChris Hemsworthの、げっそり痩せた姿を観ることができる。あれって、CGかな? 本当に痩せたのかな? ちょっと、わたしにはよく分からなかったけど、結構衝撃的にげっそりしたマイティ・ソーは、劇場へ行って観る価値があると思う。
 役者陣としては、あと3人、わたしに深い印象を残した演技を披露してくれた。
 まず、事件当時最年少の船員を演じた、Tom Holland君である。彼は、日本では2013年に公開された『The Impossible』でスマトラ島沖地震による津波に遭う家族の長男を演じて注目を浴びたが、何しろ今後、彼をよく覚えておいて欲しいのが、次期『SPIDER-MAN』を演じることが決まっており、今年のGW公開の『CAP:CIVIL WAR』に早くも出てくることが噂されている。今年20歳になるのかな、まずまずのイケメンに成長するのではないかと思われる注目株である。本作でもなかなか悪くないです。本作で早めのチェックをお願いしたい。
 次は、Cillian Murphy氏である。もうかなりの作品に出ているが、わたしがこの男で忘れらないというか、この男を初めて観たのが、Danny Boyle監督の『28Days after』だ。冒頭、無人のロンドンをうろつく彼は非常に印象的だが、その前の、素っ裸で目覚めたばかりの彼の股間がモザイクナシでブラブラ映っているのが、わたしは椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。えええ!!? だ、大丈夫かこの映画!? と妙なことが心配になったものだ。本作では、Chris Hemsworthが一番信頼する航海士を演じており、彼もまたガリガリに痩せて髪はボサボサ髭ボーボーの姿を見せてくれる。
 で、3人目に挙げたいのが、若きQとしてお馴染みのBen Wishaw氏である。本作では、作家Melville役で出てくるのだが、この人、わたしとしてはどうにも『CLOUD ATLAS』でのBLシーンが強烈な印象が残っていて、3月公開の『The Danish Girl』(邦題:リリーのすべて)でも、2015年のアカデミー主演男優賞を受賞したEddie Redmayne氏と熱いラブシーンがありますね。どうにも、目つきからしてBL臭を感じさせる独特の空気感を持った男だが、どうやら本物らしく、同姓婚したそうです。別にわたしは偏見はないので、お幸せになっていただきたいものだが、全国の腐女子の皆様のアイドルとして日本でも人気が出るといいですな。※2016/01/18追記。この男、『Paddinton』で紳士過ぎる熊さんの声も演ってるんですな。へえ~。
 最後に監督のRon Howard氏であるが、さっきこの監督のフィルモグラフィーを調べてみたら、たぶんわたしは全作観ているんじゃないかということが判明した。手堅いベテラン監督で本作もいつも通り見せるところは見せながら落ち着いた演出であったと思う。見所となる「白鯨」のCGは質感も高く、本当に生きているようで申し分ナシである。が、やはり本作は3Dで観るべきだったのかもしれない。わたしは2D字幕で観てしまったが、3Dであればもっと迫力の映像だったのかも、とは思った。まあ、いずれにせよ、なるべく大きなクリーンで観ていただくのが一番であろう。 

 というわけで、結論。
 どうでもいいことばかり書いてしまったが、『IN THE HEART OF THE SEA』(邦題:白鯨との闘い)は、わたしとしては「白鯨」よりも、船内の緊張感や沈没後の漂流の様子のほうが見所だと思った。役者陣の熱演もなかなかですので、ぜひ、本作は劇場の大スクリーンで観ていただきたいものである。以上。

↓ Ron Howard監督は今、「ラングトン教授」シリーズ最新作、『INFERNO』を撮影中だそうですよ。
インフェルノ (上) (海外文学)
ダン・ブラウン
角川書店
2013-11-28

インフェルノ (下) (海外文学)
ダン・ブラウン
角川書店
2013-11-28




 

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